Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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すごい今更ですけど、新年あけましておめでとうございます。
本当なら年末か、年明け辺りで投稿しようかと思ったんですけど、どの小説も書ききれなくて参ってました…もう本当に調子が悪い。


81話正義の在り方

 

教会から外へ出るにも、張られた結界の存在に気付かれないようにしなければならない。

救出へ向かう時臣組、セイバー組、ランサー組は扉の前に移動し、戦う準備をしていく。

 

 

「皆さん。準備は、よろしいですか?」

「はい」

 

出入り口の扉を開いて教会を出ると、周りを徘徊していたシャドウが大きな扉の音に気付き、一斉に襲って来る。

 

「ここは私たちが」

「雑魚共を蹴散らす!」

 

セイバー、ランサー、アサシン達、アーチャーは各々の宝具を取り出し、一掃していく。道を切り開き、サーヴァントの後ろをマスターが付いて動く。

 

「くるぞ、悠!」

「あぁっ!」

 

陽介の二人もペルソナを使い、自分達にいる周りの雑魚敵を蹴散らしていく。シャドウが教会の結界に気付かれる前に、バラバラに散って行動していく。

対して英雄王は、自衛とマスターのみ守っているだけだった。

 

 

「有象無象の雑種など、庭師に任せれば良い」

 

仕方なしに正輝からもらったメガネを付け、ストレス無く敵を一掃している。

悠達はなるべくペルソナのスキルで派手に爆音を立てつつ攻撃し、敵の動向を教会ではなく自分達に向けさせるようにしていた。

 

「目的の人を助けることができたら、また会おうぜ!」

「あぁ!」

 

二人とも自分のペルソナに乗って、彼らの後ろを追っていく。

 

悠はアイリスフィール達と城へ、陽介はケイネス達と共に拠点へ、時臣と雁夜は凛のいる家へと三方向にそれぞれ散っていく。シャドウは三組の後を追うかのように、結界周辺にいたのも含めて、散り散りに移動していった。

 

「…これで皆さんは移動しましたし、お札の結界も貼っておきますね」

「ご協力感謝します」

 

キャスターこと玉藻は、敵のいない内に結界を張りつつ、結界の守りをより強固にしていく。

目的地であるアインツベルンの森には、既に霧が充満しており、浮遊しているシャドウ達が集まりつつあった。

 

****

 

 

城の中では、久宇舞弥が娘のイリヤを必死に守っている。

最初は切嗣を探していていた途中で、城に霧が入っていき、霧の中や黒ずんでいく壁からシャドウが出現していく。

 

(なんなの、あれは…)

 

複数もの音に気づき、敵襲かと思っていた舞弥はハンドガンを取り出す。ドアを少し開けて覗き込むと、二体の怪物の背後を確認した。

イリヤの身が危ないとアイリスフィールの部屋へ移動し、イリヤを抱えつつ部屋から離れた。

 

「…切嗣、一体どこに」

 

守ろうにも、敵の数が多すぎて保たない。

籠城を諦めて幼児を抱えつつ、別の部屋へ移動する。

 

別室に移動したら鍵を閉めてイリヤを側に置く。

部屋の明かりをつけず、銃に弾を込める。

 

慌ただしかったはずが、化け物は獲物を見失ったことで静まり返っていた。

 

怪物が見失ったかと思っていたが、今度は壊すような物音が聞こえる。バキリという破壊音と共に、巨大の怪物が一室ずつ部屋に入っていき、誰かいないか確認している。

 

(不味いっ…このまま部屋中を調べ尽くされたら)

 

殆どの部屋の扉が壊され、とうとう舞弥とイリヤのいる部屋へと辿り着き、足音と何かを引きずる音が良く聞こえている。

 

 

舞弥が隠し持っているショットガンを手に取り、開いた瞬間に散弾を放とうと正面で構える。そのドアの前で、扉をこじ開けようとしたシャドウは大きく振りかぶろうとしたその時、

