王都へとついたユウヒ達は商人の家へと向かう。
ドアの前へと着いて、ノックするとこの前と同じ商人が現れる。
「おや……この前はお世話になりました。本日のご用件は?」
「商談だ」
「そうですか、それではこちらにどうぞ」
この前と同じように商談部屋へと案内される。既に黒服の大人が待機しており、商談する準備は整っているようだった。
前回と異なる点はユウヒの隣にアイリスがいることである。
この前と同じソファーへと座るユウヒ。アイリスは従者であるためか、ユウヒの座っているソファーの隣で立っている状況である。
「それで、そちらの方は?」
「ボディーガードみたいなものだよ、気にするな」
「これはまた……いえ、商談を始めましょう」
アイリスを一度気にする商人であるが、これ以上詮索するのは失礼に値するものと思ったのだろう。すぐに引き下がって本題に入ろうとする。
商談相手の二人がフードを深く被っており、子供のような体格で謎に包まれていれば気になってしまうのも頷ける。
「話が早くて助かる。今回は纏まった金が欲しいんだ」
「――と、言いますと?」
「そうだな……今一番欲しい物はなんだ?」
「商人で話題に上がっている《一角龍の角》ですね」
一角龍――モンスター種の中で龍種は最強と言われている。
一角龍の討伐ランクはAを超えており、Aランク冒険者が十人以上集まってやっと討伐できる程だ。一角龍の頭に生えている角は武器の素材として最高峰のものであり、鍛冶屋達の間でも話題となっている。
本来は山奥の隠された住処に生息しているわけだが、最近は活発に行動するようになったらしく、目撃情報が何件か上がっているようだ。
「それじゃあ、そいつの角でどうだ?」
「ほう……詳しくお話し聞かせていただけますか?」
「今すぐには無理だが、俺がそいつを取ってくる。俺は今すぐに纏まった金が欲しい。だから料金は先払いだ」
「信用取引――ということですか?」
「ああ、そうだ」
ユウヒの言葉に商人は顔をしかめる。今日で二回出会う少年を信じられる方が珍しいだろう。
商人でも一角龍の強さは分かる。簡単に取ってくると言ってのけているが、目の前の小さな少年の実力を知るはずもない。
「しかし、あなた方の実力を分からないまま商談成立させるわけにはいきません」
「どうすればいい?」
「そうですね――私のボディーガードと戦って、勝てたらということでどうでしょう?」
商人は隣にいた黒服に視線を配る。
この黒服は強い――ユウヒもそれは分かっていた。恐らく強さはディアル以上の実力だろう。しかし、ユウヒの敵ではない。
「そんな事でいいのか?」
「おい、さっきから黙って聞いていれば……俺はこれでもAランクの冒険者だったんだぞ」
先程まで黙っていた黒服の男がとうとう口を挟んだ。
自分より何倍も小さい少年が、龍を倒すだの自分に勝てるなどと言って来たら口を挟みたくなるのは当然だろう。
黒服の男は商人に目を向ける。商人はその視線の意味を察したらしく、どうぞと言わんばかりに手のひらを差し出すジェスチャーをする。
黒服の男は手を振り上げたかと思えば、床に向かって思い切り拳を叩きつけた。叩きつけられた拳は簡単に床を貫通して穴を開ける。
床は木製であるものの、商談部屋であるためか防音のために普通より厚い木を使っている。それを魔法なしに破壊できるのは十分に凄いものだ。
ユウヒはそれを見ても無反応だが、アイリスは一歩後ずさった。
「これでもやるか?」
「あーあ、勿体ない……」
黒服の脅しに対し、ユウヒは席を立つ。そのまま貫通した床の元へ行き、手のひらを添え始めた。
たった一瞬、魔力を込める。ただそれだけで穴の開いた床が元通りになってしまった。もちろん表面上だけではなく、修復した場所と別の場所を交互に叩き、音が変わらない事で完全修復した事を証明する。
「た、たかが修復したくらいで――」
黒服は言い訳のように口を開こうとするが、あまりの殺気に自然と口が塞がれる。
それはユウヒが放った殺気であり、絶対的強者である証拠。黒服は一瞬にしてその殺気に飲み込まれ、言葉を無くしてしまったらしい。直接向けられていなかったアイリスですらもあまりの恐怖に身体をガクガクと震わせている。
商人は何が起こったか分からない様子であるが、腕を組んで寒がっている仕草をしていた。
「まだやるのか?」
「いえ……何もいう事はございません。申し訳ない」
