一方、摩耶と別れた五十鈴は姉妹艦である長良と名取が何処のいるのか、あたりを闇雲に探していた。津川の言っていた船は既に崩れており、彼について行った艦娘は深海棲艦に囲まれている。
「名取、長良!何処にいるの⁉︎」
五十鈴は二人の名前を呼んでいるものの、全く声がしない。深海棲艦の砲撃を避けつつ、崩れて散らばった船のところでずっと探していた。
(一体何があったっていうの⁉︎)
連絡が来る前は船はまだ壊れてなかったものの、今では崩れて敵の艦隊が周囲を囲んでいる。
(えっ、影?)
五十鈴は上を見上げると大海蛇が五十鈴の背後からゆっくりと狙って襲おうとしていた。五十鈴は反撃しようとするものの、大海蛇の方が素早い。
もうダメかと五十鈴は思ったが、その横から大海蛇は艦載機に顔部分を砲撃されて倒れていく。
「大丈夫ですか‼︎」
「五十鈴!」
「二人とも無事だったのね⁉︎」
大海蛇を狙って攻撃したのは赤城と加賀の二人だった。探していた二人は他の駆逐艦の艦娘が逃げつつも保護しており、ちゃんと確保している。
「その、津川に牢屋に無理矢理入れられて…船がいきなり崩れていって」
「よく無事だったわよね」
船は二人の入っていた牢屋ごと壊れ、艤装は津川が隠して持っていない状態。見つからない以上、二人の艤装は船ごと海の底に沈んでいる。
「どうなってるのよ⁉︎船は既に壊されてるわ深海棲艦とは戦ってるわ…」
「津川が、本性を現したんだ。私達全員を誰も生かして返す気はないって…」
正輝と榛名達の正体がバレて、偽憲兵の正輝は数時間前は死亡扱いにされていたがこうして摩耶を助けに向かっているために生存している。正輝が生きているおかげで、榛名達を牢屋から出すことができ、鎮守府に住み着いた津川の部下(偽憲兵)を倒すことができた。
船の方は長門だけではない他の艦娘の裏切りによって起こったことだった。秘密をほとんどの艦娘に知られた津川は船にいる艦娘達を蹂躙し、轟沈させることした。
「っつ⁉︎今度は何‼︎」
「えっ、私達海にいたはずなのにどうして…」
今度は正輝が発動した固有結界によって世界が一変する。もう海では無く陸地へと変わってゆき、ここにいるすべての者を巻き込んだ。
*****
津川は世界が変わったことに青ざめていた。さっきまで海だった場所が突然変貌して、荒野となる。あたりには剣が刺さっており、水の一滴すらこの場所には全くない。
「こ、殺せぇぇっ‼︎」
津川は全ての瓶から出し、目の前にいる正輝を殺すように指示する。だが、上空から剣が降り注がれ剣蛇の体を貫く。蛇はまだ生きているものの貫かれて動けないままになっていた。
「それじゃあ無駄だ」
正輝は荒野に刺さっていた二本の剣を取り上げて襲ってくる。津川の方はなんとかしようと大海蛇を暴れさせて身体ではたき落とそうと考える。しかし沢山いた大海蛇は暴れる前に剣の雨でピクリとも動かない。
剣で大量失血で生命力が失い、変色動物であるがために活発に動けない。その理由は、急激な温度の変化に耐えられるわけがないからだ。
だが、動かなくなった直前に超遠距離の毒液を正輝に向けて噴出する。正輝はその液体を剣で防ぐことはできず、アイアスの盾で防ぐしかない。しかし正輝は防ぐことをせずにその液体を投影魔術ではなく神器で創り出した魔剣が吸収した。
「
毒喰らいの剣を創り出して、正輝の周りにある毒の成分を吸収する。たとえ蛇が正輝に噛み付いてきても、噛みつかれた傷は残るが正輝に毒は効かなくなった。
「あっ、あぁぁぁっ…そんな、こんなあっさりと」
「なんだ、陸地になったら呆気ないもんだな」
「ひぃぃぃっ⁉︎」
頼っていた蛇はほとんど朽ち果て、仲間である艦娘にも見捨てられている。だが、津川はすぐにでも不利な状況を脱するために汚い手段をとった。
「お前らっ。う、動くなっ‼︎近づけば子蛇に命令して、この艦娘の二人の頸動脈を噛み付くぞ‼︎」
「なによっ、これ…⁉︎」
津川は倒れている長門と陸奥に子蛇を流し、2人を襲うように命令した。正輝が動けば二人は毒にやられて死んでしまい、津川は生き延びられる。
(こんな結界が長く続くわけがない…)
「さぁ、抵抗せずにずっとそこにいろ‼︎」
海を覆うほどの魔力の結界を全員巻き込んで張っている以上膨大な魔力を消費する。ならば、この結界には時間制限があるため生き延びられれば好機は必ずあると思っていた。
正輝は津川の言う通り動かなかった。が、
「残念だが、もう何もしなくても俺の勝ちは決まったんだ。お前が人質を取る前に既に仕掛けは済んだからな」
