Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

85 / 106
愛の歌(前)

集を部屋まで送ろうとしているが、気まずい空気が漂う。さっきまで責められていた彼の心を察すると考えると、とても彼を励ませるような状態ではない。

 

「…その、ごめん。

一人にさせてくれないかな」

 

集は振り向くことなく顔を下に向けてそう呟く。一同は、その言葉に納得せざるおえなかった。

 

「う、うん…」

 

今の集は誰の口とも聞きたくないほどに、心が弱りきっていた。真実を知らされた生徒達から非難されていた集は個室の隅でうづくまっている。彼らの心無い発言の数々にショックを受けている。半分は道具やら武器やらと言いがかりなのは分かっているが、もう半分は彼にとっては本当のことなのだから途中から反論もできなくなっている。

 

彼は、自室へ入っていく。

 

「…守るはずだったみんなも、僕から離れていった」

 

彼はベッドに座り込み、灯りもつけず暗い部屋の中で落ち込んでいた。

 

「…結局、涯の様にはなれなかった」

 

実際にヴォイドというもので生徒達の心を使っていたのは紛れも無い事実だった。彼自身思えば集自身を見ているのではなく、彼の持つ王の力が余りに便利だったからこそ信用してもらえた。そうでなければ今頃集含む他の生徒達は学校で死に絶えている。彼自身がもともとリーダー気質ではないことも、それを理解してたとしても八尋や友達の支えがあったからこそ生徒会長になったのだ。

 

彼は、こんな悲惨な結果を望んでいたわけではない。

 

「期待してくれる人なんて…」

 

誰も彼も、自分ではなくその力にだけしか見ていなかった。彼の心は悲鳴をあげている。誰もがヴォイドの力を知り、その上で彼はみんなの力を使うことを恐れてしまった。

落ち込んでいる彼は、王の力を秘めている掌をただ眺めているだけだった。

 

*****

 

深夜

 

一方、竹成達は集のことを話していた。

竹成にあれだけ一緒にいる様に言われたのに、生徒達に集の力になれなかったことを悔やんでいる。

静まり返っている中、最初に綾瀬が口を開く。

 

「ねぇ、これからどうするの?」

 

ここに残る生徒は少ない。

集は心を踏みにじられ、生徒に信頼されて彼らの指揮が取れるとしたら竹成のみ。亜里沙は黄色ロープに連れていかれ、八尋はあくまで集を生徒会に導いただけで、生徒達を導けるかどうかは分からない。

 

「生徒の面倒と相談は俺が見る。

彼らも怯えてるだろう…物資の確認は、誰かやってくれないか?」

「その前にだ、俺にあの連中のことを説明をする必要があるんじゃないのかよ?」

 

アルゴに関しては、学校の状況だけ聞かされただけで、麻紀達のような厄介事があるというのは何も聞かされていない。唐突に学校の生徒達と集達以外の部外者が介入し、状況を引っ掻き回していた。

 

「一人でに動いたのは謝罪する。だがそれは、亜里沙を探す為に仕方なかったからだ。

いや…もう既にあの連中に連れて行かれたがな」

「説明か…分かった」

 

竹成はアルゴにも説明をした。麻紀達のような正義側のこと、ヴォイド制度で学校を治めていたこと、それらを含めてアルゴに話した。

聞いていたアルゴにとってヴォイドだけでも異能な力だと言うのに、

 

「何だか、頭が痛い話だな…んだよそれ、だったら何でもありじゃねぇかよクソっ…」

「ひとまず、離れていった生徒達と残った生徒達の確認をしよう」

「じゃあ私はローカルネットの方を確認しとく」

 

みんなそれぞれの動こうとするが、竹成がそれを止めた。

一つ、みんなが行動する為にあることを確認する必要があった。

 

「いや、今動くのはちょっと待って欲しい。

動く前にみんな一つ確認したいことがある。

 

…俺達は、あの生徒達の批判から集のことを擁護していた…けどヴォイドのことは、本当はみんなどう思ってるんだ?

