Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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54話英雄(未)の御用

正輝達はクリスの後を向かおうと必死に探しているものの場所が見当たらない以上助けにも行けない。

「くそっ、どこにいるんだ‼︎」

親愛の関係だったクリスの命が危険に晒されているのに、爆発させたんじゃないかと焦りつつどこか跡があるかを見回している。そんな時に、正輝と嶺の携帯が鳴った。正輝はイラつきながらも取り出し、携帯電話をつける。

 

二人の携帯の表示画面には神様と表示されてあった。

「もう何だこんな時に!」

『わしじゃ、正輝達が道を迷っていたからマップを用意しておいたぞ』

『時間がかかってすぐには準備できませんでしたが、これで探すのも容易になるでしょう』

正輝と嶺の携帯にはフロンティア全体のマップをダウンロードされ、どこに誰がいるのかがマーキングされてある。

「こう言う時に限って…てか先にやるべきだろこういうのは」

『すまんかったすまんかった。それを使えばみんなの居場所もわかるじゃろう』

「…ふーん。やけに都合が良い時に用意できたね?」

正輝は今は余計なことを考えずにクリスの救出を考え、その隣で姉は神様に対して冷たい視線を送っている。

『たまたまじゃよたまたま。それに早く行かんと大変なことになるんじゃろ?仲間の危機じゃ』

自分達が探している間にこんなものが用意できるのなら、なんでフロンティアが解放されている時間なら十分にあるはずなのにと。神様から得られた地図のマーキングをようやくたどり着くことができた。

「おいクリスっ!大丈夫か‼︎」

正輝と嶺、黒沢の3人が駆けつけるもののもう終わった後だった。ウェル博士は逃げて、クリスと翼の二人こうして生きていることに安堵している。

「お、おい正輝!」

「こっちは心配してたんだぞ!俺には何も言おうとせずに勝手に行こうとするから!それにウェルの野郎に爆弾付きの首輪までつけられて!」

「そりゃ…そうだけど。ってか、あたしらに何も言わずにFISにクッキーマンを忍ばせたお前だってそうじゃねーか!あいつらに気づかれたらお前だってただじゃ済まなかったんだぞ‼︎」

「あれは…仕方ないだろ!てゆーか、そもそも俺も気づかなかったんだから」

正輝はすぐに雪音の両肩を掴み、心配していた。爆弾がつけられていた首を確認し、そのあと顔を見ている。二人とも勝手に動いているために口論になっていたが、それを翼とアーチャーが止める。

「とにかく少し落ち着け二人とも。雪音はこの通り大丈夫だ。それに私達を裏切ったわけではない。確かにあの時私は撃たれてはいたが、雪音は急所を狙っていなかった」

「…まぁ、その杖が証拠なんだろ」

正輝の質問に、クリスは頷いた。雪音の持っているものはウェル博士から奪ったソロモンの杖だ。

「でも首にあった爆弾はどうやって壊したんだ?」

「私だ。雪音とのコンビネーションのおかげでどうにか首にある爆弾を壊すことができた」

「…ありがとう。でも、事が終わったらちゃんと俺にも詳しいことを話してもらうからな」

「あぁ、お前もだぞ。ちゃんと私らに教えろよ」

「後はウェルって人だけ?」

雪音の無事を確認した正輝は、携帯のマップを見せる。それぞれの人の所在地が把握されており、どこに集まっているのかが分かる。調と切歌の二人は別のところにとどまっており、響がマリアのところへ向かっている。

 

「切歌と調は聖遺物を持っていたから大丈夫だとして、後は聖遺物を持ってない響が一番危険だな…」

 

 

ロープ陣営が適合者である彼女を狙わないわけがない。一人のところを狙って暗殺しようとしてくるかもしれないからだ。

だが、今回はなぜか順調すぎている。響を狙うというのも考えられたが、正輝達の助けを邪魔をするのも可能だったはず。助けに行こうと向かっているのに邪魔してくるのは散らばっているノイズだけで、ロープ陣営は襲ってこない。

それに雪音クリスはどうせ裏切るんじゃないかとウェル側よりもロープ陣営の方が分かりっているために、クリスの近くに何か罠を仕掛けてくるんじゃないかと正輝達は警戒していたがそんな様子もない。

 

「調と切歌の二人に俺がいく必要はないか。なら…ウェルのクソ野郎をぶっ飛ばしに行くか…ん?」

(調のいるマーカーがない?)

