艦娘の世紀   作:Pubの親父

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艦娘の世紀 第一集「物語の始まり」

~混迷~

●山根基世NKHアナウンサー

「今回の取材で、余市警備府に所属していた艦娘が未来からの来訪者であるという衝撃の事実が明らかになりました。この事実を放送するかどうか、局内でも意見がありましたが、あの戦争を正確に理解するという意味からも放送するべきであるとの意見が大勢を占め、政府関係各所の了解を得たうえで放送しております。さて、保護プログラムが軌道に乗りつつある状況で、その何重にもあった衝撃に対して、どのようなことがあったのでしょうか?」

 

●西浦篤余市警備府司令官

「現地に向かう車内で、私は考えていました。つまり、難民保護法が適用される状況なのでこれを利用して、暫定的に日本国籍を取得してもらって、この戦争が落ち着くまでの間は日本人として生活してもらうしかないということです。これに関しては、法務省・国防省・警察庁・北海道庁といった関係各所への連絡もさることながら、彼女たち自身の意思を確認する必要がありました。もっとも、今すぐに帰国したいといってもそれは不可能な状況下でしたので、それは無理です、と答えるしかありません。」

●アーレイ・バーグ級駆逐艦娘“ジョン・ポール・ジョーンズ”

「吉田大佐以下の説明を受けて、私たちはしばらく日本で暮らすしかないのではないかとの結論に達しつつありました。自分が、軍艦なり沿岸警備隊のカッターであるとの認識はありますが、肝心の艤装がないのです。それではまずその深海棲艦とやらと戦闘はできませんし、そもそも西海岸でさえ達するかどうか補給の問題もありました。原子力艦娘の姉さんたちもその点が不安だと言っていましたし、しばらくは状況を見ることに反対する意見はありませんでした。それは他国の艦娘も変わりはないようでした。」

●しきしま級巡視船娘“ふじ”

「問題があるのはむしろ、日本艦娘だったのかもしれません。ここがどこかは説明を受けて理解していました。ただ、他国艦娘は失うものはないので割り切りが良かったのでしょうが、私たちには自分の時代への執着がありましたし、それが割り切れるのか、はっきり言って分かりませんでした。ただ、“宗谷”“氷川丸”そして、こじま級巡視船娘“こじま”といったお母さんが、「今は難しいかもしれないけれど、きっと慣れるし、いつか帰れるかもしれない。それまではここで我慢するしかないでしょう。」その言葉に、私たちは覚悟を決めました。」

 

 余市町総合体育館

 車がつくと、吉田大佐が駆け寄ってくるのが分かった。

「状況は?」

私の質問に、吉田大佐が困惑した表情を浮かべて答えた。

「中将、状況は混迷を極めています。まずは彼女たちが休める場所を確保した方がよいと思います。何重にも不可思議な状況が重なって混乱しています。」

「北海道庁が近くの大きな温泉旅館を確保したよ。もう日も暮れるから、急いで彼女たちを運んでください。」

「分かりました。」

私の指示に、吉田大佐は自分のスタッフと、陸軍の1,000名と、警察の200名に指示を出すべく戻っていった。

「長い一日になったな。」

私は心底そう思った。

 

●デルタ級原子力潜水艦娘“エカテリンブルグ”

「祖国ロシアから入ってくる通信が短波放送のみだとの話を聞いて、私は嘘だと思いました。きっと、海上自衛隊の連中が私たちに謀略を仕掛けていると。ただ、テレビがあまりにも古いことに私は疑問がありました。あの家電大国の日本がそんな謀略を仕掛けるのでしょうか?私たちロシア艦娘で話し合った結果、これは日本人の謀略なのではなく、事実なのではないか、との結論に達するに時間はかかりませんでした。」

●中澤優余市警備府作戦部長

「当時、事態が混迷したのは、いくつもの複合的な要因が幾重にも重なったからです。まず、艦娘全員に共通していたのは、黒鋼の船だった自分の体が人間の女性になっていたことです。次に、所属している国籍が多岐にわたったことです。更に起こったことは、彼女たちが少なくとも未来から、多次元世界から来たということです。ここに、艦娘ごとの国籍の問題が重なりました。つまり、外国籍の艦娘は帰属の問題、日本船籍の艦娘の問題は、自分が知っている世界がない、つまりアイデンティティの喪失です。最後の問題が一番重要だと実感していましたし、実際、後々まで考えそして対応する問題になりました。」

