Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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65話暗殺者は手段を選ばない

正輝が完全復活した次の日、夕方頃にとある作戦会議を始めていた。次に戦う英霊のこともあるが、黒正輝の介入についても警戒を怠らないことも話をしている。

 

「あんたが昨夜喋った能力についてだけど…まさか他にもないでしょうね?」

「悪い、そこまでは何とも…」

 

黒正輝が投影魔術や王の財宝以外にもどんな能力を使えるのかはまだ分からない。出会ったとはいえ戦いもそこまでしているわけでもないから不確定な部分が多い。

「ハァ…まぁいいわ。横から入ってきても、英霊と敵対しているのなら問題ないでしょう」

「だといいんだけどな…」

『それこそ、手を組んでたら袋叩きにされてましたよー』

前回、黒騎士の剣圧が黒正輝に当たったとはいえ、本当に敵対しているのかどうかもよく分からないが、少なくとも協力はしていないのは全員覚えていた。残りはアサシンとバーサーカー、そして黒正輝の三体ならばカード回収はもう少しで完了する。

「それでは、行きますわよ」

 

こうして夜が訪れ、歪みが生じている森へと向かっていった。

 

*****

 

夜の森

イリヤ達は早速反応のあった場所に向かい鏡面界に入ったが、その場所には敵である英霊の姿が見当たらなかった。

「どういうことですの?敵もカードもいないのですが?」

「えーっと…場所を間違えたのかな?」

辺りを見渡しても木々だらけしか見えてこない。鏡面界が存在している以上反応があったのは確かだが、反応があっても敵が見えないのではこちらからの先手が全く取れない。

「それはないわよ…鏡面界がある限り、その原因が必ずあるはずだわ」

「んー…この空間って何だか狭いよね」

「カードを回収するごとに歪みが減ってきてるのよ。最初は数キロあったし」

(…)

介入する前は、正輝の予想だと敵の英霊はアサシンならば佐々木小次郎、バーサーカーならばヘラクレスだと思っていた。が、場所を確認するとアサシンだった場合は彼がこんな場所で刀の類を振り回すなど余りに愚策にも程がある。確かに彼は寺を守るサーヴァントとして足場が安定しづらい階段でセイバーと戦ってはいたものの、それでも武器を振り回せるくらいの距離はあった。ライダーやキャスターも見れば分かるような敵の位置確認や、武器を振えるような範囲を用意する必要がある。今回の場所は視界の殆どが木に遮られ、小回りの効く暗殺者向きな場所だったこと。バーサーカーだった場合でも大声を上げている印象もあり、位置もバレているかすぐに戦闘が始まってもおかしくないのだ。

 

(どういうことだ…もしあの二人でないなら…一体敵は何なんだ⁉︎)

「どうしたのイリヤ?」

「気のせいかな?誰かに見られてる気が…」

「そうか、なら…⁉︎」

イリヤの言うように正輝は辺りを見渡そうとした瞬間、彼女が向いてる方の反対側から何者かが木に隠れてナイフを投げてきた。

「イリヤっ‼︎」

「えっ⁉︎」

 

イリヤが何度も首を向きながら彼女の視界外になっている所に移動し、投げたナイフが飛んでくる。気づいた正輝がイリヤを守っていなければ彼女の首筋はナイフに突き刺さっている。

 

「クソッっ…毒かっ⁉︎」

 

その投げナイフを受けた正輝は腕に擦り傷を負ったものの、傷を負った途端に彼はそのまま地面に倒れてしまう。すぐにBLUEが起動し、正輝を守るように全体にバリアを張るよう変形する。

 

「美遊!」

「砲射!」

美遊も投げた方向に魔弾を放つが、撃っても既に敵はいなくなっていた。イリヤは無傷だったものの、正輝の方は回復するまで再起不能になっている。

「正輝、さんっ…⁉︎」

「くっそっ…不甲斐なっ…あぁぁっ…‼︎」

「アンタはこれ以上喋らずに回復することに集中しなさいっ!敵の位置が不明なら、正輝を中心に方陣を組むわ!全方位を警戒して!」

正輝は小声でしか喋れず、腕にある毒を治す為に堪えている。四人は弱まっている正輝を守る為に、どんな方向からでも対処が出来るように動く。

 

「不意打ちとはナメた真似をしますわね!」

「攻撃されるまでの気配が全く感じなかったっ!庇ってなくても急所狙いに、毒も仕込まれてるなんてね…気を抜かないで‼︎

周りをよく見なさい!でないと死ぬわよ!」

(死ぬ?え?)

