Justice中章:歌姫と蘇生と復讐と   作:斬刄

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異端第四次聖杯戦争(fate/zero)
72話特訓の成果


特訓から約一ヶ月半が経った。

正輝は英霊三人を相手に戦い、少しずつ成長している。

 

「正輝、最初の頃より動きが良くなっています」

「そう、かっ⁉︎」

 

セイバーを相手にまた押し負けられて床に倒れてしまう。

 

「ええ。少なくとも、大雑把に攻撃していた回数が少なくなりました。さやかと相手した時も、良い勝負をしていましたし」

「そこまで見てくれていたのか…凄く助かるよ」

 

セイバーの差し出した手を取り、起き上がる。1ヶ月もの間、正輝達は自分達の力を向上しようと努力した。

 

仲間たちによる団体戦の特訓では、セイバーと士郎の連携プレー、凛の的確な指示とアーチャーの臨機応変、宗一郎とメディアの戦略を如何に立ち向かえるかをほむら達、レイナーレ達、浜風、響達が作戦会議として懸命に戦術を立てれば良いか必死に考えている。

士郎や凛といったマスターを狙う方法や、一体のサーヴァントに集中攻撃を仕掛ける事もある。が、

 

「ぎゃーっ!読まれてるっス!」

(ごめん…あとは頼んだよ)

「え…?ひょっとしてあと五人だけ?」

 

開始と同時に飛んで空から襲撃しようと動くレイナーレ達だったが、あっという間にアーチャーの攻撃ですぐに脱落。響と翼がセイバーと接触するが二人とも薙ぎ払われたりと当然失敗する事が多い。

彼らも聖杯戦争の経験があってか、特訓チームが戦略を立てても、先回りされてしまう。アサシンのように陣地に潜入して、支援している司令塔(キャスター)を叩こうと企てる。

しかし、

 

「そこから入ってきたのね?でも無駄よ」

「あぁぁ⁉︎また敵がいるぅぅぅ‼︎」

 

隠密行動が得意ではない仲間がほとんどだから、忍び寄ったところを逆に返り討ちにされてしまうのだ。キャスターは狙いが分かっていたかのように、何重もの防衛を構築し、二重三重とからくり屋敷のように罠を仕掛けられ、高笑いする。その上、罠だらけの巣窟の中で魔術で強化された宗一郎を正面から突破するのは非常に困難だった。

 

隠れてると思ってもすぐに気づかれ、また竜牙兵を召喚されて道が塞がれる。このまま時間稼ぎされると前門に宗一郎が、後門には前衛を撃破したセイバーがすぐさま拠点に戻ってくるのだ。

前進もままならなければ、撤退でもしようとしたら騎士王が立ちはだかる。別方向に分散して逃げようとしればチームの中で危険だと判断した人物をアーチャーの狙撃で射抜かれ、キャスターは逃さないように竜牙兵で囲む。そしてセイバーの宝具によって、一掃されてしまうのだ。

 

(いやー…まじで、おっそろしいな)

それを正輝が休憩中に見学している。

 

ほむらは時間止めで道を繋ぎ、マミはリボンで周辺の竜牙兵を拘束して止めようとする。

だが、敵の数が多過ぎて処理しきれない。

 

あっという間に何人か脱落し、残りは時間停止でギリギリ避けようとしているほむらと、セイバーを抑えている翼だけ。時間停止で宗一郎にサブマシンガンを何発も撃ち込むが、

 

「なっ…⁉︎」

(…は?え、マジで)

「慣れれば問題なし、か」

 

ある程度致命的な部位を予測し、弾丸を何発か防いだ。腕と手に警戒しないのは実際セイバーの剣を、肘と膝で受け止めたことがあったのだから銃弾程度で傷つくことはない。

腕と足部位辺りは魔力で強化され、支援しているキャスターを信じて戦っている。だから、脳や心臓といった致命的な部分には一切傷が無く、ほむらの方は無駄玉を撃っているだけだった。

 

ほむらが弾丸を使い切った頃にはセイバーを抑えていた翼も耐えきれず、変身が解除されてしまう。

 

「翼さん!」

「くっ、流石に強い…こんなにも、私達が呆気なく押されているとはっ…」

「次回は制限無しの俺とチームで戦うってさ。頑張れよ!」

「えぇ…嘘でしょ」

 

特訓内容が秘密なまま、英霊以外にもこの特訓のみ縛り制限無しの正輝を相手に戦う事もある。正輝の場合だと赤ロープ並みとはいかないが、それでも世界に幾度も介入しつつ楽園も撃破している経験があるため、正輝もまた絶望的な強さを誇っている。

当然、特訓が終わった頃には

 

「あぁ〜…すっごい疲れた」

「正輝といい、セイバーさんもアーチャーさんも…手加減してくれないし容赦ないから」

「そうね。これから戦う相手が危険なのだから…これも仕方ないわ」

 

疲労状態となり、身体がガタガタであまり動けなくなってしまう。普段夜に風呂を用意するはずだが、特訓で汗まみれだからと二、三回ほど風呂に浸っている。身体が疲れ切っている人は休ませ、正輝を相手に動けるメンバーだけが挑むこととなる。そのおかげもあって、実力が飛躍的に伸びていく。士郎達と凛達はともかく宗一郎は二人との時間を大事にしたいとのことで、いつもは士郎と凛達を相手にする事が多い。

なお、イリヤ達については十二の試練(ゴッドハンド)というストックが、もし特訓で消費してしまうかも分からない為に参加できない。

 

「えーっ!つまんないーっ!

