Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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一息(中編)

ーーーー温泉後の運動

 

個別で家族温泉にしっかりと浸かっていたメディアや宗一郎、美神愛と戦場マルコの二人組についてはそれなりの責任も持ってる為に、彼らの自己管理はとっくに任せている。

 

(どうせカップル組は食べに行くまで時間があるから部屋でイチャイチャしているんだろーな…食べ終わった後に部屋に帰ってもそうなると思うけど)

 

加藤達は正輝達と嶺達が出た後は夕食を食べる前の間に、みんなして娯楽施設のレクリエーション部屋へと向かっている。黄泉と或の二人は部屋でのんびりすると言って、鍵を持って帰っていった。

 

「…案外広いし、いっぱいあるわね」

「遊べるっつても夕食まで精々40分程度だからな。お金の方は1回分くらいは出してやるけど、それ以降は自分達でなんとかしろよ」

 

クレーンゲームやカラオケ、太○の達人、卓球台とエアホッケーがある。広いとはいえ他の客の人達に迷惑にならない為に騒がずに楽しく遊ぶ。

 

「あっれー黒沢君。白沢君とはやらないのかなー?」

「…何」

「いやー。俺の方はボウリングの功績がアレだったから卓球も下手したら完全敗北になってしまいかねないし。俺とやるよりは士郎の方が適任なんじゃないかなーって」

「ちょっとおい正輝、お前なぁ…」

 

正輝はアーチャーをからかって、士郎に挑ませようとする。前回のゲーセンのことで競技での競い合いでは勝負にならないことから士郎に委ねた。

 

「…確かに、士郎とアーチャーの勝負も見たいものですね」

「面白そうね。私も見て見たいし」

「遠坂まで…」

 

稽古や戦いで何度も打ち合ったことはあるが、二人が卓球で勝負したことは見たことがない。遠坂とセイバーはそばにあるソファに横たわり、二人の試合を見る。

「んじゃ俺は、太○の達人をやっとくから」

そう言って正輝はお金を入れて遊ぶ用意をしており、みんなバラバラの競技やゲームをしている。

 

「あれ、どう見ても次元が違うだろ…」

「ボウリングの時も士郎達ってかなり強かったけど…まぁ私達は私達でのんびりやろ?」

「そうだな」

 

ほむらとまどか、さやかと杏子のダブルスでエアホッケーの勝負をしている。そんな時に

「あ!私達も混ぜてもらってもいいかな!」

「それじゃあ交代でやろっか」

 

響達もエアホッケーをやりたいとまどか達に入ってくる。一方、士郎とアーチャーの二人は真剣(ガチ)なシングルでの卓球勝負をしている。二人はテ○スの王○様みたいな空間(空気)を作り出した。卓球をしない人達は近くにいると流石に怪我をして危険だから、離れて眺めている。

「…なんか、あっちはすごいっすね」

「二人ともなかなか決着がつかないクマね」

鳴上達も士郎とアーチャーの攻防に驚いている。太鼓の結果発表が出ている間に正輝は後ろを振り向き士郎達の試合をしているものの、

(あ、もう早すぎて全然見えない…マジで黒沢くんとやらなくて正解だったわ)

すぐ諦めてゲームの続きをしている。

鳴上達も卓球をしているが、士郎とアーチャーのように俊敏に動けるわけがない。

 

(レイナーレ達が帰って来たら、卓球かエアホッケーでもするか)

 

レイナーレ達の方はまだ温泉に入っており、時間の限りにのんびりしている。それからずっとレクリエーション部屋にいるみんなは楽しくゲームを何分間か楽しんでいた。

 

「ふぅ…3曲だけでもハードモードでクリアっ「おい正輝」ん?どうしたクリス?それに浜風もいるし」

「秋瀬さんから遊びに行って来たらと言われたので。お金の方は正輝さんに奢ってもらったら遊べれると」

 

正輝もゲームを終えて、汗を垂らしている最中に、クリスが肩を軽く叩いていた。

 

「あのよ…さっきから士郎とアーチャーの卓球台にヒビが出てんだけど。あのまま二人がやり続けたら不味い事になるんじゃねーのか?」

「台にヒビ…ってはぁ⁉︎」

 

クリスと浜風が指差している方向はアーチャーと士郎の二人が勝負している台。勝負している間に、まさか台の表面に亀裂が出ていた。

「…ついてこれるか」

「ついてこれるかじゃねぇ、お前こそついてきやがれ!」

お互い打つ球を加減しているとはいえ、まさか台自体が酷く傷つく事になるとは思ってもなかった。

「不味いです凛。このままでは台が壊れて」

「あのバカ…ちょっと止めてくる」

このままだと店内の卓球台を壊しかねない。アーチャーと士郎がついていっても、物に関しては限界がある為に、流石に凛と正輝が勝負に割り込んで止めた。

 

「あのさ黒沢白沢…このまま続けたら二人とも器物を壊しかねないからもうやめようか」

「わ、悪い」

「ちょっとやり過ぎよアーチャー」

「…申し訳ない。熱くなりすぎた」

勝負に集中していた二人は、卓球台を見て自重している。台のコートはボロボロ、ラケットとピンポン球は傷だらけになっており、まるで何年間か使ったかのような状態だった。

 

「おーい」

「ん?」

 