 

俺はヴォイドが壊れて死ぬって知った時は確かに驚いた。だが、それを知ったとしても俺は集に対して幻滅してはいない」

 

ヴォイドが壊れると死ぬ。みんなにその事が明かされていたことに、どう思っていたか。

動くよりも先に、まずそのことを知るべきだった。

 

その質問に、竹成以外のみんなが気まずい表情をする。集を庇っても、真実を聞かされて実際の気持ちはどう思っているのかを聞かなければ協力するのも億劫になる。

 

 

「確かにさ、初めて聞かされた時は驚いたけど…そのことを意図的に隠せるほど集が器用じゃないのは分かってたし。集もそれを知らなかったんだから…今後使う事ならまぁ、仕方ないかなって思ってるよ」

「私もつぐみに賛成。それに…私も、集に助けてもらってばかりだったから」

「真実を知ったとしても、俺の意見は変わらないかはな。ヴォイドは生き残る為に活用する必要がある。

 

それに、ヴォイド無しで一体どうやって生き残りつもりだ?ここに残ってもみんな…ヴォイドに頼らなければこの体勢は必ず崩壊する」

 

八尋以外が弱々しくもヴォイドの使用を肯定している。仕方ないと、助けてもらったと長く一緒にいた人達は理解している。八尋もヴォイドが壊れて死んだとしても使わないと生きていけない、この学校にいる全員の存続のためだと強く発言した。

しかし、

 

「俺は反対だ。大体、これで戦争なんて起きてしまったら何人か死ぬことになるんだぞ」

 

アルゴだけが反対だった。確かにヴォイドを抜き取られ、戦場に駆り出されたら

だが、答えている一般人なら竹成は納得もいった。

 

「確かにな…だが、銃で撃たれても人の死は変わらない。違うか?」

「…どういうことだ?」

「使おうが、使うまいが、戦争を行う時点で…犠牲者が出ているって言ってるんだ。

ヴォイドもまた抗う為の力だ、銃となんら変わらない。寧ろ、一般人の彼らがヴォイド無がないまま考えなしに戦うっていうなら犠牲者どころか全滅するぞ…革命軍として戦ってたなら、この予想はつくだろ」

 

勘に触ったアルゴが竹成の襟を掴むが、竹成は抵抗しない。ヴォイド無しで脱出を攻略しようと言うのなら、ちゃんと考えがなければ皆殺しにされる。

 

「テメェっ…じゃあお前はヴォイドを使うようにあの弱っている生徒達を誘導して、今度はそいつらに向かって死ねって言ってたのか!」

「落ち着けって…大体、全員にヴォイドを使えなんて誰が言った…それに突撃命令を指示したところで人数が少ない以上、無意味だって分かってるだろ。

 

それに、今のところはまだ戦争を考えてない。闇雲にヴォイドだけ武装したところで、今の人数でやったとしても返り討ちにされるだけだ。

だったら、ヴォイド無しでお前に策があるっていうならみんなに聞かせてくれよ…その自信があるからこそ…今こうして俺の襟を掴んでるんだよな」

 

ヴォイドを使うなと一方的にいっているだけで、使わない策を何も考えていない。

冷静になって、彼は手を離した。

 

「悪い…頭に血が上っていた」

「分かってくれて助かる」

「でも、ヴォイドは…集がいないと使えないよ。集のことは、どうするの?」

「そっとするしかない。当の本人が…かなり気が滅入ってる以上、今無理矢理に集の説得に向かったところで解決しないだろ、だからといってこの問題を放置する事も出来ない。

 

でも、集が無理なら、最悪…ヴォイド抜きで戦うしかない」

「⁉︎…本気で言っているのかっ」

 

八尋は集を復帰させたいと考えているものの、それでも彼の心を癒す時間が必要だった。彼の状態では、学校のみんなを先導することはできない。

 

「落ち着け、俺に考えがある。実は…麻紀のような部外者の他にも協力者がいる」

「…そのことも、黙っていたのか?」

「誰かとは言えない…ただ、その人物がいるってことはみんな理解して欲しい」

最悪の事も考え、竹成は協力者の事も話す。

ただし、黄色ロープや麻紀に漏れる可能性もあるために一応シャドウという名前を伏せて話した。

 