私のバーサーカーで遊んだっていいでしょー!」

「いやダメだから…ここで無駄にストック減らしたら大変だろ」

 

仲間が成長しているとはいえ、バーサーカーを相手するのは駄目だと正輝から禁止されていた。

 

最強からこそ頼もしいが、強すぎるのも考えものである。

 

ーーーーー

 

 

正輝の方もまた、何度も何度も魔術に磨きをかけていた。セイバーとの稽古の成果としては体力と正確さを鍛錬し、一般の体になったとしても、数分の間だけ正輝が英霊を相手にしても多少は問題ないくらい動けるようになった。

 

また、士郎による投影同調の訓練も回数毎に正解数が多くなった。手で触れて機材を見えないように目を布で隠され、答えを言っていく。

 

「ゲーム機か?でも使い古されてるからこれ絶対中古だな」

「それじゃ横に置いてある物に手をかざしてくれ」

「んーっと…どこにも外傷ないから明らかに新品で、機材でもない…形状は棒状…これってバッテリーのコード?」

 

投影魔術には用紙からプラスチック製の棒、手で持てるサイズの岩、鉄アレイと段々耐久性の高い物を試してやっている。

勿論失敗し、何度もやり直す必要もあった。

そしてついに

「やっと…やっとだ…!

 

無名の剣一本、出来上がったぞ…!」

(あの小僧も半端者だったが…それでも私と同じ干渉・莫耶を投影できていた。

今の正輝にはひとまずそれが精一杯か)

 

何処にでもある通常の剣を投影する事に成功する。今投影した剣は折れることも崩れることもなく、その形状を保っている。

しかし、今の正輝にとって見せかけの剣を投影する事が目的ではない。

 

「とりあえず、それで小さな岩を切れるか試してみろ」

「え」

「これは基本骨子の修行だ。見た目だけの紛い物では実戦だと敵わない事ぐらいは分かっているはずだぞ。

試してみろ」

 

耐久性もないまま小石程度で壊れればまたやり直しされると思いつつ、正輝が両手に剣を持って小岩に振り下した。投影した武器は壊れず、岩が両断された破片が勢いよく転がってゆく。

 

「き、斬れた!」

「これで次の段階に行けるな」

 

 

*****

 

みんなが必死になって特訓に励んだ成果を確認すべく仲間全員を集合させる。何をするのかというのは正輝と士郎達を除く他の仲間達は知らない。

 

みんなを集め、端末が沢山入っている籠を用意した。

 

「今からチーム戦を行う。みんなにはこれを配るからくれぐれも手放さないように」

「チーム戦?私達聞いてないんだけど」

 

この戦いの目的は単なる勝ち負けではなく正輝と他のメンバーがどれだけ特訓で強くなったのか。それを知るため、チーム戦を行う事となった。

 

「頭上にあるそれ、ライブバーだから」

 

配られているのは携帯のマップと、頭の上にライフゲージが出現する。正輝チームと特訓チームで分け、模擬戦を始める準備を見学チームが行う。

 

正輝チーム

(正輝、セイバー、衛宮士郎、遠坂凛、アーチャー、キャスター、宗一郎)

特訓チーム

(レイナーレ、ミッテルト、暁美ほむら、巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子、浜風、立花響、雪音クリス、風鳴翼、天羽奏)

見学側

(鹿目まどか、イリヤ、バーサーカー(ヘラクレス)、秋瀬或、平坂黄泉、戦場マルコ、美神愛)

 

チーム戦で使うバトルフィールドは船の中を改装したことで、様々な地形を作ることが可能である。森の中、都会、神殿、洞窟など、あらゆる環境で戦術を組んで戦うことができる。

 

「準備が出来たよ!」

「おう。それじゃあチーム戦のルールをみんなに配布しとく。確認しとけよ」

 

チーム戦のルールは、みんなが持っている端末に表示される。開始する前にはそれぞれのチームで作戦会議の時間を設け、同戦略を立てるかを時間内に決めていく。

 

ーーーーーー

ルール説明

 

制限時間:3時間

バトルフィールド:城、山、街

 

特訓チームのみ一回だけアイテムの使用可能

 

勝利条件:正輝とマスターのライフゲージゼロ

(ただし、宗一郎が敗れればキャスターも脱落する)

敗北条件:特訓チーム全員のライフゲージゼロ

 

ーーーーーー

 

敷地内は時間内のうちには罠の設置と、施設内の補強ができる。ホイッスル音が鳴ったと同時に、チーム戦が開始した。

正輝陣地は山の中の城、特訓チームは都会に分けられている。

山から登ってくる外敵を建てた城を駆使して高所からの狙い撃ち、道中にある森、建物を上手く使ったりと様々な方法で攻略する必要がある。

 

「んじゃ、お手並み拝見といくか」

 

影を前衛に回すからと士郎達を後方にし、早速正輝がクラス付きのシャドーを10体召喚し、彼らは進撃する。アーチャー三体、セイバーを三体、アサシンの四体を飛び散らせる。武器を構え、早急に特訓チームを脱落させようと正輝の影達が散開して動く。

(みんなどうなってる?私はレイナーレと一緒にいるわ)

(敵の数は14。前衛は正輝の影分身だと思うけど…うわっ、いきなり仕掛けてきた)

(みんなのいるの位置が把握できるようになってるけど、誰がいるのかまでは記載してないわね。とにかく誰と一緒なのか、どうするかを決めましょうか)

さやか達が先に念話で情報共有を行い、端末の操作方法と今いる場所を簡潔に話した。

 

街南側

・暁美ほむら、立花響

街西側

・巴マミ、浜風

街東側

・美樹さやか、佐倉杏子、天羽奏

・風鳴翼、雪音クリス、ミッテルト、レイナーレ

都会北側(山)

・正輝率いる英霊チーム

 

 

「セイバーは私が足止めするから、士郎さんは三人に頼んだよ」

「だが、正輝のシャドーが何体か山からこっちにやってくるんだろ?」

正輝のシャドー相手にさやかの水分身で対抗しても良かったが、彼女にはセイバー戦に備えつつ温存している。正輝の影一体が並みのサーヴァントと同等の力を保持している以上並大抵の分身では返り討ちにされてしまうこともある。

(大丈夫。私が抑えるわ)

(抑えるって…マミさん、何か策があるんですか?)