 

シャドウの胴体を、セイバーの聖剣で真っ二つにした。悠達が窓から城に侵入し、魔術とペルソナで一掃していく。

 

(助かった…一体誰が、っ⁉︎

アイリスフィール⁉︎)

 

顔を覗くとアイリスフィールとセイバーの他に見知らぬ男性と一緒に戦っていた。

3人とも廊下を走っていく様子に驚き、すぐに部屋から出て引き止める。

 

「ま、待ってくださいっ‼︎」

「えっ、舞弥さん⁉︎」

 

舞弥が部屋から飛び出し、振り向いていく。

アイリスフィール達は舞弥がイリヤの部屋を守っているかと思い、その部屋へ向かおうとしていたわけだが、探す手間が省けている。

 

「無事で良かったわ…一室に隠れていたのね。

切嗣とイリヤは大丈夫なの?」

「娘は此方に…ですが、切嗣は探しても見つかりませんでした」

 

 

あれだけ怪物が暴れて音を立てても、イリヤはベッドの上にぐっすりと寝かせていた。

アイリスフィールは、寝ている娘を抱える。

 

「それとアイリスフィール…セイバーにも眼鏡を付けてどうされたのですか?」

「これは、彼の仲間が渡してくれたの。

彼らが、冬木市中に発生した霧のことで詳しく説明してくれたわ」

「初めまして、鳴上悠です。

これを掛けて下さい」

 

舞弥が3人の顔をよく見ると、眼鏡をつけていることに疑問を持っている。悠に手渡された眼鏡に戸惑いながらも、受け取って掛ける。

 

「霧がっ…⁉︎」

「これで、貴方にも見えると思います」

 

話の通り、彼女の視界から遮った霧が見えるようになるのを目を見開いて確認した。

 

「アイリスフィールさん。

切嗣さんがどこにいるか、心当たりがありますか?」

「そうね、もしかしたら…教会の話を傍聴するって言ってたからまだ作戦室に」

「アイリスフィールは子供を抱えて、舞弥は手負いの状態です…私が最前線で戦いますので、背後を貴方にお任せします」

「俺も、その作戦室がどこにあるのか分からない。

引き続き、城の道案内をお願いします」

 

その作戦室の扉を開けて入っていくと、室内は様々なテレビが大量に設置されていた。

天井の四方の隅には小型のレトロテレビ、中央にはテレビスタンドと液晶のテレビ、その周りはブラウン管テレビが散乱としている。

 

「嘘でしょ…こんなの、城には」

「霧の影響で出現したんだ…この様子だと切嗣さんがいることは間違いない」

「…どうして、そんなことがわかるのです」

 

テレビ全てに電源が付き、液晶のテレビには二人の切嗣が見つめ合い、それ以外のテレビ画面のほとんどが砂嵐か真っ黒になっている。

 

中央にあるテレビに切嗣が写っており、誰かと話している。悠は画面に手を当てようとすると、テレビの中に入れるようになっていた。

 

「貴方…手がテレビに」

「これがあの霧とシャドウについて知ったきっかけです…テレビの中で襲われた人達を、俺達が助けていました。

 

 

切嗣さんもテレビに写っているのなら、中に入れられたのは間違いありません。

今からテレビの中に入ります。

俺達で切嗣さんを、助けましょう」

「…分かったわ、そこに切嗣がいるのね。

貴方達を信じるわ」

 

今の状況で、悠の言葉を信じるしかなかった。

切嗣がテレビの中にいるのだとしたら、今助けることができるのはテレビの中に入れられる彼にしかできない。

 

5人は、テレビの中へと入っていった。

 

*****

 

モニターは船の映像と、民間人のしかまだ映っていない。いま映っているのはあくまでカメラ視点を変えているだけで、切嗣が返事を返さなければ進展が進まない。

 

