ギルドへと到着したユウヒ。朝に依頼を三つ受注し、昼食後に依頼報告をするのがいつものことだった。
ユウヒはギルド内へと入り、窓口へと向かう。前までは見下すような視線を感じることが多かったが、今では依頼を三つ終わらせて来る子供として有名である。名前もディアルがつけたクロというのが浸透しており、クロが来たぞという声がたまに聞こえる。
窓口に到着すると、いつも通りコトハが顔を出してきた。
「今日はいつもより遅いのですね。今日のお薦めの依頼は――」
「いや、今日は依頼を受けに来たんじゃないよ」
コトハの言葉を途中で遮るように否定する。
「今日はコトハに会いに来ただけだよ」
「それはデートのお誘いですか?」
「茶化すな。ほら、昨日帰りが遅くなったから心配したって言ってただろ? 今日は依頼受ける予定じゃなかったけど、心配すると思って顔を出しに来たんだ」
「たったそれだけのために……?」
「そうだが?」
「ふふっ、律儀なんですね」
ユウヒの行動に驚きを見せるものの、嬉しさの方が勝っているようであり笑顔を見せるコトハ。
「クロさんはこの後何か予定ありますか?」
「いや、一時間から二時間ほど空いてるよ」
「それでは、ギルドの依頼ではなく、私の依頼を受けてくれませんか?」
「どうした?」
「私今日はもうお仕事終わりなんです。買い物行きたいんですが、ボディーガードになってくれないでしょうか? 依頼報酬は私の好感度ということで」
「デートのお誘いか?」
「もう……そうですよ!」
ユウヒが茶化し返すように言うと、頬を赤く染めて認めるコトハ。
確かにボディーガードとしてなら、ユウヒ以上に一緒にいて心強い人などいないだろうが、コトハはユウヒの実力を知らない。
純粋にユウヒをデートに誘っているのだろうが、コトハの年齢は十八才であり、年齢差は十三と結構離れている。コトハもそれを理解した上で誘っているのだろう。
「そのお誘い受けるよ。ギルド前で待ってればいいかな?」
「はい、ありがとうございます。着替えたらすぐに向かいますね」
言った通りにギルド前で待機するユウヒ。
「デート――か……」
ユウヒはそう呟いた。
ユウヒの前世の年齢は十八歳である。コトハも今は十八才であり、ちょっと複雑な気持ちになっていた。
前世では色恋沙汰とは無縁の性格であり、同年代の子とデートしたことがない。女の子と出かけるといっても、一歳年下の妹か同い年の幼馴染のどちらかである。
少なくともユウヒにとっては、妹は家族で幼馴染もそのようなものであるため、女の子として見たことはなかった。初めての家族以外の人と出かける事になったな――そのようなことを考えていると、ギルドからコトハが出てきた。
「お待たせしました!」
「いや、大丈夫だよ」
どうやら急いできたようであり、少しだけ息を乱していた。
走ったことにより綺麗な茶色の髪が少しぼさぼさになってしまっていた。手グシで髪を整えつつも息を整えている。
白いワイシャツのような服は、どことなく前世の制服を思い出させる。
ワイシャツは大きすぎず小さすぎない美しい胸を沿うようにかたどり、わずかに胸を強調させているように感じさせる服装だ。しかし、いやらしさは全く感じない。
赤いミニスカートをはいており、全体的に落ち着いた雰囲気のあるファッションだ。
「ギルドの制服もいいけど、私服姿も綺麗だね」
「え!? あ、ありがとうございます……」
突然褒められた事に対して驚くコトハ。
ユウヒは狙って言っているわけではなく、完全無自覚である。前世で妹か幼馴染と出かけるたびに服がどうとかと聞かれていたため、褒める事が癖になっているようだ。
「買い物だっけ? 行きたい場所あるの?」
「え、えっと、アクセサリーを見たいなって思いまして、特にこれっていう店は決まってないんですけど」
ユウヒはアクセサリー店と言われ、先程アイリスと買い物した時の事を思い出す。
先程は綺麗だなと一瞬目に入っただけで、大して目的がなかったため行かなかった店があった。
「アクセサリーか。よさそうな店知ってるけど、そこでいいかな?」
「クロさんのお薦めの店ですか……とりあえずそこでお願いします!」
「それじゃあ、行こうか」
ユウヒとコトハはアクセサリー店へと向けて歩き出した。
コトハの身長は百六十程であるが、それに対して今のユウヒの身長は百十程。傍から見れば、怪しい恰好をしている弟を連れている姉の図である。