(えぇ…ちゃんと策は用意しておいたの。

でも、罠を仕掛けるにもまず森近くまで接近するから、二人はセイバーさんのことを任せても良いかしら?)

 

マミは浜風と共に山に罠を仕掛けに向かい、草木に罠の網を貼る。木々には爆弾を仕掛けている。

(こんな安直な罠を仕掛けても気づかれて外されるのは分かっているわ、だから…)

 

20分後、マミの予想通り山から降りている正輝の分身体が罠を察知し、特訓チームの罠を解除しながら移動する。

 

「よし、もうそろそろたどり着く頃だろう。

仕掛けた罠も解除した」

(こんな罠を張れるなんて、ほむらかマミぐらいだ。この程度なら問題ないか)

 

マミが得意げに仕掛けていたリボンを切り取り、ほむらのセンサー爆弾の罠を解除する。

各場所へ散り、目標を撃破する。

(特訓チームを発見しました)

(よし、各部隊一斉にかかれ!)

リーダーが連絡すると、正輝は指示を出す。

その指示に従ってシャドーは襲いかかろうと動く。が、リボンの紐をちゃんと切断したはずなのにまるで手品のようにリボンが突然出現し、影分身の半数が拘束されてしまった。

 

(なっ…切断したはず。

まさか爆弾そのものが囮か⁉︎)

「捕まえたわ!でもそんなに長くは拘束できない!」

「マミさん!ありがとう!」

 

切り取ったはずのリボンが手品のように元に戻り、影を縛り付けていく。マミが罠として用意した高魔力のリボンは切断することで切断した本人に付着し、拘束具となる。ほむらが用意した爆弾もそちらに警戒心を高めるための囮だった。

シャドーは何とか拘束を解こうと力ずくでこじ開けようとするが、簡単には外れない。

 

「沈めっ‼︎」

「当たりなさいっ!」

 

残りの半数を浜風とマミが遠距離から狙い撃つが、サーヴァントクラスを譲渡された正輝の分身体はひるまない。

それでも

「拘束されている間、できる限り彼らの体力を減らしましょう!このまま罠が解除されたら、勝ち目はありません!」

 

一方、凛達は特訓チームが分散して動いているという連絡が届き、既に行動に出ていた。

(来たっ!)

弓が建物の壁に突き刺さり、爆破させて倒壊させる。クリス、レイナーレを相手に凛は遠くからガントを放つ。

 

「なっ、見えない壁⁉︎」

 

レイナーレ以外を狙ってもリフレクターが展開され、ガントは遮られてしまう。

 

「全然効いてないわねっ…」

「どうやらレイナーレが作り出した光の壁が、今までよりも強度を増している。

並大抵の魔術では遮られてしまうぞ」

 

アーチャーは目視で、城にいる正輝は双眼鏡を投影して凛の攻撃が効かないことを確認している。

 

(ふーん、成る程。レイナーレが仲間全員に光の壁とリフレクターを与えてんのか。魔術系統や特殊攻撃は軽減されてしまうな。

でも、ほむらよりもクリスの方が若干張っている量が多いってのは一体どういうことだ?

単純に時間停止で避けることも出来るって感じならまだしも、それだけじゃないような気がするぞ…)

 

凛の宝石と士郎、アーチャーのような魔力を込めた矢と剣の威力が軽減されている。

 

「迂闊に飛べば…格好の獲物ね」

 

特訓での経験で、空高く飛んで上を陣取るより低空飛行の移動でショートカットしている。アーチャーの射出は正確で侮れないと特訓の経験から物陰で隠れるように移動した。

 

「少しは、考えるようになったか」

「アンタが模擬戦で何度も撃墜してたんだから…そんなのあっちだって考えるわよ」

 

堕天使の二人が空高く飛べば、何度撃ち落とされ、撃墜されたかを身に染みている。狙撃のど素人ならともかく、敵が遠距離のプロであれば簡単に落とされてしまう。

 

(キャスター、ちょっとばかし増援を頼む。

あとマミの罠解除も)

(今送ってるわよ)

 

正輝の影だけではなく、竜牙兵を8体くらい召喚し、正輝の影を拘束したリボン外そうと動く。

 

「大丈夫ですか!士郎!」

「あぁ」

「いや〜…単純なやり方じゃマスター狙いも上手くいかないか」

アーチャー相手に遠距離は通用しない。

仕留めようにも鷹の目で的確に防がれてしまい、かといって士郎を狙ってもセイバーによって防がれてしまう。

 

響達は凛とアーチャー、さやか達は士郎とセイバーと対決する形となった。

 

「奏さん!手筈通りに士郎さんの相手を!」

「あぁ任せとけ!」

 

 

暴走正輝のように投影した魔力吸収の剣を使われるのは危険だと、さやか達のような魔力を使える人以外に士郎の相手を奏に任せている。

 

「それじゃあ、セイバーさんっ!