正輝に声をかけたのは、姉こと嶺だった。その隣には知らない男が二人もいる。

「ごめーん。迷子になってたー。でもこの人達に助けてもらったよー」

「…マジで?てか姉さん、携帯で連絡とかしなかったの?そこの二人は?」

正輝にとっては嶺の背後にいる二人はあまり接点がなく、巽完二と同様に誰?といったように困惑している。

 

「お前の姉ちゃん。旅館で迷子になってたぞ」

「携帯は部屋に置いて充電中。トイレ行ってたらみんなとはぐれちゃって帰る道わからなくなったからかなり焦った。んで、右が秋山蓮さんと左が城戸真司って人」

「あー…うん。とりあえず俺と姉さんがそっちの方に迷惑をかけてごめんなさい」

「右往左往してたところを聞いたら、旅館が広いからいつの間にか迷子になったって言われたから。

こっちはもうビックリしたよ」

 

嶺の方は温泉後にみんなとはぐれてしまったせいで、オロオロしていたところを真司と蓮に助けられていた。

「俺達が道を教えながら話してる間いろいろ聞けたよ。お前の姉さんってああいう人なんだな。悪いってわけでもなさそうだし」

「会ってすらないこっちはお前の姉さんが敵味方関係なく暴走するような、危険人物なんじゃないかと思っていたがな。

加藤に詳しい事情を聞いたとはいえ、俺を含めて他の人達も釈然としないままで協力は出来かねないからな」

嶺のことを最初はそんな風に疑って見ていたことを蓮が心ないことを本人の前で言ったために、真司が怒っている。

「おい蓮、そこまで言わなくたっていいだろ!二人ともせっかく仲を取り持つ為に旅行っていう企画を立ててくれたのに‼︎」

「?一応敵味方は識別できるよ。今回は本当に状況が悪かったし、敵もそれが目的だったそうだから」

「分かっている。敵の連中が暴走を利用し、周囲を巻き込む事前提の手の込んだ悪徳な方法であるって事もな。

 

嶺の陣営ことをこっちがよく知らないから信用できるかどうか分からないから出来かねないと言ったんだ。お前達だってそうだろ?」

正輝や嶺も蓮の話を聞いて、相手のことがよく分からない人達に信頼関係を置きたいとは思わないのは同意した。顔や素性を知らないまま蓮や真司などのライダー達に手を貸そうとしても、お互いに支え合おうとなるのも関わりがない以上上手く協力できるとは限らない。

 

「俺達だけじゃない。加藤側と姉さん側の複雑な関係をどうにかするためでもある旅行だからさ」

「…この旅行の根本的な目的はそうだったな。確かに言えるとしたら、お前の姉さんと仲間達が俺たちに敵意が無く、こうして友好的にやってる。

 

今ここで正義側同士がいがみ合う場合じゃないってことぐらい俺達も分かっている」

仮面ライダーである彼らも、正輝と嶺の手を組むことには別に反対していない。このまま複雑になって協力もままならないようだと、いつかは久野や綺羅のように嶺陣営の敵になってしまう。

それだけは避ける必要があるからこそ、旅行を提案することで緊迫した重苦しい空気よりもそれなりに気軽に話せる機会を与えている。

「少し間違ってるかな…こんな時だからこそ、他に無駄な敵は増やしたくないしこういった羽休めって俺達も必要だろ?」

「ロープ陣営とかという異端者(イレギュラー)が複数も出てきた以上、このまま正義側同士で潰し合うのは余りにも危険過ぎるからな」

 

みんなの不和が肥大化し、仲間同士で潰し合うような愚行はお互い望んでいない。

 

「それじゃあ、俺達は加藤のところに行くから。仲間が心配してるだろうから連絡しとけよ!」

 

そう言って真司と蓮の二人は帰っていった。

「…そういうわけだから、電話かけてもらっていい?」

携帯を部屋に置いて持ってない嶺は、正輝の携帯電話で番号を教えてもらいながら嶺の仲間に連絡する。

『たくっ、心配してたんだぞ…今どこにいるんだ?』

『うん、一階の受付近くにいるよ。あとごめんなさい』

案の定、電話を通しながら嶺がハセヲに叱られているというシュールな状況に正輝は傍観するしかなかった。

『凛から一応聞いたけど、確かそこにレクリエーション部屋で正輝達が遊んでるんだろ?まだ時間があるから正輝と遊んでたっていいぞ?』

『ん、分かったよー』

『その代わり夕食の間は正輝達と一緒に行動しろよ。お前が単独行動なんてしたら俺達は勿論、正輝だって困るんだからな』

こうして嶺は正輝達と同行ということで、二人で太○の達人をしている。まどか達と響達がエアホッケーを終えた後に風呂から出たレイナーレとミッテルトを相手に、時間の限り楽しんでいた。

「やっぱ姉弟だから強いっす!」

「当たり「あ、ごめん」…まぁ良くあることだよ」

間違えて嶺が飛ばしたのがオウンゴールしたり、ミッテルトとレイナーレでぶつかったりと一試合ごとに変なプレイのせいで五分五分となっている。結果的に正輝と嶺が勝ったが、一点差であるため本当にギリギリだった。

 

ーーーー夕食

 

 

「よし、全員集まったわね」

 

