Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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78話王の在り方(5日目)

姉の登場にセイバー達が驚いている。

 

「なんつーか…でっけー庭園だな」

「あの、お邪魔してます」

(どうやら、二人も来てたみたいだな)

 

ヘッドホンを付けている高校生こと花村陽介と、鳴上悠も嶺のそばにいる。なによりも一番驚いていたのは嶺が令呪を持っていた事に目を向けていた。

 

「貴方達、何者なのっ…⁉︎」

「んー、えーっと…征服王の配下?」

「いやちげーだろ、集いに誘われただけなんだから」

 

アイリスフィールの質問に対し、嶺がその問いに返答するが、とにかく聞きたいことは山ほどあった。

後ろにいる二人のことも、姉のことも。

 

「俺達ちょっと別のところに移動しよっかー…姉さん行こう」

「あ、さっき着いたばっかりなのに待って」

 

血相を変えた正輝は嶺を連れて、別の場所へと移動していく。

杏子達も正輝の後を追い、ついて行った。

 

「あ、れっ…?」

「どうしたのですか、アイリスフィール?」

 

複数もの英霊を感知したことで胸が激しく痛めていたアイリスフィールだったが、出て行ったと共に急に痛みが治っている。

「気のせい、なのかしら…?」

彼女が感じたはずの、複数もいたはずの英霊の反応が突如消えていた。

 

*****

 

一方、時臣邸では

 

地下でただ一人、遠坂時臣は手を動かさずだんまりと座ったまま険しい顔をしていた。常に余裕を持って優雅たれと、遠坂家のしきたりを志していが、今回の聖杯戦争はその志は意味を為さなくなってきている。

倉庫街では、征服王の誘いで動いたギルガメッシュをそのまま正体不明の3人のラリアットで撃沈させ、幸か不幸か撤退させるための令呪を費やす必要が無くなった。

それ以降英雄王はラリアットされる前までの記憶を無くし、目立った行動もしていなかった為安心していたが、目を離した隙に征服王と共にいつのまにか酒盛りへ向かっている。

その上、今度はアサシンの報告内容に本気で頭を抱えていた。英雄王が勝手に王の集いに来たのはともかく、まさか桜と雁夜が来ていたことに疑念を抱いている。

 

「馬鹿な…何故桜が…一体どういうことだ。

まさか雁夜が連れ出したというのか」

(それだけではない…アサシンの報告にはこの冬木市周辺に妙な霧が漂っているというのに

…聖杯戦争と関与しているかどうかは、まだ断定はできないが。とはいえ何もないところに怪物の影が出没しているとも連絡が来ている…この現象、とても嫌な予感がする)

 

雁夜が大切な跡継ぎを連れ回し、何故か英雄王に手を振って知り合っているのは思いもよらないのだから。

では、もう一人の少女は何者なのだろうか探りを入れろとアサシンを通じて確認しようと言峰に伝えるつもりであった。

「雁夜だけでは無く、付き添いの少女の監視をするようにしてくれ。それとアサシンを10人、城に向かわせるよう指示を。

集っているマスターに報告するように、大至急だ」

「今までずっと隠していたアサシンを、存命していることを明るみになるのでは?」

「致し方ない…このままライダーとマスター共々酒盛りに興じているのならば、またとない襲撃の好機であり、たとえアサシンが敗退しても比嘉の戦力差を測ることもできた。

 

…が、今はこの冬木市内の安全を最優先にする。

教会には君の父、言峰璃正も呼ぶ」

「異論はありません。ではアサシンを向かわせます」

「頼んだよ」

時臣が頭を抱えているのはそれだけではない。この冬木市に、突如出現した正体不明の霧が発生していることも併せて調査の必要があるのだから。

「一体どうなっている。

なんだというのだ…この、化け物は」

突如、霧から出てきた化け物達をアサシン達が発見し、討伐したと言峰からの通達で頭を悩ませている。

今はまだ冬木市には薄い霧が出ているだけで、化け物が出現しても一、二体程度で人気の多い場所に向かうことはない。

(一刻を争う事態だ。このことを明日の朝にでも伝えなくてはっ…手遅れになる前に)

が、もしその霧が突如濃くなり、化け物の数も前以上に増えてくるとしたら。

 

