Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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結束

麻紀達の襲撃後、食堂にいた生徒達は自室に戻るようにする。学校内の修復はまた後回しになり、先に竹成達は会議室に集まることとした。

 

「それじゃあ…ここまでの状況を纏めるぞ」

「大丈夫だったのか、集。

前までずっと気が滅入っていただろう」

「うん、もう大丈夫になったから…みんなに見せたいものがあるんだ」

集が立ち直った経緯を話す。

いのりと祭が気にかけてくれたおかげで集が立ち直り、いのりと祭の三人が麻紀に襲われたことも。彼は、二人を助ける時に出した虹色のヴォイドを見せる。

 

「ヴォイドの色が…」

「これのおかげで瓦礫を防ぐこともできたし、ヴォイドも壊れなかった。僕にもどうしてこうなったかはわからないけど」

 

王の力が変異し、ヴォイドを落下する瓦礫から防いだ。このように変化したのはまだ不明で、助けたいと強く思ったらこのような力を手に入れ、助けることができた。

 

「そうか…なら退けた後も、何かあったのか?」

「実は…黄色のロープもやってきて」

(あいつかっ…)

 

高みの見物をしていた黄色ロープは麻紀が敗れること自体思ってもなかった。ちょっかいを出そうとしているのが目に見えている。

 

「おい、それって大丈夫だったのか…何かひどいことを言われなかったか?ヴォイドを使ったとしても、攻撃だって「それが…実はヴォイドの力が通用したんだ」なっ、本当なのかっ⁉︎」

 

集が何かされてないか心配したが、逆に返り討ちにしたことに驚く。反射することなく、集のヴォイドは腹部を切り裂いた事も。

 

 

「ねぇ、ヴォイドの攻撃は通用してるんだよね?それ以外はダメなの?」

「ダメだ。銃も斬撃も…全く通用しない」

(黄色ロープに攻撃しても全く通用しなかった。

実際俺の攻撃も反射されていたからな…だが、こうしてヴォイドの攻撃が通用したってことは、確かに弱点がある。問題は通用するのかヴォイドだけなのか…或いは)

「俺達も、奴の力のことはまだ知らなかったんだ。でもなんで集は、ヴォイドが効くって分かったんだ?」

「みんなに証拠として見せた映像が何よりも決定的だったんだ。ブーメランを投げた時も彼はちゃんと回避したんだ。

もし反射があるなら、なんで避ける必要があるんだろうって…麻紀って人が手に持っている銃器もそれで分かったから」

「あそこで思い起こすことがなかったら、気づけなかったってことか」

黄色ロープ対策は王満集を勧誘すれば、良いだけではないか。仮にもしあの黄色ロープにはヴォイドしか通用しないのなら、彼を連れて行くしかないと。集の他に心を武器にした力は反射どころか防ぐことはできないのか。

 

 

むしろその弱点をつけば、黄色ロープを倒せるかもしれないと、一度はそう思っていた。

 

 

「あの…竹成さん」

(…いや、それは絶対にダメだ。

馬鹿なことは考えるな)

 

しかし、竹成自身は正義側の問題に集達を巻き込んで欲しくはなかった。強引に連れて行けば、麻紀のやっていることを認めてしまうことを。

この世界にいる間ならば黄色ロープが出現次第倒すことは可能だが、竹成もまさか集のヴォイドが効くとは思ってもおらず、本当なら集を勧誘したいと考えている。

 

 

主人公を連れて行かなければ、楽園の所有物になるというとんでもない規約を身勝手に作っているこの組織に、彼の身を案じて入れることはしなかった。

 

竹成は集の顔を見て、何も言わなかった。

 

 

「いや、何でもない…外敵の話はここら辺にして、今度はレッドラインのことで話そう。

どうなってるか分かるか?」

「迫ってきてるよ。もうあまり時間はないみたい…この進捗で進んでいけばあと一週間くらいで学校も巻き添えになる」

 

つぐみが映像をみんなに見せる。

今はまだ、このメンバーだけ現状を知っているが、いずれは作戦が始まる時には現状を生徒達は知る必要になる。

 

「作戦はどうするの?」

「そのことについて俺から言いたいことがある。まず集、つぐみ、八尋の三人は協力者と話してもらう。

時間は午後7時。作戦自体はその人物に従って動くことになる。

作戦の内容についてはその後だ」

集達と協力者であるシャドウで話すこと自体、大変危険な事だった。まず生徒の誰かに聞かされると、協力関係がバレてしまう。

そうなってしまったら、何もかもを黄色ロープと麻紀達に引っ掻き回され東京脱出そのものが不可能になる。

 

しかし、黄色ロープと麻紀が撤退した以上、このことを聞かれる可能性はない。竹成は何よりも疑心暗鬼の状況を解消するために、通信とはいえ協力者と対話する必要があると。

 

