今日の俺は超ハッピーだった。
ようやくできた彼女、夕麻ちゃんとの初デートだった。
付き合って間もないけど夕麻ちゃんはかわいくておっぱいが大きくて自慢の彼女だった。
恋愛初心者な俺のデートプランニングじゃ拙いところばっかりだったと思う。
でも、俺は楽しかったし彼女といられるだけでうれしかった。
隣を歩く彼女の笑顔はとても魅力的で生きててよかったと思った。
「それが、どうしてこんなことに……」
もう日も暮れかけで赤い、とても赤い夕陽が公園にいる俺たちを照らしていた。
黒い翼をはやして、光る槍のようなものを手にした夕麻ちゃん。
お願いがあるといって、俺に死んでくれといった夕麻ちゃん。
嘘だ、冗談だ、聞き間違いだ。
そう思っても俺に向けられる光は消えてくれなくて、今の光景は目をこすっても変わらなくて。
「なんだよ、なんなんだよ!」
俺の口からは、今の状況にわけがわからなくて、ただ、それだけが出る。
そうじゃないだろ俺!ほかに何か言いたいことがあるだろ俺!
「それじゃあ、イッセー君」
―――――さようなら
彼女の唇がそんな音を紡いで、その手に持った光が俺に向かって放たれた。
怖かった。
笑顔で俺を殺そうとする夕麻ちゃんが。
俺の理解の追い付かない何かが起きていることが。
そして俺にはどうしようもないのだと考える必要がないほどにただわかってしまったことが。
―――――たまらなくこわかったんだ。
「――――ッ」
俺は目を瞑って何かを叫んだ。心の底から出てきた言葉は自分が発したのに何を言ったかわからなかった。
助けてと叫んだのかも知れない、彼女の名を呼んだのかもしれない。
それともあいつ―――。
とそこまで考えたところで轟音が響き、しかし違和感に気が付き目を開いた。
「あれ、俺なんともなってない?」
生きていることを喜ぶよりも、自分になにが起こっているのかが不思議だった。
「なっ、どうして!?」
夕麻ちゃんも驚いている。これは彼女にも予想外のことだったらしい。
「そう、それがあなたの
なんか向こうは向こうで勝手に納得している、けれど俺にはさっぱり意味が分からない
ただ夕麻ちゃんがとても怒っているということはわかった。
理不尽すぎる展開に俺はまた叫んだ。
しにたくない!しにたくない!
まだ、俺にはやりたいことがたくさんあるんだ!
しかし現実は無情にも俺に死ねと言ってくる。
いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだーーーーっ!
叫んでも喚いても、現実は変わらずそこにあって、夕麻ちゃんが恐ろしく感じる笑みを浮かべて、再び光の槍を投げつけてくる。
今度はひとつじゃなくたくさん。
ああ俺死んだと、そう思った。
さっきとは違って、飛んでくる光を俺は見つめ続けていた。
光が心なしかゆっくりと飛んでくるような気がする。
そして壁に当たったかのように、俺の目の前で轟音とともに次々と霧散していった。
「あつッ!?」
目の前で起きたことにただただ驚くしかなく、意味が分からなくて呆然としていると胸元に突然、熱が生まれた。
あわてて熱源を取り出すと奏のくれた首飾りが光を放っていた。
「なんだよ、これ……こいつが、俺を守ってくれたのか?」
それでもやはり意味は分からなくて、でも、きっと、こいつが俺を守ってくれているのだろう。
なんかよくわからないけど熱いけど光ってるけど。
「ははっ…ほんとに効果あったよお前のお守り……」
霊験あらたかとか嘯いていた奏の顔が自然と思い出される。
「ちっしぶといわねえ……」
夕麻ちゃんの声で正気に返り、命の危機はまだ去っていないことを思い出す。
体も思い出したように震えだす、立ち上がって逃げなければ、そう思っても体にうまく力が入らない。
夕麻ちゃんは次々と光の槍を生み出しては投げつけてくる。
それに呼応するように、首飾りは光を増し、熱くなる。
あれ、これやばいんじゃないの?
