車に乗ったまま、集達は学校へと帰っていく。
祭はかろうじて生きていたが、みんなの顔には不安、不満な表情だった。颯太と一緒にいた他のFランクの生徒達は、行方不明のまま。殺されたのか或いは麻紀達に連れていかれたのか全く分からない。
集と颯太、二人との間ではかなり険悪な空気になっている。祭が生きている事には喜んだが、あんな目に合わせた颯太を許したわけではない。
「集…もう私は」
「ちょっと黙ってて…」
祭はとっくに颯太のことを許しているが、集は無言なまま睨んでいる。颯太は今まで見たことのない集の鋭い目と顰めっ面にただ怯えるしかできなかった。
次に怒っている八尋は自分の行動や立場のわかっていない集や、部外者である竹成が本当に厄介毎を持ってきた事にとても苛立っている。麻紀という人物が学校を狙う事を言っている以上、竹成がこの学校がやって来ようが来まいが彼の介入によって悪化する事になっている。
彼自身頭では分かっているが、部外者が乱入してくることを言おうとしなかった竹成には聞きたいことが山ほどあった。
(空気が重い、俺のせいでもあるけどよ…)
車内には息詰まりそうな重苦しい空気が漂う。いのり、綾瀬、つぐみの三人からしたら早く外に出たいと考えるだろう。学校に到着し、生徒会室に向かうと亜里沙が一人で待っていた。
「何があったの?」
「…話すと結構長くなる」
その一言で片付けきれないほどのものを、彼らはこの騒動で知ってしまった。
竹成の正体のこと、颯太の身勝手で祭が危険に晒されたこと、今後の話も含めつつ話さなければならなかった。
「颯太だけじゃないFランクの数人がヴォイドランク制の事を知って、集にヴォイドを取り出しだ後に病院へ行ったんだ。
ワクチンを手に入れる為に」
まず最初に起きた事情を話す。颯太のことが竹成の忠告で発覚し、集と祭の二人で止めに入った。二人とも颯太達を見つけることができ、揉めている最中に襲撃されたことも。
それでなんとかワクチンも手に入れ、無事に生還して帰るならばそれで良かった。
それで済めばどれだけ楽だったことか
「連中…いや、麻紀という男含む正義側っていう連中が祭を生け捕りにしようとした。殺すことが目的なら俺だけじゃなくて祭も狙っている。
無論、俺もまたその正義側の一人だが…集団ごとに分けられてて、全部が全部仲間ってわけじゃない」
「なんで彼らの事を俺達に話さなかった…話しても無駄だったって言いたいのか」
「あぁ…確証もないものを言っても、な」
八尋は竹成に拳銃を向けて脅す。デマの時に暴徒と化していた生徒が持っていた拳銃であり、没収されたものだった。
「ちょっと八尋っ!」
「だが、お前がこの学校に厄介事を持ってきたのは紛れもない事実だ」
麻紀というよく分からない人達とも接触し、竹成がまだ隠し事をしているのかと疑ってかかった。
「俺以外の関係者が、誰が来るかなんて予想できない。
来ると分かってるならとっくに言っている。
それでも引き金を引くっていうなら、俺にはもうこれ以上あんた達を手伝うことはできなくなっちまう。
デッドラインをどうにかすることも、ワクチンと武器弾薬を考えることも。せめてこっちの都合で他の生徒達が麻紀達に取り込まれるのを、阻止することしかできなくなる。
本当にそれで良いのか?」
祭を助けてもらった恩もあれば、ここで竹成を撃ち殺そうとしても現状は最悪なことに変わりはない。それは前の生徒会長だった亜里沙も八尋自身もよく分かっている。
竹成がいなくても、現状は最悪なままだ。
「ちょっと八尋っ!仮に竹成さんが来なかったとしても…あいつらは僕らを狙っていたんでしょ」
