Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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67話正輝VS黒正輝(前)

「どうしよう…」

 

イリヤが不安になりつつそのまま家に帰ると、自分の部屋で塞がっていた。正輝と美遊の二人は、イリヤを巻き込まないためにこうしている間にも懸命に戦っている。

 

【イリヤは戦わなくていい】

 

正輝と美遊はそう言って、戦いたくないイリヤを置きざりにしたまま戦場に赴いていった。彼らの成すべきことの為に。

 

『…もう覚悟を決めているのでしょう。あの人の招いた問題を、もうこのまま自分で解決するつもりでしょうね』

「それじゃあ彼も美遊と同じように…でも」

 

イリヤも納得せざるおえなかった。

自分から凛に本心を告げたまま辞表を出して、それでやっぱり悔いがあったから今更関わるだなんて虫が良すぎている。

 

軽い気持ちで行こうとしたら、今度こそ二人は戦いたくないと言っておいて助けようとする命知らずな事をしたイリヤに対して激怒するだろう。やってきたことを抜けるというのが、そんなに簡単なわけがない。

 

正輝も抜けてはいたが、あくまでカード回収は住ませてもらう代わりの一部としての利害関係で彼自身の本命の目的は黒正輝を撃破すること。だからイリヤを巻き飲ませることなく、無事に家へと帰らせた。

 

『釈然とはしないと思いますが、あれが彼なりの責任の取り方なんです』

「うん…でもいいのかな。これで」

『良いも何も、イリヤさんがこれ以上戦いたくないって言ったんですから』

 

ーーーこれで、よかったのかな…

 

イリヤの心に僅かなシコリが残っていた。キッパリと凛に本心を明かしたのに正輝と美遊のことを考えているうちに胸が痛んでいる。

 

もう関わることもないのにそれでも凛達や美遊、正輝と間接的に関与して、守られている気がしていた。精々、二人が生きて帰ってくるのを待つしか出来ない。

 

「そう、なんだよね。そう言ったのは私なん…だよね」

 

イリヤは暗い気持ちになりながらも、風呂場に向かった。そもそも魔法少女の活動としていつも夜に出歩いたことでセラが心配していたが、もう今日で終わりにすると既に伝えている。

 

だから、もう怖い思いをすることもない。

 

「それにしても、久しぶりの夜のお風呂だね…」

『そうですねー』

 

イリヤは脱衣所で服を脱ぎ、湯に浸かってのんびりしている。そこにルビーもおり、落ち着いて呑気に雑談をしていた。

 

こうしてゆっくりして考えこともしながらも風呂に浸かっていた時に、誰かがイリヤのいる風呂場へと上がり込んで行く。

その人物は、

 

 

「やっほー!イリヤちゃん、おひさーっ!」

「ま、ママっ⁉︎」

 

イリヤの母親ことアイリスフィールが家に帰ってきた。風呂場にない物(ルビー)を見て、摘んでいる。

 

「何これ?おもちゃなのかしら?イリヤもまだまだ子供ねー」

「い、いやー…それほどでも」

そのまま彼女はイリヤと一緒に風呂に入る。ルビーの方は脱衣所に置、そのまま彼女も衣服を脱いで、すぐに親子水入らずで一緒にお風呂に入るのととなった。

「やっぱりお風呂は落ち着くわねー」

「と、ところでママ。随分急な帰宅だね?」

「んー?私が帰ってきたら不味いことでもあるのかなー?」

「いや、別に…」

 

脱衣所にいたルビーはそのままイリヤの部屋に戻り、母親が唐突に帰ってきてこのまま風呂に入ってくるとは思ってもなかった。

 

「仕事がひと段落したから私だけ帰ってきたの。切嗣は向こうで仕事中だから、すぐに戻らないといけないんだけどね。だから今はこうして愛娘との成ち…スキンシップを、ね♪」

「それにしても、過激だよ…」

 

アイリスフィールは、風呂でイリヤの身体に触っている。母親が子供の成長ぶりを確認するかのように。

 

「何か変わったことが、あった?」

「え?別に何も…」

「またまたー?あったでしょ〜?すっご〜く変わったことが!ウチの目の前にあったあの豪邸、あんなのが建てられてたなんてビックリしたわ。

帰り道を迷いそうになったもの」

(そっちね…)

