1日前
フタサンマルマル
23:00
偽憲兵である正輝を海に落とし、彼と共にいた艦娘を捕らえて牢屋に入れた。彼女らの処遇は津川に委ねることとなった。彼女は彼の隠し事を先に知っており、行いに目を瞑っている。
(私はどこで間違えたのだ)
「君には、僕らの配下になって貰いたい!」
「ふざけるなっ‼︎」
榛名達がいなくなる三週間前、津川は長門にだけ明かしていた。
鎮守府の安泰と引き換えに艦娘を交換して実験台にしたことを、それを長門が最初に知った時は殺意を剥き出しにして彼に刃向かった。彼女は全主砲を津川に向けて、殺そうとする。が、
「身の程を弁えてくれよ?」
だが、得体の知れない力に抗う術はない。大量の蛇が全方位を囲んで噛み付いてくる。
「ガ、ハアっ…く、るし、」
蛇に噛みつかれると息が苦しくなら、噛まれた跡が紫色に変色していく。即死性ではなかったが、毒が体に周って息が苦しくなる。危うく死にかけたが、
「治療するよ?これでわかっただろう。僕に逆らえば大変なことになる」
津川は持っていた解毒剤を長門の体に注射して治療した。毒は中和され、意識が回復していく。
それっきり、彼女は津川の趣味や行動に何も言わなかった。が、趣味を知っているが故に夜は悪夢に魘されていた。轟沈していった者、無茶苦茶な指示と暴力に我慢できずに自殺した者、そして、あの男の取引にされて装飾と楽器の材料に扱いされた艦娘もいた。
提督は役に立たない艦娘を差し出せば、大量の資材や材料が得られる。捨て艦もなくなり、いろいろなものを大量に与えていたせいで感覚がおかしくなってしまったのか。
しかし、彼女達にとってそうしなければ提督の無謀な指示に震える日々が続き、またあの苦しみが永遠に続くだろう。不要な艦娘(少数)を犠牲にして自分達が生き残る。
今いる提督を深海棲艦に差し出し、自分が提督になると津川は約束して言った。津川にたてついた艦娘は牢屋に入れ、偽憲兵を葬ることで。
(今の現状を維持しているのは津川のおかげだ。だが、彼の本性がさらけ出せば横暴な提督が鎮守府に着任して我々を苦しませる。
だが私は、このまま目を背けていいのだろうか?)
この行為を艦娘が知れれば許容できるわけがない。が、状況が状況であるために逆らえるわけがない。今の実力で刃向かったとしてもまた何もできずに猛毒にやられて死ぬ。
たとえ、津川を倒したとしても次の提督も前任と同じクズだったら、最悪大本営に報告されて全員沈められてしまう。
長門は苦しみながら心の中でずっと悩んでおり、心配していた姉妹艦の陸奥は
「ねぇ、起きてる?…また提督に何かされた?」
「いや、大丈夫だ。少し悪夢を見ていた…」
長門の額にはいつの間にか汗が流れ出ていた。津川が鎮守府を実験の場所に使っているのを知っているのは長門だけ。誰もこの場所が新しい艦娘の墓場だとは思ってない。
しかし、
『俺には理解できない…お前も、あの連中も、あいつの口車にまんまと乗せられてることに。お前はそれで正しいのか?』
長門は彼の言葉にまだ癪に触っている。津川が鎮守府に来てから何処かがおかしくなってしまった。出て行った五人の艦娘、現れ出てきた津川と同じような異能力持ちの偽憲兵の出現に戸惑いを感じる。
『じゃあ…なんでお前まで狙われているっ‼︎狙っているのは俺だけだろ⁉︎
意味わかんねぇよ‼︎』
自分がたとえ殺されようと、同じ艦娘達を守れるのなら本望だと長門は思っていた。津川が提督になることによって、前任の提督から解放されて、自分達は報われる。
『自分達の不都合なことは全部押し付ける。あの提督とそっくりだな。
確かにあんた達が提督に逆らえばただじゃすまないってのは榛名に教えてもらったよ…でもな、自分から提督に反逆することもせずに俺と同じ津川っていう無法者に委ねて、お前だけじゃなく他の艦娘まで手の平で踊らされて…本当にそれでいいのかよ!
そいつら憲兵だってそうだ!どんな奴だろうと津川の一声でお前はイエスマンになって許容して目を瞑っている!憲兵に後ろから狙われる連中を黙って信用するつもりなのかよ!』
(ならどうすればよかったんだ⁉︎
提督に反逆すればする程、扱いは雑になって不遇な目に受ける。中には心に傷を負った者だっていた!