カップルと言う言葉よりも姉弟という言葉が似合いそうな二人である。
「そういえばクロさんは何で一日依頼を三つこなすんですか?」
「最低三つって決めてるだけだよ」
「いやいや、普通の人は自分のレベルにあった依頼を一つこなすだけでも一日かかりますよ?」
「そうなのか? 目立たないように三つだけにしてたんだが」
「その口ぶりで言うとまだまだできるみたいな言い方ですけど?」
「今のレベルだったら五つでも余裕だと思うよ。あ、この事は内緒な?」
「本当に五歳ですか、年齢偽ってません?」
「そんな事ないって、どっからどう見ても五歳児」
あまりの依頼レベルの低さに他の人も一日何個もこなせるものだと思っていたユウヒ。一日三つこなしていただけでも噂になるのはそういう事だった。
このように軽い雑談を混ぜつつ、アクセサリー店へと到着した。
「ついたぞ、ここだ」
「こ、ここは……」
「どうした?」
「王都一人気のアクセサリー店ですよ!」
「パッと見で綺麗だと思ったんだが、王都で一番なのか」
「はい……流石に私の財布では手が届きません」
「でも、一応来たことだし。見ていくだけ見ていかないか?」
「んー、冷やかしだと思われないか心配ですが、この機会ですので入ってみましょう」
覚悟を決めたコトハは入店することにした。
今のユウヒだけでは間違いなく冷やかしに来たと思われるが、コトハは貴族だと言われれば信じてしまう程の容姿であるため、決して冷やかしに来たとなんて思われないだろう。
店へと入ると、そこら中が輝いているかのようにキラキラと光っていた。女の子はこういうもの好きそうだなとユウヒは思いつつコトハに視線を向けると、周りのアクセサリーと同じく目を輝かせていた。
ゆっくりと歩き、店内を回りだすコトハ。綺麗なデザインから可愛いデザインまで、いろいろなアクセサリーが広がっており、あれもいいこれもいいと目移りしてしまうコトハ。
それを微笑ましく見守るユウヒという絵だが、年齢的を考えると本来は逆の立ち位置ではないだろうか。
はしゃぐように見回っていたコトハだが、ある一つのアクセサリーの前へと来ると急に足を止めた。
ブレスレットであり、他のアクセサリーに比べればキラキラしていない。どちらかと言ったら落ち着いた雰囲気のブレスレット――コトハにとても似合いそうだ。しかし、コトハはその値段を見た途端、ガッカリとしたように肩を落とした。
ブレスレットの値段は銀貨五枚――コトハには手が出せない程の値段だ。コトハはガッカリしつつもその場から立ち去ろうとする。
「これをくれ」
突然ユウヒの発した言葉に振り返るコトハ。ユウヒは先程までコトハが見ていたブレスレットを指していた。
店員はユウヒに気付いたようであり、ケースからブレスレットを取り出す。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「それだ」
「銀貨五枚になります」
ユウヒは銀貨五枚を店員に渡し、ブレスレットを受け取った。
「コトハ、付けて」
「え……?」
「コトハに似合いそうだから買ったんだ。つけてくれなきゃ捨てるぞ?」
「は、はい!」
ユウヒが投げ捨てるような素振りをすると、それを止めるようにユウヒの手から急いでブレスレットを取る。
ユウヒの言われた通りに左腕に付けるコトハ。自分の腕につけられているブレスレットから視線は離れず、目前で起こった出来事が信じられていないようだ。
「やっぱり似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます。一生大切にします……」
「それじゃあ、目的のアクセサリーも買えたし。そろそろ出ようか」
ブレスレットのついた左手首を軽く握りながら泣きそうになるコトハ。
ユウヒは買ってよかったなと思い、その姿を見ていた。
アクセサリー店から出たユウヒとコトハだが、コトハのお腹から音がなってしまった。コトハは恥ずかしそうに頬を赤らめる。
ユウヒは昼食を済ませたが、コトハはギルドで働いていたため何も食べていないのだ。お腹が空くのも当然だろう。気付いてあげるべきだったと少し反省するユウヒ。
丁度良く目の前に屋台のような店が見える。屋台には絵が書いてあり、それはユウヒの前世であったホットドッグに似ていた。
「コトハ、あれ食べられるか?」
「はい、大丈夫です」
「買ってくるから待ってて」
ユウヒはそう言うと、コトハを置いて屋台へと向かった。日本にあった屋台と同じような作りであり、仮設感がある屋台だ。