「そうか。それじゃあ商談成立ってことでいいのか?」
黒服はようやく目前にいる少年の強さ――それは自分如きが逆らってはいけない程の物ということに気付く。
商人にとっては寒気を感じただけであるが、自分が信頼置いているボディーガードが何もせずとも負けを認める相手……どれだけの強さがあるということは分かったようだ。
「ええ、分かりました。金額の方はいかがいたしましょう?」
「すまないが相場が分からない。いくらだ」
「目撃情報も多い事から今の相場は金貨五枚程ですかね」
商人の言葉に嘘偽りはない。今回の事でユウヒを敵に回すようなことはしないだろう。もし今回安く買い取ったとして、その事がばれてしまえばユウヒからの信用を無くすのに加え、最悪商人の命はないだろう。
龍種は討伐が難しいのもあるが、普段はそれぞれが隠された住処に生息している。討伐よりも発見する方が難易度が高いものがあり、目撃情報が多い今では普段より価値が少し落ちているという事だ。
「分かった。それでいいだろう」
「ありがとうございます。即金で持ってこさせましょう」
この前と同じくボディーガードに目配せして持ってこさせる商人。
「我々商人にとっても金貨五枚は決して安いものではございません。よろしければどのような使い道か聞いても?」
商人の世界では商談以外の話はタブーである。取引後の使い道など
どうやら商人は本格的にユウヒに興味を持ったのだろう。商人は断じてホモというわけではない。
ユウヒは言って大丈夫か少し迷ったが、聞かれても困る事ではないだろうと判断して口を開く。
「ちょっと王都内に家を建てようと思ってな」
「ほう、家ですか……敷地はもうお決まりですか?」
「いや、何も決まってない。金が出来てから決めようと思ってたところだ」
「そうですか! それでしたら私が持っている敷地はいかがでしょうか? 普通よりも安くお売り致しますよ。よろしければ建築に関してもお勧めの商会がございますよ」
商人の言葉に迷うユウヒ。確かにまだ敷地すらも決まっていない。それに加えて、建築商会も教えてくれるとは一石二鳥だろう。
しかし、これから何処に住むかの個人情報を知られてしまうことになる。それは少し避けたい気持ちもあった。
家を新しく建てるという事はその分時間もかかるだろう。その間アイリスを宿を借りさせればいいとするが、決断は早い方がいいだろう。
「それじゃあ、どちらも頼んでいいか?」
「予算はどれくらいにしますか? 金貨五枚もあれば、敷地含め貴族にも劣らない豪邸を建てる事も可能ですが……」
「いや、金貨三枚程度で頼む」
「分かりました。間取りの希望はありますか?」
「金貨三枚でどれくらいの大きさのものが作れるんだ?」
「敷地の面積から考えますと、三階建てで、一階につきこの商談部屋程の大きさが三部屋くらいでしょうか」
現在いる商談部屋は畳八畳ほどあり、中々の広さがある。それが三つ分ともなればなかなかの豪邸だろう。もしかしたらユウヒの実家――シルフォード家よりも大きいのではないかと言える広さだ。
「一階は大人数で食事できるスペースのリビングと、できるだけ大きな風呂をつけてくれ。二階と三階は適当に部屋を作ってもらって、余ったスペースはそっちに任せる。適当に何かつけてくれ。予算が足りないのであれば金貨をもう一枚プラスしても構わない」
「いいえ、それでも三枚あれば足りるかと思われます。家具の方はいかがなされますか?」
「家具は街で自分の目で見て決めるよ」
「分かりました。急いで作業に取り掛からせますので、完成は三日程で出来ます。ちょうど三日後に郵送手配させるようにしていただければちょうどよく届くと思いますよ」
「そんなに早いのか。優秀なんだな」
「ありがとうございます。それでは、差し引いて金貨二枚でよろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ」
話を終えると、タイミングを見計らったように黒服が入ってくる。
黒服は話を聞いていたかのように机に二枚の金貨を置いた。出て行ったときには五枚と言われていたのにも関わらず、いろいろな意味で優秀なボディーガードであるとユウヒは感心した。
「確認した、ありがとう。《一角龍の角》は今度持ってくるよ」
「畏まりました、お待ちしております」
無事に商談を終えたユウヒ達はそのまま商人の家を後にした。