「どちらにせよ…あいつらは学校の連中目的でやってきた。俺がこの学校に行こうが行かまいが…変わんなかった」
無駄だと理解した八尋は、悔しそうな顔で拳銃を下ろした。また、車で帰ってきたかのような静まった空気になっている。
今度は、生徒会長である集が庇う。
「ねぇ、今ここで聞くけど…正義側って何なの?」
「まぁ…またこれも話せば長くなる」
「話してもらうぞ、隠してることを」
話す必要のあることはちゃんと話した。
正義側という存在は世界を介入し、事件を解決していく。麻紀のように仲間を集めることも可能で、襲ってきた中には他の世界にいた人達もいる。
みんな黙々と黙ったまま聞いているが、目的が違うとはいえ竹成も麻紀のように介入していく。
「信じられないと思うが、分かってもらいたい」
「あの…それじゃあ竹成さんも、ヴォイドの力のように他の力を持っているんですか?」
「あぁ」
竹成、総司と加賀美の三人の力で、祭を捕らえようとする麻紀の手からなんとか脱出していた。
それを助けた祭には、既に見られている。
「なら、お前はどんな力を持っていた」
「これだ、特撮でよくあるだろ。
俺はそういったものに変身できる。
条件の低い安易なものなら、他の人にも渡す事も可能だ」
竹成はベルトとカードを取り出し、それを集達に見せる。その力で変身して、実際に麻紀達と戦っていた。
「だ、だったらさ!ヴォイドだけじゃなくて
これもみんなに配れば「…じゃあ聞くがよ。あいつらに、このベルトを背負う覚悟はあるのか?」な、なんだよいきなり…」
颯太の軽率な発言に対して、竹成は叱った。
ワクチンを手に入れる為に戦おうと思っていても、結局は敵から背を向けて逃げてばかりな彼らに本当に戦える意思があるのだろうか。
他力奔放な彼らに、この力を渡すのは余りに危険過ぎると渡そうとはしない。
「無力じゃないって証明したいからそれを実行する前に、事前に外に出て戦う覚悟がお前含めてみんなにはあったのか?
学生達が、ライダーの力を手にする覚悟を持っているのか?」
「そんなもんあったに決まってるだろっ!」
「集のように陽動ならともかく…みんなしてバラバラに逃げたりしてたな。指揮系統をしたわけでもない、だからお前についていった生徒は犠牲になっている。
これで覚悟があるって言い切れるのか?」
戦う覚悟など彼らにとって皆無でしかない。ただひたすらにランクが低くても役に立ちたいからという証明が欲しかっただけ。
「それにライダーに変身したところでちょっと武装したくらいだ。武器が竹槍とかのチンケなものしか使えない一般市民と、見つけ次第銃口を構えてぶっ殺せる機体兵器と軍人…それと何ら変わりない。
颯太以外にも問うけどよ…ヴォイドに強みがあるならどうやって乗り越えしていくべきが一旦みんなで考えて模索してたのか?
ヴォイドだけ持ったところでそれを有効活用しなけりゃ宝の持ち腐れ。しかも、無策に突っ込んでたところで結局無駄死になっちまう。そんなの考えても嫌だろ。
無駄死に行くようなことをしたいと思ってる奴なんていると思うか?結果的にみんなして散らばって逃走して、結局何もできなかっただろうが。
その上に俺の持っている力を分け与えて戦えと?一人一人が変わらなきゃ結果は何も変わらんだろ」
「それは…」
(それに…下手に力を与えて反乱なんてこともやりかねないからな)
一部で不満を抱くようなことになれば、影で力を蓄えつつ集と彼の身近にいる人達を利益目的で襲いかねない。今の生徒達を見ても、そんな彼らにその力を与えたところで良い方向へ向かうとは思えなかった。
「あと集も、機密情報を他の奴に筒抜けにするべきじゃないな?
