バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第二十五話

「くたばれー!」

物陰からシャドウに不意打ちをかけて葬り僕は汗を拭う。

「なあ……マジでなんでそんなに手馴れてんの? 前々から疑問だったけど本気でお前ナニモンって感じなんだけど……」

シャドウを物陰から襲い、気配を探って数が多そうな道は避ける。

「ごく一般的なスキルだよね?」

「いやいや、普通じゃねーから!」

「普通の生活送ってれば自然と身につくと思うけど……」

なんで陽介がそんなにムキになってるか理解できない。この程度のスキル男子学生ならたいてい身につけていると思うけど……さすがにムッツリーニレベルだと異常だと思うけど。

「それよりほら、向こうに階段見えるよ。急がないと里中さんが」

「今度絶対聞かせてもらうかんな!」

僕から何を聞いても普通の生活しかないと思うんだけどなあ……

「フムー、クマもアキヒサの戦い方はセンスあると思うクマよ、ヨースケも見習うクマ」

「戦い方も不意打ちや隠れるのも上手いけど見習っちゃいけない気がするんだよな……」

 

 

「チエチャンはこの部屋クマよ」

階段を登ってすぐある大きな扉、そこをクマが指差す。

「よし、それじゃ行くよ」

「おう!」

僕たちが扉を開けて部屋に入るとそこには里中さんがいた。

「無事か、里中!」

陽介が声をかけるけど里中さんは反応しない。

「里中さん、何かあった?」

『赤が似合うねって……』

「この声……天城さん?」

『私、雪子って名前が嫌いだった……雪なんて、冷たくて、すぐ溶けちゃう……儚くて意味がないもの……でも私にはぴったりよね……旅館の後継ぎって以外に価値のない私には……だけど千枝だけが言ってくれた。雪子には赤が似合うねって……』

「これ、天城の声か……先輩の時にも聞こえた……」

「あ、そうかも、だからここに天城さんがいなくても声が聞こえるんだ……」

「そして多分ここはユキコって人の影響でこうなったクマ」

「え!? じゃあここは天城さんが作ったの?」

僕の頭にはドレス姿で大工道具を振るう天城さんの影が思い浮かぶ。

「アキヒサの想像は多分違うクマよ」

「雪子……」

『千枝だけが私に意味をくれた……千枝は、明るくて強くて何でも出来て……私にないものは何でも持ってる……私なんて千枝に比べたら……』

なんとなくわかる気がする。僕も周りに比べたらいろいろ劣ってると思うし……

『千枝は……私を守ってくれる……なんの価値もない私を……私そんな資格なんてないのに……優しい千枝』

「雪子、あたし……」

『優しい千枝だってさ。笑える』

まさか……

「あ、ああ!」

「あれって、まさか!?」

「里中さんの影!?」

「ヨースケやユージと同じクマ! 抑圧された内面……それが制御を失ってシャドウが出たクマ!」

え!? 今の話のどこに? 天城さんが里中さんを頼ってるって話だよね? 陽介の時みたいに否定されているわけじゃないのに……

『雪子が……あの雪子が! あたしに守られてるって! 自分には何の価値もないってさ! ふ、ふふ、うふふ……そうでなくちゃねぇ?』

「アンタ、な、なに言ってんの?」

『雪子ってば、美人で、色白で、女らしくて……男子なんていっつもチヤホヤしている。その雪子が、時々あたしを卑屈な目で見てくる……それがたまらなく嬉しかった……』

「クマ、これって里中さんの抑圧された本心なんだよね」

「そうクマよ……自分で目をそらしていたココロ、それが具現化してるクマよ……」

『そうよ、雪子なんてあたしがいないと何もできない、あたしの方が、あたしの方が、あたしの方がずっと上じゃない!』

「違う! あたし、そんなこと……」

これが里中さんの中にあるっていうことか……でも

「そんなの、誰だって思うことあるじゃないか!」

僕は雄二より頭は悪いし喧嘩でもボコボコにされた。僕の方が劣ってると思ったけど召喚獣の扱いとかゲームとかで勝って嬉しかったりする。ちょっとしたことで優越感を持つなんて普通のことなんだ。

