転生先は異世界―あ、これチートだわ―   作:Anonyme

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09.カレーライス

 武器屋を後にしたユウヒは小腹が空いたことに気付く。

 ユウヒは空を見上げると、太陽の位置を確認する。だいたい真上に位置しているため昼頃の時間だろう。それはお腹も空くわけだと自問自答するかのように納得するユウヒである。

 周りにはいくつも飲食店があることから、どこがいいのか本当に迷う。傍から見たら怪しい姿の少年がきょろきょろと辺りを見回しているため、より怪しく見えているに違いない。

 

 そして、そんな少年に近付く一つのパーティーがいる。先程ギルドで助けてもらったディアルを筆頭とするパーティーだ。

 後ろから近付いてくるディアル達だが、ユウヒは視線という気配で誰かが後ろから近付いてくることを理解してゆっくりと振り向くと、ユウヒに向かってディアルが手を振っていた。

 

 

「くっそー、脅かそうとしたのにこっちに気付くのが早すぎるんだよ」

 

 

 ディアルが駆け足で寄り、それについていく残り三人のパーティーメンバー。脅かすという行動をする年でもないくせにと心の中で突っ込むユウヒ。

 続けてディアルが話を始める。どうやらディアル達もあの後ギルドで依頼を受け、さっさと済ませてきたらしい。ちょうど昼という時間であるため、今から行きつけの飲食店へと向かうとのこと。

 

 

「クロもここにいるって事は何か飯食いに来たんだろ? 俺達と一緒にどうだ?」

「そうですね……それではお願いしてもいいですか?」

 

 

 ユウヒはそのお誘いに二つ返事で返した。どの店がいいか迷っていたことにあるのに加え、いい情報が聞くことができるかもしれないからだ。断る理由は一つもなく、お言葉に甘えることにしたわけだ。

 

 

「あー、敬語はやめにしねえか? クロとは冒険者という立場関係なしに、知り合いとして対等な立場で行きてえんだ」

「分かった。こっちとしても助かる」

 

 

 ユウヒにとって、ディアルは年上であり、冒険者という立場の先輩でもあるため敬語を使っていた。目上の人には敬語を使う主義である。

 商人やギルドの窓口の人に対してタメ口だったのは子供でも舐められないようにと精一杯の抵抗である。前世が十八歳だった事もあり、本来はちゃんと敬語を使える。

 

 それに冒険者という立場ではなく、知り合いとして対等と言ったのは、仮に冒険者をやめたとしても関わりを持っていきたいという事だろう。

 どうやらディアルはこれから長い付き合いをしていくつもりであり、知り合いが一人もいないユウヒにとっては相手から――しかも顔が広い人が寄ってくるという、これ程とない好機を逃すわけにはいかないという事だ。

 こうして、大人四人と子供一人は飲食店へと向かった。

 

 

 

 飲食店の前へと到着する。『喫茶店リアル』という名前だ。

 この世界には英語という言語は存在しないはずなのに、現実を見せられそうな名前にフードの下でユウヒは何とも言えない表情をしていた。

 喫茶店リアルに入ると、カウンター席が四つ、テーブル席が三つあり、どこからどう見ても普通の喫茶店である。一人の女の子がこちらへと向かってきた。エプロンをやっていることから、この店の従業員だという事が分かる。

 

 

「あ、ディアルさんいらっしゃい! こちらの席にどうぞー!」

「おう。今日も可愛いな、アン」

「褒めたって何も出ませんよ? あれ、そちらの子は――まさか……!?」

 

 

 ユウヒの事を見てとんでもない勘違いをしているようだ。

 男二人、女二人のパーティーであるため、傍から見たらどの組み合わせかの子供と思ってもおかしくはないが、ディアルはこの喫茶店の常連であるため、この子の演技は冗談に近い物だろう。

 

 

「そんなはずないだろ、ただの知り合いだよ。馬鹿な事言ってないで早く案内しろ」

「はいはい、分かりましたよー。こちらにどうぞー」

 

 

