オーバーロードと至高の這いよる声優さん   作:オルセン

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上位者の すごい 雑談

 

(っはぁ~、凄いなこりゃあ……)

 

 テラーはセバスに促されるままに、ナザリック地下大墳墓の九階層を進んでいた。

 

(ここを通るのも久しぶりだけど、内装は昔に見たままか……。ってことは、ここって本当にナザリックなんだな)

 

 彼の記憶によれば、中世のゴシック建築様式を参考にデザインされたものらしい。一つ一つの小物のモデリングもさることながら、資料用の写真を揃えるだけでもどれほどの苦労か考えて気が遠くなったものである。そうして創り上げられたこの九階層はゲーム内のCGから現実のものに昇華され、もはや「美しい」という形容詞すら陳腐に聞こえるほど途方も無い威容を漂わせていた。

 

(この階層のデザイン担当って誰だったんだろう……このレベルのを作れるメンバーっていったら、るし★ふぁーさん? いや、でもあの人結構飽きっぽいしなぁ……確か大浴場のデザインしたって言ってた筈だから、ベルリバーさんあたりかも……)

 

 広々とした通路を眺めながら取り留めのないことを考えていると、セバスが両開きの大きな扉の前で立ち止まり、ノックをした。

 

「モモンガ様、テラー様をお連れいたしました」

 

 一拍の間を置いて、奥からくぐもった声が聞こえてくる。

 

「通せ」

 

 まるで大魔王か何かのように、聞いたものに畏怖を感じさせる迫力がそれにはあった。

 ことここに至って、テラーは不安感を覚えた。この扉の先にいるのは本当に自分の知るモモンガなのだろうか。もし仮に別の何か、おぞましい化け物に変質してしまっていたとしたら。自分はまんまと虎の巣におびき寄せられた餌なのではないかと。

 ナザリック内でのみ使用可能な転移用の指輪『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』は外したままだ。敵対行動をとられた場合即座に撤退できるよう装備しておきたいが、ここでそれをするのはあまりにも不自然だろう。かえって相手に不快感を与えて、藪蛇になってしまう恐れさえある。

 それに、すでに試してみたのだが、ユグドラシルの時のように指をスライドさせてもコンソールが出現しないのだ。コンソールを出せないのなら、どうやってアイテムの出し入れをすればいいのだろうか。こんなことになるならひとりの時にもっと色々と試行錯誤しておくべきだったと、後悔し始めていた。

 

「テラー様?」

 

「んっ!?」

 

 テラーが慌てて顔を上げると、扉は既に大きく開かれていた。

 

「お、……おう」

 

 セバスは執事としての義務感でもって至高の御方の手を煩わせまいと取った行動だったのだが、覚悟が決まりきっていなかったテラーにとってこれはありがた迷惑であった。

 扉の奥には直径にして10メートルはあろうかという巨大な円卓があり、それを囲むように41人分の豪華な椅子がズラリと等間隔に並べられていた。ギルドメンバー全員が一堂に会して話し合う場として設けられた、円卓の間である。

 その中の一席に、テラーから見て背中を見せたまま静かに着席している人物がいた。

 その者が羽織っているのは魔術師のローブである。黒に金の縁取りのみというシンプルさでありながら、見る者の目を釘付けにしてしまう奇妙な吸引力があった。そして、朱い目を持つ甲殻類という形容がしっくり来るような異常に大きい肩当て。これらには、テラー自身よく見覚えがあった。それはモモンガが好んで身につけていた防具であるからだ。

 顔を見たい。そんな思いに駆られて、テラーはおそるおそる後ろ姿に近づいていった。

 

「も、……モモンガ……さん?」

 

 意を決して呼びかけた。それに反応するかのように、後ろを向いたままゆっくりと立ち上がり、その人物は振り返った。

 一言で言い表すなら、骸骨のお化け。落ち窪んだ眼窩の奥と、肋骨の下辺りが赤黒く輝きを放っていた。

 

「お久しぶりですね、テラーさん」

 

 その骸骨は外見にそぐわない穏やかな声で、テラーにそう語りかけてきた。

 ユグドラシルの頃から何も変わっていなかったことを理解し、同時にテラーは先程までこの素晴らしい友人を疑ってかかっていたことを思い出し自己嫌悪に陥った。

 

「なんかすいません、モモンガさん……」

 

「えっ、なんで謝るんですか」

 

「いや、ほんともう、ごめんなさい」

 

