Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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64話休息

黒騎士との戦いを終え、無事全員が生還することはできた。 この後イリヤは高熱を出し、彼女を家に送って休ませている。彼女を送った後に凛達四人はルヴィアの別荘に向かい、さっきまでのことを整理して話した。ルビーはイリヤとマスター登録しているが、その話し合いに加わる。時間は10時ごろであるために、イリヤの元に帰るのは話し合いを済ませてからとのこと。

凛達がチャージした魔力砲を黒正輝に返され、それ以降は二人とも見ていない。美遊と正輝の二人で説明するが、

 

「ねぇアンタ、何であたし達にそのことを言わなかったの?」

「…すまなかった」

 

こうして正輝だけが凛達に叱られていたのは、突然横から現れ出た黒正輝のことについてを伝えてなかったことだ。それを知っていたのは正輝だけで、それ以外の凛達四人は知る由もない。正輝の方は申し訳ないという顔をしており、何とも言えない気持ちなまま口を閉ざしている。

 

『まぁまぁ。イリヤさんが倒した英霊と、横から介入した黒正輝の二人がもし互いに組んでたら仮に存在を知っていたとしても間違いなく我々は全滅してたでしょうし。正輝さんもあんな方法で横から介入してくるとは予想もしなかったでしょうから』

「でも、今後またそいつが横から現れることもあるのだから次からは知った方が良いし。それじゃあ…知ってることをアンタが吐いてもらったら、あたし達も敵の力を知って鉢合わせした時でも対処できるでしょ?

 

さっさと言いなさい」

(…言ったところで。いや、一人じゃ達成できない以上言うべきか)

 

黒正輝の能力が同じだと判明したのは介入してきた時だけであって、どう仕掛けてくるのか分からなかった。黒正輝を倒せということしかメールに記載していない。初めから敵の能力、場所について親切に教えてくれることは無かったものの、そもそも伝えてないこと自体が問題だったからこちらの敵も出てくるからということぐらいは言っておくべきだった。

 

「俺と同じ能力だが…黒正輝の方は俺とは全く違って無制限に能力が使用できる。空間系による吸収と反射、投影魔術、宝剣宝槍および魔術による操作を用いた銃系等の射出だ」

「やはり…あなたの様子がおかしいと思いましたが」

『でも、それって話を聞いてると…かなりヤバイ敵じゃないんですか?』

 

ルヴィアは美遊とサファイアが正輝に気にかけ、みんなよりも早く準備をしていることに不自然な動きをしていたと疑っていたものの、制限されていたことに少し驚いている。

 

「貴方…本当に魔術師なのですか?化学兵器を持っていたという辺りからは驚いてましたけど容認しましたし…」

『確かに、優秀な魔術師であったとしても持ち得ている力とは種類も様々で、そこまで保有するのはごく一部です』

「それに宝剣宝槍ですって?…そこのルヴィアからは化学兵器に関しては聞いたけどそんなの聞いて幾ら何でもアンタが怪しいとしか」

(オメーらが聞いたからこうなってんでしょうが…言わない俺も俺だけどさ)

只でさえ、カード回収に命がけだというのに彼は抱えている厄介事を持ってきたのではないかという厳しい目を見られていた。

(こうなるとは分かっていたし…黙秘を続けて明かさなかったら明かさなかったで今後の協力に蟠りを生じさせる訳にもいかないっ…)

正輝も自身の能力を明かすことが、どれだけリスキーなことか分かっている。それでも、倒すべき強敵の為に彼女らに伝えなければ一人では倒せない。このことを明かした後に、たとえどんな風に思われたとしても受け入れて他の仲間と共に倒すことを考えていた。

(流石に無理があるかっ…⁉︎)

疑惑の目を向けられる反応を正輝が予想していたとはいえ疑われているものの、助け舟を出してくれる人とステッキがいてくれた。

 

