大日本帝国は異世界にやって来ました~(見切り発車) 作:九六式雀
この荒野地帯はゴブリン、オーガ、オークに代表される多数の亜人達が、無数の部族を作り日々紛争を繰り返している場所である。
このどこまでも広がる荒野をひたすら歩いている見慣れない一団がいた。
彼らは全員大きな背嚢を背負い、星のマークの付いた鉄帽、または帽子をかぶっている。そして、120センチを超える棒のようなものをを担いでいた。
「――あそこか。」
先頭を歩いている隊長と思わしき男が、後ろにいる眼鏡を掛けた男に話しかける。
「はい、九七式司偵からの報告ではあの丘の上に集落らしきものを見たとのことです。」
「うむ。大体標高は200メートルといったところか。」
彼らが目を向ける丘にはほんの少しばかり靄がかかっている。
「…不気味な丘だな。」
「集落があるってんだったら、ここまで来て向こうから何も言ってこないのはおかしくないか?」
「実は誰も居ないんじゃないかな。放棄された集落とか。」
後ろについて来ていた数人の兵士が目の前の丘についての感想を述べ始める。
「こら!そこ、何を喋っている。行軍中の私語は慎め!」
眼鏡をかけている男が怒鳴る。その瞬間、喋っていた兵士たちが元の規律の取れた姿勢へと戻る。
「まあまあ、そう怒鳴るな」
先頭に立っている隊長と思しき男が眼鏡をかけている男をなだめる。
「ですが…!」
「まあ、良いじゃないか。これからあの集落に接触するんだ、向こうにとって俺たちはよそ者なんだから、なるべく友好的な雰囲気で接触すべきだろう。」
これは決して間違った考えではない。下手な態度をとることで生じた偶発的な戦闘によって取り返しのつかない事態に陥ることは、何時の時代でもよくあることだ。
「それに、司令部から何が何でも友好的な関係を結んでこいって釘を刺されてるんだ。絶対に成功させねばならん。」
そして男は眼鏡を掛けた男の肩をたたいて更に続ける。
「だからあんまり気張りすぎるなよ。気張りすぎて、集落にいるかも知れない可愛こちゃんに失礼したら、軍法会議ものだからな。」
周りの者達の顔から自然と笑みがこぼれる。
「よし、いい感じだ。その感じで丘のてっぺんまでいくぞ。」
そう言うと彼らは丘に向けて歩みだした。
◆
――「おお、壮観だな。」
眼前には赤レンガの駅や大正モダン風のコンクリートで出来たビル、伝統的な日本家屋といった統一感の無い建物が広がり、その様々な建物の間に通っているまだ舗装もされていない道路には路面電車や大勢の人が所狭しと歩いている。つまりは1945年ごろのまだ灰になる前の「帝都、東京」がそこにはあった。また空をみあげてみるとそこには青く澄み渡った青空が、そして白い雲が所々に浮かんでおり、更によく目を凝らしてみれば飛行機が編隊を組んで飛んでたりする。
かつての世界では見ることが出来なかった、ユグドラシルの世界――ゲームの中でしか見ることができなかった光景が目の前に広がっている。
「あれは赤城航空隊か。」
空を飛んでいたのはどうやら先日の戦いで最も功があった第一航空戦隊に所属する赤城航空隊のようだ。彼らは向こうの海に浮かんでいる赤城を旗艦とする機動部隊の司令長官、南雲中将の部下たちである。
ちなみにこの都市はユグドラシルにいる時から海に面しており、そこにかつての百人近い仲間たちは夢の塊を次々と浮かべていった。その数は250を超え、まさにどこかのアメリカに潰される前の大日本帝国海軍そのものであった。だが、維持費は掛からないように都市外のオブジェクトとして建造されていたため、異業種の者達にボコボコにされて一回、皆沈んでる。
「はい、彼らは只今この都市の周辺を哨戒飛行中であります。」
後ろから女性の声が聞こえてくる。振り返らなくてもわかるが、生駒吉乃の声だ。
「他にも、陸軍航空隊が内陸方面へ哨戒機を飛ばしており、うぐいす様のご命令通りに偵察任務を遂行しております。」
