ルヴィアの別荘に帰ると、正輝は今持っている武器とアイテムを確認している。クッキーマンにも変身できず、投影どころか魔術すら使えない状態に焦りを感じている。
(とにかく…今の現状を確認しよう。話はそれからだ)
元々自分の力だったら三種の球と、嶺こと姉のもらった呪符とタロットのアイテムぐらいしか所持していない。完全に使えなくなったのは魔力と投影魔術とその応用魔術、王の財宝、他の報酬で貰ったものも使用できなくなっていた。だが、禁止されるはずの正輝の所有しているフォームレベルのシステムはちゃんと生きている。
それなのに、
「なら、なんで2ndフォームにならなかった…」
レベルアップもまた神の恩恵に含まれているのならば、エラー音という機械音どころかなんの反応もするわけがない。となれば2ndフォームもまた自分のものになっているはずのに、何故か変身できないままになっている。
(今の俺には介入前までの半分以下の力しか持ち合わせていない。凛とルヴィアの二人は魔術でどうにかなるけど、その二人よりも貧弱である以上…さっきのように下手に前に出るべきじゃないな。防げなかったら前出たところで一撃でやられてしまう…)
そんなことを考えつつも、ドアからノック音がした。
「あの、入っていいですか?」
「…いいよ」
美遊の声がしており、彼女がドアを開けるともう仕事服であるメイド服ではなく、パジャマ服を着ている。
既に午前1時に針が差していた。
「こんな夜分にどうしたんだよ?子供は早く寝たほうがいいぞ、身体に悪いし…ルヴィアにはさっさと寝なさいって言われなかったのか?」
正輝はともかく、美遊の方は今後も学校に行かないといけないからもう寝てるのではないかと彼は思っていた。しかし、美遊とサファイアは正輝が力を使えないことに疑惑を感じている。
「学校は明日休みなので大丈夫です。正輝さんも、一人になってそのまま帰ってからも忙しそうにしてたもので。それに…」
「ん?それに、どうしたんだよ。」
『戦いが終わった後に何か慌てていたのですが、大丈夫でしたか?』
正輝の様子がおかしいように思えたのはイリヤ達だけではない、美遊達もルヴィアに注意されて話を聞かないどころか力を失っていたことに恐怖してい。
「俺ってそんな風に見えてたのか?」
美遊はその返答に頷く。自分のことで精一杯だったのか、彼は周囲を見ていなかった。
『最初に貴方と出会った時は魔力を感じ取れたのですけれど…それ以降、貴方の魔力が弱まっていました。もしかしたら…投影魔術が使えないのもそれが関係あるのでは』
「…まぁ、関係はあるよ」
思いとどまった後、関係があるということだけしか言えず何があったのかは美遊には話さなかった。
実は介入条件によって能力が使えませんでしたと言ったところで、二人がその話を信じたとしても自分が状況を変わるわけでもない。
『では、魔力が使えなくなったのは』
「最初は使えたんだがな、今は唱えても何も起きやしねぇ」
お互い何も言えない状態になって部屋が急に静まり返った。気まずい空気に話そうにも重く感じてしまう。
『では、これからどうするつもりなんですか?』
(まぁ、そうなるよな)
数分間の沈黙の中、サファイアが正輝に話しかけた。投影魔術どころ魔力すらないと、いざという時の戦闘面では話にならない。凛達と後方支援できるとはいえ、これでは彼女らよりも遅れを取る可能性も否めない。
(もうルヴィアにぶっちゃけるか?魔力ないからやっぱり役に立ちませんって?)