 

庇われたイリヤは、もし正輝に庇ってもらわなかったら今頃正輝のように地面で這い蹲って苦しんでいたのだろうかとゾッとしている。自分のせいで誰かを死なせてしまうことに精神的な面が段々と崩れていく。

 

(あたしの、せいだ…このままだと正輝さんが)

庇った正輝は毒でほぼ動けないまま、BLUEを展開して自分の身を守るしかできない。今でも治療は継続しているが、肝心なイリヤが動けないまま震えている。

 

(血も出て、苦しんでるっ…それに痣も)

「何やってるのイリヤっ!」

『しっかりしてくださいイリヤさん!』

イリヤと治療中の正輝を除く三人は暗殺者の攻撃を防いでいる。BLUEには身体を素早く治療させることはできても麻酔のような効力はない為、それまでの間は毒による激痛は治らない。イリヤも直撃していたら正輝のようになってしまうと思うとソッとしたまま肝心な敵のことを見ていない。

 

 

『敵を視認!総数50以上‼︎』

「それでは…完全に包囲されてますわ⁉︎」

 

現状大勢の敵に囲まれて、手負いと極度の精神的不安定な少女の二人を抱えている。このままこの場所にいるのも不味いのは凛もルヴィアもわかっているが、正輝が回復するまでの数分の間に何とか持ちこたえようとする。

 

『その化学兵器には数分で治療できるようになってます!その間だけでも』

「完治し終えたら突破するわよっ!」

 

イリヤを庇ったが故に事態は悪化している。全体を守るようにBLUEを展開して回復と防御に徹している正輝のことを心配するよりも、一番不味いのはさっきのことで動けずにいるイリヤだった。こんなにも凛達を隙があったというのに幸運にも黒正輝が暗殺してくることもまだないのが救いだった。彼が介入したところで正輝達を襲っても黒騎士のように暗殺者達もまた黒正輝を障害と認識して不視界、或いは背後を狙って襲っているというのもあった。

 

が、横から割って入り、狙ってくるという可能性もあるために凛達はそのことも頭に入れつつ警戒している。

 

(逃げろっ…イリヤぁ‼︎)

 

正輝は次に戦う相手が佐々木小次郎かと思っていたのに、その英霊が違うどころか複数いるとは思ってもみなかった。とうとう声も出せずに、見守ることしかできなくなっている。暗殺者は標的を変え、イリヤに向かって四方八方から毒塗りのナイフが飛んでくる。戦場では迷った者が先に死ぬ。

美遊や凛達ではなく、狼狽えているイリヤを殺すために集中的に狙った。

物理防御も、攻撃もしないまま人の死に恐れ、自らの身にも危機が迫ってることすら気づいていない。

凛、ルヴィアの判断も問題なく、敵の強さも一人一人強くない。どうにか対処できるものだったのに

 

(一手で遅れをとったせいで、このままだと正輝さんを死なせてしまう。私も…死んじゃうの?)

 

こうしている間にもどうすればいいのかと自問自答する。そしてイリヤがみんなを守る為に何をすれば良いのか、それは。

 

ーーード派手に魔力砲ぶっ放しまくって一面焦土に

 

(あぁ、そっか…それなら簡単だ)

 

魔術障壁を美遊が展開しなければ、敵だけではなく仲間もろともイリヤによって跡形もなく消し飛ばされていた。確かに戦いには勝ったが、そこに至るまでの過程と結果は散々だった。クラスカードのアサシンが地面に残っており、イリヤがいる場所以外は魔力によって吹き飛ばされている。

 

イリヤは倒れることなく、現実を目の当たりにしている。

腰が抜けて、地べたに座ってしまった。

 

「え…何、これっ…?」

 

イリヤはセイバー戦では意識を失っていたが、今回のはちゃんと覚えている。

自分が何をやってしまったのかを。

(そうだ、思い出した。ここがどういう場所なのか…)

ルヴィア、美遊、正輝もまた美遊のおかげで守られている。怪我は敵のものではなく、イリヤ自身の暴走によるものだと恐れている。

「私…私はっ…みんなを助け」

「危ないところだった。障壁が間に合わなかったらルヴィアさんも凛さんも、正輝さんも…一歩間違えたら全員死んでた」

 

イリヤはそんなつもりではなくても、美遊側からしたら行動そのものがみんなの足を引っ張っていた。冷静な判断も出来ないまま、自分の首どころか一緒にいるみんなの首まで締める結果になりえなかった。それでも、