●川井勲余市警備府総務部長

「政府並びに道庁で起こった問題は彼女たちに起こった問題に比べれば軽かったと思います。受け入れ態勢の整備と情報の管理、そして事務的な難民認定の問題。もっとも、技術的(テクニカル)な部分はすでに東京から来たスタッフと、札幌のスタッフで処理し始めていましたので、初日の行動に関しては問題がなかったと思います。」

 

●河内基世NKHアナウンサー

「取材の結果、初動には問題がありませんでした。ところが、海軍への情報伝達に問題がありました。国防省と海軍幕僚監部の限られた担当者にしか情報が伝達されなかったため、実戦部隊には全く情報が降りてきませんでした。これがのちに問題となりました。」

 

●松村彰北海道国立大学法学部教授

「海軍の実戦部隊が騒ぎ始めたのだと思います。当時の鎮守府並びに艦隊の好戦的、作戦第一主義の風潮の中で500名もの艦娘が漂着したのです。これをそのままにしておくとは思えませんし、実際そうなりました。」

●町村善五北海道知事

「確か、あれは漂着翌日のことだったと思いますが、道庁対策本部に大湊鎮守府から電話がありました。その電話は非常に友好的ではなく、強引にこの問題の主導権を我々から無くそうとの魂胆が見え見えのものでした。もっとも、その時にはすでに官邸・法務省・国防省に加えて運輸省や厚生省も、国家公安委員会つまり警察庁も対策チームに加えていましたので、要求を突っぱねることにしました。万が一、海軍が実力でこれに介入したとしても国防省の官僚チームが法的に突っぱねることができますし、陸上での戦闘になれば、陸軍の協力が得られます。最悪の場合を覚悟しました。」

●今村等陸軍北部方面総監

「海軍が艦娘なり陸上部隊で漂着した難民、つまり漂着した艦娘を奪い取るという可能性を道庁から知らされた時には正直驚きました。驚愕と言ってもいいでしょう。ですが、当時の海軍の風潮から考えて、その馬鹿な考えと排除できないと思い直しました。なので、すでに旅館周辺の警備は道警に移管していましたが警備の支援として、真駒内駐屯地内に完全武装の2個大隊戦闘団を臨戦態勢にさせました。」

●辰巳栄二国家安全保障担当補佐官

「事態の推移は、リアルタイムで北海道庁・国防省・警察庁から官邸に上がっていました。なので、大湊鎮守府が強引の本案件に介入し実力での漂着者奪取を言葉にしたことに関して、危機感を抱きました。仮に一介の佐官の発言だとしても、北海道水域の警備を担当しているそこがそのような発言を、北海道行政の最高責任者に口走ったということは、文民統制の原則に反して軍部が暴走しかねないことを意味すると考えました。総理にそのことを挙げると天海国防相と新見統合軍幕僚長、中園海軍幕僚長を大至急呼び出して見解を問いただしました。」

●新見政三統合軍幕僚長

「総理官邸に駆けつけると、大湊鎮守府で問題が発生したことを知らされました。すぐに国防省内にその考えを持つ軍人がいるかどうかの内部監査の指示を受けました。正直、この大量漂着事件が発生してから驚愕する事態が相次いでいましたので驚きも何も感じませんでした。内部監査には時間がかかると思いましたので、国防省に戻ると同じく総理に呼ばれ、叱責を受けた中園海軍幕僚長に大湊鎮守府の事態把握を指示ました。中園海上幕僚が退室しようとしたときに、私の副官が駆け込んできました。「閣下、大湊鎮守府から数名が千歳に乗り込むべく、航空機を準備させて発進した。更には数名の艦娘が指示を受けて出動した。」というものです。正直、倒れそうになりました。これでは反乱です。」

●衣笠幸雄航空自衛軍北部方面航空軍司令官

「国防相からの至急電を受けて、私たちはその航空機を捕捉することに全力を注ぎました。国防省の指示なくこのような事態を引き起こすなど、言語道断です。着陸し次第拘束せよとの指示がありましたので、準備をしていました。ところが、です。航空機はなんと八雲分屯地に着陸したとの連絡がありました。裏をかかれたのです。」

●北海道警警備部長

「さすがにその連絡が来た時には驚きました。彼女たちの収容施設は伊達市内の温泉旅館に決めていましたので、まずそこまで行かせないことが最優先課題になりました。問題は、艦娘が実力、つまり砲撃をして奪取計画を支援するのではないか、それが問題になりました。本来、その警備を担当する大湊鎮守府の艦娘がいわば“敵”に回ったわけですから。」