今度はおっさん――立花久重の声だ。
この二人は事あるごとに俺の後についてくる。二人曰く自分の御役目だとか、どうのこうのだそうだ。一人で行動したいので一生懸命振り払おうと都市中を逃げまわったけれど、結局捕まった。後で聞いた話じゃ都市の全人口300万人を動員して捕まえたらしい。この都市の者達は皆グルでした。
「なあ、もうどっか行っても良いんだぜ。俺は一人で十分だからさ。」
もう一度説得を試みる俺。
「諦めてください。うぐいす様。」
ニッコリと笑顔で答えてくる二人。生駒の笑顔は美少女が浮かべる笑みそのものだが、立花、お前の笑顔は怖い。
「皆、欲しがりません、勝つまでは。でやっております。上に立つうぐいす様がそのような様子は下のものに示しがつきません。うぐいす様もどうか耐え忍んでください。」
ぐうの音も出ない。
周りを見渡してみればあちこちにそういう看板が見られる。聴いたところによると、今この都市では非常事態宣言を全域に発令し、都市中で警戒にあたっているそうだ。まあ、突然異世界に転移して、その先で突然魔物に襲われりゃそうなるわな。
「欲しがりません、勝つまではか…。一体何に勝つつもりなんだか。しかし、石油はほしいな。あれがないとこの都市の経済活動が麻痺ったままだ。それどころかこのままだと飛行機すら飛ばせなくなるぞ。」
本当にこのままだと干からびてカラカラになった史実の日本ルートだ。それだけは御免被りたい。
「石油の件に関しては周辺地域の哨戒ができ次第、地質調査を行う予定です。」
「うーん…。この周辺に石油があればいいんだがなあ。」
もしも石油がなかったら江戸時代の装備になるのだろうか。…石炭があるのならば明治時代ぐらいで済むかもしれない。
「あ~あ、もう頭がいたい。気分転換に外にでかけたと言うのに、なんでこんな目に合わにゃならんのだ。」
脳裏に浮かぶかつての100人近いギルドメンバーに向かって悪態をつく。あいつらがこんなギルドにしなければこんなに苦労することなんてなかったんじゃないだろうか。他のギルド…アインズ・ウール・ゴウンのように個人の戦闘能力を特化させる方面に力を注ぐとかさ…なんか心なしか全員こっちを向いてケラケラ笑っているように思えてきた。うざい。
そんな俺が頭のなかのギルドメンバーに八つ当たりをしていると、
「うぐいす様!おられますか!」
突然ノックもなしに扉が開いて二人のNPCが飛び出してきた。
「わう(Wow)!」
びっくりした俺の口から敵性語が漏れでた。
「何事か!うぐいす様の御前であるのだぞ!少しは礼儀というものを…!」
生駒が二人のNPCを睨みながら怒鳴る。
「申し訳ございません!」
「ですが緊急事態です!」
二人のNPCは必死の形相でそれを訴える。
「構わん、言え。」
立花が二人のNPCにそう命じる。
「はっ、本日、一三一五に於いて哨戒任務を遂行しておりました第六飛行中隊が発見しました集落に接触を試みようとした第八小隊が行方不明となりました。そこで司令部は捜索隊を編成し一個中隊にそれを命じましたところ正体不明の化物…アンデットと思われる軍勢を確認したとのことです。」
「また、そのアンデットと思われる軍勢はこの都市より約東に12キロ離れたところに位置する丘に陣を築いており、そこから現在、先遣隊と思われる一軍がこの東京に接近しているとのことです。」
二人のNPCは不動の姿勢を持って命令に応える。
「は?なんじゃそりゃ!!」
あまりの事態についていけない俺が目を丸くして叫ぶ。
「数は?」
立花がいかつい顔を一層いかつくして二人のNPCに尋ねる。
「先遣隊と思われる一軍の数はおよそ1万。また、丘にいる軍勢の数はおよそ5万以上と推測されます。」
「各大臣にはこれを受けて緊急召集を誠に勝手ながら大本営付きでいたしました。」
二人のNPCはそう言うと一糸乱れぬ動きで俺の方を向いた。
「うぐいす様にも此度の召集には応じていただきたく。」
「何卒、お願い申し上げます。」