今はどうにかなっている。でも、熱くなったり光が強くなったりってそろそろ限界が近い合図だったりして……。
笑えない想像に冷や汗が流れる。
ど、ど、ど、どうする俺!どうしよう俺!?ライフカード!ライフカード!をくれ!
止まらない光の乱舞についに限界が訪れた。
俺を守ってくれていた首飾りにひびが入る。
「さっさと死になさいッ!」
力を注ぎこんでいるのか、これまでの比じゃない大きさの光を振りかぶる夕麻ちゃん。
今度こそ今度こそ、これで俺終わりなのかッ!?
いやでも緊張が高まる。
動悸がこれまでとは比べ物にならないくらい激しくなる。
手がぐっしょりと湿っていて気持ちが悪い。
呼吸がうまくできない。
ろくに動いてもいないというのに、はいは酸素を求めている。
――――――そんな時だった。
「ろけっときーっく」
――――――気が抜けた声がしたと思ったら、夕麻ちゃんが吹き飛んでいた。
えっ
ちょっと待とう俺。意味が分からない。
ごしごしと目をこすってもう一度先ほどまで夕麻ちゃんがいたほうを見る。
「
たなびく髪と頼りになる背中を見せながら、拳を上げ、顔だけこちらを振り返って宣言する奏がそこにいた。
ついでに、どっかで聞いたことあるセリフだなと場違いにそんなことを考える俺もいた。
こんな状況でギャグを言う奏といい、場違い同士いいコンビなのかもしれない。
ニカっと笑う奏はいつも通りで、ほっとすると同時に、ちくしょう。かっこいいじゃねえか……そんな風に思えた。
「やはり、一誠はしょうがない奴だな。まったく」
いつも通りすぎて、勝手に涙があふれた。
「きっさまぁぁぁぁ!人間の分際で私に土をつけるなんて許さない!」
「奏!逃げろッ!!!」
いくら奏だって、あんなわけわかんない力を使うやつに勝てるわけがない!
だから、一刻も早くこの場を離れろ!そんな思いを込めて叫んでみたけれど
しかし、奏はなんてことないようにこちらに手を振り夕麻ちゃんと対峙した。
いや、だから、逃げろって!
「許さないのはこちらのセリフだ。貴様ごときが一誠を殺そうなどと身の程をわきまえろ」
先ほどの笑顔から一転。
すさまじく冷たく夕麻ちゃんを一瞥する奏。
あ、あの、奏さん?見たこともないような恐ろしさが……。
「なんですってぇ―――!」
夕麻ちゃん激怒。うん、猫かぶりといてからプライド高そうな雰囲気は感じてたからきっとそうなると思ったよ。
じゃなくて、どうすんの奏!?
やたら自信たっぷりだけど!?
そして気づく、あれ、俺、奏が来ただけで随分と怖くなくなっている……。
これがいいことなのかわからないけれど、現金だなあ俺ってば。
窮地はまだ全然去ってなくて、奏が来た分被害者数という点で悪化しているのに。
「なんだ鳥、うるさいぞピーチクパーチクと」
火に油を注ぎ続けていらっしゃる―――ッ!?
俺が意識を別方向に飛ばしていた間も奏様の舌鋒は絶好調であったようです。
青筋の立ち方半端ねえッ!?
「こ、この…っ」
ついに限界を迎えた夕麻ちゃん。
俺には投げつけるだけだった光の槍を持って奏に突貫する。
危ないッ奏!
「それだから身の程を知らないというのだ」
と思ったら、抉り込むようなパンチ一発で夕麻ちゃんは地に沈んだ。
奏が消えたと思ったら、夕麻ちゃんが浮き上がってて、奏がこぶしを振りぬいた状態で止まっていた。
そして、地面に落ちたところ、頭を踏みにじられている。
格ゲーのフィニッシュの瞬間みたいに夕麻ちゃんはバウンドしていた。
正直何が起こったのかよく見ていたけれど、信じられなかった。
夕麻ちゃんも俺から見ればかなり速く動いていた。
奏は見えなかった。
「ほら悔しいか?何か言ってみろ」
非常に楽しげに唇をゆがめ、夕麻ちゃんを見下ろす奏。
Sの片鱗はこれまで見てきていたが、今のような感じは初めて見た。
……奏こぇぇぇぇ!