母親が感づいてイリヤの変容のことだと身構えていたが建物のことを言われて、緊張して入っていた肩の力が落ちていった。

「セラから聞いたけど、あの建物にイリヤのクラスメイトが住んでるんですってね?」

「あ、うん…」

 

母親は興味津々にイリヤの学校に転入してきたクラスメイトのことについて話を聞く。イリヤが寝込んでいた時に、最初に会った時は冷たい反応であったが、次第に仲良くなってメイド姿で美遊が来て友達になったことも覚えている。

「美遊はね…」

 

イリヤが美遊と関わってどれほど凄かったのか、どんな人だったのかをお母さんに懸命に話していた。喋ることが苦手ではあったが、運動も勉強も凄くて一気にクラスで1番になったことも、一人でやり遂げようとしていることも。

 

娘は懸命に、学校でのことを母親に笑って話していた。

 

*****

 

『ふぅ…まさかイリヤのお母さんが来るなんて予想外ですよ』

 

一方のルビーはお風呂からなんとか自力で脱出し、イリヤの部屋にたどり着く。イリヤと同様に、母親が何の連絡も無しに帰ってきたことに疲れはしたものの風呂を出て浮遊している。

 

『そう言えば、正輝さんはチョコを渡す時に何か入れてましたね』

 

ルビーは正輝から手渡したチョコの袋を調べようとする。イリヤの食いかけで、歯型が板チョコに残っている。その板チョコを袋ごと渡しており、中身を調べるとチョコだけではないと分かる。

 

『まさかこれってっ…⁉︎』

 

袋の中身を確認し、中に入っていた複数の小包みを回収する。それを、後でイリヤに渡すためにと。ルビーは誰かが来るのを察知し、机の上で置物のまま動かないようにする。

 

イリヤとアイリスフィールの二人は風呂から出て、イリヤの部屋に入るこのまま長話をしても逆上せてしまうからと、部屋で続きを話すこととなっていた。

アイリスフィールがイリヤの髪を櫛で整えながら、美遊のことを話している。

「本当は心配でしょうがないんでしょ?それなら手伝ってあげたら良いだけじゃない。

どうしてそうしないの?」

「だって私は…上手くできないから」

失敗からの美遊の正論が、イリヤの胸に突き刺さっている。たとえ協力してもちゃんとできないまま迷惑をかけてしまうから手伝えないと。

「ねぇイリヤ。上手くできないってどういうこと?嫌なら話さなくても良いけど、聞かせてくれると、ママは嬉しいかな?」

 

イリヤは本来の事実までは言わなかったが、美遊と一緒に、二人でやろうとしてることに逃げたことを話した。最初は好奇心だったものが本当にピンチだった時に、どうにかしようとした結果責められてしまったことも。美遊と違って全然ダメだったから、そのせいでみんなに迷惑だったイリヤ自身の失敗のせいで取り返しのつかないことになることも。

「イリヤ、そんなに怖い?自分のせいで、失敗してしまうことの」

「怖いよっ…私のせいでみんなが大変な思いをするんだから、怖いに決まってるよ!」

「そう…それは確かにそうかもしれないわね」

誰だって二度目の同じ失敗は恐れる。そうしないために努力し、仲間の為に同じ状況になっても最善の対処をするようにしていく。だが、今のイリヤにはまだ美遊の本当の気持ちを理解していない。

 

「でもね、イリヤ。怖いのは、辛いのは貴方だけだと思う?美遊ちゃんだっけ?

勉強でも、運動でも、何でもできる凄い子。

けど、だからってその子は本当に平気だと思う?」

「それは…」

「どんなにすごい人だって、一人というのは辛いものよ」

【その子がたとえ何でもできるからといって、無茶してませんって言葉では言っても

 

結局のところどんな人間であろうが心まではやっぱり一人で大丈夫ってわけじゃないんだよ】

 

それは家に急いで帰る前に、正輝がイリヤに伝えた言葉と似ていることを思い出した。それでもイリヤはその言葉の意味を未だに理解できておらず、まだ腑に落ちない。

「でも美遊は平気って言ってた。私なんかいなくても一人でできるって…」

「本当にそう思う?」

一緒にするよりも一人で終わらせると、彼女は優秀な実力だけで為すべきことを終わらせようとしている。イリヤがいなくても大丈夫だとそう言ったが、美遊は話すことが得意じゃないから本心を伝えづらい性格だったこともイリヤは知っている。

