「あいつら…何考えてんだ」
実戦経験のない人がいくら意地張って証明しようとしたところでヴォイドがあるからというだけで実戦は未経験故にド素人、彼らのやってることは自殺行為に等しかった。武器の性能も使用用途も、戦闘でどのように役に立つのかも分からない彼らがアドリブでどうにかなるなら、今頃解決している。そんな都合の良い武器を手にしても扱え無ければ意味がない。
大体扱いを知るにしても、ヴォイドを取り出している集に相談してアドバイスを貰ったりと自分で向上していれば話は別だが、ランク制度を知ってすぐに向かったのだから考えなしに行ったの見え見えだった。
しかも、こうしてワクチンを手に入れるという目的と場所まで先読みされて格好の餌になっている。加藤が先回りすると病院周りには既にロボットが待ち伏せし、ノコノコと資源をやってくる人達を殺さんと待ち構えていた。
もし集達と加藤が駆けつけなければ、間違いなく彼らは何もできないまま殺戮兵器に蹂躙されているのが目に見えている。
彼らが身勝手に動いたのも、ワクチンをもらえずに見捨てられるんじゃないかという焦りや自分が死んでしまうという恐れもあった。
その制度を知り、最低ランクじゃないってことを証明するために彼らが結団して、ワクチンを取りに向かっている。
無策いや、無謀といっても良い。
(これじゃあまるで、死に行くようなもんだぞ…)
「とにかく、集にこのことを連絡しないとな」
集が制度の事を躊躇して先延ばしにしたことも、そのことを相談する相手も選ぶ必要があったことも。このような事態が起きたのは集の優しさや決断力の欠落故にこうして原因の一端になってしまったが、だからといってこんな馬鹿な事をしたところでワクチンで死ぬより先に死期を早めるようなものだ。
戦死とは言えない、戦えない彼らは惨たらしく死ぬこととなる。
「集か、不味いことになったぞ。あいつら…ヴォイド持ち出したまま外に出てやがる」
『こっちもさっき連絡が来たんだ。僕がなんとかして説得する』
たとえ集が説得しても、嘘をついた彼らに耳を傾けてくれるかどうかも怪しい。集の声だけではなく、車で移動している音が聞こえていた。
「…無茶だ危険すぎる。近くには青いロボットが複数も待ち構えてるんだぞ」
『青いロボット…?
まさかそれってエンドレイヴのこと』
「そう呼ばれているのか?」
右肩にある銃器や、封鎖区域の縮小にも多く使われていたことから量産型と言える。
『不味い、もし颯太達に接触したら…急がないと』
「どうやら話す時間はなさそうだけどよ…とにかく、その機体は俺達の敵ってことで良いんだな?」
『うん…』
このことを彼らを知らせ、止めるにしても時間がかかる。すぐにでも離れなくちゃいけないのに、説得してから逃げるのは時間がかかり過ぎる。
「だったら尚更だ。まずこの場から離れさせてからでも」
『それじゃあ颯太達も納得できな…見つけたっ!また後で連絡する‼︎』
「あ、おい!ちょっと!」
集が颯太達を発見し、すぐさま電話を切られた。竹成はエンドレイヴを見て退却しつつ、遠くから颯太達を監視しているところに、ちょうど車がやってくる。
「颯太、馬鹿なことはよせよ!」
「馬鹿ってなんだよ!Fランクだから馬鹿って言いたいのか‼︎」
(やっぱりこいつら…)
颯太達は、生徒会内で考えているランクヴォイド制度の計画を知っている。こんな重要な情報を他の誰かに垂れ流すような事をすれば、当然颯太含む彼らは躍起になるだろう。
「俺達はワクチンを持って帰って、最低ランクじゃないってことを証明するんだ!」
「もしかして…最初からそのつもりで僕にヴォイドを…⁉︎」
「お前だって嘘ついてたんだからこれでおあいこだろ!」
「違う!嘘なんかついてない!」
生徒会長の立場でありながら集もやるのかやらないのかという決断力も欠け、颯太達も足りないワクチンを得るために役に立てるってことを証明するためにこんな無謀なことをしている。
これでは説得ではなく、揉め合いだ。
「今近くの病院にエンドレイヴが待ち構えてる!急いで学校に」
「ここまで来て今更戻れるか!