 アンと呼ばれる少女は適当なテーブル席へと案内し始める。

 髪は赤色であり、背中まで届くポニーテールだ。年は十五歳くらいの年齢であり、親の手伝いをしている子供だろう。

 四人席のテーブルに案内されるが、椅子が一つ足りない。アンがそれに気付いている様子で椅子を一つ持ってくると、ディアルはそれを見て噴き出すように笑った。アンは目をパチパチとさせて、私何か変な事しましたかという目でディアルを見ている。

 

 ディアルが笑い出すのは無理もないだろう。アンが持ってきたのは子供用の椅子であり、大人が使うのに対して足が高いものであるのに加え、落ちないように手掛けのようなものがついている。

 そんなものに座らされるのは見た目が子供のユウヒである。その椅子にユウヒが座る事を想像して爆笑しているということだ。

 自分より――パーティーが一斉になって掛かっても倒せない相手が、そんな子ども扱いされている椅子に座るというのがギャップを生み出している。

 

 

「アン、お前最高だな。その椅子のチョイス間違ってないぜ」

「おい、ディアル。笑いすぎだ!」

 

 

 まだ笑っているディアルに対し、ユウヒはとうとう突っ込む。

 ユウヒの表情は見えないが、声色を感じ取って本気で怒っているのではなく、冗談で言っているのは理解しているようだ。

 

 

「いやいや、すまんすまん。せめてその手掛けがないようなやつあるか?」

「ええ、でも落ちちゃうと……」

「大丈夫だよ、そんなお子ちゃまじゃないって」

 

 

 ディアルは大丈夫と言っているが、アンは半信半疑で手掛けのない椅子を持ってくると、ようやく全員がテーブル席へと座る事ができた。

 メニュー表を渡されるが、名前だけしか載ってなく、ユウヒは文字が読めるが何が何だが分からない料理ばかりであった。ディアル達はいつも食べるものが決まっているらしく、ユウヒはお勧めのメニューを聞くことにした。

 

 どうやら、名前は違うが前世でいうカレーライスに似た食べ物があるらしい。ユウヒの生まれた場所はパンが主食であったため、毎日ほとんどパンを食べていた。

 日本人であったからには白米というものがとても恋しくなっており、この世界には白米がないと思っていたらしいがそんなことはない。ユウヒは他のお勧めも聞かずに即座にそれを注文した。

 アンはそれを伝えるために裏方へと引っ込んでいく。

 

 

「さてと、まずは自己紹介だな。俺の名前はさっき紹介したが、ランクについても仲間達についても説明してなかった。まず俺はAランクでこのパーティーのリーダーをやっている。職業は剣士だ」

「私の名前はユニ、Bランクの魔術師よ。得意魔法は水ね」

「俺はロアル。Bランクで剣士だが、ディアルの攻めの剣とは違って、盾役になるほうが多い」

「私はフィア。Aランクの魔術師、回復魔法担当」

 

 

 ディアルに引き続き、パーティーメンバーが各々自己紹介を始める。ユウヒは名前を忘れないように頭の中に詰め込んでいく。

 ディアルは赤髪の短髪で、どことなくお兄さん系の雰囲気。

 ユニは青い髪を持った可愛いというより美しい系の女性。

 ロアルはよく鍛えられたような体つきであり、本当に盾役っぽい容姿。

 フィアは銀髪のボブヘアーであり、年齢は十五歳程度とこの中では最年少だろう。

 ユウヒはそれぞれの特徴と名前を頭の中で整理していく。本を読んだ時と同じように、まだ五歳であるためかすんなりと頭に入っていく。

 

 

「じゃあ、俺の名前はどっかの誰かさんが勝手につけたクロで。新人冒険者ですので、可愛がってください」

「おいおい、俺のつけた名前じゃ不満だっていうのかよ」

「いや、だって全身黒いからクロって安易すぎるし……」

 

 

 ディアルのパーティーメンバーはその通りだと笑い出す。

 自己紹介が一段落したところで、アンが全員のメニューを運んでくる。ユウヒの前には前世のカレーライスと似たようなものが置かれ、心の中でものすごく感動している様子だった。

 この世界にいただきますという言葉は無く、各自がそのまま食べ始めるのが普通だ。各魔法属性の神様が存在しているという宗教的なものが存在しているが、その宗教に入っている者は祈りを捧げてから食べ始める。しかし、ディアル達は宗教には入っていない様子であり、そのまま食べ始めた。