 

「美遊ちゃんはそう言って、辛いものを全部一人で背負ってくれたんじゃないかしら?怖がる貴方の分まで」

「全部背負ってくれたってそんな…一言も私に」

アイリスフィールはイリヤのことも考えた上で、イリヤがいなくても美遊だけでやろうとしたことを終わらせようとしていた。辛いことから逃げて、美遊はこうしている間にも必死に戦っている。

 

「あらイリヤったらさっき自分で言ったじゃない。美遊ちゃんは喋るのが得意じゃないのかもって」

「でも、私…怖いよっ!また上手くできなかったら今度こそ大変なことになっちゃう!」

 

イリヤはここまで魔法少女として戦ってはいたものの、まだ幼過ぎる彼女が生き死に晒される恐怖や、そんな怯えている庇った正輝を助けようとしたのに逆に力が暴走して彼や美遊達を巻き込んでまで殺そうとしかけたことも鮮明に覚えている。

 

自分の失敗や、恐怖でまた誰かを傷つけてしまうのではないかと。

 

「じゃあこのままでいいの?イリヤはずっとここで立ち止まっていたいの?」

 

イリヤの頭の中でようやっと繋がった。美遊が冷たい言葉の反面にどんな気持ちでいたのか、彼女が戦うことに挫折したイリヤや戦力外通告されて辞退を止む無しに受け入れるしかなかった正輝の分まで一人だけずっと背負いこんだことも、母親の言葉でようやっと分かった。

だからこそイリヤはそんな美遊を

 

「嫌だよっ‼︎私だって手伝いたいっ…!美遊が私にしてくれたみたいに、私だって美遊の力になりたい‼︎」

 

かけがえのない友達だからこそ支えたいと強く思っていた。けれど、後一歩足を踏み出すことができない。失敗して、また迷惑をかけてしまうことを恐れている。

 

「それなら、もうやることは決まったじゃない。力になりたいんでしょ?

 

ねぇイリヤ、貴方が怖がるから美遊ちゃんが助けてくれる。

貴方は頑張ってるその子の力になりたいから、勇気を振り絞る。

それってすごく素敵な事だと思わない?

大丈夫よイリヤ。ママが保証してあげるっ、貴方は絶対に上手くやれるわ。

 

邪魔な恐怖なんてぶっ飛ばしちゃいなさい。貴方にとって美遊ちゃんは大切な存在なんでしょ?」

 

母親の励ましは、躊躇いつつも踏み出せなかったイリヤに、背中を押して踏み出す勇気を与えた。

少女は、また立ち上がる。

 

「ちょっと出掛けてくるっ!」

 

こうしてルビーを連れて、イリヤは美遊の元へ向かっていく。魔法少女をやることも、必要も無いとさっきまで考えていた。彼女の心の蟠りがあったせいで有耶無耶なままな気持ちなままではたったが、母親のお陰で一気に吹っ切れた。

 

『…⁉︎イリヤさん、正輝さんの反応がありませんっ』

 

魔法少女に変身し、まずイリヤを逃がそうとした正輝の反応を調べても出てこない。美遊のこともあるが、正輝が近くで戦って無事なら彼を助けたいと一瞬思ってはいるものの

 

【これはお前のせいじゃない、本来俺がやるべき事だったんだ‼︎だからさっさと行けっ‼︎】

(正輝さんっ…ごめんなさいっ!)

