罪を背負う王
{それはまだ、正輝がプリヤの世界で奮闘している間の話}
「あの連中の手掛かりは無し…か」
竹成は正輝と嶺の情報からロープ陣営を調べていた。敵組織である殺者の楽園や、どれにも属さない転生者の他に正義側と渡り合えるイレギュラーが存在するとは思っても見なかった。彼らが割り込んでくれば、今後の展開で起こる事件はそう簡単に済ませてくれない。
加藤は白紙の紙に、まとめていく。
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・青ロープ
主な攻撃手段は錬金術と、キメラ錬成での奇襲。
人が多い場所であっても躊躇なく奇襲してくる事例もあり、油断して劣勢になると逃げ出す。今のところは仲間でもどうにか対処できふ敵であるが、まだ手札を隠し持っている可能性と周囲の被害のことを考えれば脅威であることに変わりはない。
警戒を怠らないに越したことはない。
・赤ロープ
正輝と同じ投影魔術を使用するが、お互いに正々堂々真っ向から相手しても勝つことができなかった強者。最初は、風鳴翼に変幻して響の背後を狙い腕を切断。次にウェルに加担し、響の親友である小日向未来に正輝達の船内での記憶をなんらかの方法で見せることによって、愛と憎悪に満ちた装者となったまま正輝と殺し合わせた。更には連絡妨害を解除させ、救援で嶺に戦わせるように仕向けたのも赤ロープがやったこと。同盟と人間関係の不和を逆に利用し、正輝達を罠に嵌めたといっても過言ではない。
正輝以上の実力を持つ危険人物なため、接触した際は退避。しかし、今後のライダーシステムの向上次第で再検討していく。
・黄色ロープ
通信妨害及び撹乱の大戦犯
異常状態無効と物理魔防反射といった自衛を徹底している。完全に無敵状態であり、あらゆる攻撃を遮断している。
ただし、ロープの二人とは違い、自分から物理的に手を出してこようとはせず、催涙ガスで正輝の仲間達を無力化させた。
赤ロープ同様に脅威度は高く、すぐさま退散すること。
現状、攻略不可能。
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「なんでこんな強い連中が…前触れもなく急に現れたんだよホント」
正輝達とFIS事件で起きたロープ陣営3人による情報を纏めると、正義側並みの強さを手にしている。青ロープも対処できるとはいえ、懐には必ず切り札を持ってないとは限らない。
(まぁ、こんな感じにまとめたが…分かることとしたら…今の俺達だとこいつら相手に俺達で立ち向かうのは危険だってところか。あの正輝達でさえも苦戦を強いられたしな…連中は能力も桁違いに強いし、今の手札じゃ勝ち目がない。
同盟同士で協力し合ってても倒せるかどうか…こっちの手にハイパーゼクターさえあればまだ勝機があるかもしれねぇけどよ…)
まず加藤は、龍騎達のベントカードから考えていた。正輝の仲間であるほむらが実際に時を止めても黄色ロープには効果がなかったから、タイムベントは効かない。黄色ロープ以外の二人も時止めの対策をしている可能性もある。
龍騎達の持つベントカードにはコンファインベントやフリーズベントという敵の技や魔法等の能力を無力化できる力を持っているが、これまでの戦いで手の内を明かしている以上ロープ陣営相手に効くかどうかも怪しくなる。
もしハイパーゼクターを手にしているなら、クロックアップの上位であるハイパークロックアップならば光の速さだけではなく未来や過去おも越えることができる。
ロープ陣営の誰か一人でも脱落させれば、脅威も減るのではないか。
「そうなると、一番厄介なのは…穿つ槍をも諸共しない、むしろどんな攻撃も跳ね返す最強の防衛持ち…か」
クロックアップの光の速さだけで打ち勝つかもしれないという希望もあったが、黄色ロープだけは、いくら速度があってもまず攻撃が通らない。
「今のところ…俺達の持ち得ている力じゃ打つ手なしだな」
竹成は考察していると、扉からノックする音が聞こえる。
「入っていいか?」
「おう、いいぞ」
部屋に入って来たのは新だった。
彼は苦い顔をして、竹成に聞く。
「…連絡は来てるよな」
「あぁ、メールには事件解決ってだけだがよ。けどよ」
どの世界に行くのか、介入時の制約があるのか、物語(原作)を観れるのかを見た結果、肝心な目的が余りにも大雑把で、こんなもので良いのかと困惑している。物語の問題解決に助力することや楽園の討伐というわけでもない。
(進展のみって…本当にそれで良いのか)
制限も書かれておらず、何をしたって許されのは介入しても気楽に自由奔放になれるかもしれないが、逆にそうである分良からぬ事が起こりかねないと二人とも疑心に思う。
「絶対何かあるよな」
「どう考えてもあるでしょこれ」
「「ハァ…」」
神からのメールには介入する世界の原作は見れず、介入後に何があるすら全く知らない。
