正輝は起床し、携帯の電源をつけてスレを確認する。教会に集まるのは危険だという意見が多く、教会側が何か企んでいるのではないか、スナイパーがその知らせを聞いて袋叩きにするのではないかと戦々恐々としている。
(まぁ、普通は全員を教会に向かわせるとか、どう考えても罠とか思っちまうよな。
かと言って、無視もできねーし)
罠でないとしたら冬木市の状況について、今回の集合で教会から何か伝えられるのではないのかとも考えられる。
少なくても今日が、何か最悪な事態が起きるんじゃないかと。
(でも冬木市に霧?俺達は聖杯問答の帰りに街歩いててもそんなの見かけなかったが…たまたま見かけなかっただけで、実際はごく稀に見えない場所で発生してんのか?
まぁ実際…スレに書き込みがあるしな)
杏子が顔を出して、正輝の携帯を覗いていく。教会に行くかどうか、スレ民の反応を見ていろんな意見が飛び交っていた。
「なんか、見たところスレっつー反応からしてヤバそうだな。馬鹿正直に揃いに揃って教会に集合って…ホントに集まらせて大丈夫なのかよ。
集まったところをウチらも蜂の巣にされるくらいなら、やめといた方がいいんじゃねーの?
それが目的なら、唯じゃ済まねーだろ」
「だから、俺の分身体が教会に向かわせている…袋叩きにするんだったら、酒盛りしてるあの聖杯問答の時点で襲っているしな。もし仮に誰かが襲ってきても、5騎の群れに突っ込んだところで捻り潰されるだけだ」
スレ民の言う通り迂闊に教会に行くのは危険だと確認した上で教会へ向かう前に正輝は、シャドーに指示して周辺を散策させている。
仮にアサシン達が周囲を囲ったもしても、少なくとも姉側にはセイバー、キャスター、二体のバーサーカー、正輝側には黒沢ことアーチャーがいる。
マスター狙いでも企まない限り、アサシン達で奇襲を仕掛けるのは無謀に等しいもの。
「ま、襲ってきた相手がもし一番厄介なのはスナイパーとかっていう人物だったら話は別だけど…まだ会ってすらない。どんな切り札を持っているのか俺達は知らないし、全く皆目検討が付かない。
ビル倒壊させたのがスナイパーなら、おそらく攻撃手段としては魔術をメインには使わないだろうし…寧ろ銃火器使用してくる相手だから、狭い教会に集まるのは結構ヤバいし」
ホテル爆破が可能な相手なら、教会の知らせを無視しつつお呼びに出向かないまま、集まったマスター諸共爆破させる事だって造作もない。聖杯を欲するために、どんな手段でも厭わないのであれば尚更のこと。
正輝の影から一人、分身体が出現する。
「おう、戻ってきたか。で…どうだった」
『教会の周囲にはアサシンが徘徊しているのみで、他に外敵は見当たりません。
教会の周辺を同調解析したところ、爆破物はありませんでした』
「ご苦労、それじゃあシャドーを解除するぞ」
(仕掛けはなくて、周りにいたのもアサシンのみって…一体全体どう言う事だ?
何か企んでるのかと思っていたが)
シャドーの調査結果に不自然だと思いつつも、教会へ向かう支度をする。
「まぁ、聞いた通り問題ないってさ。
それじゃ行くとするか」
旅館を出て、正輝達御一行は地図を手に持ちつつ旅館を出ると、外は既に霧がかかっていた。
「確かに霧が出てきているな…昨晩とは違って街中に漂ってるからちゃんと見えてるが、濃い霧じゃない分、これなら目的地には着けそうだ」
なるべく外に出歩く時は細心の注意をするようテレビニュースで報道されていたことも。
(アーチャー、誰かに見られてないか?)
(気配遮断で気づかれないようにはしているが、君の分身が知らせてくれたおかげで私達をつけられているのは微かに感じている)
教会へ向かいつつも、アサシンは密かに隠れながら同行を監視しているだけで何も襲ってきていない。このまま道中襲われることもなく教会へと入ってくと
「おう!お前達もやってきたか」
「あれ、コレ俺たちが最後?」
「正輝達が最後だよー」
正輝達が教会へ入ると、既に聖杯問答に来た人達と、ケイネスとランサーも知らせを聞いて教会についていた。
姉達も傍聴席で座りつつ待っている。
「てゆうか、みんな素直に待っていたんだな」
「確かに罠だとも思っていたが、教会の召集に反したところで狙われるわけにもいかん。些か、もしかしたら…この霧の現状からその件に関することだろうかもしれんからなぁ」
アサシンを見張らせても手出しをしていない現状から、正輝達と同じく無事教会へ辿り着いていた。
「ケイネスさんは霧のことについて昨日から気づいていたの?
