4日目朝
黄色のロープをした彼らが、封鎖したはずの体育館に全員を集め、ヴォイド破壊のことで明かされたその日。生徒達に向けられる憎悪、悲鳴と憤怒の入り混じった叫びを聞いた集の心は悲鳴を上げていた。
もう動ける気力はなく、何を努力したところでみんなに幻滅されるだけだと、彼の心は未だに深海のように暗いまま。
3日間、彼はそんな感情に苛まれていた。
どんな優しい言葉で声をかけても、追い詰められてしまった彼は自分の事で精一杯になってしまう。
しかし、ずっと落ち込んで冷たくあしらったにも関わらず祭が思いきって話しかけてきたことも、いのりも集と向き合ってくれたことに驚いていた。
【人の痛みがちゃんと分かって、損してでも誰にも優しく接しているそんな王様が、集が大好きだから】
【集で良いとかじゃない。
私は、他の誰でもない…集が良いの】
彼の心に光の兆しのようなものを空けてくれていた。誰かに軽蔑されたとしても、それでも信じてもらえる人がいることを微かに分かりつつある。
3日目の夜、彼はずっと一人で考えこんでいた。
起き上がるともう既に午前9時を回っている。
集は起き上がろうとし、いのりが置いたその花を調べようと本を手に取る。
(…あっ)
付箋にあるページを開くと、置いていた花束と見比べつつ、写真と花の詳細を確認する。
本を調べて、いのりが花を持ってきた理由がわかった。
シロタエギクの花言葉には(貴方を支える)という意味が込められている。
〈私を、使って〉
初めてヴォイドを使った時、そう言われたことを思い出す。
彼女らしい花を選び、それを集に送った。
「…いのり、らしいや」
集は、その花言葉を見てほくそ笑む。
ずっと誰かを疑心暗鬼になっていた心が、少し薄れていくように思えた。言葉では伝わらなくとも、彼女自身の思いを伝える為に花を貰っている。
部屋から出ると、女の人が歌っているのが聞こえていた。
集はその声に引かれつつ歩いていく。その歌を聴きながら階段を降り、歌の方へと向かう。彼は目の前にあるドアを開けると、そこには音楽室で一人、いのりが歌っていた。
「…集?」
「あっ、ご、ごめんっ…出ていくよ」
思いつく言葉が浮び上らず、合わせる顔がないと出て行こうとする。
歌の邪魔をしたかと思って出ようとしたが、
「待って!」
いのりが出て行こうとするのを止める。
振り向いてドアノブに手を取ろうとした時に、彼はは立ち止まった。
「あ、あの…花と本のことちゃんと見たよ。その…ありがとう」
気まずい空気が漂いつつも、花の贈り物のことでいのりに感謝を伝えた。
「集は、今まで私に色々なことを教えてもらった。だから…今度は私から集に」
いのりは知らないことを教えてくれたことで、今度はいのりが動き、集のために調べつつあの花をあげた。
「…どうして、ここで歌ってたの?」
「集が忙しそうだったから、ここで歌ってたの」
「そうだったんだ…」
竹成が提示したヴォイド制度は生徒全員の管理までは難しかったかもしれないが、制度を作ったことによる管理で忙しかったから、集は自分のことで精一杯だった。
「気づいてあげられなくて、ごめん」
「?…なんで謝るの?」
「僕が、みんなに心配かけるようなことしてばっかりで…最低だね」
集は、竹成の提案した計画に賛同したことで多忙になっていた。碌に、いのりのような身近な人と話す機会もそんなに出来ない。
側にはちゃんといてくれたが、それはあくまで竹成が集の大事な人を人質にしようと麻紀が企むという理由もあれば、二人ともヴォイドのランクが高く、計画において必要不可欠な人物であったからだ。
「…今の集は最低でも、臆病者じゃないよ」
「そんなことないよ…だって祭を危険な目に合わせて、他の生徒達にも、それにいのりのことすら…」
最初は集が気づかないまま、多忙だったから
自分の言葉で言わないと思いつつ、いのりは集に近づいく。