そうやってまた俺達に嘘をつくのか‼︎」
「颯太、本当なん…」
集の言う通り、集まったところを4機のエンドレイヴがやってくる。逃げ道を塞ぎ、集まっている生徒達を標的にする。しかも、空に浮いている飛行機まで飛んでいる。
「うわぁぁぁっ⁉︎」
「囲まれた!」
「もうダメだ、おしまいだっ…」
頭上からも狙われ、エンドレイヴも生徒達を逃がそうとはしない。持っているヴォイドも役に立たないまま、元のところに戻ってしまう。
「僕が引きつける!」
(にしたって数が多過ぎるだろ!)
竹成も集を追うかのように、駆けつける。
あれだけの数を一人が囮になったところで、守りきれるわけがない。
「おい集!俺のヴォイドを使えっ‼︎」
「加藤さんっ⁉︎」
咄嗟に集は竹成の胸からヴォイドの狼を取り出し、狼の遠吠えで分身体を召喚する。
「何だっ⁉︎うわぁぁっ!」
敵は狼の声に反応すると、すぐさま狼が飛びついてきた。まず近くにいたエンドレイヴ一機を2匹で囲って潰し、遠くにいる狼は透明のリングを放出し、飛んでいる飛行機と助けに向かうエンドレイヴの足や銃器の部位を破壊。
集と竹成は遠回りして、祭と颯太の元に戻ろうとするが、いつの間にか颯太が祭を連れて、車を修理させていた。
「なっ、あの馬鹿っ‼︎」
狼が撃破しても敵がまだ残っているのに、見える場所で車を修理なんてしたら、それこそ格好の餌食になる。
「包帯?それで車を直そうだなんて甘いね!」
「逃げろ、祭!」
エンドレイヴが車に向かって撃つが、分身体の狼が二匹前に出て、防御陣を前に展開する。こうして守ってくれたおかげで、車も祭も無傷で済んだ。
「なにっ⁉︎」
今度は残った8匹分の狼が、全方位から残り一機のエンドレイヴを一斉に襲いかかる。
「邪魔臭い狼だっ‼︎くそっ、くそっ‼︎‼︎」
(逆の立場になった気分はどうだ…!)
他の機体から悲鳴を上げていたが、祭を狙っていた機体は狼に襲われても弱気にならない。鋭い歯に、リング攻撃を食らっても戦うことを諦めない。
その機体の脚と武器装備を破壊したものの、トドメを刺す前に竹成のヴォイドは消えてしまった。
(まさか時限式だったのか…けどこれで、十分時間は稼げた)
完全に破壊できないとはいえここまで破損している以上、もうあのエンドレイヴには何も出来ない。
もうこれで大丈夫だと、祭の方を見る。
しかし、
「嘘だろっ…ガソリンが漏れてやがるっ…くそっ!」
エンドレイヴの攻撃は防ぎきれていなかった。今にも車は爆発しそうで、颯太は遠くにいるから助かるが、祭はこの場から逃げようとしても間に合わない。
(もうやむを得ねぇ!)
