Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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80話提案

「…あの少年、教会へ飛び出して行ったが」

「それだけではない…ライダー達まで、なんて身勝手な事を」

 

正輝達が姉の後を追い、他は教会に残っていた。

この状況を取りまとめる人が可能なのは協会側の人達と遠坂家のみで数が少ない。

外は化け物と黒いサーヴァントが徘徊している。

こうして教会にいる全員が動けないのは、互いの腹の探り合いと疑念で何も進展しないからだ。

 

「…今ここにいる我々はお互いを疑心暗鬼するわけにはいかない。皆、聖杯戦争のことは一時忘れ、皆が手を組むべきだ。

 

ここに長居しても…結界は破られ、奴等は教会の中へ侵入してくるだろう」

 

時間が経っても、状況は悪化するだけ。

そんなことはこの場にいる全員が分かっている。

 

シャドウ達が教会の中に人がいることに気づいてしまったら早く結界が破られてしまう。

窓から、出入り口から、壁と地面から出現し、泥に飲まれる前に数の暴力で押し負けて全滅する。

かといって英霊が広範囲に及ぶ宝具を発動したら、正輝の言う通りこの霧に張り巡られている結界は崩落していく。

 

その崩落でも、世界が滅ぶ。

下手に、強力な宝具を使用することはできなかった。

 

璃正が皆に聖杯戦争のことは考えずに、協力を仰ごうとしても

 

【一同、頭では分かっているが納得できない。釈然としない】

 

この聖杯戦争に参加しているはずの魔術師殺しが全く見当たらないのも不自然だった。彼が動くのなら、集まったところを叩くはずだが、結果的にはそうならなかった。

 

不在の時にシャドウに襲われるか、救助に向かっても教会の話に耳を傾かずに聖杯を諦めないと考え、背後を取られ、人質に取るのではないかと。

 

「残念だけど、私達は急いで城に戻る必要があるの…」

「私も、もう一人を拠点に置き去りにしている。共闘の話はその後でも良いかね?」

 

アイリフィールは自分だけではなくイリヤと切嗣を脅かす言峰を、ケイネスは不在の魔術師殺しに警戒している。両陣営とも、拠点に置き去りだから一刻も早く助けに向かわないといけない様子だった。

 

これで、冬木の統治をする為に参加者を統制する必要があるが、平然な表情をしつつも、聖杯戦争の終了を引き起こすほどの想定外の状況に内心はかなり混乱している。

 

「不味いな…」

「ええ、不味いですね」

 

英雄王はシャドウと汚れた聖杯を不快に思っているため、協力や最低限の指示には従うが、もし彼の怒りを買う形になって乖離剣といった広範囲の宝具を開帳する事態になれば令呪で止めなければならない。

ハサン達の人数分のメガネも用意しておらず、広範囲の探索も難しい。

 

雁夜は桜を守っているだけでもありがたいが、状況から察するに葵達も無事かどうかも分からない。冬木から離し、この聖杯戦争に巻き込まないように身内の安全は出来たと確信したのだ。

このままいけば、せっかく教会の指示で集めたマスター達は勝手に分断して動くことになる。

 

そんな時、一人の男子高校生が手を挙げた。

 

「あの、皆さんから俺に提案があります」

「…何だね?」

「この怪奇現象をどうにか出来るのは、知っている俺達だけだ。聖杯戦争を取りまとめている神父の話を聞いても立ち止まっているっていうなら…この場の全員が、一体何に困っているか聞きたいんだ」

 

悠が手を挙げ、全員の視線が向けられる。

ピリピリとした空気に動揺するも、悠は嶺と正輝の二人が不在の状況を打開できるのは俺達しかいないと陽介がフォローし、声を張って伝える。

 

「まずこの現象でどうしても拠点に戻らなくちゃいけないのが約2名いるのなら、俺達がついて行く」

「ここにいる全員にメガネを貰っているのだから、別について行かなくても良いはずだ」

「霧は、視界を遮るだけじゃなく異空間化されてる所もあるんだよ。あのシャドウって化け物には自分と瓜二つの…ドッペルゲンガーみたいなのもいるんだ」

 

霧のことについて詳しく知らずに外に出るよりも、彼ら二人が一緒について行った方が道に迷うことがない。

 

「私の方は、広範囲に探索できる。

手助けは不要だ」

「その拠点までも異界化したら、探すのはとても困難になる。

取り返しがつかなくなる前に、俺達が力になって」

「…そう断言できるのは、何かしらの能力を備わっているということだな?あの怪物供と戦える、この霧と深く関わっている能力を」

 