携帯のマップ画面を確認すると、ピンク色のマーカーがいつの間にかなくなっていた。

「姉さん、黒沢。ちょっといいか?」

正輝はまさか調が死んだんじゃないかと不安になって、ウェルよりもその二人の元に駆けつけよう考えたが、

(あれ?さっきまでなかったはずなんだが…)

「ん?何?」

「いや…気のせいだ。なんでもない…」

正輝がもう一度携帯を確認したところ、携帯のマーカーは緑と消えていたはずのピンクが示されていた。

 

*****

 

1.2時間前のこと

クリスと翼、調と切歌の二組が戦っている間、ウェルに騙されてショックを受けていたマリアはマムのおかげでなんとか立ち直ることができた。

 

『…私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑える為にフィーネの名を騙った者だ。』

 

フロンティアからの映像情報を流し、世界各地で中継されている。

三ヶ月前に起きたルナアタック。月の公転軌道の異常は、局長アダム・ヴァイスハウプトの指示の元で米国・国家安全保障局、ならびに、パヴァリアの光明結社…これらの隠してきたことをさらけ出した。

今までの偽っていたものを、この中継で明かそうとしている。

 

マリアはこの世界中が中継を見ている人たちの目の前で、月の落下を阻止しようと立ち上がった。

 

ーーーー

 

この映像情報を流す前に、マリアの歌でなら月を止めることができるとナスターシャは言った。

「歌で月を…」

『月は地球人類より相互理解を剥奪するためカストディアンが設置した監視装置。ルナアタックで一部不全となった月機能を再起動できれば…公転軌道上に修正可能です』

 

しかし、ナスターシャの身体は持病があるために吐血してしまう。いつもはウェルの医学でどうにかしたがその彼もいない。

 

『貴方の歌で世界を救いなさい…』

 

マムは残っている命で最善を尽くし、

今この場で歌を歌うことで月を止めることができるのはマリアだけしかいなかった。

 

ーーーー

「全てを偽ってきた私の言葉がどれほど届くかわからない。だが、歌が力になるというこの事実だけは信じてほしい!私一人の力では落下する月を受け止めきれない。だから力を貸して欲しいっ!みんなの歌を届けて欲しい!」

こうしてマリアが歌っているのが生中継で流れており、世界中の人達がその映像を見て聞いている。

 

(セレナが救ってくれたこの命で、誰かの命を救ってみせる!それだけが、セレナの死に報いられる!)

 

マリアは必死に歌で救おうと懸命になり、歌は月の再起動へと送られていく。だが、

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

彼女の歌だけでは届かなかった。

だからこそ、マリアはみんなは彼女が必死に歌おうとして助けようとしている応援して見ている。

 

フロンティアの輝きは消えてしまった。月は刻一刻と迫り、止まることはない。

 

そして、輝きがない以上月の遺跡は動こうともしない。

「どうして、どうして…私の歌では誰も救えないのっ…セレナっ…」

『マリア、もう一度月遺跡の再起動を』

ナスターシャはもう一度歌で月を止めるように言うが、みんなの歌をマリアに届けたところで一人の歌では限界があった。膝をつき、立ち上がることもままならない。

「無理よ!私の歌で世界を救おうだなんて!」

歌っていたマリアは完全に疲労しきっており、何もできないことに後悔して泣いていた。

『月の落下を止める最後のチャンスなのですよ!』

 

マリアは立ち上がろうとしても、ほぼ意識が放心状態になっていた。

 

そんな時に翼とクリスから逃げていったウェルはソロモンの杖を奪われて、マリアのいる方に来た。クリス達にソロモンの杖を奪われ、直接マリアをぶつけようと目論むが、マリアでさえもウェルの計画の邪魔をしようとする。

 

彼はそのまま呆然と立っているマリアを腕でどかした。

「バカチンがっ!月が落ちなきゃ好き勝手できないだろうがっ‼︎」

 

ソロモンの杖を奪われ、もう残されているのはフロンティアとネフィリムの腕だけしかない。

 