【clock up】
案の定、車は爆発した。爆発に巻き込まれる祭を助ける為、クロックアップによる光速で助けることに成功した。
「え…祭」
そのまま安心しきっていた集は、まさか車が遅れて爆発するとは思ってもおらず、顔を真っ青にして泣き叫ぶことしか何も出来ない。
「嘘だ…祭、祭っ‼︎」
祭の亡骸を目で探そうとしても見つからない。竹成も姿が見えず、颯太は呆然とした顔でこの惨状を見ているだけ。
「何やってんのアンタ!」
「ダメだ集!」
「嫌だ!あの中には祭が、祭がっ…祭ぇぇぇぇっ‼︎‼︎」
後から車で八尋とつぐみ、綾瀬、がやってきたものの、泣き続けている集が祭を助けるために燃えている車に飛び込もうとしている。それを八尋に止められ、何もできなかった集は嘆くことしかできなかった。
*****
「気が付いたようだな」
「加藤…さん」
祭の方は爆発の光でずっと気絶しており、目覚めるまでの間竹成が周囲を見張っていた。
彼女は何が起こったのかも分からず、オドオドとしている。
「それじゃあ、指は何本に見える?」
「えっと…5本。確か私、爆発に巻き込まれて…」
「襲ってきたエンドレイヴと、飛行機は解決できたんだがよ…まだ、やばい状況な事になっているがな」
ヴォイドは彼女の元に戻り、襲ってきた敵も全員倒した。何も問題はないはずなのに、竹成はまだ警戒している。
「え?えっ…終わったんじゃないの」
「集と連絡がつながらねぇ…てことは」
(やっぱりな、結界が張られてる…考えたくもなかったが…やっぱりこうなったか)
結界が張られた以上、これで竹成以外の他の介入者がいる事が分かった。鉄骨の時点で気づくべきだったのか、あれだけで判断する事は出来ない。
(ここから一刻も早く出て、無事に出たいんだけどよ…)
このまま穏便に事を進めたかったはずなのに、そう簡単にはいかない。
竹成達の元に、誰かがやってくる。
(他に誰かい…いや、結界を貼られてんだ。
俺と同じ介入者である以上…油断できないな)
アイドル衣装のような格好で薄暗い表情をした少女が一人、竹成達に迫ってくる。結界が張られている以上、この子もまた只者ではないと
「あの、加藤さん…」
「悪い。色々俺に言いたいことがあるかもしれないけどよ…今は何も聞かず、近くに寄ってくれ」
竹成も近づきつつも距離を取っている。
話しかけて返事を返せるようなら、その少女と対話する。しかし、相手側から仕掛けてきたら祭を連れて逃げる。
か弱い少女は立ち止まり、固く閉じている口よりも先に竹成に向けて武器を向ける。
だがその武器は、
(大砲っ…⁉︎)
竹成は撃つ方向を瞬時に分かったことから、なんとか攻撃を避けた。幸い祭には当たらなかったが、さっきの車の爆発とは比にならないほどの爆発が生じ、建物が半分倒壊する。
【TORNADO】
こう以上攻撃させまいと懐からラウズカードを取り出し、スマホにかざす。機械音が鳴ると竹成の前に強風が出現し、その少女を吹き飛ばした。
飛ばされた彼女は壁にぶつかり、ビクビクと身体が震えている。
(一発であの威力、まともに食らったらやばかった…すぐこの場から逃げたほうがいいか)
「あの、一体何がっ…それにあれって」
「何も聞くな、分からないかもしれないが…‼︎」
祭には全く訳がわからないまま困惑しているが、竹成は一刻もこの場から離れなければならないと彼女を掴み、隠れる場所に身を潜めた。
竹成に吹き飛ばされた少女の元にまた、別の少女達がやってくる。白いリボンと青髪のツインテール、黒髪に三つ編みの黒セーラー服、弓を構えて着物の格好をする人もいれば、小学生と同じくらいの子も何人かいる。
一見側から見れば身軽な格好をしている少女達だが、脅威的な武装をしている。
(あんなのが何人もいるのか…隠れながら移動したほうがいいな)
少女一人分の破壊力を考えると、祭を守りながら戦うのは危険すぎる。出来るだけ戦闘を避け、結界の解除を優先した。
建物の影を利用し、なるべくバレないように素早く動く。祭も声を出さずに、今は竹成の指示に従うしかない。
(結界の解除には、確かこれを使うんだったな)
竹成の手には、正輝と同盟関係になったことで貰った契約破棄の宝具を貰っている。結界自体は転生者用の結界ではなく、魔力で形成されており、結界部位を壊すことができる。
(あれもヤバそうだな、さっさとこの結界から脱出しよう)
時間が経つと、空には小さな艦載機が飛んでおり、広範囲で竹成達を探している。なるべく遠くに、遠回りしてこの結界から出る必要があった。
狭い裏路地を積極的に通ることで、影で見えにくい場所や、物陰に隠れることができる。複数人からバレてているが、二人だけならギリギリ掻い潜ることができた。
「よし、これで何とか…」
しかし、竹成の頭上から落雷が落ちてくる。安堵してても音に反応し、すぐさま祭を掴んで避けた。
「こ…今度は、何っ⁉︎」
「あぶねぇ…追ってきてるのはあいつらだけじゃないのか⁉︎」
追っ手はあの大砲や艦載機を武装した少女達だけではない。別の方法で遠回りしている竹成達を見ている人達もいた。
「…見つけたわ」
落雷を落とした巫女、その横には赤い髪と瞳の女。小柄ながらに怪力を持っている白い少女。リアス・グレモリーと、眷属の二人が竹成の前に立ち塞がる。
(こいつら…確か、正輝から聞いた。
にしたって人数減ってないか?