今回の案件が余りにも簡潔だが、肝心な情報提供が余りに少なすぎるせいで、その依頼に潜む闇が奥深そうだと危機感を持っている。
(楽園だけならともかく…ロープの連中が絡んでくるのか?それとも…)
その任務にはメールの時点で必ず裏がある事を察したが、どんなものを仕掛けてくるのかは介入していない以上はわからない。
『加藤だ。さっき送られたメールの件についてなんだが[その案件を返答することは出来ません]…おいおい、マジかよ』
電話で神に問い合わせても、メールの内容を一切何も教えられなかった。調べようがない以上もう出来ることとすれば、そのメールの任務を受け、次なる世界へと向かうしかない。介入する世界の名は
「ギルティ…クラウン。
翻訳すると、罪の王冠か?」
名前だけを辿っても、結局どんな世界なのかがイマイチ分からなかった。魔法や魔術という特徴的なものがあればそれが関わる為のヒントになるが、漠然としたものでは竹成もそれがどう繋がっているのかが分からない。
「やばいと感じたら仲間を連れてくる。
その間は俺一人で探索に向かう」
「くれぐれも無理はするなよ?」
罠かもしれないが、介入しなければ何も始まらないとその世界へ転移するしかない。
偵察のため、まず竹成は一人で向かうこととなった。
*****
「さてと、介入したのはいいものの…まず自分達が何処にいるか確認しなきゃな」
加藤達は空き家に転移され、周囲の確認をする。そもそも地図もないから、そもそも何処にいるのかも検討がつかない。なんとかして情報を得るべく、この場所に住む人に聞きこむ為に家を出て探していたが
「全く人が見当たらねぇ…たくっ、歩き回って聞き込みするしかないか」
周りを歩いていると学校らしきものが見え、そこに人がいないのかも確認する。校内では生徒達が機械のような形をしたものをそれぞれ手に持っている。彼らの服装は体操服(作業服代わり)の着用、頭にはヘルメットを被っている。どの生徒もみんな別々の機械を持っている中、一人の女子生徒が紐状を操作し、壊れた機械を直した。
機械の電源を入れると、正常に動いている。
(この世界って….あの機械を操作して壊れた街を直していく復旧作業か何かか?)
もしそうなら、王、罪、機械の三つの題材にした物語へ入ったことになる。学生でも人がいたお陰で、なんとか情報を得られると学校に入る前に声をかける。
校内に誰もいなかったのなら問題ないが、関係者でない人が学校等の区域内に無断で入ろうとしたら危険視される。
「あの!すみませ…⁉︎」
彼らに声をかけ、許可を取って校内に入ろうと呼びかけたその時、男子生徒の頭上に直立した鉄骨が落ちている。
気づいた竹成は声で呼ぶ前に全速力で走りぬき、生徒を助けようとする。
「危ねぇ‼︎」
「えっ、うわっ⁉︎」
命からがら救出し、落ちてきた鉄骨は落下によって地面に埋もれている。見ていた生徒達は青ざめた顔をしており、その場から離れていく。
「おい、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」
(なんで鉄骨が…?)
助けた生徒にお礼をもらいつつも、不自然な場所に鉄骨が落ちてきたことに違和感を感じた。その鉄骨が老朽化して、部品が落ちてしまったというのならまだ分かる。だが、この学校の辺りには鉄骨らしきものはなく、落ちた鉄骨も老朽化しているというわけでもない。
大嵐による影響でもない限り、いきなりなんの前触れもなく学校の空の上から鉄骨が降ってくるなんて土台無理な話だ。
となれば、残る可能性とすれば
(手段は全くわからないが…人為的な可能性が高いな)
誰かが鉄骨を上空に飛ばし、ここに落とした人物がいるかもしれないと警戒する。校内にいた人達が、騒ぎを聞いてぞろぞろと集まっていく。
「一体何の音だ?」
「集!大丈夫か‼︎」
ザワザワと騒ぎ立てている中、一人声を出してまとめようとしている人がやって来る。今のところは鉄骨が垂直なまま突き刺さっているが、これが騒ぎで集まっている生徒達に傾いたら下敷きになってしまう。
「うん、僕は大丈夫。それよりこの場から離れるようみんなに伝えてほしい」
「あぁ、分かった!」
何人かが危険だから離れてと伝え、集まった生徒達は様子を見た後にぞろぞろと去って行く。
集という人が、加藤に近づいく。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「生徒を助けたとはいえ、無断で学校に入ってすまなかった。本当は入る前に、ちゃんと生徒達に声をかけるつもりだったんだけどな。
一体全体ここで何が起きてるのかが分からない。何か知らないか?」
(え、何も知らないって…なんで)
何が起きたのかも知らない男性に集は困惑しながらも、根が優しい彼はどんな状態になっているのかを説明する為に場所を移動する。
「とにかく、ついて来てもらえないでしょうか?
