商人の家を後にしたユウヒはそのままギルドへと向かうことにした。顔を隠したままであり、すれ違う人にたまに見られるが、あまり気にしていない様子ですぐに視界を自分の進行方向へと戻していた。
周りにもフードを深く被って顔を隠している者は多いが、小さな子供なのにその行為をやっていることが滑稽に見えるのだろう。
王都は城を中心とし、北と東に住民区や喫茶店に飲食店、西と南に商業区やギルドに酒場などといった感じだ。
ギルドの前につき、扉に手をかける。物怖じせずに扉を開け、ギルド内へと入るとユウヒに視線が集中するのが分かる。ほとんどの者が嘲笑うかのような視線であり、中には好奇心の目を向けている者もいた。
ギルド内は左側には集会場のように机と椅子が何個も並べてあり、冒険者と思われる剣や杖を持った人々が集まっている。普通に雑談している者から、まだ昼なのに酒を煽っているものなどさまざまだ。
右側には掲示板があり、いくつも紙が張り出されている。どうやら緊急依頼用の掲示板であり、基本的にはそれなりに自身のある冒険者用のクエストが貼り出されている。普通のクエストは窓口を通して受注することができる。
奥には銀行と同じように窓口がいくつもあり、左から冒険者窓口、混雑回避用に依頼受注窓口が三つ、素材売買窓口二つとなっている。日本でよく見る銀行を木造建築に変えた感じだ。
冒険者窓口では新規登録やパーティー登録。
依頼受注窓口では自分のランクに適した以来の受注。
素材売買窓口では採集や討伐依頼時に獲得したアイテムを余りを売ったり、傷薬やポーションなどのアイテムを買う事ができる。
ユウヒはさまざまな視線に見られながらも冒険者窓口の前へ立った。
「冒険者登録をしに来たんだが」
「はい。では、こちらにご記入と銀貨一枚をお願い致します」
ユウヒが窓口に到着して冒険者登録をに来たことを伝えると、窓口の女性は冒険者新規登録用紙を用意していたのかすぐに出してきた。
五歳で冒険者登録をすることは非常に珍しい事だが、人それぞれ何かと都合はある。それに窓口の女性はこういうのを気にしないタイプなのだろう。どちらにせよ無駄に話す必要がないため助かると思ったユウヒである。
用紙には名前、年齢、武器、適正属性を書く欄があったが、名前を書くのは少し懸念している。もしかしたら冒険者登録しているシン達にもばれてしまう可能性があるためだ。
「ここの名前は書かなければいけないのか?」
「いいえ、冒険者登録する方には名前のない人も存在しますので、無記入でも偽名でも構いません」
その後文字が書けますかと聞かれたが、問題ないと答えつつもスラスラと記入していく。名前は空欄、年齢は五歳と書き、武器は剣、適正属性は風。このように記入し、用紙と銀貨一枚を窓口の人に返す。
「ご記入ありがとうございます。次にこちらに手を置いてください」
目の前に置かれたのは大人の手のひらサイズの球体だ。現在のレベルと魔力量を測るものであり、これで測られたものがギルドカードに記載されるという仕組みである。
ギルドカードには、名前(無記入の場合は無記入)・冒険者ランク・レベル・魔力量が記載される。ギルドカードはランクが上がるごとに更新されていく。
これはステータスに応じて変動するため、ユウヒの変更されているステータスが表示されるから心配ない。ユウヒは小さな手を球体の上におくと、三秒程度でもう大丈夫ですよと言われて手を放した。
すぐさまギルドカードが発行され、窓口の女性がそれを渡してきた。ギルドカードに目を通すと、『ランク:F レベル:5 魔力量:100』と変更した通りに記載されていたため少しホッとしたユウヒである。
「これで冒険者登録は終了です。冒険者についての説明は致しますか?」
「お願いする」
「畏まりました。ランクにはSからFランクがあり、自分のランクに適した依頼を受注することが出来ます。勿論、ランクが上がるたびに依頼の難易度と報酬は上がっていきます。ギルドカードは身分証明書としても扱う事ができる他、ランクが高いほど顔が効く店もありますので、より高みを目指しましょう。また依頼受注中に起きましての死亡などが起こりましても、ギルドは責任を負う事はできません。受注依頼に関しましては隣の窓口へお願い致します」
「分かった、ありがとう」
隣の窓口へと足を運び、早速依頼を受けることにした。
冒険者登録とは別の女性が対応をしてくれるようだ。髪は茶色であり肩まで伸びている。胸は大きすぎず小さすぎず、なかなかの美女が対応してくれるようだ。相手は十八程度だろうが、ユウヒは今五歳だからな。
別に年齢が同じだったら口説こうとかは考えてないが、どことなく悲しい気持ちになったのは気のせいだろうか――ユウヒはそんなこと思いながらも、窓口にギルドカードを提出する。
「依頼を受けたいんだが」
「はい、こちらのランクであればこれらの依頼から選択できます」
依頼が書かれた用紙を数枚渡される。中にはもの運びや雑貨店の店番などの雑用、それとモンスター討伐ではゴブリンを倒す依頼があった。ユウヒはその中からゴブリン討伐の依頼を受けることにした。
ゴブリン討伐と書かれた用紙を提出すると、手続きが始まる。手続き自体は五秒程度で終わった。
「ゴブリン五体の討伐となります。討伐した証としてゴブリンの耳を剥ぎ取ってきてください。初依頼頑張ってくださいね!」
最後の言葉は窓口係としてではなく、この人自身の言葉だろう。
早速狩りに行くかと出口の方向へ振り向くと、そこにはユウヒよりはるかにでかい男が立っていた。とてつもなく嫌な予感がすると直感が告げる。
ユウヒはそいつを無視して回り込んで避けようとすると、避けようとした方向に移動してくる。これはワザトだなとすぐ察することが出来た。