それに、5人だったはず)
裏路地には既に使い魔が待ち伏せし、彼女達も竹成を狙っていた。見える場所では大砲や艦載機を武装した少女達に任せ、3人は隠れそうな場所に罠を用意したのだ。
(俺一人ならともかく、この子を守りながらは…)
「予想外だったわね。まさかもう一人いたなんて…命が惜しくないなら、その女の子を置いて立ち去りなさい」
「私、何で…?」
彼女達は祭だったが、なぜ彼女を狙ったかは分からない。この結界に閉じ込めたのも、祭を確保するつもりで張ったのが、まさか竹成まで巻き込むとはリアス達も予想外だった。
不機嫌な3人は、今にも殺さんと掌に雷撃と黒い炎を作り出し、脅している。
竹成も恐れずに、立ち向かった。
「…悪いが断る。この子一人置いて、そんなみっともないことできないからな」
「そう…なら消し飛びなさいっ‼︎」
竹成に向かって滅殺魔法を飛そうとするが、それも回避していく。リアスと朱乃は竹成を狙っているが、本当の目的は祭から遠ざける為。
(あいつら、祭との距離…それに、これ以上敵が集まってくるのはマズイ!)
祭のところに行こうとしても、それを小猫が遮っている。それどころか竹成達を探していた少女達まで、やってくる。
「無事か加藤!」
「やっと来てくれたか、加賀美‼︎天道‼︎」
肝心な時に天道と加賀美が助けに来た。二人ともマスクドフォームなまま、小猫の怪力を防ぐ。
「祭、おんぶしたまま移動するけどいいか?」
「う、うん…分かった」
殺されそうな状況なため、祭も竹成の言い分には応えるしかなかった。彼女を背中に背負い込み、振り落とされないよう腕と手で支える。
「俺たち二人が結界を破壊して逃げる。
その間の時間を稼いでほしい」
「任せておけ」
「逃がさないわよ!」
リアス達はまた竹成を狙うが、
【【CAFT OFF】】
天道、加賀美は身に纏った鎧を飛ばし、マスクドフォームからライダーフォームへと変身していく。飛んできた外装はリアス達に飛ばされ、3人とも攻撃ができないまま反射的に防御してしまう。
「しっかり掴まっとけよ!」
「は、はい!」
【START UP】
携帯の機能にあるファイズアクセルを使い、敵と接触しても攻撃が定まらない速さで移動する。クロックアップだと祭の身体が耐えきれず、おんぶをして互いを支えたとしても落としてしまう。
敵が竹成を発見するが砲撃は命中することなく、結界の壁をルールブレイカーで破壊した。
【3…2…1…TIME OUT】
「ハァハァ…な、何とか振り切ったな…」
「だ、大丈夫ですか?」
結界から脱出し、竹成は総司達に連絡しようとするが、携帯には圏外と記されている。
「なぁ、集達に連絡でき…あぁそうだった。確か学内のローカルネットにしか繋がらないんだったな」
結界から脱出することに成功したが、竹成は汗だくになっていた。ずっと移動、回避、移動の繰り返しで疲労しており、頭があまり働いていない。
「…と、とにかく奴らが追ってくる前に、急いで集のところに…えっと、祭だったか…?集達の写っている写真を見せてくれ」
竹成も祭を守るのに精一杯で、身体が動かない。結界から出ても電話どころか通信がつながらず、集達が何処にいるのかも分からない。
祭は写真を用意すると、竹成は携帯からメタルゲラスを出現させる。
「こいつらを見かけたら…俺達に案内してくれ。至急頼む」
メタルゲラスが竹成の話を聞いて頷くと、空いている店の中に侵入し、近くにあった鏡からその巨体が入っていく。
祭は開いた口が塞がらなかった。
「これで、問題ないはずだ。
連絡が来るまで待とう」
「加藤さん…い、一体何者なんですか?」
「悪い。でも、詳しく話すのは、みんなと合流して後にしてくれ。頼む」
*****
一方、後から来た八尋達は事の次第を聞かされ、祭と竹成が車の爆発に巻き込まれて死んでいる事に驚いた。竹成との繋がりは浅かったが、まさか一緒にいた祭が死ぬとは思ってもない。
「集、ごめんっ!俺のせいで!」
颯太は何度も謝ろうとするが、集の顔は絶望したまま。やるせない己自身に対する怒りと、あんな馬鹿なことをした元凶である颯太に憎悪を向けていた。
肝心な死体は見当たらないが、一番可能性としてあり得るのは二人とも爆発に巻き込まれ、焼死したこと。爆発も、遺体が吹き飛ばされ、原型すら残っていないことが。
いくら謝ってもこの出来事を変えることは出来ない。
「そうだよ…祭が死んだのは君のせいだ。君がくだらない理由で祭を連れ出したから」
「し、集…⁉︎」
「だから言っただろうがっ‼
︎お前せいで祭が死んだ!生き返らせろ!