●保科善一郎余市警備府副司令官

「問題は本当に艦娘が出撃したのかということを確認すること。次の問題は、万が一出動していた場合はその、何と言いますか迎撃になります。艦娘を迎撃することは、対深海棲艦着上陸マニュアルの援用ができうると考えていましたので、苦渋の選択ではありましたが、陸上戦闘の指揮を陸軍に移譲しました。しかし、まさか深海棲艦を対象にした作戦計画を艦娘に対して適用するなど策定当時には思いもしませんでした。」

 

●杉田一継陸軍北部方面総監部副総監

「状況は混迷かつ切迫したものになりました。ある程度頭の体操をしていたとはいえ、艦娘が敵に回ったのです。これに関しては対抗策があまりありません。西浦中将以下と対策室で頭を悩ませました。その結果、まず大湊の考えを読むべく、電話することにしました。」

●高木惣司大湊鎮守府参謀長(のち、大湊鎮守府司令官)

「札幌の西浦中将からの連絡を受けて、あまりにも馬鹿げている事態が発生していることに愕然としました。政府の、しかも首相官邸の指示を軍が無視することなど絶対にあってはなりません。それが、あの戦争の教訓ではないのでしょうか?本省からの連絡で、数名の当方の担当者が独断で向かったこと、艦娘数人が急きょ演習に出たことは把握していましたが、まさか艦娘が指示無視を行っているとは思えませんでした。情報の把握に努めていたため、出撃した艦娘が、青葉型重巡洋艦娘“青葉”“衣笠”に、吹雪型特型駆逐艦娘“吹雪”“初雪”“白雪”“深雪”の6名だと分かりました。そのことを本省と道庁に把握するとすぐに連絡を入れました。」

●西浦篤余市警備府司令官

「正直、艦娘の出撃は予想外でしたが、それほど状況を悪化させるとは思っていませんでした。すでに状況は混迷の度を時間単位で増していましたので。それに、海上での戦闘となれば艦娘は大いに脅威ですが、陸上に上がってしまえば単なる女性ですので、陸軍の兵士の銃弾でぶっ飛ばせば問題ありません。軍の暴走に関しては、やってくる車を道警が捕捉できれば問題ありません。もっと問題なのは、彼女たちのケアであり、今後どうするかを考えねばなりません。私は吉田大佐に現地に対策室の設置を指示しました。」

 

●河内基世NKHアナウンサー

「取材で明らかになったのは、軍の一部が政府の指示を無視して暴走するという戦前を彷彿させる事態でした。この件は長い間極秘とされてきました。今回、はじめて明らかになることです。」

●アイオワ級戦艦娘“アイオワ”

「300名を超えるアメリカ艦娘の間でも、どうやらしばらくの間は日本にとどまるしかない、少なくともこの世界の祖国(ステイツ)に戻れる方法がわかるまではそうするしかない、というのが、共通認識になってきました。実際は、元の世界に戻りたい艦娘もいたでしょうが、実際にはそれが不可能であることは内心では分かっていました。私も、元の世界に戻りたいと考えていましたが、多くのサイエンス・フィクション(物語)ではそれができないことは知っていましたし、そもそも多次元世界に来てしまったことに対する受け入れがたさもあり、複雑な気持ちでした。」

●42級駆逐艦娘“シェフィールド”

「さすがにこの事態には驚きました。ボセオ(アルゼンチン)のいかれたミサイルの直撃を受けて南太平洋に沈んだ私が、22級フリゲート艦娘“シェフィールド”という娘と一緒に日本北部の沿岸にいたのですから。ただ、そのような不可思議な事象を私はすんなり受け入れました。一緒に漂着した妹の“コヴェントリー”“ノッティンガム”、21級フリゲート艦娘“アンテロープ”“アロー”“アーデント”そして、前はコンテナ船だったのが、私の見覚えがあるインビンシブル級軽空母に姿を変えた“アトランティック・コンベアー”といった、あのフォークランドで沈んだ仲間たちもすんなり受け入れました。一度死んだ自分たちが再び命を得たのです。これは神の意志だと受け入れました。アメリカ艦娘の多くもそう思ったと聞いています。」

●志賀級巡視船娘“こじま”

「おそらく、私が一番事態を受け入れていなかったと思います。状況云々ではありません。私は20世紀の終わりにようやく生涯を終えることができました。あの憎々しい日本海軍の最後も、ようやく一人前になった私のかわいい巡視船艇の勇士も見ることができたのです。思い残すことはありませんでしたが、この世界に転生して、旧日本海軍の、あの憎々しい連中がまたもや大手を振って歩いている。そんな状況は受け入れがたいことです。あまりの憎々しさに、鬼のような表情を浮かべていたのでしょう。みつみね級巡視船娘“みつみね”がずっとそばにいてくれました。自分の世界に戻ったら、自分はすでに死んでいます。生きることを選択するならば、この世界に生きなければなりません。この、旧日本海軍の艦娘が大手を振って歩いている世界で、です。」