『マリアッ!』

「やっぱりオバハンか」

『お聞きなさいドクター!フロンティアの機能を使って収束したフォニックゲインを月へと掃射し、バラルの呪詛を司る遺跡を再起動出来れば月を元の軌道に戻せるのです!』

 

だが、そんな要望を聞いたところで月の落下を望んでいるウェルが月の落下を戻すわけがなかった。

 

「そんなに遺跡を動かしたいのなら、あんたが月に行ってくれれば良いだろっ‼︎」

 

ウェルはフロンティアに指示し、マムのいる制御室を空高く打ち上げられた。

行先は、落ちていく月へ向かって。

「マムっ‼︎」

「有史以来、数多の英雄が人類支配を成し得なかったのは人の数がその手に余るからだ!だったら支配可能なまでに減らせばいい!僕だからこそ気づいた議長論!英雄に憧れる僕が英雄を超えてみせる!」

 

マムを殺されて、ウェルを憎んでいるマリアはアームドギアを構え、殺そうと矛先を向ける。

 

「よくも…よくもマムをっ‼︎」

「手にかけるのかっ!僕を殺すことは全人類を手にかけることだぞっ‼︎」

 

ウェルを今ここで殺せば、マリアは生放送で人を殺すことになるだろう。そしてネフィリムの聖遺物で月の落下を止めることのできるウェルをガングニールで殺せば、もう誰も止められない。月はそのまま地球に落下し、全人類を滅ぼす結果となってしまう。

 

だが、大事なマムをウェルが死に追いやったために、怒りで我を失っているマリアには考える余裕も無く、彼の声は全く届くわけがない。

「殺すっ‼︎」

「ひぃぃぃいっ‼︎」

 

黒いアームドギアを構えて、ウェルの心臓を貫こうとしたその時に、横から立花が入ってウェルを庇った。

 

「どけ!融合症例第1号‼︎」

「違う!私の名前は立花響16歳!融合症例なんかじゃない!ただの立花響がマリアさんとお話ししたくてここに来てる!」

「お前と話す必要はないっ!マムもこの男に殺されたのだ!ならば私もこいつを殺す‼︎

 

世界を守れないのなら、私も生きる意味はないっ‼︎」

 

自暴自棄になって、ウェルを刺し殺そうと襲ってくる。が、その槍を立花は素手で止めていた。

 

止めている左手から血が流れている。

「意味なんて後から探せばいいじゃないですか。

だから…生きるのを諦めないでっ‼︎」

 

響は聖歌を歌った。しかし、今の響には鏡獣神によって消されてしまったために聖遺物を持っていないも同然。

 

「なんのつも…⁉︎」

響が聖歌を歌ったと同時にマリアのアームドギアが消え、纏っていたはずのガングニールも解かれてしまう。光はこの空間だけではなく、フロンティアも輝やいていた。

 

「何が…一体何が起きているの?こんなことってあり得ないっ‼︎融合者は適合者ではないはずっ‼︎これは、貴方の歌…胸の歌がして見せたことなの⁉︎

 

貴方の歌って何⁉︎何なの⁉︎」

 

ガングニールがマリアではなく立花響へと託されていった。もう立花響は前までの融合症例ではない。

 

「撃槍・ガングニールだぁぁぁぁっ‼︎」

 

聖遺物のガングニールはマリアではなく立花響を適合者として選んだのだから。

前までは聖遺物を埋め込められていたが、もう響はその後遺症がないまま変身をしている。マリアは変身が解かれて、元の私服の状態になってしまった。

 

「ガングニールに適合…だとっ⁉︎」

 

もうマリアをぶつけることもできなくなったウェルは、この場から逃げようとするものの階段から転び落ちてしまう。

 

「こ、こんなところで…終わるものかぁぁっ‼︎」

倒れ伏せていた状態のままネフィリムの腕で地面を叩くと、その場所に丸い空洞が開き、落ちていく。

「ウェル博士!」

ちょうどその頃には緒川と弦十郎の二人が来ていた。マリアがさっきまで映像を流した発信源を元に駆けつけていたのだ。

 

「響さん!そのシンフォギアは」

「マリアさんがガングニールが、私の歌に応えてくれたんです!」

 

フロンティアは揺れ、重力によって上昇させている。ウェルは逃げつつも左腕のネフィリムで操作している以上、邪魔する奴らを重力波で殺そうとしていた。

 