 「僕って最低だ……」などと何処ぞの人型決戦兵器のパイロットのような台詞を言って落ち込んでいるテラーを、モモンガは椅子に座るよう促した。素直に腰掛けたのを見届けると、扉の横で待機していたセバスに下がるよう命令する。

 一礼して部屋から出て行ったセバスの足音が小さくなっていくのを確認し、モモンガもテラーの隣の椅子に腰を下ろした。

 

「さて、もう落ち着きましたか?」

 

「あ、ああ、すいません取り乱してしまって」

 

「もう謝るのはやめましょうよ」

 

 そう言ってアハハと笑った。釣られたように、テラーも笑い出す。モモンガは骸骨なので表情を読むことができないが、声色からなんとなくだが感情を読み取ることができるようだった。

 

「それにしても驚きましたよ。モモンガさん、ユグドラシルのアバターのままだったんですね。どうやって喋ってるんですかそれ? 声帯とか無さそうなのに」

 

 テラーが素朴な疑問を投げかけると、モモンガは不思議そうに首を捻った。

 

「いや……テラーさんの方こそ」

 

「え?」

 

「――あ、もしかして気付いてなかったんですか」

 

 モモンガがどこからともなく手鏡を取り出すと、テラーにそれを手渡した。

 テラーが無警戒に覗き込んだ鏡の中には、捻じくれ、ひしゃげたような昏い穴がぽっかりと空いた、()()()()()が映り込んでいた。

 

 

   ▽   ▽   ▽

 

 

「どうもお騒がせしました……」

 

「いやぁ、落ち着いたようでよかったです。まさかあそこまで取り乱すとは……」

 

 自分の姿を初めて見た直後のテラーの狼狽ぶりは、それはもう酷いものであった。「え……? だっ……、へ?」などと口走りながら手鏡とモモンガを交互に見比べ、唐突に「僕の顔どこぉ!?」と叫んで目鼻口を探しに行こうとし始めたのだ。反射的にモモンガが後ろから羽交い締めにして取り押さえられたのは実に幸運であった。

 

「よく考えたらモモンガさんがそうなってるんだから、僕だって当然アバターの姿になりますよね……。はぁ……ショックだ」

 

「気持ちはわかりますよ。俺も気付いたらアンデッドの体で現実化してましたからね」

 

 存在しない顔を覆って落ち込んでいたテラーが、ふと気付いたようにモモンガに疑問をぶつける。

 

「そういえば、モモンガさんけっこう冷静ですね」

 

 テラーは、非常事態に一番錯乱しそうなのはモモンガのような人だろうなと思っていたのだ。本人には言えないことだが。

 失礼な心の内を知ってか知らずか、モモンガは顎に指を当てて「ああ、それは……」と言って言葉を続けた。

 

「たぶん、アンデッド種の種族特性の影響が出てるんじゃないかと思うんですよ」

 

「種族特性か……」

 

 テラーは腕組みをして頭の中から記憶を掘り起こすべく考えこむ。

 ユグドラシルにおいて異形種系の種族には、人間種には無い『種族特性』というものが存在していた。『飲食不要』や『暗視』などの有利なものだけでなく、特定の属性ダメージに弱くなるような不利な特性も常時発動状態になるので、一概に便利というわけではないのだが。

 

「アンデッドには『精神作用無効』っていう種族特性がついてるんですよ」

 

「あれか……。でもそれって、精神異常を無効化する特性じゃなかったですか?」

 

「ユグドラシルではそうでした。でもこの世界では、」

 

 話をしながら、何も無い空間を指先で突くような動作をして見せた。

 

「それらの法則が通用しないものがいくつもあるんです。もう試してみました? これ」

 

「コンソールですか……。ゲームの時みたいにやっても、何も出なかったですね」

 

「ちなみにアイテムですが、こうやって出し入れできます」

 

 モモンガが右手を動かすと、手首から先がスッと消える。何かを探すような動作のあと、戻ってきた手の中には治癒薬(ヒーリングポーション)があった。

 

「おお! すごい」

 

「目の前に浮いているアイテムボックスをイメージして、それを開けて手を突っ込む感じを想像してみてください」

 

 言われたとおりにやってみると、テラーの手も空中で消える。そしてズラリと並べられたアイテム類のイメージが脳内にダイレクトに伝わってきた。その中の一つ、『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を選んで手を引き戻すと、小さな指輪が握られていた。

 

「はは、ゲームの時より便利ですね。これ」

 