「…は?」
正輝がそう言うと小蛇は津川の命令を無視して、二人の艦娘の体から離れていく。
「おい、何をやっている⁉︎なんで俺の言うことが聞けない‼︎そっちじゃないって言っているだろう‼︎」
小蛇はちゃんと津川の指示通りに動いている。正輝は小蛇に佐倉杏子による幻術の魔法をかけて騙し、小蛇から見て津川と提督は標的である陸奥と長門の姿となっている。
しかも散らばった小蛇の一つ一つが毒を持っている。その蛇を武器に使っている津川が知らないわけがない。
「自分のことを知っているが故に、末路がどうなるか分かっているはずだよな」
「や、やめろっ!来るな!こっちに来るなァァァッ⁉︎」
小蛇が津川を襲い、彼の身体を這いより至る所に噛み付く。肌色になっていた場所が紫色へと変色し身体全体に毒が回る。
目は白目となり、完全に息絶えた。
「蛇使いが蛇に殺されるなんて…皮肉なもんだな」
「た、たすけ、嫌だ…こんなところで死にたくな、ぁぁぁあぁっ‼︎」
提督もまた津川が隠し持っていた瓶の蓋が外れ、そこから大量の小さい蛇が動き出して、近くにいた提督を襲って噛み付く。その蛇の大群は主人を失って敵味方も分からなくなった状態だった。
共食らいをするものもいたが、死んでいった津川や拘束されたまま暴れている提督にも襲っている。蛇は津川が死んだことによって微動だに動かなくなり、灰になって消えていった。提督は逃げることもままならないまま蛇の毒に噛まれて、もがき苦しみながら死んでいった。
*****
津川を撃破した。
蛇をどうにかできても陸地とはいえ残っている深海棲艦が襲ってきている。
彼らは艦娘に任せて正輝はすぐに長門型の二人を助けた。
現状で艦娘に指示できるのはこの二人しかいない。部外者の正輝が指示をしても言うことを聞かないのは目に見えている。
こうして、正輝が治療するため自由に動けるのはこの結界がまだ残しているからだ。
「おい、大丈夫か?」
「貴方は」
「少なくとも味方だ、すぐにお前らを回復する。それとお前らにも少し手伝ってもらいたいこともあるからな」
正輝はBLUEを展開して二人の怪我を治療した。蛇には噛まれておらず、深海棲艦から受けたダメージだけが残っている。
「じっとしてろ」
「分かっているのか…こんなことをしても、私達はまだしも他の艦娘は」
「分かってるよ。後々とんでもない力を持っている俺を嫌悪し、利用しようと出てくる。
中には恐怖する者もいる。
津川と提督が死んだ以上、この後どうなるか俺は怖い。
でも今はまだそれどころじゃない。早くここを抜け出さないとみんな纏めて海の底だ。それにもう一度言うがお前らにも協力してほしいことがあるって。まずは俺も鎮守府に帰りたいんだから船で送ってもらえないか?」
長門達二人は頷き、BLUEで復活すると陸奥と長門は船についてある綱を手に取る。
提督の遺体は水の底に落ちていった以上もうどうにもできない。それに、深海棲艦がまだ襲ってくる以上は提督を回収するのは不可能となった。
「退避!」
復活した長門がそう叫ぶとこの海域から艦娘達が出て行く。深海棲艦が彼女らを追おうとするが、海蛇の遺体が道を遮る。津川よりも大海蛇の方が消えるのが遅く、どかそうとしても時間がかかり艦娘全員が無事オリョール海から出て鎮守府に帰ることができた。
なお、正輝の方はBLUEで船を作り出して結界を解いている。長門と陸奥の二人に船を引きずるように頼み、綱を掴んで移動している。
海にいた艦娘と正輝は鎮守府へと帰って行った。
*****
「無事だったんですね!」
「津川はもう倒したのね」
「貴方生きてたの⁉︎」
「お前っ、あのクソ野郎の二人を倒したんだってな‼︎
本当ならそれは私の役目だったんだっていうかさっきはよくも蹴っ飛ばしてくれたなぁ‼︎」
「よう。正規空母の皆さんに金剛に榛名、お前ら二人も無事だったんだな。
五十鈴は鎮守府に帰投するまで俺が死んだとずっと思ってたのかよ。
あーそれと摩耶…お前はお前でいちいち攻撃すんな」
榛名と金剛、正規空母の六人は津川と共にいた艦娘と一緒にボロボロになりながらも戦っており、摩耶の方は津川に洗脳された鳥海と決着をつけた。五十鈴の方は人質にされた長良と名取と共に帰ってきている。
摩耶は正輝を蹴ったりはしているものの前の頃のように艤装を使って殺そうとは思っていない。
「でも、ありがとな。助けてくれて…」
「それほどでも。まぁ津川の方は俺の力を知らなかったおかげで助かった」
「力…あぁ、そうだった⁉︎お前!