●吉田英二海軍大佐

「私が彼女たちの宿泊所に指定された、伊達温泉ホテルに到着した際には、すでに北部方面総監部の命令を受けた陸軍の2個大隊戦闘団が配備を整え、物々しい雰囲気でした。住民には、臨時の深海棲艦着上陸作戦への対応訓練、ということにしておきました。さすがに同胞相打つ、などということはできません。陸海軍で相打つ事態などあってはならないのです。

●西新蔵海軍大佐(のち、余市警備府総務部主席事務官)

「陸軍との関係は吉田大佐に任せて、私たち事務スタッフは、彼女たちの話をヒアリングし始めました。状況をよく認識しているようで、自分たちが我が国にしばらく世話にならなければならないことがわかっているようでした。出入国管理官がこれは難民として認定するに十分な証言です、と言ってきたので、私は道庁に詰めていた西浦中将に連絡を入れました。その時です。彼女たち全員の姿が変わったのを確認して、驚きました。」

●吉田英二海軍大佐

「西大佐が大声で私を呼ぶので、ホテルのロビーに入ると、見たことのない艤装を付けた艦娘がうろうろしていました。彼女たち自身も何が生じたのかわからないようでした。ただ、最初は混乱していたようですが、次第に自分たちの艤装であることを思い出したのか、いろいろな人の艤装を見て互いに褒め合ったり、冗談を言い合っていました。とにかく、西浦中将に連絡を入れるのが先決と考えて、急いで連絡を入れました。」

●陸勝磨米ウッズホール海洋生物学研究所主任研究員

「この現象は非常に興味深いです。おそらく、自分自身は何者なのか、自分自身は何をするべきなのか、自分自身の今後はどうするのか、それらを認識した結果、艤装が使えるようになったとしか考えられません。疑問なのは、その後の研究を通じても、漂着していない艦娘にそのような現象が生じたのかは分からないということです。」

 

●西浦篤余市警備府司令官

「その連絡を受けて、とりあえずは安堵しました。霞が関と官邸にはその可能性もあり得ると当然伝えていましたので、報告を入れました。あちらからも状況を理解した。ただ、その過程がわからないので既定の方針通り、難民保護法の適用は変わらないとの話でしたので知事にはそのように伝えました。問題は、状況を理解しないで乗り込んでくる軍人と艦娘の対処だけに絞られつつありました。」

●松来美裕陸軍大佐(当時青森駐屯陸軍普通科連隊大佐。のち、特殊行動群指揮官)

「東北方面総監部の指示は簡潔でした。「海軍大湊鎮守府に反乱の疑いあり。至急部隊を派遣して鎮圧せよ。」これは一大事になったと思いました。ただちに幕僚を招集するとともに、一個大隊戦闘団に憲兵隊を加えた混成部隊を大湊に送り込みました。」

●北海道警警察本部本部長

「我々にとって幸いだったことに、こっちに向かってくるのは数名のほぼ丸腰に近い人間しかいなかったことです。検問を長万部町から伊達市にかけての数か所で実施しました。そして、思いのほかすぐに拘束できました。」

●西浦篤余市警備府司令官

「反乱した、そうですね。この段階で既に、大湊鎮守府の一部が反乱したと官邸は考えていたようです。強い調子で国防省に指示があったらしく、反乱分子は至急札幌の北部方面総監部に護送されることになりました。おそらく、本人たちは実戦部隊なら何でもして構わないという風潮にどっぷり染まっていて、そこまで深い思慮がなかったのかもしれません。逆に言うと、そんなところまで軍の一部は至っていたということです。これでは、満州事変を行った関東軍や、強引に支那事変を拡大した陸軍機構を非難することはできません。同じことをしたわけですから。」

 

●河内基世NKHアナウンサー

「この事実は、この取材を通じて初めて明らかになりました。第三次世界大戦の遂行のために、この事実は伏せられたのです。」

 

●新見政二余市警備府参謀副長(法務部長兼任)