ーー霧の中に出現した怪物達によって冬木市は蹂躙され、市外にも侵食するのだとしたら。

もう聖杯戦争どころでは済まなくなる。

遠坂時臣は、非常に焦っていた。

 

*****

 

「兎に角、俺達に説明してくれるよね。

まず何やってたのか、どうしてその姿になってんのかも」

「分かったから、ちょっと落ち着いて正輝」

 

困惑している正輝は姉側がどんな行動をしていたのか問い詰めていく。一つ一つ、スレにあった質問事項とと、聞きたいことを整理しながら質問する。

 

「それじゃ、まず何でこの姿になってんの?」

「介入したらこの姿になってた」

「…じゃ、そこの二人は?」

 

小さい子供は幼少期の桜に見え、隣の男の人はスレで言っていたようなおじさんなのかと質問する。

「介入先が間銅家の蔵で、その時二人を見かけたんだよ」

「蟲がうじゃうじゃいて気味が悪かったけどな」

「でも、嶺さんが蟲を焼き払ったおかげで無事辿り着くことができた」

(…ん?焼き払った?)

焼き払ったおかげで到着したという言葉に違和感を抱きつつ、まさかと思いつつ間藤蔵軒のことを聞く。

 

「えーと、それじゃあその蔵の持ち主は?」

「蟲ごと蔵軒も焼いちゃった。まぁヤバい蟲を飼ってたから自業自得ってことで」

(ですよねー…)

「まぁ、放っておいたら俺達がその蟲に飲み込まれてたかもしれねーし」

 

あのスレを呟いたのは殺人鬼に連れ去られただけでなく、英霊を召喚したことで、命の危機に晒されたことも。

悠と花村は蔵軒のことは全く知らない為に巻き込ませたことを焦っていたが、後々蟲を飼ってことを知り、自分達の命も危ないことから、嶺の暴走は不幸な事故だったと容認せざる負えなかった。

 

「じゃあ、どうやって俺が立てたスレを見つけたの?つーかどう言う行動してたんだよ」

「まず公園で英雄王が子供達と戯れていたのを発見して、征服王は街をぶらぶらしていたら会う形だったかな。

 

スレの方はネットサーフィンしてたら、トリッパーと紅茶は有名だったけど、林檎もあったしもしかしたらなーって。

そしたら、ここに行くって書かれてあったから」

「…ネットサーフィンは、鳴上と花村にも手伝ってもらったってわけか

 

じゃあ、あのスレで助けを呼んだのは?」

「英霊を召喚して、死にかけました」

「…え、ごめん。なんて言った?」

 

士郎でも、未熟とはいえ魔力を持っていた為に召喚することはできた。なのに魔力すら持っていない姉が、英霊を召喚できるわけがなかった。

 

「英霊を召喚?姉さん…マスター本人が魔力を持ってないと出来ないよね?なら一体どうやって補充した?」

「な、ナンノコトデショウカー」

「まさか…貿易でもらった宝石を食べてたとかじゃないよな」

 

たまに宝具ではなく宝石を貰うよう貿易で交換していたこともあった。どんな用途で使うのか、正輝側からしたら仲間の増加で金銭問題に苛まれているのかと思っていたが、この件で嶺が魔力を保持していることに察する。

 

英霊召喚には魔力が必要であり、一般人が魔力を、魔力回路を手にするために宝石を使ったことに。

「宝石を飲み込んで体内に魔力回路を繋げたとか…?」

「んー、あー、そのー…」

「飲み込みすぎたら血反吐吐くよね?

吐き気を催すよな?

まさか、仮にやったとして一人でずっとやってたなんてことしてないよね?」

「……エーット」

「その様子だと…我々にも話してないな。

少なくとも私も姉がそんなことをしていたのは聞かされていない」

 

正輝は鳴上も花村に顔を向くと、嶺が密かにやったことなど知らないと首を振る。嶺が無茶振りしてたのはサーヴァントを得てからだった。

嶺の額に鳥肌が立ち、汗が流れている。

 

「二人は介入前に知ってたの?」

「いや、俺達は何も知らなかった」

「俺たちが知ったのは雁夜が詰めてからだつたような…」

「ふーん、ちょっと姉さん何処に行こうとしてるかな?」

「ゴメンネー、ちょっと急用を思い出し「逃げるなよ」あ、ハイ」

正輝は逃げ去ろうとする姉の肩を掴み、投影したハリセンで

 

「こんのアホ!凛とか魔術の専門家がいないのに勝手なことするんじゃない全く‼︎

どうしても魔力が欲しいなら俺と黒沢に相談すること!とゆうより絶対しなさい!