『気にする必要はない。

君はただ、僕の質問に答えればいい』

「…何をさせるつもりだ」

 

サブマシンガンで液晶を壊そうとするが、防弾ガラスのようにびくともしなかった。

ひび割れた箇所はすぐに元に戻っていく。

 

『僕を撃っても、そのモニターを破壊するのも無意味だ。

破損した箇所は再生し、元に戻るだけ。

君のすべきことは、質問に答えるしかない。

理解したか』

「あぁ。

お前の言う通り、質問に答えるしか無いんだな」

『その通りだ、なら質問に答えてくれ』

 

切嗣はいくら撃ち続けても意味がないと、銃を下ろす。結局、モニターの映像を見ながら質問を返していくしかなかった。

彼が返答する毎に映像は切り替わり、生きていたはずの人々が殺される映像が流される。

 

ーー結局、質問の返答を続けた結果。

悪戯に生き残りが減っていき、死人が増えていくばかりだった。

 

『君は、正しい』

「そんな馬鹿な、何が正しいものか…生き残ったのが200人、その為に死んだのが300人。

天秤の針が真逆だ」

『大勢を犠牲にして、少数を救った。

この方法に間違いはない。

願いの通りのことをした』

 

間違いはない、切嗣のやり方で着実に被害が抑えられている。その場その場で少ない人数を選び、大勢の命を助けた。

だが、切嗣はその結果を見て納得がいかない様子だった。

 

「間違いはないだと…こんな結末が」

『多くを救えば幸せが、幸福が必ず訪れるといつから錯覚していた?

 

聖杯戦争は願いを求めた者の希望を完璧に応えてくれる…と、願いを叶える問いにそのような答案用紙が書いてあったのか?

君も他の参加者全員思い込みで願いを叶えてほしいなど、甚だ図々しい。

身の程を弁えろ。

 

聖杯は答えを与えることはできても、その過程まで願望を望むなんて都合良く叶えるとでも?

寧ろ汚れた聖杯は、願う内容によって国・文化・人の存在そのものを消すこともできる…もっと簡潔に言えば等価交換ってやつだ。

大いなる願いには、その犠牲も伴う。

多かろうが、少なかろうが、結局代償が出ることに変わりはない。

世界にいる人類の救済を望めば、その人類は救えても結局その代償を背負った世界は滅ぶ。

これが、汚れた聖杯の真実だ。

 

でも君自身の願いの、結果の通りに救っているのも本当の事だ。

なぜなら…君がそれが救いだと思っていたのだから、間違いはない。

 

寧ろ願いを叶うための過程までもが都合通りのまま望むのは、余りに軽率で傲慢だ』

「間違いはない?傲慢?

何様のつもりだ貴様はっ…!」

『言っただろ、僕は君だと。

僕は聖杯の真実を知って絶望した君だ』

「ふざけるなっ‼︎‼︎」

聖杯を知った目の前の彼を、否定せずにいられない。それが真実だと認められるわけがないと、断固として聞き入れるつもりはない。

錯乱し、目の前の偽者の自分を拒絶していく。

 

 

 

*****

 

「ここは?」

「島のような場所に着いたわね…」

 

悠達がテレビの中に入っていくと、砂浜にたどり着く。

 

アイリスフィールとセイバーも知らない場所であり、何体もシャドウを見かけてはいるものの、セイバー達には目をくれず何処かに集まっている。

 

彼らが集まった方向には

 

「切嗣!」

「マスター!」

 

二人の切嗣が面と向かっていたものの、誰が偽者なのか考える必要はなかった。怯えているのが本物の切嗣で、もう一人の切嗣はシャドウ達が影に集まろうとしている。

 

『思い詰めなくていい。

私がお前だと認めれれば、この結果になるだろうなとすぐ容認できる。

否定すればするほど、自分が苦しくなるだけだ』

「認めるだとっ…」

 