だからといって、ここで英霊との戦いを放棄して諦めたら自分はもう何もできないことを明かしてしまう。
弱くなったとはいえ武器が全くないわけじゃないのならば、それを使って英霊相手にどうにか打開策を見つけるのであれば、まだ降りるのはまだ早すぎる。
「…手助けできないわけじゃない。諦めるよりも、やれることを精一杯やる。行けるところまでな」
こうして次の日を迎えた。
正輝は今後の戦いのことと、性格診断のための問題を書きつつ悩んでいる間、イリヤ達は飛ぶための特訓をしている。美遊もその特訓をするものの実際はルヴィアがヘリを用意して、飛ばせるための特訓として突き落としたのを正輝が知って目を見開かせたのはまた後のことだった。
「何やってんのアンタ…」
「これも美遊が飛べるようにするためですわ。我が子を崖から突き落とすように」
(大丈夫かな…あの子)
上空から突き落とすようなルヴィアのいい加減なやり方に付き合わされた美遊を、正輝は心配していた。
*****
二度目のキャスター戦にまた挑むこととなるが、イリヤはともかく美遊はちゃんと飛ぶことができたのかが正輝は知らない。少なくともルヴィアのいい加減なやり方に付き合わされて、無事であったことに彼は安堵はしていた。
ややこしい作戦というよりは、役割分担とのことだった。小回りのきくイリヤは陽動と撹乱担当、突破力のある美遊は攻撃担当をすることに。
「リターンマッチよ。もう負けは許されないからね!」
初めは先制攻撃をされて、防戦一方だったが凛とルヴィアの二人が作戦を立てたおかげでようやっと反撃ができる。その戦闘前の前準備を用意してるところだ。
「あの、ところでさっきから周りに飛び回ってる鳥は何?」
「あぁそれはだな。俺を含め、美遊達とイリヤ達にこの鳥を張らせておいた。敵の攻撃をちゃんと守ってくれるから安心しろ」
(どこまで耐えられるか分からんが…下手したら一羽で一回しか防げないだろうし)
フレイムウイング
正輝は戦いが始まる前に何重にも用意しておいた。イリヤ達の頭上を何羽か飛び回っている。凛がイリヤ達に作戦を伝えている間、正輝は汗をかきつつもコツコツと支援の準備をしているところを、ルヴィアが話しかける。
「前の時はあそこまで用意してなかったのですが」
「安全の為のバリアや罠は何重にやっても損はないだろ。今後ともこうすることで活用できるだろうし」
「…私たちがここに来る1時間前に準備しているんですわよね?」
正輝が前に出て様子がおかしかったことは、美遊とサファイアだけではない。ルヴィアもまた何重にも設置しようとする正輝のことを不審に思っている。罠や支援は英霊を相手にするのだからその時間をかけることに問題はないが、投影魔術で罠を作ろうとしてない。最低でも工具をイメービして投影し、用意できるはずなのに。
「まさか、貴方「安心しろ、ちゃんと自分の身も守れるし支援もできる。俺もイリヤと美遊の二人を信じるだけだ」」
投影魔術が出来ないんじゃないかと聞こうとしたが、言おうとする前に正輝は口を挟んだ。半端な支援だけでは力になれないから、こうして到着する前に正輝が先に用意している。
「私達はともかく生身の身体では、軽傷じゃ済みませんわよ。それは分かってますわよね?」
「…分かってる」
ルヴィアと凛には、宝石による防御を可能にしているが正輝にはそんなものはない。化学兵器を持っていようが、英霊の宝具を防げないのであれば話にならないのだ。
(俺が仕掛けた罠で、どこまで頑張れる…)
またキャスターと戦うことになるが、無力にならない為に時間をかけて作ったものが英霊相手に届くか否か。
正輝ですらも分からないとはいけやるしかない。できないより、可能な範囲で出来ることを取り出すしかなかった。
*****
二度目の戦いが始まる。
キャスターは上空を飛んで、攻撃準備をしていたが先手を取って来ることが分かった以上、やられる前にやるという戦法をとった。
「一気にカタをつけるわよ!」
「二度目の失敗は許されませんわ!」
イリヤと美遊の二人が先行し、正輝は配置した罠を目で確認する。
美遊は空を蹴って敵に接近し、イリヤは陽動で移動しているがフレイム・ウイングのおかげで彼女を守っている。
(やっぱり一発が限界、さっまで用意した防御用のが全羽分消し去られるのも時間の問題か)
多く飛ばしたはずの鳥は魔力弾で消え、すぐにイリヤ達の方は数が減る。凛達も守っているがこのままいけば短時間で全羽消し去られるだろう。
(美遊、イリヤ。頼んだぞ)