僕は、桜満集っていいます」
「加藤竹成だ…ありがとう、助かる」
ここで竹成のことを問いただすよりも、この学校をまとめている人達と合流し、互いに話した方が話が早かった。
*****
会議室まで加藤を連れて行きつつも、加藤は校内にいる人達に目を向けている。大人が誰もおらず、どこを見てもこの学校の生徒達だけしかいない。
「学校にいる先生は?なんでここには生徒だけしか」
「分からないけど…先生達自身で精一杯なのかもしれない。ここに残っている生徒達は帰りたくても帰れない状態にいるんだ」
「なるほどな…先生は保身か或いは限りあるものを守っていくのが精一杯。行き場のない生徒だけしかこの学校には残らなかったってわけか」
「多分…」
大人は学校の外にいたとしても、全く姿が見えない以上多くの生徒がまだ自立していなければ、不安と恐怖に怯えている。この状況が続いているのだから、他の学校の生徒達も必ず集まっている。ではなぜ、生徒達が学校に集まるのかというのは、もう少し彼と話をしなければまだ分からない。
会議室へとたどり着くと、すでに他の人が話していた。
「八尋…他のみんなも」
「集か、今落下のことを説明しているところだ」
そこには集以外にも車椅子と猫耳のカチューシャをつけた女の子もいれば、普通の学生もいる。八尋という男が集のバックアップをし、既に鉄骨落下の件を生徒会室に集合させて他のみんなに説明していた。
「にしても驚くよね。
鉄骨が落ちてきたーなんて」
「幸い怪我人は出なかった。今は、あの場所には立ち入らなせないように封鎖させている。地面に刺さっているけど、それが倒れて下敷きになったりするからな」
何で空から学校めがけて鉄骨が落ちてきたのっていう反応だった。余りにも不自然、目的もなく前触れもないまま鉄骨が偶然生徒の頭上に落ちてくるという不可解な事故に困惑している。
「ところで、その男は誰だ?
ここに連れてきたのか?」
「あ、この人は加藤竹成さんって言って…生徒を助けたんだよ」
「よろしく。今この現状で何が起こっているのか俺には全く分からないから…話を聞こうってことでな。
あと、鉄骨の件に関して…個人的な意見になるけどよ。少なくともあれは人為的だ。
誰がやったのかも、何が目的なのかは皆目検討がつけねぇけど…嵐もなければ、この学校に工場みたいなのが近くにあるわけじゃなかった。
方法については皆目見当はつかない。
でも、何もない場所に鉄骨が降ってきたなんて誰だって不自然だって思うだろ?」
状況証拠だけではあまりにも不十分すぎる。
ここにいる生徒達は警官でもなければ、探偵でもない。自然災害、不可抗力の事故が起きたようなものだ。
「それじゃあ、何が起きたか教えてほしい」
「うん、分かったよ」
こうして、竹成は集から介入前の情報を得て、事の次第を聞かされることとなった。
この地域は今でもなお、感染地帯として封鎖されている。
まずGHQという国家の行政と意思決定を決める組織が都市隔離宣言を発令し、過去に起きたアポガリプスウィルス大感染により都心が封鎖されることとなった。ネット、電話は繋がらず、テレビとラジオは沈黙している。
介入する前まで、彼らの住む東京は外がどんな状況なのかすらも分からないまま隔離され、遮断されていた。人々は各地の避難所に集まって暮らしており、学校に残された生徒達も家族と連絡が取れない。封鎖地区外に家がある生徒達は帰れないまま、滞在するしかなかった。
本当ならGHQからの報告では早期に封鎖が解除されるはずだった。が、テレビが映るようになったと思ったら封鎖内には重度のキャンサー化しかいないと判断し、GHQと臨時政府は救助活動を停止。
封鎖の解除どころか、完全封鎖となった。
生徒達全員がその事を知って混乱し、帰りたいと悲鳴をあげる女子生徒もいた。生徒会長も、集が長い間やってたわけではなく当初は供奉院亞里沙がやっていたが、言葉による鎮圧も虚しく、状況が悪化していく以上その責務を降りるしかない。
アポカリウスウィルスの撲滅の為に、再生のための浄化として感染した人を片っ端に殺していく。更には隔離区画の縮小のため、赤いラインより外に出ようとした場合は無警告で浄化処理される。
その光景は、正しく地獄だった。無抵抗の人間を冷酷無慈悲に滅多打ちにし、縮小するごとに建設されたビルも人も破壊していく。
