「あのさ…余談なんだけど英霊って士郎のように努力すれば勝てるの?」
会議が終わった後、正輝がセイバー、アーチャー、メディアの3人を集めて順番に聞いていた。あのメールの内容や仕事に関して散々問い合わせ、最終的には曖昧な回答だったことに怒鳴りつけていたが、冷静に考えると神の思惑も理解しないまま何も考えなしままいつものように介入した正輝と、そのまま止めなかった仲間も迂闊だった。
仮に神が、百歩譲って正しいというのならばと。しかし、聖杯戦争を経験している三人は神の話を聞いても『そんなの絶対にあり得ない』と断言する。
「無理です。そもそも人と英霊では肉体的能力に差が開いています。それは凛や士郎もご存知なはずです」
「あの小僧が英霊と渡り合えたのは魔術あってのもので、仮にそれを身につけたとしても実際に奴は聖杯戦争で何回も死にかけている」
「宗一郎様のように屈強であるならば話は別ですが…まぁどこにでもいる一般人の努力程度で英霊と渡り合えるのなら、まず聖杯戦争そのものが長続きしないわね。仮にそうなったとして英霊に頼るよりも、魔術師同士で競う方が最後に英霊の望みではなく、自分の願望を優先して手にできるでしょ?
とゆうより人間で何とかできるのなら、魔術も英霊も要らないじゃないの」
3人とも普通の人間がいくら努力したところで英霊に勝てるわけがないと満場一致の返答だった。士郎に関しては父親に魔術を教えてもらっていたからこそ、魔術を会得したことで触媒による英霊召喚だけではなく最低限保身の為の力を保持している。
そもそもただの一般人が、魔術に関わること自体命取りなのだから。こればかりは卑怯も相手が人外かつ何も命がかかっている仕事なら、特典を手にしても仕方ないと納得している。
むしろ、神がそういった制約を正輝にかけてくること自体が歪だった。
「まぁ、うん。ですよねー…」
「で、これからどうするの?」
リビングには会議に集まってなかった人も含めて、全メンバーを招集するように連絡した。理不尽とはいえ正輝自体も進化して強くなっていたが、このまま神の悪戯なまま特典だけではなく他の手段まで封じられたら為すすべがなくなってしまう。
今は正輝だけだがその毒牙が仲間にまで及べば、いざという時に取り返しのつかないことになる。現状、【最悪の事態】をちゃんと考えてなければならない。
「…これからのことを考えよう。俺が無力化された時や、仲間の危機のことも。
俺達みんなで強くなるんだ」
「でも、もしもの状況なんて幾らでもあったでしょ?
ぶっちゃけさぁ…そんなんでいいの?」
正輝自身がいくら強くなっても、仲間も連れていくのなら狙われる可能性がある。ロープ陣営を倒せなくても抵抗できる程の力をつけなければならない。
しかし、その方向性で対策するなら
「正輝、あんたはまず運動神経もそうだけど、魔力も高めることね。まず特典をオフにしないとダメだから、特訓する際は気をつけて」
早速凛は、嶺が考えたトレーニング方法を印刷し、それを正輝に渡す。既に神の話を正輝達だけではなく嶺も加藤も情報を流していた。その上で、対策をみんなで練っていくために互いに協力している。
「事務はこっちでやっておくから、アンタはこれを頑張ってね?」
「…は?えっ?」
ーーーー特訓スケジュールーーーー
・1日一食、宝石を必ず食べること
・セイバー等の英霊相手に1時間試合すること
・アーチャーと士郎に魔術と生成する投影物を評価してもらうこと
・シャドーの精度を上げること
以上
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…え、これマジ?」
「うん、マジで」
「いやいや、だってこれやるのって絶対努力家な衛宮こと白沢だから出来るんだろ?」
ロープ陣営を相手に、このスケジュールを何日もやらなくてはならない。
「悪いけど、俺じゃないんだ」
「え?…ならこれ考えたの誰?」
「君の姉だ」
(え、でもこんなことでいいのか本当に?)
姉から教えてもらったトレーニングは、見れば簡単そうに思えてしまうと正輝は思っていた。が、いくら努力家でもある士郎であっても内容から察して苦い顔をしている。正輝は体験してどれだけ大変なことかが、ようやく理解するまで気づかなかった。
****
正輝は朝食前に、トレーニングルームにて修行している。
まずシャドーの精度から高めた。特典をオフにし、1st formの無能力で30体、加えてクラス付きだと1か2体くらいが限界になる。
「厳しいな…」
実戦での試合を受けていた。特典をオフにされている正輝でも、セイバーの猛攻を目で追いつつなんとか防いでいる。お互い竹刀で打ち合っているが、防戦一方でスタミナ切れになると気が緩んでいく。
「始めにしては上出来です。ですが、士郎よりは疲労するのが早いですね」
(まぁ…平行世界のイリヤ達と一緒とはいえ黒セイバー相手に助力していたとはいえ体力がそこまで使わない技ばっかりだからな…)
「と、ところでさ…まだ続くの?腕時計は部屋に置いてきてるから時間が分からないんだけど」
「あと30分です」
「…ごめん、もう一回言ってくれ」
「だから、あと30分です」
「嘘でしょ…」
正輝は相手にするのに必死で、時間が分からなかった。士郎が聖杯戦争の間にずっとセイバーとの稽古で剣を打ち込んでいることに尊敬している。
「ねー。正輝がセイバーに追いついたら、今度はバーサーカーにも手伝ってもらおうかな?」
(いやいや無理だから!どう考えても特訓にならないからね!)