あの時のリベンジと行こうか!」

「ええ。来なさい、さやか」

 

さやかはサーベルから日本刀へ切り替り、お互いに本気で戦う気でいる。

魔法で水を生成し、周囲にばら撒く。

 

「逆巻く雨っ!」

「風王結界っ‼︎」

(水が巻き上げられるのは、想定済みっ!)

 

セイバーは風と魔力放出により、生成した水が弾かれる。さやかも特訓で何回もセイバーと立ち合っていたため、水を退けることは想定していた。

 

「前回私と戦っているのならご存知なはずです。水が魔力で出来上がっているのなら…私には通用しないことを」

「そんなのは分かってる!」

セイバーの持つ高ランクの対魔力によって、魔法で作った水は通用しない。今度は魔力を肉体強化に加え、セイバーに近い動きで猛攻する。正輝以外にも特訓で何度も剣を交えていたさやかがまた成長したことを素直に喜ぶ。

 

「いい腕になりましたね、ですが惜しい」

「へ?」

 

セイバーに短期決戦を挑もうとしたが、さやかの持っていた刀が崩れ、変身魔法も解きそうになる。士郎が投影した炎の剣と魔力吸収の剣を飛ばし、地面に突き刺して散らばっている。

 

(魔力もゴリゴリ減っていくし…それにここの近くにはもう水もない。てゆーか、私がこの場に水を作り出してもすぐに蒸発して役に立たないっ!)

「終わりです、さやか」

「それはどうかなっ…高圧洗浄器って知ってますか?」

 

高圧化された水がさやかの武器を包み、刀を振りながら飛び散る水までも刃になる。聖剣で受け止めてもチェーンソーが木を切る時のように削いでいた。

 

さやかの方に水が飛び散っても、彼女自身の魔法である為無傷。セイバーを相手にしつつも、マスターである士郎の方もチラチラと気にしていた。

 

(まさか…!)

「士郎っ!あなたが相手しているのは一人だけでは「もう遅せぇよ!」」

 

物質化された幻は、士郎の剣で斬られたされたことによって消えていく。杏子が士郎を不意打ちを狙っているが、ギリギリのところで防がれる。そのはずだった。

 

「悪いセイバー…一本取られたなこれは」

 

士郎のライフはゼロになっていた。セイバーが防いだ槍も幻覚で、実際はセイバーを気づけずに相打ちになっている。

もしも士郎が気づかなかったら杏子が生き残り、この場からさやか達が離脱するという手筈だったが脱落となってしまった。

 

さやかも魔力切れとなり、魔法少女から普通の私服へと戻っていく。

 

「あーもーっ!士郎さんはどうにかなったけど…セイバーさんに試合にも勝負にも負けたー!すごいくやしーっ!」

「たくっ、もうちょいだったのに!」

 

かつて試練編の時に正輝が投影した魔力吸収剣を、今度は士郎が投影している。杏子がかけた幻術は魔力吸収のせいで短くなっているが、その短い時間でも士郎を騙すには十分だった。

 

「ジリ貧だった…」

「相討ちだったけど、それでも君達の戦略勝ちだ。巧妙にやってくれるなんてな」

 

セイバーに幻術を見せても高ランクの対魔力で退けられるのならば、士郎を守るセイバーをうまく誘導させ、その隙を杏子が討つ。

 

「よし、二人とも上手くいったみたい!」

「喜ぶのはまだ早いわよ?

衛宮くんをリタイアしただけで浮かれてていいのかしら?」

「…え?」

「確かにこのチーム戦での勝利条件であるマスターの内の一人、衛宮くんを脱落させたのは大きいわ。

でも、セイバーがまだ残ってるのよ?」

 

セイバーは鎧を解除し、風王結界をブーストがわりにして飛んでいく。身軽になったセイバーの身体は風とともに遠くにいる方へと向かってくる。

 

「不味い!

レイナーレさん逃げてくださいっ!」

 

遠距離を防ごうと防御壁を張っているレイナーレの元に、聖剣を解放して斬りつけようとする。魔術を軽減させる力を持っているならば、倒すことで後々正輝とキャスターの脅威が一つ減るからだ。

 

「くっ…ダメです!照準が!」

「今ここでレイナーレに脱落するのは不味いわっ!」

浜風がセイバーを阻止しようとするが、今更撃とうとしたところでもう間に合わなかった。ほむらが時間を停止して助けに向かうが、距離が遠すぎる。

 

「よ、避けてっ!」

(あぁこれは。流石に無理ね)

 

自分の身を守る為に光の壁を何重に展開しようと手を突き出しても破壊される。ライフが尽きる前に最後の力で身近にいたミッテルトと雪音クリスに何重もの加護を施し、そのままセイバーに倒された。

「れ、レイナーレ姉様っ」

「あとは、頼んだわよっ…!」

 

レイナーレはクリスとミッテルトに壁を送り、リタイアとなった。

一撃でライフがゼロになり、流石にセイバーの追いつく速度が早すぎで助けようにも間に合わない。

 

( つっ、次はアタシか!)