「それなら僕からもいい?」

「なんだ?集」

「…作戦を始める前に、まずみんなの気持ちを確かめたいんだ」

 

夕方 午後6時頃

 

集は放送室に向かう。

生徒達を体育館に集め、今後のことを発表しようと考えていた。体育館は既に封鎖を解除したのは、本心を言うためにも必要なことだった。

 

「なぁ…本気か?無理にしなくても」

「しかも前へ出る必要はないだろ、何なら俺が代わりに」

 

また前回と同様に批判を浴びせられ、心がまた折れるのではないかと竹成と八尋は生徒の前に出るのはやめた方が良いと促す。

 

「いや、良いんだ。僕が言わなきゃ他のみんなだって何も始まらない」

「…分かった」

 

集は学内にいる生徒達全員を体育館に呼ぶよう伝達する。

 

『生徒会長より連絡します。全校学生は本日の午後6時に体育館へ集合して下さい』

 

それを聞いていた生徒達は、時間通りに体育館へと向かった。体育館では立ち直っている集が前に出て、みんなに話す準備を既にしていた。生徒達が凝視し、どんな発言をするかを心待ちにし、ちゃんと聞こうと耳を傾ける。

集はマイクを手に取り、電源を付けた。

 

「こんな時間にみんなを呼んで、本当にごめんなさい。でも、これは本当に大事な事だから話さないといけないんだ。

僕にとっても、みんなにとっても。

 

 

正直に言えば…僕はリーダーになんて向いてなかった」

 

最後の言葉に一同は動揺する。

一人一人が不安になっているところに集が事実を明かしたことで、八尋の提案から生徒会長に立候補することになったのも、ヴォイドという力があってこそだった。

 

集がリーダーに向いていないのは、前から自分がよく分かっていたことも。

 

「このヴォイドの力に出会って、嫌なことも沢山あったかもしれないけど…それでも今になってこの力がなかったら今頃僕はみんなのように他人事って認識で、見て見ぬ振りをしていた。

僕が生徒会長に立候補される前…壇上で何を言ったか覚えてますか?みんながいろんなことが分からなくて怯えているように見えていたって言ったのを。

 

でも、ヴォイドの力を明かさなかった時も、明かされたその後も…そして、僕もその一人だった。僕自身、ヴォイドが壊れたらどうなるか全く知らなかったんだ。こんなことを聞かされても、みんなからは都合のいい話だって受け取る人だっているかもしれない。

 

これまでの僕の発言が単なる妄言で…事実を隠していたって言われるのも、覚悟は出来ている。

ヴォイドが壊れるっていうのは、本当に事実だから。それでも僕は、今後もみんなを守る為にこの力を使う。

もう誰も悲し思いをさせたくないから」

 

ヴォイドが壊れても、その力を使う。

言っていることは綺麗事かもしれないが、彼の目に相手を騙し、嘘偽りはない。

後は生徒達が彼の言葉をどう受け止めるか。

 

「あの時、竹成さんが引き留めたようにヴォイドを使って欲しくない人は去ってもいいと言ってました。

 

あの襲撃で怖い思いをした人もいるかもしれない。けどもし、ヴォイドの力を使っても良いと思っている人がこの中にいるなら…もう一度、僕に力を貸してください。

お願いします」

 

集は生徒達の前で自分の心情を明かした。

麻紀の襲撃で、また前のように恐怖で怖がる人もいることも覚悟した上で、何を言われても集の周りに仲間がいることも分かっている。

ここに残ってもまた40人の中から二つに分かれるか、最悪の場合一桁になるかもしれないのも。

しかし、

 

「…え?」

 

全生徒達が盛大な拍手が鳴り響く。

麻紀達のせいで前よりも人数は少なくなったが、それでも生徒全員の前で見せる彼の覚悟と誠意ある発言に生徒達は心を動かされた。

 

「心配事もあるかもしれない…けどさ…もうここまできたら、もう集達に委ねるしかないだろ‼︎」

「そうだ!まだここで生きてやりたいことだってあるんだ!」

 

拍手だけではなく、集を支援したいと応援するような声が次から次へと聞こえている。

 

「みんなっ…本当にありがとうっ!」

 

ヴォイドの真実と麻紀達の手によって一度は崩れかけたが、彼と彼を信じてくれた仲間と共にこの苦難を乗り越える道へと向かう。

 

*****

夜 午後7時

 

竹成は映像機器を用意し、時計を確認する。

本当なら協力者の件は集とつぐみの二人だけだったが、竹成が余計に喋ったせいで人数が増えてしまった。

 

「よし、来たな。

それじゃあ3人とも入ってくれ」

「本当に話してくれるんだろうな…」

 