虐殺、蹂躙、そう言われてもおかしくない。
赤い枠を越えた人間は、感染者とみなして即座に抹殺される。その頃になると学校のローカルサイトだけがジャミングから解放されて自由に書き込むことができた。しかし、縮小が始まったと同時に嘘の情報が書かれて生徒達が一度暴動を起こした。
生徒会長では止められず、校内にいる特定の人物を差し出せば、助けられるというデマを鵜呑みになってしまう。混乱した状況を集がヴォイドの力をみんなに見せた事で、その情報が全くのデマだった事も、政府を頼っても無駄だったことも証明された。彼は今後生徒会長になる人はみんなが助かる方法をちゃんと考えて欲しいと発言するが、逆に集自体が八尋に会長を勧められ、みんなにも拍手で賞賛されたことから集が生徒会長をするようになった。
そして、みんながヴォイドを使うようになり現在に至る。
(つーことは、ここに住んでいる連中は相当ヤバイ状況に今いるってわけか。
ネット環境もこの学校だけが解放され、実際に葬儀社を差し出せば助かるってデマも流れていた…如何にも仕組まれたって感じだな。
あと、そのローカルネット自体…絶対今後も悪影響を及ぼすだろ。
でもまぁ、とんでもない世界に介入しちまったな。これで俺以外の連中が何人も出てきたら…収集できるのかよこれ)
彼らの今いる場所が只でさえ絶望的な状況なのに、加藤のようなロープのような危険な敵がこの世界に出現したら、そう考えてるも竹成の頭が痛くなりそうなことだ。
「なぁ、気になってたんだが。作業しているみんなが持っているの…あれって機械なのか?」
「あれはヴォイドっていうんだ」
「…ヴォイド?それって一体どんな」
「そこまででいいだろ」
ここに来て情報を得ることがどれくらい大事なことかと、知らないことを次から次へと質問する。ここまでは集がちゃんと答えてくれたが、それを寒川が遮った。
「喋りすぎた。まず、こいつを信用していいのかどうかも怪しい」
「でも、そんなに悪い人じゃないよ。
生徒を命がけで助けようとしたし」
「そうだよ…」
「だったら何でこの現状を全く知らない。この男を俺達が連れてきたせいで面倒ごとに巻き込まれた可能性もある」
「そんな言い方ないだろ!
本当に知らないってことも!」
内気な女子、眼鏡をかけている女子が竹成を庇い、短髪の勝気のある男子が反論している。しかし、八尋は竹成が生徒達を助けた事で信用を得ようとし、実は知らないフリをして学校にある情報を他の人に売ろうとするスパイかもししれないのかと疑っていた。
「確かに俺が無実っていう証拠はないだろう…疑われて当然だ。でも逆に、鉄骨を落とした犯人なのか、それに関わっている明確な証拠だってない。
言い切れる確証もなく、半信半疑なまま。
監視されても文句は言えない。
俺が怪しまれるのもわかっている。
ここにいる人達なら、この現状を知っているはずなのに知らないっていうのもまた不可解だからな。
だから、少しでも信じてもらえるように俺もあんた達の活動に協力させてくれないか?」
「でも…」
「口だけじゃどうにでもなる」
協力させてほしいというが、安易に口約束で守れる訳がない。竹成一人を入れるということは、ワクチンの残量や食費のことも考えなければならない。
そこで亞里沙が、ある提案をした。
「本当に協力するなら、この男のヴォイドも見せてもらおうかしら。
役に立つヴォイドなのかも知れないわ」
「…え?いやでもどうやって」
ヴォイドを見せてもらう、その言葉に竹成は困惑する。八尋は棒状の機械を手にとって加藤を調べようとしている。画面には数値が出てきており、それを確認したかのように目と頷きでコンタクトをとる。
調べられた竹成には何をされているのか全く分からない。
「?何やってんだおまえら?」
「まぁまぁ」
「じゃあ集、頼んだわよ」
集が近づくと、竹成の心臓部分が突然青く光っていく。手を突き出すと、
「え、うぉぉぉっ⁉︎」
「その…ごめんなさい驚かせて…これが僕の力なんだ」
竹成の胸からヴォイドを取り出し、それをこの場にいるみんなに見せた。ランクヴォイドはAクラス相当の数値、加藤の胸から結晶体の狼が出現する。
だが、取り出した狼は全く動かない。
「…で、どうすれば良いんだ?