と言うより心当たりはある?」
「朝方に発生したあの霧のことか。
私は拠点から外を眺めて気付いたくらいだ。
が、魔術で人工的に作られたものでもない」
(んじゃあ、気候変動で発生したもの?
いやいや…そんなことで教会側が聖杯戦争の参加者全員を呼ぶか?)
魔力で形成された霧であるなら、とっくに魔力探知できる正輝と嶺が霧の発生について早く気付いている。魔術に関連した魔術でないなら自然現象による突然変異で発生したものなのかと少し考えていた。
ここにいる殆どがあの霧のことについて今朝知ったばかりだった。
「魔術系統じゃないか、まぁ…そうだよな。
じゃあみんなは、昨晩に発生した霧については何も知らないんだな」
「え?あの聖杯問答の時点で霧が発生してたの?今日起きたのかと思ってたけど」
「姉さんはスレを見なかったのか?
というより、あの霧のことについて何か知ってるの姉さん」
正輝達は霧のことについては何も知らない。
陽介と悠の二人が昨日発生したって言葉を聞いて、困った表情をしている。
「知ってるも何も…その霧は」
「皆さん…聖杯戦争中にお集まり頂き、ありがとうございます」
陽介が話そうとする前に、年老いた教会の人と綺礼が物々しい表情をしながら、みんなの前に出てきた。
「随分と慌ただしい様子だったが、なぜ我々を呼んだのか…この町で一体何が起きているのか詳しく説明してもらおうではないか」
「まず、ここにお呼びした経緯について説明を致しましょう。
昨晩の深夜頃から山を覆う霧が出現し、稀に怪物が出現していたことからアサシンが始末していたのですが、その霧は街にまで侵食していきました。皆様方もご存知の通り、この教会へ向かう最中に確認したでしょう。
貴方達がくる前の早朝でも複数もの怪物が街を徘徊していたのを確認し、アサシンの報告で確認済みです。しかし、発生源の山には黒いサーヴァントまでいることも確認しており、この霧がもし濃くなれば…聖杯戦争どころでは済まなくなる。
よって、本日を以て…この聖杯戦争を、中止することとなりました」
「は、はぁっ⁉︎聖杯戦争を中止って…霧から怪物が出現したってどう言うことだよ⁉︎それに黒いサーヴァントが出現したって」
「なんてこと…それじゃあやっぱりあの時の感覚は」
聞いていたマスターとサーヴァント達は騒然としていた。誰もこの戦争が中止になるような事態になるとは思ってもない。
昨晩にアイリスフィールの感じていた悪寒も、黒いサーヴァントがどこかで出現していたからこそ感じ取っていた。
「正輝さんの話と教会の人の話が一致している。それじゃあ…昨日から既にシャドウがでてきてるのか」
「かなり深刻じゃねーかよ!あんな大群が街に降りてきたらヤベーぞ!」
「あ、花村。そんな大声で言ったら」
二人が何か話ししているのを、他のみんなが嶺達に視線を向けていた。教会側ですら知らなかったことなのに、男子校生と一緒にいる嶺達があの霧の存在について何故知っているのかと口を開いていく。
「…シャドウ?あの霧のことついて、何か知っているのですか?」
「あの霧を引き起こしたのは貴方達なの?」
「知っている。でも話せば長くなるし、信じて聞いてくれますか?」
「お、おい悠…」
何も喋らなければ自分達と嶺含む雁夜達が疑われる。しかし、霧についてどこから話せばいいかも返答に困っている。
「知っているならば簡潔に話せ。
我々が今一番知るべきことは…その霧についてと、この聖杯戦争にどのように影響しているかだ。
霧が黒いサーヴァントも生み出しているとなれば、少なくとも聖杯が絡んでいるのは間違いないからな」
「あぁ…わかった」
ケイネスは二人に説明を促す。霧以外のことで長々と話されても、実感のない彼らにとって聞いても首を傾げるしかできない。
悠は首を縦に振り、霧のことについて簡潔に話を続けていく。
「元々、あの霧は人々の意思によって生み出されているんです。意思に反映し、もう一人の自分…シャドウを生み出します。
中には自分に似たもう一人まで出てくる時もありました。自制心は効かず、赴くままに暴走し、自分の心の内にある闇を再現したシャドウへと変貌します。
俺達は、自分と似たシャドウを相手に向き合って戦っていました。