流れとしては前菜、お刺身、吸物、鍋物といった順番に食事が置かれていく。

正輝と加藤、嶺達といった正義側が何十人もいる上に、他の客もいる為に店の人は大忙しで働いている。嶺陣営は鳴上達とハセヲ達がナツ達に食べ方を教えている。そもそも住む世界、風習そのものが全く異なる為に現代の世界における知識(ルール)を教えなくてはいけない。

「ナツ、グレイ、エルザ、ガジル…四人とも箸の持ち方は教えたよね?」

「「「「あぁ!」」」」

「いや!ナツとグレイの二人が持ち方おかしいでしょ⁉︎」

 

このままだと食べ物を串刺しにする持ち方をしている為にルーシー、クーン、鳴上の三人が長い時間をかけてようやっと正しく持って食べてくれた。

 

正輝側の方は既に席が決められており、まどか達と士郎達、正輝達と分けられている。正輝の側には黄泉と或、クリス、レイナーレ、ミッテルトが座っている。

 

「何が出るか楽しみだなー」

「俺と秋瀬は、食事によっては黄泉の目になって置かないといけない時があるから。てゆうかクリス、眠るのはまだ早いからな」

「んんっ…分かってるよ」

 

クリスの側にはちゃんと奏と翼、響の三人がいる。クリスは正輝の側にいたいということでエアホッケーで疲れながらも眠たそうに正輝の肩に横たわっている。

 

「ところで浜風は大丈夫か?回転寿司のように困ったことがあるなら士郎達に言えよ。あと今回もレシピとかは無いからな」

「…この場合は、待った方が良いんですか?」

「あぁ。店の人が食事を持ってきて来るから安心していいぞ」

 

浜風は士郎達と一緒におり、出してくれた食べ方は凛と士郎達が教えてくれていた。まだ正輝と嶺達が夕食を食べており、時間帯的に加藤達も食事をしているはずだったが、

「まさか、何人か食事券を忘れるなんて事態になるとはな…」

「ち、ちょっと部屋に行ってくる!」

「机の上に置いてたの忘れてた」

「悪い。俺も戻ってくる」

真司、加賀美、剣崎…約8名の食事券を部屋や衣服のポケットに忘れていた為に15分遅れでやっと夕食を食べることとなった。

 

ーーーー食事後の露天風呂(男子)

 

この旅館は温泉が二種類あるため、もう一回入っている。最初に入ったのは普通の温泉に使っており、次はこの露天風呂に入ることになっている。風呂の効果については最初とは異なっているが、女子達がそこまで長い間風呂に浸かるとは思えない。

精々10〜20分くらいだろう。

 

「いやー。ホントいい勝負だったよな?運動もして汗もかいたし、豪華な夕食も食べた」

「お土産も買ってるから、みんなの荷物は多いだろう。明日もまだ買うかもしれないけどね。それじゃあ…僕らは十分温泉を楽しめたから先に出るよ」

「あー、それなら二人とも鍵頼むぞ〜。平坂さんの方は足元気をつけろよな」

「了解しました」

 

完全に正輝達は浮かれて、気が緩んでいた。

温泉を貸切にしている以上、まず他人に迷惑をかける事は絶対にない。

 

「ここまでは順調にいってるし何も問題ねーな」

 

風呂の種類が違うとはいえ風呂に女子も入ってるから、流石に食後で露天風呂に入りに行く人はいても、数が少ないだろうと安堵していた。

(でも…なーんか忘れてる気がしてならないんだよなぁ)

 

男子側には覗くような無粋な事もしておらず、ちゃんと男子女子と分けられてるから時間帯も問題ない。鍵はすぐに風呂から出た黄泉と或の二人にもう任せてある。心配いらないかに思えたが、それでも何か引っかかることがあった。ラッキースケベが起こらないように女子側の壁に触れずに配慮もしているのに妙に嫌な予感がしている。

(…ちょっと待て。そう言えば…確か清掃員の人が話し合ってたの小耳に聞いたな。

 

 

壁自体の耐久性が弱くなっていつ崩れてもおかしくないって。いやでも、そんな事故今日すぐに起こるわけないがだろ)

「もう一度入らなくたって…そんなに気にしてねーよ」

そう思っていた矢先、士郎とクーンに連れられたハセヲが壁に横たわろうとした。すると、

 

「「「「…え?」」」」

 

誰も悪意がなく、誰もが予想できなかった展開にみんなして思考が一時停止した。

 

風呂場の壁が崩れ、互いの素肌が見えている。女子達は反射的にタオルや手で隠していた。

 

ーーーー露天風呂の壁崩壊

 

「あ、あんたらっ…⁉︎」

(え?ちょっおま、何で何十人も女子が入ってるわ…あぁぁぁぁっ忘れてたぁぁぁっ‼︎)

 

この露天温泉には疲労回復だけではなく美肌効果、などが含まれている。旅行前に凛が温泉に2箇所マークを付けていたのも忘れていた。その事を凛が仲間達に伝え、そして現在に至るということになっている。

「誤解だ!俺達は何もしていな「みないでぇぇっ‼︎」フゴッ⁉︎」

(くっ、事故とはいえこうなってしまった以上…黒沢くんも白沢くんが盾になっている隙に、撤退を)

事態は混乱に陥っている。この状況を収束させるにも、女子側が完全に暴走している以上そんな希望は残されていない。

 