我々はこのまま寡黙になってはいけなかったのか⁉︎
あの男がいなかったら今頃我々は空中分裂していた!反逆したとしても生きるのに疲れた艦娘…いや、好き好んで行くのは摩耶ぐらいだ。
なら私、いや…私達はどうするべきだったんだ⁉︎提督にならない分際で勝手なことをほざくな‼︎)
だが、長門は提督に解放されたとしてもまだ苦しんでばかりいる。
津川の企みが全く分からない。
「そう、無理はしないでね」
長門は津川の言葉を信じて進んで良かったのか、悩んでばかりいた。
「あぁ、約束する」
(綺麗事で済まないのはわかっている。みんなが幸せに終われるとは思えないとも思っている。
それでも、私はこの道を選んだ。
だから、なにも反論できない無力な自分がとても悔しくて恥ずかしい。そんな気でならないんだ)
長門は前のことを思い出し、逆らうこともできずに津川の指示で流れに身を任せて戦うことしかできなかった。
*****
次の日
ゼロゴウサンマル
5:30
津川が船を用意し、優秀な艦娘を連れて海に出た。
津川だけではなくもう一人、暑い中ロープをきている人がいた。
その人は顔が見えず、頭まで隠している。
一方、提督は飲み物に睡眠薬を入れて、眠っているうちに拘束して、船に連行する。
できるだけ遠くの海に船を置き、彼が目を覚ますと
「お、おい!なんのつもりだよこれはっ‼︎つ、津川、いないのか‼︎」
「お呼びでしょうか?」
提督は津川に助けを求めるものの、津川は海を眺めてるだけで助けようともしない。
「なにを眺めている!今すぐに提督である僕を助け「そのことならもう飽きました」は?なにを言って」
「あの、これ敵が…」
深海棲艦が船を囲んでいる。
津川の方は彼らに提督を差し出すための準備をしていた。
「私は、貴方のような無価値な奴を生贄にするつもりです。もう潮時ですからね。
哀れで無力な奴に生きている意味はない」
「潮時⁉︎あ、新しい提督はどうするつもりだ!適任は僕しかいないんだぞ!」
「あぁもう、そんなに暴れないでください。いるじゃないですか?私が。
艦娘の方も何を突っ立っているのです。彼を何重に縛りなさい」
「こんなことして許されると思っているのか!大本営に連絡すればお前らなんてすぐに!」
「だからあなたを処理するんじゃないですか?生贄として」
「ふっ、ふざけるな!なんで僕が」
青ざめている提督は暴れるのを止めないが、力強い艦娘に抵抗できず何重にも縛られてしまった。
指示されている艦娘の方は提督が津川に変わることは良かったものの
「あの…提督になった後に一体なにをなさるつもりで?」
津川が提督を渡す前に、扶桑が疑問を投げかけた。提督になるために、前任を始末するというのは同意だったが、この後どうするつもりなのかと思っていた。
津川は改良しようとは言ったが、具体的な内容は話していない。
「え?深海棲艦の平和条約だけど?」
「へ、平和っ⁉︎そんな馬鹿なことできるわけ」
妹の山城は津川の無謀な考えを否定する。これまで戦ってきた戦争を下衆な提督の命だけでどうにかなるわけがない。
「できるんだなこれが、下衆な提督を何人か差し出して平和を保つ。僕が提督になり、深海棲艦に僕の力を見せて反逆しないことを約束させる。約束の条件に提督を一人ずつ与える」
「そんな取引が、通用するわけが…」
「互いに被害を最小限にしたい。僕は彼らの求めるものを与えるだけだ」
深海棲艦が求めるものも分からないものを一体どうやって提供するのか聞いている艦娘には理解できなかった。こんな酷い提督を差し出したところで価値にもならないのは間違いない。
「ま、待て!ならば私達は「君達は戦っているフリをすればいいだけなんだよ?」」
「「「つっ⁉︎」」」
「君達の本業はもう海ではなくなって僕らの元で働いて欲しいんだ!」
平和というのはこの世界でと戦争を止めて、異世界から来た津川の仕事を全面的に協力することだった。他の艦娘は彼の言っていることにざわついていた。
下衆な提督を犠牲にして深海棲艦に差し出して、平和を取り戻すこと自体異例なもの。できるわけがない。そんなことが可能ならば既に戦争は終わっている。
「その取引が成功したところで次の生贄はどうするのか?」
「そんなの、新しい提督をここに送って。彼を深海棲艦にあげるけど。
僕はその裏の義務をやるだけ」
津川が提督になって途中から不在になってもまた別の提督がやってきてそれを津川がその提督を深海棲艦に送ると言う作業を繰り返す。
後は大本営を誤魔化すためのだだの
