マルヒトマルマル
午前1時
正輝と榛名がグッスリと寝ている最中に、ノックする音がする。正輝がその音に気付いて起き上がるが、榛名は眠ったまま。
(んだよ、こんな時間に)
正輝は着替えて、話せる準備をするものの、ノックの回数がもっと多くなる。
「あぁぁっ!ハイハイ!てかなんで深夜に「動くなよ」」
正輝が荒々しくドアを開けると、青タイツの男が赤い槍を持っている。青い髪に赤い瞳、格好と持っている武器からして正輝は一体誰が脅しているのかはっきりとわかった。
「お前か…クー・フーリン」
「マスターの命令でな、結界を張りな。でねぇとお前の首が飛んでしまう。
俺だってこのままお前を殺したかぁねぇんだ。俺がいるっていうのはそこの女から聞いたんだろ?」
ここで正輝とランサーが戦闘で大暴れすれば他の艦娘や憲兵が怪しがって様子を見てくる可能性がある。
榛名の方は過去の話で『青タイツの男』と言っている。だいたい誰がいるのかというのは大方わかっていたが、彼のマスターについて正輝は気になっていた。
(俺だけか…まだ記憶が)
そして小次郎、桜達と同様にクーフーリンもまた正輝との記憶を持っている。衛宮達もまた同様ではあったものの正輝はあまり覚えていない。
記憶については後々神にでも話そうかと考えたがその内容は後回しにしておいた。
今は首筋に槍を突きつけられて、自分の命が危険に晒されている。正輝はランサーの言う通り仕方なく結界を張る。
「お前の言う通り結界は張った。邪魔者はいない。
けど、一つ聞かせてくれ、お前のマスターは艦娘か?提督か?それとも俺達二人以外の憲兵か?」
「今は知る必要はねぇ、外に出るぞ」
そう言って鎮守府の近くにある海辺へと二人は向かっていった。
*****
マルフタマルマル
午後2時
「あれ?正輝さん?」
榛名が目を覚ましてしまい起きて周囲を見渡すが、正輝の姿が見当たらない。
「トイレにでも行ったのでしょうか?」
その時、誰かがドアをノックしてきた。榛名はその音に反応して開けようとするが、あることを思い出して手を止めてしまう。
金剛の件についてのことだった。
(もしも私の正体がバレてたら…)
これが正輝以外の憲兵や提督が気づいてここにきてるのだったら、ドアを開けた瞬間強引に腕を掴まれて連れて行かれてしまう。
提督じゃなく他の憲兵だとしても、津川側の艦娘だったら報告されるに違いない。
「あの、どなたでしょうか⁉︎」
開ける前に怯えながら、ドアの前にいるのが誰なのか尋ねる。身分を隠している以上、榛名は自分からドアを開けることができない。
「大丈夫です榛名さん。不知火です…貴方の味方です」
「不知火、さん?」
榛名はドアをそろそろと開けて顔を出すと、ドアの前には不知火が立っている。
「お久しぶりですね、榛名さん」
なぜ、不知火が榛名のことを知っているのかというのは榛名が提督に暴力を受けていた時に関与していた。
*****
(鎮守府に着任するあの頃、まだ私は未熟者だった)
不知火が榛名のことを知る1年前のこと。
この鎮守府がどのようになっているのか全く知らず、新人の駆逐艦として着任した。着任したと言っても、遠征や出撃がなく置物のようにその鎮守府にいるだけ。提督にまだ一度も指示を受けてない。
鎮守府にいる自分以外の他の駆逐艦は何故か怯えていたこと。戦場に出されていつ死ぬのか分からないかもしれないがそれでも一緒に戦う仲間がおり、苦楽を共にする。
だが、戦いたくないと下を見て怯えていた。
不知火ともう一人の駆逐艦がようやく声がかかった。
(まさか、あんなことになるなんて思わなかった)
問題なのは艦娘ではなく、提督であったことに。
不知火は鈍感であったため、戦場に出るまでは捨て艦にされていたことにも気づいてなかったが、嫌な予感がするというのは的中した。不知火以外にもう一人の駆逐艦も出撃することとなり怯えていたからだ。二人とも戦闘が初めてで、演習も少ない状態で高難易度の海域に向かおうとしていたこと。
(なんで沈まないのっ…⁉︎これじゃあ私達は)
砲撃した弾は当たってもあまり被害がなく、一度受けるだけ大きな損傷が生じてしまう。
初戦の攻防戦で、大きな損傷を受ける。大破状態のままで進撃すれば轟沈していく。
一緒にいた戦艦が撤退を要請するものの提督はそれでも行けという命令を強いらせる。
(私は、提督に捨て駒にされた。人間じゃない戦艦、ましてや駆逐艦ごとき幾らでも増えるから知ったことじゃないって聞いてしまった)
『駄目だ、撤退は許さん』
