転生先は異世界―あ、これチートだわ―   作:Anonyme

19 / 19
18.一角龍の元へ

 シルフォード家、ユウヒの部屋――時刻は午前六時を回ろうとしている。

 気温は二十度程であり、雲一つのない青空が澄み渡っている。その空に浮かぶ太陽はこの世界の光源である。

 そよそよと風が吹き、草木を揺らして心地の良い音を奏でる。

 田舎に建てられたシルフォード家。最寄りの家でも二十メートル程度離れている場所に建てられており、そちらの生活音が届くことはないだろう。

 ユウヒの部屋を照らすランプは消灯されている。本来は窓を通じて差し込んでくるはずの光はカーテンで遮られており、ユウヒの部屋は暗闇に包まれていた。

そんな最高の環境の中で睡眠を取っているユウヒである。

 

 しかし、窓を半分程開けていたためだろう――そよ風がカーテンをひらりと(なび)かせる。カーテンで遮られていたはずの光が部屋へと入り込み、一筋の光がユウヒの目を射した。

 (まぶた)を閉じて快眠していたユウヒであったが、視界が暖かな白い光に包まれ、ゆっくりと目を覚ますことになる。

転生されてから約五年、変わることのない天井が視界に映る。

 

 

「朝――か……」

 

 

 部屋にはユウヒ一人だけであり、その他の影は見当たらない。ユウヒの言葉を誰かが聞いているはずもなく、意味もなく呟いただけの独り言である。

 ユウヒは昨日のことを思い出す。アイリスと家具を買いに行った後に、コトハとアクセサリー店でデートをした事――なかなかに充実とした生活だ。

 この五年間は強くなることしか考えずに生きてきたユウヒ。今まで遊ぶことなく過ごしてきたユウヒにとって、昨日の出来事はとても新鮮な事である。

 

 アイリスと出会って今日で三日目となる。商人(いわ)く、新しい家は明日完成する予定だ。そろそろ一角龍の角とやらを取りに行くのにいい頃合いだろう。

 そう決めたユウヒは早速行動するべきだと感じ、身体を起こし始めた。

 ユウヒの部屋は二階にあり、家族が集まっている一階のリビングへと向かうために階段を下る。リビングへと向かう前に洗面所へと向かい、顔を洗い流し目をスッキリとさせる。

 リビングへと入ると、父親のシンに母親のアリア、メイドのリアの三人がいつも通り揃っていた。

 

 

「父上、母上。おはようございます」

 

 

 ユウヒのその言葉に対して、三者はそれぞれ挨拶を返した。

 タイミング良く朝食が出来たようであり、テーブルの上には食事が並んでいる。朝食は活力の源だと言われているため、欠かさずに接種する事にしている。

 食べ始めると、父親のシンが話を始めた。

 

 

「ユウヒ、俺とアリアは明日まで帰ってこれないかもしれない。メイドのリアが一緒だが、ちゃんとお留守番できるか?」

「何かあったのですか?」

「家の裏をずっと進んだところに大きな山があるだろ? そこに一角龍っていう龍種の住処が発見されたんだ」

「い、一角龍ですか……」

 

 

 シンの言葉に戸惑いの声を上げるユウヒ。

本日の目的と設定したモンスターの名前が出てきたからである。まさか実家のすぐそこに生息しているとは思っても見なかった。

 ユウヒの声が龍種を怯えているような声に聞こえたのだろう。シンはユウヒの頭を撫で始めた。

 

 

「心配すんなって、俺たちがサクッと討伐してきてやるからな」

「大丈夫よユウヒ。家でちゃんとお留守番しててね?」

「分かりました。二人のお帰りをお待ちしております」

 

 

 ユウヒは二人が一角龍には勝てないことを確信していた。それは本人達も自分達がこの戦いで死ぬかもしれないという事に気付いているだろう。

 しかし、この二人はこの街では一番の実力を持っている。例え勝てないと、死ぬ事を確信していても行かなければならない。全ては街を守るために。

 