全く微動だにしないぞ?」
「あの、これってリモコン?」
集が狼の肩にある装置を取り外すと、起動した。ステックやボタンを入力するとラジコンのように移動や、ジャンプといった動作ができる。
「うわあっ…⁉︎」
集がまた別のボタンを押すと、狼が遠吠えをあげ、10匹ぐらい召喚する。本体は額に六角形の結晶が付けており、見分けれるようになっている。そのボタンを押し続けても、狼はこれ以上増えなかった。
「…これ以上増やせないや」
「どうやら…分裂するっつても10匹が限界だな」
「ねぇ集?それ貸してもらっていーい?」
「えっ⁉︎綾瀬に、ツグミまで」
今度はリモコンをみんなで交換しながら、狼を操作する。操作されているのは本体のみで分身した狼は寛ぎ、ぐったりとしていた。
(なんか、俺のヴォイド…みんなからオモチャにされてね?)
「おお、こいつこんな動きができるんだ!面白れぇ!」
「ちょっと!一応人のヴォイドだから丁重に扱わないと」
狼が立ち歩きしたり、バジリスクダンスしたりと趣のある動きでみんなを楽しませていた。視点操作は画面のみでロボ本体だけではなく分身も確認でき、ゲーム感覚でやっている。
「まぁ、取り敢えずそのヴォイドが役に立てるってことが分かったよ」
「加藤さんは入れた方が絶対いいと思うよ。
自分の潔白を証明する為に、みんなの役に立てるのなら」
「確かにそうね。これなら外の状況を安全に見る事が出来るわ」
八尋もツッコミどころ満載だが、このヴォイドを偵察に使えば他の生徒達の負担を軽減できるのではないかと判断して何も言わない。
「けどな…いくらヴォイドが優秀でもコイツが俺達を謀るかもしれないだろ?」
「まぁ、その時は…俺を外部から来た敵と判断してもらっても構わない」
「分かった。」
八尋はもうこれ以上言わず、竹成が集に手を差し出す。
「それじゃあ…よろしく頼む、集」
「こちらこそ」
二人とも同意の上で握手している。握手を終えると、竹成は分身した狼の一匹へ向かって歩く。自分自身のヴォイドを手にし、どこまでが可能、不可能なのかを体験する為に。
「あぁそういえば…ちょっと確認したい事があってな」
「え」
竹成は、呼び出した分身体を力づくで破壊した。分身体は消え、本体がまた遠吠えをあげると消えた一匹を呼び出す。
「ち、ちょっと⁉︎」
「…偽の狼を潰しても、問題なしってわけか」
「お、お前なんてことをっ⁉︎」
「なんか…不味かったか?
でも確認するべき事だろ、こういうのって。
え、まさか破壊しちゃいけなかったのか?」
竹成の予想外な行動に、みんなが動揺している。ヴォイドを壊してはいけないという表情からして、不味いことをしてしまったのではないかと心配になってしまう。
「誰かリモコンと画面を持っているのは?」
「えっと、私だよ。加藤さんが破壊したから、その狼の画面が真っ黒になっただけど。呼び出したら、また画面が復活したよ」
集の幼地味である祭が二つを持っており、竹成が壊した様子を確認して見ていた。壊されても竹成に影響はなく、ヴォイドもそのままになっている。
「俺は変化なし。これで分身体が潰されても、本体が潰されない限りは無限に増えるから何も問題ないってわけか…つえーなこの狼。
でもこれで、どういう性能なのかなんとなくだけどみんな分かっただろ」
「でも、先に言ってからやってよ…」
「あっ、悪い。
つい自分のだから問題ねーかなって」
スパイの疑いがあるとはいえヴォイドを開示してくれたおかげで多少の信頼を得る事ができた竹成は、集達に指定してくれた部屋へと入っていく。
「もうこんな時間か…あと何処か人気のない場所に移動しねーと」
(神には色々聞きたい事が山ほどあるからな)
既に夜の7時が回っており、夕食も生徒達と一緒に食べるのは気まずい為に食べ物は持って帰っている。
「いただきますっと」
声で連絡して誰かに聞かれるのはまずいと考えて、夕食を食べながらもその横で携帯を片手で入力しつつ神に質問した。
まず、この世界におけるアポカリスウィルスという病原菌に感染する可能性こと。感染するということは進行次第では途中でその病気に脅かされ、早期に死ぬ可能性もある。
{俺達もワクチン投与は必要なのか?}
【必要ございません。介入時における都合上、この世界特有のウィルスを無効にしております】
「ここに滞在するのは問題なしか、よし次」
そのまま次の質問へ移行する。
今度は進捗報告の為、一旦船に戻る事が出来るのかと入力。
{船には帰れるのか?