「ちょっと待て!今回ばかりはマジでやましい事は何もしてねーよ俺達!突然壁が崩れて」

「そ、それでも出てけーっ‼︎」

千枝と雪子、リセの三人はタオルで身体を隠しつつ温泉の桶を投げつけてくる。

 

「確かに悪戯にやったというわけではないのならば仕方あるまい。私は一向に構わん!」

「エルザの方は開き直ってるし!それでもダメだってば‼︎」

「おーいエルザ!ルーシー!なんか壁が崩れてるけど大丈…いだっ⁉︎」

「ナツ達もこっちこないでー!」

鳴上達だけではなく、ナツとグレイも被害に遭う。もうこんな混沌とした状況を正輝がまとめれるわけがなく、今はとにかくこの場を凌ぐことしかできない。

 

「ハセヲさん…」

「あ、アトリっ⁉︎待て!」

「は、ハハハ、ハセヲさんのエッチ!」

(クッ、悪い!こんなの収めるのどう考えて無理‼︎そんなわけでお前らの犠牲は…絶対に無駄にしな)

 

仲間を犠牲にしつつ正輝は隠れながら、出入り口へと進んで行く。だが、入り口付近には予想外な人物が待ち伏せていた。

「あら正輝くん。何一人だけすぐに逃げようとしてるのかしら?」

「いやーこれはね遠坂さん。これは本当にどうしようもなく避けられなかった不可抗力という名の不幸な事故、いわば避けられない運命で。だからね、その、誤解を生まない為にさっさとここから退散した方が賢明かなー…と」

「流石正輝ね。自分だけは早く逃げようっていう魂胆が見え見えだったわ。貴方まで巻き込まれる前に他の男子達がボコボコにされてる隙に隠れつつ、必死に脱出しようと出口をチラチラ見てたもの」

(既に凛が俺の行動を予測してやがった…)

凛だけではなく浜風やレイナーレ達もいるから、正輝は念話で三人に助けを求めている。

(ちょっと三人とも助けてくれ、このままだと凛にしばかれる)

 

しかし、周りを見回しても三人とも助けに来てくれないところが、風呂場にはいない。

(あの…それがですね。ミッテルトさんが逆上せたから、レイナーレと私で先に風呂に出てます。今部屋にいて秋瀬さんとジェンガをしている最中です。平坂さんは寝転んでます)

(えぇ…)

三人に助けを呼ぼうとしても既に風呂から上がっているのなら、このまま下に降りて助けてもらうにしても間に合わない。

「なら雪音!俺を助けてくれ頼「最近オメーの付き合い悪いがぁー全然ねーからいけねーんだよぉ〜っ」ちょっ雪音⁉︎」

クリスの方は酒を飲んだわけでもなく、体温が上昇して顔が赤くなっている。頭が正常に働いておらず、酔っている感じにそのまま正輝に抱きついた。しかも、抱きついた勢いでキスまでされて。

「…へぇ〜?」

「く、クリスちゃん⁉︎」

(やばい、凛のやつが…ならば士郎、アーチャーを身代わりって既にいなくなってるぅぅぅっ⁉︎)

アーチャーと士郎は撤退し、最早黒沢ガードも白沢ガードもできないという絶体絶命に陥ったのだ。凛は笑っているようで、内心では怒っている感じになっている。

 

「響、お前もこっちを見てないで助けにこい!」

「凛さんも怖いから無理です!」

「ふざけんな!翼とかいるだろうが!」

「その、不本意ながら…正直に言いますと。もうタオルは不要かなーって思ってて置いて来ちゃって、桶も他の女子が投げすぎちゃったせいで隠すものが無くて。奏さんについては部屋で寝転んでるから風呂には来てないです」

 

もしここで響達が正輝の元へ助けに行けば、二人の裸が丸見えになってしまう。

「…要するに、私達二人は隠すものが雪音の持っているタオルか、両手ぐらいしか無いのだ」

「…マジですか。まどか達はどうなんだよ?」

「まどか達は浜風さんと一緒に風呂から出ました」

(不味いな…だが、まだ俺には)

 

この露天風呂に岩谷嶺こと姉がいるならこの最悪な展開をなんとかしてくれると闇雲に探す。そして彼女に期待の目を向けようとするが

「!姉さ」

(…南無)

助けを求めても嶺の方は手を合わせて、無事を祈る事しかできなかった。今回は本当に不慮な事故であった為に制裁を下すというわけではなかったが、嶺も正輝と同様にこの混沌とした状況の鎮圧など無理難題なことだった。

 

(マジで詰んだ)

 

希望は、完全に潰えた。いくら正輝及び男子側の無罪を訴えたところで、もう見苦しい言い訳にしか聞こえない。

 

「ねぇ遠坂?よく考えようよ。だって、ほら…ね?制裁を受けるよりも、穏便にここをさっさと立ち去ることこそが、何よりも誰も苦しまず悲しまない最善の一つじゃないか?」

「確かにそうね。それもまた私達も貴方達が苦しむ事も悲しむ事もない最善の一つね?」

「そーそー、だから誰も何も悪くなかったから今回はお咎めなしって事で「んなわけないでしょうがぁぁっ‼︎」ぎゃぁぁぁっ⁉︎」

男子側は撤退しようとしても、女子の暴走のせいで撤退できない人もいる。壁が壊れた影響は男子と女子の境目が消えた以上、大きかった。

 