「流石に今の正輝にバーサーカー相手は危険すぎます」
イリヤが面白半分にバーサーカーにも参加させようとするが、厳しいからやめた方がいいとセイバーが反論する。疲れている正輝でも、声は出せなかったが心の中で無理だと首を振っている。
「では、休憩が終わったら他の人との特訓もお願いします。アーチャー、凛…こちらは終わりました」
「え」
「ごめんねー、セイバーさんだけじゃなくて私達の方も加わることになったから。凛さんからは正輝の方はまだ特典抜きなままでよろしくって」
セイバーとの特訓が終わっても今度は他の人との特訓も用意していた。正輝だけじゃなくて他の仲間を鍛えるということから巴マミ、立花響、レイナーレ、ミッテルト、浜風の五人からまず鍛えていく。
五人とも正輝が特訓している間に、アーチャー達とキャスター達四人を相手に戦っていた。
正輝との特訓の間に仲間達の特訓は英霊を相手にしている。
正輝同様に特訓はかなり厳しいものだった。
(み、見えなかったっ⁉︎)
「響さん、援護しまっ…え」
「遅い」
数が勝っているとはいえ、開始早々に先手を取った宗一郎の格闘技で響の拳技を発揮する前に翻弄する。
レイナーレとミッテルトは、すぐさま上空に逃げたがアーチャーに狙撃されてしまう。キャスターの魔弾でも、光の壁は数発受ければ脆く崩れてしまう。
「そら、並大抵での壁では防ぎきれんぞ。上に逃げても油断するな」
「ギャーっ!姐様助けてっ!」
「無茶言わないでよっ!」
マミは、この状況を打破する為にリボンで拘束魔法で捕らえようとするが、宗一郎はそれを力技で破ってしまうことに驚く。
(不味いわね…このまま私達に考える時間を与えさせないつもりだわ)
(響さんは相殺されて…私とレイナーレさん二人に攻撃を向けてるっ)
その上凛の魔術も加え、統率を取っているレイナーレはアーチャーに、マミはキャスターに集中的に狙われているが故に負け試合だった。
*****
仲間も、英霊との戦いから反省して正輝と一緒に特訓している。
大抵の英霊は生きていく中で、色んな壁にぶつかってきたが、それを恐れはしなかった。
悲劇もあれば、喜劇もあっただろう。それでも己自身の力を信じ、生前で培ってきた知能と武具を兼ね備えた。
正輝だけが強くなっても、仲間も無力にならないようにとこうして努力している。
「て、手加減はするから安心してね?」
「レイナーレ達はそう言っているが…侮ると少々痛い目にあうぞ」
こうして5人ともしごかれているせいで、その分正輝との訓練で互いの成果を発揮する。
響は接近して正輝に考えさせる時間を与えないように動く。マミと浜風は響の後ろで援護し、レイナーレとミッテルトの二人は支援という形で連携を取っていた。
「…大丈夫っスか?」
「全身筋肉痛に決まって…あいででででっ‼︎‼︎」
正輝の身体は疲れ果てて、自室のベッドで寝転んでいた。
まず装者となって変身した響に殴られると防ぎきれずに吹き飛ばされ、マミは射撃が格段に上手くなっているおかげで手が出せずに浜風が先読みして砲撃されてしまう。
レイナーレは光の壁と目眩しの光、拘束系の鎖まで展開でき、ミッテルトは光の槍を小さくさせて色々な散弾(弾幕)を発射させて追い詰めた。二人ともその光を使用した時は、二人以外の仲間の傷も癒す付加効果をつけている。
(みんなして強いな…)
特訓が終えた後は身体がガチガチになって動けない。無理に動かせば激痛が走り、悲鳴を上げている。正輝はレイナーレ達に湿布を張られて長時間、そのまま動けずじまいだった。
*****
昼頃ーー魔術特訓(アーチャー、士郎、凛係)
正輝が少なくとも復活し、宝石のカケラを少しずつ飲んでいる。魔力もまた特典による影響もあるのなら正輝の魔力を高める為には単純で、必要不可欠な方法。士郎もまた、聖杯戦争始めに弱かったが故に強くなろうとこの道を辿ってきた。目隠しされた正輝は士郎の指示に従って机の上に電子レンジを触り、集中している。
「それじゃあその家電製品の解析結果を言ってくれ」
「あーうん。電源コードと配線は問題ないけど、中身が痛んでるな。螺子も緩んでいるところもあるし、壊れてるわけじゃないしまだ使える。
素材は耐熱性をつかって…スイッチ形式じゃなくて捻って加熱させるタイプか?