また、増援要請は可能なのか?}
【リーダーはそのまま介入世界に滞在し、仲間だけが帰れます。しかし、帰っても介入世界の時はそのまま進むことになりますのでご注意を。
増援は可能です】
(仲間だけが帰れるのか…増援は問題なしか。
ならよ…一番重要なのは俺自身の開示と、あいつらからの信頼が必要不可欠ってことか。結構難しいなおい…)
ワクチンの接種が必要なく、正義側の介入による恩恵を受けている。最低でも自分が持っている情報を集達に教え、信用に値する程の活躍を秀でなければならない。
赤のデッドラインが迫り、生徒も加藤も危険に晒されている。
介入早々、断崖絶壁に立たされているのだ。
ちょうどその頃、生徒委員会内でランクヴォイド制を導入するか否かを考えていた。もし導入すればランクの低い者と高い者で生徒達は区別され、淘汰されてしまう。
竹成達はまだ知らない、原作では彼の親しい幼馴染の人が命を散らす…介入したのがその前日の事だと。
しかも、この世界に降り立ったのは加藤達だけではないことも。
**********
麻紀の船内
仲間の内輪揉めは起きていない。その可能性を起こす存在をクリスタルにして、歯止めをかけているからだ。伊藤誠達を解放したら、反乱を翻す艦娘達を解放したら、船内での殺人沙汰になりかねないからだ。
だからこの船にいるのは、屈服して従わざる負えない人達しかいない。麻紀があんな状態であるため、空気は悪くなる一方だった。
「どうしたの一誠?」
「すみません、部長。
俺、体調が悪くて行けません…」
彼の場合、体調というよりも精神的な意味で疲れ果てている。悠人の暴走、連れてきた弱り切りの艦娘(少女達)の現状、利用される自分達。命令権で逆らえないように動かされ、黙って従うしかない。
「なら…アーシア、一誠のこと頼むわね?」
「はい」
リアスは一誠の気分に甘んじ、アーシアに彼のことを任せる。
「ちょっと相談したいことがあるんだけどいいか?」
「一誠さん、何でし…ひゃっ!」
話す前に一誠はアーシアを抱きしめた。アーシアは突然のことに口をパクパクしながら顔を赤めている。
「い、いい一誠さんっ…⁉︎」
「ごめんアーシア、ちょっとこうさせてくれないか」
彼の何処か悲しい声を聞くと、彼女は冷静になった。彼女の胸に飛び込みつつも、一誠らしくもない反応に驚いた。
「俺とアーシアの二人で、何処か遠くに逃げた方が良いのかな…」
「…え?」
リアスのことを慕ってた一誠が、つい弱音を吐いてしまう。
何をやっても悪い方向へ向かっていくことに、彼自身が疲れている。
「ごめん、何言ってんだろうな。俺らしくもない…さっきのはもう忘れてくれ。
ありがとなアーシア」
抱きしめたことにお礼を言う。無理矢理笑っている感があり、アーシアから見た一誠はどこか小さく、寂しそうな背中をしていた。
一方、リアス達はリビングにいる麻紀の元へと向かっていく。
「あれ、一誠とアーシアは?」
「私と朱乃、子猫の3人でいくわ…二人とも心労で休ませてる」
悠斗と一誠の二人はいない。
3人の女子に恨まれ、麻紀は無関心なまま冷たい態度を取る。
「ふーん、まぁいいけど」
「貴方…一誠に何を唆したの?」
特にリアスは怖い表情を浮かべている。あんな風にさせた麻紀が、一体何をしたのかを脅すように話してきた。彼女の目がより一層、赤さが濃くなっている。
「え?嗾す?別に、僕は彼の夢を助長してあげただけなんだけど」
「私の眷属に手を出してもおかしくはないわ…今の貴方なら」
一誠だけじゃない。
リアスの言うことを聞かずに、祐斗もまた聖剣に関わったことで単独で動いている。
彼もまた孤独だった。そうさせたのは麻紀だと、彼女は怒りながらも拳を強く握りしめているが、それを笑って返答する。
「ハハハッ、本当に僕や誠治を殺そう考えてた奴らの言う事は違うねぇ?」
「まだ根に持ってるの‼︎いい加減に…⁉︎」
「綺羅も、君達も同罪だよ…何?殺そうとしたけど、結果的に殺さなかったから許して欲しいって言いたいの?
綺羅のように殺した訳じゃないから、今度は被害者面して自分達はなにも悪くないって言いたいわけ?
思い上がるのも大概にしろよっ…!」
身勝手なせいで、誠治を殺されたということは頭に焼き付けている。反省してるから許してなんて甘い事を麻紀が許すわけがなかった。
「今はまだ時間あるし、準備が出来たら呼ぶよ」
麻紀は自室に戻った。
かつて試練編で正輝達と敵対していた麻紀達もまた、リアス達だけではなく別世界にいる新しい戦力をまだ連れて介入しようとする。
介入する前に、麻紀が自室に戻ろうとすると黄色ロープが転移してきた。
「待ってたよ!親友っ!」
『やぁ麻紀君。俺も準備に時間かかって済まなかったけどさ…一誠くんだっけ?