「フロンティアの動力はネフィリムの心臓…それを停止させればウェルの暴挙も止められる。お願い、戦う資格のない私の代わりに変わってお願いっ…‼︎」

「調ちゃんにも頼まれてるんだ。マリアさんを助けてって。だから、心配しないで!」

 

弦十郎は拳で地面を砕き、亀裂ができた。ウェルを追うために、そこから入ろうとする。

 

「ウェル博士の追跡は、俺達に任せろ。だから、響君は」

「ネフィリムの心臓を止めます!」

 

こうして響はネフィリムの心臓を止めに向かい、緒川と共にウェル博士の追跡に向かった。

 

(いや、もしかすれば…我々が着く頃にはもう既に)

 

弦十郎はウェルの追跡の間、正輝達が待っていたことを考えていた。今の正輝は弦十郎達よりも先に向かったのだから、クリス達の安否を確認した後すぐにでもマムのことで激怒していたマリアのように正輝もまた彼に報復しようとするだろう。

 

*****

 

フロンティアのコントロールルームも使えなくなってしまったウェルが残している切り札の一つとすればフロンティアの核の部分(動力装置)

 

「人んちの庭を走り回る野良猫め…フロンティアを食らって同化したネフィリムの力を思い知るがいいっ‼︎

 

喰らい尽くせ、僕の邪魔をする何もかもを、暴食の二つ名で呼ばれた力を…示すんだ!ネフィリィィィム‼︎」

 

ウェルはネフィリムの心臓部で埋め込むことでフロンティアを喰らい、支配している。だが、それを操作する人を抑えればどうということではない。

 

ウェルはネフィリムに夢中になっているにもかかわらず、周囲から殺気が漂っているのに気づこうともしない。そして、

 

「よう。ドクターウェル…いいや、このクソ野郎が」

「ひっ⁉︎お、お前はっ⁉︎」

 

 

そこでずっと待っていた正輝達三人はは散々響達を苦しませてきたウェルを徹底的にボコろうと歩み寄ってくる。黒沢と嶺は今度は怒っている正輝を止めることなく、ウェルがまた逃げるんじゃないかと足止めをするだけ。

 

敵だから邪魔をするのはわかるが、クリスと未来の二人を道具として扱った以上、正輝に裁かれて当然のことをしたのた。こいつ(ウェル博士)せいで聖遺物を纏った未来に殺されかけたり、恋人のクリスの命にまで手にかけようとしたのだから。

「だ、誰かっ‼︎そうだ、あのロープ陣営ならば確か協力関係になっていたはず…ハッ⁉︎」

ウェルは協力しているロープ陣営に助けを求めようとするが、ロープ陣営は助けには来ない。来るわけがないと、ウェルはフロンティア浮上を行う前に彼らが何を言っていたのかを気づいてしまった。さっきまでは邪魔してくれていたのになぜ最後の最後で正輝達の行く手を阻もうとせず、手駒も召喚しないのか。

 

黄ロープは計画遂行として協力する前にウェル達にこう警告していた。

 

 

『そうそう俺達を失望させない為には必ず命をかけて【お前達の正義を執行】すること‼︎優柔不断とかでFISの行く道が間違ってしまったからお涙頂戴なんてそんな中途半端でクソつまらない展開になってもこっちもこまーる訳よ‼︎対象は切歌、調、マリアの三人ね。全員が投げ出したら俺達協力しねーから』

 

そして今マリア達三人が現状としてFISの計画に反しており、約束を破った以上はもう救いの手を差し伸べようとする気は微塵もなく見捨てたのだ。この状況から察するに、切歌と調、そしてマリアが裏切ったという結果がハッキリと分かった以上もう手を貸す義理も無くなったということとなっている。

 

だから、彼ら三人はウェルを助けに来ない。

「あ、あぁぁっ…」

「お前を助ける奴はもういないようだな?これだと肝心のロープ陣営は助けに来ず、これでテメェも詰んだというわけだ。

 

お前がまだ英雄になりたいと叫ぶのなら、英雄殺しである俺を相手に果敢孤高に戦ってみせろよ?それともソロモンの杖でも使わないと戦うどころか威張ることすらもままならないか?」

 

酷い目にあうと恐怖し、恐れたウェルは正輝に背を向けて逃げようとする。だが、逃げ道は嶺と黒沢で足止められておりもう彼には逃げ場がない。しかも、

 