 

「待ってくれっ…イリヤの、せいじゃない…俺が先にヘマしたからだ」

「…どういうこと?」

「もっと早く…敵の正体を伝えるべきだった…」

完治を終えた正輝が立ち上がる。美遊がイリヤを責めているが、正輝はこんな目にあっても怯えているイリヤを庇おうとした。

 

「ちょっと待ちなさいよ!敵がどんななのか…そんなの私達にだって分からな「確かに複数いるかどうか自体はわからないのは分かってる。でも、この場所を英霊が選んだ時点で察するべきだったんだよ。敵は暗殺者(アサシン)の方が圧倒的に有利だってことに…残ったカードから察してまずバーサーカーでこの場所を選んだところで気を隠すどころか大暴れする英霊がほとんどだろ…逆に黒正輝だとしても敵ではあるがカード回収の対象でもないから鏡界面は当然出てくるわけがない。

 

迂闊だったんだ…着いた時に残りカードを把握するべきだった。だから出遅れたのも怪我をしたのも、俺のせい。自業自得だ」

((それは私達にもグサリと刺さるのですが(んですけど)…))

最初はイリヤの不注意だけではなく、怪我をした正輝も可能性を考えて凛やルヴィアにでもそれを言っておくべきだったと反省していた。しかし、視野の悪いこの場所から察しなかった凛やルヴィアも優秀な魔術師なのだから何気に正輝の発言にグサリと刺さっている。

「違っ…あれは私が」

「でも、それ以降に起きたこの危険は本来あり得ないはずのもの。ちゃんと対処すれば少なくともみんな無事にこの場を乗り切ることができたはずだった。この損壊はイリヤが、冷静になれないままこうなってしまった。

 

 

そもそも庇ってもらったのに、動けなくなって…貴方のミスと、魔力の暴走でみんなが危険に晒された。助けようとした正輝さんを貴方自身が殺すことになっている」

「あ、あぁっ…」

数々の正論。美遊の言葉にはイリヤが足を引っ張ってみんなを巻き込んだことで怒りが込められている。その言葉にイリヤは怯え、声も弱々しく何も言えずにたじろぐことしか出来なくなってしまう。

 

「敵は倒した。けど、貴方がいなければこんな危険はなかった…こんなことはもうたくさんっ…私は、二度と一緒に戦いたくない!」

(何で…こうなるんだよっ…)

その言葉を最後に、イリヤは泣きながら飛び去っていった。昨日まで美遊と友達になれたのに、こんな二人でいがみ合うようなことは正輝自身望んではなかった。足を引っ張っていたとはいえ、今のイリヤの心境的な部分で不安定であることが目立っていた。

 

正論でイリヤを一方的に否定したところで、事態は何も解決しない。

 

*****

 

別荘に帰っても、冷たくなっている美遊に正輝は困っていた。

 

「美遊…実際イリヤはさ、少なくとも悪意があってあんなことやったわけじゃな「でもあの子は戦いを甘く考えてた。そうでなかったらこんなことにはならない」」

 

正輝がいくら擁護しても美遊は変わらずイリヤに対してまだ尖っている。その話題を出そうとしてもイリヤに関しては否定的な言葉で返されてしまう。

 

「どうして、貴方はそこまでしてイリヤを庇うの?」

「戦いのことを理解してなかったとはいえ…あそこまで精神的に追い詰められているのに、黙って眺めてるわけにもいかないだろ。俺も不甲斐なかったしな…責められるのはイリヤだけじゃない。

なぁ?あえて厳しく突き放したのも、イリヤが友達だからか?そうじゃなきゃ一言で済ませてるしな。

 

こんなことするなら二度と邪魔しないでって脅してる。なぜ、どうしてこんなことになったのかも言わずにな」

 

イリヤが去っていった後の美遊はとても苦しそうな表情をしていた。戦うこともままならずに危険に晒したイリヤたったが、それでも一緒に遊んでくれた初めての友達だった。最初の時だったらちゃんとした正論どころか攻撃的な暴論も含めていたかもしれないが、イリヤにそう言ったのは今の美遊がイリヤと話しているうちに互いを親しくなったお陰だった。背後からルヴィアが肩を軽く叩き、正輝に声をかけてきた。

「ん?なんだ?」

「ちょっと正輝さん、二人だけで話がありますわ。少し来てくれません?」

「…わかった」

 

