第七十二話
姫路さんが転校してきた日の放課後、僕達はジュネスに集まって話を聞くことにした。
「それで、やっぱ大会で優勝したのが本人と転校した吉井くんだから認められなかったとか?」
最初に里中さんが口を開く。確かに、僕は元Fクラスだけど文月の学生じゃないから。そこは雄二の計算違いということは十分にありえる。
「いえ、そういうわけじゃないんです。決勝戦の時に吉井くん言ってくれましたよね。転校は悪いことだけじゃないって、そして周囲ではなく私に自分で決めるようにって」
確かにそんなようなことを言った気がする。実際に転校してきて僕はここでの生活を楽しんでいるし。
「ま、確かにな。俺も転校してきたけどそれなりに良い事もあったしな」
陽介も今はここの生活が楽しいみたいでそう言う。
「それに俺の場合は前の学校の連中と会わなくなったけど、姫路の場合は島田が明久に会いに来るからな、その時に一緒に会えば良いだろ」
「え? 別に美波は僕に会いに来てるわけじゃないと思うんだけど」
どちらかというと仲良くなった里中さんや天城さん、それと事件解決のために来てるんであって僕に会いに来てるわけじゃない。
「明久先輩っていつもこうなんスか?」
「こいつのにぶさは半端ないからな」
「美波も苦労するよね」
何故かみんなが呆れた様子で僕を見る。そっか、事件の話とか姫路さんの前でするわけにいかないから上手く流せってことか。これは確かに僕の失敗だ。呆れられても仕方ない。
「けどよくここへの転校を許してもらえたね」
「どういうことですか?」
里中さんの言葉に姫路さんは問い返す。
「だって今ここって物騒じゃない、事件とか起こってさ」
そういえばそうだ。今ここは未解決の殺人事件の起こったところ。娘を心配してっていうのは十分あり得る。
「え? でも事件って2ヶ月前に起こったっきり何も起こってませんよね。山野アナとその第一発見者の関連が動機ってテレビで見ましたけど」
そういえばそのあとの天城さんとか完二の事件は公表されていないんだっけ。だから事件のことを知らない人にはまだ事件が続いているということはわからないんだ。
「他に何かあるんですか?」
「い、いや、なんでもないよ。ところでさ、林間学校なんだけど姫路さんも僕たちと一緒の班ってことなんだよね?」
顔に出たのか疑問そうな姫路さんを僕は慌ててごまかす。
「あ、うん、モロキンに言われたし、元から誘う気だったしね」
「顔見知りばっかで羨ましいっスよ。オレなんて班員がビビって居心地悪くて」
確かに外見的に不良っぽい完二は居心地が悪そうだ。
「それでも真面目に出る分えらいよ」
僕なら仲の良い友達と同じ班じゃないならサボることも考える。
「出席日数ってもんがあるんで、出なきゃ進級させねえって」
「はは、でも姫路が加わると安心だよな、天城はともかく里中の料理とか不安だったんだよ」
「あ、あたしだって料理はできるよ」
「そうだよ、陽介、女子の手料理ってだけでうちの学校だと奪い合いが起きるくらいなんだから」
「あはは、吉井くんの学校見たあとだと冗談じゃないってわかるよね。ところで瑞希は料理できるの?」
「はい、料理することは好きですから」
そうか、さすがは姫路さん、勉強だけじゃなく料理もできるんだ。
「やっべ、林間学校超楽しみ!」
「林間学校って言っても実質はただのゴミ拾いだよ」
テンションが上がる陽介に天城さんが告げる。
「去年とかは終わったあとに川で泳いでるのもいたけど基本的にダルイだけだよね」
里中さんも天城さんに続いて言う。僕は勉強漬けとかよりはゴミ拾いの方がまだマシかな。
「マジかよ……道理でサボるとか話してる奴がいるわけだ……ま、でも楽しみな要素があるだけマシだ、な、明久」
