転生先は異世界―あ、これチートだわ―   作:Anonyme

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11.アイリス

 ユウヒが冒険者に登録をしてから一週間が経った。

 一日目は偶然見かけなかったが、この世界にはエルフや獣人族といった異人族と言われている者が存在する。王都では珍しくない事であり、物好きな貴族が奴隷として使っているらしい。

 奴隷と言っても酷い扱いを受けているわけではない。そこらへんは法律的なものがあり、王都では異人を差別することを禁止している。

 昔は戦争で争った事もあり、差別的な扱いを受けてきた獣人族であるが、法律ができたことにより多少は緩和されてきたようだ。しかし、表面上は良い関係を築いているように見えるだろうが、裏で暴行や差別しているのはよくある話だ。

 二日目以降はちらほらと街で見かけるようになった。人間のように生活している異人族も見かけるが、大半は貴族のような服装をした人間に仕えてるような者であり、主従関係を示す首輪をつけている。

 

 

 ユウヒは毎日王都へと足を運び、依頼を達成していく。一日目のように一日一個じゃいつまで経っても終わりが見えないため、一日三つとノルマを決めたようだ。きっかり三つの依頼を終わらせる謎の子供として、少しだけ噂となりつつある。

 今現在ではEランクに昇格しており、本日の依頼報告でDランクに昇格する予定である。

 

 それと、あれからもう一つ魔法を創り出した。

 《索敵(マップ)》という魔法であり、その名の通り敵を探すことが出来る魔法だ。魔力に反応して敵に位置を探知する魔法である。

 モンスターは常時微量の魔力を(まと)うように放出している。モンスターの種類ごとにその魔力量が異なっているため、それを計測する事によって敵を判別することが出来る。

 《索敵》のおかげで敵が見つけやすくなり、より早く依頼を遂行できるようになった。

 

 

 本日も依頼素材を収集した後、時間つぶしのために街を巡る事に決めていた。つまみ食いしたりと所々でお金が使うことになるが、依頼報酬を考えると少しずつ増えていく一方である。

 

 一週間も回れば大体のマップは把握し、回るところもなくなって行く。一度城内を見学したいと思い、城門まで行ったものの入れてくれるわけなかった。やはりそれなりの地位が必要らしい。

 転移を使えば入れることには入れるのだが、王都に不法侵入するだけでも処罰物なのに、城内で不法侵入はタダじゃ済まされないだろう。

 

 

 そんな事考えながらも、ユウヒは本日最後の獲物――Eランクモンスターのドクダケを発見する。

 人型のキノコであり、長い鼻がついていることが特徴的だ。大きさは百五十センチ程度とあり、五歳のユウヒにとっては見上げる程の相手だ。

 口から麻痺毒を放出してくるため厄介な相手ではあるが、ユウヒにとってはこのランクのどんなモンスターも恐れるに足らないだろう。

 

 周りに他の人間の気配がいないかを感覚的に察知する。確認後に転移魔法で相手の背後へと転移し、剣で身体を真っ二つに両断する。

 実は冒険者になって二日目に森の中で転移するところを人が見ていたらしく、突如消え去った謎の影――幽霊として街に噂が流れていた。今ではそこは心霊スポットみたいになっており、他の冒険者が面白半分に足を運んでいる。

 

 そのため、使う前は気配がないかを調べているのだ。

 感覚的に察知と言ったが、なぜ《索敵》では駄目なのかと言うと、人間は基本的には魔力を放出していない。エルフも獣人も同じであり、《索敵》では探知することができないのだ。

 人間反応も探知できるようにしたいのだが、どうやって判別するか考え中という事だ。《魔法創造》も自分がこうしたいと思った通りに創造できるのではなく、何故その魔法が発動するのかを考えなければ創れないということだ。

 

 

 ドクダケの特徴的な鼻が対象部位であり、武器屋のエリアルからもらった白亜(ハクア)で剥ぎ取る。どんなものでも紙のように裂いていく白亜。斬った断面は歪みがなく綺麗なものであり、ギルド窓口のコトハはいつも感心して見ている。

 いつも通り背負っているリュックに放り込み、ユウヒが立ち上がったその時である。草木に囲まれているであろう方向から、小枝を踏んだような物音がした。

 

 

「誰だ?」

 

 

 ユウヒは威嚇の意を込めて自分の出せる限りの低い声を出すが、五歳児の声帯では限度があるようだ。ユウヒの問いに答える者はいない。むしろ、答えるほうが珍しいだろう。

 

 感覚的に周囲の気配を察知するのは技術的に不十分だったのだろうか。

 極力気配を消しつつも、音の発生源へとゆっくりと歩くユウヒ。その方向にはちょどよく人が隠れられそうな木が立っており、どうやらその裏にいるのだろうと検討を付ける。

 白亜を逆手で構えつつもゆっくりと一歩ずつ進んでいく。木の傍までつき、木の後ろを覗こうとすると、最初に足が見えた。その足は今のユウヒと同じくらいに小さい。

 瞬時に子供と判断したユウヒは異空間に白亜をしまう。

 