「私達さ、結局去っていく生徒達を止める事ができなかったじゃん…」

「そうだな。だが、今一度整理してからまた作戦を考える。協力者もこの学校にとどまった人数が知ったことで考えてくれる。

動くのは明日からでも問題ないだろう。

みんな…疲れてるはずだ。

今日のところは、もう解散しよう」

 

集を庇っていても、生徒達の過半数が麻紀の元へ行っている。竹成も一番最悪な展開になることを防ぐために、あんな発言をした。もう、竹成と集の助けなしでは学校にいる全員が崖っぷちに追い込まれている状況だった。

 

 

*****

 

3日後 早朝

 

竹成は生徒達の不安を和らげるために、彼らの相談にのっていた。

「ほ、本当に何とかなりますか…?」

「大丈夫だ、君達の思いは無駄にしない」

麻紀達が去っていても、このまま滞在しても良かったのだろうかとストレスで眠れない彼らの心の支えとなっている。

竹成は生徒達の相談を終え、廊下でずっと考え事をしている。

 

「生徒達が離れていったことで…在庫のワクチンと食料は十分ある…いや、余っているくらいだ。

残る課題はデッドラインの脱出、あと集のことか」

シャドウからは計画の為の機材部品を輸入し、沢山の罠を仕込ませる準備をしている。

ワクチンも、食べ物も、武器弾薬も問題ない。

(できればあいつを…)

 

それでも、集の心を救えたら。

作戦開始の際に一クラス分の生徒達を指示する人を誰がやるか、指揮系統の人が2.3人必要なことだ。最悪、竹成ともう一人経験者がいたら何も問題ないが、指揮される生徒達は軍人でもなければただの一般生徒だ。

必ず生徒一人が出来るとは限らない。

 

竹成は生徒達を導いて欲しいと望んでいるな、落ち込んでいる彼に何をどう伝えれば救い出すことができるのか、心に深刻な傷を負っている以上無理をさせる訳にもいかないとも考えていた。

その心の傷を癒せる人と話すことができれば、集がもう一度立ち上がれるかもしれないと模索している。

 

(俺達だけで事を進めるにしたって…)

 

彼の落ち込みが収まって、祭といのりの二人ともう一度話すことができ、復帰できたら何も問題ない。それ以外の人と話したところで、心から救うことは出来ない。下手なことを言えば、悪化してしまう可能性もある。

 

かといって、長引けば長引くほど状況は悪くなる一方だった。仮に脱出計画が成功したとしても集が王の力を持っている以上、誰かに命を狙われる可能性だってある。

そんな時、いのりが集の元へ花を持って行こうと歩いていた。

 

「ん?その花はどうしたんだ?」

「近くの花壇にあったの…その花を摘み取って持って行こうと」

 

落ち込んでいる集を励まそうと、いのりが集の為にとってきたものだ。

 

「これを、持ってきたの」

「そうか…俺じゃ集を救えるかどうか難しい。

 

あいつのことを知って励まそうと思っても、悪戯に悪化させてしまうかもしれない。だからその「私は集のことを助けたい」…そうか」

 

彼女の目には、強い意志がある。誰かに従われたからやったというわけではなく、自分の意思で。

竹成は頼もうと思っていたが、その前に彼女は動いていた。

元々ヴォイドのきっかけが彼女で、ずっと集のそばに居たというのであれば、彼と向き合うとしている気持ちに、彼女に任せるしかない。

(情けないな、本当に…)

竹成も、八尋達は出来ることを一生懸命にやるしかできなかった。

 

*****

 

3日後 昼頃

 

祭は集のいる部屋のドアで不安な表情になりつつも深呼吸し、意識を整える。今の集のことをそっとしておいたほうがいいとは竹成に言われたが、祭はこのままじゃ良くないと動いた。何の接点もない竹成が、集に言葉をかけたところで突っ返されるか、否定的なことを言われてしまう。

 

颯太のような友達でさえも壁を作ってしまうほどに、なら助けれるのは集のことをちゃんとよく見ている人しかいなかった。

(よ、よしっ!)