「お…おう、わかった。」
会話の内容についていけない俺はとりあえず適当な返事をしておくことにした。
「御車の手配はすでに済んでおります。」
「大臣はもうすでに到着なさってあります。」
しまった、もう準備しちゃってんのか。もう逃げれないじゃん。
二人のNPCに連行されそうになっている俺は涙目で立花に助けを求める。
「た、立花あ…。」
「かしこまりました。」
立花はそういうと俺の腕を掴んでポケットから何やら巻物――スクロールを取り出した。
「いや!違う!そういうことじゃ…!」
立花が取り出したものが何か瞬時に判断できなかった己の動体視力のなさに悔いる暇もないまま、俺といかついおっさんは《ゲート/異界門》の魔法で大臣たちの集う空間の中へ放り出された。
◆
――華美を極めた建築物と調度品の数々が鎮座する神々しい空間。
その神々の居城たる美の世界にはごく限られたものしか、その足を踏み入れることは許されていない。そう、この場所は全てで10階層あるうちの9階層と10階層という、至高なるこの地の支配者に認められた者のみしかこの光景を目に焼き付けることはできないのだ。
その世界――墳墓だが――の41もある豪華絢爛な部屋の一つ。
そこにはまるで闇が一点に集中し、凝結したような存在。骸骨の頭部を持つ異形の化物がいた。
「…うーむ。」
骸骨の化物がおもむろに口を開く。
「冒険者の格好か…一体どんな格好がいいんだ?」
骸骨――この外見と口調が全く合わない化物、彼こそがこの神々しい墳墓の支配者アインズ・ウール・ゴウンである。
彼はどこかの14しかレベルがないようなギルド長と違って、100レベルである。
だが、そんなユグドラシルの世界でも敵がいないようなアインズは鏡の前に立って、ある出来事と悪戦苦闘していた。
それは、これから自分が作り出す恥ずかしくない偽装身分。つまりは冒険者モモンの格好だ。
「なるべく普通の格好なのが良いよな…。」
そう言うとアインズはため息――のようなもの――をつき鏡の前から離れ、巨大なベッドにダイブする。そして、ボフッという音を立てて着地したアインズはあえて手を使わずに――まるでイモムシのように――枕のもとまで体を動かし、顔を埋めて何事かを呟いた。
「うーむ。わからん。どんな格好がこの世界において普通といえる恰好なのか全くわからん。」
アインズがこの世界に来てはや8日が過ぎた。これまでアインズはとある村を救って村長から話を聞いたり、セバスやソリュシャン、シャルティアを外に送り出して情報収集に努めさせたり、いろいろしてきた。
だが、まだ数十日しか経っていないのだ。彼らから得られる情報はまだ無いに等しい。そのため、アインズは自分もある一つの巨大な組織のトップとして価値ある情報とまでいかなくともこの世界における一般常識くらいは学ばなくてはならないと思っていた。ゆえの偽装身分である。
「…貧相な格好してバカにされたくは無いし、あんまり派手な格好も嫌だ。」
部屋付きのメイドにどんな格好がいいんだと尋ねたら、自分ごときが恐れ多いと断られ、アルベドに尋ねたらそのままが最も美しいお姿ですとか言われた。ああ、こんなことになるんだったらセバスに先に聞いておくべきだった。
「何してる俺…。これくらい自分でなんとかできなくてどうする。大丈夫俺ならできる。」
そうだ。皆と作り上げたこのナザリック地下大墳墓のためにも俺はこんなところで挫けてるわけにはいかないんだ。
そうアインズが気を引き締めてもう一度鏡の前に立とうとすると――
『――アインズ様』
突然、落ち着いた深みのある言葉がアインズの脳裏に響く。
「…デミウルゴスか。どうした、何かあったか。」
アインズはその声の主を瞬時に判断する。ナザリックでもトップクラスの知恵者であるデミウルゴスは確かスクロールの素材集めに奔走していたはずだが…まさかそんなデミウルゴスが報告しなければならないほどの事が起きたのか?