竹成が呼んだのは集とつぐみ、そして八尋の3人が計画の内容を聞くこととなる。

集は計画の為に各生徒達を纏めるため、つぐみは情報面と葬儀社という意味で連れているため。

『君達のことは、竹成から聞かせてもらった』

「…あんたが協力者?」

 

八尋の方は、彼を含む学校側の生徒会員の代表として聞く権利があった。本当なら集だけが聞いても問題なかったが、今後の協力に支障をきたす為に彼も連れてきた。

 

まず八尋とつぐみの二人は、その協力者について警戒していた。

 

「お前は何者だ…」

『私の正体などどうでもいい。君達が考えるべきことは生きる為にこの計画を必ず成功させることだ。

 

私の名前についてはシャドウとだけ呼べば良い。

それと竹成、余計な情報漏洩は疑心暗鬼になる。

迂闊なことはしないでもらいたい』

「す、すまない…」

 

シャドウは呆れつつも、竹成を叱った。

無策なままで困っていたみんなの不安をどうにかしようと協力者のことを明かしたが、八尋のように疑ってかかる人もいる。

 

『…こちらの策略がバレてない限りは問題ない。

仮にバレたとしても、その策略も既に立てている。

 

あの襲撃で学校側が潰れなかったのだけは何よりも幸いだ。襲撃が起きても生徒達の士気も高まったことも…これでようやっと本題に入れる』

「竹成から聞かせてもらったが…俺達はあんたの指示に従えってことか?」

『そうだ』

「…姿を見せない奴を信用しろっていうのか」

 

シャドウが姿を隠している以上、竹成が信頼して欲しいと言っているとはいえ警戒している。しかし、

 

『信用ができないのであれば、竹成を除く君達3人に戦略をお聞かせてもらいたい。

 

除外させたのは、彼には既に戦略を提示させてもらっている』

「そ、それは…」

指示に従えないなら、自分達でなんとかできるという自信があるなら、今ここでシャドウに手渡すことも可能だ。

 

「これまでのゴタゴタで、みんながみんな…考えがまとまるわけじゃないだろ?」

『本当に信用がならないなら、協力者の有無に関係なく、自分達で策を一つや二つくらい用意している筈だと私は思っていた。

 

まさか、竹成と集の能力頼りか?』

「それは…」

『3人の中から誰でもいい、今ここで提示してくれ』

 

今から戦略を考えて立てても、もう時間はなかった。一手でも失敗したら、学校にいる全員が全滅することとなる。

 

集が復活し、不安になった生徒達を統括している。竹成を疑っていても、集が絶望しても、二人に頼るだけ頼って浮かれているのではないかと彼らの甘さを指摘され、何も言えなくなってしまう。

 

「…信じよう、俺達にはもう時間がない。

竹成さんが僕たちの味方側なら、彼が紹介してくれた協力者も大丈夫だと思う」

『ご理解頂き、感謝する』

 

集達はシャドウの指示を聞くしかない。生徒達も協力的になったとはいえ、打算な作戦で動こうとしたら必ず崩壊するのはここにいるみんなが分かっている。

『私は君達の前に出向くことはできないが、司令塔になって戦況を確認し、報告する。

君達が期待に応えれてくれるのであれば、私も支援しよう。

東京脱出の戦略を』

 

戦術がモノを言う。

シャドウは、この計画を集のような能力に頼りだけではなく策略も立てていた。能力的な強行突破ではなく、彼の言う戦略で敵を総崩れさせる。

 

これでシャドウの中の人が無能だったら期待ハズレだが、ルルーシュ・リ・ブリタニア本人である以上、ギアスがないにしてもこれまで学生の身でありながらも黒の騎士団として戦力差を最たる頭脳で潜り抜けてきた。

 

 

敵を嵌め、騙し、強者相手に勝ち筋をつかみとっている。その事を竹成含む集達は一体誰なのか知らないが、少なくとも竹成は嶺の紹介してくれた人が有力な人物である事を信じるしかなかった。

 

『指揮系統は君達4名にやってもらう。

作戦は情報漏洩を防ぐために作戦開始の1日前に竹成へ伝達、必要な物資も私から竹成を通して手配する。

決行は4日目、用意が出来次第準備に取り掛かって頂きたい。

 

では…君達の幸運を祈る』

 

その会話を最後に、シャドウの通信が切れる。

 

作戦が開始される前までは波乱万丈だった。

麻紀達と黄色ロープの襲撃を何度も退け、集が持つ王の力を急成長させた。生徒は僅かだが、計画に支障はないとシャドウは断言している。

「もうやるしかない。

僕らは後戻りすることは、出来ないんだから」

「…そうだな」

 

ここまでの道のりは確かに厄介毎塗れだったが、その逆境を見事に乗り越えることができた。しかし、東京脱出が成功するまで彼らにはまだ気を緩めることは許されない。

 

レッドラインが学校にたどり着くまでまで残りあと一週間。

もう一刻の猶予もなかった。


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