*****

 

 

『美遊様?』

「サファイヤ…静かにして」

美遊は正輝の後を追って、隠れながらルヴィアと正輝の会話を聞いていた。

 

「残ったカードも、後はバーサーカーとなりましたわ。貴方に似たあの黒い存在もいるかもしれませんが、彼もまた敵です」

「そうだな。理由がなんであれ、あれもまた敵なのは確かだ。で、肝心な本題は何だよ?」

ルヴィアが懐から取り出したのは、『辞表』という紙を手渡す。みんなで協力すればどうになると最初は強く思っていたが、黒正輝の出現によって状況が一気に悪化した。

 

イリヤの戦意喪失、庇ったことによる身の危険…これら二つは無視できない問題だった。

「貴方に魔術が使えない以上、その兵器だけでどうにかなると本気で考えてるのですか」

「…まぁ、こうなることは覚悟してたよ」

「確かに貴方の武具は魔術道具と同等の力を用いている。そのおかげで美遊とイリヤスフィールも助かっているのもまた事実ですわ。ですが、さっきのアサシンで襲われた時も下手したら死んでいた…貴方の今の力ではこの先英霊や、さっきの黒い貴方や英霊に届かなかったことも…ここまで言えば、もう分かりますわね?

 

 

 

イリヤだけではなく美遊まで庇いかねません。貴方には、カード回収の役目を本日をもって終わりにします。

この件とはもう引きなさい。

でないと、今度こそ死にますわよ」

 

戦力外通告と、カード回収の役目を降ろされることとなった。無力さを思い知らされ、支援をしたもしてもイリヤを庇って死ぬようなことになってもルヴィアや凛も困ってしまう。

 

正輝自身も、こんな状態のまま一緒に戦ってもまた足手まといになることは分かっていた。運良く助かってはいるものの、怪我をしたせいでイリヤは極度のパニックに陥っていたことも。

イリヤが正輝の死だけではなく力の暴走で四人まで殺すことになってしまえばパニックどころか罪悪感によって心を壊してしまう。仮に誰か一人でも生き残れたとしても彼女は自分のせいで人を死なせてしまったという罪と深く抉られた心の傷を抱えたまま、重度の鬱になっていたかもしれない。

 

イリヤどころか美遊まで守ろうとしたら、自分の首を締めることになると忠告した。それ故に、ルヴィアから正輝に強制的な辞退を申告された。

 

「…分かったよ。まぁ仕方ねぇな…このまま一緒に手伝っても迷惑どころか殺されるし、今の俺は本当に足手まといだ。あえて聞くが、黒い俺の方は一体どうするつもりなんだ?策でもあるのか?」

「…仕事に関しては今後とも美遊の家庭教師はしてもらいますわ。化学兵器も届かなかったとしても、無力というわけではありませんでしたし。それに貴方はその黒正輝とやらに標的にされている以上は、貴方を野放しにはできませんわ

 

私達に任せなさい。彼もまた英霊に手を貸している以上、市民に被害を与えることを助長してますわ」

「すまない…」

 

これ以上の反論のしようもなく、もう指を咥えて眺めることしか出来なくなったという現状にため息をつくことしか出来なかった。

 

無力で非力な正輝と、有力で臆病なイリヤ。

たった一つの失敗が引き起こしたことで、返って爆破連鎖の様に尽く自分に返ってきた。

 

(俺は、どうすれば良かったんだ。このままみんなバラバラにならずに団結しなきゃいけないのに、何でこうなってしまうんだよ…)

「正輝さんっ…」

 

小耳に隠れて聞いていた美遊は正輝の脱退について、納得せざる負えなかった。イリヤと一緒に戦いたくないと追い返してしまい、もう正輝の助力も無くなった。

 

「美遊に、なんて顔で会えばいいんだろうな…」

『美遊様』

そう呟いた正輝の声も、ちゃんと聞こえていた。正輝だけではなくもしイリヤも戦いを降りるのならば、後は凛達と美遊の三人しか残されていない。それでも美遊は、

 

「あとは私達が何とかする…正輝さん、今日まで私達を助けてくれてありがとう。

だから…黒正輝もカード回収の最後の敵も必ず倒すから…‼︎」

 

彼に対する感謝と決意の言葉を呟いた。

最後まで力になれなかった彼の無念を晴らそうと、彼女か代わりにやり遂げると決心を抱く。

戦いを望まないイリヤと、無力を悔んで脱退した正輝の為に。

 

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