危ないでしょうが!」

「あたっ…ごめんなさーい」

 

頭に軽くハリセンを叩いて叱りつづけている。魔力を手にするのがどれだけ危険なことか、半人前の士郎が宝石を飲み込んでも厳しかったのに、魔力すらない人が宝石を飲み込んで魔力回路を用意するのはかなり酷なものも。

それを何日間かやったとなると、身体にどんな負荷がかかることかと正輝は滅入っていた。

 

「ハァ…で?姉さんは一体何を召喚したの?」

「召喚したのはセイバーとバーサーカーだよ。魔力枯渇で死にかけたけど」

「…いや待て待て、待って、ちょっと待てや。そりゃ消費の大きいバーサーカーと三騎士のうちの一人を呼んだんだから魔力枯渇で死にかけるかもしれないけどさ。

根本な話、セイバー枠は既にこの世界だとアルトリアいるじゃん。バーサーカーも聖杯戦争が既に始まっているのなら既に他のマスターが」

「どうやら一騎に二体いるみたいだよー」

「…マ?」

「マ。あと、私のサーヴァントは極力姿を現さないようにしてるから。アサシンに見られて、報告されるのも不味いし」

嶺の召喚した英霊は、霊体化して姿を現してない。桜と一緒に同行する以上、他のアサシンに見られる可能性があることから、マスターの指示が危機に瀕した時のみ呼ぶこととなっている。

 

更に問題があるのは嶺だけではなく、他の人も英霊を召喚している可能性があること。

 

「因みに、そこの二人のサーヴァントは」

「喋っていいよ雁夜さん。味方だから」

「…俺のはキャスターで、桜ちゃんがバーサーカーのマスターだよ」

 

スレの情報とは違い、おじさんがバーサーカーになるはずが、小さい桜が契約している。キャスター枠は殺人鬼ではなくおじさんがとっていた。

 

「雁夜さんは出してもいいけど、桜ちゃんの方は移動したとはいえ近くにお知り合いのアーサー王がいるから出さないほうがいいよー」

「うん、わかった」

「キャスター、出てきてくれ!」

 

雁夜が呼び出すと、彼の隣に青い巫女服の格好をした女狐が出現する。

 

「みこーん!お呼びでしょうか、マスター?」

「これがその証拠だよー」

「お、おぉ…」

 

正輝が魔術師の英霊を知っているのは精々メディアくらいしかなく、他にいるにしても陰陽師か、異端の学者が、如何にも魔法使いのような格好をした人が出てくるんじゃないかと。

 

「キャスター…なんだよな?いや、俺の個人的な見解なんだが、キャスタークラスの印象ってロープ着て杖持つ人のような魔術師かなと思っていたが…まさか巫女とは予想外だったな」

「巫女じゃお気に召さないのでしたら、お着替え用にありま」

「え、いや、別に気にしてないから!

このままで大丈夫だから!

てかなんで着替えも用意してんの⁉︎」

(な、なんなんだ…この人)

正輝はセイバー達のような英霊と話しながらも、個性がかなり強く、性格に癖があるような人達ばかりなのはわかっている。彼女なアゲアゲなテンションについていけていない。

 

「私の魅力に惹かれて、目を凝視しているのでしょう。残念ですが、私にはマスターという心に決めた人がもういるのです」

(いや、後半は聞いてないんだけど…)

 

「この戦いが終わったら、すぐに式をあげて屋敷に住み、子宝に恵まれ、幸せに暮らして…あと桜ちゃんは結婚した後は私達二人の娘になります!」

「ちょっと待て!桜ちゃんを助けるのはともかく結婚もしないし、家族にもならないって言ってるだろ!」

 

聖杯戦争が終わること前提の話をトントン拍子に繰り返していく。出てきて数分経たぬうちにペラペラと喋っていく彼女のテンションに正輝は追いついていけてない。

 