けど、黒いサーヴァントの出現は聞いた事はありません。信じてもらえますか?」
「霧が出てきた時はシャドウしか出ないはずなんだけどよ」
霧のことは悠達がよく知っており、シャドウのみが暴れ回っていると思っていたが、アサシンの知らせで黒いサーヴァントまで出てくるなんて聞いたことがなかった。
「霧のことはまだしも、黒いサーヴァントを知らないと言う事は。この霧は、今回の聖杯と関係があるというわけか」
「この冬木市の状況は、悪い意味で我々の予測を遥かに超えている。
一刻を争う事態だ」
教会の地下から声が聞こえ、そこから階段を登る音が聞こえてくる。赤い杖を手に取って、姿を現した。
「遠坂時臣っ…!」
「雁夜さん、ステイステイ」
「そうか。あの霧のこと、シャドウのこと…二人の話を聞いたところ、今起きている現状を鑑みるに嘘でも冗談でも無さそうだ」
時臣の背後には言峰もいる。外で監視していたアサシンも教会内へと集められ、次から次へと出現していく。
時臣の視線が雁夜から桜の方に向けたが、その彼女は間藤に送られてなかった頃の、光り輝く眼差しをしていなかった。
「桜…璃正さん。話の続きを」
「今回の霧のことで聖杯と関連しているか詳しく調べたところ、第三次聖杯戦争によって混入したアンリマユによって穢れていたことが判明しました。
この場にいる英霊がもし全滅した場合…聖杯は満たされ、シャドウと黒いサーヴァントはありとあらゆる全ての元を蹂躙し、人類史は途絶えるととなるでしょう」
「なん…だとっ…では、聖杯を手にしても結局」
たとえどの陣営も聖杯戦争に勝ち得たとしても、世界を破滅へ導くような望まない結果で叶えられる願望器なのだとするならば、狂人でもない限り誰もその盃を手に取ろうと考えはしないだろう。
「まぁもしその聖杯で叶ったとしても、セイバーの場合はアーサー王がいた国そのものを丸ごと無くなるって事になるだろうな。
国そのものが変わるか、悪く言えば消えるかだけどな。その場合だとアーサー王伝説に関わった人達の存在そのものも無かった事にされるんじゃねーの?」
「私は…一体何のために」
「大袈裟に聞こえるかもしれませんが、今ここで報告したことは事実でございます」
今後聖杯の為に戦っても満足のいく結果にならないことにセイバーだけが勝手に絶望し、他は聖杯の話も釈然とはしなかったが、受け止めることしかできなかった。
「それじゃ何か。この霧で生じるのは怪物だけではなく、聖杯戦争に組み込まれたサーヴァントも複数出現するというのだな?シャドウ、黒いサーヴァントといった連中はここにいる集まったメンバーのみで相手しなければならなくなるわけか。
しかし、聖杯を巡って相対するはずだったが…まさかこのような事態になるとはなぁ」
(いや、誰も想定できるわけねーだろこんなの…スレ民の通り、最悪な事態を考えとけって書かれてあったが。俺達が知らない間にここまで悪化して…ここまでヤベー状況になってるとはな)
最悪な状況だということを聞いて皆がピリピリとしている中、ウェイバーが不安そうに手を上げて璃正に対して質問する。
「…じゃあさ、あんた達に何か対策はないのかよ。ただ報告するだけして、僕らを集めたわけじゃないだろ」
「はい。皆様に聖杯の破壊をお願いしたいく、お呼びしました」
世界の滅びを止める為に、聖杯を破壊する。聖杯戦争に呼び出された英霊は、少なからず叶えたい願いを抱えている。
「やはり、原因となる聖杯を破壊しなければ世界の滅びを防ぐことは出来ないか」
「仰る通りでございます」
「あい分かった。だがアーチャーよ、其方に聞くが確か聖杯問答の時に我の所有物だと言っていたな…念の為に確認しておくが、壊しても問題はないのか?」
「貴様…寧ろ誰かの手で既に穢れてしまった聖杯など、この我が欲すると思うか?」
「まぁ…そうさなぁ。聖杯が満たされても世界規模で滅ぼされたりでもしては…これでは受肉しても征服する国が無くなってしまうでは本末転倒だ。
聖杯そのものが全ての領土を奪ったのも同前」
英雄王も前までは聖杯を手にしたいと望んでいたはずが、話を聞いているうちにその意欲が失っている。嫌そうな顔をしつつ、聖杯に対する興味は無くなっている。
(…聖杯の破壊でどうにかなるレベルかこれ?