こういうのは、もっと厳重に管理するべきだ。こんなお粗末な処理の仕方じゃ、他の人にどうぞ見てくださいって言ってるようなもんだろ」
「ごめん…でも何でこんなもの」
「颯太達が、無用心にこの紙を机の上に置いていたからな…学校内でも警戒を怠るなよ。優しいことは悪いことじゃない、それがお前にとっての短所でもあるけれど魅力の一つでもある。
けどな、救うばっかりじゃ何も変わらないんだ。
救った責任と背負っている指導者は導かなきゃ意味はない。両方やらなきゃいけないのが辛いところだが、それが今あるお前の務めなんだ。
他のリーダーだって、散々苦労したけど…二つのことをしたんじゃないのか」
「ねぇ、じゃあどうするのよ…悪化しているのならいい加減決めないと不味いんじゃないの?」
綾瀬とツグミ、他のみんなが集に顔を向ける
現状は全て話した。後は、集がみんなにどういう方針で生き残るのかを言わなければ何も始まらない。
だが、今の彼は
「制度はした方が良いかなって思ってる…けど」
「いい加減ハッキリしろ、集‼︎このままじゃいけないことぐらい分かってるだろ‼︎」
この事態をなるべく最小限に、多くの人が生き残る為には優先すべき案を提示しなくてはならない。
(前途多難。こりゃ…無理もないか)
学校の生徒達を救い生き残る為には、過酷な環境はやむ終えない。差別と区別、弱肉強食は個々の強さによるのだから平和な世界になったとしても変わらない。
今の彼にとって、決断しづらい状況だった。
「そうだな。死活問題が続いている以上…ランクヴォイド制には賛成だ。
が、八尋とは考え方が違う」
「…だったら聞かせてもらおうか、ランクヴォイド制以外の打開策を」
集に決断を出そうと八尋が急かすように言ってくるが、そんな空気の間、竹生が提案していく。
竹成は前に言ったことを、颯太に確認する。
「颯太、確かお前言ってたよな?
集が使うと役に立てたって」
「あぁ…そうだけど」
「てことはだ、ランクの低いヴォイドも十分侮れないってわけだな」
「…何が言いたい」
「とにかく、視野を広げろ。この最悪な状況で優先すべきヴォイドを確保することは重要だ。たとえそれがランク値が低かったとしても、高いだけで決めるのは…余りにも早計すぎるだろ。
だったら、颯太のヴォイドってただ単に開けることなのか?」
高ランクのものは、性能も優秀。RPGゲームのような性能の弱い武器を装備するよりも強い武器を装備した方が強いと考えるのが普通だ。
強い力、性能さえあれば勝てると。
「いやその…撮ったものを『開く』事だけど…」
「なら、ある意味颯太のは有力かもしれないぞ?」
「有力だと?」
「対象が鍵で開け閉めする扉だけが対象ってだけじゃない。
確かそれで缶切りも開けたんだよな。
つまり…敵が仕組めた罠も、あらゆる仕組みも…そのカメラで全部解除されるって事だ。
ある意味では脅威だぞ?