 シン達は朝食を食べ終わると、各自準備に取り掛かった。

 シンは今まで扱ってきた愛用の剣を腰に携えている。毎日欠かさずに磨いている剣であり、今までどれだけのモンスターを斬ってきただろうか。

 アリアは杖を片手に持ち、動きやすそうな服にマントを羽織る。杖には魔法の攻撃力を上げるアビリティがついている。

 二人は準備を整えると玄関へと向かい、ユウヒとリアはその姿を見送る。

 

 

「行ってくる」

「行ってらっしゃい、父上」

「ちゃんとご飯食べるのよ、ユウヒ」

「分かっています、母上」

 

 

 ユウヒに声をかけた後に二人の視線はリアへと移る。

 言葉がないわけではなく、むしろ言いたいことが山ほどあるだろう。リアはあえて何も口に出さなかった。ただシン達へと向けて、深く頭を下げ始める。

 それと見たシン達は無言で踵を返し、何も言わずに家を出た。

 扉が閉まる音が聞こえるまで顔を上げなかったリア。しかし、再び上げたリアの顔はどことなく笑っているような気がした。

 

 

「それじゃあ、俺もちょっと出かけてくる。家を任せた」

「畏まりました、お気をつけて」

 

 

 ユウヒにのんびりとしている暇はなかった。

 すぐにでも両親の後を追いたいユウヒであるが、まずはアイリスのところに向かわなければならない。今回は止むを得ないと考えたのか、アイリスの部屋へと直接転移する。

 

 

「ユ、ユウヒ様……?」

「よう、ちょっと今は時間ないんだ。俺は今から一角龍を狩りに行く。明日まで会えないから、今日はずっと喫茶店リアルのお世話になってもらえ」

「分かりました、行ってらっしゃいませ」

 

 

 要件を伝え終わったユウヒは昼飯代にと銀貨一枚を机に置いた。

 漆黒のマントを羽織り、クロとしての活動を始める。ユウヒは転移魔法を使い、再びベルフ村へと戻った。忽然と姿を消すユウヒに戸惑うアイリスであった。

 

 

 ベルフ村へと戻ったユウヒはシンとアリアの姿を見つける。

 山には一角龍以外にも危険なモンスターが生息している。シン達なら大丈夫だとは思うが、念のためユウヒも付いていた方が安心だろう。

 ユウヒは自分の気配を殺し、魔力を最大限まで抑える。こうして、尾行が始まった。

 

 どうやら、山のふもとまでは馬車で移動するようであり、二人とも馬車に乗り込む。

 山のふもとまで馬車で五分くらいの距離だろう。一角龍前のウォーミングアップにはなるだろうと、ユウヒは走ってついていくことにした。

 走り出す馬車の後を楽々と追うユウヒ。身体強化魔法などは使っておらず、ユウヒ自身の身体能力でこれだ。ユウヒを人間という枠にはめていいのだろうか。

 

 

 何の問題もなく、山のふもとへと到着するシン達。

 馬車を運転していた男にお礼を言い、山の頂上へと視線を向ける。その表情から先程ユウヒに見せていた笑顔は無くなっている。剣士と魔術師として、この村を守り続ける勇者だ。

 

 

「それじゃあ行くか、アリア」

 

 

 アリアはその問いに無言で頷く。一角龍と対峙していないのにも関わらず、息が止まりそうな程の緊迫した空気だ。ユウヒは影からその姿を見守っていた。

 山へと入ると、五分もしない程度のところでモンスターと遭遇する。この山に生息するモンスターならシン達の敵ではないだろう。シンが前衛で敵のターゲットを取り、アリアがその隙に魔法を放つ――これが二人の戦い方である。

しかし、今回はいつもとは違い、ここでアリアの魔法を使ってはいけない。なぜならば、シンの魔法では一角龍には攻撃が通らないのだ。龍種には上級魔法しか攻撃が通らず、中級以下の魔法は無効化されるように弾かれてしまうのだ。

二人もその事は理解しているらしい。アリアをできるだけ温存するために、シンの剣技だけでモンスターを薙ぎ払っていく。シンの負担は大きくなるが、頑張ってもらうしかなさそうである。

 

 

「はぁっ! せいっ!!」

 

 