確か聖杯の泥ってセイバーの宝具で壊しただけでも冬木の大災害は免れなかったし。
英雄王がいても少人数じゃ…これ、防ぎようがなくね?)
「いや、璃正さん…だったか?
多分、聖杯を破壊しても手遅れだと思う。
話を聞く限り霧が各国で蔓延してるってことは、仮にもしその影響が世界規模で徐々に聖杯の泥を増していくことになっていたなら一人二人…いや少人数程度の宝具でも完全に破壊する事は絶対に不可能だろ。
もう少し調べた方がいいんじゃ無いのか?」
聖杯を壊せば、世界の滅びは止まるという言葉に正輝は気がかりだった。それだけで済むのなら、いまここにいる英霊の力技でどうにか出来き、アサシンに案内させて元凶を叩けば良いだけの話。
しかし、壊したところで泥が宝具でも処理しきれないほどの量が降り注がれたら誰も止めることが出来なくなるのではと。
「まさか、ここにいる英霊でも処理しきれない程の泥を杯は溢れかえっているとでもというのか」
「…あれ?それなら宝具で聖杯壊しても地球滅亡しちゃうね」
「ちょっ、呑気なこと言ってる場合かっ⁉︎
だったら一体どうしろっていうんだよ!
聖杯がある限り化け物と黒いサーヴァントが無限に出現して襲ってくるだろうし、かといって聖杯を壊しても世界規模の厄災で滅ぼされるなら僕らどうしようもないじゃないか!」
ウェイバーの言う通り、壊しても壊さなくとも世界が滅びを防ぐこともできず、どうすることもできない。
聖杯が元凶だと分かったとしても、滅びの運命を変える手段が何も無ければ手の打ちようがない。
「もう既に、この教会にも濃い霧が覆っているようだ。
この場所も安全とは言い切れない」
窓から見えていた外の風景が霧であまり見えなくなり、教会の中にも霧が入り込んでもおかしくなかった。
「悠…この霧ってやっぱり」
「あぁ、マヨナカテレビと同じ」
「魔術の結界で霧を遮っていますが、怪物の目は誤魔化せても、魔力を探知できる黒いサーヴァントではいずれ結界に気付いてしまいます。
時間の問題でしょう」
「逃げ場すらないのか、これ…ん?」
霧で外が見えなくなった時に、嶺と正輝のポケットに入れていた携帯から着信音が鳴る。
すぐさま手に取り、電源をつけるとメールが送られていることを確認する。
(ちょっ、メール連絡⁉︎一体何でこんな時に…俺達が介入した時には船と繋がらなかったはずじゃ)
二人ともメールを開き、内容を確認すると、以下のように任務が記載されていた。
ーーーーーーーーー
【緊急任務】
*聖杯を初期化しろ
聖杯と、それに生じた霧によって船とその世界の通信が阻害されている。
以下の行動は使用せず、達成条件を元に行動するように。
聖杯の破壊(泥によって地球滅亡)
対界、対城宝具使用禁止(使用した場合は空間に歪みが生じ、結界が崩れていく)
ただし、対人宝具は使用可能
達成条件:岩谷嶺のデータドレインで聖杯を初期化させること。
敗北条件:1.嶺の死亡、間藤桜、アイリスフィール、イリヤスフィールが聖杯に取り込まれる
ーーーーーーーーーー
こんな時に限って、連絡が来るとは思ってもいない。何かの結界が張られているということも、このメールで今さっき知った。
(結界が張られているだとっ⁉︎スレも確認できないし…つーか何でイリヤもいるんだよ⁉︎
イリヤって、確か冬木市じゃないアインツベルン城で頑丈に保護されてたんじゃないのか⁉︎)
結界が張られていることで、スレを確認することも出来なくなっていることから外部からの連絡が強制的に遮断されている。
(スレも確認できなくなってやがるっ…)
「この霧に人体への害はないのか?」
「害はありませんのが…視界が霧に遮られます」
「俺達はこのメガネで見えるようにしてるんだ。でも、人数分はちょっと…」
悠達と嶺のみしかメガネを持っていない。
正輝は携帯をしまい、すぐさま二人に声をかけつつメガネに目を向ける。