もし、デッドライン付近に罠が仕込まれることとなれば…開始した時点で全滅する。
誰もそうなりたくないはずだ」
相手側も集達の作戦が分かっていたのなら、その日に罠を用意してくる可能性もある。決戦の時になれば、彼のヴォイドは必要になるだろう。
デマの件で、校内が混乱となった時のように。
「あと集…今後は、いのりと祭の三人共に離れないよう一緒に行動すること。いいな?」
「…へ?」
「ち、ちょっとアンタ!何勝手に決めてんのよ!」
「決めるも何も…三人は狙われるんからだろ。
行動については危機が終わるまでだ」
「…はぁ⁉︎し、集が…いのりと祭の二人と過ごすって言いたいわけ⁉︎」
今度は、つぐみと綾瀬が竹成の案に反対した。たしかに話を聞いて麻紀に狙われているのが分かったが、だからといって何故集とその二人に過ごさせるのかという意義を訴えてる。
「お前らさ…そこの二人が麻紀の標的になってしまうかもしれなの分かるのか?」
「ちょっと待てよ!そんなの俺達だって!」
「祭が死んだらまず大怪我における回復役がいなくなるし、機材の修復も彼女のみ。
いのりだってデッドライン突破の為に欠かせない。
…そいつら二人を麻紀に奪われたらお前ら生き残るって、勝ち目があるのか。それを前提に考えて勝算があるんなら教えてくれ」
「…それには賛成だ。万が一、集やいのりを狙われたらこちらは大きな損害を生むこととなる。
実際に祭も狙われていたからな。それで今回のように集が冷静になれず感情的になっても、困る」
竹成はただ単に集と引っ付かせるというわけではなく、この状況において優先順位として二人の存在は欠かせないと判断した結果としてそういうこととなった。
「私の心配ならしなくてもいい…」
「そういうわけにもいかない。お前も集と同じくらいこの脱出計画に欠かせないからな…
俺はお前らの資料で、一人一人のボイドの性能を調べつつ吟味していく。扱うランクが低くかったとしても…その人物に伴う武器をあらゆる視点で観察する。どこまで可能なのかを理解し、集がそれを使うことでどの場面で活躍できるかを、な」
全員とこうして長々と話していると、とっくに時計の針は11時になっている。ほとんどが複雑な気持ちで解散しつつ、部屋に戻っていった。
外は暗くなっており、生徒会室には竹成に話そうとしている。
「あの…まだ起きてるんですか?」
「麻紀が出てきた以上、この学校でも何かやらかそうとしてるんだから…事態がより一層悪化するのは間違いないからな。
今の俺には、出来ることをやるしかねぇ。
標的はお前の幼馴染であるハレだけじゃない…今後も麻紀の連中が他の生徒にも勧誘して手を出すことは頭に叩き込んどけ。
あと、生徒全員の救済は土台無理と考えた方がいいだろう」
「無理って…そんな言い方」
「麻紀の連中ともう一度会った時、今度は大部隊を連れてくるかもしれない…それに、学内全員を24時間も管理してるわけじゃねぇだろ」
竹成側からしたら、祭を捕らえようとしている麻紀の目的がわからない。が、彼らが結界を使って閉じ込めようとしてきた。竹成の介入によってそれは免れたが、次はこの学校を特定され、生徒達も利用しかねない。監視もなければ、人気のない場所を狙って人質として使うことは造作もないのだ。
「それは…」
「優しい王様になるなとは言わない。が…ただ周りの気を利かせつつ、優しいままなだけじゃ自分も周りも変えられないんだ。
間違っても『裸の王様』にだけはなるな。
そして今後、俺は護衛として集達を必ず守る、いいな?」
竹成は、作成した資料を集に渡す。
資料の名は『ヴォイド制』
区別と差別もあるかもしれないが八尋のように徹底的というわけではない。が、秩序を保つだけではなくこの学校にいる生徒達と共にレッドライン脱出のための計画も立ててくれた。