 

祭は気を取り直し、ノックして入って良いかと尋ねた。

 

「ねぇ集、入ってもいい?」

「…良いよ」

 

集は、他の人なら誰の顔も見たくないと言うが、祭ならと許可を出す。彼の顔色はまだ悪いままであり、彼女の話に耳を傾ける程度くらいしか出来ない。

 

「何の用…」

「えっと、落ち着いて話せるかなって」

 

未だに集は暗い表情で顔を出す。みんな、集のことに関しては何も言わずそっとしていたが、彼を一人きりするのもどうかと親しい祭から

 

「…だった3日でどうにかなるわけないでしょ」

 

祭は、集の隣に座る。部屋に入ったものの、気まずい空気になり何を喋っていいのかと彼女は戸惑う。

祭は集を励ますことから、先に言った。

 

「えっと…そのね、集は出来ることを頑張った、あれは仕方ないよ」

「仕方なくなんかない…失敗した。嫌われて当然のことをした、僕がみんなを支える資格なんてないんだよ」

「でも集が生徒会にならなかったら、今頃みんなどうすればいいのか分からなかったんだよ?」

 

集の言葉は、否定的だった。

もし計画が成功していたのならば、罵声を言われることもなかった。だが、成功と失敗以前に生徒会にならずに、リーダーのいないままみんなが闇雲なままいつまでも他人任せのままの姿勢をとっていると崩落することになっていただろう。

 

「ねぇ集、優しい王様って絵本を読んだことある?」

「…急にどうしたの?」

 

祭が隣に座り、絵本の内容を聞かせる様に話しを続ける。小さい頃に好きだった本のことを、集に話した。

 

「その王様はとても優しくて、みんなにお金をあげたり、土地を譲ったら…とうとう国が無くなってしまったの」

「…」

 

集はその話を黙って聞く。彼自身、祭の話に乗せられたかのようで少し気に入らなかったが、それでも耳を傾けていていた。

 

「王様はみんなに叱られちゃうんだけどさ…私は、集がその王様に似てるの。

優しいところも、損しちゃうところも」

(僕のこと馬鹿にしてるわけ…?)

「でもさ、やっぱりその王様の通り…優しさだけじゃ誰も救えなかったでしょ」

 

絵本と同じ通り、結果的に集は騙したのかと文句を言われ、信頼を無くして離れていった。馬鹿にしに来たのかと、軽蔑した目で見ている。

 

「そんなことないよ。だって、私」

「…随分と人の気持ちが分かるんだね」

 

あれだけ否定されて、まるで優しいから失敗した哀れな王様みたいだと聞かされているようで鬱陶しいと思い、幼馴染であろうと容赦なくドスの効いた事を言い放つ。

絵本と自分を一緒にするなと考え、結局は同情して、結局自分のことがさも分かっていたフリして何も分かろうとしないようだと感じてしまう。

しかし、

 

「…ううん、分からないよ。私は集と長くいたから、昨日のことで集の顔を見て本当に辛いんだなって事が分かった。

だから、力になれなくて本当にごめんね」

 

祭は、集の目を見る。捻くれて嫌味なことを言ったから嫌われるんじゃないかと冷たい態度をとったのにそれでも集のことを助けようとしている。

 

「私は、集の側にいて、本当に集のしたいことに協力したいって考えてた。

あの人達は【王は人の心が分からない】って言ってたけど…でも私は…人の痛みがちゃんと分かって、損してでも誰にも優しく接しているそんな王様が、集が大好きだから」

 

遠回しに集のことを告白していることに。祭はそのまま集は彼の手を掴み、励まそうとしている。

 

「大丈夫。私は…たとえみんなに責められて、一人きりになったとしても集のことを信じる。

最後まで集のことを側にて、支えるから」

 