ーーー制裁後

 

「「「「「何やってんだあんた達…」」」」」

 

夕食を食べ終えた剣崎含むライダー達と加藤はいつの間に正輝含む男子組がボロボロになっているのに、驚いている。加藤達については食べ終わった後も色々と話したりしていたために、巻き込まれることはなかった。

 

食べ終わったと思ったら、正輝達と嶺達がこの有様になっていたのだ。

 

「いや、ホント色々あったのよ…色々と」

 

まだ時間帯はあるというのに、風呂場は急遽閉まっており、危険の看板が置かれてある。

 

「女子の方もだ。そのまま男子を大人しく帰らせても良いだろ。あっちがわだって誰も悪気でやった訳じゃないんだから…この事態を好機に見ようとする人がいるなら話は別だけどよ」

「まぁ、流石にやり過ぎちゃった部分もあったね…」

 

まさか壁が突然崩れるとは思ってもなかったのだから、女子風呂を覗こうとする行為以前の問題なのだ。覗くとか、誤解で時間帯に入ってしまったというのではなく、予想もしなかった不幸な事故で風呂場が男子と女子の風呂が見えてしまったという事態になってしまった。

 

 

 

ーー午後9:00頃

 

「油断した…まさか風呂の一件で、ここまでくたびれるとは…」

「僕らが遊んでる間に大変な目にあったね」

正輝の部屋は、黄泉と或の他にレイナーレ、ミッテルトの二人がいる。浜風は浴衣を着ていたはずなのに、別の服を着せられていた。

「?浜風はなんでそんな格好してんだ?確か、凛とセイバーの二人が服の確認をしたはずだよな?」

「えっとね〜。浜風のためにゴスロリ衣装を持ってきて着させたっすー。どっすか?」

「あぁなるほどねぇ…ん?」

ミッテルトがゴスロリ衣装をいつも着用してるために胸の大きさを考慮し、丁度良い感じに着こなしている。ミッテルトは写メで浜風を撮って、記念にしていた。

「悪い。姉さんからメールが来たんだけど、部屋に来いって」

「分かりました。それじゃあミッテルトさんとレイナーレさんの二人でカードゲームして待ってますね」

メールには部屋に集合してと記載され、嶺の部屋に訪れるとそこにはアーチャーとハセヲ、嶺の3人がいた。

「え、黒沢君もいるの?」

「正輝の制御役としてだよ。とりあえず座ろうか?座布団あるよ」

正輝は嶺の言うがままに、あぐらをかいて座っている。嶺はシャーペンを用意し、メモを取っていた。

「それじゃあまず正輝から面談を始めるね?最近変わったことは?」

「面談…?姉さん、これは一体どう言うことなの?一体何を」

正輝が質問しても嶺とハセヲ、アーチャーの三人は黙秘をしている。不審に思いながらも姉を信用して質問に答えた。

「まぁその…予知夢とか、悪夢とかが頻繁に起きてるな」

「夢?」

「詳しく言わなきゃダメ?」

「あまり言いたく無いことなら言わなくてもいいよ?」

困りながらも正輝は口を出して喋っていた。些細なことでも手遅れになる前に自分の身に何が起こっているのかも調べるのも、必要なことだと思い口にした。

「…予知夢は、カ・ディンギルの跡地でネフィリムが響の腕を食らっていたところを見てしまったのと…悪夢については俺くらいの身長をした男の人が、翼を滅多刺して…クリスを父母に似せた人形に抱きつかせて、串刺しにさせて…最後に響にはお前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだって…思い出すだけでも胸糞悪い。

 

このことは、誰にも話すなよ。

特に響達には」

「…他に何か変わったことは?」

「他に…ねぇ」

 

シンフォギアのFIS事件以降から神の対応がおかしくなっていったことと、今のところは仲間との不和は全く起きていないこと。

「アーチャーも誰か正輝とか或いは仲間同士の不快な関係っていた?」

「いや、大丈夫だったぞ」

嶺は正輝の置かれている症状をメモしている。正輝とその仲間については今のところは何も問題は起きていない。が、

(ロープ陣営の目的が内部分裂なら、必ず綻びがあるところを狙ってくるはずだよね)

 

正輝達の仲間については一度合流しなければならない。旅行も満喫はしてもらうが、その代わりとして仲間一人一人に面談を設けていた。

 

「ん、それじゃあ仲間達をここに一人ずつ呼んできて。あと正輝はまだここに残ってね。順番は響達、まどか達、未来日記の人達、最後にレイナーレ達の流れでいい?」

「良いけど…俺も面談に加われってこと?」

「そういうことだ。私が呼ばれたのは正輝のストッパー役としてな」

 

 

ーーー立花響

 

響達の方はから先に面談で奏と翼が呼ばれたが、二人とも早く終わっている。

 

「質問を返していればそれで良いって感じだったぞ」

「少なくとも正輝はいたな」

「つーことは、あたしらもやるんだろうな…」

 

面談で正輝と加えてアーチャーだけなら、気楽に話せれると移動しながら思っていた。

 

「お邪魔しま…」

響が室内を見ると、身体が固まってしまった。面談といっても正輝だけではなく、その姉とハセヲもいる。

 