正輝のすべきこととにイリヤは関係しておらず、なんでここに戻ってきたんだと言われるだろうと後々考えた。助けたはずなのにまた戻ってきても、彼が身を呈して逃がしてくれたことが無駄になる。

『…どうしますか?』

「やるべきことは、もう決まってる!」

だからこそ美遊を選び、助けに向かった。

正輝が無事であることを願って。

 

*****

 

美遊達は、廃墟のビル内へと入っている。鏡界面は英霊の減少で狭くなっており、カード回収における最後の英霊ー『バーサーカー』を相手に苦戦していた。ゲイボルグで心臓を指したはずなのに、生きている。

「なんて奴…確かに心臓は貫いたはずなのに…撤退よ!あんな相手じゃ勝ち目がないっ!あの強さで蘇生能力付きだなんて滅茶苦茶にも程があるわよっ!」

「とにかく今は一度引いて、仕切り直すしかなさそうですわね!」

凛達の魔弾や宝石はあまり効かず、美遊の放つ魔力砲も効いていない。身体全体が対魔力ではなく、宝具(しかも蘇生能力持ち)になっているが故に、この狭い場所で戦うのは危険だった。

 

凛達は撤退を決め、離れたところでこの鏡界面から出ようとする。しかし、

 

『⁉︎美遊様、一体何を』

「これでいい。ようやく一人になれた…イリヤの時みたいに何かがあったら困るから」

美遊は、かつて暴走していたイリヤがステッキ無しでカードの力を手にした時のように英霊の力を手にする。

 

『クラスカード…』

「あの時、イリヤがやってみせたカードの本当の使い方」

 

召喚に用いる詠唱を唱え、杖をカードにかざす。敵は逃げていった美遊達を追いに来て、残っている美遊を殺そうと襲う。

 

ーーーーー夢幻召喚(インストール)っ‼︎

 

詠唱を終えると、【セイバー】のクラスカードから彼女の身に英霊の力が付与される。攻撃を防ぎ、敵の左腕を斬り落とす。

 

「撤退はしないっ…バーサーカーも、黒正輝も、全ての力をもって戦いを終わらせるっ‼︎」

 

ゲイボルグでも倒す事も出来ない怪物に、今度は騎士王の力を借りて打倒する。サファイアは何が起こったのかわからず、美遊に説明を求めていた。

美遊はイリヤがやってみせたように、カードによる英霊とのアクセスによってクラスに応じた英霊の《力の一端》を写し取って自分の存在を上書きする擬似召喚。まとめれば、【英霊になる】ということがカードの本当の力。

無限に生き返る敵が相手など勝ち目がないとサファイアは撤退を進言しているが、美遊は不死身であっても破格の能力なら回数に限りがある。

何度蘇ってもその全てを打倒すると、最初は美遊側がそのおかげで善戦していたが、

 

「まさかまた私達の邪魔をっ…」

『違いますっ⁉︎あれはっ…」

 

そこでまた黒正輝が介入した。しかし、美遊に不意打ちするわけではなく、英霊との距離を置いて宝具『射殺す百頭』を投影し、そのまま立ち去る。このまま加勢したところで黒騎士のように巻き込まれるよりも、英霊の手によって手短に美遊を撃破することを優先した。

『まさか…あの男は宝具を投影するだけではなく、他の英霊に譲渡できるというのですか』

「そんなっ…」

黒い狂戦士は彼が投影した宝具をそのまま手で持ち上げる。只でさえ、不死身に近い力を持っているのにその上黒正輝のせいで敵はもう一つ宝具を手にしている。

(そうだ、あの時だってあの黒い存在はっ…)

横から入って邪魔をしていた。もう一、二人はそれを防ぐ必要があったのに、完全に美遊が凛とルヴィアをそのまま転移させていったのが仇となった。二人なら入ってきた黒正輝に武器を渡さまいと爆撃できたが、彼女らはいない。

しかも、

(刃が通らない、この英霊は体表の硬度まで上げてる…)

斬られていた腕と、心臓部位が復活して耐性まで付け加えられている、

『こちらの攻撃の耐性をつけています…こんな怪物倒しようがありません!美遊様!お願いです撤退してください!このままではいつか必ず…」

「撤退は…しないっ‼︎」

美遊はこのまま戦闘を続行した。英霊の力であっても宝具が破格すぎて普通の攻撃では倒すことができない。バーサーカーは、黒正輝から貰った宝具を手に取り、美遊に向かって振り回す。下手に避けて当たれば一撃死、聖剣で防ぐことしかできなくなっている。

 

『美遊様!どうして撤退を拒むのですか!今日が駄目でもまた次に態勢を整えてから』

「ダメっ!」

それでも美遊は立ち上がり、聖剣を構える。

今の彼女には、そうしなければならない意思がある。

「今ここで、私一人で終わらせないと…次はきっと、イリヤが呼ばれるっ‼︎イリヤはもう戦いを望んでいない、私を友達って言ってくれたっ…!だからっ」

 