 

 ユウヒはフードはつけたままであるが、マスクだけを外した。

 スプーンでカレーライスをすくい上げ、口の中へと運ぶ。久しぶりの白米、前世好きだったカレー。俺は今猛烈に感動していると言わんばかりに何度も頷きはじめ、二口目・三口目と手が止まらない様子。

 五歳児の子供なのにも関わらず、あっという間に完食してしまい、ディアル達はそこまでお腹が空いていたのかとその食べっぷりを見ていた。

 

 

 

 

 

 全員が食べ終わり、皆満足げに自分のお腹を軽く叩いていた。

 

 

「そういえば、クロ。初依頼はどうだった?」

「ああ、ゴブリン五体討伐してきたんだよ」

「それにしても早いな。俺達もあの後依頼に行ったんだが、それより早く終わったのか」

 

 

 ディアル達の依頼に比べて、簡単な依頼だから早く終わるのは当然だと思うが、今回ディアル達が受けた依頼は街の住民を手伝う依頼だ。

 街の人々にも顔が広く、よく頼りにされているのがディアル達である。

 

 

「いや、ちょうどよく森の入口あたりにゴブリンの群れがいてさ。探す手間が省けたよ」

 

 

 事もなげに言うユウヒだが、新人冒険者がゴブリンの群れをソロで討伐するなんて普通はできるものではない。

 ディアルはユウヒの強さに気付いているが、他の仲間はクロの強さは分からないため驚いていた。どうやらディアルはちゃんと約束を守っているようであるが、別に仲間にくらい教えても問題ないだろう。

 まだ会ったばかりであるが、ユウヒはこの人達なら信用しても構わないと思っている。ユウヒはディアルに視線を向けて頷くと、分かったと言わんばかりに頷き返した。これもスキル《直感》の能力だろう。

 

 

「お前らには話してなかったが、これは今朝のギルド内での事だ」

「あの、汗だくだったディアルのこと?」

 

 

 ユニが確認を取るように問うと、ディアルは恥ずかしそうにその言葉を肯定した。

 

 

「リーダーである俺がこんな事言うのも情けないんだが、クロの強さに焦っちまってよ……これは俺の直感が告げている」

 

 

 俺の直感――ディアルのパーティーメンバーにとって、これだけ信用のある言葉は無い。

 今まで数々の依頼や戦いを超えてきたこのパーティーである。もちろん実力もランクに見合った物ではあるが、ディアルの直感は外れたことなく、それに何度も助けられてきたため信頼されている。

 

 ディアルはあえて声を低くして語る。

 それは冗談ではなく、真剣そのもの。今目の前にいる小さな子供がどれだけの力を持っているのか。やり合うべき相手ではない事を明確に伝える。

 実際のところ、例えディアル達全員が束となって戦おうとも、傷をつけるのは難しいだろう。万が一傷を付ける事が出来たとしても、瞬間回復によって一瞬でなかったことにされてしまうだろう。

 勿論、そんなスキルがある事なんて検討もついてないだろうが、それがなくても負けるのは目に見える程の実力差がある事をディアルの直感は告げていた。

 

 

「――というわけだ。俺はクロと争いたくはない」

 

 

 最終的な結論を出したディアルに、パーティーメンバーはそれに頷くことしかできなかった。

 仲間たちに異論はないと確認を取ったところで、ディアルは話を切り替える。

 

 

「そういえば、クロ。依頼報告は済ませたのか?」

「いや、まだだ。あまりにも早すぎると疑われたりとかあるから、少し時間潰せる場所を探してたんだよ」

「ああ、確かにそうかもしれないな。それならもう報告するにはいい時間帯じゃないか?」

「それもそうだな……それじゃあそろそろ行くわ」

 

 

 確かに討伐が終わってから武器屋に寄ったり、飯を食ったりといろいろと時間を潰せただろう。

 ユウヒはそういうと、席を立ち腰から銀貨を一枚取り出そうとするが、ディアルからその手を止められる。

 

 

「新しい知り合いと、初依頼達成の祝いだ。今回くらい持つさ」

「なるほどな、ありがとう」

 

 

 ユウヒはお言葉に甘えることにして、そのまま喫茶店リアルを後にした。

 

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