「そうだよね、女子の手料理食べても命が狙われないなんて楽しみにもなるよ」
その後しばらく雑談を続け、姫路さんが帰ったあと。
「よう」
「……こんにちは」
「こっち来るのも久しぶりね」
雄二と霧島さん、美波が来る。
姫路さんに帰ってもらった理由は清涼祭があったために完二が仲間に入ってから事件の相談ができなかったからだ。
「雄二、姫路さんがこっちに来ること知ってたの?」
「ああ、俺と島田は事前に話聞いてたからな」
雄二はなぜかニヤリと笑みを浮かべて答える。
「美波は良かったの?」
里中さんが問いかける。確かに姫路さんがいなくなると向こうの女子は秀吉と美波だけだしなあ。
「瑞希が決めたことだから仕方ないと思うわ。それにここの学校なら千枝や雪子もいるし」
「いや、そっちじゃなくて瑞希って明らかに……」
そう言って里中さんは僕の方に視線を向ける。僕がどうしたんだろう。
「あ、うん……何もないとは言わないけど……それで怒ったり妨害したりするんなら自分と向き合った意味ないと思うから」
「そっか、美波が納得してるなら良いんだ」
僕にはまったく意味がわからないけど里中さんには通じたようだ。見ると他のみんな、完二ですら理解したみたいだけど。
「何の話なの?」
「ア、アキにはわからなくて良いのよ!」
僕だけわからないようなので聞いてみるがなぜか頬を赤らめた美波に怒られてしまう。
「ま、明久はいつも通りということでそろそろ事件の話をしようか」
静観してた雄二が話を元に戻す。
「まずさらわれた時の状況は天城と同じだったって話だよな?」
「誰か訪ねてきたような気がして、気がついたらテレビの中って状況だね」
雄二の言葉を天城さんが補完する。それに対して完二は頷く。
「まあ、これが犯人の手口と見て良いだろうな、そして次に誰が狙われるかだが……」
「……ターゲットが女性のみという線は消えた」
完二がさらわれた事で狙われるのは女性のみという可能性は消えた。
「もう一個の読みはなんだっけ?」
「山野アナと関係のある人が狙われる。これはどうかな?」
里中さんの問いに天城さんが答える。
「でも完二は直接は関係ないよね?」
確か関係あるのはお母さんの方だったはず。
「明久にしてはよく覚えていたな、天城の時もそうだったが二人共間接的な関わりしかない」
僕の言葉に雄二が答える。
「……今回のケースだと間接的だと関わりのある人は多すぎる。雪子も巽も家の客という程度の関わり」
泊まっていた旅館に染物屋の客、店の利用者と考えたらどれだけの数になるかわからない。
「あれ? でも小西先輩も酒屋の娘だよね? もしかして山野アナって小西酒店の常連とか?」
「可能性はないでもないが……酒屋に聞き込みできるか?」
確認の方法か……
「オレ一応酒屋の息子の方、えっと被害者の弟の方なんスけどそっちとは知り合いなんだけど聞いたことないスね」
完二が答える。人気アナウンサーが相手だからそういう話は伝わりやすいだろう。
「ここも微妙だよな……客商売やっている家の子供か……他に誰かいるか?」
「えっと、確か潰れたプラモ屋の娘がうちの学校にいた気がする。あとは……」
商店街と付き合いの深い天城さんが答えてその後陽介に視線を向ける。
「あ、そっか、ジュネスの息子」
「え? 俺!?」
次のターゲット候補に陽介も入るってことか。
「こ、好都合じゃねーか、俺ならペルソナもあるし狙われたら犯人のことをしっかり見ておいてやるよ」
「警戒はしておけ、でも無理はしないようにしろよ」
声が震えている陽介に雄二が声をかける。
「うん、自分の身を第一に考えたほうが良いよ」
「でもこれも決定的じゃないよな……これだと動機が全く見えてこない」
雄二がそう言ってみんなが考える。