セイバー達が呼んでも、切嗣は振り向こうとしない。悠達がいくら叫んでも、切嗣の耳には入っていない。

彼は、相手の言葉のまま流されている。

 

振り向くこともなく、自分のシャドウをただ眺めているだけだった。

 

「私達が見えていないのですか⁉︎」

「駄目だ!否定したらいけない!」

 

鳴上の警告も全く届かなかった。感情的になった切嗣は、冷酷な顔で目の前にいる偽者の自分を拒絶する。

 

「お前は、僕じゃない」

 

殺意を以って、彼はそう否定した。懐から取り出した起源銃を取り出し、胸部分を狙い撃つ。

だが、

 

『ここまで言っても理解しないか。

あくまでも認めないのなら、それも構わない。

致し方無しか』

 

弾丸は、効かなかった。

起源弾で身体を撃ち貫くどころか弾かれてしまい、地面に転がり落ちていく。強力な魔術・魔法で防いだのならば、弾かれることなく魔術回路をズタボロにすることができる。一発でも受ければ、瀕死の重傷を負い、再起不能になるだろう。

 

その弾丸は、シャドウの力で退けていく。彼は姿を変異させ、身体はみるみるうちに肥大化した。

 

旗を掲げると同時に大量のシャドウが続々と呼び出され、シャドウの士気を上げていく。

まるで、革命を起こす先導者のようだった。

 

『我は影、真なる我。

たとえ君が否定しても、何も問題はない。

なぜなら、僕の人格で上書きするだけのこと。

 

思い上がった理想を…誤った正義を掲げる君には、正しい絶望を与えないといけないみたいだ。

 

少数を犠牲にして、多くを救うのが理想なら…僕は偽物の君を消して、今度は僕が君以外の大勢を救うよ。

君の願いは、死んだ後に僕が叶えてやる。

だから快く命を差し出して、そして死んでくれ』

 

切嗣のシャドウは、革命の先導者のように高らかに旗を掲げていく。切嗣本人の方は足が動かず、立ちすくむことしかできない。

 

「ご無事ですか、切嗣!」

「セイバー…っ」

 

なんとかセイバーが間に合い、旗の攻撃を聖剣で防いでいく。

声は届いたが、彼の体力は消耗していた。

切嗣は他咄嗟にのシャドウに向けて発砲するが、切嗣のシャドウ同様全く効かない。

 

セイバーが切嗣を防御している隙を狙い、他のシャドウ達が囲って襲いかかる。

 

 

錬金魔術を行使し、シャドウに絡み付ける。

 

切嗣のシャドウが健在している限り、組みしている他のシャドウはしつこく粘り、再度攻撃を図る。

倒されても、また新たに出現したシャドウが、傘下に入りつつ悠達を襲っている。

 

「…どうにか切嗣の元まで、突破できたら」

 

未だに、切嗣とそのシャドウは間近にいる。

銃や爆弾が全く効かない相手に精神的に追い詰められ、精神的に追い詰められていく。

 

『この場所を再現させたのも、君の為を思って用意した。ここは懐かしい。

吸血鬼になった幼馴染のナターシャを殺して、その元凶だった吸血鬼の研究を父を射殺した場所だったな』

「黙れ…」

『15の時は殺し屋の師匠を犠牲にして、ゾンビになった飛行機の乗客を葬った。

その果てに、多くの命を救った』

「黙れっ‼︎」

『恥じることはない。

お前が考え抜いた末で選んだんだから』

 

正義の味方になろうとしたが、その過程で多くの死を目の当たりにする。セイバーが斬り込もうとしても、他のシャドウが前に出て届かない。

 

「衛宮切嗣の名のもとに、令呪を以て命ず‼︎

セイバー‼︎宝具にてあの化け物を『素晴らしい提案をしよう。君はこのままシャドウに取り込まれて安楽死し、僕が衛宮切嗣の代わりになる。

 

もう、誰かを助ける為に戦うのはもう疲れたろ?

