「ほら起きろ、正輝」
「んだよ黒沢。まだ8時「もう8時だ、起きろ」ギャァァァドナドナされるー!助けてくれ杏子ぉぉぉっ…!」
「言っとくけど…一番遅いのお前だからな」
渋々と服を着替え、外に出る支度をする。
杏子の方も既にポニーテールからロングに髪型を変えている。
二人は用意できてるが、正輝は今さっき起きたばっかりだった。旅館での朝食を終え、宿泊室へと戻っていく。
「今度は3人で街に行くぞ」
「で、大丈夫なのか?
他のマスターと遭遇することも、何か策はあるのか?」
「悪い、ノープランだ」
「ハァ…すぐに考えておけ」
*****
旅館から出て、冬木市の町へと駆り出す。
買い物に向かい、人通りの多い場所へ積極的に向かった。
まず考えとしては街には夜までいないことにし、その間までには街の様子や買い出しをする。買い出しをすると言っても、お金も旅館に使う為、目的は街回りの散策だった。
しかし、人が無意識に正輝達を避けていく。
誰かに見られていることに、薄々感じていた。
「杏子…ちょっと隠れとけ」
「何か来てんのか」
「あぁ、アーチャーも霊体化。
やばくなったら出てきてくれ」
正輝の忠告に杏子は頷き、幻影で隠れる。
アーチャーの方も霊体化し、いざ敵サーヴァントに襲われることを考えて備えた。
「待て」
(…人払いの結界か)
辺りを見渡すと、話しかけてきたケイネス以外誰一人いなくなっている。あれだけの賑わっていた人も、既に結界の効果で離れていっていた。
手を出してくる前に声をかけてくるとは思っておらず、いきなり襲われて逃げるよりは幾分かマシだった。プライドの高い魔術師が不意打ちのようなセコい真似をしないことも分かり、こうして質疑応答をされている。
(令呪は隠してある。バレてはないが…)
「実に妙だ、なぜ貴様は人払いの結界をしてもその影響を受けない。
全員が全員、誰もがかかるというわけではないが。マスターという可能性もある」
本当は逃げたい気持ちで一杯だったが、ここでもし逃げれば正輝への疑いは確信に変わり、敵とみなして襲う可能性だってある。
「あの…すみません、その、何を言っているのかさっぱり」
「…君、まだ時間があるようなら、今ここで確かめたいことがあるのだが。
構わないかね?」
(どうすんだこれ)
惚けようとしても、無駄だった。
彼は街に紛れて忍んでいるマスターが特定できるよう街に人払いの結界を張り、魔術礼装の水銀を使って見分けようとしていた。
結界を張れば、多くの人がその場所を避ける形となるが、結界の影響を受けない人物もいる。
サーヴァントの使役はバレてはないが、自分達のことを調べられても困る。かといって、その返答を断れば、それは正輝が探られて欲しくないと言っているようなものだ。
しかし、ただ黙って素直に探られるというわけにもいかない。
策としてできるだけ穏便に人に紛れて、何事もなく終わることだったが、まさか人払いの結界がこんな方法で罠を仕掛けてくるとは思ってもいない。
接触して、素性がバレて攻撃を仕掛けてきたら、もう倒すしかない。
負の力で自分の魔力を探らせないようにする。運良く、多少の魔力を探られたところで、他の一般人にもごく稀にいだろうと大目に見てくれることもあるだろう。
立ち止まりつつも、慎重にシャドーを使って相手を欺こうとしたその時、
「死ねぇ!」
「なっ⁉︎」
通り魔のような格好をした男達が正輝とケイネスを狙う。
正輝は相手の腕を掴み、もう一人の方に投げ飛ばす。
ケイネスは身体強化の魔術をかけ、一人一人一撃で意識を奪った。彼は落ちた凶器を手に取り、刃物を凝視する。
「ふむ、人払いの結界を施したはずだがな…君もそうだが、少なくとも魔術師の関係者である事に違いはなさそうだ。
ただのナイフではない、魔術を裂く効力が備わっている。明らかに目的があった上で君と私を殺す気で襲ってきたのだろう。