そう言いつつも、後々祭の顔が自覚していないままいつの間か大胆な告白をして赤くなっていた。

 

(な、なななっ、何私言ってるの⁉︎

入る前に、落ち込んでる集に何言われても怒らないように心構えをしていたのに…私っ…変な早とちりをして、え、ええっと…)

 

大丈夫と言っておいて、実際祭本人は集に好きだという自分の気持ちを伝えたことに動揺し、集に顔を見せまいとすぐに部屋から出て行こうとする。

だが、祭が強い意志を伝えたことによって集の心を僅かながら救っている。

 

「そ、そのっ…私の言いたいことはそれだけ、それじ「は、祭っ!」」

 

集が部屋から出ようとする祭を引き止める。

馬鹿にしているのかと思ってキツイ言葉を言ったのに、本当は祭が集のことを支えたい、助けたいと思ってここにやってきたことに気づいた。

 

「…その、ひどい事を言って、ごめん」

「えっ?」

「いや…僕が、人の気持ちが分かるんだねって…」

 

集は祭にあんなことを言って、傷つけてしまったのではないかと謝る。

 

「良いよ。集はその…まだ、自分の気持ちに整理が付いてないと思うから。でも私は、やっぱり優しいままの方が集らしいって思ってるよ」

 

祭が部屋を出ようとすると、今度はいのりがやってきた。祭が出ようとしたところ、丁度よくいのりがやってくる。

 

「えっと…入っても良い?」

「う、うん。いいよ、入って」

 

集はいのりが不器用なことも知っていたから、許した。いのりも祭の考えと同じようにこのままじゃいけないと思っていたからと動いていた。

祭の出る間際に、いのりが祭りに感謝する。

 

「ありがとう。私だけじゃ…集のことを助けるか不安だった」

「うん…いのりちゃんもやっぱり」

「…集が責められたのは、私の責任でもあるから」

 

祭が励ましたおかげで、集も冷たい態度をとらずにいのりがここに来た用件を聞こうとする。

 

「急に入ってきて、ごめんなさい」

「そ、そんな事ないよ…驚いたけどさ。

それでどうしたの?」

「集の様子を見て、心配して来た。

このままじゃ、いけなかったから」

「えっとその、ありがとう…」

 

葬儀社という組織の為に、集を利用しようとしていた時もあった。

集はこのままじゃいけなかったのかという言葉が一体どういう意味かがよく分からなかったが、いのりも祭と一緒に心配して来たことについて感謝の言葉を伝える。

 

「ねぇ、集。私が集のこと、みんなのことを知りたいって言ったの覚えてる?」

「確かに、そう言ってたね。ずっといても良いって約束をしていたことも」

 

そうやって少しずつ集と一緒に動くことで色々なものを知り、感情を知っていくこととなった。喜びも、嬉しさも、悲しみも、彼女は知ることができた。

 

「貴方が居たから、私は少しずつ知ることができた。それでも私はまだ…みんなの様に上手く伝える事が出来ない。

 

でも、いまの私はハッキリと言える。

集は何も悪いことはしてないよ。

私が集の頑張っているところを、ずっと見ていたから」

 

ヴォイドの力を手にし、葬儀社に協力していたことも、いのりを助けるために友達の力を借りて戦ったことも、恙神涯がいなくなっても学校で彼なりに必死で頑張っていたことも。集が前まで臆病な面があったが、ヴォイドの力を持っていたとはいえ、みんなを支えるよう導きつつ彼自身も成長していった。

 

「こんな人の心が分からない僕じゃなくても…ヴォイドの力を持っている他の誰かなら」

「集で良いとかじゃない。

私は、他の誰でもない…集が良いの」

 

いのりは、キッパリと集がいいと断言する。誰かがヴォイドの能力が使えるとかではなく、集本人がいのりを受け入れ、彼女も集を支えるよう言った。

 

「これ、気が向いたでいいから…それじゃあ」

 

そう言いつつ、いのりは集の机の上に花束を置く。シロタエギクを添え、本と付箋を置いて部屋を出ていった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。