艦娘は提督と共に戦い、暁の水平線に勝利を刻む。前まで鎮守府にいた頃はそうだったが、今はもう全員の保身のために勝利どころではなかった。新たな鎮守府にたどり着く前に襲われる日々。
彼女らは無断で燃料と弾薬を持ち出し、3日間海に彷徨っている。
その間は本当に地獄ではあったが、地獄を生き延びて五人とも無事であることが奇跡だった。
「なんだったんだ…今の」
別の方向を見ていた深海棲艦は正輝の方向に向かう。
五十鈴、朝潮は漠然としていたが、
「おい!今の内に逃げるぞ‼︎」
摩耶がそう言うと、我を忘れていた他の二人も動く。三人は急いで榛名の方に向かっていった。
霧は既に消えており、周りの景色がよく見えるようになっている。
*****
正輝は目を覚まそうとすると周りには敵だらけだった。目だけで動かし、横を見ても黒い敵とそれ以外のあたり一面が海だけ。転移して帰ろうにも囲まれて、逃げられない。
(え、なにこれ。目覚ましたら滅茶苦茶怖い連中が俺を囲んでんだけど?何?そっから先何すればいいの⁉︎)
落ちていった正輝は海の上で浮かび上がる。深海棲艦は正輝を囲んで、身体をつついたりしているが微動だに動いたりしていない。
海面に人が浮かび上がることが、怪しいと思っていた。
正輝の方は死んだふりをしている。海に落ちて生きている人間などいるわけがないと、彼らがそう考えてくれれば嬉しい限りだった。
(なんでジーって見てんの⁉︎俺こっから先は動けないよ‼︎期待しなくていいから⁉︎)
このまま戦いを避ければ、ここから逃げ出すことができる。そもそも正輝にとって海上戦なんて一度もやったことがないから、慣れていない場所で戦ったところでスタミナ切れで海の中に落ちるだけ。
彼らと戦っても、海の底に落とされて呼吸ができずに死ぬだけだ。
(さっさとあっち行け!しっしっ!)
深海棲艦は死んだことを確認して、五人の艦娘のところへ向かっていった。
(なんとかなったか…)
「あいつら!」
「全速力で逃げて‼︎」
正輝の方はなんとかやり過ごすことはできたが、深海棲艦が向かう先には先ほど襲われていた艦娘達を襲っている。片目だけ開いて、戦いを見てたが艦娘達の方が不利な状態で心配していた。朝潮が後ろを振り向いて見ると深海棲艦が大砲を撃ってきている。
死んだフリをしていた正輝は小さい子(朝潮)があまりにも痛々しい姿をしていたためにもう見ていられず、
「あぁぁぁぁっ‼︎危なっかしいなぁもう‼︎」
正輝はすぐさま自分の身体を魔術で強化させる。重力操作と海面を蹴って向かい、深海棲艦を蹴飛ばして朝潮を助ける。深海棲艦の方は彼の身体を確認して死んだと認識していたのに、まさか彼が起き上がって復活するとは思ってもおらずビクッと驚いていた。
「ちょっとそれ借りるぞ!」
「えっ、えええっ⁉︎」
正輝は榛名の艤装に乗り移り、着地する。
「憑依経験…工程完了。全投影待機!」
投影魔術を使い、空に剣を作り出して射出する準備をする。彼らと延期戦をする気は毛頭ない。
全力で叩き潰すつもりで倒す。
剣を飛ばすことによって、その剣を爆発させるだけでも、深海棲艦を倒すのに十分だった。要はあの船を一撃で破壊してしまえばいい。
「停止解凍、全投影連続層写ァァッ‼︎‼︎」
無数の剣が深海棲艦の頭上に降り注がれる。安定した場所ではないために自分がまた海に落ちないようにバランスを保たなければならないが、数分で片付けるのなら十分。
襲ってきた深海棲艦が次から次へと剣の雨と爆発で轟沈していく。
「なんて、デタラメな…」
*****
五人は見たことのない光景に唖然としていた。
追ってきた深海棲艦がズタズタにされて海の底に沈んでいく。
艦娘ではない彼が。
(一体何者なの…⁉︎)
最初は人間を信用せずに憎んでいた彼女らだったが、彼のしていることに目がある。
それ以前にまさか助けられるとは思ってもなかった。
深海棲艦は消えて、無事に艦娘達は生き延びることができた。
「ふぅ、やっと終わ…あ、ヤベ」
榛名は艤装で立っている正輝に驚いてあるが、当の本人は魔力の大量消費でバランスを崩し、立っていた艤装から落ちてゆく。こんな状況で敵を一体一体正確に狙って潰したのだから精神的による疲労が大きい。
(流石に、もうヤバ…)
倒れそうになった正輝を、榛名が彼の腕を掴む。彼女は彼を引っ張って助け出した。
正輝は意識を失っている。
「お、おい!助けるのかよ⁉︎」
「彼が人であるかどうか確かめたい…」
摩耶は彼を助けることに反対したものの、彼が深海棲艦を凌駕するほどの力を持っているのか分からない。話を聞くだけ聴くのと、榛名が正輝を助けた理由はそれだけではない。
「…朝潮さん、大丈夫ですか?」
「は、はいっ…彼のおかげでなんとか助かりました」
彼のおかげで朝潮は救われたこと。このまま彼が助けてなかったら朝潮は深海棲艦と共に海の底に沈んでいた。
「皆さんが無事で良かったです。ですが、そこの男の人は一体?」
「分かりませんが、とにかくどこか安全な場所に上陸するまで私達が。せめて鎮守府が見つかればいいのですが…」
正輝がどんな存在かというのはどこか落ち着いた場所で詮索する必要がある。彼女らにとって一番必要なのは前の鎮守府ではなく別の鎮守府かつ、その鎮守府が提督が酷くないという点であること。
「おいおい…本気でそいつを拾うのか?お荷物になるだけじゃねぇのかよ?」
「私は」
「なんとか彼を助けることはできないでしょうか?」
摩耶は正輝を拾うことにまだ反対した。なぜなら、その男を抱えつつ海の至る所を回ったところで全く鎮守府が見つからず、深海棲艦と戦闘になってしまうのなら邪魔になるだけ。
摩耶の言い分も分からなくもない。
朝潮の方は助けてもらったから、今度はこっちが助けてあげたいと頼んでいる。
彼女らの疲労は時間をたてないと治らない、二つ大破の状態に弾薬と燃料の枯渇。
それに加えて見知らぬ男の保護など、助けた恩もあるかもしれないがその男を必死に守るだけで迷惑極まりなかいと摩耶が言った。しかし、
「その心配はいらないわ」
「…どうして?」
「あれよ」
五十鈴が摩耶に返事して指をさす。その方向には無人島があり、小さい小屋がある。
あの場所に資材を入手することはとても困難だが、彼女らには落ち着いた場所があるだけでも溜まっていた疲労が回復できる。
「無人島だけど。いい?」
「そうですね…一旦そこで休息を取りましょう。鎮守府でなくてもその無人島を回れば何かあるかもしれませんし」
こうして五人は朝潮を助けた正輝を連れてって五十鈴が見つけた島に全員移動していた。
休息はどうにかなったが、鎮守府でないために武器と資材が増えない。
が、今五人に必要なのは無人島で過労を取ることと彼の正体を知ることが必要だった。