ここまで殺したい程の憎悪を買った覚えは全く無いがな」
いくら論破されたウェイバーでも、彼の聖遺物を奪うだけで済ませている。純粋な魔術での決闘でも勝ち目が無いのを理解しており、自分が聖杯戦争で誇り高く戦って見せたという証明を示したいだけなのだ。
彼らのような命を奪う事でしか貶める行為は決してしない。
ケイネスは釈然とはしなかった。殺すにしてもあまりに無計画であり、側に男にも標的にしていた。
「俺も貴方も襲われいますし…どうでしょうか、共闘しません?」
「…完全を信用しているわけではない。
が、奴らも私を狙っているのは目的がわからん以上仕方あるまい。
足を引っ張るようであれば、分かっているな…?片付けたら、貴様のことを存分に根掘り葉掘り聞かせてもらおう」
陰に潜んでいた男がケイネスの足元にフラスコを思いっきり投げるが、水銀を操作してそれをキャッチする。
「…ばら撒けば窒息死してしまう程の濃度を持つ化学薬品か」
「マジ…」
「私の魔術工房を突破される事はないかもしれんが…」
あらかた襲撃者達を片付けたところでケイネスが近づき、掌を正輝の顔に触れようとする。
咄嗟の判断で、正輝は身を引いた。
「あっぶな…俺に何しようとした?」
「今回の襲撃の件で心配することがあってな。君が知る必要もない」
「知る必要はない?関わってる時点でこっちにも知る権利はあるだろ。
大体、この件が終わっても俺達を連行するつもりだよな」
先程の襲撃で共闘していた二人の間に、蟠りが起きる。正輝は嫌そうな顔をし、ケイネスも黙ったまま。
互いに明かすことなく、自分の手札を見せたくないようにする。このまま手も出せず、かといって相容れないから戦うことになっても第三者で襲ってきた連中の思う壺だった。
「…このままでは拉致があかんな。場合によっては君を始末しなくてはならないが?」
「ハァ…分かった。俺も素性を話す。
これ、揉め合ったところでお互いに利なんてないしな。
というわけで、アーチャー。出てこい」
「…こればかりは流石にやむおえんな」
アーチャーを出現させ、ケイネスの表情が和らいだ。
水銀を引き下げ、深く考えていた。
前回、あの黄金の鎧を纏った英霊は紛れもなくアーチャーだった。しかし、目の前にいる赤い礼装もまたアーチャーであり、2体も同じサーヴァントが限界している。
「どう言うことだ。同じサーヴァントが2体もいるだと?」
「その詮索はまた後だ。英霊を見せただけでも素性を明かしたんだから、これであんたも明かす必要はあるよな」
「…出てこいランサー、ソラウを守りに行け」
ケイネスの指示で自分のサーヴァントを正輝達に見せる。霊体化したランサーを出現させ、彼は正輝の方に目を向けた。
「…よろしいのでしょうか?」
「この男と一緒にいることがか?
この聖杯戦争に加担しているのなら、姿を露わにするような事はしないだろう。
アーチャーならば尚更のことだ。
もし奴が私を敵と判断しているのなら、罠を張って活動していることを知らぬわけがないからな。
とっくに遠くから私を狙撃している。」
(だったら…なーんで半人前の魔術師にだし抜かれたんだろうな)
先ほどの戦いで、ここまで決断力があるのならば、英霊と一緒に前へ出て戦う度胸もあれば、半人前の生徒に聖遺物を盗まれるような間抜けをやらかすとは思えなかった。
(石橋を叩いて渡る慎重派なんだろうなー…)
確かにサーヴァントが前線に出て、マスターが後衛に回るのはおかしなことではない。
どの陣営でもそれが基本的な戦いであり、脆弱なマスターが死ねば英霊も力不足なまま消えてしまうかもしれないのだから。
「何をしている。この程度の荒事に手間をかけることはない…すぐに向かえ」
「承知しました、我が主人よ」
ランサーが先にホテルへ向かい、ソラウ救出に馳せ参じる。高く飛翔し、建物からまた別の建物へと屋上を飛びながら移動していた。
「それと…いい加減隠れてないで、出てきたらどうだ」
