次の日、ユウヒは一人で王都へやってきていた。
どうやってここまでたどり着いたかというと地図を見ながら、スキル《転移》を酷使しまくった結果、馬車で六時間かかる道を十分程度という短時間で移動することができた。
しかし、次からは一瞬で来れるようになるだろう。
それに加え、王都には高さ三十メートル程の城壁があり、いくつか門が設置されている。その門から入るには身分証明書が必須であり、それが正規の入り方である。田舎貴族であるためその身分証明書を持っているユウヒであるが、シルフォード家という名で行動することは避けたかった。両親にここに来たことが知られてしまう可能性があるためだ。
ならどうして入る事ができたのかと聞かれたらそんな事は簡単だ。一度自分の身体を城壁より高い場所へ転移させ、街を視界に収めた後もう一度転移する。これで不法入国の完成だ。
なぜ王都に訪れたかというとギルドに冒険者登録をしにやってきた。五歳から冒険者登録をすることができ、冒険者になるとギルドから依頼を受けることができる。
依頼の難易度によって報酬を獲得することができ、冒険者のランクが上がれば上がる程に特典があるということだ。地球の日本で言う資格みたいなものと同じだ。
別に良い武器を作ってそれを売るだけで金は稼げるのだろうが、自分の強さはどれくらいかと測るために冒険者登録をしにきたのだ。
ギルドに行く前にまず商人の元へと向かう。冒険者登録するには銀貨一枚が必要となるのだ。下から銅貨、銀貨、金貨とある。銅貨百枚で銀貨一枚分の価値があり、銀貨も同じである。一般水準の家庭、四人家族の月銀貨二枚の消費が平均的である。
貴族の家なら銅貨五枚くらいなら何とかなるだろうが、シン達に冒険者登録するとは言いずらいため、今回は自分でお金を稼ぐことにした。
商人の家の前へと付き、一番初めにやることは変装である。流石に容姿は変えられないが顔を見られるのは何かと厄介だ。第一子供が商売相手じゃ、あちらも少し疑問に思うだろうが仕方ない。
ユウヒはあらかじめ作っておいたマスクを異空間から取り出す。口と鼻が隠れる程の黒いマスクであり、フード付きの黒いマントを羽織っているため髪もほとんど見えない状況だ。フードを深く被りマスクをつける。
ユウヒは商人の家の戸を叩く。すると、すぐに商人と思われる者が顔を出してきた。ユウヒの姿を見るなり少し動揺した顔をしたが、すぐにポーカーフェイスを演じ始める。
「何か御用でしょうか?」
「買ってほしいものがある」
「ほう、それでは中へどうぞ」
子供だからと断れるものだと思ったが、この商人はそんな事をしないらしい。そのおかげでスムーズに事が進んでいるわけだから文句も言えない。
家の中へと案内され、客間へと到着する。窓はカーテンで閉ざされており、外から見られる心配はないだろう。
「どうぞお掛けください」
「失礼する」
客間は二人用のソファー二つが向かい合わせに設置されており、その間にはソファーに対して丁度いい高さの細長い机が設置されている。他に目立った家具がない事から、商談用の部屋ということだろう。
商人の横には黒服を纏い、刀を腰に携えてた人が立っている。殺気は感じない事からボディーガードのために置いている事とユウヒは判断した。
「それで、今回はどのようなご用件で?」
「こちらの剣を見てほしい」
ユウヒは異空間から一本の剣を取り出す。その取り出す光景に少し驚く商人だがすぐにポーカーフェイスへと戻す。
この剣は今朝ユウヒが鍛え上げたものだ。切れ味など剣自体の出来は勿論であるが、装備にはアビリティというものが付与されており、そちらも重要視される。今回付与した効果は、《不壊》と《切れ味強化》の二つである。
《不壊》を持っているだけでも一生物の剣であるため価値がつくのだが、それに加え《切れ味強化》もついているダブルアビリティ以上の剣は価格がより跳ね上がる。
商人はその剣を鑑定で目を通すと感心したかのような声を上げる。
「ほほう、これは結構なお手前で。この剣のみでよろしいでしょうか?」
「ああ、交渉に移ろう」
「そうですね……銀貨五枚なんていかがでしょうか?」
「冗談はよしてくれ、別に俺は別にところで売っても構わないんだぞ」
ユウヒにも全く情報ないわけではない。シンから剣の価格ついても教わっている。ダブルアビリティという時点で銀貨三十枚以上の価値はあり、それに加え《不壊》持ちであるため五十枚程度は行くだろう。
「申し訳ない、それはやめていただきたいものですね。銀貨三十枚でいかがでしょうか?」
「ダブルアビリティだ、銀貨七十枚」
「そちらこそ冗談はやめてください。いくらダブルアビリティでも銀貨四十枚です」
「アビリティ《不壊》だ、銀貨六十枚」
「こちらも損得考える商人、儲けが出なければ動きません。銀貨五十枚」
「そんなとこか、手を打とう」
そんなやり取りを繰り返し、予想通り銀貨五十枚で手を打つことにした。銀貨五十枚もあれば当分は稼ぎがなくても平気であろう。冒険者になることによって依頼による報酬はもらえるであろうが、ランクの低い依頼のためそこまで稼ぎにならないのは目に見えてる。
商人は持ってこさせましょうというと、隣にいた黒服に視線を配る。そうすると黒服は商談部屋から出ていく。
「それにしてもこれ程の品、どこで手に入れましたか?」
「独自のルートからとだけ言っておこうか」
「なるほど、よろしければ今後とも私をお使いいただけますか?」
「考えておこう」
商人は独自のルートと深追いすることなく納得する。深追いしすぎると面倒だと思われ、次の機会が無くなるかもしれないと察したのだろう。商人としても良品を持ってくる取引相手を失ったり、その良品が他の場所に行かれるのは困るということだ。
話がちょうど途切れたところで黒服の男が銀貨が入っていると思われる袋を持ってきた。ユウヒはその場で銀貨を机の上で広げ、一枚ずつ丁寧に数え始める。別に疑っているわけではなく、この行為があるかないかだけで今後の関係が変わっていくということだ。
ユウヒはきっちり五十枚ある事を確認した上で袋に戻し、異空間へと銀貨を収納した。
「本日は良い商談をありがとうございました」
「ああ、こちらこそありがとう」
互いにとっていい商談をしたようであり、どちらも満足しているようだ。
ユウヒは商人の家を後にした。