君は報われて、楽になって、世界も救える。

死んだ後に理想が叶うんだ。

素晴らしいと思わないか?』……」

 

令呪でセイバーの宝具を使用させようとするが、シャドウの提案に声が出なかった。

 

全てを救えるのなら、それが難破船の過程のように多くの犠牲が伴わないことを。もう一人の切嗣は聖杯を知り、理想を作り出せる力を兼ね備えている。

 

衛宮切嗣の犠牲は免れないが、冬木市を覆えるほどの力を持っているのなら悪魔に魂を売ることだって。

 

「…切嗣、何を考えて」

『心配しなくて良い。

君の代わりは、幾らでもいる。

だから心置きなく死んでくれ』

 

自らの命を犠牲に理想郷を創設できるのならと、持っていた銃を懐にしまい、一歩ずつシャドウに歩み寄っていく。

 

シャドウの切嗣の言い分は、間違ってないと。

聖杯を掴むより、目の前で顕現している力がなによりも

 

「……そうだ。

僕じゃなくても、奴の力なら救済できる」

『そう、それで良い。

より多くの命を救う為に、君はもう要らない。一人の命と全ての命、等価交換とは言い難いがこの霧の世界での価値はシャドウである私の方が格上だ。

君よりも上手に管理し、命の天秤を測れる。

あの船の映像で見せたように、他の命を犠牲に切り捨てられることは絶対にない。

 

もう一度言う。

今、ここで死んでくれ。

そうすれば聖杯がなくても世界を、残りの人類を僕が救う』

「それなら僕は、もう」

『もうあんな胸が張り裂けそうな思いは、ごめんだろ?』

 

彼は、死んで楽になろうと前に歩み寄る。

シャドウに意識を塗り潰され、身体を開け渡せば聖杯を頼らなくても構わない。

 

その力があるなら、代わりにやってくれるならと

 

ーー全てを委ねる前に、彼の従者がそれを止めた。

 

 

「いい加減にしろ切嗣っ…‼︎今の話を聞いて、なぜ納得しているのですか‼︎」

 

死のうとしている彼に、従者であるセイバーは激昂する。自棄になってシャドウという化け物の言葉を鵜呑みにして依存することがどれだけ危険なのか、セイバーでも分かることなのに彼は聖杯の真実を知ったせいで思考を停止させている。

 

「アイリスフィールや自分の娘にこんな話を聞かせたらどうなるかぐらい貴方なら分かるはずだ。

貴方の命は、赤の他人に委ねるほど軽かったのですか」

「なんのつもりだ…僕は、もう立てない。

聖杯の力でもダメなら、もういっそ」

 

魔力で纏ったグローブを外し、素手で彼の頬を叩いた。

頬が赤く腫れ、その部分を手で抑えていた。

 

「貴方自身の生きた証の全てを、人の救済を、父としての責務も、命すら…全て、人任せにするつもりですか」

 

今の切嗣に叩かれても、まだ目に正気がなくなっている。セイバーがどれだけ声をかけても、心には響かなかった。

 

今度は、走り寄った悠が切嗣を説得する。

イザナギからアラハバキにペルソナチェンジし、敵の銃やハンマーを物理攻撃を反射した。

 

光の刃で、周囲のシャドウを切り刻んでいく。

 

「貴方がいなくなっても、それは全てを救済したとは言えない。

 

いなくなった事で、悲しむ人は必ずいる。

貴方一人だけの命じゃない。

奴の言う全ての救済の中には、貴方も必ずいなきゃダメなんだ。たった一人の命を救わずに世界が平和になるなんて、そんなのは間違っている」

「もういいんだ…僕の命がなくとも、そこに代役が」

「代わりなんていません、必要だって言ってくれる人がここにいます。

 

アイリスフィールさんも、セイバーさんも貴方に生きてもらいたい、助けたいからここまで来たんじゃないんですか?」

 