「や、やだ、来ないで、見ないで!」

「誰だって思う事なんだよ! 否定しないで!」

「そ、そうだ、里中、落ち着け」

「違う! 違う! こんなのあたしじゃない!」

「ば、ばか、それ以上言うな!」

『ふふ、そうだよねえ、一人じゃ何もできないのは本当はあたし……人としても、女としても、本当は勝てない、どうしようもない、あたし……でもあたしはあの雪子に頼られてるの……だから雪子は友達、雪子は大事……』

この里中さんを止めることも……否定することもできない。これも里中さんなら……

「そんな、あたしはちゃんと雪子を……」

『うふふ、今までどおり見ないふりであたしを押さえつけるんだ』

「里中さん! 里中さんが天城さんを大事にしてるのはわかる、けどあいつを否定しちゃ……」

「違う! こいつはあたしなんかじゃ……」

「やめろ! 里中!」

「こいつなんかあたしじゃない!」

『うふふ、うふ、きゃーっはっはっは』

里中さんの影がシャドウに変化する。複数の天城さんっぽい人を椅子にして座る女性型のシャドウ……

「里中!」

「く、くるクマ! 二人のチカラでチエチャンを救うクマよ!」

「わかった! まずは里中さんを守ろう!!」

 

 

『我は影……真なる我……なにアンタら? ホンモノさんを庇い立てする気? だったら痛い目見てもらっちゃうよ!』

「うるせえ! おとなしくしやがれ!」

「まずはお前の暴走を止めて……里中さんを助ける!」

『さあて、そんな簡単に行くかしら』

「やってやるよ。いくよ、陽介」

「おう、任せろ!」

僕は木刀で陽介がモンキ-レンチを構えてシャドウと対峙する。

「イザナギ!」

まずは陽介のシャドウと戦った時と同じ、電撃魔法で隙を作る!

『それがどうしたっていうのよ!』

「え!?」

ジオで隙を作って木刀で殴る。その作戦が通じずジオを喰らいながらも平然とし、逆に木刀で殴りかかる僕を手に持ったムチで迎撃する。

「い、痛あ……」

「だ、大丈夫か、明久!?」

「この程度平気……」

痛みには慣れてるけど……シャドウの一撃はかなり重い。

「こいつは電撃は弱点じゃないクマよ、無理しちゃダメクマ」

『強がってるけど痛みで隙ができたのはあんたの方みたいね』

「させるかよ……ジライヤ!」

陽介がペルソナを召喚する。

「いけ! ガル!!」

疾風が里中さんのシャドウに吹き荒れる。

「きゃ!? やってくれるじゃないの……」

シャドウがバランスを崩す。

「陽介、追撃を……」

「いや、まずはこっちが先だ、頼むぜ、ジライヤ」

陽介のペルソナ、ジライヤの手から光が出て僕を包む。

「俺のペルソナ、回復の魔法が使えるみたいなんだ」

確かに体の痛みが消えた。

『なに余裕持ってんのよ、勝負はまだまだ……これからよ!』

「さっきので分かったクマ! アキヒサ、ヨースケ、こいつ疾風が弱点クマ」

そう言われてもイザナギは疾風属性は使えないし……

『違うぞ、明久、お前の力は他にもある』

僕の中の悪魔!? 他の力って……

『思い出すんだ、長鼻の言葉を……僕の力を使うんだ!』

君は僕の中の天使……僕の力は……ペルソナは特別なもの……

「エンジェル!!」

「え!? アキヒサが別のペルソナを使ったクマ!?」

『そう、僕の力だね』

僕の中の天使、君は意外と役に立つんだね。

『いや、天使じゃなくて菜々子との絆の力なんだけどな』

帰れ僕の中の天使(役立たず)

