天狼島 アレス
広い洞窟をただ歩く、洞窟の中は蒸し暑く、汗を掻く。
汗の所為で服が皮膚に張り付き、気持ち悪い。
此処は妖精の尻尾の聖地、天狼島。
何で俺が聖地に居るかと言うと‥‥S級試験の為に居る。
正確にはS級魔導士昇格試験だ、何か、普通に受ける仕事より難しい仕事を受けれるらしい。
それが昨日発表されたのだが‥‥‥S級魔導士昇格試験出場者が俺だけだったのだ。
「お主はこの中で一番経験を積んどる、だから選んだ」
マカロフはそう言ったが‥‥俺は其処まで経験なんざ積んじゃいない。
まぁラクサスよりかは経験豊富なのは認める。
だからって一人だけって何か嫌だな。
「‥‥‥この先か」
受け取った地図を頼りに進んでいくと誰かが立って居た。
見た所、オッサンだ。
茶色い髪でオールバックの髭面の中年、あれが試験官か?
「おっ! 来た来た」
俺に気付いたオッサンは俺を手招きする。
「アンタが試験官か?」
「そうだ、俺はS級魔導士のギルダーツだ、お前は?」
「俺はアレスだ」
「アレスか、それじゃあ早速始めるか」
笑顔で構える。
直ぐに解った、此奴が強者だと言う事を。
体中がそう察知した。
「‥‥‥本気で行く」
左手をポケットから出し、ギルダーツを睨む。
ギルダーツは笑みを変えず、俺を見る。
二人は動かず、何かを待つかの様にお互いを見る。
頬に流れる汗が地面に落ちる。
それと同時に俺が動く。
ラクサスの雷と同じ様に高速で動き、ギルダーツの後ろに回り込み。
「フッ!」
頭に向かって踵落としをする。
だが、片腕で受け止められた。
「良い蹴りだ」
そう言い、地面に叩き付けられる。
背中に痛みが走る、だが俺は右腕をギルダーツに向ける。
「破竜拳」
衝撃がギルダーツを襲う。
「うおっ!?」
ギルダーツは壁に叩き付けられ、瓦礫の下敷きに成る。
俺はゆっくりと立ち上がり、瓦礫を見る。
(壁に叩き付けられる瞬間、壁の方が勝手に崩れたな)
何かの魔法でそうしたのか、それとも別の何かか。
解らないが今は向こうが動くまで様子を見る。
(一応、かなりの魔力を込めて撃ったから普通じゃ立てない筈だが‥‥)
ガラララッ!
「‥‥マジか」
瓦礫からギルダーツが出て来た。
怪我をしてる様に見えない。
「痛たた、中々遣るな」
頭を掻きながらそう言う。
「そんな余裕な顔で言われても信じられないぜ」
溜息を吐き、そう呟く。
これはアレを使わないと勝てないか?
(しゃーない、出し惜しみして勝てる相手じゃなさそうだし)
深呼吸し、体の中心に魔力を集中させる。
「ドラゴンフォース」
体中に竜の鱗が現れ、眼が緑に光る。
これは体内に眠るドラゴンの力を目覚めさせる技。
その力はドラゴンに匹敵するらしい。
「ッ!」
急に上昇した俺の魔力にギルダーツは驚く。
驚き、油断している所を俺は一気に攻める。
様々な属性を腕に纏わせ、殴り続ける。
「グッ!」
ギルダーツが怯んだ、腹に大きな隙が出来ている。
「神竜の鉤爪」
其処に蹴りを打ち込む。
しかし、両手で受け止められる。
「!」
「フンっ!」
ギルダーツは肘を顎に打ち込む。
衝撃が脳まで響き、視界が揺れる。
「破邪顕正 一天(はじゃけんせい いってん)」
拳が俺の腹にめり込み、洞窟の天井にぶつかる。
「ッ!?」
凄まじい衝撃が全身を襲う。
何て力だ!
「神竜の咆哮!」
透明なレーザーを放つ。
だが、レーザーは砕かれた。
「‥‥こりゃマジで勝てるのか?」
本気でやって居るが勝てるか不安に成って来た。
まぁでもまだ隠し玉ある、此奴は使いたくないけど。
「神竜の翼撃」
両手に透明な魔力を纏い、ギルダーツを挟む。
「ふっ!」
音を立てて魔力が壊れ落ちた。
この魔法、確かクラッシュとか言う魔法だった筈だ。
(如何するか?)