「ねぇ集、こっち向いて?」
頑なに振り向こうとしない集は、まだ意地を張っている。いのりの前で話そうとはせず、ただ音楽室の出入り口のドアの前で突っ立っているだけだった。
「駄目だよ。合わせる顔なんて」
「…良いから」
自分に向けさせるように集の腕を掴む。
いのりが彼を無理矢理振り向かせると、顔には自然と彼の瞳から涙が溢れていた。頰を伝って流れ落ち、それをいのりが拭き取る。
「あっ…」
集は、こんなにもいのりが思ってくれていたことに集は泣いていた。ヴォイドの恐ろしさを知って、嫌う人間だっていたかもしれない。
複雑な感情を抱いて、彼らは集を卑下し、卑怯者と罵倒してきたことに自分を責めていた。
「来て、集」
いのりは手を差し出す。
彼女の言葉に戸惑いはしたものの、彼はそれに甘んじるかのように黙って受け身のまま彼女の言葉を聞き入れた。
いのりは優しく集を抱きしめ、頭を撫でる。
「優しいだけじゃ誰も救えないのも、この残酷な世界で嫌というほど分かってたのに…」
「うん、頑張ったね」
祭とは違っていのりは不器用な言葉ではあったが、 それでも彼の心にはちゃんと届いている。あの体育館で、生徒達が責めても集と彼と一緒に考えてくれた仲間達がちゃんと助けたことを思い出す。
「ヴォイドの力でみんなを救えるなら、そう思って戦ってきた。でも、涯のように導くことが上手くできなくて、
それどころかみんなに罵倒されて、もう卑屈になって…どうしようもなくなって。
だから…本当に、本当に、辛かった」
「無理せずに、泣いて良いよ。
ここには私と集しかいないから」
堪え切れなかった彼は、いのりの胸を抱いて泣いた。みんなを助けたいと、彼は必死に堪えた感情がいのりの前で崩れていく。
「…いのりちゃん…」
一人、扉に祭が隠れつつ、聞いていた。
疲労していた集が部屋から出ていたところを見て、心配になった彼女は気づかれないように彼を追っていた。
(良かった…)
祭は、集が自分の感情をちゃんも吐き出して泣いている声が聞こえる。形はどうあれ、心が壊れかけ、暗い心のままとなった彼の孤独を、二人が優しく受け止めた。
「集、目の周りが真っ赤」
「だってそれは、泣いたから」
祭が優しい集が大好きであることも、いのりが集のために花を渡し、今の彼を受け止めてくれたことも。
「でも…ありがとう、いのり。
もう大丈夫だから」
些細な会話をしつつも、集といのりは緊張がほぐれたように二人とも笑い合っている。
だが、その安息を遮るかのように複数の爆発音が学校に轟く。
「⁉︎な、何⁉︎」
「…外?」
二人が窓を見ると学校が大砲で破壊されているのを発見した。生徒達を騙して勧誘するだけでは、麻紀自身の虫の居所は収まらない。
麻紀は、学校にいる全員を潰すつもりで襲った。
*****
その日の朝も、竹成は何時ものように忙しく動いていた。生徒達のメンタルケアをして管理しつつ、今後どうするべきか迷っている。
人数があるのは問題なかったが、またシャドウに連絡したところ
『…竹成。私は人数の方で条件がクリアできるとは言った。
だが、彼ら自身がまず戦えるかどうか。
それが出来なければ、それはもう手を課す以前の問題だ。
その先の話は問題が解決してからだ』
と言い、戦略を立てるには生徒達の士気を上げるしかなかった。協力者側の方はあくまで武器と戦略を与えるのみで、それ以外の保証は竹成達がどうにかしなくてはならない。
しかも、仮に生徒達のメンタルを回復させたとしても、作戦次第ではまた逆戻りしてしまうのではないかと。
「竹成、話がある」
「八尋か?どうした」
八尋がまた何か言いたそうな険しい顔をして話をかけてきた。
「何を企んでる…」
「え?企むって一体どういう」
「正義側のこと、あのロープのこと、力のことも…しかもその上で見知らぬ協力者がいるから安心してくれ?
