俺が今、天狼島より小さい島パトリア・ニュムパと言う可笑しな名前の島に居る、此処も妖精の尻尾の聖地らしい。
そう言えば何故俺が居るのかというと‥‥今期のS級魔導士昇格試験の最後の試験官として挑戦者を待ち構えているからだ。
資格が与えられたのはミラジェーン・ストラウスとカナ・アルベローナだ。
先程、状況を聞いた所、ミラは残ったがカナはエルザに当たり、負けたらしい。
運もこの試験の一つだしな、仕方が無い。
(それにしても‥‥遅いな)
一次関門を突破してから一時間が過ぎようとしている。
(流石に少し心配だ、何処かで怪我でもしたのだろうか?)
しかし、ミラに限って脱落と言うのも無いだろう。
俺が易々と通り抜け来れる位の簡単な罠が数十ヵ所あるだけだ。
「よぉ‥‥待たせたな」
後ろからミラの声。
漸く来たかと呟きながら振り返って見ると体はボロボロに成って居た。
まるで激戦を乗り越えたみたいな‥‥そんな怪我だった。
「如何した? 随分とボロボロだな?」
「あぁこれか? 予想以上に罠に手古摺ってな‥‥」
「あれでか? 俺はあっさり突破したが?」
「お前と一緒にするな‥‥でも‥‥今はお前を倒すぞ!」
ミラはスッと戦闘態勢に成る。
だが、俺はそれを制止した。
傷だらけの女と戦って勝っても面白くない、戦士として侮辱してるかもしれないが‥‥俺はこっちだけ万全な状態で傷付いた相手を倒す、要は弱肉強食みたいな物が嫌いだ。
こっちが傷付いてる分には構わないが‥‥相手が弱っているのを見ると戦う気が失せる。
それに‥‥ミラは多分ギルドの女の中で一番強い、いや、エルザと互角だろう。
そんな奴と戦う、それを少しだけ楽しみにして居たからもあるのだろう。
「治療ヒーリング」
ミラの傷を癒す。
俺の治療は傷を治すが魔力までは戻せない。
対等じゃないが‥‥これも試験だ。
「良し、それじゃあ最終試験を始める、内容はどんな手を使っても良いから俺を倒す、シンプルだろ? それから俺は何時も通り“右腕”のみを使ってお前と戦う、この戦いで俺がもし『左腕を出したら』俺の負けだ、俺を倒すか、頭を使って俺から左腕を出させるか、好きな様に戦ってくれ、時間は無制限だからな」
話を聞き終えたミラは俺にこう言う。
「良いけど‥‥こっちからも条件が有る」
「何だ? 俺と同じ様に戦うってか?」
違うと呟き、俺を指差し、言う。
「私が勝ったら‥‥何でも言う事を聞く、負けたらお前の好きにして良い、これだけだ」
瞳からは勝利の二文字が見える程、自信に満ち溢れていた。
余程何か考えが有るのだろう、だから条件を出した。
「そうか、じゃあ俺が勝ったら一日専属メイドでも遣って貰うか」
冗談で言ったのだがミラは「それはそれで良いな」と小言で呟く。
「‥‥まぁ始めるか」
俺は体制を低くし、軽く地を蹴り、ミラに襲い掛かる。
「崩竜拳」
魔力を纏わせ、拳を突く。
だが、その拳はミラに当たらず、辺りの木や岩を消し飛ばしただけだった。
「ハアァッ‼」
死角から拳が飛んで来た。
「グッ!」
衝撃を受け流すが口の中が切れ、血の味が広がる。
目の前に立つミラは魔法を使い、姿を変えていた。
ミラの使う魔法は接収テイクオーバー、相手の体を乗っ取り、自分の力とする魔法。
接収にも種類がある、ミラはその中の『悪魔』を接収する、普通の魔導士では悪魔なんかに勝てないがそれを遣って退けるのがミラジェーン・ストラウスだ。
「魔神ハルファスか」
魔神ハルファス
ミラが接収した中で最も強い悪魔だ。
辺りが震える程の魔力、俺の身も震える‥‥だが
「魔竜扇乱拳まりゅうせんらんけん」
踊る様に拳を振るう。
この震えは恐怖では無い、むしろ戦いを喜ぶ狂喜の震えだ。
「滅竜奥義―――」
腕に闇の魔力を纏わせ、地を這う様に駆ける。
「絶の型・鬼哭魔拳きこくまけん」
ミラの足元で拳を突く。
地面から地獄の死者達の怨念の様な呻き声と共に地が裂け、魔の手が伸びる。
「しまっ!?」
体を丸くし、防御の体制を取る。
手はミラを覆い隠し、爆発した。
黒い光の柱が空を突き抜ける。
砂煙が舞い、衝撃で近くの岩が崩れ、木が倒れる。
(‥‥流石に立ってないかな?)