「この冬木市の教会で式場をあげて結婚し、

子供を作りま「だーっ!だからなんでお前にそんなこと決められなくちゃいけないんだ⁉︎何回も言ってるが心に決めた人は葵さんでお前とは「私、雁夜おじさんは結婚してもいいって思ってる」さ、桜ちゃん…?」」

「私にとって、雁夜おじさんも幸せになって欲しいから」

キャスターは桜の笑顔に愛くるしくぎゅーっと抱きしめている。

「あぁもう…桜ちゃん!もうホントなんていい子なんでしょうか!あんな脅かされるような場所に…置き去りにさせているなんて本当に理解に苦しみます」

(なんか、色々とぶっ飛んでるなぁこのサーヴァント)

正輝も見たこととない英霊と、気分上々な彼女の反応を見て一旦思考停止しながらも、一周回って冷静に反応していた。

「あ、あぁうん…なんか、大変だな。

えっと、それじゃあ何?…こんな調子でこの聖杯戦争には12体も英霊がいるってこと?」

「そうなるよ」

「…よく他のマスターや監督役にばれなかったな」

「もしかしたら、まだ召喚されてない可能性もなきにしもあらずだし」

正輝達が介入する前にその英霊達が現界してるなら、既に教会側から異常事態の発令として招集連絡が来ている。

ある程度姉のことを聞けた正輝は、今度は姉の周りで何か異変が起きていなかったか確認する。

「なら…何か冬木市に、聖杯とかの影響とかあった?」

「特にそういったことは無かったけど、まぁ弟とこうして無事に合流できたし。

次の日に調べるとかでいいと思うよ?

もうそれくらいだったと思うし」

「あーそっか、ならいいけどさ」

それでも、姉達の方でも冬木市で変わった現象は見つけられていない。船に帰る為、一刻も原因を突き止めなければこの世界に永遠に幽閉される。

残る調査は、冬木市周辺と聖杯についてだけだった。

 

*****

 

聖杯問答は、正輝達のいない間に話を進めていた。英雄王、征服王の二人は既に自分の願いを語り、最後に騎士王が喋るタイミングで戻ってくる。

 

「みんな、姉を引き連れて悪かった。話を進めて「私は、我が故郷の救済を願う。万能の願望器を以ってして、ブリテンの滅びの運命を変える」あれ、もう始めてた?」

 

ようやっと姉との問い詰めが終わり、間が悪かったように空気が静まり返っている。

 

(え、何この沈黙)

「なぁ…騎士王。貴様、運命を変えると言ったか?それは過去の歴史を覆すということか?」

「そうだ。たとえ奇跡を以てしても叶わぬ願いだろうと…聖杯が真に万能であるならば必ずや」

それを聞いた英雄王は高笑いをし、征服王は心底複雑な顔をしている。過去を悔やみ、それを聖杯という奇跡に頼ろうとしている。

 

民に讃えられていたのに、それを嘆くことは余りに皮肉だった。

 

「ええっと…セイバー。確かめておくが貴様の時代の話であろう?貴様の治世であったのだろう?」

「そうだ…だからこそ私は許せない!だからそこ悔やむのだ!

あの結末を変えたのだ!

他でもない私の席であるが故に!」

「自ら王を名乗り、皆から王と讃えられて…そんな輩が悔やむだと?

これが笑わずにいられるかハハハッ!

セイバーぁ…貴様は極上の道化だアッハハハハ‼︎」

 

支えてもらっていたのに、それを悔やんでいたという矛盾に英雄王は笑わずにいられなかった。征服王は真面目に聞きつつも、願いを再度確認する。

 

「セイバー…貴様、よりにもよって。自らが歴史に刻んだ行いを否定するというのか?」

「そうとも!なぜ訝る!なぜ笑う!剣を授かり、人命を捧げた故国が滅んだのだ!