巫山戯るのも大概にしろっ‼︎」
竹成が協力者のことを伝えたことで、八尋達は安心どころかまた更に疑心暗鬼になっていた。協力者がいるってことも何も聞かされてなかったのに、どう信頼しろと疑っている。
余計な事を言ったが故に、竹成のことをまた更に疑心に思ってしまわざるおえない状況だった。
「こんな誰かを疑う場合じゃないだろ。それにもう時間もない、俺達はもう藁にすがってでも掴むしかない」
仮にもし俺が陥れることが前提だったら、ここにいる生徒達のメンタルケアなんてしてない」
「なら、その協力者だって信用できるのか⁉︎」
嶺の紹介を信じた上で、八尋のように姿を隠しているシャドウのことについては追求はしなかった。
「…出来る」
躊躇いながらも、竹成は八尋に対してそう断言せざるを得なかった。
「なら、そう言い切れる根拠はなんだ」
「もし協力者が信用に値しないなら、俺がみんなに言う必要がないからだ」
嶺が同盟を結び、信頼できると考えた上でシャドウのことを紹介されても疑わない。この状況でどうにかするにしても、誰かの手を貸してもらう必要があるからだ。
竹成達の力では、麻紀の侵攻を防ぎきれない可能性もあるから、竹成達以外でも誰かの助けが必要になる。
「…確かに、みんなを不安にさせないために俺もああ言ったのは軽率だった。
それでも、信じて欲しい。
頼んだ協力者が俺たちの味方だってことを」
「お前っ…」
八尋は疑心には思ってはいるが、竹成も悪戯に言っているわけではないのはわかっている。そうでなければ、生徒達のメンタルケアに向かうような協力関係はやっていないからだ。
なんとも言えない沈黙が続くが、一人の男子生徒が竹成の元にやって来る。ゼイゼイと息切れしつつ、竹成と八尋に伝えようとした。
「…?どうした」
「や、やっと見つけた!が、学校が…」
窓から運動場と体育館の方を見ると、何処かで見たような姿がおり、次から次へと学内に転移されていく。
リアスとその眷属、死んだ目をしている艦娘達。仲間を集めただけだと彼らは言っていたのに、その上学校を襲ってくるという最悪の展開は予測はしていたが、まさか早くやってくるとは思ってもない。
麻紀は、大部隊で侵攻してきた。
「あいつらっ…まだ諦めてないのかよ‼︎」
破壊されていく学校を見て、竹成は青ざめている。監視をする生徒達もそんなにいない為、外も内側も襲撃を知らせるのが遅い。
「ひっ⁉︎う、背後に!」
『やっはろー!4日ぶりだねぇ、元気にしたかい竹成君!』
「またお前らかっ…!」
*****
学校の襲撃前
麻紀達は生徒達を集め、戦力も増強することが出来た。やることはやったはずだが、それでも麻紀は不満そうな顔をしている。
そして、
『…え?王馬集と竹成を今すぐに殺す?
いやいや絶対に守るべき箇所を固めてるって。俺の助けなしとか、間違いなく返り討ちにされるだけだけどさ。
まぁ行くんならちょっと待ってくれない?』
黄色ロープは時間を置いて、考えつつも今後の方針に狂いがないかを面倒くさそうに考案する。問題ないと判断した黄色ロープは、許可を取った。
『いやまぁ…別にいいけどさ』
「それじゃあ今すぐに潰しに行こう!」
『うん、今すぐに…は?』
が、まさかすぐに行くとは思ってはいない。
麻紀はすぐさま仲間に伝達しようと動く。
ただし、仲間を集めて話をまとめると言うわけではなく、口頭で伝えるのみ。集まったところで、麻紀のことが気にくわない連中が大人数で押さえつけられてしまうと麻紀は考えていた。
彼自身、誠司をリアス達に見殺しにされて以来信頼できる人なんて誰もいないからだ。
(んーまぁ、竹成程度が脱落したところで今後の進展に影響はないか)
「よし!これであの竹成と王馬集を殺せば、僕の評価も高くなるからね!」
こうして、麻紀は戦術を立てないまま残る生徒達の殲滅と、学校の破壊の二つを命じ、出動させた。
*****
『俺は別にあれで問題無かったんだけど…麻紀君が君らともう一度遊びたいんだってさー?どうやら諦めが悪くって』
外側から砲撃し、学校を崩そうという魂胆だった。学校の外壁や教室が、砲撃と魔術攻撃によって崩れていく。
既に、黄色ロープが学内にやってきていた。
八尋は唖然とし、竹成は窓を開けて指揮をしている麻紀に向かって叫ぶ。
「麻紀ぃぃぃっ‼︎」
只でさえ生徒達はまだこの状況に恐怖しているのに、麻紀達の襲撃という形で彼らに追い討ちをかけてきた。
「学校を壊し、生徒達を外に出す。
出ていった彼らも一人残らず潰すんだ!