お前が祭を、生き返らせろっ‼︎」
「やめなさい!集!」
顔に痣が出るまで、何度も殴りつける。殴られている颯太は弱々しい声で謝まり続け、傍観してみている綾瀬も言葉だけで止めようもする。
今の集は聞く耳を持たないまま怒りを吐き出して殴り続けた。その時、
「もうやめて、集!」
「…えっ」
颯太をずっと殴ろうとしたところを祭の声が聞こえると動きが止まった。幼馴染の死を目の当たりにしたはずなのに、生きている。
こうして集達を発見し、迷うことなく合流することができた。
「祭っ…⁉︎たってあの時…爆発で」
「集、すまねぇ…連絡が遅くなっちまった」
「二人とも…生きていたのっ…⁉︎」
集は泣き顔になりつつも、そのまま祭に歩み寄る。竹成が助けたお陰で、祭が殺されることも生け捕りにされることもない。
(よし、天道達は問題なさそうだな)
増援で来た総司と加賀美も竹成が破壊した結界から抜け出すことに成功したとメールの連絡が入り、道案内していたメタルゲラスはそのまま竹成の携帯へと帰っていく。
繋がらなかった携帯も、すぐ回復したのだ。
(…どういうことだ?)
「良かったっ…良かった」
「ごめんね、集」
大事な人がこうして生きていたことに、集はまた泣いてしまった。
祭も、そんな彼の頭を撫でている。竹成は都合よく通信が回復し、それを不審だと考えていたとき。
ーー予想外だよ、まさか介入者が別の人だったなんて
感動の帰還な最中だったのに、この場にいない誰かの声が聞こえていた。
「誰だっ⁉︎」
集達が言ったわけでもなければ、竹成が言ったわけでもない。辺りを見渡すが、声は上の方に聞こえていた。
「ねぇ、あれを見て‼︎」
ツグミが指差した方を向けると、建物の屋上には透明の拳銃を持った男の人がいた。
「調べによると、君が加藤竹成かな?
少なくとも僕と同じ正義側だよね?」
「正義側?何だそれは…一体どういうことだ⁉︎」
話が見えない集達は、竹成と話している相手の会話に理解が出来ていない。
麻紀は、祭を生け捕りにしようと企んでいた。結界を張っていた彼女達が祭ではなく竹成を狙っていたことにも説明がつく。
「…お前、祭を生け捕りにしようとしたな」
「え?何でそう言い切れるんだい?」
「襲ってきたリアス達が凄く親切に教えてくれたぜ、命が惜しくなかったらこの子を置いて立ち去れってな」
作戦通りに竹成を見つけたリアス達の傲慢な態度さが浮き彫りになり、そのまま祭を標的にしている事を口に出してしまった。
「ハァ…あいつら余計な事を…それじゃあ何で君は僕の邪魔をするのかな?」
「お前の方こそ、この子を狙ったかを聞かせてくれよ」
「君に答える義理は微塵もないね」
「ねぇ…一体何の話をしてんのよ⁉︎」
麻紀が邪魔をしてきた竹成に苛立っているが、祭を狙った目的を問う。リアス達もあんな脅しをしてきたのだから、麻紀が助ける為にあぁしたとは言い難い。
そんな中、
『んもー、質問を質問で返さないって偉い人に教えてもらわなかったの?』
「なん…だとっ⁉︎」
今度は黄色ロープが乱入して、話に割って入ってきた。竹成はまた増援要請をかけようとするが、エラーが発生しているために通信が出来ない。
『その様子からして…俺の対策をする時間はそんなになかったみたいだねぇ?