ケイネスの質問に鳴上達は頷く。

正輝の姉と同行し、間接的とはいえ聖杯戦争に関わっている以上ただの高校生ではないのは察していたが、正輝と嶺がいない代わりに鳴上悠が取りまとめるしかなかった。

マヨナカテレビのことについて黙秘してても、教会に集められた彼らは行き詰まったまま結局独断行動をすることとなる。

正輝と嶺達だけでこの事件を解決しようにも、余りにも人数不足。だから二人は話せれる範囲で協力に携わり、事を解決しようと動く。

まずは全員が協力できるように、と。

 

「俺がアイリスフィールさんに、陽介がケイネイさんの拠点に同行します」

「足手まといにならない自信は…いや、無ければ言うわけもないか」

「大丈夫です、自分の身は自分で守れます。

それに霧のことで詳しい人がいたら助かると思ったから」

 

霧のことについては嶺達以外、知る由もない。

あの霧のことで概ね二人がよく知っているのなら、よく分からず路頭に彷徨うよりは一緒にいた方が心強い。

今の目的は敵を倒すのではなく、救出が目的。

「では、各マスター全員はこちらに来て下さい。

お渡ししたいものがあります」

「ごめんなさい…私の方は事情があって受け取れないの」

 

右腕の袖を捲り上げると、何本もの令呪が刻まれている。ここに集まっていたケイネス、言峰、時臣、雁夜の四人に一画ずつ与えられる。

アイリスフィールは令呪を受け取ることはできても、この歪な状況で聖杯の一端である令呪を受け取れば身体にどのような悪影響を及ぼすか分からない。

 

「私と言峰が出来ることは、拠点となるこの教会を守ることとなった。

全員が合流するまで、ここを死守する。

それで良いな」

「はい、父上」

 

言峰が教会に残ることになっても、アイリスフィールは睨みつけつつも警戒している。令呪の受け取りは代理マスターの為に入手することは出来なかったが、言峰が一緒に同行しないだけでも少し心が軽くなっていた。

 

「アイリスフィールさん」

「綺礼と一緒にいかないのは助かったけど…切嗣とイリヤが心配だわ」

 

城にいる切嗣・舞弥とは連絡が取れず、子供の安否も不明なまま。

城へ向かい、三人の安否に向かうこととなる。

 

「セイバー…釈然とはしないが、聖杯戦争は終わってしまったようだ。あの時の決着もまたついていないまま、この戦いで散るのは俺としては本意ではない。

左腕が負傷している以上、万全を期して戦えないのならば俺の槍を」

 

一方、不安げなランサーはセイバーに話をかけていた。

聖杯戦争が中断され、お互い殺し合う必要は無くなり、今は生き残るために協力し合っている。

それでも戦争とは関係なしにあの時の戦いの続きを望んでいたかったが、この状況でもし片方が消えれば雌雄を決することもできない。

彼の視線は、傷を負った手に向けていた。

「案ずるなランサー。

この痛手あっても、戦闘に支障はきたさない。

寧ろ、この状況で宝具を破棄して困るのは其方だ」

「そうか…感謝する、セイバー」

 

彼はセイバーの身を心配していたが、彼女の方は得意げに問題無いと答えた。

彼女は倉庫での戦いで手傷を負ったが、万全でなくとも戦える余力は備わっている。

どの道広範囲での宝具を使えない状況だから左腕を完治させなくてもそれなりに対応でき、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を破棄する必要もなかった。

 

また別のところでは、二人の男が揉めていた。

妻子が安全な場所にいると教えても、雁夜は納得していない。間藤家をろくに調べようとはせず、自慢げに桜を送り込んだ彼の言葉など全く信用できなかった。

 

「凛と葵さんがもしこの現象に巻き込まれたら危ないだろ!今何処にいる!」

「何度も言わせるな。聖杯戦争が開始する前から冬木市に遠ざけている。

この霧の影響を受けているのはこの冬木だけだ」

 

時臣が知らないところで、安全だと思っていたはずが危険に晒されている。冬木市以外にもシャドウ達が出現すれば、身を守れない二人はなす術もなく逃げるしかない。

 

 

「現に桜がどんな目に遭ったかすらも知らない癖に…お前の持つサーヴァントでも扱いきれていないじゃないか。

これの一体どこにお前を信頼できる要素がある」

「むしろ契約どころか、許嫁なくらいもうお互いマスターのことを信頼してますから!