 

セイバーはレイナーレの近くにいたクリスに攻撃を仕掛けるが、両手両足を黄色いリボンで抑えつつ動けなくする。

 

「私がセイバーさんを抑えるから、他をお願い‼︎」

「私も加勢します!」

 

アーチャーが撃ってきた方角を確認すると、翼とクリス、浜風がそちらに向かう。

 

「もうこれ以上撃たせねぇよ!」

 

レイナーレから援助を受け、クリス達がアーチャー達と対峙する。凛も下から宝石を投げつけ、周囲を爆散させようとするが

 

「待て凛っ!」

「なっ、嘘でしょ⁉︎」

 

張っている壁が前よりもおかしいことに気づいたアーチャーだったが、遅かった。

放った宝石が、そのまま凛に跳ね返される。

 

レイナーレが最後に張ったのは光の壁でも無ければリフレクターでもない。ミラーコートを仲間に付加させ、魔術のような特殊攻撃を反射させる。但し、アーチャーと士郎のような投影魔術の物理的な攻撃となるため反射は不可能。本当ならキャスター戦の為にあらかじめ温存していたが、間に合わないと踏んでリタイアする前に使用した。

 

遠くにいたアーチャーが、至急凛を守るために彼女を助ける。

 

「成る程…レイナーレの置き土産というわけか。キャスターの元へたどり着く前に仕留めて助かったが、しばらくの間君の魔術は使えんな」

 

凛の魔術攻撃はレイナーレの壁に相性最悪であることも。出来ることとしたら接近してきた相手に拳法で反撃するくらいしか出来ない。

 

「…アーチャー、ここは一旦引きましょ。

罠だって解除されるのも時間の問題、キャスターの召喚した竜牙兵達と正輝のシャドーがじきにやってくるわ」

「確かにその方が合理的だ。今ここで無駄に浪費するよりは、温存した上で反撃を仕掛かければいい」

(全員の拘束が解けてる…急いで!)

 

二人は城まで戻り、このまま引き下がろうとする形となった。このまま逃げればシャドー化させた正輝達と拘束したセイバーがやってくることも。

 

「アーチャー!私の魔力、存分に使っていいから…まずあの城まで逃げることに徹しなさい!」

「了解した…体は剣で出来ている。(I am the bone of my sword)

「逃がしませんっ!」

 

ここで逃すまいと浜風が大砲を狙い撃つが、アーチャーは手から宝具を投影し、振り向く。

 

「偽・螺旋剣‼︎」

 

アーチャーは投影した宝具を射出し、それを壊れた幻想で爆発させる。木々から生じた煙で行方を眩ませ、二人は城まで撤退していく。撃った砲弾も爆破に呑まれ、アーチャー達の行方が分からなくなる。

 

「不味いわ…城まで戻られたら」

 

もし凛達が城に辿り着き、高台まで戻られたら鷹の目で特訓チームの居場所を見破られ、正面突破すら出来なくなる。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

「さやかと杏子、レイナーレの三人が脱落した」

 

街の南側にいた響とほむらは、ようやっとみんなと合流することができた。この時点で三人も脱落し、アーチャー達も撤退される。

分身体も拘束が破られれば、マミとさやかの時間稼ぎが徒労になる。

 

「…でも向かう場所は決まってるんですよね!だったら私に考えがあります!」

「考え?」

「だから奏さん、協力してもらえませんか?」

 

それでも、響だけが得意げな自信を持ち、奏に期待の目を向けている。

 

「…どうやら、追ってきてないようだな」

「そうね。このまま城まで戻れ…ってなに、あれ」

アーチャー達は城近くまで戻り、万全の体制を整える。

背後を見ると山の中から竜巻が吹き荒れている。城を落とすにしても竜巻は上の方向へ飛んでいる。

 

その中から人が飛び出て来たことで、二人は納得した。

 

「よし、道はっ…繋げた!いっけぇぇぇっ!」

「なっ、飛んでいるだと⁉︎」

「とべぇぇぇっ!」

「ち、ちょっと!こっちに来てるわよ⁉︎」

 

奏が槍を投げつけ、その槍の上に響が乗る。

彼女はレイナーレをどんな風に撃破したかを聞き、セイバーと同じように見よう見まねで同じことをしてきた。

 

竜巻の中心に槍を投げ、乗っている響が蹴り上げて飛んでいるだと。

頭上から見下ろし、二人を発見する。

 

「やれやれ…まさか、深追いしてくるとは。

私が食い止める、後からセイバーと合流しろ」

「分かったわ」

(セイバーの鉄槌結界を教訓にして、こんな荒技をしてくるとは…)

 

レイナーレを脱落させたように、響は奏が用意した暴風と槍を足場にし、アーチャーの元で飛んで来る。

凛を離脱させ、アーチャーは響と対峙する。

 

「…勢いよく追って来たは良いが、それでどうするつもりだ。

空中では防御も回避もままならんぞ?」

(回避も防御もしない!最短で真っ直ぐで一直線にっ!)

 

アーチャーは弓を投影し、飛んでくる響を狙い撃つが、強風で矢を射出しても外してしまう。彼女の性格上、このまま突っ込むことは予想できるが、それでも真上から撃っている以上思った以上に狙いが定まらない。

 

(なっ、間に合わ)

「届けぇぇぇっ!」

 

響の拳が直撃し、二人揃って落下していく。

アーチャーのライフゲージがゼロとなり、諦め顔をした。壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で撃墜させればよかったものの、仮に急接近してくる可能性も考慮し、できなかった。

(私も、どうやら侮っていたそうだ)

そんな事をすれば、ゼロ距離で爆破することとなり、響とアーチャーのライフは一気にゼロになる。

 

「ところで私を倒したのはいいが…その後のことは考えているかね?このまま生き残っても、数の暴力で蹂躙されるぞ」

「…え?」

「考えがあるというのなら、精々足掻けばいい」

落下しているとシャドーの正輝と竜牙兵が出現し、転落したことろを襲っていた。アーチャーは脱落となり、そのまま休憩室へ転移されていく。

 

「まぁ、そうなっちゃうよな…」

「え、まっ…うわぁぁっ⁉︎」

 

大技を二回使って魔力の底を尽きた天羽奏、着地したところを狙われる立花響は何も出来ずにライフゲージが減っていく。

奏は何とか助けることは出来るかもしれないが、響はアーチャーを追うのに余りに遠くへ行き過ぎた。

 

「くそっ、二人を助けねぇと!」

「⁉︎待て雪音!」

 

クリスと翼が二人の元へ向かおうとしたが、ギリギリの所でセイバーの剣が当たりかける。シャドーよりも早く、セイバーが拘束から抜け出した。

 

「助けに行くのは勇敢ですが、ここから先は通しませんよ」

(間に合わなかった…)

「これ、かなりヤバくね…?」

 

その時点で、響と奏のライブがゼロとなった。

セイバーの背後にはキャスターが新しく召喚した竜牙兵が待ち構え、特訓チームは絶体絶命の状況に陥る。

 

(全員手を繋いで!逃げるわよっ!)