ーーー約束された勝利の剣(エクスカリバー)‼︎‼︎

 

美遊は宝具の真名を叫び、その聖剣が纏っている光を一気に放射する。かつてイリヤがその聖剣を投影した時と同様に一直線にその光が放たれ、狂戦士を倒そうとする。

 

たった一人でバーサーカーという強敵を、終わらせる為に。

 

*****

 

転生者結界を展開し、外部との連絡は遮断された。

その結界にいるのは正輝と黒正輝だけ。

正輝は粘り強く必死に逃げつつ、罠で嵌めようとする。黒正輝は正輝を全力で殺そうと魔術・宝具・神器…あらゆる手段で張った罠を強引に掻い潜り襲っている。

 

ある時は無名の剣の雨に対してBLUEで防いぐわ、偽・螺旋剣を放つ前に吊り男のタロットで麻痺させるわと、そんな駆け引きが1時間も続いていた。フレイムウイングだと空間の亀裂を作って飲み込まれてしまうが、姉からもらったアイテムのおかげで助かった。

 

罠は初見殺し並みものまで渡されており、落とし穴やら激流するような大量の水が頭上から降り注がれて、流されそうになっている。

 

イリヤと公園で話している時は明るかった空のに、時間が経つごとにだんだんと暗くなっていく。正輝は飛んでくる宝剣宝槍を避けていくことばかりで、防戦一方なまま呪符や罠でしか反撃ができない。

 

(クソっ…これは本当に不味いな。無理矢理身体をアイテムで強化させて回避しつつ、呪符を使って迎撃しているのに)

 

まるで自分の財布に残金がどれくらいあるかを懸命に確認するように、現状で目を凝らつつ使えるアイテムを逃げながら探す。その上策を弄なければ、逃げ回っているだけでは足元をすくわれてしまう。今は黒正輝の姿をちゃんと肉眼で見えているが、夜になると同化して見失ってしまう。

考えることを諦めたら、殺されてしまう。

 

(今のところシャドーを展開する様子は無し…とは言っても、戦う前から既に他の場所に移動させているとかだったら洒落にならんぞ)

 

黒騎士の時では黒正輝とはほんの僅かしか戦った事がなく、介入前の正輝と能力も全く同じなのか、それとも異なるのかが未知数なのだ。もしシャドーを使えたとして、黒騎士の時に発動したら正輝達を数の暴力で屠ることは容易いなはず。

が、それをしないということはシャドーの能力を使わないまま殺そうとしたのか或いは技そのものが使えなかったのか。

(どちらにせよ、脅威であることには変わりないが…何でこいつは動かないんだ?)

 

黒正輝はアイテムで凌ごうとばかりしているのを察し、立ち止まった。動けば罠に嵌り、宝具による攻撃しようとすればタロットで寸止めされてしまう。

なら、黒正輝は次の行動を宣言した。

 

『予定ヲ変更。分散サセタ【シャドー】ノ一部ヲ回収。回収分ノ人数ヲ加算サセテ岩谷正輝ヲ撃破スル』

(はぁっ⁉︎こいつ前までシャドーを使っただとっ⁉︎)

分身が6体出現し、正輝を囲うように移動していく。正輝はこの待つ時間の間に罠を仕込んではいたが、こればかりは流石に予想外だった。

 

「出せなかったんじゃなくて…既に出してたってことかっ⁉︎」

(てことは美遊達はともかくイリヤがヤバイっ…‼︎)

 

前までは黒正輝との距離をとって、仕掛けるチャンスか来るのを待っていただけでシャドーを使う様子もないのならイリヤも無事だと理解した。

だが、

(今ここで俺がこいつを仕留たとしても、その前にイリヤが殺されたら…)

もはやこの事実を知った今は一刻の猶予もない。こうしている間にも正輝が戦っている間、今度は命の危険にイリヤ達が晒されている。

 