この方法ならば深海棲艦との命がけの戦いはもう無くなるが、正輝のような正義側という未知の組織を相手にしなければならない。
(なら、私達の存在意義はっ…⁉︎本当にこの男の仕事を手伝えと言うのか‼︎)
問題は艦娘の必要性だった。置物扱いされる艦娘は無論、津川によって別の戦いに参加しなければならない。長門は津川が何をしているのかわかった上で協力はしている。
自分達の本来の目的は、暁の水平線に勝利を刻み、深海棲艦を倒して戦いを終わらせること。
互いが争うことのない平和的な解決方法だ。ただし、自分の力で人を救うことを止めて殺すことを選ばなければならない。
「流石に、そのようなことは我々の存在に「へぇ?なぜ、僕の考えに異議を問うのかな?不満な要素は何も無いはずだよ?」私達は人を守る為に戦ってきた!それを放棄しろと言いたいのか⁉︎」
艦娘は人としての感情はあるが、大本営が認めているのはその力を使って人々を守っているが故に存在を認めている。
存在意義を否定するということは、深海棲艦と同じように全人類や大本営の敵になっても構わないこと。正輝という男だけではない津川と同じような異能力持ちが一斉に襲ってくる。
「これはこの世界にとっての『和平』の為でもある…君達はそれを望んでたんじゃないのか?仲間が犠牲になって、沢山痛い思いをして、そんな戦い
をまだ好んで続けるつもりかな?
僕らには終わりがある!
敵組織を葬れば戦いが終わる!
対して君達には終わりが見えない!
そんな無駄なことをしても何の意味もない!
敵組織も人間だけど、君達が生き残る為には彼らを殺して終わり!
凄く簡単なことじゃないか!」
深海棲艦の数は未知数であり、平和を結べば長い戦いが終わりを迎える。誰も犠牲にならない別の形で暁の水平線に勝利を刻むことができる。
しかし、そのやり方は艦娘達にとっては津川の考えとはいえ許し難いものだった。
「長門っ⁉︎」
「…なんのつもりかな?」
「津川…そのような要望は聞き入れない。確かに、可能ならば綺麗事で済ませれば良いとは思っている。
時には残酷な選択を迫ることもある…そしてこれが成功すれば、深海棲艦との戦いはもうなくなるだろう。
答えろ津川…提督がダメなら次は何の犠牲を出すつもりだ。守る一般市民か、それとも我々を管理している大本営か」
取引が成功したとしても、この鎮守府にいる艦娘は脅えながら戦わなくてはならない。今度は深海棲艦ではない敵が迫ってくる。
「あのさぁ。今後は、戦争が唯の演技になるだけのことなのに何で怒ってるの?提督一人の命でこちらの戦争が終わったも同然なんだ。
それでもダメなら何でも良いじゃないか。何で、否定するんだい?不服なの?」
「犠牲にしているのは提督だけじゃないはずだっ‼︎いままでも、そしてこれからも我々の犠牲で生きていくつもりはない!貴様は幾つもの屍を踏んで生きている!」
津川と長門の言葉に耳を疑う艦娘が増えていく。長門は提督だけではなく艦娘の犠牲とも長門は言った。それは提督と津川が行っていた取引のことだった。
「そんな軍事的な意思は持つ必要は皆無だって言ってるんだ?分からないのか?
君達は海とは違う…僕らと共に別の戦いだけを行えばいいんだよ?素晴らしいじゃないか!
手を取り合って共に戦う!僕の、いや僕達の平和の為に!
正に素晴らしい合理的な取引だよ!
ウィンウィンの関係だ‼︎」
「津川、一つ質問に答えろ。私達のことを…兵器として見ているのか?それとも」
「人として見てるって?実にいい質問だ。なら僕の答えは君達の存在は希少価値といってもいいほどに素晴らしいと思ったからだよ!」
長門は無邪気な笑顔を見せている津川に憤った。彼の今の言葉に嘘はない。艦娘が一人、また一人と一歩下がっていく。
ついていく自分達に後悔しながら。今ここで津川に刃向かえば、彼は生かして返す気はない。
それでも
「それが、答えなのだな…ならば今ここで彼が秘密裏に行ったことをここで話す!この男は、着任したばかりの艦娘を自分の部屋に連れ込んで実験体の材料にした!それだけではない!この和平が終えても、また別の戦いを強いられる!
私、長門は!貴様に反逆する‼︎」
長門は津川を敵とみなした。陸奥は長門の行動に驚いてはいたものの、津川の言っていたことが本当なら陸奥もまた長門と同じように艤装を構える。
艦娘の方も艤装の準備をして津川に反する。
「ふーん?ま、いいよ?君達が別に自分の信念を貫いて僕に敵対しても。そうそう、君達に見せたいものがあるんだ?