「ここはガキの来る場所じゃねえぞ?」
「五歳からと決めつけたギルドに問い合わせてみてはいかがですか? ちょうどよく目の前に窓口があるじゃないですか」
「そんなに小さいのに五歳なのか? まだ生まれて一ヶ月くらいの赤ん坊かと思ったぜ」
巨体の男はそう言うと、大声で笑いを上げる。その光景を見た周囲の人からはユウヒに哀れみの眼を向けるか、男に同調して口角を上げている者ばかり。止めるという事はしてくれないようである。
ユウヒは溜息を吐きながらどうしてくれようかと考える。手っ取り早く狩りに行きたいが、この男が非常に邪魔である。もちろん吹っ飛ばしてから行くことも可能であるが、そこまで目立つ行動はしたくない。
男のステータスを見てみると、レベル20とたかが知れていた。スキルも面白味のないものばかりであり、正真正銘の雑魚である。
その時、丁度よくギルドへと入ってくるパーティーがいた。男二人に女二人の四人のパーティーだ。その人達が入ってくると周囲は沈黙し、口角を上げていた者は真顔へと戻る。
そのパーティーの先頭を歩いていたリーダーと思われる人が口を開ける。
「おっと、これはどういう状況だ?」
「どっからどう見てあの子絡まれてるでしょ」
「あ、やっぱり? いいタイミングで入っちゃったよ」
リーダー格の男はこんな状況にも関わらず能天気にそんな事をしゃべっていた。
赤髪の短髪であり、イケメンだ。腰に剣を携えてることから剣士という事が分かる。周りと比べて纏ってる空気が明らかに違う。ステータスを見なくても分かる強さだが、念のためステータスを覗き見るために《鑑定》を使用する。
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名前:ディアル
レベル:54
魔力量:5,000
スキル:
・鑑定
・直感
・無属性魔法Lv8
・火属性魔法Lv7
・剣Lv8
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他の三人もディアルという男に比べたら少々劣るが、強いと言っても差し支えのないレベルとステータスである。
入ってきた途端、周囲の空気が変わるという事はこのギルド内ではそれなりの地位を持っているという証拠だろう。
「それで、そこの図体のデカい男……何をしている?」
「な、何もしてねえよ。ただこのガキが迷ってたようだから教えてあげようとしてたんだよ」
「ほほう……そこのチビ。その話は本当か?」
「いいえ、ガキはここに来るなと脅されました」
「――と、言っているんだが?」
「は、はは……冗談だよ冗談」
デカい図体をした男は少し腰が引けていた。
これは本当にいい助け舟だと内心とても感謝しているユウヒである。
「次つまらない真似してみろ? 斬るぞ」
ディアルはそう言うと、殺気を男に放ちながら腰に携えた剣の柄を握って抜刀の構えを取る。図体のデカい男から汗がダラダラと流れ出してきており、その男はそそくさとギルドから逃げるように出て行った。
ディアルは溜息をつきながらユウヒへと近付いてきた。
「すまんなチビ。見る限り新人だろ?」
「はい、先程冒険者登録を済ませたところです」
「そうか、俺はディアルって言うんだ。後ろにいるのが俺のパーティーメンバーだ」
「助けてくださってありがとうございました。自分の名前はありません」
「なんだ、名無しか……んー、呼ぶ名前がないのは不便だから、今日からお前の名前はクロだ。よろしくな」
勝手に名前を決められた挙句、握手を催促してくるディアル。しかも、黒マントに黒マスクをつけているからという、全身真っ黒だからクロとか適当な名前付けだ。
ユウヒは助けてもらったのはいいんだが、何なんだこいつと思いながらマントの下から手を出して握り返した。
すると、ディアルがすぐさま手を振り解くように放した。おまけに驚愕の表情を浮かべている。握手を求めてきたと思ったら何なんだ。別にユウヒの手汗が半端ないとか、何か変なものがついていたとかではない。
「こいつはやべえな……助ける意味なかったんじゃねえのか?」
「さて、何の事でしょうかね。いろいろな意味で助かりましたよ」
ディアルの言葉に対して分からない振りをとるユウヒ。
ディアルという男は気付いてしまったのだ。目の前に存在する少年の圧倒的な強さに。
これもディアルのスキル《直感》のおかげである。具体的な強さは分からないものの、本来であれば見た瞬間にこいつはヤバいと感じる。しかし、ユウヒは《詐称》に加えて力を抑え付けているため、ディアルは手を握るまでそれを感じ取れなかった。
「冒険者っていう事は仲間だと思っていいのか?」
「ディアルさん達が敵対する行動を取らなければ争うつもりはありません」
ディアルの問いに対し、ユウヒは意地が悪い返し方をする。
ディアルはこのギルドで上位に君臨するパーティーのリーダーだが、今現在のユウヒ――たった五歳の子供と、自分のパーティー全員が対峙しても惨敗する事を確信していた。
「そりゃ気をつけなきゃいけないな……割と真面目に」
「この事は内緒にしていただけるとありがたいです」
「こちらとしてもクロとはいい関係を築いていきたいと思ってるからな。他言無用だ、約束しよう」
「お願い致します」
ユウヒは最後に頭を下げ、ギルドを後にした。
ユウヒがギルドから出ると共に、後ろにいたディアルの仲間がディアルに近付き異変に気付く。ディアルは今更ながらダラダラと汗が噴き出してきていた。
絶対的な強さを持ち、まだまだこれから伸びしろがある五歳。その存在がもし敵となれば恐怖としか言えない状況になるだろう。そんな事を考えると本当に味方でよかったと心の底から安心していた。
何故こんなにも汗をかいているのか周りの人間には知っているはずもない。