「これは、俺が考えた提案だ。
採用するかどうかは、上に立つ者の責務。
お前が言わなければ、誰も耳を傾けない」
そう言いつつもまだ落ち込んでいる集の肩に手を置き、竹成は背中を押した。
「大丈夫、胸を張って言えばいい。
お前が良いという案に、俺はできる限りのことで尽力を尽くすさ」
*****
麻紀達に襲撃されることも考え、今後は集、祭、いのりの三人暮らしをするようになる。
「疲れたな…」
集にとっては只でさえ息が詰まりそうな状況で、しかも、いつどこで敵が襲ってきてもおかしくはない。この学校にいる生徒達は何も知らないが、いずれ竹成の言っていた麻紀達は行動を起こすだろう。
今やるべきこととしたら次の日には必ず、生徒達の眼の前に出て決めた制度のことを言わなければならなかった。
「ちょっと顔洗ってこようかな…」
集は、洗面台へと向かおうとする。
すると
「「あっ…」」
風呂から出たばかりの祭と鉢合わせてしまった。目と目が合い、二人とも突然のことに目を丸くしていた。
男女の共同暮らし、当然何も起きるはずがない。
*****
麻紀のことは出会う前から正輝からの連絡で多少はわかった。最後にあったのは試練編後の抗争前まで麻紀がリアス達に裏切られていたことと、彼の付き添いになっている誠司という男の生死も不明でどうなっているのかが全くわからない。
まさかここまで、麻紀のあり方が別方向へと曲がっているとは竹成は思わなかった。
(とは言っても、麻紀のやつ何人連れてきやがったんだ…悪魔とかのリアス達は正輝達から聞いたからともかく、大砲を武装させた女性を連れてきてまで…一体どういうつもりだ)
どちらにせよ、麻紀達はこの世界の人達を導く気は微塵もない様子だった。黄色ロープも手を貸しており、竹成にとって状況は最悪だった。
「そういやぁ…集に言うの忘れてたな…浴場はお前だけじゃなくていのりとハレの二人もいるから気をつけろって」
ドアをノックして入ると言ったやり方もちゃんと教えるべきだと、集に伝えることを忘れていた。
「お互い家に遊んできてる幼馴染ならなんとかなるか…多分」
が、竹成本人は二人の関係性ならまぁなんとかなるかという感じで、集達のことについては任せることとなった。
*****
「ご、ごごごごめんっ!」
「し、集っ…⁉︎」
お互い顔を赤らめている。祭は裸のままの姿をタオルで隠し、集はすぐにドアを閉める。
祭は腰が抜けつつ床に座り込んで、集はドア越しに祭話した。
「その、わざとじゃなかったんだ。本当に」
「う、うん。だ、大丈夫だから」
「う、うん…」
二人とも戸惑いつつ、そのまま祭が会話する。集もそれに反応し、ドアの前から動かずにきいていた。
「…今日は、本当に大変だったね」
「凄く不安だよ…八尋さんと、竹成さんの提案…結局どっちがいいのかなって」
分からないよと、心細く呟く。
みんなの期待が向けられ、決断できない。
Fランクだと発覚すれば、その人達は身勝手な行動をとることとなる。
祭が殺されそうになって、クズは淘汰されるべきだとヴォイドランク制をやったとして本当に出来るのか。
「颯太のことは、まだ許せてないから」
「許せない気持ちは分かるけど…」
「くだらない理由で、危険な目に合わせたんだ」
囮になっている集が危ないと颯太が判断して車を治すようにと頼んだから、祭も爆発に巻き込まれたら死ぬ可能性もあった。
「それに…やっぱり僕にリーダーは…」
「そんなことないよ…私も、集のやりたいことを応援したいな。
後は、集がみんなにどうしてほしいのかな」
八尋のようにランクの高いものを贔屓して区別し、低いものを切り捨てるのか。或いは竹成の案で、八尋の提案とは緩和化させたものをするべきか。
集は、迷いに迷っている。
「僕は…」
ーーーみんながじゃなくて、集はどうしたいの?