「魔法も同じようにゲームの時とは勝手が違うんで、あとで実際に使って検証しておくといいですよ。で、さっきの種族特性の話に戻るんですが……ちょっと実際にやって見せた方が早いですかね」

 

 モモンガは椅子から立ち上がって数歩下がり、テラーに話しかけた。

 

「テラーさん、怒らせるのでも笑わせるのでもいいんで、ちょっと俺の精神を昂ぶらせてくれませんか?」

 

「……ええ~?」

 

 とんでもない無茶振りである。うーんと唸りながらキョロキョロ周囲を見渡し、やがてピンと来たかのように指を立てた。

 

「そうだ。モモンガさん、ジョジョ好きでしたよね?」

 

「ジョジョですか! 大好きですよー。そういえば今度放送する第3部でもテラーさんが声を当ててるんですよね。見たかったなぁ」

 

 感慨深げにそう言ったモモンガに対して、テラーは爆弾を投下した。

 

「実はここだけの話なんですが……4部の制作ももう決まってたんです」

 

「えっ」

 

「モモンガさん、4部が一番のお気に入りでしたよね……。もう、見れないですね」

 

「うそ……嘘ですよね? テラーさん、はは、は」

 

 千鳥足でフラフラと縋り付いてくるモモンガに対し、テラーは辛そうに顔を背ける。モモンガはその場で崩れ落ち、慟哭した。

 

「くっそおおおおぉぉぉぉッ!! …………あっ」

 

 その瞬間、光の柱のようなものがモモンガの体に立ち上り、急速に精神が沈静化されていった。

 

「ふぅ……」

 

「モモンガさん、いまのは?」

 

「これがこの世界での『精神作用無効』なんです。正直、有利な能力なのかどうかでいうと微妙な感じになっちゃいましたね」

 

 姿勢を正して膝に付いた汚れを払う仕草をしつつ、モモンガが解説する。他のスキルについては随時検証していくつもりだとも付け加えた。

 

「……っていうか、今の話ってマジなんですかテラーさん?」

 

「マジです」

 

「うーわー……今日ここにきて一番ダメージでかいですよそれ……」

 

 がっくりと肩を落とすモモンガの背中を見ながら、テラーは自分の種族特性について思い出していた。

 

「じゃあそうなると、僕のも結構厄介になってるかもしれないなぁ」

 

「テラーさんは、ええと『二重の影』(ドッペルゲンガー)から上位種族にシフトしたんですよね。確か名前は……」

 

「『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』ですね」

 

 ニャルラトホテプ。

 クトゥルフ神話に登場する神性の一柱であり、ユグドラシルにおいてはエリアボスの一種。

 彼には、ただの偶然であった。ただ、()()()()()()が重なっただけだ。

 色々なキャラクターを演じたいというだけで『二重の影』(ドッペルゲンガー)のクラスを育てた。職業クラスで『カオス』を取ったのは、スキル構成上の都合からだった。そして、エリアボス『ニャルラトホテプ』を倒すと超低確率でドロップするアイテム『輝くトラペゾヘドロン』。これを入手できたのも、ギルドメンバー達の素材集めに付き合って行っただけのこと。

 

 ・種族クラス『二重の影』(ドッペルゲンガー)『上位二重の影』(グレータードッペルゲンガー)のレベルを上限まで上げていること。

 ・職業クラス『カオス』のレベルを上限まで上げていること。

 ・ドロップアイテム『輝くトラペゾヘドロン』を入手済みであること。

 以上の条件が揃った者にのみ、『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』という上位種族が出現する。

 

 そしてこの度の異世界への転移。

 この日、テラー・コヤ=スは這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)の化身のうちの一つへと変貌した。ただし、彼自身がとんでもない怪物になってしまったことに気づくのは、もう少し先のことである。

 

「その種族特性だと、どれが厄介そうですか?」

 

 ユグドラシルで使用される大体の魔法やスキルを把握しているモモンガでも、レアな種族クラスとなるとそうもいかない。特に常時発動している種族特性などは、本人から聞き出す以外に構成を知る手段が無いからだ。

 

「そうですね……。『飲食不要』とか『毒・病気無効』、『睡眠不要』とかそこら辺はアンデッド種とあんまり変わらないんですけど一個だけ、名前的に面倒くさそうなのが」

 

「なんです?」

 

「『精神異常感染』」

 

「ああ……」

 

「ね?」

 

 ヤバそうだ。大部屋の片隅で、死の支配者(オーバーロード)這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)が同時に唸った。

 

 




何にもせずにおっさん二人がだべっただけで終わってる!?

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