「ごふっ…な、なにを」
頭を踏みにじることに満足したのか奏が腹を蹴って夕麻ちゃんを仰向けに転がすと意識を取り戻したようだが何が起きたのかわかってないようだった。
「身の程はわかったか?わかったら、ピーと言え」
そんな様子をあえて無視しているのか今日の奏はどこまでもサディスティックだった。
「ふざけッガ!?」
また蹴りまわして今度は背中を踏みつける奏。
それ一応女の子なんだが。
「こんなカラスのような羽はいらんな。ちぎるか」
ひぃぃぃぃ!奏様、怖い。これは怖い!
なにが怖いって目がマジなところと、すでに羽に手をかけているところが。
「や、やめて!?」
奏の本気を肌で感じ取ったのか、夕麻ちゃんが本気でおびえ、じたばたと脱出を試みる。
「んっなんだ?聞こえんぞ」
わざとらしくつぶやく奏は少しずつ力を込めているようだった。
夕麻ちゃんの上半身が翼を通じて持ち上げられている。
ミキミキと幻聴が聞こえてくる気がする……。
「ぎぃやぁぁぁ!?」
いやぁぁぁ!
見てられない!ていうか俺にトラウマができる!
「か、奏さん?その辺で許してあげたらどうでしょうか?」
口から出た言葉はなぜか敬語。
情けないっていうなよ……。奏様降臨で超怖いんだぜ!?
「なに?この女はお前を裏切ったのだぞ」
凶悪な笑顔から一転、眉根を寄せてこちらを見やる奏様。
よかった、俺には普通の奏だ。
俺のためにやってくれるのはうれしいのですが、白目むいてるし正直見てらんないです。はい。
「襲われた本人が言うのなら別にかまわないが……こういうやつは正直言って調教するか仕留めないとしつこいタイプだぞ?」
奏は不満そうな悩むようなしぐさをする。
あっ一応理由があったんだ。楽しいからとか気分が乗ったからとかじゃなかったんだ。
調教ってなにそれエロいと思ってしまった俺はきっといろいろなものがだめだった。
「いいというなら別にかまわんか。痛みで気を失っていることだしな、帰ろうか」
興味をなくしたように手を放すとこちらにゆっくり向かってくる。
翼を放された夕麻ちゃんは地に体を沈めぴくぴくと痙攣し、その背にはくっきりと奏の足跡が存在していた……。
奏がついに目の前まで来ると震えがぶり返してきた。
よくわからない状況が連続して、吹っ飛んでいた何かが体の奥底からあふれだしてくる。
笑って立てるかと、手を差し出してくるのを見て
―――――ああ、俺助かったんだ。ようやくそう思えた。
「ん、震えているのか?ひょっとすると
訪れた安堵感に放心していると、体はまだふるえていたと言われて気づく。
ショックを受けたような顔をしてよろめく奏は少し意外。
唯我独尊を地で行くやつだからそういうことは気にしないと思っていた。
昔から人の悩みを吹き飛ばしてくれるすごい奴、ときどき理不尽すぎる何かを仕向けられるけど一番の友達だと胸を張って言える。
「いや、そうじゃないんだ。助かったと思ったらなんかさ。震えが止まらなくて」
実際とまれよと思っても体の震えは止まらず、むしろひどくなる有様。
もう少し時間がたたないとだめだろうこれはきっと。
俺がそう言うと、あごに手を当てて考えるしぐさをする奏。妙に様になっている。
かわいらしいという意味で。俺はもちろんおっぱい好きなノーマルだけど!