どう考えても駆逐艦が生き残るわけがない。二人の存在意義として戦艦や空母の身代わりに受けることだった。二度目の戦闘により駆逐艦の二人は既に大破状態、戦闘で生き延びるのは困難だった。
(もうダメみたいね)
提督の非情な指示によって自分の運命は決定づけられ、死ぬことを強いられた。が、
「はっ、榛名…さん⁉︎」
「大丈夫ですか?」
不知火は榛名を守るために庇ったものの、榛名は不知火をどかして自分で受けた。
その後、榛名は撃ってきた深海棲艦を一撃で沈める。
「どうして、私なんかの為にっ…」
榛名は笑ってこう答えた。
ーーー榛名は、大丈夫です。みんなで生きて帰りましょう
「嘘つきっ…‼︎大丈夫なわけないじゃない!」
榛名は自分を傷つけながらも進んでいった。仲間を守ってかつ、敵を倒して功績を上げる。
そんな方法が長々と続くわけがなく結果的に提督は戦力である戦艦が轟沈しないために止む無く撤退することとなった。
(私達、戻ってこれたんだ…)
榛名のおかげで自分達が鎮守府に帰れたことに二人は泣きそうになった。このまま受け続けていれば轟沈になることは間違いない。二人は駆逐艦であるため提督に口答えできる立場ではなかったが、不知火は言わずにはいられなかった。
「提督、今回の作戦はここにいる艦隊全員に落ち度はなく貴方の「なんでお前の被弾がいつも多いんだ榛名ぁ‼︎‼︎」つっ⁉︎」
「…申し訳、ありません。私の力不足です」
提督の憎悪は榛名に向けられた。駆逐艦である私たちはいくら傷ついても代わりおり、治すのにコストが安いものだった。
榛名自身はこの鎮守府に長く滞在しており、艦娘を守りつつも敵を退ける技量はかなり優秀と言っていいほどのもの。
現にさっきまで行ってきた海域の深海棲艦の砲撃を全弾命中させている。だから力不足というわけではなく、榛名が捨て艦扱いされている艦娘をずっと守ってなかったら高ランクは確実に取れていた。
彼が怒っているのは捨て艦が失敗したことと、駆逐艦よりも戦艦の方が修復の量が多いために迷惑をかけていたことだった。
道具扱いしている提督に不知火は以外の艦娘達は無謀な策略に殺気立っている。しかし、手を出すことはできなかった。
(ごめんなさい…本当にごめんなさい)
不知火だけでなく他の艦娘も暴力を振るわれて傷ついている榛名をただ眺めることしか何もできない。手を出せば助けてくれたこの命を無駄に捨ててしまうから。
榛名以外の出撃した五人は自分の愚かさに恥ずかしく、そして何もできないことに情けなく思った。
*****
榛名が艦娘の一人や二人を庇って頑張っても、それでも轟沈する艦娘は増えていく。
無茶な作戦と資材の独占、使えない艦娘に夜架をさせることは榛名の約束上があったためそれはなかった。
提督以前に人として恥ずかしくないのかと言いたいくらいのものだった。鎮守府にいる艦娘達はすっかり寂しくなり、気力をなくしていた。が、
「放しやがれっ‼︎」
唯一、提督に武力で反抗する艦娘がいた。提督の横暴に堪忍袋の緒が切れた摩耶一人だけが提督を何度も殺そうと襲ってくる。
しかし、それを長門が暴走気味の摩耶をいつも止めている。
摩耶だけではなく五航戦と一航戦の四人も襲ったっていうのも聞いたが、その四人がどこにいったのかはわからない。提督に逆らって解体されたか、それとも出撃させずに性的な暴力を受けているのか。
その部分に関して不知火はまだ噂でしか知らない。
着任したばかりの弱い艦娘は犠牲になって、収入は僅か。ほとんどが提督の所有権になっている。それでもこの鎮守府は段々と落ち着いていく。
その理由は津川という男の存在だった。彼という存在のおかげで鎮守府に希望の光が射したが、同時に鎮守府にいる全員が彼によって感覚を狂わせた。
彼は提督による暴力を止めてくれており、捨て艦の回数も少なくなった。
彼の行いによって他の艦娘からも好評されていた。貰うはずだったお金も多少は戻ってきて暗い顔から笑顔が戻っていく。
しかし、津川の祝福にも不自然な点が幾つかある。まず、出撃して手に入れた艦娘が突然いなくなっていることが多々あり、建造した艦娘も預かるという形で渡しているというものだった。
ある日のこと
津川は何か本を落とし、不知火がそれを拾う。それは正義側3rdという男の情報の書類が入っていた。
(何かしらこれ…)
その書類をこっそりと不知火が手に取って、部屋で見ながら読み上げる。
「みたせ、みたせ、みたせ、みたせ、みたせ…繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ…えっと、これであってるかしら?」