 

念話で繋ぐよう伝え、ほむらは投煙球を投げる。そのまま時間を停止させ、都会側へと逃げた。

 

(セイバー、どうなってる?)

(逃げられました。追いましょうか?)

(いやいい。アイテムを使ってきたんだろ、使わなきゃ全滅だからな。タイムリミットまで時間がないはずだし、凛と合流してこのまま山に留まってくれ)

 

仮に響と奏を助けたとしても、全員体力を消耗した英霊と竜牙兵、正輝のシャドー達を相手に挑むこととなる。

 

空を飛んで逃げても、時間を停止しても、正面から向かっても、勝ち目がない。だから一回のみのアイテムを使い、この場は逃げることしか出来なかった。

 

*****

 

「全員無事?」

「な、なんとか。でもどうするんスか?」

「このまま城に行っても、またさっきと同じ…いや、城を攻め込む途中で全滅するか」

一旦街に戻り、状況を纏める。

ここまで正輝チームを落としたのは士郎、アーチャーの二人、特訓チームは美樹さやか、佐倉杏子、レイナーレ、立花響、天羽奏の四人が脱落となった。

 

(参ったわね…)

 

残りメンバーは風鳴翼、雪音クリス、浜風、ミッテルト、暁美ほむら、巴マミのみ。

前線にはセイバーと正輝のシャドーが数人、

キャスターの召喚した竜牙兵が複数おり、拠点にはキャスター、宗一郎、正輝の三人が残っている。

宗一郎相手に接近戦同士をぶつけても、単純な攻撃ではすぐ避けられて返り討ちにされてしまう。

 

逃げ切れるのは良かったものの、城を狙うとしてもセイバーが戻ってきたら逃げ場は無い。

今頃、セイバーと凛は合流している。

 

「レイナーレには脱落して欲しくなかったが…」

「過ぎたことは仕方ないわ、ここにいるメンバーでどうにかしましょ」

 

もしレイナーレが生き残っていれば、残りで正輝と宗一郎の二人を抑えるだけで済むはずだった。ミラーコートでキャスターの魔弾を反射することもできたか、もう脱落している。

 

(正輝とキャスターが一番厄介だよな…罠作れるし)

 

残り時間はあと1時間。

時間に余裕もなければ、このまま立て籠もってもいずれは数の暴力で勝ち目が薄くなる。

 

「…言いたいことは大体予想がつくわね」

「この数じゃ持久戦に持ち込んでも私らに勝ち目なんて無い。かといって裏からこっそり襲撃しても、キャスターに読まれて詰む。

ならば選ぶ手段は一つだ」

「一か八か…やるしかなさそうね」

 

この難攻不落を打破するために、彼らは賭けに出る。

 

*****

 

「士郎はともかく。黒沢くん…まだ脱落するにしても早すぎるってば。まぁ、凛とセイバーが残ってるから良しとするけどさ」

 

士郎はいくら強くても、幻術に対する耐性は持っていない。杏子の不意打ちに気づけなかった士郎だったが、それでも

 

セイバーがさやかと杏子だけではなくレイナーレを倒したのも大きい。後で他の仲間にも壁張りを与えると、後々倒すのが厄介になるからだ。

アーチャーは油断したせいで相打ちという結果となった。二人ともこのまま持久戦に持ち込んで撤退するのは悪くない判断ではあったが、響の突破力を侮って迎撃されるとは思ってもない。

(マミの魔力もそう長くは持たないし、

これで俺のシャドーとキャスターによる数の暴力で終わ…ん?)

特訓組が拠点を襲う前に罠を何重にも用意し、セイバーと正輝のシャドーでジワジワと戦力を減らしていく。

 

(((((強化される前に本拠地そのものを攻撃し、迎撃される前に速攻で正輝を倒す!

 

城を制圧したら残りメンバーで凛を倒す!

もうそれしか、勝つ方法がない‼︎))))

「もってけ全部だ!」

【MEGA DEATH PARTY】

【蒼ノ一閃】

「あいつら本拠地ごと、やっぱり仕掛けてきやがったか!」

 

奏が槍を投げ、罠を張り巡らせた拠点を破壊しようとする。奏が飛ばした槍と翼の剣圧は魔力の防御壁で防がれたとしても、槍そのものが貫くまでに爆散し、前方が見えなくなる。

残りのメンバーのことだから、手段として裏から回って侵入するか、正面からごり押ししてくるのは分かっていた。

 

だが、正面から向かってくる相手が予想外過ぎて驚いていた。

正面突破なら超火力を誇るクリスが妥当であることは分かるが、何故ティロフィナーレを使えるマミと大量のロケットランチャーを一斉掃射できるほむらは参加していない。二人ならキャスター達を相手するより、この突破力で城を粉砕してくるだろうと思っていた。

 

「宗一郎様っ⁉︎ご無事ですか!」

「あぁ、問題ない」

 