私、この戦いが終わったらマスターと結婚す「変な誤解を生むからやめてくれ…」」

「貴様っ…!」

 

そんな話を聞きつつも英雄王は時臣に対して興味はなく、無反応だった。時臣が扱いきれていなかったのも本当のことであり、サーヴァントとしての信頼など英雄王の気分次第でいつでも裏切れる。

 

そもそも英雄王自身が殆ど単独行動で動いているため、指示を聞くにしても多少小耳に挟むくらいのことである。

 

雁夜は信頼どころか寵愛に尽くしている玉藻。

桜にも誤解を生む形になっており、彼女がゴリゴリに押して押して愛を育もうとしている。

雁夜は頭を悩ませてはいるが、お互いの信頼関係はかなり良かった。

 

対して時臣は英雄王を呼ぶことはできても、その王の評価はつまらない男と逆に顎で使われている。王は慢心でプライドが高く、一々頭を下げてお願いしなければならず、契約はしていても主従関係は逆転している。

 

魔術との差は歴然としているのに、サーヴァントでの関係はどうしてここまで差が広がってしまったのか、時臣は何も言い返すことができない。

 

まるでカップル(好いている玉藻とその愛でクタクタな雁夜)の様子を見せつけられて時臣は気に入らなかったが、二人の愛の光景よりもアサシンの一人からの伝言を聞くと一気に血の気が引いてしまうのだった。

 

「…報告しますっ!別居させた遠坂葵、遠坂凛の二人が、冬木市に発見しました‼︎」

「なんだとっ⁉︎」

「だから言っただろうが!

やっぱり確認すらしていなかったんだなっ⁉︎」

 

安全に送り込んだはずの二人が、どうして冬木に戻っていたのかも分からない。

この霧が冬木にワープさせたのか、二人が何かしらの術を受けて強制的に冬木に帰ってしまったのか。

いずれにせよ、その二人も助けに行くことに変わりなかった。

 

「我々百の貌のハサンの内、一割の人数がこの霧で行方不明となっております。令呪を使えば全員をこの霧に戻すことが可能ですが…」

「お前達…なぜ全員がいないことを伝えなかった」

「化け物共の退治は容易かったのですが、後に黒いサーヴァントが出現したせいか、逃げ惑うばかりで混乱に陥っておりました」

「恐らくは場所によって敵の数が変動するとは思っておりませんでした。

シャドウの存在が発覚したときは冬木の市街地や大橋周辺は対し問題なく帰還しましたが、そのとき二人を監視していた場所には既に黒いサーヴァントも出現したことで報告も遅れたかと。

 

帰って来れなかったのは、不測の事態に対応できなかったことです。一部の人数が怪物のみと侮った慢心を抱き、かえって仇となりました。

申し訳ございません」

アサシンも他愛なしと怪物を舐めたかったが故に、サーヴァントまでいるとは思ってもいない。

宝具自体が100体いるというだけで、強い武器や技を持ち合わせているわけではないのだから凛と葵を監視している間に事態が急速に悪化していった。

「馬鹿なっ…ならば葵と凛は」

「濃い霧で消息も…守れてるかどうかすら」

「なら、俺が凛ちゃんと葵さんを助けに行く。

桜ちゃんは教会に残ってほしい」

「うん…分かった」

余裕な表情で状況の報告していた彼だったが、いざ自分の身内が危険になるとだんだん青白くなっていく。

巻き込ませないようにさせたはずが、桜と同じように結局知らないところで危機に瀕していたことも。

「…時臣、俺は葵さんや凛ちゃんのことをお前なんかに任せたくない。

結局魔術師の貴様と魔術の枠から抜けた俺では価値基準も違うんだろうし、二人がこんな目にあっても、信用してるなら言及なんてできない。

 

 

でも、これだけはハッキリ言わせてもらう。

もし助けに行ったとしても、今後とも家族の幸せよりも魔術の血統を最優先し続けるのなら、お前に二人を導く資格なんてない。

 

『お前にとって都合の良い物』じゃないんだよ」

「くっ…!」

雁夜は時臣の惨めな姿に哀れだと思い、深くため息をつく。

いくら今回のことで時臣に言及しても無駄だった。

彼が遠坂家の魔術に欠かせない考えを第一にしているのならば、凛も桜も魔術に精進し、その能力を開花させるためなら姉妹同士で殺し合わせても本望だという価値観を未だに抱いているのなら、母親も娘も魔術の道具扱いにしか見ていないのと思われても当然だった。

 