「ガル!」

菜々子ちゃんとの絆の力でエンジェルが疾風を放つ。

『くっ……あんたもその魔法を撃つの、だけどそう何度もやらせないよ』

僕の魔法をくらってバランスを崩すけどシャドウはなんとか体勢を立て直し、そう言う。

『この壁は疾風を通さないわよ!』

里中さんのシャドウは目の前に緑色の障壁を貼る。

「ハッタリだ、行くぜ!」

陽介はそれを気に止めずガルを再度放つ……

『通さないといったはずよ!』

実際完全に防いだというわけではないが障壁にあたって明らかに陽介の魔法の威力は弱まる……

「あの障壁は疾風属性の魔法に耐性をつけるクマよ」

「それを早く言えよ!」

「ゴメンなさいクマ……」

『今度はこっちから行くわよ……』

里中さんの影の手に電撃が……

「電撃属性クマ!? ヨースケ、ガードするクマ」

「え? ガ、ガードってどうすれば……」

しまった、陽介は僕達と違って召喚獣の経験はない。だからペルソナの扱いも……

「やらせるか!」

僕は慌ててペルソナを切り替えて陽介と里中さんシャドウの間に立つ。

『マハジオ!!』

広範囲に電撃が吹き荒れる……この範囲なら陽介を守りきれないか……でもあいつの障壁程度のガードはしてやる……

「す、すまねえ、明久、大丈夫か?」

陽介が僕をディアで治療しながら尋ねてくる。

「イザナギは電撃に耐性があるから大丈夫だよ……それよりあいつは攻撃に集中しているあいだに障壁が消えている、今がチャンスだ」

「OK…一気に決めてやろうぜ」

僕は再び心の中でペルソナを切り替え……

「エンジェル!」

「ジライヤ!」

「「ガル」」

同時に疾風属性の魔法を放つ。

「よし! 今がチャンスだ」

二つの魔法をくらいシャドウが大きくよろめく。

「行くぜ! 相棒!!」

その隙を逃さず僕とヨウスケで同時に殴りかかる。

『キャア!?』

そして大型シャドウは消滅し……もとの里中さんの影になる。

 

 

「ん……」

「里中さん、大丈夫?」

後ろでショックで倒れていた里中さんが起き上がる。

「さっきのは……」

『……』

「なによ、急に黙っちゃって、勝手なことばかり……」

「よせ、里中」

「だ、だって……」

「大丈夫だよ、里中さん、あれが里中さんの全てじゃないってわかってるから。それに……」

「それに?」

こんなこと言うのはすごく恥ずかしいけど……これも里中さんが自分を乗り越える助けになるなら……

「里中さんが天城さんに女として勝てないって言ってたけど……僕は里中さんも可愛いと思うよ」

言ってから僕の顔は真っ赤になる。うう、こういうこと普通に言うのってすごく恥ずかしいよね。

「ちょっ、か、可愛いって……」

「明久、お前すごいな」

「クマ、アキヒサのこと少し尊敬したクマ」

うう、二人にもすごく冷やかされてる気がする……

「まあ、里中が認めたくないのもわかる、俺も同じようなことがあったんだ……だからわかるし、誰だってあるんだ、こういう一面……」

里中さんが自分に向き直る。

「アンタは……あたしの中にいた……もう一人のあたし……ってことね。ずっと見ないふりしてきた、どーしようもない、あたし……でも……あたしはアンタで、アンタはあたし……」

その言葉に里中さんの影が頷く。

 

里中さんの影もペルソナに変化する……

 

「あ、あたし……その、あんなだけど……雪子のこと好きなのは嘘じゃないから……」

「ばーか、そんなのわかってるよ」

「うん、必死な里中さんを見ていたらそんなこと言われるまでもないよ」

そこで疲れたのか里中さんは膝をつく。

「だ、大丈夫?」

「ヘーキ……ちょっと疲れただけ……」

「平気じゃねえだろ、どう見ても……」

「一度戻ろう、雄二の方も気になるし」

「え……あ、そういえばいないね、どうしたの?」

「あいつと一緒にいた子、霧島っていたか、あっちにもお前と同じこと起こってるんだよ」

「え!? 大丈夫なの?」

「うん、雄二ならきっと何とかしてるよ」

「ごめん、あたしがひとりで突っ走ったから……」

「気にすんなって、それじゃ、戻ろうぜ」

 

里中千枝

アルカナ 戦車 

ペルソナ トモエ

学力 Eクラス級




天使アルカナの時に思わず出してしまった明久の心の中に住むコンビ。初のペルソナチェンジという場面なのに変なのを出してしまいました。
戦闘入ると文章が長くなってしまいますね。明久と陽介だけなのに戦闘描写は大変だ、人数増えるとどうなるんだろ……
千枝ちゃんの学力はEクラス級、個人的にこんなもんだろうと思ってます。
さて、次回は雄二に頑張ってもらいましょう。
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