「えっと、私…何か不味いことしたんですかっ。でも、そんなことした覚えが」

「いやいや違う違う、そういう意味で呼んだんじゃない」

 

四人が座っていることに響が不安になって顔が青ざめ、身体が縮こまって緊張し、部屋に入ろうとした足が何歩か後ろに下がって行く。前回正輝と同様に叱られた前科があるために、警戒心が強まっている。正輝の方はそうじゃないと言っているものの、要件を言ってくれなければ彼女は納得できない様子だった。

 

「あのね、内部分裂を防ぐために一人ずつ聞いてるだけだよー」

「…そうなんですか?」

「別に叱ったりとか、悪いことしたから呼んだとかじゃないからな。全員呼ぶように言われてるんだよ」

「なんか、面接みたいな感じだったから…」

 

隅で警戒している響に話をさせようと、誘導していく。恐る恐るになりながらも、ちゃんと座ってくれた。

 

「それじゃあ何か変わったことってある?」

「変わったことですか?ええっと、みんなとは仲良くしてますし、前の時のように正輝さんとは全然喧嘩してません」

 

響の方は落ち着いた感じに返答している。戦うごとにガングニールの侵食が身体を蝕み、最終的には死を宣告されたが、神鏡獣の分離効果によって一命を取り留めている。今回響と正輝の二人が対立し合って暴走することはなかった。

 

「次はこっちから質問するけど。マリアさんからガングニールを受け取って手に入れたんだけど、今後はどうしたいって思ってる?」

「も、勿論この力で人助けをするに決まってるじゃないですか」

「具体的にどうしたいのかな?」

人助け。響の方は今もこの力で誰かを助けるために動いていくと一言で伝えてはいるものの、四人とも響の言葉が伝わっていない。

 

「具体的に、ですか…もうバビロニアの宝物庫がなくなって…ソロモンの杖も、ノイズもいなくなってるなら今後は二課から災害や事故を助ける為に使いたいんですけど」

「…は?」

「あ、いや…私が言いたいのはみんなが恐れていたノイズがもう消えた以上、この力で誰かを救うための救助とかの災害対策に懸念したいんです。

勿論学校生活も並行して」

 

正輝の方は響が一体何を言っているのかさっぱりわからず、首をかしげている。二課に今後も所属して、ガングニールによる力で人助けを災害対策でしたいというのはまだ分かるが、釈然としないでいた。

 

「つまり響は聖遺物の力で二課と共に災害とかが原因で他の誰かを救いたいから、これからも二課の指示で動いていくってことだね。

 

ま、そもそも聖遺物自体が組織で管理しなくちゃいけないしそうなっちゃうか」

「…まぁお前の方は無理して殺者の楽園と正面きってやり合う必要は無いもんな。平坂や秋瀬がいい例だし…力についてはもう生放送で他のみんなにも周知になっているはずだけど、今のところは良いんじゃねーの?

ただ、無理しない程度にだけど」

二人とも響の行動について批判するようなことは無かった。ハセヲやアーチャーの方は正輝と嶺がまた何言ってるのかなと脅すのでは無いかと見計らったがその心配はいらなかった。しかし、続けて嶺が一つ付け加えて響に言う。

「…でも響。その道を辿るにしても少なくとも対人の対応にも直面すると思うから、そこも含めて向き合わないといけないよ。

 

 

そういった矛盾を自分ではっきりしておかないと、今後また正輝と大喧嘩になりかねないからね。響だってそういうことは嫌でしょ?」

「…私も自重はしてます」

 

首に突っかかったせいで、正輝との関係が一気に最悪まで落ちていったことは忘れていない。結果的に余計なことを言ったせいで非殺傷設定で斬られたということを覚えている。

 

「とりあえずこんなもので良いかな?ありがとね」

「あ、もう良いですか?」

「もう部屋に帰って良いぞ。おやすみ」

「お休みなさい」

 

そう言って響は部屋へと帰っていく。響自身は解消したが、正輝の方は若干の違和感を残したまま考え事をしている。

 

「何か気がかりでもあるの?」

「…救出については別に文句は言わないよ。もう14超えてんだから自己責任くらいはあるだろうしな…ただ問題なのは、やっぱりあいつが一度も【もしその災害の原因が人であった場合】のことを一度も言わなかったなーって。

 

誰も犠牲にしないって言うのは口では簡単だが、行動で示すのはやっぱりすごく難しいことなんだ。犯罪者が公共施設に火をつけたりとか、何処ぞの異能力者が民間人を襲撃したとか…そこら辺はまぁ警官とか政府のお仕事にも含まれるけどさ。もし敵がFISとかの連中で、しかも聖遺物絡みだったらもう見て見ぬ振りはできないだろ…そんな時が来るかどうかはまだ分かんねーけど…最低でも殺者の楽園とかロープ陣営の連中が襲撃したりとかがありそうなくらいだし」

 

響が言っていたのはあくまで災害による被害を食い止めるための公言。正輝もそこまで突っ込むようなことはせず、響達が災害を食い止めるうちにそう言った事件に介入し、成長するのでは無いかとあえて口に出さずに言わなかった。

 

「じゃあ呼び戻す?」

「…あいつ自身がちゃんと向き合って考えなくちゃいけないことだ。言ったところであいつ自身がそれを理解するかも分からないし」

 

 

ーーーーー雪音クリス

 