「…もう、こうなったらやるしかない!博打のような賭けだがもうそれを頼らないと俺どころかイリヤ達も全滅してしまう‼︎」

負の力を用いることによって、今度はフォームモードを条件を無視して進化させる。まともに戦っても敵が宝具という出鱈目な力を持っている以上、勝ち目が無い。

宝具や投影魔術という切り札も取り上げられ、残ったフォームモードを頼りにするしかない。時間が経つほど不利になるのならもう自棄になったまま藁にしがみつくしかない、それが今の正輝にとって黒正輝を倒す唯一の武器なのだから。

 

「頼むっ!間に合ってくれっ…‼︎」

 

正輝はDダグスを展開し、急いで修復作業を始めた。精神への負担を覚悟の上で1stから2nd、その更なる進化(3rd)へと彼は黒い霧状に包まれて変化を遂げる。

 

だが、黒正輝もその進化を待ってくれる程生易しくはない。シャドーで黒い分身をもう一体増やし、投影魔術を使う。

 

これで、どの本体を叩けばいいのか分からなくなってしまった。一方の神器は黒く、もう一方の投影した聖剣は光を帯びる。

 

ーーー最後の劔(ジ・エンド・オブ・ソード)

ーーー約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

神器を振り下ろして飛ばされた黒い剣圧は、正輝と同様に空間を切り裂く。ちゃんと防げても、斬られた箇所があった時点で今度は空間そのものに殺される。騎士王の聖剣は消滅させるほどの破壊力を持ちあわせ、破壊の後は残骸1つも残らないまま敵を葬る。

 

正輝を、完全に、完膚なきまでに殺すために。

 

*****

美遊は聖剣の宝具を解放し、英霊を倒した。

そのはずだった。

 

「そんなっ…」

『美遊様っ…!』

敵は死なない。たとえ不死に限界があったとはいえまだ届かなかった。また変身する為に魔力供給をしようとするが、美遊の変身が解除され、サファイアももう片方の手で捕まえられている。

 

ーーまずいっ…⁉︎

今の美遊は転身することもできず、体は既に疲労しきっている。美遊が座り込んで動けないところにバーサーカーが突っ込もうとしたその時、もう一人の魔法少女は上空で飛翔し、魔力を刃に変えて敵の頭上から切り裂いた。

 

「イリヤっ…?」

「遅くなってごめん。美遊」

 

今まで戦いたくなかったはずのイリヤは、母親であるアイリスフィールのお陰で、ようやっと目が覚めている。

 

「どうして…戦いたくなかったんじゃ」

「私にとって美遊は、大切な友達だからっ!」

彼女の目は恐怖で戦えなかった時よりも真っ直ぐとしていた。斬られたバーサーカーの方は軽い傷で済み、反撃に出ようと今度はイリヤを標的にする。

「こっちっ!」

が、イリヤは落ちたサファイアを回収して何かを投げた。大量の白い煙が巻き上がり、美遊を連れて急いでこの場から立ち去る。

「…どういうこと。なんで敵は見えてるのに」

『詳しい話は後です!急いでください!』

 

イリヤ側は敵がちゃんと見えているのに対し、バーサーカー側は完全に見失って、追ってこない。しばらく敵から遠く離れた場所へと移動した。

「ここまで来れば、問題ないよね」

『イリヤさん、さっきのは』

「…正輝さんから貰ったんだ。これ」

公園で、正輝はイリヤを家にただ逃したわけではない。家や外で襲ってくることも考え、彼女にはホワイトチョコだけではなくアイテムである【投煙球】も渡していたのだ。黒正輝が聞き耳を立てくる可能性も考慮した上で、小さく袋詰めにして入れていた。口頭ではなく包み紙にペンで【もしも襲われて、その場から逃げる時に使用すること】と使用用途も親切に書いている。

『いや〜彼って本当に魔術以外にも色んなものを持ってますねー。それに気づいたのが助けに行く前の本当にギリギリで、彼に渡された板チョコの袋が妙に小さく膨らんでいましたからね。

 

私が興味本位で調べようとしたところ、どうやらビンゴだったようです』

「でも、あんな細かいところにあったら気づかないよ…」

『全く。正輝さんも口頭が不味いのはともかく…そのまま肝心な私達にまで気づいてなかったら一体どうなっていたことやら…』

 

助けに来てくれたのが今まで戦いたくなかったはずのイリヤだったことに驚いている。

 