(あ、やべ…)
ケイネスは正輝の側に隠れている人物、杏子のことも気づいていた。見知らぬ者に付けられると思われてしまうと考え、正輝は咄嗟に杏子を呼び出す。
「おーい、もうそろそろ出てきていいぞ」
「あーあっ…このまま隠れ続けようと思ってたのにさ。バレちまったのかよ」
隠れていた杏子がバレてしまったかと渋々と姿を現す。
「流石にこんだけ近かったら見抜けられちまうか。改めて紹介するよ。
俺は岩谷正輝。んで、隠れてたのが杏子…まぁ妹みたいなもんだ」
「…貴様達を私の拠点に連れて行く。
私に着いてこい」
ケイネスがもう一度周囲を確認し、正輝達にそう発言する。追手もおらず、ケイネスの拠点であるホテルへと向かっていった。
人払いの結界も既に解除し、人も
高層ホテルへと入り、ケイネスの背後をついて行く。
「ただいま。無事か、ソラウ」
「えぇ。ランサーから話は聞かせてもらったわ。
私を殺そうと外から銃器を持っていた連中ががいたみたい。
だから、なるべく窓際には近づかなかったわ。ランサーもその襲撃者達を見つけて、何人かは捕らえてるわよ。
でも…そこにいる貴方達はケイネスの知り合いなのかしら?
同じサーヴァントが2体もいるなんて聞いたことないわよ。
一体どういうこと?」
赤い髪をした女の人が、正輝達こと客人を連れてきたことに驚いている。その半面、ケイネスが認めて連れてきたとはいえ、それでも半信半疑に正輝達のことでまだ納得がいかない様子だった。
「ついさっき知り合ったばかりのご客人だ。
サーヴァントに関しては私にも分からない」
「それについては俺が説明する。俺のサーヴァントはこの聖杯戦争に関係はない。
別の世界から英霊を連れてここにやってきた」
「別の世界?随分と真実味のない話ね」
「真実も何も、こうして俺のサーヴァントを目にしている以上アーチャーが二人いるというのは本当のことだ。
嘘を言って誤魔化しても仕方ないだろ」
「じゃあ、俺達のことは黙っておく代わりに、…これも何かの縁だ。
その英霊の魔術を取り除く」
「ほぉ、それが出来るのか。
なら目の前で見せてみろ」
正輝がランサーを見ると、ある短剣を投影した。その宝具を与えることで、愛の黒子は剥がれていく。
ーー改造式・ルールブレイカー
「なっ⁉︎魅了が…消えていく」
「これで悩みの種が一つ無くなって、思う存分戦えるわけだ」
魅了が施された魔力を抹消する。
本来のルールブレイカーは初期化だが、このルーフブレイカーについては魔術効果の抹消を可能にした宝具となる。
女難に巻き込まれることなく主人の忠義を尽くすことができる。ソラウもケイネスもその様子に驚き、その短剣を投影破棄した。
「貴方っ…その短剣は」
「そう、魔女メディアが持っていたものだ。
魔術師とはいえ、ここまで高度な投影魔術を持ち合わせている人間は極一握り…いや、一人いるのかどうかすら分からないだろう。
仮にその内の一人が俺であったとしても、そんな人がいるなら最重要危険人物としてこの聖杯戦争が始まる前なら魔術協会も黙ってない。
もしそうだったら今頃、血眼になって探しているからな。
これで俺達が別の世界から来たということはご理解頂けましたか?」
「成る程…釈然とはしないが、嘘は言ってなさそうだな」
ソラウは唖然とし、ケイネスとのランサーは正輝達のことを只者ではないことを理解した。マスターが宝具に匹敵するほどの魔術を力を所有していることはあるが、贋作とはいえ宝具を持ち合わせているなど聞いたことはない。
あの長い髪をした少女でさえ、ケイネスを相手に長いこと幻術で欺いていたことを内心高く評価している。
「襲ってきた連中を確保したと話していたそうだが…その後始末はどうするつもりだ」
「聖杯戦争のことを知られている以上は始末…と言いたいところだが魔術協会に彼らを送る。
あの薬品や重火器を入手したルートもそうだが、肝心な対魔術を施した凶器も調べてもらいたいところだ。