「あのバカの次はアタシってわけか」

「うんそうだねーそれじゃあ何か変わったこととかってある?なんでも良いよ?」

 

クリスは風呂での酔いが覚めて、ちゃんと冷静になっている。嶺は何か変わったのかを質問したが、

「翼のことを、ちゃんと名前で、先輩って事で言えるようになったぐらいかな」

「先輩ね…それじゃあ今までは翼さんのことをお前とかって言ってたの?」

「響はバカで済ませてるけど、翼先輩のことをお前とは言ってた時もあったかな」

正輝はクリスが翼に対して信頼を置いているのは分かったが、やっぱり相変わらず防人こと翼がまさか先輩扱いされているとは思ってもなかった。

 

「え、あのSAMURAIが?」

「…お前もお前で翼先輩のことをからかったりして逆撫でにするなよ。バチが当たるぞ」

 

正輝は忙しかったとはいえ翼のことをそんな風にからかうようなことは少なかったが、クリス自身ソロモンの杖を解放していたから、その責任で何も言わずに一人勝手に抜けだしたことも正輝や仲間達に迷惑をかけてしまったことと、抜けた間に嶺の件で二課と一時的に対立していたのは試練編の時と同様に何もできなかったから心苦しいこともあった。

 

「それとな…二課の件でも心配してたのもあるし…だいたい正輝が、その、やっぱり付き合い悪りぃんだよ」

「え?」

「なんで旅館が同じ部屋じゃないんだよ…バカ」

部屋割りについては正輝は考慮したつもりだったのだが、アーチャーとハセヲ、嶺は察した。恋人との関係になっているのに、レイナーレとミッテルトだけではなく浜風の三人と話す機会が多いこと。

「正輝が良いなら別に私の方からは何も言わないよ?」

「え、姉さん。まさか雪音をこっちの部屋に「確かに君達二人で綻びが生じても、他の仲間に迷惑をかけることだったら大変になるな」…黒沢くんまで」

雪音も正輝が一人で勝手にやっているせいで、不安も募っていた。前の日に二人だけで色々と話したりはしていたけれど、止められずに二課に対して激怒していたことが重荷になっていた。

「分かったよ。ただし、布団とかは人数分しかないから「一緒に入る」…」

こうしてクリスは正輝の部屋に荷物ごと移動して、一緒に寝ることとなった。

 

「あ、一言言っとくけど間違っても夜這いとかしちゃダメだからね。寝ている浜風とかレイナーレとか、秋瀬達の迷惑になるから」

「「分かってるわ!」」

「やれやれ…」

 

ーーーーまどか達

 

「最近何か不安なことはあるか?」

「ワルプルギスの夜も終わって、みんなとこうして笑いあえるから不安はないよ」

「ただ正輝さんが苦戦するほどの敵が何人も出現したせいで、困ってたこともあったわ」

 

今まで助けたりしている正輝が負けに負け続けたことで困りはしたが、まどかと同様に仲間内での不安を抱えたりするようなことはない。

 

「ま、強敵についてはあたしらも強く成長していけば良いだろ。実際さやかが正輝に鍛錬してくれたお陰で強くなったし」

「…今更なのだけど貴方達三人は何が理由で付いてきてるの?私の方はまどか絡みだから、まだ一緒に仲間として入ってきてるけれど」

 

まどか達はワルプルギスの夜を倒さないといけないと言う理由があったから、前までは強くなるために正輝達と共に行動していた。そしてボスラッシュにおいてワルプルギスの夜を撃破し、美滝原に平和が訪れ、まどかを救うことができた。

 

が、制約によってまどかは必ず船に入らなければならないという条件が加えられたことでほむらもついて行くと言う形となった。さやかと杏子、マミにの三人は付いて行かないという選択肢もあったが、

 

「友達のまどかを置いていくわけにはいかないでしょ。それにソウルジェムや恭介の仲だってちゃんと解決してくれたし」

「正輝達がさやかを助けてくれたってことと、あとさやかも行くならアタシもさやかを守るってことで」

「私も、四人の後輩を見過ごす訳にはいかないから」

「…なるほどな」

まどか達も付いていく理由で共通していることは、この四人のうちの誰かが心配だから付いていくということで正輝を信頼している。

 

「つーわけだから。正輝もしっかりしないとね!ただ試練編の時とかのように無理して抱えないでよ?アンタが暴走したら、嶺さんが教えた対処をしないとどうにもならないんだから」

「分かってるよ…」

 

レイナーレ、ミッテルト

 

「多忙の時だったら、話しかけづらい空気になっていたっす」

「ここ最近はずっと忙しそうにしてたりしてたものね。大概は空気でそれなりに察してしまうわ。ピリピリして忙しい時は全く話聞かないもの。しかめっ面になると一人で考え事してるんだなって」

「あーうん。それわかる」

 

レイナーレとミッテルトはずっと正輝の側にいるから、空気で怒ってるかどうかが分かるようになった。嶺の方は正輝の特徴をよく知っているために、あー分かる分かると言った感じに頷いている。