『お忙しい中、申し訳ありません。ですが、一つ報告申し上げたいことがございます。』
「ん…?何だ。」
『私のもとにつけていただいたプルチネッラの部下である中級悪魔数体とその他1000体が殲滅されたようです。』
「…ぇ?」
まじか…。確か中級悪魔ってデス・ナイト級の強さがあったはずだ。それが殲滅されたってことは少なくとも周辺国家では最強という事にされているガセフ・ストロノーフを遥かに凌ぐことになる。
「それは一人で殲滅したのか?」
これは確認すべきことだ。中級悪魔数体とその他諸々1000体に匹敵する個人がいるとするならばプレアデス以上の強さだ。
『いえ、個人ではありません。恐らく500名近くの敵と交戦していたようです。』
…なんだ。ちょい弱めガセフ500となら負けても仕方ないかな。
「なるほど。わかった。スクロールの件はすべてお前に一任してある。好きにすると良い。」
『ふふ…かしこまりました。』
そう言ってデミウルゴスは思念による魔法を解除した。…なんか最後の方で微かに「流石はアインズ様」とか聞こえたけど気のせいということにしといた。
「なんだか、デミウルゴスと話したおかげでなんか気分が晴れたな。よし…やるか。」
そう言うと骸骨の化物はベッドから起き上がり、再び鏡の前で戦い始めた。
◆
――御前会議は最初から荒れた。
まあ、そりゃあこのお偉いさん達が揃っている場所に突然ギルド長と、いかついおっさんが降ってきたらそうなるだろうけど、
「…やはり、相手の目的が何かわからないか。」
「はい。一万人という数の少なさから考えますと、少なくとも都市攻略ではないかと…。」
まず、これだ。この相手の数の少なさが、相手が何を考えているのかわからない原因だ。
「陽動の可能性は?都市の兵をそちらに引き付けるということは考えられないか。」
「どちらにせよアンデットなのだろう?42キロあれば大和の射程範囲だ。それで吹き飛ばせばよいではないか。」
「はあ、簡単に言ってくれるな…。君は散布界という言葉を知っているのかね。」
「陸軍さんの砲兵はまだ復活できないのか?というよりも相手は魔法が使えるそうじゃないか。そんな相手に銃や大砲が効くのか?」
次に、これ。未知の敵であるため有効な対策を講じることが出来ないのだ。
「やはり我々の機動部隊の航空部隊で叩くしか無いだろう。先日の戦いでも我々の部隊が相手に最も損害を与えたのだ。他の方々は引っ込んでいてくれも構わないのだぞ。」
「な、なにを言っているのだ!先日の戦いでは貴様らの航空部隊のせいでこちらの部隊にも負傷者が出たというのに…!貴様らなどいなくても我々だけで片付けれたのだ。」
「そのとおりだ。何よりも貴様らはうぐいす様の許可も得ないまま、軍を動かしたそうじゃないか。統帥権を犯したのだ。これは重大な軍機違反にあたるのだぞ。」
そして最後にこれ、謎の派閥による対立構造だ。
彼らにはこんな設定を組み込んだつもりはなかったのだが、なんかいつの間にか海軍VS陸軍VS参謀本部VS内閣、みたいな構造になっている。…絶対かつてのギルメン共のせいだな。勝手に書き換えやがって。しかもご丁寧に各派閥内での足の引っ張り合いまで。お?なんかやばい雰囲気になってきたな。あ~あ、とうとう席から立って軍刀抜いちゃったよ…。会議場で戦い始めるなよ。こういうところをうちのギルメンにはちゃんと設定して欲しかった。あいつらなんか適当だもんな。
「まあまあ。皆、落ち着けって。」
彼ら曰く最高意思決定者である議長の俺が、いい年したおっさんたちをなだめたので、彼らは大人しくなった。
「…うぐいす様。意見具申よろしいですか。」
すると、立花が手をあげた。
「ん?ああ、いいよ。何?」
俺が許可を出すと手をあげていた立花はおもむろに座っていた椅子から立ち上がった。
「…私は、早急に彼らを殲滅すべきだと思います。」
「だから、先程から言っているだろう奴らの目的がわからないままでは…」
「はい、仰るとおりです。ですが、故に後手に回るのは危険です。相手が何を考えているのかは不明ですが、今現時点までに何一つコンタクトを取ってこないのです。もしかしたらなにか仕掛けてこないとも限りません。」
「だが、殲滅する方法は?現時点では航空部隊の攻撃が有効であるとのことだが…」
「陸上部隊が中心となって戦うべきでしょう。先日の戦いでの報告では三八式歩兵銃や八九式榴弾でも効果があったと聞いている。」
その時、陸軍関係者の者たちから笑顔がこぼれ出た。逆に海軍航空部隊の関係者らは不満がありそうな顔をしている。ちなみに内閣関係者と海軍の他のお方は我関せず。俺は完全に蚊帳の外だ。
「だが、もしも陸上部隊だけでやれなかった場合はどうするんだ。脚が速い航空隊といってもすぐに動けるわけじゃないんだぞ。それに石油の問題もある。」
「ご心配なく。石油の無駄遣いはしないつもりだ。」
「なっ、なに?」
「石油の消費は最小限に抑えこむ。」
「ふむ…。どうやら立花殿にはなにか考えがおありのようだ。是非その考えをお聞かせ願えないだろうか。」
おお、なんかいい感じに会議っぽく会議が進行し始めたぞ。もしかしたら立花にはこっち方面の人をまとめ上げる才能が有るのかもしれない。…俺いらなくね?
時計を見てみると、午後二時を切ろうとしていた。うーん、立花の話はなんか長引きそうだな…。ちょっとぐらい寝とくか。
そう思うと俺は下を向いて目を閉じた。…その後のことはよく覚えてない。
次回、ナザリックVS大日本帝国
立花「石油がなくても勝てます!」
俺「これはアカン。史実ルートや…!」