本気ではないが‥‥ミラでは耐えられないだろう。
しかし、砂煙が晴れるとミラは立って居た。
「! まだ立てるのか!」
「はぁ‥‥はぁ‥‥まだだ!」
別の悪魔の姿に変わる。
「魔人ミラジェーン・シュトリ !」
魔人ミラジェーン・シュトリ
此奴はエルザが認める最強のサタンソウルだ。
まだ、力は残っているみたいだ。
「ウラアァァッッ‼」
「来いッ!」
激しい殴り合いが繰り広げられる。
殴り殴られ、蹴り蹴られを続ける。
「ダアァッ‼」
「フッ!」
お互い頭突きが決まり、衝撃で地面に亀裂が入る。
「グアッ!?」
衝撃に耐えられるミラが怯む。
その隙を見逃さない、力を籠め、拳を突く。
「破邪顕正 一天‼」
拳はミラを完璧に捉えた。
衝撃と共にミラは壁に吹き飛ばされた。
岩が崩れ、ミラの体は埋まった。
「‥‥終わったな」
流石にもう立てないだろう、そう考え、岩の近くまで歩む。
だが、ミラは岩の中から這い出て立ち上がる。
「‥‥大した根性だな」
「はぁ‥‥はぁ‥‥ぐっ!」
膝を突き、荒く息を整える。
接収が解ける、これはダメージが蓄積され、体の限界を超えたのだ。
「此処までよく頑張ったな、時には諦めも肝心だぞ?」
ミラは首を横に振り、フラフラと立ち上がる。
「私は‥‥勝つ‼」
最後まで戦う気の様だ。
全く、スゲェ女だ。
「なら、遠慮なく行くぞ! 迅竜の迅脚」
空気を切り裂く程の鎌鼬を起こす。
間一髪でミラは避けるが、その隙に地を蹴り、ミラに近付く。
「うっ!」
地面に押し倒し、マウントを取り、拳を振り上げる
このまま拳を振る降ろせば勝てる、だが、ミラは大声でとんでもない事を叫んだ。
「アレス! 結婚してくれぇ!」
「はっ!?」
余りにも意味の解らない言葉に動揺し、拳を振り下ろすのを寸の所で止めてしまった。
ミラはその一瞬の隙を狙い、最後の力を使い、俺の右腕を封じた。
「デビル・チェーン!」
鎖が巻き付き、右腕を捕らえる。
「なっ!」
鎖を解こうとするがその前に‥‥
「ドラァァァッッ‼‼‼」
渾身に一撃を顔面に向け放たれた。
咄嗟に左腕で防いでしまった。
「勝った!」
ミラは笑顔でそう言う。
俺が最初に言った『左腕を出したら俺の負け』
これが無ければ逆に勝てないからと爺さんに言われた時には『油断なんかしなければ出す事は無い』と踏んで居た‥‥だが、見事にミラの罠にはまってしまった様だ。
「はぁ‥‥俺の負けだ」
溜息を吐き、そう言う。
ミラは嬉しそうに笑い、俺に抱き付く。
「アレス~‼約束憶えてるよな!」
約束、そう言えば試験の前に『勝ったら何でも言う事を聞く』とか言って居たな。
「何だ?」
どうせ大した事じゃ無いだろうと思って居た。
だが‥‥ミラは俺の予想をはるかに超える要求をして来た。
「私の相棒パートナーに成れ!」
「‥‥‥はっ?」
意味が解らない。
何で此奴が俺と相棒になろうと言って居るんだ?
「良いよな? お前から左腕を出させたんだから!」
そう言えば‥‥ミラと模擬戦をして居た時から、俺はずっと右腕だけで勝って来た。
それに今回の戦いで初めてミラに左腕を出した、そして俺の攻撃を喰らっても耐え、立ち続けた。
根性は俺より上だ。
「‥‥‥今のお前なら良いぞ」
笑ってそう言うとミラも笑みを見せて地面に倒れた。
限界を超えた状態で魔力を使ったからだろう。
優しく頭を撫でて「お疲れ」と耳元で呟いた。
この日を境に俺はミラと共に『真紅の魔神』と言う名で大陸を越え、人々に恐れ戦かれた。
それと‥‥ミラは『俺の相棒だがら』と言って俺の家に住み着いた。