【影縫い】

「なら…お前のような低俗ごときが、英雄を語るな。英雄だと叫びたいのなら、背中を見せて逃げようとするなよ?」

 

正輝は投影した小刀を用意し、ウェルの影に投げて、動かせないようにした。

「奇跡が一生懸命の報酬なら…僕にこそぉぉっ‼︎」

 

だが、ウェルは諦めずに影縫いに抵抗し、ネフィリムの聖遺物を移植させた手で無理矢理動かそうとする。

 

「何をした…」

「簡単なことっ…‼︎ただ一言、ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけ!こちらの制御から離れた心臓は、フロンティア全体を喰らい、糧として暴走を開始する!そこから放たれるエネルギーは一兆度だぁぁぁっ‼︎

 

僕が英雄になれない世界なんて蒸発してしまえばいいんだぁ‼︎」

 

ウェルは逃げたというわけではなく、英雄になれない世界を月の落下で壊すのではなく、ネフィリムの力で滅ぼそうとしている。

 

「それに、憎んでいるんだろう!お前は僕のことを。僕は…お前に殺されたとしても、フロンティアの解放という偉業を成し遂げることができた!僕は憧れていた英雄になれるんだ!ヒャハハハハハッ‼︎」

正輝はネフィリムを操作するための装置を破壊するが、壊したところでどうにも止まれない。しかも、殺される状況なのにもかかわらずそれでも英雄として生きられる自分に陶酔していた。

 

(何言って(るんだ)るの?こいつ)

 

嶺とアーチャーもまた英雄がどう言ったものなのかは理解している。アーチャーは英霊であり、過去に正義の味方として戦ってきたのだから。嶺と正輝は生前に英雄として屈せずに戦ってきた武将と武勇伝を歴史で知っている。

特に正輝に関しては英雄殺しをしてきたわけだから、英雄のことについては姉よりもよく分かっている。

 

それに比べて、力を欲しかった新しい玩具みたいに弄んでいる奴が英雄だのとほざく資格などないのだ。

 

 

しかし、殺したところでウェルの思う壺になる。殺してもフロンティアを出現させていた彼の行いは世に広まるだろう。それは、少なからず人としてではない。

殺すことが目的ならウェルが望んだことを正輝がやろうとしているのだ。だが、正輝の方はウェルのことは憎たらしくて許すつもりはないが、決して殺しにきたのではない。

 

「ふーん。確かに、これじゃ俺でもどうしようもないな?お前を殺さないでくれと二課にも頼まれてるし、約束を破ってお前を殺したことで後々英雄になっても後味が悪いな。ただ…」

「ただ?」

正輝はゆっくりとウェルに近づき、

 

「⁉︎よせっ‼︎」

 

ようやくたどり着いた弦十郎と緒川の二人が止めようとする前に正輝はウェルを思いっきり顔を右手で殴り飛ばす。ウェルは勢いよく飛ばされるが、シャドーの分身でネフィリムが付いてない方の腕を引っ張られる。そして、

 

「これは…響の親友に無理矢理聖遺物をつけたのと、テメェが首輪に爆弾をつけさせたクリスの…二人の命を危険に晒したツケだ。響達も、俺も、姉さんや黒沢も、お前を殺したりはしない」

「ぁぁぁああぁああぁぁああっ‼︎」

 

今度は投影強化させた左の拳で、その腕を骨折させた。そもそも正輝の彼女であるクリスに首輪をつけて殺そうと仕向けたのだから、キレて当たり前のことなのだ。腕の部分からバキッと音が鳴った。ウェルはネフィリムに移植されてある手で、正輝が骨折させた腕を抑えている。皮膚には紫色の痣ができ、酷く内出血している。

「ま、顔の怪我も含めて全治三ヶ月ってところか。正直、クリスにあんなものをつけさせたんだから殺してやりたいくらいだけどな。俺が今ここで殺したら、テメェは英雄になれたって喜んで喚くし面倒だからな…俺はな、テメェのせいで二課と揉めてから相当機嫌が悪いんだよ。だから、今ここで下手なことをしようとしたら、次はお前の両足も折ってやろうか?」

 