「それならさ、ちょっと二人のメガネを貸してもらって良いか?大事なことなんだ」
*****
「そんな…誰も繋がらない」
「アイリスフィール?どうしました」
「切嗣にも、舞やさんにも繋がらないの…」
正輝が携帯で確認している最中に窓際の近くにいたアイリフィールが、通信機を片手に何かそわそわしている。彼女の様子にセイバーが駆けつけつつも、まだ青白い顔で焦っている。
「落ち着いて下さい、アイリスフィールっ」
(繋がらない?どういうことですか…)
事情を説明しようにも、明かせば良いのだろうかと二人は困惑する。事情を聞こうとしても、誰かにことの事情を話すのは難しかった。
「どうしましょうセイバー…このままでもイリヤが」
「闇雲に城へ戻っても外の霧で視界が遮られている。黒いサーヴァントもいるのが本当ならば…アイリスフィール。貴方もこの境界に出るのは危険だ」
(黙秘して迂闊に動いても、怪しまれるだけ…これでは)
二人に連絡つながらず城に置き去りになっている状況下、置き去りなままの娘の安全が危うい。アイリスフィールは瞼を閉じて、まるで何かを諦めた顔をしながら、この場にいる全員に正体を明かすしかなかった。
その時だった。
「…私は、正式なマスターではありま」
「あのー、みんなにあの霧を透視できるメガネを渡します。このメガネは二人の持っているもので視界を遮る霧も見えるようになっておりますので、自分で取りたい人はこの箱から取ってくださーい。
投影したものを用意していまーす。
あ、二人には許可もらってますので」
正輝が悠と花村にメガネを貸してもらい、人数分のメガネを投影魔術で生成して配っていく。
時臣は正輝という男が投影魔術で複数もの物品を形成したことに驚いた顔をしている。投影魔術そのものが高度な魔術でなければ、物を生成することすら難しい。
投影で作成した物を見て、英雄王は嫌そうに贋作などいらんと断っていたが、
「いやまぁ、嫌ならそれでも構わないけど…霧の中で何も見えないまま四方八方から蹂躙されるよ。どんな王でも全方位に目があるわけじゃないんだし。
いやそれはそれで気持ちが悪いけど」
「この我に、その贋作を身に付けろというのか」
「穢れた聖杯から生み出された刺客から不視界にも全方位に襲撃されて蹂躙されるの、贋作といっても目障りな霧に欺かれることなく滅びの運命に抵抗できるの…どっちが良いの?」
「フン…まぁいい。贋作をこの我に渡す度胸を讃え、赦そう。光栄に思うが良い」
(セイバーよりも、こいつの方が苦手なんだよな)
元々上から見下すような高圧的な態度には苦い顔をしたくもなりそうだったが、なんとか赦しをもらった事で眼鏡を渡し、困っていたセイバー達にも向かう。
メールで確認したイリヤについて、メガネを渡すついでに情報を聞き出せればと考えていた。
(さてと…この二人にメガネは渡すけど。
イリヤのことはどう聞けばいいか…?)
「お二人さん、何かあったの?」
「貴様には関係な「いいのセイバー…この事情を少なからず理解しているなら話して起きましょう」
しかし、アイリスフィール」
身の潔白を明かすために言おうとしていたことを、ちょうど正輝が他のみんなにメガネの手渡しをするように遮ってくれたおかげで明かしていく。
城に娘がいて、守ってくれる人がいないことも。
「え、城に娘って…ちょっとそれ本当ですか?
何で俺にそんなことを」
「私が機能不全になったことを考慮して…ナハト爺様からイリヤも連れて行くようにと。
私達以外にもその…城の護衛がそばにいるはずなのだけれど彼らとは連絡が繋がらなくて。
それに霧のことで何か手がかりを知っているなら、貴方とそこの二人にお願いしたいのだけれど」
二人は小声で話しをしていた。
アイリスフィールは切嗣と舞弥については正直には話さず娘の護衛だと暈しつつ、助けを求めていた。
「その…貴方の娘さんことイリヤが聖杯の器になってもアウトなんだよ」
「どういうこと?