「先輩がた、実はオレが復帰した時に目障りなのがチョロチョロしててメモみたいなもん持ってたんスけど……」
そう言って完二が僕たちにメモを差し出す。
「ちょっと見せて」
僕がメモを受け取り読み上げようとする。
「明久、日本語読めるか?」
「僕だってこれくらい読めるよ!」
「えっと、いくつか項目があるね、えんうたヒットチャート」
「演歌だ、やはりお前に任せておけねえ、よこせ」
ちょっと言い間違えただけなのに雄二にメモを奪われてしまう。
「5月の演歌ヒットチャートみたいだな、一位は柊みすず」
「事件のあと売上が上がったみたいだね」
雄二の言葉に里中さんが答える。
「この人はアリバイあるんだよな。次読んでみてくれ」
「女子アナランキング、3月のローカル局別ランキングだな、山野真由美は中の下ってとこだ」
「事件前まではそんなに有名じゃなかったってことかな?」
「僕もよく知らなかったし」
里中さんの言葉に僕は答える。
「テレビ報道番組表、山野真由美、4月11日、小西早紀4月13日……」
「なんだ、この日付、4月13日?」
「あ、遺体が発見された日?」
陽介の言葉に里中さんが答える。
「小西先輩の遺体が発見された日が15日だ。忘れられない日だからな」
陽介が訂正する。けど13日か、たしか遺体発見の前の日に叔父さんから行方不明って話を聞いたらその前の日……そしてテレビ報道番組表の言葉……
「小西先輩が遺体発見者でテレビに出た日?」
自信ないけどそんな気がするので僕が発言する。
「そっか……多分間違いない!」
「そんな番組が流れていたのか?」
陽介の言葉に雄二が問い返す。
「……私たちの方では流れていない」
そっか、ローカル番組で雄二たちは知らないのか。
「まてよ、そういうことは……天城、お前もテレビに出たのか?」
雄二が天城さんに問いかける。
「え? うん、確か学校休んでる間……ほら、坂本くんと吉井くんと土手で会った日」
「15日だな」
天城さんに言われて雄二は即座に日付を思い出す。
「完二、お前の出た例の特番は?」
陽介が続いて完二に問いかける。
「そんなものもやっていたのか! クソ、ローカル番組だと俺の方じゃ気付かないわけだ」
雄二が悔しそうに言う。
「す、スンマセン、日付までは覚えてないっスけど先輩方と会うちょい前っスよ」
「マヨナカテレビに報道か、偶然とは考えにくいな」
「テレビに放映された人か、客商売の家の子っていうよりかは考えられるね」
「でもそうなると動機ってどうなるの?」
美波が僕たちに問いかける。
「仮定だが……向こうの世界がマヨナカテレビに映るのなら『テレビに報道された人物』の人には見せない面を見よう、またはマヨナカテレビの噂を知っている人に見せようとしたとか考えられる」
「それってかなり悪趣味じゃない!?」
「そういう野次馬根性のやつも世の中にはいるだろう」
雄二が僕の言葉に答える。
「それじゃ、これを踏まえて引き続きマヨナカテレビの監視だな」
狙われる対象がわかってもマヨナカテレビの監視は必要だ。
「林間学校の日は予報で晴れだし問題ないよな」
「どっちにしろ雨なら中止になるでしょ」
「ん? お前ら林間学校行くのか? 食事は姫路……女子が作るんだよな?」
雄二が僕に尋ねてくる。
「うん、そうだけど?」
「生きて帰ってこいよ……」
なぜか雄二が遠い目でそう僕たちに言った。
瑞希の転校してきた話と完二が入った時に雄二たちがいなかったからできなかった推理パートをここに入れました。
ちなみに既に千枝と雪子は瑞希と少しは仲良くなってるってことで名前呼びにします。あとから変えると書くときにミスりやすいからさっさと変えたということもあります。
明久が陽介を名前で呼ぶように変わったとき何度もミスりそうになったし……
では次回もよろしくお願いします。