イリヤが散弾をぶつけ、美遊が一気に距離を詰めて宝具でトドメを刺そうと用意するが、
「消えっ…⁉︎」
キャスターが目の前に消え、背後を取られてしまう。しかし、
「あぁ、そうすると思ってたぞ!」
「⁉︎」
正輝が用意した罠が作動し、背後から狙ったキャスターの迎撃に成功した。
設置した罠というのは、小さくした空間断絶魔風手裏剣を美遊のフレイム・ウイングに詰め込んで、イリヤの散弾を見立てて近距離で爆発、前方に広範囲で手裏剣を飛ばすというものだった。
(まぁ作るには時間がかかったな。一応凛達にも設置してるけど)
正輝の隣に迎撃用のフレイム・ウィングを用意して、いつでも凛達のところに飛べるようにしている。キャスターはそれに驚いたかのように、美遊の攻撃よりも飛んでくる手裏剣の防御を反射的に優先した。
「美遊さん、大丈夫⁉︎」
「うん、正輝さんのおかげで」
『物理防御が間に合わなくて、申し訳ありません美遊様。ですが正輝さんもあんなのを用意していたとは…』
まさか飛ばした鳥の中に攻撃用の罠を詰めてくるとは敵も予想してなかったのだろう。序盤は防御として見ていたのだから、鳥よりも美遊とイリヤを優先した警戒をしていないのは敵の誤算であった。
『助かったとはいえ、転移魔法も使っている以上攻撃するにしても容易ではありませんね』
正輝の罠で助かったとはいえルビーの言う通り、また逃げられて背後を取られてしまうのであればトドメを刺すこともままならない。
「なら…私に考えがある」
二人で話し合っている会話を凛とルヴィア、正輝には聞こえていない。前と同様に凛達の作戦通りに動いてはいるが、それではまた転移してしまう。
「…何をしようとしてんだ?そんなことしても」
「同じ手は通用しないわよ!」
「一時撤退ですわ!」
そう言っても二人とも作戦のまま動いて引こうとはしない。それどころかキャスターにもう一度挑もうとしている。しかも、
「あのバカーっ!せめて役割分担くらい守れーっ‼︎」
(背後を取られてもそれを防ぐための迎撃用はもう無い。何か策がある、そう信じていいんだなっ…?)
美遊がやるはずなのに、イリヤが前に出ていた。二人とも心配しているが、何か考えがあるのかと正輝はイリヤと美遊を信じるしか何もできなかった。
イリヤは魔力弾を形成して、キャスターではなく
「極大の…散弾っ‼︎‼︎」
反射面に全弾を打ち込んだ。散弾は反射してイリヤにも当たるが、キャスターも巻き込まれ一時的な足止めにもなる。これで、どこに転移しても当たるような広範囲であれば敵は防ぐしかできない。
(考えたな。敵じゃなく反射平面を利用して…)
「弾速最大…
飛んでいたキャスターは美遊の高速の魔力弾によって地に落とされる。
「やった…?」
『まだです!早く詰めの攻撃を…』
「zeichenーーー」
「Anfangーーー」
地面に叩き落とされたキャスターを今度は凛とルヴィアの二人が宝石を用意して攻撃する。
「「轟風弾五連(爆炎弾七連)
弱っているキャスターを焼き尽くし、爆炎が舞い上がる。魔法陣が消え、ようやく勝つことができた。
正輝はキャスターに残った迎撃用のフレイムウィングをぶつけさせるよりも、敵の近くにいた凛とルヴィアが先に動いていたために動けなかった。
「ハハッ…やっぱ流石だな凛とルヴィアも。まぁ魔術でいっつも大喧嘩してるもんな」
イリヤは上空から凛とルヴィア達の元へ向かっている。これでカタがついたとみんな思っているはずだが、
「…まだ揉めあっているところ悪いんだけど聞いていいか?」
「何よ?」
まだ正輝はキャスターを本当に倒すことができたのかがまだ分かっていない。遺体が残っているわけでもなく、炎で何も見えないのでは仕留め損ねたこともあるためにまだ警戒している。
凛とルヴィアでケチってるとかとギャーギャー揉めているが、話す必要があった。
「あのさ、キャスターって本当に倒したのか?」
「何を言っているのですか。さっき見たではありません「いや、魔法陣が消えたのもわかるけど意図的に消したってこともあるだろ。それに爆発じゃ確実に仕留められたかどうか分かんねーし、ライダーの時のように倒された後にカードも確認してないぞ?」」
「だから、今から私達はそのカードの回収を」
正輝の警戒は当たった。さっきの攻撃も転移して逃げていたキャスターは、離れて巨大な魔法陣を展開している。
1回目で消し飛ばそうとした時よりも大きな魔法陣を三つも用意して。
(逃げられたっ⁉︎それに、あの魔法陣はっ)