どうして貴方にそんなこと」
(あー…携帯のメールでそう書かかれてましたって言えねーしな)
正輝は口籠もり、何も喋らずにどう伝えたらいいかを頭の中で模索ながら、少し時間をおいて話した。
「…えーっとさ。ここまで霧が濃い上に、黒いサーヴァントが何体か街を徘徊してるなら聖杯そのものは深刻なことになってるんじゃないのか?
もし聖杯の器がどんな物でも取り込まれた時点で滅んでしまうのなら…聖杯の器であるイリヤと貴方も、そして桜も候補だから…死守しなければならないんだ。
もう一度言うがこの3人がいくら些細な盃でも取り込まれたら、聖杯は完成して泥が地球全体を覆うことになる。
そうなったらもう一貫の終わりだろ」
「これから貴方達はどうするの?」
「うちの姉の能力で聖杯を初期化させる。
そうしないと俺ら全員まとめて死んじまうし…人数差があるから、まぁまずはみんなに協力を仰ごうと思ってる。
イリヤって子について…俺も完全に動けるとは限らないかもしれないからまず姉と雁夜さんに頼めるか聞いてみる。
それでいいか?」
「そう…でも、言峰っていう人は信用できないわ…あの人には感づかれないようにして」
(あー、うん。なんとなく分かる。
俺も苦手だわ、響とは別の意味で)
アイリスフィールが嫌そうに言峰を二度見つつ、概ね察した。
正輝もまた声をかけたギルガメッシュ同様にあまり好きではない。他人の不幸で愉悦に浸り、聖杯で大災害を引き起こした一人なのだから彼女の嫌悪な表情に納得する。
若い頃の言峰を見ても、無表情の反面にあの愉悦の感情を密かに抱えている、いないにしても立花響とは対称的に何考えてんのか分からないのだから。
「最早、今の聖杯が願望器ではなく厄災しか生み出さないことを知った以上…誰も手に取る者はいないだろう」
(約一名を除いてはだけど。大丈夫なんだろうな…一応シャドーを忍ばせて動向を見張るか。
つーか、側にいる凛の父親…時臣だったか?
なんか異変に気づいた私すげーって意気揚々にしてるけど…以前、言峰の変貌に全く気づけなかったってマジでコイツの頭堅物魔術師マニュアルブックかよ…凛と桜には同情するしかねぇわコレ)
時臣が言峰の、彼の異様な変化に気付いていない鈍感だというのならば英雄王と手を組んで裏切るのは如何に容易かったことか。
魔術師としての常識だけしか頭に入っておらず、予想外なアドリブになると不足の事態に対応できずに失態する。正輝も他人のことは言えないが、最低限もし英雄王を召喚するなら慢心する性格とその扱いについてある程度は予測することは可能だっただろう。彼なりに英雄王を配慮したつもりかもしれないが。
終いには信じて送り込んだ娘を蟲の巣窟に放り投げられ、地獄に送り込んだなんて考えもしない。一歩間違えれば彼女自身が黒い聖杯となり冬木どころか世界を破滅へ導かねなかったとは思ってもない。
遠坂家として、魔術師として正しいと思いつつやった結果が、二人に裏切られて暗殺され、第五次では実の娘が地獄を顕現させることになってしまう。
父親の無能さに、溜息をつきつつも凛と桜に同情しそうになる。
(それじゃ、みんなに方針聞いて回るか…)
「えーっと、すみませーん!もう聖杯戦争どころじゃなくなった以上、全員の今後の方針について共有した方がいいかと思います。
私が勝手に割って入るのは差し出がましいと思うかもしれませんが、どうかご了承ください!
…璃正さんもそれでいいですか?」
「あ…あぁ、ここで我々が燻っていてもどうしようもない」
(聖杯戦争の殺し合いに参加してるんだから、この中で誰かが指揮系統をとっても不味いし。
気に食わない奴もいるだろうし)
「まず、雁夜さん達は桜ちゃんの護衛だよね」
「あぁ。当たり前だ」
「俺達も一緒にいるように嶺さんから指示を受けてるからな」
「それなら…俺がもしいなかった時のために、ちょーっと頼みたいことがあるんだけど、いいか?
…彼女が子供を連れてるらしいんだ。
この事件絡みで巻き込まれそうになってるから、どうにか助けられるか?
セイバー達も手助けしてくれるだろうし」
悠達も彼と同行し、桜は雁夜の手を強く握っている。正輝はそんな雁夜が小さな子を大事にしているのなら、頼みを聞いてくれると信じつつ小声で話を持ちかけた。
「子供を拠点に置いているだって?