このままだと裏切ろうとしてるよ?
アーシアを連れて』
黄色ロープが心配するも、それを興味なさげに麻紀が答える。
「あぁそう」
『あれあれ?止めないのー?』
今の麻紀に一誠という仲間を失うことの焦りが全くない。
寧ろ、彼に失望したかのような反応だった。
「あんなんじゃ、時間の問題だったからね?」
『あぁ、そうだ。そうだったねぇ?』
麻紀の携帯画面には既に制約が、兵藤一誠の名前が消されていた。
黄色ロープの背後には、赤龍帝を持っている男がいる。
一誠ではない別の誰かが。
どちらにせよ竹成達と麻紀達の衝突は、介入してすぐに接触する。
学園の問題は、同時に正義側である彼らとの激突にも巻き込まれていく。
「でもさ清き親友…まだ仲間が必要なのかい?もう十分だと思うけど…」
『勿論、多くに越したことはないでしょ?
その方が俺の為にもなるし、君の復讐の為にもなる!
それじゃあ行こうか‼︎
君の復讐遂行のため、一歩前進する為に‼︎』
こうして麻紀と黄色ロープ、多くの集めてきた手駒と共に彼らも介入していくのであった。
*****
次の日
竹成がヴォイドを取り出してもらいつつも、狼がどれくらい強いかを体育館を使わせてもらう。向かう前に集にもう一度ヴォイドを出したが、
「強すぎだろ…」
(なんか凄いな)
近距離、遠距離共に優れていた。
携帯で訓練用としてマネキンを転移させて取り出し、どれくらい強いのかを試そうする。
本体に付けていたリモコンと画面は合体し、竹成の手元に出現する。ロボットの割に素早く、遠くから吠えると複数ものリングを複数に飛ばしたら爆散し、近いと凶暴な歯で粉砕した。
性能を確認しつつ体育館に散らばったマネキンの残骸を掃除してから帰ると、集が暗い顔をして悩んでいた。
「煮え切らないって感じだな」
「あ、加藤さん。もう終わったの?」
「まぁな」
気まずくも、沈黙な空気が漂う。現状のみを話しただけで、彼とはまだ友好的に雑談のような会話したことはない。
「隠してる事もあるけど…困ってる事があるのかよ。そりゃあ…秘密裏にしなくちゃいけないものもあるけどよ」
「それは、でも…」
話してもいいのかという不安もあったが、彼も子供なのだ。全生徒を任され、重い責任を背負うこととなった集。
(信じていいのかな…)
だが、大人の彼にどうしたらいいかを聞けば正しい選択ができるんじゃないかと信頼している。
思い切って竹成に相談する。
抱えている問題を、吐き出した。
「あのね…八尋からヴォイドのランク制を勧めてるんだ」
最初はそんなことできないと、みんな平等にしている。嫌な気分になってほしくないと。
役割(仕事)を持たせ、ヴォイドを担う者としてみんなの役に立てるように一人一人が協力し合っていた。
だが、レッドラインの進行(封鎖区域の縮小)も日が経つごとに迫っていく。ランク制で徹底すればワクチンも弾薬も節約できる。
だが制度をしない方針で向かおうとした結果、ある問題にぶつかることとなった。縮小の危機よりも、人数分のワクチンが足りてないことに。
「でもっ…」
「お前が発症したら誰がこの学校を守るんだ?お前だけじゃない…この状況で役に立つヴォイドは優先されるべきだ」
集の知らない間に、薬品が少なくなっていくうちにヴォイドランク制の推定へと向かっていく。
差別ではなく、区別だと。
「決めるのは上に立つ者の仕事です」
不平等にワクチンを渡すことで、今度は足りないワクチンを保持しようとする。それを決めるのは、生徒会長になっている集だった。
決断しなければならない。不平等に分けたことがバレたら反乱が起き、今のままが続いても状況は良くないまま進んでいくのみ。
「どうしたら良いんだろう…」
「そりゃまぁ、難しい質問だな」
(みんなの幸せを優先して現状維持か、或いは抗うために生徒達の誰かを切り捨てて…か)
こうしている間にもワクチン量の限度、デッドラインが日が経つ毎に迫りつつある。外に出て自足自給をしていない以上、こんな大勢の生徒を抱えて生活しているのだから間違いなく枯渇していく。
彼の優しさだけでは、現状を変えられない。
(ランク制度をしようがしまいが…どちらに傾いてもこの制度に不満を持った連中が必ず出てくる。
賛同する者もいれば、批判する者もいる。
校内とはいえ、そこんところは政治と何ら変わんねーな)
ランクヴォイド制を採用した場合だと今以上に厳しくも理不尽な環境に押しつぶされ、採用した集に対し、多くの生徒達が憎悪や怒り、憎悪となって最終的に報復される未来が待っている。
かといってこのまま否定し続ければ、何も行動に移さない無能と言われ、行動に出ないことから日に日に不安が増し、押さえ込んだ感情が一気に爆発した時点でこれまでの秩序が崩落し、もう誰にも手がつけられなくなる。
(こりゃ、集がいくら頑張っても…余りにも報われないだろうが)
どちらに傾き過ぎても、間違いなく最高責任者(生徒会長)である集だけが不幸になる未来しか浮かばない。みんなの総意で集をリーダーにしたのに、自分の都合が悪くなると掌を返すかのように身勝手な生徒達がお前のせいだ、許せない、ふざけるなと罵声を浴びるのが目に見えている。
(全部人任せ、か)
死ぬのも嫌、生きるのも人任せ、正に駄々をこねているだけという。こんな状況だから多くの生徒が不安になるのも仕方ないが、無責任にも程がある。
集と話している最中、生徒達が集の元にやってくる。不安な顔をする人が殆どだが、その中で明らかに険しい表情を颯太がしていた。
「集…ランク制、やらないんだよな?」
「う、うん」
断言してるわけでもなく、目線を下に向けて曖昧に答える。
集の態度に、颯太は怪しいと感じとる。
「なぁ、集に頼みたいことがあるんだ。
俺達のヴォイド出してくれないか?