それを痛むのはどうしておかしい」

「おいおい聞いたかライダー!この騎士王とか名乗る小娘はよりにもよって故国に人命を捧げたとさ!」

「笑われる筋合いがどこにある!王たるものならば、身を挺して治める国の繁栄を願うはず!」

 

自分の過去を後悔し、過去を変えたいと願っても、その願いを望むセイバーと二人の王たるものの基準と価値観に食い違いが起きていた。

 

「いいや違う…王が捧げるのではない。国が、民草がその人命を王に捧げるのだ。

断じてその逆ではない」

「なっ…⁉︎それは暴君の知性ではないか!」

「然り、我らは暴君であるが故に英雄だ。

 

だがな、セイバー…自らの治世を、その結末を悔やむ王がいるとしたらそれはただの暗君だ。暴君よりもなお始末が悪い」

 

征服王は王が民衆に奉仕するというのは、間違っていると否定する。王が動かなければならない時も確かにあったが、三人とも向けるべき方向性は異なる。

 

騎士王は救済を、英雄王は法を、征服王は侵略を。

 

「イスカンダル…貴様とて世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終わったはずだ。

 

その結末に、貴様は何の後悔はないのか⁉︎」

「ない。余の決断、余に付き従った臣下たちの生き様の果てに辿り着いた結末であるならば、その滅びは必定だ。

 

痛みもしよう、涙も流そう。

だが、決して悔やみはしない。

ましてそれを覆すなど!そんな愚行は余と共に生きてきた全ての人間に対する侮辱である!」

 

征服王は後悔は無いと断言し、願いを共に生きてきた人たちへの愚行だと卑下する。

 

「滅びの華を誉れとするのは武人だけだ!

力無きものを守らずしてどうする⁉︎

正しき統制、正しき治世!

それこそが王の本懐だろう!」

 

それでも騎士王は、自分の願いを曲げない。

滅びを良しとするのはあくまで戦士であり、そうでない者にとっては滅びを受け入れられないと断言する。

無力な民を守り、正しさで国を収めることこそが王のあり方であると。

 

「…で、王たる貴様は、正しさの奴隷か。

そんな生き方は、ヒトではない」

「民の、理想に殉じてこそ王だ。王として国を治めるなら、ヒトの生き方など望めない。

征服王、たかだか我が身の可愛さのあまりに聖杯を求めるという貴様にはわかるまい。

 

飽くなき欲望を満たすためだけに、覇王となった貴様に「無欲な王など、飾り物にも劣るわい!!」つっ⁉︎」

 

人とは異なる思想を持った王が、下々の、民草を守るしかしないのだとしたら他の人から欲が無いと言われても、仕方のないことだった。

 

「セイバーよ、理想に殉じると貴様は言ったな。なるほど往年の貴様は清廉にして潔白な聖者であったことだろう…さぞや高貴で侵しがたい姿であったことだろう。

だがな、殉教などという茨の道に、いったい誰が憧れる? 焦がれるほどの夢を見る?

 

王とはな、誰よりも強欲に、誰よりも合焦し、誰よりも激怒する。

清濁含めてヒトの極限を極めたるもの。そう在るからこそ臣下は王を羨望し、 王に魅せられる。

一人一人、民草の心に我も王たらんと同慶の火が灯る」

 

ギルガメッシュは半神とはいえ、人間たるものを理解している。

欲もあれば、理想もあることに。そのためにこの場にいる二人の王は人々に自らの偉業を、人々は尽くしてきた。

 

「騎士道の誉たる王よ。確かに正義と理想は人民を救済したやもしれん。

だがな…ただ救われただけの連中がどういう末路をたどったか、それを知らぬ貴様ではあるまい」

「…なんだと」

 

民を救えても、何も成長もできなかった彼らはドミノ倒しのように、最終的にあのカムランの丘で王も臣下も崩れ去っていたのを。

 

「貴様は臣下を救うばかりで、導くことをしなかった。王の欲の形を示すこともなく、道を見失った臣下を捨ておき。ただ一人ですまし顔のまま、小綺麗な理想を追い求めただけよ。

 

故に貴様は、生粋の王では無い。

己のためでは無くヒトのための王という偶像に縛られていただけの小娘に過ぎん」

「私は…私は」

 

誰も征服王の言葉を妨げ、割って入ることはなかった。聖杯の願望を否定され、彼女の王としての誇りも悉く論破されていく。

価値観は違えど、征服王の言う通り導かなかったらこそあぁいった末路に行き着いてしまったことを。

 

セイバーは、何も否定することはできなかった。

そんな話を聞いていた嶺が、挙手をする。

 

「あのー、じゃあ民草の一個人として発言してもいいのかな?