不知火がそう読み上げると、床から光が放出され、そこから人が出てくる。
「お前が俺を「誰⁉︎」おいちょっと待っ⁉︎」
見知らぬ男が全身青タイツという変な格好をして、しかも床から突然出現してきた。
不知火は驚いて艤装を構え、その男の方も槍を構えて自分を守ろうと構える。
(なんなのこれ…まるで意味がわからない)
不知火はその男に向かって砲撃はしなかったものの、二人とも動けない状態でいた。いつの間にか不知火の手の甲には赤い印が刻まれている。
「頼むから、その武器を下せ…つっーかどうなってんだ?召喚されたってのにマスターに殺されそうになるって。
しかも、マスターがこんな…」
「何をブツブツ言ってるの?マスターってなに?」
「…とにかくだ。まず武器を下してくれ、話はそれからだ」
武器をしまい、何をどうしてこうなったのかを先に不知火が説明した。
よくわからない本を拾って、それを読んだら急に青タイツの男が出てきたと、そう言われたランサーはがっくりとする。
(触媒も無しに呼ばれたのかよ。魔力の方は仕方ないが低いな)
不知火には魔力の素質が微量に体内にある。魔力のない世界で何故魔力を持っているのかは謎のまま。
ともかくランサーの方はこの世界がどうなっているのかや、ここがどこなのか、マスターは何者なのかを聞いている。
不知火は彼の疑問にすべて答えた。
「信じられない話だが、信じるしかなさそうだな。しかし、艦娘ねぇ…」
ランサーの方は釈然とはしてないが、戦艦が艦娘に変貌したことと、艦娘を収める提督。敵である深海棲艦相手に戦わなければならないことを彼は不知火に教えてもらって鎮守府について説明した。
不知火の方はランサーという強力な人物を手に入れたことで忌まわしき提督を葬って津川を提督にしたいと望んでいた。
(これであの提督に報復ができる彼の力さえあれば、あの憎い提督を殺してみんなを解放することができる)
不知火は内心では喜んでおり、高揚した気分だった。
しかし、この時の不知火はまだ津川が恐ろしい人物だというのは知らなかった。
ランサーを召喚したその日の深夜に榛名達が深夜に動いていた。不知火と一緒にいるランサーは結界が張られたことな気づき、不知火を起こさせる。
二人は結界内に入っており、外に出て様子を確認していた。夜の出来事で提督よりもかなり厄介な人を相手しなければならないことをこの時不知火は知った。それは倉庫の近くで。
「嘘っ…」
榛名だけではない、いつも提督に反抗していた摩耶と解体処分にされてもおかしくない五十鈴の二人がいた。
背後には新人の朝潮と浜風がいる。
(なにが、どうなっているの⁉︎)
津川と艦娘3人に協力して提督をこの鎮守府から出て行こうとも考えていた。なのにこの状況は敵同士になっている。
津川は蛇を操って、五人を囲んでいる。海に出られないように彼の手下が壁を張って逃げられないようにした。
「ごっ、5人を助けてランサー!」
「了解した、マスター」
五人を絶対に逃がすために、不知火はランサーに指示をした。
*****
不知火は5人を助け、自室へと逃げていったが二人のことを恐れていた。今の不知火は混乱している。
信じていた津川が、艦娘を襲っていたからだ。
(なに?何なのあれ?何がどうなってるの⁉︎)
「で、これからどうすんだ嬢ちゃん」
青い槍兵が結界師を殺したのだから津川は提督を利用して周りを調査する人を増える。つまりは、彼の手下が増えて、この鎮守府を巡回するということにも捉える。
不知火は状況を把握するのに混乱していた。もしもこのことがバレたらどうなるだろう。
「落ち着くのよ、絶対にバレない。絶対にっ、バレない…」
川津は自分達を救ってくれる希望だと思っていたのにどうしてあの五人を始末しようとしたのか。なぜ提督に敵対している5人と戦っているのか。
考えられるのは
「…あの人も、所詮提督の手駒だっていうの?私達が武力で逆らったら返り討ちに出来るように」
もし津川が鎮守府にいる艦娘を一人一人に調べられたら狙われる。自分が英霊を持っていることと、5人を救ったことに。
今の不知火にできることは、誰か信用できる仲間を手にすることだった。
ーーーあの二人への反逆よ
*****
不知火がまず声をかけたのは憲兵に変装していた榛名との対話であった。自分が危険じゃないことを言って、彼が何者なのかを尋ねる。