 

「おい、大丈夫か」

「ん――う……」

 

 

 ユウヒは肩を軽く揺さぶりながらも声をかけると、小さな息を漏らしたような返事が返ってくる。

 まだ生きているようではあるが、意識がはっきりとしていない様子だ。ユウヒとは色違いであるが、茶色フード付きのマントを羽織っている。

 

 

「すまん、外すぞ」

 

 

 ユウヒは一応声をかけながらもフードを外す。外されたフードの中身は銀色の髪と耳を持つ美少女――獣人族だった。獣人族にも複数いるが、大抵は犬や猫などである。

 この子も獣人の一種であるが、絶滅危惧種である狼人と言われるものだ。絶滅危惧種とも言える珍しさから、裏商人達から高額で取引されている。それに加えて、まだ小さい子供であるが美少女とも言える程の容姿を持っているとなれば、さぞ金額に箔がつくだろう。

 

 その可愛さに一瞬目惚れするユウヒだが、すぐに我に返るように首を横に振り始める。

 狼人少女は首輪が取り付けられている。奴隷の証としてつけられるものであり、王都で見たことがあるものとは少々異なっていることに気付く。それはユウヒが本で読んだ知識と一致しているものであった。

 奴隷首輪――まだ異人族と戦争を繰り広げていた時代の代物。現在の王様から全部破棄するように告げられたはずのものだろうが、裏社会では未だに使用されているようだ。

 猛毒性の針が取り付けられており、無理やり外そうとした場合か、主人の魔力で動作する仕組みとなっている。一切の魔力を封じ込める力があり、抵抗することは不可能だ。

 その奴隷首輪を見たユウヒはどこかから逃げて来たんだろうなと察する。魔法も使えない、武器も持ってない状況なのにこんな森までよく頑張ってきたんだなと心の中で(ねぎら)った。

 

 

 続いてマントを退けると、腕が紫色に変色していることに気付く。どうやら首輪の毒が反応しており、腕に毒が回ってきているようだ。普通の人間であれば即死性の猛毒なのにも関わらず、狼人の生命力あってのものだろう。

 それだけでなく、服の所々に血が滲んでいる。ここまで逃げてくるときに負った傷だと思われる。それなのにまだ生きているとはすごい生命力だ。

 

 

「辛かっただろ……? 今治してやるからな。《異常回復(キュアー)》」

 

 

 ユウヒは光属性の初級魔法を使った。

 本来であればここまで身体に回っている毒を取り除くなんて不可能だ。ましてや光属性魔法で一番最初に覚えるであろう魔法で出来るわけないと考えるのが普通だろう。

 その普通でないのがユウヒである。現在の自分の全魔力……一万という桁違いの魔力を注ぎ込み、《異常回復》を放ったのである。失った魔力は《瞬間回復》によりすぐに回復することができる。

 毒が回っていた腕がみるみると元の色へと戻っていく。苦しそうな表情だった少女が和らいだ表情に変わる。

 

 

「次は傷だな、《瞬間治癒(エリアルコート)》」

 

 

 続いて光属性の上位にあたる聖属性魔法だ。瞬間的に傷を回復できるが、その分魔力の消費が半端ない。傷によっては二千程度魔力を使うため、普通の人なら連発することは勿論、使用することすらできない人もいる。

 ユウヒの中では当たり前となっているが、そんな魔法すらもほぼ無詠唱で使っているという事だ。一瞬で魔法を発動するイメージを構築することをこの五年間で鍛え上げてきたのだ。ユウヒに無詠唱で使えない魔法はない。

 ほぼ無詠唱と言ったが、名前すら出さないのが完全な無詠唱である。別にそれもできるだろうが、ユウヒはそんなの魔術師じゃないという無駄な(こだわ)りを持っていた。

 

 毒は全て抜き終わり傷は塞いだが、血が滲んだ服はどうしようもない。

 服を今ここで作る事も可能であるが、センスの問題があるのと女の子の服を脱がすなんてできるはずもない。そこは新しく服を買うまで我慢してもらうしかない。

 

 

「おい、大丈夫か?」

「ん――」

 

 

 治療を終えたユウヒがもう一度声をかけると、ゆっくりと目を開く。

 ゆっくりと目を開けていくかと思えば、何かをハッと思い出したかのように首輪を抑える。どうやら毒針が刺さったのは記憶にあるらしい。

 次に身体のあちこちを触り、逃げる時に負った傷――痛みがないのに気付いたようだ。ますます訳の分からなくなった狼人の少女だったが、ユウヒがいるのに気付くと、驚いたかのようにビクッと身体を揺らした。

 