この通信機、君達には見覚えがあるよねぇ?」
津川がポケットから取り出したのは榛名が持っていた通信機だった。この通信機を見せても、何も知らない艦娘は言っている意味が分からず首を傾げたりするものもいる。
だが、榛名達をよく知っている艦娘達は青ざめていた。
「貴様!榛名達に手を出すつもりか‼︎」
「この通信機を通じて摩耶と五十鈴には連絡したからね?人質がいるから助けに来ないとどうなるかわかるよね?ってさ」
*****
朝の5:00
無人島でまだ寝ていた摩耶と五十鈴が通信機の音で起き上がり、通信機を荒々しく取る。
『おい榛名‼︎一体何時だと思って「久しぶりだね、摩耶」…テメェ、その声津川か!榛名に何しやがった‼︎』
案の定、摩耶と繋がっていた。正輝達が失敗したことにより二人とも無事である保障はなかった。
「榛名には何も手を出してないよ、正輝っていう正義側の彼は岸で転落して死んじゃったけどね。どこにいるんだい?」
『くそっ…何が目的だ』
「あっれ、話聞いてなかったのか?君たちの居場所を知りたかったんだけど…まぁいいや。
幾らでも調べられるし。
海上に巨大な船がある。
君と五十鈴の二人をでその船に必ず向かうこと。ただし、船を見つけて攻撃すれば君達の姉妹艦の命はない」
『ざけんな、誰が行くか‼︎』
誘いに断る摩耶は予測していた為に、彼女達を誘い出す為の汚い手段をとった。
「彼女に、声を聞かせてあげてくれ」
「ま、やぁ…」
『その声鳥海か⁉︎』
津川は保護していた摩耶の姉妹艦、鳥海や五十鈴の姉妹艦、長良と名取の二人の声を聞かせている。
ひどく弱っていた声が通信機を通じて聞こえていた。
「君や五十鈴の姉妹艦がどうなってもいいのか?」
「私のことは、構わないでっ…」
『…鳥海、待ってろよ!すぐに行ってやるからな』
「榛名はどうなるかわからないねぇ、もしかしたら僕の趣味に付き合ってもらうことになるだろうけど、何か言うことはあるかい?」
『テメェだけは必ずぶっ殺してやる…』
「いい返答だ、正直でよろしい」
津川はそう言うと、通信機を切った。
これで摩耶と五十鈴は罠だとしても、姉妹艦が酷い目にあっている以上行かざるおえなかった。
「おい!五十鈴起きろ、私とあんたの姉妹艦が危ない!
すぐに出発するぞ‼︎」
*****
「僕はね、本来秘密は誰にも知られたくないんだ。余計な存在はこの好機に始末する。当たり前だろ?本当に、ガッカリだよ…特に長門には。働いてくれれば僕は趣味に没頭できたのに、余計な仕事が増えちゃったじゃないか…
あーあ、交渉も決裂しちゃったし。
深海棲艦の方は僕らを狙ってるね。
…こっちが海上戦が出来ないとでも思ってたか?馬鹿共が」
津川がそう言うと、天気が曇ってゆき海上から巨大な海蛇が幾つも出現する。海上から出てきた巨大な怪物の出現に深海棲艦や艦娘は混乱に陥っていた。
「君達を潰すのなんで、造作もなかったんだよ?
提督に対する反逆と僕に対する反逆、どちらが無謀と言えるものなのか言わなくてもそっちはわかっていたはずだ。未確認な僕らの組織と、指示することしか芸のない無能な大本営。どちらが恐ろしいか天秤にかけるまでもなかったはず。
愚かな選択をしたものだ。
君達を全て始末しなければならない。
こんなことが大本営に届いたら面倒極まりないからね。
みんなまとめて奈落の底へ沈んでしまえ」
「退避‼︎」
大海蛇は艦娘と深海棲艦に突進してきた。こればかりは長門達や深海棲艦だけではどうにもできない。
巨大な船は一気に崩れていった。
津川は大海蛇の背中に乗っており、提督が拘束している縄を掴んでいる。
「ハァ、困ったな…「津川ぁ!お前だけは許「あーはいはい、少し黙っててくださいね」ぐふぅ⁉︎」」
津川は提督の腹を殴って、気絶させた。取引まだ終わっていない。鎮守府にいる艦娘がいるのだから、この艦娘達は沈んでも構わない。最悪、提督を差し出しても無駄なら深海棲艦と手を組むことを止む無しに思った。