そもそも聖杯戦争に連れて行ってるって…何で」
「分かってる。些か怪しいって思うのも。
でも、この状況下で下手に彼女らの事情には首を突っ込みづらかったしな。
話によると城にいた護衛とは連絡が繋がらないみたいで、大慌てしてたそうだ」
「…嘘ってことは?」
「嘘なら言う必要はない。仮に罠に嵌めるなら、この教会で集まった時点で袋叩きにしている。
姉さんと、悠達にもこのことを話して欲しい」
「まぁ…分かった」
雁夜が怪しく思うのも仕方のないことだった。この戦争に桜のような子供まで連れて行くなんて何か事情がない限り、危険な場所に連れて行かせるなんて親ならしない。
時臣ですら凛を戦場になる冬木から遠ざけたのだから。
ーーこの時はまだ、雁夜に頼んでいる時、正輝は横目で姉がじっと携帯を眺めているのを確認した。
「で、ケイネスさんは拠点でソラウさんが待ってるから向かうとして」
「勿論だ。外が危険ということは、私の拠点も危ういのだからな。
方針が決まったらすぐに向かうつもりだ」
(まぁ、ランサーに制限をかけられる必要はなさそうだし水銀先生も怪我を負ってるわけでもないから問題ねーか…)
ソラウの救出はケイネスとランサーの二人で拠点へと戻ることとなる。
「皆さんにメガネを渡すだけではなくもう一つ、お願いしてほしいことがあります。
高位の魔術師ならご存知かも知れませんが、この冬木全体には結界が貼られております。
間違っても広範囲の宝具を使用しないようにしてください。宝具を発動した場合はこの冬木市に貼られてある結界が耐えきれず、歪みが生じてしまいます。
もし歪みが生じれば泥が冬木を、世界を覆い尽くすこととなります」
正輝が仕切る形になっていく。
彼らは願望器の為の殺し合いをやっているのだからただでさえ疑心暗鬼なのだから少なくともあの霧についてある程度関与している人ならと。
(あーもう、ホント説明疲れる)
「時臣さん達はこの状況の収集をするとして、それじゃ姉さ…あれ⁉︎
一緒にいた姉さんは⁉︎」
「そういえば君の姉さんがいないな」
「はぁ⁉︎」
さっきまで桜の近くで携帯を見ていたはずの姉が、突然いなくなっている。正輝は急いで正面の出入り口を開くと、両翼を広げた銀髪の男が小さい姉を抱えつつ、どこかへ向かおうと飛翔していた。
(ちょっと待て⁉︎
まさか一人で向かったんじゃ)
「よし。ジークー、ゴーっ!」
「イヤイヤちょっとぉぉぉっ!姉さんタンマタンマァァァァッ⁉︎
戻ってコォぉぉい‼︎」
案の定、悠達を置いて独断専行で聖杯のある場所へと向かっていく。
一人なら何とかできると判断し、彼女はサーヴァントだけを連れて外に出た。
「あぁもうっ、考えなしに行ったな⁉︎
俺達も姉の後を追うぞ!」
「ちょっと待ちよれ、お前達。
姉の元へ向かうならば、余も連れて行け」
杏子は赤のメガネ、エミヤには黒い伊達眼鏡を用意しつつ、急いで姉の元へ向かおうとするも征服王に達止められてしまう。
「…連れてけって、なんで?」
「怪物やサーヴァントが外に徘徊しているというのが仮に本当なら、生身の人間が無謀にも外に出るのは危険だからな」
「お前、まだ僕は手伝うなんて一言も」
「まぁそう言うでない。もしかしたら勝手に飛び出したのも考えがあってのことなのだろう」
(そういう風には見えなかったけどなー…あと雁夜さんと嶺の仲間には後で謝っておこう。
ちょっと姉を止めに行かないといけないから)
そう言ってライダーは剣を振り上げ、
「何人まで乗せられる?」
「まぁ…二人までなら何とか」
「…出てこいアーチャー、緊急事態だ」
霊体化したアーチャーを、隠していた令呪も二人に見せる。
「明かしても良かったのか?」
「もうこんな状況だ。隠しても仕方ないだろ…二人は征服王の戦車に乗れ。杏子は二人の護衛、アーチャーは黒サーヴァントの中に狙撃や飛翔している奴がいたら狙い撃て」
「お前…⁉︎サーヴァントを隠してたのか」
「隠してたのは謝る。