キャスターは咄嗟の判断で宗一郎を優先して守ろうと結界を張って防ぐ。あの崩落でも二人が倒されることはないと信じ、正輝は周囲を警戒する。

 

(ひとまずキャスター達はこのままでいい…あいつら強行突破を狙っているのか?まさかこの爆煙を利用して…)

爆煙が消えると、クラスなしのシャドーを散らばせて外にいる敵を探す。スモーク手榴弾を投げたことで、正輝の目を眩ませた。

 

(…これ、もう侵入されている可能性があるな)

 

外にいないということは、罠を潜り抜けて城に侵入されている可能性が高いと正輝は判断し、シャドーを城内に戻すよう指示する。

しかし、

「光の槍…ミッテルトのだが、何か奇妙だ」

暗闇から光の槍が飛ばされたが、正輝に命中せずそのまま床に突き刺さっている。形からしてミッテルトが作り出している槍だが、槍はだんだんと輝きを増していく。

彼は、嫌な予感がしながらも一歩引く。

 

(まさか、また目眩しか?

念のために避けられるよう…距離を置いて)

 

正輝は光の槍に近づかないように離れる。

その予感は的中していたが、彼の予想とは裏腹に眩い光を放ったと同時に、槍の破片が散らばっていく。

 

「いづっ!目眩しだけじゃないだとっ⁉︎」

 

槍そのものが花火のように飛び散り、その勢いは止まらない。光も一瞬ではなく、部屋全体に輝きを放つ。

 

(この状況を手を使って防ぐのは不味いっ…この場からまず脱出をっ!」

「BLUE展開っ!」

 

一刻もその場から動くことを考え、移動しようと動く。しかし、空中に結晶体が散らばっておりそれが乱反射するかのように部屋全体が光で満たされる。

【SPREAD ZEPPELID】

【千ノ落涙】

(あいつら…意地でも俺をこの場に止めるつもりかっ⁉︎)

 

剣と結晶が雨あられのように降り注がれる。

強い光を照らしているおかげで正輝の影がくっきりと見え、その影に小刀が大量に突き刺さる。

 

(しまった…あいつらの狙いは単純な強行突破じゃなく…俺への奇襲っ⁉︎

全く身動きが取れない‼︎)

【影縫い】

 

流石に動けない状態で数人を相手に戦うのは苦戦を強いられる。頭上にはクリスが飛ばした結晶が降り注がれ、そのままBLUEを展開して防いでいる。

 

BLUEも大雨のように落ちてくる結晶で、耐久がゴリゴリと削られ、いつ貫通されてもおかしくない。

 

(成る程…これはやばいな。

おい、キャスター!

今の俺は動けん!ちょっと何とかして!)

(黙りなさい!こっちも手を焼いているのよ!)

 

何重も光の壁を施された仲間達は、 魔弾を受けてても軽傷で済む。かといって大魔法を使って迎撃しようとしても、あの爆散型の光の槍のせいで準備ができない。

 

正輝の相手は雪音クリス、風鳴翼の二人。

キャスター達の相手はミッテルト、ほむらとマミが相手になる。

 

「…怪我はないか」

「すみません…侵入を許してしまいました」

「気にするな」

 

キャスターの陣地には、ほむらが新開発したクラスターチャージを壁に装着させ、反対側にサブグレネードを四発放つ。起動した時は音がなるが、奇襲するのにはうってつけの兵器だ。次にミッテルトの光の槍も併せて放ち、部屋を散乱とさせ、侵入する。

 

 

侵入後にキャスターの方は宗一郎を助けに行かせまいと、ほむらが足止めをする。

マミは宗一郎をリボンで拘束、宗一郎への攻撃は浜風の大砲、ミッテルトの拡散する光の槍で追い詰めていく。

しかし、

「ぜ、全然当たんないっていうか!殆どはたき落とされてる⁉︎」

「なんとか足を止めれ…うっ⁉︎」

 

マミも懸命にリボンで捕らえようとするが、キャスターの魔術で身体能力が格段に上がっているせいであまり攻撃が効いていない。

しかも、

 

「マミ…魔力を使い過ぎたのが、仇となりましたね」

「急いで戻ってきたわよ、先生?」

「…せっかく来てもらって悪いが、私達二人で十分だ」

 

凛とセイバーが予想した以上に早く城に帰ってきた。セイバーがマミの背後を斬りつけ、浜風も横から入った凛の峰打ちで再起不能にさせた。

 

(あ、コレ詰んだ…ムリ)

 

ミッテルトもミラーコートの効力も無くなり、こんな狭い場所で飛行して逃げてもキャスターの魔弾で的にされるか、セイバーにはたき落とされるだけ。

 

 

ミッテルトも諦め状態のままセイバーに斬られ、ライフもゼロとなる。

もうお手上げだった。

 

宗一郎が無言で端末を確認すると、満タンになっていたライフがゼロになり、宗一郎は脱落した。凛がやってくる前に、突き刺さったままの光の槍が爆散したことを思い出す。

避けてはいたが、尖った結晶が一部彼の首筋に当たっていたことに気づいた。

 

「すまないキャスター、私のライフはゼロになっていた」

「なら残る人数はあと二人、正輝の所に向かってるはずだわ」

キャスターが念話で正輝に連絡し、どうなっているのかを聞く。

 

(やっと落ち着いたわ。

そっちはどうなってるの)

(今終わったとこ、二人は倒した)

 

正輝もクリスと翼の奇襲を阻止し、影縫いも2nd formに変身し、辺り一帯を吹き飛ばす。

影縫いで突き刺した小刀が取れたことで、正輝本人が翼を見つけ出して撃破。

 