「あ、あのっ…!正輝さんは少なくとも悪い人じゃないと思います。私とイリヤスフィールを助けてくれました」

『それに黒正輝の出現以降も彼が前に出て、陽動に徹しています。このままいけば全滅の可能性も考慮していましたから…』

 

美遊とサファイアは危険な部分に飛び込んで助けてくれたことを目にしている。イリヤと美遊がいなければ空間に脱出することも、逃げることもできないため、二人を生かすために彼は助けた。もし保身の為ならば、美遊にさっさと自分を助けろと強要することもあったかもしれない。

 

『今は仲間内同士で疑心暗鬼になっても事態は解決しませんよー。それにマスターであるイリヤさんを助けて、こうして敵のことも話してくれたおかげで分かったこともありましたし。

 

正輝のことが怪しいというのならば、詳しい事情を分からない美遊さんも彼と同じですよー。私は彼のことを信用しても良いと思ってますよ?』

 

正輝を怪しい存在だと疑念を持ったままこのまま隔離したところで、事態も分からない。美遊も自分が何者なのかをみんなに明かしていないからこうして明かしている正輝を庇っている。

 

「確かに、いくら内輪揉めしても事実は変えられないもの…知りえた情報も彼のおかげですから今度は対策を考えましょうか。では…もし貴方が無制限だとしたら…実際黒正輝の基準の強さはどのくらいなのですか?」

「少なくとも本気で戦うことになったらあの騎士を2.3体分相手することになる…」

「ハァ…あんたのいう実力が事実なら、納得いくわ」

それを聞くと凛とルヴィアの二人はなにも言えない頭を悩ませていた。宝剣宝槍を射出という時点で凛とルヴィアの二人は嫌な予感をしていたが、やっぱりそれほどの難敵だったかと困っていた。

 

『一難去ってまた一難ですか。何はともあれ、あの騎士と協力関係でなくて良かったです。イリヤさんも寝込んでますし、今日はここまでとしましょう』

「そうですわね…」

 

議論はここで終わり、凛だけが外に出て帰ろうとする。ルヴィアと美遊も立ち上がって自分の仕事に戻ろうとする。

一人の男を除いて

 

「…?ちょっとアンタ何やってんの。もう話し合いは終わっ「いや、あの、マジで動けない」…え?」

 

正輝だけがそのまま動けない状態で、立ち上がることすらもままならない。凛達も美遊もキョトンとした顔で正輝の方を見る。

「だからその…うん。さっきの戦いで余りにも周囲を警戒していたから、身体中が異常なくらい張っててさ。ちょっと今じゃ離れられずに、全身筋肉痛で動けません」

「あの、手伝いましょうか?」

美遊が近づいて正輝が立ち上がるのを手伝おうとするが、足を動かそうとした瞬間痛みが身体全体に伝わる。

これでは動きたくても動けなかった。

「おう。ありが、アイデデデテっ‼︎」

『なんか動くのは難しそうですから、安静にするしかないですねー』

「え、俺このままなの?」

もう深夜になっているために、凛達の言い分として後は簡単に寝る前の治療をすれば明日には治るといってそのまま帰っていった。

 

「じゃ、後は頑張ってねー」

(え、おいちょっと待て。助けてくれないのっ?)

「筋肉痛ならば、自然治癒でも問題ないでしょう。化学兵器というものもありますし、美遊も明日は休養を取りなさい」

 

凛だけではなくルヴィアも手伝うことなく、正輝ではなく好きな人である士郎がなってたら付きっきりになれたのにと悔しがっていたが、聞いてる正輝は怒ったら怒ったで冷たい態度を取るのが目に見えてるからあえて突っ込まない。

化学兵器の一つであるBLUEは先程の戦いで使い過ぎているから、それが出来るならとっくにやっているのだ。

二人はそのまま正輝を放置にする。

(は?えっ…いやいやちょっと待て!二人とも他力本願か⁉︎自分さえ良ければ良いってかおめーらは!せめて顔、腕、足の三つだけでもやってくれよ⁉︎)