ウェルは脚を使って正輝に逃げようとするものの、身体を拘束するバインドの魔法を使って逃げられないようにする。

 

「な、なんだっこれは⁉︎」

「あーっとそうそう…もう一つ言いたいこともあったっけかな?今度お前が復活して俺の目の前にそのツラ出してみろ…さっきみたいな骨折とか生ぬるいものじゃない。植物状態になるまでに徹底的に叩きのめして、もう二度と英雄だのと喚けないほどの生き地獄を味あわせてやる。

 

もう死にたくても死ねないようにしてやるから、その時は覚悟しとけよ。お前を殺さず地獄に落とす方法なんていくらでもあるんだからな?」

 

正輝は襟を掴んで脅した。今回の場合ウェルは響の親友である未来を洗脳させ、クリスの首輪に爆弾の装置をつけた以上このクズを殺しても構わないようなことをしたのだから万死に値するのだ。が、殺そうとすれば僕は英雄になれたんだと自分の死を喜んで受け入れるだろう。だから、正輝はウェルを殺すのではなく生き地獄ということにした。

 

今は骨折で済ませているが、次会った時はもう簡単には死なせないだと言っている。ウェルはもう抵抗する力が無くなっているために、後のことは二課に任せる。

「こいつを裁くの、あんたらに頼んだよ。こういう奴は法として…そして人間として裁くのが一番効率的だ。それと…もし俺の邪魔をしたら、さっきのことを根に持って俺達がお前らをまた攻めていたからな?」

 

 

機嫌が悪くなっていることが正輝の表情を見ればわかる。弦十郎は抵抗できずに座り込んでいるウェルの無様な姿を見ている。

「腕を骨折させたのか…」

「あぁ、そうだよ。なんであんなことしたんだなんて愚問なこと聞くなよ。そもそも俺とクリスの関係上、こいつが許されないことをしたんだから当たり前だよな?少なくとも俺達が身勝手にこいつを私刑をして殺さないだけ幾分はマシだ」

弦十郎達や響達も、正輝とクリスの関係は前から親しいのは分かっていた。

だからこそ絶対に許せないという気持ちが空気で伝わっている。

 

もしも頼んでなかったら今頃ウェルは死体となっていたか、二課と正義側の関係はもっと悪化していただろう。

 

「あぁ、分かった。この男の処遇は任せろっ…!」

 

こうしてウェルは弦十郎と緒川の二人に任せ、車両に乗せつつ連行されていった。

 

 

*****

「確保だなんて悠長なことを…僕を殺せば簡単なことなのに。ヒッ⁉︎」

フロンティアはネフィリムによる暴走で崩れていく。車の操縦は緒川がやっており、上空から巨大な岩が幾つも落ちていくが、それを弦十郎が破壊した。

「殺しはしない。お前を…世界を滅ぼした悪魔にも英雄にもさせはしない。

 

どこにでもいるただの人間として裁いてやるっ‼︎」

「チクショォォ!誰か、誰か僕を殺してくれぇぇぇっ‼︎僕を英雄にしてくれよぉぉぉっ‼︎英雄にしてくれよぉぉっ‼︎」

 

やはりウェルは英雄として死ぬことをままならなかった。正輝は殺したいくらいだったが、これがウェルにとっては一番効果的だったのだろう。英雄にもなれず、悪魔にもなれない。

そしてソロモンの杖を使って人を殺し、世界を脅かした罪は、死刑にも値する。

正輝達の方は

「これだど助けに行けないぞ…こっちの届かないところで戦ってやがる…あいつらの助けに行くこともままならない。それに、この場所もそろそろヤバイからな」

 

もうエクスドライブモードに変身している響達の戦いを見ることしかできなかった。

一応、さっきまで確認していたマップでマーカーが点滅し、消えかけていた調の安否も生きている姿をみて無事だとわかった。既にネフィリムはフロンティアを食らおうとし、最終決戦へと直面している。

 

戦場が宇宙になっている以上、助けるのは無理だ。

食らうことでフロンティアが崩れかけ、そう長くはいられない。

 

「引くぞ黒沢。姉さんも」

「ん、わかったよ」

(生き伸びてくれよ…)

 

弦十郎達は潜水艦のミサイルで地面を破壊して、正輝達は転移魔法で脱出し、響達六人の無事を祈ることしかできなかった。

 

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