一切の容赦は駄目だからね!」
彼らがもう生徒を生け捕りにせず、殺しても構わないという指示を送られているなら学校を壊わつつ瓦礫の藻屑にする方が簡単だろう。麻紀の判断として、あの時生徒達が来ることを拒んだのならばもう遠慮はしなかつた。
竹成や学校にいる全員を殺さないと、確信した勝利だったはずなのに、それを泥を塗られたことで彼自身の怒りが収まらなかった。
『ねぇ、王様は奴隷に二度刺されるって知ってる?麻紀の場合は滅多刺しにしないと気が済まないそうだけど』
「君は、君達は許されないことをした。
ここにいる彼らを全員殺す。もうデッドラインなんて待ってられないからね?」
『それじゃあ後は任せたよー、俺は学校が崩れゆくのを見物させてもらいますわー』
黄色ロープも戦力集めは十分だと転移し、麻紀は携帯で仲間に命令権です指示を飛ばしつつ、彼らに生徒達を襲わせる。
学校に残っている彼らを、誰一人生きて返す気は無かった。
これでは、あの時止まらなければよかったと嘆く人もいれば、このまま殺されてしまうんじゃないかとメンタルが崩れ、心を崩す生徒達が続出するかもしれない。
「今後こそ…勝負と試合にも勝つ。黄色ロープの手を借りずに、君達を葬ることで!」
「八尋、他の生徒会のメンバーに連絡して生徒達の避難指示を頼む!
あの人数から察するに、体育館と運動場付近は既に連中の拠点になってるかもしれない。
絶対、その場所には避難させるなよ!」
学校の内側から大人数でやってきたと言うことは、体育館と運動場は麻紀達の転移の出入り口となっている可能性が高い。学校が倒壊して外に向かおうとしたら、確実に殺されてしまう。
「俺はこいつらをなんとかするっ‼︎」
竹成は携帯で仲間を呼ぶ。ライダー達をこの学校に集めようと連絡して、この状況を打開しようと急ぐ。
麻紀が用意します艦娘の人数と大砲の威力を鑑みて、学校を壊すのはそんなに時間もかからない。
先に艦娘の人数を減らす必要があった。
(なんにせよ、学校が倒壊するのも時間の問題だ…集達のことも心配だが、他のライダー達に任せるしかない。俺の方は、学校が倒壊する前に指揮系統を取っている麻紀を潰す!)
一方、葬儀社の綾瀬達は騒動に気づき、学校に集めた武器庫を手にとって反撃するが、全く効いてない様子だった。
「綾瀬、そっちはどうだ!」
「駄目…全く効いてない」
「くそっ‼︎」
深海棲艦と戦ってきた艦娘相手に銃火器程度では怯まない。艦隊を擬人化させた彼女達相手に、生半可なものでは攻撃は通らない。
「このままじゃ…私達」
「ここにある武器で戦うしかねぇだろっ!」
アルゴが勇敢にも戦おうとするが、どう考えても敵の数が多い上に、未知数な力も手にしている。
「くそっ…集と、竹成の野郎は一体どこにいるんだよ!」
竹成の方は携帯でライダー達を転移させようと取り出しつつ、麻紀を直接叩こうと動く。
麻紀がいる限り増援を呼ばれ、仲間が何人いるのか分からない以上彼を叩かなければ抑えきれない。
『緊急連絡だ!今動けるライダー達はすぐ転移し、生徒達を守ってくれ!
俺はまた襲ってきた麻紀の連中を叩く!』
学内にいる生徒の救出に向かうのもあるが、その役割を他の仮面ライダーに任せる。
が、麻紀の行く手に戦艦と重巡艦の艦娘が道を遮る。
「そこを退け…‼︎」
「…やってみろ、人間風情が」
竹成の前には日向率いる艦娘達が何人か立ちはだかる。
麻紀の元に行かせないために。
状況はまた、麻紀の再度の襲撃によって最悪に陥った。