 掛け声と共にモンスターを両断するシン。中級剣士ということもあり、太刀筋がとても綺麗だ。

山を進むたびにシンの討伐数は増えていく。この山には行ったことがあるらしく、過去の経験から各モンスターの対処法は知っているようだった。

しかし、いくら対処法が知っていようが、この山に生息するモンスターはなかなか手強い。シンが手を抜いて勝てる相手ではないのに加え、全力で連戦できるほど若くはない。

 休憩を挟みつつも、着実に山道を進んでいく。まだまだ先は長いのに加え、一角龍との戦いも控えている。アリアの攻撃しか通らないにしても、シンが何もせずに見ているなんて事はない。一角龍の注意を逸らしたり、アリアが魔法詠唱をしている間は守ったりしなければならないのだ。

今も全力で戦わなきゃいけないのにも関わらず、一角龍戦では今以上に頑張らなければならない。それがどれだけの事なのかは言わずとも分かるだろう。

 

 数を重ねていくと、シンに疲れの表情が見えてくる。最初は俊敏だった動きも徐々に衰えていき、ちょっとしたミスを連発してしまう。

 綺麗だった太刀筋が少しぶれてしまったり、幸い大きな怪我ではないが、周辺の注意不足で擦り傷を負ったりしていた。

 

 

「そろそろ昼食にしましょうか」

 

 

 半分登った程度でキリがいいと判断したのだろう。シンの戦いを見ていたアリアが休憩を取ろうと提案する。シンは何の反論もせずに軽く頷いた。

事前にリアから弁当を受け取っていたらしく、それを広げて食べ始める。時間もちょうど昼食時であり、食事を取るには丁度いい時間である。

 見ているだけで何もしていないユウヒであるが、ユウヒも一応人間であるためお腹を減らしていた。しかし、昼食をどうするか失念していたらしく、リアの手作り弁当を美味しそうにつまみ始めるシン達を羨ましそうに見ているだけである。何か悪い事をしたわけでもないのに、食事抜きの罰を受ける子供の図だ。

 喫茶店リアルに転移すれば食べられることもないが、その間にシン達に何かあれば目も当てられない状況になるだろう。ここは我慢するしかないユウヒであった。

 

 昼食を食べ終わり、再び歩を進めるシンとアリア。木陰に隠れながらも、ゆっくりとその背中を追う小さな影。

 少し長い休憩と腹ごしらえをしたことにより、シンの体力は回復している様子だった。昼食前に比べて動きが戻っており、山に入ってきたばかりのような太刀筋を見せる。

 ユウヒはその姿を見て一度はホッとするが、まだまだこれからが本番だろうと気持ちを引き締める。

 

 商人との取引のこともあるが、それよりも両親の無事を願っている。ユウヒはできる事なら自分なしで討伐してほしいと願っている。

 シン達も自分の息子が家で帰りを待っている事を忘れずに、大切な家族のために頑張っているのだ。死ななければいいという問題ではなく、大怪我をせずにもう一度ユウヒに会いたいと思っているだろう。

 

 頂上に近付くとともに、モンスターが強くなってきている。気温や酸素量の低下が動きを鈍らせる。それが無くとも厳しい戦いなのに、この状況下での一角龍戦はより厳しい状況となるだろう。

 一角龍の住処に近づくたびに緊張感が高まっていく。

 シン達は情報通りの目印を発見する。他の木とは少々形の異なった木が立っており、刃物で大きな傷がつけられた木だ。それを発見すると、山道から外れて木々へと入っていく。

 見失わないように気を付けながらユウヒも後を追った。

 

 

 目印から歩いて五分くらい経つと、大きな広間に繋がっていた。そこには大きな洞穴があり、どうやらそこが住処だろう。

 ユウヒは《索敵》を発動しているが、それに反応はない。しかし、洞穴から凄まじい気配を感じている。今までに感じたことのない威圧。その威圧にユウヒの身体は震え上がっていた。恐怖からではなく、今までにないくらいの強敵に武者震いをしているだけだ。

 

 洞穴を確認したシンとアリアは互いに視線を合わせ、両者は軽く頷いた。以心伝心――この二人に最も相応しい言葉だろう。

 

 

「それじゃあ、行こうかアリア」

「そうね、シン。無事に帰りましょう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。