さっきのなんだったんだよ‼︎
海が突然変わって‼︎」
「あれにはみんな驚いたデース。あれは一体なんだったんですか?」
(あっヤバい…津川を倒したのは良かったけど、艦娘にどう説明するか忘れてた⁉︎)
艦娘達が知りたいがために正輝に押し寄せてくる。思えば津川の言った自分達の組織と敵対している者も戦うと言っていた。艦娘達にとってはその意味が分からなかったが、少なくとも津川のような異能力を持っている人間と戦うというのは理解していた。津川に敵対している者として正輝が含まれている。
余計なことを言ってしまったせいで、無限の剣製について聞こうとしている。
異能力だから使えたと誤魔化してもそれで納得できるわけがない。あの固有結界のことについて説明する必要があるが、話すにしてもとても言いづらい。一応正輝はシャドーを使い、不知火に津川と提督を葬ったことを連絡した。もう彼女の方の話は正輝が向かっている間に済んでおり、ランサーと一緒にいる。
『やっと、やっと終わったのね…で、今度は何で困ってるの?』
『いや…ちょっとな、ハハッ。津川を倒すために固有結界ってのを使ったんだけど…今、ちょっと手が離せない』
『お前が力を盛大に使ったせいで、艦娘に質問攻めか』
本来の目的である津川の撃破は成し遂げて、後はもう用件を済ませて無人島に帰るだけだったはずがこんなことになるとは思わなかった。
(参ったな…)
『ともかく、こっちは忙しいからまた後でな』
まさか質問攻めという仕事が増えるとは思わなかった。
シャドーの連絡を切って、どうにかして納得させようと正輝は考える。鎮守府に帰投することができたとはいえ、正輝のやるべきことは大本営が強行突破する前に報告書の偽装工作を作ることともう一つは報告書の件は不知火、摩耶、五十鈴、榛名を回収し無人島に戻ること。不知火は英霊を持っている以上危険視され、身体検査を行えば間違いなくバレるのは時間の問題。榛名達は元々報告として轟沈扱いにされているためにもう一度戻ってきてもこの鎮守府で艦娘達と戦うことは二度とできない。
赤城と加賀の一航戦、五航戦や二航戦ついては津川のついて行った艦娘と同様に提督に反逆しているために罰は免れないが、偽装工作にて全てなかったことにするために問題はない。
正輝は偽装工作を早速急いで作り罪を無かったことにしてこの鎮守府から出て行こうと考えていたのに、津川についていった艦娘が帰ってきて先にやろうとしたことは、
「まだやるつもりか…お前ら」
「この男の素性は、拘束していくらでも拷問すればいいだけだ」
質問攻めを受けて苦心な表情になっている正輝の隙を見て艤装を使って襲ってきたが、死なないようにある程度の加減をしている。
大勢いる艦娘のことを無視して、狙って撃ってきた。
「…まぁ、そうなるよな」
「貴様を、我々の提督にすることにした。大人しくしていれば危害を加えることはない」
「海が突然変わったけど、あれを作り出したのは貴方なの?正義側ってどういうこと?知っていること…全部話させてもらうわよ…」
「大本営に送られた提督はもううんざりなんだ。悔しいけど君の方が深海棲艦を倒せるし、正規空母を助けたんだから人望が強い。
悪いけど死にたくなかったらこのまま提督になってもらおうか?」
提督が死んだ以上、事故死として処理するしかないが問題はその後のこと。艦娘は大本営から来る提督を信用できずに、新しい提督を正輝に無理矢理させようと反抗してきた。
大本営から来る提督は信用できない。
艦娘達にとって正輝の存在は、津川がいた頃は邪魔者だったがもう津川はいないために重要な存在となっている。
正輝がここに残れば提督がいるという点で、誤魔化しが効くからだ。彼女らが犯した罪を無かったことにするだけで許容できるわけがなかった。
一番問題なのは、正輝がどれだけずば抜けた力を持っているのかというのではなく、正輝がこの鎮守府に滞在するか否かだった。
正輝本人にとって答えはノーだが、津川を支持した艦娘は正輝の言い分を聞く耳持たない。こうして強硬手段を取っているからだ。