稗田六代目ノ隨筆   作:makamo

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2年半ほどぶりに2話を書いていると、長さ的にも1話に繋げた方がいい気がしたので1話に繋げます
2話は近いうちにあげたい。


稗田六代目ノ隨筆-壱

稗田阿夢。どうやら私は先代稗田阿子の生まれ変わり。つまり稗田家の六代目らしい。

私自身、そういった自覚はないが母に私の記憶でない別の記憶がある。と言うと、泣いて喜ばれすぐさまに改名し六代目ということになった。

代々稗田家は短命で、特に生まれ変わった者はそれ以上に短命らしい。

稗田の生まれ変わりの特徴として、見たものを忘れない程度の能力……つまり絶対記憶能力が備わっている。これは稗田阿一の頃からの物でこれも生まれ変わりの特徴として数えられる。

ただ前世の記憶については、全てを覚えてるわけではなく朧げに覚えているだけだ。

 

「はぁ……私も年なりに遊びたいなぁ」

 

右手で持っている進まない筆を見て、ため息混じりに言った。今年で齢10。普通ならば遊び盛りの年頃だ。だが、短命な私に遊んでいる時間など殆どなく、代々作成されている幻想郷縁起を書き上げなければならない。

しかもその後は、急ぎで結婚相手を探し、子孫を残さなければならない。さらに、来年の今頃には転生の準備を始めるという。とても忙しく決められた道を進む生涯。

それに加え、人里の代表としてお偉いさん同士の話し合いには顔を出し、時には妖怪との面談をしなければならない。とにかく忙しかった。

 

「妖怪の情報って言ってもこんなの書いても変わらないよ……」

 

今書いているのは人喰い妖怪についてだ。

しかし、この人喰い妖怪の姿を見たものはおらず、出会った者は例外なく食われていた。

 

「説明もなにも見た人がいないとねぇ……適当に書こうかな」

 

正直な話書くことがない。妖怪といえば姿を見るということは死に直結するものがほとんとで詳しいことが分からないのが当たり前だ。

先代の阿子は一冊の幻想郷縁起に18体もの妖怪の情報を書き綴っている。ちなみにその前の阿祇は16体。さらにその前は13体。……つまり先代より多く書かなければいけない風潮にある。もちろんそんなルールはないが。

ともかく今の私が先代の頃に書かれていなくて書けそうなものは、いまのところこの人喰い妖怪と、最近巷で話題の頭が飛ぶ妖怪だけだった。いざとなれば妖精でも書いて無理やり埋めるという手がある。

が、妖精など書くほど危険な種族でもないため、できれば書きたくない。緑髪の他の妖精とは比べ物にならぬ妖精もいるらしいが所詮妖精。その妖精を執筆をするのは本当に困った時の最終手段だ。

 

「頭が飛ぶ方はいいんだけど……どうしようかな。人喰い妖怪」

 

人々が求めているのは危険な妖怪の情報。頭が飛ぶだけで実害がないようなものは別にどちらでも良いと思っている者が大半だろう。

といってもこの本を読むものが両手で数えきれる程しかいないのだから要らぬ心配かもしれない。

一応先代の頃に比べると本というものか庶民にも読まれるようになったが、やはり一般的ではない。

第一に量産するには金と手間がかかる上、原本の扱いには稗田家の許可を取らなければならない。さらに、庶民が原本を見るためには稗田家が有する書庫への立ち入りを審査する必要がある。私は顔パスだけど。

そんなどうでもいいことはさておき、本題について考え直す。

 

「どうすればいいかな……天狗に同行を願う。いや、応じてくれないだろうな。といっても人間の用心棒だと妖怪相手には少々不安だし……やっぱり天狗にダメもとで頼んでみるとしますか」

 

天狗は妖怪の中でも数少ない人里に少数住んでいるのだ。妖怪の山と呼ばれる、天狗達が住む山からの人里の監視が目的が為、こちらと接触することは殆ど無いのだが、里の重要な話し合いには顔を出してくる。

私は筆を置き、その場を離れた。

 

 

 

 