『美遊様に一般常識を教えているというのに、あの二人は…』

『それじゃあ私はイリヤさんの方は心配なのでさっさと帰りますよ。正輝さんの力になれなくてすみませんが、お体には気をつけて』

「それじゃあ私だけでも手伝います。湿布を持ってきますね」

美遊は走って医療室へ向かい、湿布の袋を持ってくる。戻ってきて貼るのも正輝ではなく美遊にしか出来ないために脚、腕、首回り、顔、上着を上げて腹部に貼った。

 

「ありがとう、もう十分だ。流石に靴の部分や太腿部位はBLUEで治すよ」

(なんだろう…美遊がすごく頼もし過ぎて助かる。すごい安心する。)

 

凛もルヴィアも冷たいが、一緒にいた美遊がなんだかんだで優しくしてくれるおかげで心が安らいでいる。

「それじゃあお休みなさい」

「おやすみ」

湿布の貼られていないまま、ほっとかれたら激痛で眠れない1日を過ごすこととなっていた。

美遊の行動に、正輝は感謝するしかなかった。

 

*****

朝目を覚ましても正輝は椅子に座ったままの状態で、身体は湿布まみれになっている。

起きた時にはすでにもう昼の時間になっていた。

(外しづらい…)

痛みは引いていたものの、湿布を剥がしたりまた立ち上がって動かそうとすればさっきの痛みが怖いから石橋を叩いて渡るかのように何度も腿から下だけでも足を動かして大丈夫なのかを確かめている。

(まだ無理か…)

BLUEを起動するにもまだ時間がかかり、腕と手が動かせるためにストレッチをして身体をほぐしている。ご飯はいつの間にかテーブルの上に置いてあり、書き置きがあった。

 

ーー動けない貴方のために美遊が置いてくれました。もし貴方が美遊に会ったら感謝することですわ

 

「なんか内容がつくづくと上から目線だな…それでも心配してくれてるけどよ」

 

プライドが高い分、自己意識が強すぎる。凛もそれと一緒なせいで意地の張り合いでいつも喧嘩している。それ以外の男の人の対応もこんな感じな扱いではあるなら、何とも言えない。

が、言い方はともかく書き置きをしてる分、それでも少しは良心的な方もあった。

(高嶺の花とはよく言ったものだ…凛でもこんな感じなのだろうか)

ルヴィアと凛はほぼ似た者同士で一緒だというのは分かってはいたが、意識的に美遊とイリヤの方がよっぽど話しやすいために比較してしまう。

書き置きを見ながらもご飯を食べていると、

 

「あ、あのっ…」

「ん?美遊か、ご飯ありがとな。俺はこんなザマなのでお休みだぞ」

 

正輝はこのまま立つことも難しいのならば、家庭教師として美遊に教えることすらままならない。

そんな正輝に美遊は不安そうに話す。

 

「あの、私。イリヤスフィールの家に行くことを伝えに…でも」

『お身体の方は大丈夫ですか?』

 

イリヤの家にいるルビーがテレビ電話にし、サファイアか見ているものをリアルタイムで映された。発熱からすぐに治っているイリヤは美遊の仕事服(メイド服)に興奮して今すぐに来て欲しいと頼まれている。しかし、美遊は正輝の看病の方が良いのではないかと心苦しく思っていたが

 

「遊びに行って来いよ。別荘にはルヴィアの執事であるオーギュストだっているし、俺は少し回復したから大丈夫。

ルヴィアだって許してくれるし、イリヤももう大丈夫なんだろ?」

『はい、とても元気でした』

「あ、ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」

「おう、行ってら」

(昨晩は、貼ってくれたお陰ですごい世話になったし)

正輝の了承に、美遊はそのままサファイアを連れてイリヤの家に向かっている。正輝もそのまま二人が仲良くなって欲しいと望んでいるために、行かせてあげていた。

 