そうでもしないと怪しまれてたからな。
この二人を頼む」
敵に襲撃されて宝具を失えば、忽ち空を飛行しながら移動することはできなくなる。この状況で失ったりでましたら、大きい痛手になる。
二人を乗せ、ライダー達の守りを固めるように指示した。
「二人目のアーチャーか、どうやらこの聖杯戦争は何かおかしな事になっておるのは確かだな。
二人を乗らせるのは良いが、お主はどうやって姉の元へ向かうつもりだ?」
「投影開始」
正輝はジェットスライガーを投影し、目の前に出現させる。それに騎乗し、システム動作を確認していく。
「…これって、魔術で乗り物を作ったのかよ⁉︎」
「おぉ見ろ坊主、このバイク浮いておるぞ‼︎
こんなものまで作れるのか⁉︎」
「正輝…いつの間にそんなものを」
「竹成先輩に貿易で拝借させてもらったんだよ。起動は…よし、問題ない。
あの二人のメガネも問題なかったみたいだし…介入する前に特訓した甲斐があったな」
SF映画でも見たかのように、征服王は目をキラキラとしている。対してウェイバーの方は正輝を見て、驚愕するばかりだった。
「こんなの滅茶苦茶だ⁉︎アーチャーを使役して、その上飛べる乗り物まで投影魔術で再現出来るなんて‼︎」
「二人とも色々と俺達に聞きたいことは山程あるだろうが、今は多めに見てくれ。
まぁ、この大惨事に協力して無事終えたら、一台くらいは無償で用意しといてやる。
まぁうん、騎乗スキルを持ってるなら使いこなせるだろ!」
「ほぉ、その約束乗った!」
正輝はジェットスライガーで、アーチャーと杏子はライダーの宝具に乗って姉を探す。視界を遮っていた霧はメガネをかける事で見えるようになっていく。
「な、なんだよこれ…」
ウェイバーが街を見下ろした光景は、凄惨なものだった。
ーー街の地上にも空にも仮面をつけた怪物が徘徊している。地面から壁から続々とシャドウが集まっていく。
彼らは正輝達を察知し、何体か立ち塞がる。
「目の前の障害を倒して、さっさとウチの姉を探す!
杏子もアーチャーも存分に力を振え!」
「っし、よーやっとアタシも暴れれるな!」
「了解した、マスター」
「応とも!では坊主、そしてアーチャーと義理の妹も何かに捕まれ!
AAAALaLaLaLaLaie‼︎‼︎」
敵を雌牛と稲妻で吹き飛ばし、ジェットスライガーに搭載されてあるミサイルで爆殺する。杏子も魔法少女に変身し、アーチャーは左手で柵を持ったまま右手は干将を投影する。
敵の群れに突っ込みながら、彼らは姉の元へと向かって行くのだった。
878.名無し魔術師
さぁどうなる。
879.名無し魔術師
必ず紅茶と林檎は連れて行った方がいい。
880.名無し魔術師
朝になってもまだ霧が漂ってるし
881.名無し魔術師
怪物が街に出現したら収集がつかなくなるぞ
882.名無し魔術師
聖杯戦争どころじゃなくなってて草
883.名無し魔術師
>881.
俺らも巻き込まれたら、他人事じゃ済まない
884.トリッパー
いよいよ教会に行くわけだが、周囲に暗殺者達がいたの確認した。
885.名無し魔術師
やっぱ罠張ってるじゃないっすかヤダー
886.名無し魔術師
お姉さんも行く感じ?
887.名無し魔術師
あかん、もし罠が本当でトリッパーが死んだらこのスレが終わっちまう。
888.名無し魔術師
スレ主どころか、俺らもヤバい状態にいるわけだから
889.名無し魔術師
霧って世界中?
900.名無し魔術師
>889
世界中だから日本から出ても逃げ場はないぞ
901.トリッパー
まぁ罠かどうかは分からないし、三人で教会に行ってくるわ。分身に調査させて、征服王達も水銀先生もいて問題ないことは分かったし。
902.名無し魔術師
まぁ、気をつけろよ
903.名無し魔術師
教会から無事生還したら、またこのスレで教えてくれ。
ーーーしかし、スレ主ことトリッパーは901での投稿以降、結界が展開されたことで突如連絡が来なくなった。