「言峰、兎にも角にも今すぐに令呪で戻した方が良い…私から特別にもう一画増やす。ここを集合地点としている以上、死守しなければ安全な場所はもう何処にもない。

 

申し訳ないが…皆さんも、それで納得して頂けますか」

「異論はない」

「ここが全員の拠点になるのだから、もう何処にも安全な場所がないものね…」

ケイネスとアイリスフィールは、その話を聞いて言峰の令呪追加に納得するしかなかった。

冬木にはシャドウサーヴァントとシャドウが無数に出現しており、なるべく仲間を減らさないようにする為にも教会に戻すしかない。

 

「では、皆様の方針は決まったならば、ここに留まる者達以外は解散しても大丈夫です。

どうかご武運を祈ります」

 

この教会以外の安全な場所はなく、外に出れば戦場と化す。敵の群れが床から壁から虫のように湧いて出現し、四方八方襲撃してくる。

(イリヤ)愛人(ソラウ)妻子(葵と凛)、守るべき人達の助けへ向かう為にそれぞれの場所へと動くのだった。

 

*****

 

正輝達は敵を撃破しながらも前進している。情報通り、シャドウサーヴァントも出現し、飛んでいるシャドウを踏み台にして襲ってくる。

 

アーチャーが真上から鷹の目で確認しつつ、遠距離の敵を狙撃。

近づいてくる敵は杏子の槍で振り払っていく。

 

「ちょっと、どんだけいんのコイツらは‼︎

ねーさんマジで何処にいるの⁉︎」

 

姉探しをしたくとも、大量のシャドウが視界を遮っているせいで碌に見つけられない。ミサイルを射出し、雌牛で蹴散らしてもシャドウは湯水のように沸いて出てくる。

「あぁぁぁっもうホント面倒臭いわ‼︎」

「面倒かもしれんが間違っても広範囲の宝具は使うな」

「んなこたぁわかってんだよっ‼︎」

 

苛々している正輝は大声をあげながらも、ウェイバー達と会話できる距離で戦っている。

聞こえるように返事を交互に返し、ライダー達と一緒に行動していなければ、戦闘中にお互いに何処にいるのかわからなくなってしまう。

 

「君の姉がどこへ向かうか、ある程度は分かると思うが」

「それなら…聖杯のある場所には必ず向かうだろってまさか」

 

空を飛行しつつ上から見渡すことができるなら、シャドウとシャドウサーヴァントが最も多い場所こそ聖杯は顕現する。姉ならば聖杯をどうにかするために、必ずその場所へ向かう。

 

「聖杯の集まっている場所って…柳洞寺か大空洞?」

「そうだろうな」

「あぁぁっ…もうっ。何で勝手に行くのかな」

 

アイリスフィールにも、その子供にも何かしら影響があったわけではない。

器である二人がまだ聖杯になっていないのだとしたら、魔力の高い地脈に器の代用品をシャドウ達が用意している可能性が高い。

 

正輝達が姉と合流できるのは、まだ時間がかかりそうだ。

 

*****

アインツベルンの城

 

衛宮切嗣は聖杯戦争の中止に、耳を疑った。

教会に向かったアイリスフィールにつけてある盗聴器を聞きながら心底憤慨していた。

盗聴の取り付けは、教会へ向かう前に事前に話して了承を得ている。

 

「ふざけるなっ…!」

 

ずっと話を聞いていくうちに、怒りが込み上がっていた。

これでは、一体何のためにこの戦争に参加したのか。

そんな下らない理由で、魔術師達がすぐ納得したのも気に入らなかった。

 

 

霧が発生し、それによって生じた化け物が冬木の街で大量に出現している。その事件の元凶が聖杯にあり、このままだも世界が終わると協会側は各陣営に聖杯戦争を中止するよう警報を鳴らした。

 

(このままだと何一つ願いを遂げられないまま…聖杯戦争が終わってしまう)

 

教会側が全員を集めたのだから本当のことかもしれないと思うが、そんな馬鹿馬鹿しい話に彼は心底頭抱えている。

【世界を救う】ための願いの為に奇跡を成就できなければ、一体何のためにここまで切り捨てて戦ってきたのか。

 

苛立ちを隠せないまま彼は盗聴器をポケットに入れつつ立ち上がると、突然視界がぼやけて立ち眩む。

 

「何だっ…これは、一体何が」

 

壁に手を当て、中腰に、急激な眠気に襲われながらも状況を確認する。

周囲を見渡せば、いつの間にか辺りが霧で覆われ、自分を写している鏡と窓にはーー

 

もう一人の衛宮切嗣がいた。

 