 

セイバーさんの言ってることって…みんなが築き上げてきたものを身勝手に崩してるだけじゃないの?自分だけで作って壊して考えていくなら、まぁ創造は破壊を繰り返してその上で磨かれていくって言うし。

でも、一人で成すことが出来ない物なら征服王の言う通り貴方の背後をついて来た人達に対して大変失礼だと思うよ。

貴方と深く関わってきた騎士がもし貴方の願いを聞いたら嘆くんじゃないのかなーって?」

「ち、ちょっと姉さんいいかなーっ…!」

 

嶺は追い討ちをかけるように発言する。

征服王にあれだけのことを言われて、今度は姉にすら言わたらもう騎士王の心は笑われ、指摘され、もうズタズタになっている。その心に追い討ちをかけるかのように、今度は騎士達の事まで追求されている。

「あのねー、姉さんー…あの状態で俺達が下手に言ったら余計に」

「んー死体蹴りって言うのかな?」

「いや、死体蹴ってるところかマシンガンの如く撃ちまくってるからな!

 

あー本当にごめんなさい。ウチの姉が余計な事を言ってすみませんでした。

本当に悪気はなかったんです」

姉の言葉で余計に騎士王を苛つかせているが、この場を収めようと正輝が発言する。

このまま悪い空気を作っていくのはこれ以上不味いと思い、何とか怒りを鎮めようと謝っている。

しかし、

 

「余計だと言うのなら、何故その世迷言を言い切る前に止めない…いや、姉の方は錯乱しているだけだったか」

「…あ"?今何て言った?世迷言に錯乱?

そう俺の姉に言ったのか?」

「そうだ。藪から棒に横から入ってきて、どの口が言う」

(ほぉ、今度はどんな余興を見せてくれるのだ?)

騎士王もまた、謝罪したというのに節操なき言葉に正輝を眉間に皺を寄せていた。幼い姉の言葉でも気が立っていたのか、些か騎士王の機嫌は非常に悪くなっている。

征服王は呆れ、英雄王はまだ面白がって正輝と騎士王の言動に期待の目をしながら眺めている。

「あのな騎士王、流石にその発言は些か「ふーん。じゃあ…仮にもし願いを叶えるとしたらお前の周りの連中はこれまでの戦いは…ゴミに参加して無駄死にすることとなるな。

お前の背中を見てついていった騎士達が、同じ志を持っているかどうかは分からない。

でもお前の言葉を、意思を重んじ、信じてついていったんじゃないのか。

ブリテンの国をより良くするために戦い、そして散っていった。

 

今まで守り続けた民を、騎士達を覚悟も、思いも、信念も、全部ゴミだと言うんだな。

騎士王様は」」

「貴様っ…今言ったことをすぐに取り消せっ‼︎さもなくば」

「だってそうだろ。無かったことにするっていうのは、あんたにとってそれだけの意味を成さない価値しかなかったってことだ。

ならこれをゴミと言わないで、なんて言うんだ?騎士ごっこか?それとも茶番か?

征服王や、ウチの姉が言うように…今までの運命を変えるって言うのは、つまりそう言う事だろうが。

 

 

確かに過去にあぁしとけばよかったとか、こんなはずじゃなかったとか、そりゃ貴方以外にも思う人は沢山いるだろうさ。けど運命を変えたその先に、自分がどうなるか、周りがどうなるか。

 

…あんたはもう誰かの為に力を尽くした。

アンタ自身、納得がいかない結末だったかもしれない。それでも己自身の尽力を尽くし、戦って戦って、今度は過去をなかったことする為にこの聖杯戦争で戦って。

運命を変えたその先に…自身の幸せはあるのか?

 

過去に縋って、自責の念に潰れかけて後悔しないように幾度も努めて突き進んだはずだ。

それはとても辛い、過酷な道だ。あんたは人の生き方をしないまま…突き進んだんだのだから、そりゃ辛いさ。

 

だから今度は、もう自分の為に幸せになっても良いんじゃないのかよ?

 

慕う騎士達だって、頑張ったあなたには幸せになって欲しいって願ってると思うよ?