「空間ごと焼き払う気よ‼︎」
「くそっ、マジかよ!」
正輝がフレイムウイングを再放出して飛ばしても絶対に間に合わない。仕留め損ねたせいで、あんな大掛かりな魔力陣を作ってくるとは誰も思ってもなかった。
「美遊さん!だめ、それじゃあ!」
美遊が全力でキャスターの元へ向かうがもう間に合わない。キャスターの迎撃で向かうよりも、全員の脱出を優先するべきだったがもうそれもできなくなっている。そんな時に
「乗って!」
大きい魔力砲をイリヤが作り、美遊はそれを足場にした。そのまま届く距離まで蹴り上げて飛ぶ。美遊は
貫かれたキャスターの身体に大穴が空いて、カードとなっていく。
『キャスターのクラスカード、回収完了です』
*****
正輝はまさかの展開に青ざめていたものの、美遊とイリヤがどうにかしたおかげでキャスターの件はこれで本当にひと段落ついた。
「ハァ…みんな油断しちまったけどどうにかなったな。それに…」
(でもやれる…やれるぞこれなら‼︎特典や報酬の禁止のメールを見た時はかなり焦ったが、もしかしたらいけるかもしれないっ‼︎)
イリヤはルヴィアに魔力砲を撃つような無茶をしているから頭をグリグリされているが、凛がそれを止めてまた二人の喧嘩が始まった。これで今日のカード回収も終わったことにみんな気を抜いている。
「にしても妙だな…もうキャスターは倒したんだろ?」
元凶であるキャスターをイリヤ達が倒したはずなのに、空間の崩壊が遅い。このままもとの世界に戻って終わりなはずなのに。
(まさか…空間が維持してるってことはまだ敵がいるのか⁉もしそうなら)
正輝は考え過ぎなんじゃないかと考えた。だが、もう一つ敵が既に来ているというのであればそれは最悪な展開になる。
(頼む!俺の気のせいであってくれ!)
正輝が凛達に声を上げて駆けつけた時には既に
「おい!凛、ルヴィ…」
もう手遅れだった。イリヤと美遊も正輝の後に駆けつけたものの凛達二人に歩き寄っていたもう一つの黒い騎士が不意をついて倒している。
鳥も凛達を守るために作動したが、どうにもならなかった。
(セイバー枠がアルトリアだって予想はしていた。だが、
まさかキャスターを倒した後にやってくるか…しかもその相手がセイバーで対策すら考えていない。正直ここに来るとは思ってもなかったぞっ…‼︎)
イリヤ達も疲労しており、正輝の武器も限られている。この場の指揮系統は凛とルヴィアだが、その二人が倒れていては何をどうすれば良いか分からなくなってしまう。全員分のフレイム・ウイングも既に全部消えているのならば、もう一度放射する必要はある。が、
(もう一度出したところで、どうにかなる相手じゃない。上手くいくかもしれないって考えた俺が、馬鹿だった。生身の人間が英霊と戦う絶望感はこんな感じだったんだろうな…衛宮)
キャスターとの戦闘はどうにかなったものの、セイバー相手だと剣圧だけでも一回どころか防ぎきれない。何羽も用意したところで全くアテにならないのだ。
「どういうことっ…ルビー」
『…最悪の事態です』
黒い騎士王が背後から凛とルヴィアに襲撃し、死んではいないが二人とも地べたに倒れている。その場に残っているのはイリヤと美遊、正輝の3人だけ。
「イリヤ、美遊…鳥をもう一度放出させても多分防ぎきれないから使わないぞ。絶対、出したところで無駄だ。
冗談抜きでキャスターの比にならないくらいにアイツはヤバイ。小細工は無意味だと思うし、凛とルヴィアがどうにもならないんじゃ俺も勝ち目がない」
(凛達の周囲にある罠はやっぱもうダメになってる。俺の手持ちとしては俺の武器と姉からもらった呪符とアイテムだけ…こいつ相手に俺とイリヤ、美遊の三人でどうにかるのか…)
罠も騎士が放出している黒い風で破壊され、正輝には手元の武器しか持ち合わせていない。美遊達もキャスター戦で体力が浪費している。
「あり得るの?こんなことが」
『完全に想定外…現実に起こってしまいました。二人目の敵が』
ーーーー彼らの長い夜はまだ続いていく
ーーーもう一つの敵意も、身を潜めている
ーー英霊だけではない難敵が
ー正輝と彼女らの絶望はまだ終わらせてくれない
【隠れ潜んだ黒正輝は動き出す】
『…【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン】ト【岩谷正輝】ヲ確認。両者共二殲滅』
《change 2nd form》
黒正輝は2ndフォームに変身して、硬く閉じていた口を開いた。