悠がアイリスフィールと舞弥の方に顔を向けると、目を覚ました。

イリヤは妻が抱えており、娘もここに来ている。

 

ーーどうして、こんな当たり前のことに気づけてなかったのか。

 

望みが叶えても、あの大型船みたいに3人も自分を綺麗さっぱり忘れられるわけがない。自分が犠牲になったとしても、本当に救ったことになるのだろうかと。

 

 

「生きる事を放棄しないで下さい…貴方も救われるべき一人の人間なんだ。

 

ヒーローだって、生まれた時点でヒーローって決まったわけじゃない」

『…下らんな。餓鬼の絵空事に耳を傾けるほどの余裕があるのか?

 

それに騎士王様の…英霊共の言うことは、やはり我が強いな。戦果を栄誉としてしているからか、やはり悪い意味で言うことが違う。

本当に気持ちが悪い…こんな奴らの戯言を本気で信じるのか?僕を倒したとしても、根本的なことは解決した事にはならない。

君は一生、その歪な価値観で生きながらえることとなる。

 

それでも君は』

「信じるさ。騎士王と彼のお陰で目が覚めたよ…確かに僕は、君だったんだな。

僕はもう、死ねなくなってしまった。

この命も、責務も、もうお前に全て差し出すことはできない」

 

切嗣は立ち上がる。目の前のもう一人の自分に屈していたが、二人のかけてくれた言葉が心を動かしていた。

 

『それが分かったところで望みも叶わず、世界も救われない』

「その通りだ。

お前の言う通り、僕の望みは叶わないだろう」

『そうか、君が僕だと言い切るのなら分かっているだろ?少数を犠牲にして多数を救うという考えを…あのモニターで起きたことを認めるというんだな?』

「確かに今までそうやって生きてきた。僕はそれが望みじゃないから、その提案を乗ろうと思った。

 

でも、気付かされたよ。その少数に自分も犠牲の上で、大勢を救おうとしているのは間違っているって。

 

お前は言ったな。君は僕であり、シャドウは本能のままに動くんだと。

 

自分を大事にしてほしいって、自分の心に嘘をつくなって…僕にそう言いたかったんだな。

大勢も少数も関係ない、他人の命も、僕の命も天秤にはできない」

『…』

「君は、僕がかつて正義の味方を憧れていた頃と似ている。

 

だから全てを救わんとする救世主(メサイア)になるのを辞めるよう警告して…僕を魔術師殺しとしてではなく…アイリの父親に、真っ当な人間になって良いんだよって言いたかったんだな。

 

だから、教えてくれてありがとう。

確かに君のいう通り、僕は君だったんだな」

 

相対して戦うことはせず、言葉をぶつけ合ってシャドウと腹を割って話していく。このまま切嗣が人類全てを救うことを歩むのなら、人間を辞めると同義だった。

 

『…己自身の正義に向き合えたのなら、もう代役の必要が無くなった。

 

だから、この力を君に与える。

衛宮切嗣の正義(生涯)が終えるまで、僕は君の道行を助ける』

 

シャドウの切嗣は光に包まれ、アルカナのカードと化していく。率いていたシャドウは光と共に消えて無くなり、さっきまでいた無人島は作戦部屋へと戻っていく。

 

大量にあったテレビは巨大な車輪へと変わり、もう一人の切嗣は黒いローブを羽織っている者へと出現する。

 

彼は《正義》のタロットを手にし、ペルソナの能力を得た。

 

「切嗣!」

 

切嗣は手に取ったのを最後に疲弊し、そのまま倒れてしまう。舞弥は銃をしまい、眠っている彼を背負っていく。

 

「…私が背負います、3人は急いで車の準備を」

「分かったわ」

「車を出したら、すぐこの城から脱出しましょう。今は霧が薄くなってますけど、時間が経てばまた濃くなってしまう」

 