一人の幸せはみんなの幸せって言うし」

 

それを聞いたセイバーは不快感を露わにしていた。軽々と口にしている正輝と姉の二人に何がわかると言うような顰めっ顔をしている。

 

「貴様達に一体何がわかるっ!何も知りもしないで民を、騎士達を軽々しくゴミと侮蔑し、挙げ句の果てには私の…自分の幸福を騎士達が願っているなど!これ以上身勝手なことを口にするなら」

「あぁ、その通りだ。身勝手な俺達には到底わかんねぇよ、その時代で生きてきたわけじゃねーんだから。

そして、俺達だけじゃないここにいる他の連中も同じだ。過去にあんたとその騎士達がどんな気持ちだったかなんて何もわからない。

聞いても同情するか、その気持ちを共感することしかできない。

そもそも誰かがアンタの生きていた時代に真に騎士達の、民草の心を理解できる人と出会えているんだったら…わざわざ命張ってでも聖杯戦争(こんなところ)にいないだろ。

 

…誰だって人生は思った通りにいかないことだらけだ。仮に聖杯で選定を無かったことにしたとしても、今度はまた違った運命を迫られる。

 

そしてまた、こんなはずじゃ無かったと嘆き、またやり直しとやらの願いの為にまた戦場をかける。

 

…終わりのない戦いに一体いつまで続けていくのか?

自分が納得するまでか?

何十回も、何百回も、何千回も何万回も延々とやり直して…何度も何度も何度も何度も自分の望んだ通りに運ぼうと争って…ここまで言えば、もうアンタでも分かるよな。

 

征服王の後にこんな酷なことを言うつもりはなかったんだけどさ。

 

俺達二人の言葉が戯言だというのなら別にそれで構わない。この程度の戯言なんて感情的になって痺れを切らすほどの王じゃないだろうし。

それでも、現代以上に生殺与奪だらけな厳しい世界でも、自らの思いを曲げずに進み続けた騎士王だ。今度は聖杯の剥奪のために永遠を彷徨い続け、苦しみ抜いて。

一体、いつ往生際が潔くなるんだろうな」

 

セイバーも、聖杯のことについてそこまで深掘りには考えていなかった。その聖杯が本当に願いを叶えたとして、その願いが満足のいかない物だとしたら。

その先に、また絶望があるのだとしたら。

なら、夢の終わりはいつ来るのだろうか。

 

英雄王は長々と喋っている正輝に、笑みを浮かべつつ興味を抱いていた。

 

「貴様、随分とセイバーに詰めているようだが」

「言っただろ、本当なら酷なことを長々と言うつもりはないって。ただ征服王に加えて俺も二言助言しただけだ」

(大体、三連コンボのラリアットぶちかまされた金ピカに言われてもなぁ…)

見下してる相手には油断して慢心している英雄王。

自分は何もしなくとも剣と槍を自動射出だけで大抵の敵は葬れるのだから、その性格のせいか死角からのラリアットを喰らわされた時は防ぎ切れなかったことを。

 

「貴様ら、なぜそんな目でこの我を見る」

「あ、ええとまぁ…気にする必要はない」

「英雄王、知らなくても良いことはある」

 

英雄王以外倉庫にいたみんなから見えていたが、一同何も言わずに生暖かい目で見ている。特に近くで話しているセイバーとライダーは苦い顔をするしか無かった。

 

正輝の隣にいるエミヤは笑いを堪え、杏子は首を傾げてる。

 

ーーー英雄王がラリアットで倒されたなんて、気まずいどころか絶対口が裂けても言えるわけがない。

 

しかし、この聖杯問答の集いにまた新たな客人が訪れる。黒い影からアサシンが次から次へと出現していく。

 

「なっ…アサシンっ⁉︎どうして何人も!

サーヴァントは一騎のみじゃないのか⁉︎」

「これは貴様の計らいか?英雄王」

(時臣め、一体どうゆうつもりだ…)

 

彼らの手には凶器を持っておらず、丸腰でこの場に出現している。

敵意はないことを示す為に。

 

「明日、聖杯戦争参加者一同に教会へ来るよう伝令がございます。そちらの異端者である二人にも含めて集うように、緊急の連絡です」

「ほぉ…態々そのことを伝えに、ここにきたと言うわけか」

「左様、もし集いを無視した場合は協会側の警告を軽視したと見なし、討伐指示が下されます」

「そうなりたくなかったら素直に教会へ行けってことかしら…随分深刻なようね」

暗殺者達は何もしてこない。それでもウェイバーとアイリスフィールは彼らに怯えている。

「なぁ、ライダーおい?」

「これ、坊主。連中も遥々ここまでやってきたのだ、しかも暗殺者とはいえ堂々と面と向かって話す度胸を持ち合わせているときた。

そして、王の言葉は万人に向けて発する者。

敵も味方もありはせん。

 

ほれ、さぁ遠慮は要らぬ!