お肉のいい匂いを漂わせ、ユウヒは昼食を食べた後にも関わらず食欲が沸いてきた。
「二つくれ」
「はいよっ、銅貨二枚だ」
あらかじめ用意してあったようであり、ホットドッグのようなものが二つ小包に入れて渡される。ユウヒは銅貨を二枚渡すと、コトハのところに戻ることにした。
コトハのところに戻ろうとしたユウヒだが、コトハが誰かに絡まれているようであった。コトハの周りにいる男は三人。どこか見たことのある三人組――いや、あれは確かユウヒがストレス解消用に懲らしめたことのある三人だ。
ユウヒはため息をつきながらも、コトハに近付いた。
「ねえ、俺の女に何か用かな?」
「はぁ? こいつらは俺たちが狙――――あっ!!」
ユウヒの言葉に振り返る一人の男。
威勢がよかったのはユウヒの姿を見る前だけであり、ユウヒの姿を見た途端に両手で口を抑える。
「もう一度聞く。俺の女に何か用か?」
「そ、そそ、その……な、何でもございません――失礼致しましたああ!」
男三人組は一斉に駆け出した。どうやらこの前の恐怖をまだ忘れていないようである。
コトハはその逃げていく男三人を見て唖然としていた。
「コトハ、大丈夫か?」
「は、はい……でも何で逃げ出したんでしょうか?」
「さあな、トイレにでも行きたくなったんじゃないか?」
ユウヒはこの前の出来事の事はあえて黙っておくことにした。
その言葉を聞いたコトハはクスクスと笑っていた。
「ほら、買ってきたぞ」
「わぁ! ありがとうございますー!」
ユウヒは小包に入ったホットドッグのような物を渡すと、コトハはすぐに頬張り始めた。
ユウヒ達は軽い雑談をしながら食べ終える。
「――――っと……そろそろ時間かな」
コトハとデートを始めてから一時間程度経過した。
そろそろアイリスを迎えに行けなければならないと思ったユウヒは別れの話を切り出す。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです!」
「ああ、いろいろな話出来て俺も楽しかったよ。家まで送って行かなくて大丈夫なのか?」
「流石に申し訳ないですし……あの、またデートしてくれますか?」
「ああ、機会があったらしような」
「はい! それでは失礼しますね!」
またデートする約束を取り付けたコトハは小走りで帰って行った。
ユウヒも踵を返し、そろそろ喫茶店リアルに向かうことにした。アイリスを置いてきてから大体二時間程度経つため、そろそろいい時間だと思ったのだろう。
現在地から喫茶店リアルまで少々距離が離れていたため、誰もいないところに移動した後、喫茶店リアルの近くまで転移する。便利な魔法ではあるが、隠れてしなければならないのが面倒なところだ。
ユウヒは喫茶店リアルのドアを開け、中へと入る。
「シロ、迎えに来たぞ」
ユウヒの声に気付いたアイリスが店の奥からやってきた。
「おかえりなさいませ、クロ様」
「ちゃんとやっていたか?」
「はい、頑張って練習してました」
「そうか、偉いぞ」
ユウヒはフード越しに頭の上に手を乗せる。
アイリスに続いて、アンも奥の方からやってきた。
「ちょっとクロさん。シロちゃん一回教えただけでできるって、お父様が絶賛してましたよ」
「ほう、それは凄いな」
ご褒美としてもう少しの間だけ撫で続けるユウヒ。
アイリスの事をちゃん付けで呼んでいるという事はこの時間でそれ程の関係になれたということだろう。
知人が増えるだけでそれだけでもプラスになる事だ。この調子でどんどんと交流を広げてほしいものだ。
「それじゃあ帰るか。今日はありがとうございましたって伝えといてくれ」
「多分聞こえてると思いますよ。シロちゃんに明日も練習しないかってお父様言ってましたけど、クロ様に聞いてみないとって……」
「シロは練習したいか?」
「したいです! クロ様に美味しいご飯を作ってあげたいです」
「そうか。宿屋も向かい側にあるし、家が出来るまでは夜までやっても大丈夫だぞ」
「ありがとうございます!」
「今日はまだ練習続けたいか?」
「はい、できるなら練習したいです」
「分かった、頑張って練習しなさい。俺は帰るから、また明日な」
「はい! おやすみなさい!」
アイリスと別れを告げ、ユウヒはべルフ村のシルフォード家へと戻った。
その後はいつも通りにお風呂へと入り、晩飯を済ませ、ゆっくりと眠りにつくユウヒであった。