作戦室にあった大量のテレビは消え、切嗣のシャドウが消えたことで深かった霧も薄い。

その影響かシャドウの数が少なくなっており、車庫にある車を取り出し、すぐさまこの城を出た。

 

*****

 

眠っていた切嗣が目を開けると、彼は車の後部座席に座っている。

 

右隣には眠っているイリヤを抱えているアイリスフィールと、左隣に妻子を守るのに疲れ果てている舞弥がいる。運転手席ではセイバーが車を操縦し、助手席に悠がアラミタマのペルソナを呼び出して障害となるシャドウを突破していく。

 

「起きたのね、切嗣」

「アイリ……ここは、車の中か。

今どこに向かっているんだ?」

 

城から街へ向かうにも急な下り坂になっており、シャドウが襲っているせいか車の揺れが激しくなっている。

 

「僕らは、教会へ向かっている最中です」

「教会…か」

「この騒動で、聖杯戦争は終わってしまった。

今は教会を拠点に、みんな動いているの。

 

移動している間は鳴上さんとセイバーがこの車を守ってるわ。安心して」

 

少なくともこの事態が発生したことで、聖杯戦争のしがらみからは解放されている。

 

「そうか…さっきの子は、あの化け物達と戦える力を」

「ええ、持っているわ。

貴方もその力を手にしたの」

「俄かに信じられないが、こうして僕はもう一人の自分と直面し、あのカードを手に取った。

 

聖杯戦争が終わったことも、その聖杯も使い物にならないことも、僕は受け入れるしかないんだな」

 

少しがっくりはしたものの、願望を叶えるのは諦めるしかなかった。奇跡を願っても結局その対価を支払うだけのものなら、最初から参加なんてしていない。

 

「…アイリ、大事な話があるんだ。

 

もし仮に僕の望みが聖杯で叶うとして…僕がいなくなることが前提条件なら。

君は、喜んでくれるかい?」

 

それを聞いたアイリスフィールは苦い顔をしている。その質問に答えづらかったのか少し時間を置いて、考えを整理しつつ質問に答えた。

 

「アインツベルンの…ナハト爺様の願いは聖杯の成就が目的。そして世界の平和が切嗣の望みなら…それは、一番正しい選択なのでしょうね。

 

 

でも、どんなに正しくても喜ぶって言われたら、やっぱり私の本心は…貴方に消えてほしくない」

 

アイリスフィールが答えた通り、世界の救済はできるけど切嗣がいない世界を喜ぶことはできないだろう。

 

 

「もし貴方がいなくなる世界になったら、私とイリヤ、舞弥さんは本当に辛いもの。仮に貴方の代わりが、似ている誰かが一緒にいたとしても素直に喜べない。

貴方がいたから、何も知らなかった私は感情を持って、イリヤっていう子を生んだの。

生きて貴方と出会えて、今も幸せよ」

 

アイリスフィールの本心を聞いて、彼は安堵する。

ずっと彼は失ってきたものを数えていたが、このシャドウとの戦いで忘れていたことを思い出させてくれた。

 

過去に起こった出来事を鑑みても、この聖杯戦争も同様に自分を思ってくれている人をも犠牲にしていただろう。

彼は、覚悟の上で参加したのだから。

 

「すまない。

聞いてみたかっただけさ…ありがとう。

 

 

 

あぁ僕は、幸せ者だったんだな」

 

だが、それはただの【逃げ】だった。

 

誰かを救う以前に自分と向き合わなかったからあのようなシャドウが生まれてしまった。シャドウと出会うこともなく聖杯の真実に触れることになれば、過去のことを後悔することもなかっただろう。

救済そのものに絶望し、その成れの果てあぁなってしまうのも彼自身が十分納得できる。

 

ーーー切嗣は顔を上に向け、手で顔を伏せつつ涙を見せないようにしていた。

 

 

 

 

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