「どうしてここに」

「ごめんなさい…私馬鹿だった。何の覚悟ないまま言われるがままに戦って、心の何処かで戦っても他人事のように思ったこともあった。こんな戦いが現実なわけがないって、目を背けた。でも、私にもその力があること分かったら…急に怖くなって」

 

彼女がこの戦いから避けても、ルビーを持っている限り非現実的な魔法少女の力を所有している。ルビーが凛ではなくイリヤをマスターとして認めてくれているとはいえ、その力は魅力的でもあり同時に余りに危険なものだったこと。

 

今の彼女は美遊の言葉の意味も、自分が何をしたのかを理解して反省している。

 

「でも、本当にバカだったのは…逃げ出したこと。友達の気持ちを考えなかったこと、美遊は一人で、私の分まで頑張って戦っていたのにっ…!

 

だから、ごめんなさい!もう遅いかもしれないけど…私はもう一度、美遊と一緒に戦いたいっ!友達が一人で危ない目にあっているなんてそんなの嫌だからっ‼︎」

「ありがとう…私もイリヤと一緒に戦いたい。友達と一緒に」

こうして二人と仲直りし、落ち着ける場所に落ち着く。ここまで少女二人は色々悩むことがあったが、こうしてまた二人で一緒に戦うのととなった。

肝心な敵のバーサーカーは煙が消えて、辺りを見渡している。イリヤと美遊を完全に見失い、その様子を二人は隠れて眺めている。

二人は、聞こえないように小声でどうするかを話している。

「えっと、ところで…凛さんとルヴィアさんは?」

『二人は脱出して、美遊様がここに残ってました」

「え、外にいなかったの?」

『反応を確認してたんですけど。やはり凛さんもルヴィアさん、正輝さんまで見当たりませんでしたね』

(…どういうこと。だって凛さんとルヴィアさん…それに正輝さんも⁉︎私のせいで…)

 

無事に脱出させたはずと、美遊はそう思っていたのだが他の敵と接触して戦っているすら報告がない。3人が黒正輝に殺されてしまっているのではないかという最悪なイメージを考えてしまうが、

 

(余計なことを考えちゃダメだっ!集中しないとっ!)

 

今二人にやれることとすればあのバーサーカーをどうにかすること。しかし、イリヤと今の美遊の二人でセイバー以上の敵を果たして倒せるかわからない。

(身体も震えが止まらない、頭も限界に近いのにっ…)

「美遊?大丈夫」

『損傷が激しいです。すぐに回復しないと』

唯でさえ美遊の身体は限界に近く、長い間休まなければ再起することもままならない。しかも、敵は宝具を二つ持っている状態で迎撃できるように待ち構えている。

(イリヤ一人に任せるわけにもいかないっ…どうすればっ…!)

回復を待って二人で倒すということもできるが、凛達と正輝の安否も考えてそんな時間の余裕もない。そんな時に、

 

ーーーやっちゃえ、バーサーカー

 

とイリヤに似た微かな声が聞こえる。美遊はイリヤの方を向くが、完全に視線は敵の方を向いていて口を固く閉ざしている。

 

「ねぇイリヤ、今何か言った?」

「えっ?私は何も…言ってな」

 

突然、別の方向から叫び声と地響きが聞こえる。

近づいてくる足音も次第に大きくなる。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️‼︎」

 

その狂戦士は黒正輝が渡したものと同様の『射殺す百頭』を所持していた。

 

「「…え?」」

(バーサーカーが…二人っ⁉︎)

イリヤと美遊の二人にとって、とても信じられない光景が目に映っている。凛達でも正輝でもなく、黒い狂戦士の英霊よりも、姿形が似つつハッキリしている巨漢の英霊が二人の助けに来るという、誰がこんな展開を予想しただろうか。二人は開いた口が塞がらず、二つのステッキはもう一体の英霊の乱入(しかも敵側と同じ英霊)というあまりの光景に驚いて声が出ない。

 

本物が果たして敵か味方なのか、イリヤ達にとっては分からないまま眺めるしか何もできない。

 

「こんばんわ、お姉ちゃん達」

「⁉︎だ、誰っ‼︎」

 

美遊達は後ろを振り向くと、そこにはもう一つ信じられない人物が立っていた。

 

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