本物の方は信じられない顔で、その男をじっと見つめる。彼の手には何も持っていなかったが、何もなかった場所からいきなりもう一人の自分が出現し、身体に触れようとする。

彼は少しずつ歩き、近づいていく。

こんな突発的に出現されたら、どうしようもない。

 

「ま、いやっ…いや、それよりも令呪でセイバーを…」

 

舞弥に助けを呼ぼうにも思うように声が出せず、手の甲にある令呪を使う前に倒れてしまった。眠らされた彼が目を開けると、かつての故郷に立ち呆然としている。

その場所はかつて少年だった頃の、島にいた場所だった。

 

ーー何かが違う

 

景色は似ていても、小さかった頃に感じていたものとは何処か違和感を感じていた。

 

『目が覚めたか』

「…誰だ、お前は」

 

自分と同じ声が背後に聞こえ、振り向くと自分と同じ姿をした切嗣が立っている。

振り向いた時は自分と瓜二つだったことに驚いて目を見開いたが、少し間を開けて冷静に質問していく。

 

『その質問に返答するなら、僕は君だよ』

「…ふざけているのか」

『僕は、ふざけてなんてない。

本当の事を言っているだけだ』

 

懐からタバコの箱を取り出し、ライターをつけて吸い出す。

煙を吐き出し、空を見上げて一言呟いた。

 

『一体いつまで、実現不可能な夢に縋るつもりだ。身体が動けなくなるまでか?

それとも死ぬまでか?

その為にナターシャも、師匠も、愛する妻ですら踏み台にするのか?』

「何?」

 

夢の事で偽者の切嗣は聞いた。

自分の過去のことも、人の力では為せない、世界の平和を望んで聖杯戦争に乗じたことを知っている。

 

 

『聖杯の真実を、僕は見たよ。

中身は得体の知れないものだった。

存在してはいけない、代物だった…』

「貴様は、聖杯を知っているのか?」

『平和を謳うなら、自分の気持ちに余裕があるのなら幾らでも手段が他のあっただろう。

あぁ…僕の人生は、後悔ばかりだ。

小さい頃からずっと命の奪い合い…生殺与奪の世界に、自らを乗じた。

その方法しか僕らは生きられない、考えられない、知らない、たとえ知っていたとしても心動かすものでなければ考え方は顧みない。

生きてからずっと、それが正しいと信じている。

今も、きっかけがない限りこれからもずっと続く。

そうするしか選択肢がなかった。

それが正しいと思ったから。

まぁ、うん。

そうだね、仕方なかったってやつだ』

ブツブツと話していく。

それに苛々していたのか、聖杯を知っている目の前の男に銃を向けながら近づいていく。

「…お前の無駄話はどうでもいい、質問に答えろ。ここは一体何処だ?お前は何者だ?

聖杯を知っているのなら、本当に願いを叶える代物か?」

情報を得る為に逢えて殺さず、懐にあったサブマシンガンを取り出して両足を撃つ。彼はその場に倒れたが、撃たれたはずの傷跡は瞬時に回復し、また立ち上がって話を続ける。

その回復力に切嗣は、人間ではないと頭で理解した。

『君は人が大勢死ぬのを極端に嫌う。

なのに君は人殺し家業を続けている。

何故だ?』

「二度も言わせるな、僕に質問に答えろ。

『答えないなら僕が答えよう。衛宮切嗣はより多くの人の命を救うために、他を切り捨てる。

数多の命の数量を天秤にかけて。

そうやって生きてきた』…⁉︎」

『しかし、その矛盾が今をもって君自身を殺す事になるだろう』

 

二人の周囲に、黒いモニターが複数出現する。

大型船が二隻、海上を移動しており、船の中には大勢の民間人と切嗣が乗っている。

その船に大きな欠損が残っており、彼らの表情は不安に駆られていた。

 

『続けて質問しようか。

片方の船に300人、もう一方の船に200人。総勢500人の乗員乗客と、後は衛宮切嗣…仮にこの501人を人類最後の生き残りと設定しよう。

二隻の船底に同時に致命的な多穴が開いた。

船を修復するスキルを持つのは衛宮切嗣だけだ。

さてキミはどちらの船を直すだろうか?』

 

この問いに、正解は無い。

どの返事をしても、今までのやり方通してきた経験で答えていく。

みんなを救うという子供じみた夢が、結局今まで自分のやり方と比較しても正反対だと気づかないまま。

 

ーー衛宮切嗣の写身であるシャドウは、彼の弱さをよく知っているのだから。

 

 

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