「本当に仕方ないだろ、今回は冗談抜きで忙しかったんだから。連絡も取れねーし」

「でも感情的になりすぎて周囲のことをちゃんと見ておかないと試練編の二の舞になるよー。人のこと言えないけど」

「そういう時は、私か凛に報告すればいい」

暴走のせいで仲間に心配や迷惑をかけさせてしまうという形になってしまう。実際正輝は嶺に、嶺はハセヲに叱られている。

「まず正輝がイライラになりかける時の対処を教えておくよ。知った方が今後のことでどうにかなるし。そういう訳だから正輝は外に出て待機しててね。すぐ終わるから」

「ハイハイ…」

 

ーーーー浜風

 

「秘書艦を勧めたのですが…彼曰く、レイナーレとミッテルトが側にいるから別に問題ないってことで」

「うん、ダメだね。さっき面談してたんだけど話しづらいって二人とも言ってたよ。試練編みたいにブレーキが効かずに暴走したのが良い例だし」

 

試練編で暴走したら話を持ち込まれると、正輝にとっては耳の痛いものだった。面談といっても面談される相手だけではなく、正輝にまで飛び火してくるのだから。

 

「どうして?」

「レイナーレ達でさえも話しかけずらい時があるからだ」

「二人ともピリピリしてることが何回かあったって言ってたもんな」

 

ハセヲとアーチャーは、レイナーレ達の話からキレている時の正輝の扱いが難しくてどうすればいいか困っていたことがある。

「でも、浜風でもレイナーレ達と同じように話しかけづらいってこともあるだろ?」

 

秘書艦を用意したところで浜風も側にいさせても、レイナーレ達と同様に正輝の扱いに困ってしまうのではないか。だが嶺は、

「仕事上正輝と同じ立場で動くんだから、一人で独走するのを防ぐためだよ。要はアーチャーと同じだけど、

ミッテルトとレイナーレの二人については深入りしても、あまり突き詰めるわけじゃないでしょ。負担は分散して軽くした方がいいからね。この先アーチャーと凛の二人だけじゃ正輝だって辛いかもしれないし、レイナーレ達やクリス、浜風や秋瀬の四人にも向き合った方がいいと思うよ。

対処についてはさっきレイナーレ達に教えたのを浜風にも教えればいいし」

今後強大な敵が連続で出現する以上、正輝の負担の軽減するためとして秘書艦を設けるのは合理的な判断だった。レイナーレ達だけではなく凛とアーチャーも正輝の手伝いをしているが、それがどこまで続くか分からない。

「ま、考えとくか…」

 

凛や士郎達については嶺が先に済ませており、仲間のことについても問題がなかった。ただ闇雲に正輝の暴走を力でどうにかしようというわけではなく、暴走する直前の解消法や暴走する時の対処を正輝に知らずに配布されている。

こうして正輝達の面談が終わり、それぞれ部屋へと帰っていった。

 

ーーーー正輝達の部屋+クリス

 

「ただいま。ってもうこんな時間か」

「おかえり…」

仲間達と面談しているうちに、もう寝て良い時間になった。クリスは面談で正輝の一緒の部屋になりたいということから、荷物ごと正輝のベットの上で待機していた。

 

「結局面談のせいで室内じゃ全然遊べなかったな。じゃ、もう寝るか…朝食は7時にオープンだから早起きするぞ」

「はーい」

 

明かりを消して、みんなして布団に入っていくが、

 

「ちょっ…クリス。おま、近いって」

「良いだろ、そんなの別に…」

 

クリスは正輝の布団に潜るように入っていく。抱き枕にして、胸を当てるようにしていた。

 

「なぁ、正輝」

「なんだ」

「お前の姉ちゃんの件でおっちゃんと大喧嘩してたのを聞いて…何処か遠くに行ってしまうのが正直怖いんだ…私達の敵になるのなんてもっとごめんなんだ」

 

クリスは小声を出しながらも、唇が震えていた。幼少に助け、父母を全力でくれたあの正輝が、今度は離れ離れになるのではないかと恐れている。

 

「大丈夫だ、もう二度とあんなことには絶対ならねぇよ…そうさせない」

「でも、アタシは」

「俺はお前らを相手にすることも、望んでない。

絶対にそうさせてたまるか…俺達正義側よりも強大な敵は今後も出てくるだろうし、時には二課と合わないこともあるかもしれない。

でも、お前らと離れ離れになることは絶対に無い。

クリスと両親を助けた責任もある。

それに最初に過去を受け入れてくれたお前が、俺にとって本当に一番大事だってことも…ずっと不安にさせて悪かったな」

 

正輝はクリスの頭を優しく撫でた。彼女の抱えていた不安と悩みを少しでも軽減してくれればと、抱かれながら話している。

「俺の側にはレイナーレやミッテルト、浜風もいるけど三人ともちゃんとしてる。

 

レイナーレ達なんか最初は人間自体を差別してたし、浜風も艦娘が一人だけだっていうのに俺の仲間とそれなりに仲良くなってるんだからな。

あいつら三人に対してもちゃんと責任も取るけど、恋愛感情として一番なのはお前だよ。レイナーレ達とかは、俺の姉妹みたいに接しているし、本人らもそれを了承してる。だから…「朝が来るまでこのままでいさせて…このままお前に甘えていたいんだよ」…じゃ、おやすみ。クリス」

 

クリスの方は安心しながらも正輝に引っ付いてそのまま顔を近づけて寝ている。正輝は髪を撫でつつ、クリスの身体を抱えるようにしながら彼女の後に瞳を閉じてそのまま眠った。


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