クラッシュの攻略法を探りながら攻撃を続ける。
「フンっ!」
ギルダーツの拳が胸に当たる。
「グアァッ!」
メシメシと鈍い音と激痛が体を駆ける。
そう長く体が持たない、なら一か八か賭ける!
「光竜の輝き」
光を発し、ギルダーツの眼を眩ます。
「くっ!」
怯んだ隙に懐に潜り込み、ギルダーツを掴む。
「しまっ!?」
ギルダーツは俺を振り解こうとするが遅い。
「滅竜奥義『神聖ノ威光』!」
辺り全てを包むほどの光を発し、爆発した。
余りの爆発に洞窟が崩壊した。
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
瓦礫から這いずり出た。
周りにはギルダーツの姿は見えない。
「痛たた、体痛ぇ」
軋む体を動かし、瓦礫を掘る。
一時掘るとギルダーツが出て来た、如何も気絶している。
「‥‥起きろ」
頭を叩いてみたが起きない。
困ったな、集合場所、俺知らないぞ?
「‥‥まぁ起きるまで待つか」
腰を降ろして待とうとした時。
ガサッ‥‥
近くの草が揺れた。
「‥‥?」
草とは明らかに色違いの何かが出ていた。
髪の毛に見える。
「‥‥誰だ?」
近寄ると髪が逃げた。
もしかしたら此処の住人かもしれん。
何となく追い掛ける。
草を掻き分け進むと、巨大な墓標が有った。
そしてその前に小さな少女が居た。
「おい、お前」
声を掛けると消えてしまった。
俺は不思議に思い、墓標に歩み寄る。
墓標には誰かの名前が彫ってあった。
「メイビス・ヴァーミリオン?」
確かマカロフが初代マスターの墓が有るとか何とか言って居たがこれの事か。
しかし、初代か、物凄い強面の奴なんだろう。
『呼びましたか?』
後ろから声が聞こえた。
振り向くと消えた筈の少女が居た。
「‥‥アンタがメイビス?」
『如何にも私は妖精の尻尾初代マスターのメイビス・ヴァーミリオンです!』
胸を張って威張る。
俺は少し笑ってしまった。
『なっ! 何で笑うんですか!?』
腕を上下気振りながら問う。
「い、いや‥‥だって‥‥あはははっ!」
遂に笑ってしまった。
こんな少女が初代マスターか。
思って居たのと全く違った。
しかし、この魔力、心から温かくする様な優しさが有る。
『信じてませんね!』
「まぁ普通は信じられないな」
笑いながらそう言うとメイビスは真剣な顔でこう言う。
『貴方からは半分闇を感じます、まるであの人と同じ力を‥‥』
「!」
『貴方、もしやあの人の子供ですか?』
「‥‥そうだ、正確には造られた」
腰を掛け、話す。
おぼろげな記憶を。
『‥‥成る程、それで貴方は妖精の尻尾に来たのですね?』
「そうだ‥‥アンタは‥‥俺を如何する?」
左手に黒い靄を纏わせた。
「こんな俺を‥‥アンタは危険視して殺すか?」
『‥‥』
メイビスは黙って俺を見る。
「生まれた事は別に憎んじゃいないし、俺が人間じゃなくても構わない、だけど‥‥俺は復讐を果たす、こんな馬鹿らしい復讐だが‥‥俺はやる」
拳を握り締め言う。
すると‥‥
『‥‥ふふっ』
メイビスは笑う。
「‥‥何が可笑しい?」
『いえ、あの人の事だから愛なんて言葉を出さないと思ってたんですけど‥‥変わりましたね』
メイビスは微笑み、言う。
『貴方は立派な人間ですよ、アレス‥‥えぇ~と?』
「はぁ‥‥エーアストだ、母さんの知り合いなら覚えとけよ」
『済みません、もう何十年前の事なので‥‥「おぉ~いアレス~?」あら?』
ギルダーツの声が聞こえて来た。
漸く起きたのかあのおっさん。
「そんじゃあ、俺は帰る」
メイビスの頭を撫でる。
『はい、試験お疲れ様です』
笑顔でそう言い、何処かへと去って行った。
「おぉ! 居た居た、探したぞ!」
「こっちは起きるのを待ってたんだぞ?‥‥それで? 試験の結果は?」
ギルダーツは笑って告げる。
「合格だ」
「そうか、それじゃあ帰ろうぜ、もうクタクタだ」
俺とギルダーツはマカロフが待つ船へと戻り、マカロフからS級魔導士として認めて貰った。
その後、俺は『妖精の尻尾・最強の男』として国中に広まったらしい