 すぐさま立ち上がって距離を取り始める少女。マントのふわりと舞い、視界の良さからか自分がフードを被ってない事に気付くと、耳を隠すようにフードを深く被り始める。

 今更もう遅いのと、短時間での行動の忙しさに笑いそうになるユウヒ。

 どうやら人間を警戒しているようだ。逃げたくなる程の奴隷扱いされ、毒を流されて殺されかけたのだから当たり前だろう。

 フードを被っているユウヒ、一見で人間か獣人か判断できない。しかし、獣人族は人間と違って嗅覚がとても鋭いため、それで判断できたのだろう。

 

 

 ユウヒはそれに対してゆっくりと立ち上がり、少女に近付こうとする。

 嗅覚だけでなく人間に比べ、さまざまな感覚が鋭い獣人族。敵意も感じることができ、ユウヒから敵意がないことに気付く少女。

 少女はユウヒが近付いてくるのを何もせずに見ていた。

 目の前へと来ても敵意などは全く感じない。それどころかユウヒが傍にいる事にどことなく温かさを感じてしまっており、人間にこんな感情を抱くのは初めてだと不思議な感覚に包まれる少女。

 ユウヒはゆっくりと手を伸ばし、深く被ったフードを取り、頭を撫で始める。

 

 

「大丈夫か?」

「は、はい……」

「どこか痛むところは?」

「いえ……ありません」

「苦しいところは?」

「それもありません……」

 

 

 問題なく会話もできるようであり、ユウヒの質問に答えていく。

 その間もユウヒは少女の頭を撫で続けている状態である。

 

 

「名前と年、言えるか?」

「えっと、アイリス、五歳です」

「アイリスか。俺と同い年だから俺の事は気軽にクロって呼んでくれ」

「よ、宜しくお願いします。クロさん」

 

 

 自己紹介を終えたところで首元の首輪に気付く。

 この先生きていくのには目立つ。それに邪魔だろう。

 

 

「動くなよ?」

 

 

 ユウヒはそう言うと首輪に手をかける。無理に外そうとすればまた毒が回ってしまう。そう、無理に外そうとすればの話だ。

 ユウヒは白亜の時に創った魔法《開錠》を使った。ガチャリという音を立て、首輪が地面へと落ちる。

 

 

「え……?」

「邪魔だろ、そんなもの。これでお前は自由だ」

 

 

 ユウヒはそう言ってその場から立ち去ろうとする。

 アイリスは狼人族でもあり、首輪もない今魔法は使用できる。ステータスを見る限りなかなかの実力を持っており、一人でやっていけると判断したのだろう。

 ところが、立ち去ろうとするユウヒの腕をアイリスは反射的に掴んでいた。ユウヒは振り向いてみると、自分の行動に慌てているような表情を浮かべている。

 

 

「どうした……?」

「あ、あの! 私を奴隷にしてくれませんか?」

「は……?」

 

 

 アイリスのお願いに目が点になるユウヒ。それもそうだろう、さっきまで奴隷だった人がせっかく自由になれたのにも関わらず、また奴隷になる事を望んだのだ。

 親切心で首輪を外したユウヒだが、逆に余計な事をしてしまったのではないだろうかと考え始める。

 

 

「あ、いえ……助けてくださりありがとうございました。助けていただいた上にこんなお願いなんてどれだけ我儘な事かと存じておりますが……私を奴隷にしていただけないでしょうか?」

 

 

 確かにアイリスにこの後行く当てもないだろう。首輪も取られた事により、誰にも所有権がない事を示している。そのため、存在が知られればアイリスを狙う物は後を絶たないだろう。

 ユウヒもその事を分かっているようであり、それ故にどうするかを悩んでいた。この世界では自分は五歳であるのに加え、前世でも高校三年生と育児などしたことがない。

 食費は何とかなるだろうが、ユウヒは住居を持っているわけではない。両親に事情を説明して家に住まわせるという手もあるが、ここまでの経緯をどう説明するかが悩ましい事だ。

 しかし、アイリスをこのまま放置するのは良心が痛む。

 

 

「ご、ごめんなさい……我儘言いすぎました……」

 

 

 明らかに悩んでいるユウヒを見たアイリスは口を開く。

 狼の耳は垂れ下がり、明らかに落ち込んでいる表情を見せる。

 

 

「旅は道連れ世は情け――か……」

「え……?」

「いいよ、その代わり奴隷としてはなくメイドとして雇う。奴隷っていう言い方は嫌いなんだ」

「あ、ありがとうございます! クロ様」

 

 

 さん付けから様付けへと変わる。

 ユウヒはむず痒くなりながらも、家にいるメイド――リアと同じくこれが普通だろうと思いながら我慢することにする。一応主人であることから、さん付けじゃ周りに示しがつかないということだろう。

 

 ユウヒはこれからの事を考える。

 今現在の手持ちは約銀貨五十枚――王都に土地を買うならもう少し予算がなければ厳しいだろう。服も買わなければならない事に気付き、またあの商人に頼る事になりそうだ。

 

 

「とりあえず王都に行くぞ」

「はい!」

 

 

 怯えた様子なく大きく返事をするアイリス。

 ユウヒはこれからの事を考えつつも王都へ向けて足を動かした。

 

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