クリスはシャドーを展開し、響と同じように囲まれてライフがゼロとなった。

「たくっ、上手くいくと思ってたんだけどな…先輩も脱落して、正輝を相手に私一人じゃ勝ち目は無さそうだし」

「俺も危うくアーチャーと同じように侮って脱落なんてことになりそうだわ」

 

試合終了の連絡を飛ばし、頭上にあるライフゲージも消える。

それぞれが休憩室へと

 

『俺と凛がまだ生き残ってるから、正輝チームの勝ち。残りの時間は自室で寝るか、リビングにお菓子を用意しとくから欲しい人はとって来てくれ。

みんなお疲れさん。』

今回のチーム戦は、セイバーとキャスターが健在でも敗北は正輝含むマスターのライフがゼロという条件である。

 

「私ら堕天使と魔法少女、装者で手を組んで戦っても…英霊と正輝相手は冗談抜きでキツイっす」

 

が、いくらマスターの討伐が勝利条件でも、それでも特訓チームにはやっぱり厳しいと愚痴っていた。

 

*****

 

特訓チームのほとんどが疲労で疲れ、部屋に戻って熟睡している。正輝と士郎の二人は転移装置のメンテナンスと調節していた。

「この装置の構造が複雑だから一緒に投影同調で手伝ってくれない?」

「分かった」

 

二人ともかれこれもう30分くらい作業を行なっている。単純な設定変更や点検は正輝がやり、難しい箇所は士郎に任せていた。

 

「…ちょっと休んでこいよ衛宮。チーム戦での疲れもあるだろうし、俺はまだやっとくから」

「ありがとう。正輝も無理しないようにな」

「…程々にやっとく」

 

士郎は部屋に戻り、正輝は黙々と調整をしている。これも自分の魔術をより良くするための一環だと

 

「よう、差し入れで切った林檎を持ってきたぞー」

「そろそろ休んだらどうだ。

模擬戦後からずっと休んでないはずだ」

 

杏子とアーチャーの二人が、まだ整備している正輝は声を聞いて手を止めた。

 

「おぉ黒沢、あと佐倉は疲れてないんだな」

「誰が黒沢だ」

 

作業を辞め、林檎を手にとって食べる。

三人とも座り、のんびりと話をしていた。

 

「しっかし、ミッテルトが光の槍をあんな風に爆発させれるとは思わなったぞ。まぁ、低くても攻撃可能な閃光手榴弾を無限に使えるって考えるだけでも十分ヤバイからな。

レイナーレも光の壁とリフレクター、そして反射効果のあるミラーコートか〜。

 

 

さやかも魔力を持続させてるし、マミもあんなトリックで俺の影達を縛り上げるなんて。

京子も士郎をライフゼロにまで追い詰めるなんてな。

奏は飛距離を伸ばす為にあの竜巻を作り出して、槍を投げても届かないのなら投げた槍を足場にしてアーチャーを倒すなんて二人らしい考え方だ。

なんだか、俺の知らない間にみんな成長してるなー」

「さやかがセイバーを相手してたおかげで上手くいったみたいなもんだ。大体、足止めしてもらっても私が士郎を奇襲するのだって、ヘマしたら私ら二人だけじゃすまねーだろ?」

「まぁ、セイバーと士郎に何人かやられてたかもしれないしな」

正輝だけではなくこのチーム戦でみんなが強くなっている。まだロープ陣営みたいな強さには届かないが、それでも次の戦いに備えて成長している。

 

「そうだ黒沢くん。ちょっと転移装置の最終チェック任せてもらっていい」

「はぁ…それくらいはしておく。

正輝は部屋に戻って休んでおけ」

「あざーっす」

 

早速、黒沢が転移装置を起動しようとする。

しかし、

 

『転移の準備が完了しました。対象三人、これより転移を開始します』

「あ」

「「「…え?」」」

 

押すボタンを間違えていた。

転移装置が稼働し、今装置近くにいる三人を対象に転移準備のカウンドダウンが表示される。

 

「おい、黒沢…お前これ…もしかして、もしかしてだけどさ」

「…すまない。転移装置を起動させてしまった」

「何ぃやってんのお前ぇ⁉︎

早く取り消さねぇと!」

 

正輝が転移装置を手に取り、転移のキャンセルをしようとしたがエラーが発生している。

調節している最中だった為、装置自体が急に止まることはできない。

 

「おいおいっ…この装置、止まんねーぞ!」

「だったらこの場からさっさと逃げ「いや、もう間に合わん」…え?」

 

目を閉じて諦めたアーチャーが転移装置に表示している数字に指を指す。そこには、あと10秒くらいで転移という表示を見て、二人も察してしまった。

 

(あ、ダメだこれ…逃げ切れない)

 

この場から逃げ出そうとしても絶対に間に合わなかった。三人は作動しているその装置から逃げることもできないまま、次の世界へと向かうこととなる。

 

****

 

「ねぇ、二人とも。正輝が整備してる転移装置の方はどうなって…あれ?」

 

転移装置の整備をしていた正輝と、その彼の手伝いと差し入れに向かったアーチャーと杏子がいない。周囲を見渡すと装置の電源が入っていたのを見つけ、何が起きてしまったのか察してしまった。

 

三人とも何かの拍子で何処かに転移されてしまったと察し、青ざめた。

 

「まさか、三人とも…あぁもう!衛宮くんちょっと来て‼︎」

 

元々機械音痴である凛はまず士郎に助けを呼び、正輝達がどこに転移されたかを確かめる。

 

 

三人の行き着く先は第五次聖杯戦争の一つ前。かつて衛宮士郎の義理父とセイバーことアルトリアが戦った第四次聖杯戦争へと。

 

fate/zero編 開始


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