「今頃あっちは楽しんでんだろうな。俺も身体がズタボロだし、身体中に湿布を張られてるし。諦めて治療に専念するか…」

 

BLUEの復活が来るまで、椅子に座って考え事をしていた。カード回収も着実に進めているが、能力制限と黒正輝のこともどうにかしなくてはいけない為に結局はみんなで結束しなければ到底敵わない。

(俺一人だけじゃ無理だってことも分かったしな。それに…これを使うにしてもリスキーすぎるし」

 

ここまで負の力を具現化する能力も出来る限り使っていない。正輝が強敵を打倒するにはもその力を使い、条件を無視して正輝の持つフォームシステムを改善及び進化させること。僅かながらもその力で治療よりもフォームモード(2nd)の修理をしている。しかし、その力の使用後には使用量分の精神的な疲労が一気に自身に襲い、身体を蝕むことになる。最悪命を落とす危険性が高いために、最後の手段として使わない。

 

(このことは誰にも言ってないし、これ以上あいつらを不安がらせたくないしな。それに黒正輝は負の力よりも、投影魔術と最後の劔を酷使していた。使ったところでその分のが自分にも来るから、意味をなさないしな。ノーリスクなのは俺が『英雄殺し』になった時か、絶望値が異常に高いかだろうし)

 

そのまま考え事をしていくと全身の筋肉痛は、最終的にBLUEが再起動できたおかげで夕方頃に完全復活した。

「よっしゃ、これで動け「ただいま帰りました」ん、おうお帰り」

その頃には不安そうだった美遊の顔が明るくなっている。イリヤの家で美遊が楽しく出来たことに正輝も安心している。

「あっちで何か良いことでもあったのか?」

「初めての…友達ができた。お互い呼び捨てで…いつもイリヤスフィールって呼んでたから」

「そうか、良かったな。不安そうな顔をしてたけど安心したよ…俺もBLUEが復活したおかげで筋肉痛が治ったしな」

椅子から立ち上がって、身体を動かしている。痛みも無くなり、明日から正輝も動けるようになっている。

「あの…今後は正輝兄さんでも良いですか?」

「ん?どうして?」

「ルヴィアさんはルヴィアさんのままですが、正輝さんだとその…」

正輝とサファイアも唐突に美遊がそう言ったことに疑問に思っていた。正輝本人は美遊に兄さん付けされるとは思ってもなく、サファイアの方も正輝さんのままでいいと思っていた。だが、美遊にとっての正輝はさん付けよりも兄という印象が強かった。

「んーどっちでも良いぞ。さん付けでも良いし、兄さんって呼んでも良い。つーか、俺的にはどちらでもどうぞ」

「い、良いんですか?」

「俺もまぁ…美遊と友達かどうかはともかくとして、美遊のことは凄く信頼してるからさ。まぁ呼び捨てどころか貴方がアンタって凛かルヴィアの二人は言ってくるけど、美遊は兄さんって呼びたいならそれでも良いよ」

ルヴィアはそのままルヴィアさんだが、正輝の方は同じ境遇なために美遊にとっては年上である正輝を兄さんとして見ていた。

 

「あ、ありがとう。正輝兄さん」

「…なんか違和感あるけど、正輝さんでも兄さんでも構わんからな」

 

こうして美遊はイリヤと友達になり、正輝もまた兄さん付けされるぐらいに仲良くなっている。昨晩の激戦から束の間の休息として、今日1日の休養を満喫していた。黒正輝も奇襲して来ず、英霊も出てこない平和な日を。

 

 

残る敵は英霊二体(バーサーカー、アサシン)と黒正輝一人のみ。

しかし、ライダー、キャスター戦とは違ってどの敵も一瞬の隙、油断は命取り。

ここから先凛達はセイバー戦と同様に幾多の苦戦を強いられることになる。

その断崖絶壁を超えていくしか、道はない。

 

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