集がどうしたいのか、それはいのりにも聞かれたことだった。みんなの言い分に振り回されて迷ってしまうよりも、早急に集の決断で導いていく必要がある。祭の方はしたいことを応援したいと言っているが、本当は優しい王様になってもらいたいと密かに思いとどめていた。
「その…落ち着いたら、颯太ともう一度話すよ…今はまだそんな気分じゃないから。
それに…僕のしたいことをするには、まず用意してくれた案からまず決めないといけないから」
「そっか…分かった」
颯太と関係が悪くなっても、進まなくてはならない。答えを、決めなくちゃいけないんだなと集は心して一歩へと踏み出した。
*****
デッドラインをヴォイドの力で突破するには、まず生徒全員分のヴォイドを把握するしかない。高ランクのヴォイドの確保もそうだが、集が使う事で優位に立てるヴォイドも必要不可欠だ。
それは分かっているが、竹成は八尋の提案には賛同しかねないものもある。
(途中で抜けたら…それこそあいつらの思う壺だろうけどな)
もし集が八尋の提案に乗れば完全にヴォイドランク制で区別されることとなり、低い人達は間違いなく淘汰されることとなるだろう。
当然、先の問題が解決したとしても周囲の不満は高まり、暴君となっていた集に対して反乱が起きてもおかしくない。竹成にも理不尽なことを言ったら、本当にそれが叶えるかどうかも怪しくなり、最終的に抜けることも考えないといけなくなる。もしも集の言い分に容認できない事態となれば、事件前に学校にいる人達を回収しよう麻紀が動き、大幅な戦力を手にするだろう。
だからといって竹成の考えた案も、この状況で本当に役に立たないヴォイドかつ、ランクが低いものは自分達の出来ることをやらせるしか出来ない。
(この苦しい状況…俺が対処しきれないことも考えて連絡するか)
竹成は万が一のことを考え、同盟している正輝と嶺に救援の連絡をしていた。が、
「正輝、増援要請を頼『現在、正義側のリーダーが介入中な為に不在となっております。再度ご連絡下さい』…ダメか」
たとえ増援が可能でも、他の正義側リーダーとの連絡が繋がらない以上連れていけるのは仲間のみ。正輝の方は、何かしら重要な事で連絡が取れなくなっている。
「なら、嶺の方はどうだ…」
今度は嶺に連絡する。本当にこれでダメなら、竹成達のみで麻紀をどうにかしなくてはいけなくなる。
『あ、もしもし。
加藤さんだっけ?どうしたのー?』
「よし!繋がった…!」
嶺の方は電話がちゃんと繋がった。旅行の時に同盟を組んだ甲斐があったと喜び、このまま嶺に救援を要請する。
しかし、
「救援を頼みたいんだがいいか?」
『あーごめん無理、私の方はそっちに行けない。
何かあったの?』
正輝と同様に、嶺もまた何かしらの事情で竹成には助けに行けなかった。連絡は可能だったのに、助けに向かってくれることができないと知ると、もう黙ることしかできなかった。
話しても、援助は難しそうだと諦めていた。
が、
「いや…話すのは」
『あ、でも一人協力してくれる人がいるよ…えーっと、これか』
嶺が何かを探している間、竹成はずっと電話を切らずに待っていた。
『今から別の人に連絡させるから、ちょっと待ってね』
数分か経つと嶺から匿名という表示で、電話相手が切り替わる。声が男に切り替わり、名前の知らぬ人と繋がった。
『初めまして、5th』
「…お前が、嶺が言っていた協力者であっているか?」
『あぁ、まず状況を話してもらいたい』
竹成は見知らぬ男に若干戸惑いつつも芳しくない状況を話し、彼は竹成の話に何度も頷いて聞く。
『今後、連絡で話すときは『シャドウ』と呼んでくれ』
「シャドウ?影ってことか」
それでも、嶺が協力者と言っているのだから信頼してもいいだろうと事を話していく。
『分かった。そちらに向かうことはできないが、今後とも正体を伏せつつ電話で連絡を取り合うことになる』
「…誰かは知らないが正輝の姉が許容した相手で、かつこの状況の打破に協力してくれるんなら心強い。本当に助かるよ」
竹成は誰と電話しているのか何も知らない。
『あぁ。ただし、こちらで打開策を用意したものは私の指示に従って動ってもらう。
それでいいな?』
電話越しに連絡している協力者の正体、それは1stの仲間ことゼロ、又の名をルルーシュ・リ・ブリタニアだった。