俺のヴォイド、お前が使ったらすごい役に立ったんだろ。でも、俺が使うと缶詰開けるのが精一杯でさ。
練習すればもう少し使えるようになるんじゃないかって。
なぁ頼むよ、集!」
「お願い!」
「桜満くん!」
颯太だけではなく、他の子も頼む。ヴォイドを出してと強く押されて、段々と弱気になっていく集。
「で、でも…」
「いいんじゃねえのか?それで性能が上がるなら努力する価値だってあるだろ」
竹成はあえて彼らにヴォイドを与えるのを止めなかった。集は彼らからヴォイドを取り出し、それを持たせる。
みんなが集にお礼を言って、そのまま去ろうとすると
「でも、ちょっと待ってくれ」
「何だよ」
「練習するのはいいけどよ……ちゃんと『校内』でやるのか?」
竹成は的を射たかのように指摘すると、他のみんなは勘付かれたかと動揺し、颯太は戸惑いつつ時間をおいて言葉を返す。
「そんなの…アンタには、関係ないだろ」
「あぁ確かにそうだな。どこでやろうが俺には関係ないな。
引き止めてすまなかった」
「なんだよそれ…みんな行こう」
颯太は気に食わない顔をして、ヴォイドを持ったまま他のみんなと行った。
「なんであんな質問「おい集。アイツら、特訓って言っても誰か見ておかないと危ないんじゃねぇのかよ」…えっ?」
「えっ、じゃないだろ。あいつら校内じゃなくて郊外に出ちまうぞって言ってんの。
それも練習じゃなくて実戦でだ」
集は何も考えなしに、ヴォイドを渡した。
颯太の意図を見抜けず、彼らがそれを受け取って特訓をするとは言ったが、そんな風には見えない。
「幾ら何でも疑いすぎだよ、そんなの!」
「あいつら全員が例のFランクメンバーだったら尚更だろ。どこに行くつもりなのかも、何も言ってないしな。
自分から強くなろうとする。
それが悪いことだとは思わない。
でも、強くなるためとはいえ他の人を踏み台にしたり、迷惑をかけるのはお門違いって話だ」
(俺も、そんなに言えた柄じゃねぇけどな…)
弱いままなら強くなれば良い。
運良く高ランクに選ばれた竹成が、偉そうに言えることではない。
「ちょっと俺の方は隠れつつあいつらの様子を見にいってくる…何かあったらすぐに連絡するからな」
「あ、ありがとう。でも大丈夫?」
「おう、任せとけ」
(嫌な予感がするな…)
竹成は他の颯太達を追う前に、念入りに仲間を転移させる。この機に乗じて竹成以外の他の介入者がいるのならばと考えている。
「加賀美、天道。出かける準備をしてくれ…状況はこちらで話す」
『分かった…そろそろ動くんだな』
彼らは間違いなく、自棄になっている。このまま強くなる為に練習で無茶し、大怪我をするのではないかと思っていた。練習とは口で言ったがそれよりも危険な事を彼らは考えている。
(やっぱりか。外がどれだけ危険なのかもまだ分かってないのに…俺達に嘘ついて、学校に出てやがる!)
練習でもなければ、当然強くなるわけでも、練習で無茶して怪我をするという生易しいものじゃない。
(まさか…あいつら!)
ワクチンの事、ランク制の事、それらを踏まえて導き出す。彼らの行き着く先は、ワクチンを保有している病院へと行こうとしていた。