太陽の位置が殆ど変わらぬうちに話はついた。

答えはNO。不可。無理。却下。

天狗は頑固なものだ。つくづくそう思った。

博麗の巫女へも頼もうと思ったが、神社まで無事たどり着けれるという保証は無いため諦めた。

私は気晴らし里の探索をしようと考え、また進まない筆を置いた。

 

 

人通りの多い中央通りへ向かう道中、普段見かけない不格好な家……いや、掘っ建て小屋だろうか?とにかく不格好な建物を見つけた。

建物に近づくと戸の横には寺子屋と書かれた板が置いてあった。

そうか。これが最近できた寺子屋というものなのか。

寺子屋とは勉強を教えるための建物なのだ。

しかし、この寺子屋は妖怪が行なっているもののため、生徒は一人もいないのが現実で、そもそも勉強などしても意味がないというものが世間一般の考えであった。

私以外の同年代は大体農作業の手伝いしてますしね。

そういった事情を知ってはいたが、なぜか私はその扉に手を伸ばし取っ手を掴んでいた。

 

「お邪魔しまーす……」

 

軋む音と共に重たい扉を開くと、中には粗末な机と、大きな木の板?が壁に貼ってあった。

中をキョロキョロ覗いていると奥から一人の女性がこちらへ来た。……おそらく妖怪だろうが。

 

 

「も、もしかして生徒希望者か!?」

 

青い服に身を纏い、青と白の二色が混じった、変わった色彩をもった長髪の女性は、目をキラキラと輝かせていた。

これが件の妖怪だろう。

 

「へ?え……?い、いやそうではない……」

「と、とにかく上がってください!」

 

私の声をかき消すかのように言って、半ば強引に用意してある座布団に座らされた。

座布団は部屋の中心にいくつか置いてありその前に2、3人が使えるであろう長机があった。ちょうど真ん中にに座ると、正面の謎の板がよく見えた。ただの木の板かと思っていたが、表面には何かを塗っているようだった。

板を観察している私を気にしてか、おどおどした様子で木の板を避けるように座った。

 

「え、えっと。私は上白沢慧音って言うんだ。えーとお前の名前は?」

「ひえ……アイムっていう名前です。漢字は愛情の愛に普通に夢です」

 

自慢ではないが稗田の性は人里ではそこそこ有名なので名乗らないことにし、念の為に偽名を使うことにした。

上白沢慧音と名乗った女性は続けて言った。

 

「そうか愛夢!えーと……そうそう!ここは勉強をしてその後の人生に役立てようって場所なんだ!」

 

この妖怪からは邪気といった類のものは感じ取れないが、警戒をするに越したことはない。

油断させてこちらをとって喰らうなど妖怪の常套手段なのだから。

 

「そうですか。いったいどのようなことを教えていただけるのですか?」

「歴史、数学、語学だ。とくに歴史を教えてやれるぞ!」

「歴史……ですか。歴史を学ぶことにどのような意義が見られるのかが分からないんですが?」

「過去を知ることにより、現在に生かすんだ。過去から学べることはとっても多い」

 

私自身、歴史に関することを仕事にしているのでなんとなく言いたいことは分かるが、喋り方にぎこちなさを感じる。

 

「生徒は他にいますか?」

「さ、最近できたばかりだからまだお前一人だ」

 

知らぬうちに塾生第1号にさせられている訳だが、私は話を続けた。

 

「本当に大丈夫なんですか?ここには妖怪がいるっていう噂を聞いたことがあるんですけど」

 

瞬間。慧音の顔はひきつったような笑みに変わった。

 

 

「な、なぁ……私の態度不自然に見えるか?」

「そうですね。どこからどう見ても私をとって喰らおうとするために誘い込んだ妖怪です。あっ、私を食べるなんて考えないでください。外に何人か待機させていますので、私が死んだ時点で博麗の巫女が動きます」

 

もちろん殆ど嘘だ。ただ、私が死ねば、それなりに調査が入るのであながち嘘でもない。

 

「そ、そうか。私は取って食おうとする気などないのだがな……」

 

見てわかるように落ち込みため息をついていた。

その様子を見ると少し可哀想に思えてきたが、私ができる事はない。

 