彼の方は何をするのか分からないから、ランサーに任せた。助けに来てくれた彼が体たらくなら暗殺されるに違いない。彼が味方で提督や津川相手に戦えるのなら強力な味方になる。
「逃げ出すのは分かります…あんなことがありましたから」
「出て行った理由は…その聞いても馬鹿げていて…信じてくれるかわかってくれるかどうか。
逃げ出していった私達のことを卑怯だと思ってますよね。」
榛名は目を背けながら会話をしていた。こんな荒業に耐え切れずに疲れ果てて、鎮守府から逃げ出したり自分から解体して欲しいと頼むから艦娘だっている。
5人とも鎮守府から逃げ出したが、命を狙われていた以上何か理由があってのことだった。
「あの後…五人は轟沈扱いになってます」
「そうですか…」
五人が出て行ったことによって、提督には轟沈として大本営に報告されている。
帰ってくることは到底叶わなかった。
「私は、五人のことを臆病だから逃げたって思ってません…特に榛名さんは勇敢で、とても尊敬できる先輩です。
助けてくれてありがとうございました」
不知火は榛名を傷つけず、ずっと感謝したくてならなかった。榛名の方は頭を下げられたことに戸惑ったが、
「それでも、守りきれなかった駆逐艦もいました…だから私は「ただいまーっ…」あっ、正輝さん!どこに行って…その怪我は⁉︎一体何があったんですか⁉︎」
話の最中で正輝とランサーが二人の元へ戻っていく。
榛名は正輝がいなくなったことで心配しており、正輝は戻ってきたもののボロボロの状態で帰ってきた。
「マスター、どうやらこいつはこっち側だ」
「たく、襲うか普通」
「仕方ねぇだろ?マスターの命令だったんだ?」
正輝は襲われた事情を説明し、こんな姿になったのは不知火の指示で襲わせるように命令したから、ランサーのマスターが艦娘の不知火であることを知り、ランサーの方も実は正輝とは知り合いでしたという事を不知火に話した。
「なんで話さなかったんですか…」
「話しても、信じなかっただろ」
不知火はため息をついたが、二人が初めて会ったばかりで片方が根拠のないものを言っても意味がないとランサーは反論した。
「で、手を組むって話になるのか?」
「少なくとも私達が争う理由はなくなった」
艦娘が令呪を持っており、青ランサーが彼女に従っている。正輝達の側も手を貸してくれるのなら大いに助かる。
理由は、正輝はこの鎮守府の場所の把握を榛名と同行しなければ分からない。
過程をすっ飛ばして簡潔で終わらせるとしたら青ランサーのゲイボルグを使用し、提督や津川の心臓を穿つことは可能。不知火の魔力値のことについては正輝が契約を引き渡し、彼の指示で宝具を使用すれば解決する話だ。
しかし、問題はその後のことだった。
今いる提督だけを消せば津川が強制的に提督となり、新しく着任した艦娘を私益の為に使ったり、別の戦いをさせられる可能性が高いからだ。
両方を消したとしても、新しく来る提督が前回と同じほどの性格が歪んだ人格ならばまた同じことが繰り返される。
「ん?誰か来たみたいだな?」
そんな問題に頭を悩ます間、誰かがノックしている。ランサーは霊体化して消え、榛名はベッドの中に潜り込んで寝ているフリをする。
「ヘーイ!こんな時間にすみませーん!ほぇ?来客ですか?」
「こんな夜中に、随分大胆だな?」
入ってきたのは新しく建造されて着任したばかりの金剛。金剛は正輝と榛名の部屋に謎を確かめたいがために訪れた。
「すみません、ちょっとした人生相談をしている最中です」
「ううう、そうだったのネー…もう帰りマース」
金剛の方は落ち込みながら自分の部屋へと戻っていく。金剛はまさか不知火がいるとは思わず、一対一を狙っていた。
「あいつ何がしたかったんだ?」
「お姉さまは、私達二人だけだと思ってたんでしょう…」
金剛が去って行ったことで榛名が起き上がり、ランサーは霊体化を解除する。
「津川はまだしも、提督を倒したところでこの鎮守府にまた新しい提督が着任して、そいつが屑だったらどうにもならんぞ?」
「その話は後に回しましょう。今は仲間を増やすべきです…私の方は榛名さんは信じられますが未だに貴方のことは半信半疑、だから同盟を望むには条件があります。
一航戦の正規空母を救うこと…貴方の功績を示してください」
ランサーは正輝が安全であるというのを言ったが、彼のマスターである不知火は味方かどうかを証明するためのものを見せて欲しいと頼む。
本来提督がやるべき仕事なのに偽の憲兵である正輝の方へと回った。
救う正規空母の名前は
一航戦こと赤城と加賀の二人だった。