先程の説明でソラウも…納得できているか」
「え、ええっ…そうね。確かに貴方達が別世界とやらに来たのも頷けれるわ。英霊の持つ宝具を投影できる魔術師なんて早々いないもの」
流石に襲った連中について、正輝達は関与することはしなかった。
「じゃあこれで話はまとまったみたいですね。
こちらは貴方達の情報を他言する気は微塵もないですよ。ですから俺達の事は」
「無論、誰かに他言するつもりはない、仮にもし周知になったらどうにもならんがね」
こうして、ケイネスとの対談は終わった。
手札を見せ合うことで、争うことなく彼らとの交渉だけで済む。
が、
「待ちたまえ」
「あの、なんでしょうか?」
「急ぎの用事がなければ、お互いのことを話そうではないか。
為になる事もあるかもしれんぞ?」
*****
正輝達はケイネス達のいるホテルを出て行く。話をしつつもすんなりと帰らせてくれたことに、安心した。
「正輝、肩に力を入れすぎだ」
「あぁうん。言葉や態度に気をつけてたんだから仕方ねーだろ」
(いやホント、マジに心臓に悪いって)
出会ってから協力関係になるまでは、正輝の脳内では危険信号を発信していた。
ホテルについても、警戒は怠っていない。
怪しまれて、その場で戦闘になってもおかしくないと思ったのから気を緩まなかった。
杏子の存在にバレた時も内心焦ったが、協定関係を気付き上げたこと、すぐに姿を現した事でケイネス達も怪しまれることもなかった。
「ま、お疲れ。
どっか飯食いに行こうぜ」
「じゃ、ラーメンでも食いに行くか」
泊まり先がケイネスのいるホテルではなく、この旅館で良かったと安堵する。今頃、他のマスターがビルに何かを仕掛け、本拠地諸共倒壊させたのだろう。
ホテルの内側も外側も徹底して守れる、完全無欠の陣地。今日起きた襲撃から、からくり仕掛けの攻撃でも粉砕されないよう細工している。
『ふむ、これで…魔術で窓と壁を防弾並の防御力を強化させた。
今後の襲撃者は、我がケイネス・エルメロイの工房を味わうこととなるだろう。
フロアひとつ借り切った、完璧な工房だ。
結界24層、魔力炉3基、猟犬代わりの悪霊、魍魎数十体、無数のトラップ、廊下の一部は異界化させている空間もある。
最早この城塞に弱点はない。
存分にこの聖杯戦争を謳歌しようではないか』
(うん、あの先生はすっごい自慢話してたけど。
いやまぁ俺も罠の用意とか教えてもらったおかげですごい為になったけどさ。
地下の駐車場はどうすんのって伝えたかったけど、伝えたら伝えたで原作とやらが変わっちゃうし)
「あー…ダメだったか。
無事かなぁ…あの三人」
のんびりとラーメンを食いながら、ニュースでホテルが倒壊されているのを確認した。彼はペラペラと話していたけれど、正輝の内心は多分心配して伝えても、結局慢心してペラペラと説明したところで失敗フラグは立っていたのかなと思っていた。
「私はこんなのもらったぜー。アタシから恋話を持ちかけたら、なーんかもじもじとあの美男子を見てたけど。
アタシもまぁ…危うく魅了にやられそうになるところだったよ」
「お、おう。そりゃ良かったな」
一方の杏子は、ロンドンの時計塔や、冬木市のクリスタルを貰っている。魔術での幻術を扱い方や、女子同士の話は盛り上がっていた。
ケイネスの自慢話を正輝とアーチャーが延々と聞かされている間、女性陣は女性陣同時で盛り上がっていたのであった。
主にソラウが。
(これ…スレに心配の声が次々と投稿されてる…確かにいい加減帰れる手段を探さないと不味いよな。
まともな情報もまだ出てきてないし、どうすりゃいいんだ)
スレではスナイパーという人物とケイネスはこの聖杯戦争で必ず戦うことになり、もし正輝達のことにまで知り、手を出そうとすればもうこんな呑気でいられなくなる。
正輝の方は、立てたスレを見ながらも危機感を感じていた。