共に語ろうとなら、ここにきて盃を取れ!

この酒は貴様らの血と共にある!」

「生憎ですが、我らハサンは宴に興じる身ではない。

故に、その杯手に取ることはできない」

「まぁそう言うではない。折角この集いに来たのだから、存分に聞かせてもらおうではないか」

 

彼らはいくらこの征服王に話しても無駄だと、霊体化してこの城から立ち去っていった。

「むぅ、中々堅物か…報告するだけして、余の誘いには乗ってくれんとはな。

まぁ、今宵はこの辺でお開きにしようか。

言いたいことは言い尽くしてであろう」

「征服王!まだ話は終わってな」

「貴様はもう黙っとれ。

今宵は王が語らう宴であった。

だがセイバー、余は貴様を王とは認めん…」

征服王は剣を掲げ、神威の車輪を出現させる。

「なぁ小娘よ。

いい加減にその痛ましき夢から醒めろ。

あの二人の言う通り、その願望よりも自らの幸福に目を向けるのも夢の一つだ。

その夢もまた、恥ずべき事ではない。

余もまた聖杯に受肉という些細な願望を抱いているのだからな。

 

さもなくば貴様は、いずれ英霊としての最低限の誇りすら失ってしまう羽目になる。

貴様の語る王という夢は…いわばそういう類の呪いだ」

「何だとっ…」

「んじゃ、姉さん。俺達も帰るとしますかー、森から冬木市への道案内たのむよ」

「あー…うん。雁夜さん達も行こうか」

征服王だけでは無く正輝達もこの場を立ち去ろうとしている。セイバーは正輝達も引き止めようとするが

「…貴様にも、まだ言いたいことが」

「止めたって無駄だぞ。もうお互いこれ以上話しても何の意味もないことぐらい分かるでしょ。聞きたくもない話をベラベラ喋るのはもう耳が痛いだろうし。

 

そういうわけだから、ここいらでおさらばさせて貰うからな」

「なっ…待て⁉︎」

 

投煙球を下に投げつけ、この城から無理矢理出て行った。森に用意された罠はシャドーで解除し、このまま冬木市の街へと去っていく。

「…正輝、これ以上言わなかったのは」

「いやなんかさ、船に同じ仲間がいるから重ねちゃうんだよ。似てても思考が違うのは頭で分かってるけど、言ったら言った分だけ俺も嫌な気持ちになるし。なんか船の中にいるセイバーに理不尽に暴言吐いてるみたいで胸糞悪くなる」

「あー…なら、何も言わない方がいいかも知れねぇな」

アーチャーも杏子も嫌な顔をしている正輝を見て察した。これ以上言うのは自分にも毒だと思い、あの騎士王とはもう喋りたくはなかった。

その一方で、道案内してる嶺は帰りの道中にあることを心配していた。

 

「明日、冬木市内を散策できなくなったね。

やっと合流できたのに」

「目の敵にされるのはもっとまずいだろ、桜ちゃんの身も案じないといけないし」

(あれ…もしかしてこれ止められた私より正輝の方が騎士王に結構ドきついこと言ってる?死体にマシンガン撃つよりもミニガンで滅多撃ちにしてない?

今後もしセイバー達と協力することになったら、大丈夫なのかなこれ)

騎士王達と連携を取ることになったら、お互い疑心暗鬼で真面に戦えれるのを。

こうして姉とは無事に合流できたが、暗殺者達の伝令から明日の聖杯調査よりも先に教会へ集合することとなった。

正輝と嶺達だけでなく聖杯戦争に参加している一同は教会に集まらなければ、報告を無視したとみなして他の英霊達を相手にしなければならない。

 

まず教会側から聖杯に、冬木市全体に一体何が起きているのかを聞くことから始めていくしかなかった。

 

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