加藤くぅん?』
「お前!よくも…正輝をっ‼︎」
(落ち着け…そもそも、なんでこいつと麻紀が手を組んでいるんだ)
竹成は手を出そうとするが、正輝の仲間達が傷一つ与えられなかった事を考えて堪える。
「あの、加藤さん…知り合いなんですか」
「…少なくともこいつらは敵だ。
祭を狙ってたんだからな」
「祭をっ⁉︎」
集はいのりのヴォイドを取り出して構え、八尋と綾瀬は拳銃を構える。しかし、
「やめろっ!今ここで相手しちゃいけねぇ!」
「でもっ…!こいつらも祭を!」
「み、みんなちょっと待ってっ‼︎」
竹成だけではなく、ツグミまで震えた声で止めようとする。
液晶で敵の総数を数え、映像も見ている。
「うそ、何よ…これっ⁉︎」
「おいどうし…⁉︎」
八尋と綾瀬がツグミの元に向かい、その映像を見る。数えきれないほどの
その数は100体を超えている。
『今ここで殺り合ってもいいけどー、止めるなら〜今のうちっすよー』
「…みんな、武器をしまってくれ。
ここで戦っても蹂躙されるだけだ…」
麻紀の幻想殺し・武器化もヴォイドを無力化してしまうかもしれないという恐れもある。
何より黄色ロープが、あれだけの数の怪物を連れている。
「今回は失敗したし諦めるけど、また学校でリベンジさせてもらおうかな。竹成、また邪魔するようなら忌むべき敵として殺すつもりだよ」
『それじゃあ撤退しよっか?』
もしここで誰かが手を出して、開戦を始めたら間違いなく敗北する。圧倒的な数の暴力に、麻紀という異能力を破壊する相性最悪の天敵、攻略不可能の黄色ロープ。
ここで感情的になって挑むのは、あまりに下策だとみんな武器をしまう。麻紀も黄色ロープも帰っていき、映像に映った怪物達も転移して消える。
「何なんだ…一体何なんだよこれっ⁉︎
わけわかんねぇよ⁉︎」
「…こっちの都合にも巻き込まれてしまった以上、手を貸さない訳にはいかない。
俺達のことも、さっきの連中のことも話す。
その上で俺の言葉を信用するか、或いは俺を敵と見なすかは決めてくれ。お前らの言う通り、俺だけじゃなくて面倒事まで持ってきてしまったんだからな」
「…俺達には知る権利がある。
帰ったら全部話してもらうからな」
集だけじゃない、八尋も綾瀬もつぐみも、少なくともこの場にいる人達全員に説明する義務が竹成にある。
置いてけぼりの颯太は、完全に錯乱しているのだ。
「とにかく学校に帰『あーそうそう。加藤くーん。そう言えば忠告しなきゃいけないことがあるんだったー』…なんだ」
麻紀はさっさと船に帰ったが、黄色ロープはまた戻ってきて竹成にある事を言おうと近づいてくる。集達は敵視するが、竹成がそれを止めた。
『あの人達とー仲良くするのはいいけどー…早々に今後の対策を大至急しないと、殺されちゃうよ?』
「何に…殺されるって?」
殺される。
たしかに厳しい制約ではあったが、今の竹成には増援があればこの世界にいる集という強い味方もいる。麻紀も正輝達から聞かされた以上に戦力が上がっているが、ロープ陣営よりは勝てない相手ではない。
『この世界の
だが、本当に恐ろしいのはここからだ。
麻紀の本当の目的が一体どういうものなのか。原作が無知な彼が、集達と共にどのような方法でレッドラインを乗り越えれるのか。
黄色ロープの忠告には、この後の脅威がまるで分かっているかのような発言だった。