「つまり愛夢は私の様子を見るように大人に頼まれたのか」

 

特にそういった訳ではないが、首を縦に振った。

 

「どうしてこんなにも疑われるんだ……私はただ善意でしているだけなのに」

 

信頼感。捕食するものと捕食される物である妖怪と人間の間にできるはずのないものである。

うなだれる慧音を尻目に立ち去ろうとした瞬間、頭の中に一つの妙案が思いついた。

 

「ねぇ慧音さん。里の用心棒してみない?」

 

「…………へ?」

 

困惑する慧音に対して、説明を続ける。

 

「あなたのことは私がなんとかしてあげる!それに用心棒をすれば里から貴方に対する偏見も無くなるはずです!あ、あと勉強を教えることだって……!」

 

 

 

私の提案に対し一瞬嬉しそうな表情を浮かべたものの戸惑う慧音。私自身なぜこのような提案を思いついたのか分からないのだから当然だろう。

妖怪と人間。同じ場に居るものとしてはアンバランスな2人の間に沈黙が訪れる。

そして鶏が2度鳴いたくらいか時間が経った刻、妖怪が沈黙を破った。

 

「え、えと、提案は嬉しいんだがな……あの、その、愛夢は怖くないのか?」

「…………」

 

妖怪からの問いかけに私は答えられなかった。

怖くないわけがない。

この妖怪が私を襲わないという保証はない。

嘘がバレた途端食べられるかもしれない。

もしかしたらそのうち裏切るかもしれない。

沈黙は答えなり。髪に隠れて僅かに見える肩がしゅんと沈んだ様に感じた。

 

「うん……そうだな。アイムありがとう」

「……!」

「私のために気を使ってくれたんだな」

 

 

慧音は作った様に笑顔を浮かべ私の頭をポンポンと撫でる様に叩く。

私は言葉が出ない。

 

「ほら、ずっとこの中にいると親御さんが心配しちゃうぞ」

 

慧音は困惑している私をくるりと出口の方へ向け、背中を押した。

 

「やっぱり妖怪と人間は共存できないものなんだな……」

 

ぴしゃり。

 

私は外にいた。

 

戸を閉める直前の言葉に私は何も言えなかった。

 

慧音の言葉は正しい。

 

そう思ったからだ。

 

……あぁ、そうか。よく考えなくてもわかることだ。私のような容姿で、里に意見できる立場にいるなどと言っても俄かに信じられないだろう。

だから、慧音にとってこの提案は、『子どもが気を使ってくれた』様に感じたに違いない。

……これは願望だ。慧音が私の提案を初めに聞いた時の表情は嬉しそうだった。

きっと、私が答えられなかったからこの様に思われたに違いない。

 

私は歩く。進まない筆を進める為に屋敷に戻ることにした。

 

そして次の日、私はまたあの寺子屋を訪れた。

だが慧音はいなくなっていた。

いや、もしかするといたのかもしれないが、戸に貼ってあった閉業という文字を見て入る勇気をなくしてしまったのだ。

あの時私が……。

 

今日も進まない筆を進めることにしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




私の能力は見たものを忘れない程度の能力。
この能力を持ってしても、黄泉の国のことはさっぱり覚えてはいないし、先代での記憶は霞む程度にしかない。
そもそもこの能力のせいで短命ってのもあるけれど。

私、稗田阿求はある書物を探していた。
三代前の御先祖様、稗田阿夢の書いた幻想郷縁起だ。
恥ずかしながら、昨晩何者かによって盗まれてしまったらしい。博麗の巫女や魔理沙さんにも声をかけているので時期に解決するだろうが不安は不安だ。
貸本屋に売られたのではないか?と、思い小鈴にも声をかけたが、そういったことはなかったらしい。

さらにおかしな話だが、私はその幻想郷縁起の内容を思い出せない。生まれ変わる前の前に書いたもの。さらに言うと、転生後一度先代の幻想郷縁起は全て目を通したはずだ。
見たものを思い出せないなど、普通の人からすれば当たり前なのだろうが、私は初めての経験でとても困惑している。


あぁ……何事もなければいいのだけれど
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