「ふむ、今日はうちに泊まるか?」
言いながらとられた手は男とは思えないほど柔らかくて小さくて火照っていた体には少しヒヤッとしていた。
一誠を連れて帰宅した。
最初は震えていた一誠だったが手をつないで歩いているとやがて治まっていったようだ。
この歳になって同性と手をつないで歩くというのはなかなか面はゆいものもあったが、おびえる友人のためだ一肌脱ごうという気にもなるだろう。
元来、性については希薄な自分であることだし、そこまで気にしてはいなかったのだが。
「一誠、夕食はまだだろう。ちょうどシチューを作っていたのだ、食べるか?」
一人暮らしの寂しさに友人に彼女ができて少し遊びに誘われる量が減るのだと思ったらことさら重傷で、ほっこりした気分になるシチューを作っていたのだった。
もっとも、一誠に渡した
「ああ、頼むよ…。それにしてもおまえんちいつ来ても高そうだな」
まだ元気が足りない様子の一誠は、しかし、いつも通り部屋に突っ込んでくる。
確かに高級マンションで一人暮らしには広すぎる家だが、調度品にことさら金をかけているわけでもないので対して高そうには見えないはずなのだが。外観以外は。何気に最上階ではあるけれど。
「それなりだ。それなり」
言いながら完成間近だったシチューの鍋に火を入れ、くつくつと煮込み始めた。
「やっぱり料理うまいな」
カチャカチャと食器が鳴り響く中俺は言った。
「そうか?まあ、確かに下手な店屋よりは自分で作ったほうがうまいと思うがな」
材料のおかげもあるんだろう。そんな風に言う奏。
いや実際金がとれると思うレベルだと思うんだこれは。
じっくりと煮込んであるのがよくわかる、煮崩れかけてとろとろの具。
口に入れるととろけていく。
飽きが来なくて毎日食べたいと思う味。
材料が云々というなら、世の中料理人であふれている。
うまい。
「おまえ、ほんとに女に生まれろよな……」
ついつい口調もあきれた調子になってこぼしてしまう。
「なんだいきなり?仮にそうしたら一誠には近づかなかったかも知れんぞ」
奏は頬杖をついて挑戦気な瞳をしながらスプーンでこちらを指す。
妙に様になっている。
不思議だ。美形は何をやっても様になる。
そして、ちょっと考えてみる。女だった場合ね~?
奏、美少女、完璧超人。
俺、フツメン、勉強苦手、不本意ながら変態3人衆の一人。
イコールで考えてみるとやべえ、接点が見つからない。というか今の状況でもぶっちゃけ奏が俺と友達になる必要ない気がする。
男の敵の木場佑斗あたりと仲良く談笑しているほうがはるかに絵になる。あるいは女子とにこやかに。
これが幼馴染補正というものか恐ろしい!
奏が呆れた目で見ているが気にしない。
「あーありそうだな。お前が女に生まれたら取り巻きとかできそうだもん」
「さすがに取り巻きはないだろう。漫画じゃないのだから。それに女に生まれても性格がそう変わったとも思えん」
たしかにそんなのいたら殴り飛ばすだろう。
お互いにそんな風景を思い浮かべたのか苦笑する。
たまに男に告白されてあほか貴様となじりになじった挙句、襲い掛かってきたところを殴り飛ばしているからずいぶんとリアルに想像されてしまった。
男に告られるのもマイナスだよね男としては。
さらに女子にお姉さまと呼んでいいですかといわれて、素で呆然としているシーンを見てからは奏が告られても少しねたむぐらいで許せている。
あれは、奏が云々というより相手側の女子が少しおかしかっただけだとは思うけど、世の中おかしな人が多いからな。
俺は関係ないぞ?いや誰に言い訳してるんだかという感じではあるけど。
そのあとも和やかな談笑を楽しんだ。
だけどなぜかちくりとさすように心が痛んだ気がした。
食事も終わって人心地ついているとあれよあれよという間に眠る支度を整えられた。
奏と俺ではだいぶ服のサイズが違うので服を借りることもできず、薄汚れた制服で寝るのはどうかと思っていたら風呂に叩き込まれほこりを落とすとちょうどいいサイズの寝巻が置いてあった。
さすがに下着はなかったけど。