形は電子レンジ…で、合ってる?」
「耐熱素材に、形とコードは合ってる。けど、中身はそこまで痛んでいないし、螺子もいたって問題ないからな。俺もあいつには基本骨子が甘いって言われたが、このまま順調に努力すれば解析が上手くいくから頑張ってくれ」
「あ、ハハハッ…」
正解なものもあれば、間違いの方が多い。
こうして目隠しすることでなんの機器を調べているのかを把握させるために電子レンジだけではなく、水で壊れた携帯電話や中古のゲーム機にもこの方法で調べさせている。
(ほんっと。士郎は剣もそうだけどさ…物質の構造はかなりちゃんとしてるよな。
それに比べて俺の方なんて。
まぁ…これからだな)
黒沢くんの特訓ーーー
「よっし、一発で剣が投影でき…うわぁぁぁぁっ嘘だろぉぉぉっ⁉︎」
正輝は見よう見まねの無銘の剣を投影したその直後に、風だけで簡単にポロポロと崩れていった。今度は剣のような大きい物ではなく、小物のカッターを投影したら刃の部分が地面にポロポロと落ち、割れていく。かといって鋏でさえ投影しても何回か使っていくうちにすぐ壊れてしまう。
「剣を投影しても…木の枝だけで簡単に壊れている。話にならんな…これで、50回目のやり直しだ。まずは紙のような斬れやすい物で試すところから始めろ…本題はそれからだ」
「もういやだあぁぁぁぁっ…‼︎」
また特訓で疲れきった正輝がベッドに入って何時間も寝転ぶということを繰り返されていた。
*****
正輝がセイバーの特訓から、今度は暁美ほむら、佐倉杏子、キャスターが召喚した竜牙兵、風鳴翼、雪音クリスで戦うこととなった。
「はーっ…この特訓を続けて1週間か」
「進展はあるけど、少しずつだったみたいだね?」
まず、シャドーの召喚数は30から100体と二倍以上に増えるようになった。英霊並みの強さを与えると3体増加して最大7体に成長していた。
シャドーの精度がより向上したものの、複雑な気持ちではいた。
(本体である俺よりも…分身体が上回っているってなんか複雑だなぁ)
セイバーとの訓練で短い時間とはいえ身体が追いつくようになり、仲間内との訓練も為になった。運動神経は英霊の動きにギリギリで追いつけているお陰で、宗一郎のように1stフォームでも英霊との通常戦は数分間だけ対応可能になった。
士郎の同調解析も向上し、前まで剣が壊れるごとに黒沢ことアーチャーに失笑されてイライラしていたが、石の投影には成功できた。投擲で壁にぶつけても、石は壊れずに原形をとどめている。
特訓による成長は、進んでいる。
「まだ三日坊主になってないんだから、嫌々ながらもやってるんだろ?さやかもお世話になってるし、お前も中々しごかれたんじゃね?」
「まぁな…敵に弱点を突かれたりでもしたらお終いだからな。だからこそまず、俺も仲間も強くならなきゃいけない。
そういえば聞きたいことがあるんだけど…船内が広くなったとが言ってたがこれ、どうなってるんだ?」
船内の地図を携帯で確認するが、今までは部屋割りだけしか載っていない。船内の構造や外側がどうなっているのかは正輝も他の仲間も分からなかった。
「あたしらも、さっぱりわかんねーだよ。今まで部屋割りの地図だったっつーのに」
「いやでもさ…なんでここまでやるんだよ?ここまでする必要はないだろう…」
神が改装したのは元あった場所だけではなく、いくつもの空き場所がパイプのラインのように繋がれている。
訓練場所並みの広い場所が用意されている。
新しく用意してくれたその場所に何か置かれているというわけではなかったが、正輝にはそれが酷く不自然に思った。
会議する前、既に改装部分と船全体の設計図がメールに送られている。当初は人に4、五人入るくらいの小型船だったのが、今では1000人くらい入れるほどの大型船みたいに広くなっている。過去は人員が少なく、後々に人数が増えて、バーサーカーという巨漢まで仲間になったとはいえ、いつも使用している場所を広くさせただけではなく階層用意してくるとは思いもしなかった。
現時点で船の外側は見えず、神から送られたメールによって船橋の部分に正輝達は住んでいることだけしか分からなかった。
「なぁ、士郎の特訓が終わったら船内にある層を…俺のシャドーで散策するってのは可能か?」
「その前に貴方が特訓中、私達がその部分を調べようとしたら真っ暗で何も見えなかったわ…士郎達に頼んだわ。彼がペンライトを用意して下に落としたけど…底が深すぎてダメだったみたいね。
散策は後からでいいわ」
そこに何があるのかを調べようと正輝よりも早く仲間達が動いたが、触れようとしたら余りにも危険過ぎて手が出せなかった。
船の階層がどれくらい深いのかという詳細もない。船自体が少なくとも神の力で用意されたものは確定ではあるが、無闇に正体不明の階層に飛び込むのは危険極まりない。
こうして神の連絡が未だに来ないまま、また依頼が来るまでは正輝達も、嶺達も特訓は続いていた。