どういうことかと聞いてみれば寝間着はでかいサイズがいいと返ってきた。
なるほど、今着ているのも奏の方は袖がだるだるしている。
うんうんと頷いていると寝室に通された。
「ほら寝るぞ、ベッド使っていいから」
「いやおまえんちだし、俺下に敷いた布団でいいから」
「遠慮するな。ダブルだから広々だぞ」
元気がなさそうなお前は寝て何もかも忘れてしまえ。そういうナイーブな少年のキャラは似合わないから。
「なんなら一緒に寝るか?」
布団広いから、冗談のつもりでそういった。
「あーもう、それでいいや」
「なに?」
まさか一誠にそんな趣味があったとは
女に手ひどく振られたからと言って、安易に男色に走るのはどうかと思うぞ一誠。
胡乱な視線で眺めていると言った言葉の意味に気付いたのかあわてだした。
「いや、そうじゃなくて!もう眠いし!言い争ってんのもばからしいし!男同士だから問題なんかないしさ!」
あわてる一誠。うむ、そうそう一誠はこういうやつでなければ。
「なにをしている一誠。とっとと寝るぞ。さっさと入れ」
すでにベッドに入って寝る姿勢の
何やら逡巡した後、ため息をつくと一誠はベッドにお邪魔しますと入り込んだ。
布団をかぶり、静かな時間が流れる。
チクタク、チクタク、時計が時を刻む音だけが響く、そうして幾ばく経った頃だろうか一誠が口を開いた。
「なあ奏、起きてるか」
「起きている。今日は疲れただろうサクサクと寝るがいい」
「いや、そんなに切り捨てなくても……」
いいじゃない、と。
「言いたいことがあるなら何でも言え。聞くだけは聞いてやる」
苦笑しながらサンキュ、と声が響く。
「俺さ、まだ夕麻ちゃんに殺されかかったことに実感がわかないし、納得できないんだ」
俺は普通の高校生で恋に夢見るお年頃っていうやつだった。
好きな人ができて付き合って、一緒に楽しいを積み重ねていって、そんで男なら仕方ないとエロいことしたいと夢見るそんな感じのさ。
「なんもわからなくてさ。いきなりにいきなりが重なりすぎて……」
いきなり殺されそうになって、光の槍なんていうファンタジーなものが出てきて、お守りが本物で、でもやっぱり殺されそうで、奏がいろんなものを吹き飛ばしながら助けに来てくれて、夕麻ちゃんがサディスティックにされて、みてらんなくて思わずそれを止めたらなんだかんだで奏んちで、夕食をごちそうになって、ようやく落ち着いたらやっぱり訳が分からなくて。
信じられないよな、ハハッ。
「信じたくないなら信じなくてもいい」
意外だった。奏はこういうことはビシバシ言ってとっとと立ち直らせようとするものだと思ってた。
それならそれで俺はきっと今の自分で明日を向けた。そう、思う。
言葉には続きがあった。
「だが一誠。現実は大体にして無情で、時にやさしい」
そして俺のほうへ背を向けていた奏は、寝返りを打ち真剣なまなざしで俺を見つめていた。
「しかし、それらはとても浮動的で、何かが乗っただけでたやすく天秤が傾く程度のものでしかないと。もう一度傷つくことになるかもしれないと。あるいはもっと残酷であるのかもしれないと」
―――――覚悟しろ
ごくり、のどが鳴った。真剣な様子の奏は中途半端は許さないとそう言っている気がした。
だから考えた、信じたくないけれどきっとあれは事実で夕麻ちゃんの意志だったんだろう。
だけど理由が知りたい。なんでそうなったのかどうして殺されそうにならなきゃいけなかったのか。
そうじゃなきゃ俺は納得できない。
先に進めない。
「俺、もう一度夕麻ちゃんと会って話がしたい。それがどんな結果になろうと俺が前に進むにはきっと必要だと思うから」
「それはつまり保留か。お前らしいといえばお前らしいか。このお人よしめ」
言葉ではバカにしているような、呆れているようなといった体であるのに奏はとても優しい顔をしていた。
「そうだな…話し合えた後、落ち込んでいたら今度はちゃんと慰めてやろう」
「なんだよそれ」
話していて笑ってしまう。
笑う奏を見ていると不思議と不安が消えていって、よしやるかっていう気分になった。
おやすみ、ありがとうな奏。
やっぱおまえ、最高の友達だよ。