「北部方面総監部に運ばれてきた反乱将校は5名。うち最高位は大佐でした。当時、私も大佐でしたが、こんな男が大佐の階級にいたという事実に、虫唾が走る思いだったことを今でも鮮明に覚えています。彼らはが言ったのは、「艦娘の管理権は海軍にある。北海道水域の守備は大湊鎮守府が行っている。よって、艦娘を至急引き渡せ。」という何とも理解しがたい話でした。私は、「彼女たちはまだ艦娘と決まったわけではない。政府としては難民として保護するつもりである。よって、管轄権は法務省と警察にあり、軍はその補佐をしているに過ぎない。その方針はすでに大湊鎮守府に伝達されており、その指示をなぜ貴官らは破ったのか理解できない。」と伝えました。するとその大佐は、私の話を鼻で笑い、「貴官は現在の戦況がわかっていない。軍は近々大規模な作戦を実行する。そのためには艦娘はいくらでも必要である。政府もそのことがわかっていない。我々はそのためになら何でもする。政府の指示など聞いてはいられない。」私は聞いて呆れるとともに、戦慄が走りました。そこかで聞いた話ではありませんか?“満蒙は国の生命線”“軍の行動に政府は口を出すべからず”結局、軍の体質は戦前も変わっていなかったのです。彼らを拘束するように、私は部下に指示を出した後、西浦中将にそこのことを報告しました。彼も呆れたようでした。」

●森繁茂内閣総理大臣

「その報告を、天海国防大臣と新見統合軍幕僚長から受けると、私は吸っていた葉巻を落としてしまいました。ハバナに比べれば安物のマニラでしたがね。こういったのを覚えています。「軍人はいったいどうなっているのかね?戦前、私が拘束されたのはそのような軍人たちによってだ。何ら変わってないじゃないか?新見君、軍人の教育はどうなっているのかね?なぜそのような思考を持つのかね?先の戦争から何も変わっちゃいないじゃないか?」新見君は何も言いませんでした。」

●小山内知行陸軍大佐

「私は指揮所をホテル正面に設置して、不測の事態に備えていました。沿岸監視の部隊からは情報がひっきりなしに入電していました。我々の保有する装備で艦娘に対抗できそうなのは、120ミリ榴弾砲ぐらいしかありませんでした。千歳の特科部隊から、203センチ榴弾砲を持ってくるか考えましたが、相手が万が一発砲した際には少量の火砲では相手になりません。いくら沿岸砲と艦船が撃ち合った場合には沿岸砲が有利だとしても、門数が違いましたし、そもそも砂浜という相手から丸見えの状況下では圧倒的に不利です。最悪の状況を考えました。」

●高木惣司大湊鎮守府参謀長

「あの日のことは、今でも忘れません。鎮守府の建物すべてに完全武装の陸軍兵士が乗り込んできたのです。私たちは状況の把握と、なぜこのような事態になったのかを調べていたのですが、まさか陸軍に鎮圧されるとは思いませんでした。艦隊に連絡を取ろうとしたのですが、無線封鎖をしているようで、応答がありませんでした。」

●ジャック・フィッツジェラルド・ライアン米海軍兵学校教授

「この状況は、「博士の異常な愛情」によく似ています。映画では無線機が故障した核搭載爆撃機が応答しませんでしたが、これは無線封鎖した艦隊が応答せず、引き返させるすべがない。どちらの場合も破局に向かって一直線、というわけです。」

●高木惣司大湊鎮守府参謀長

「憲兵隊の尋問と前後して、何とか艦隊と連絡を取ろうと必死でした。そこで、連絡機の派遣を考えました。ただ、すでに夕刻が迫っていましたので、急がねばなりません。そこで、憲兵隊を何とか説得して、当時所属していた軽航空母艦娘“千歳”“千代田”にから艦載機を発進させることにしました。」

●軽空母艦娘“千代田”

「それは驚きました。昨日の夜から“青葉”や“衣笠”の姿が見えないと思ったら、そんな事態になっていたのです。深海棲艦との戦闘ではなく、自分の軍隊同士で戦闘をするなんて・・・千歳お姉と顔を見合って、事態の深刻さがわかりました。すぐに艦載機を発進させました。」

 

●いず級巡視船娘“いず”

「そんな事態になっているなんて、当時の私たちには分かりませんでした。覚えているのは、自分の艤装を妹の“みうら”と確認していること。その艤装が巡視船という白い船体に青いSのペイントがされているころと同じであることに安堵していました。ということは、私たちの任務は戦闘ではないことになります。正直、深海棲艦との戦争に私たちがどのような役割を果たすのか分かりませんでした。それは、当時その場にいた沿岸警備隊の船娘約200名共通の思いでした。」

●エンタープライズ級航空母艦娘“エンタープライズ”

「いろいろ艤装を弄り、ほかの艦娘の艤装を確認していると、あることがわかりました。どうやら私たちは2つの形態が可能であること、つまり、水上スキーのように水面を走ることができそうだということと、元の姿を取り戻すことができるということ。もっとも、まだその時は試す事がありませんでしたが・・・このことは、私たちにある意味希望が持てました。元の姿になるといっても、人間の体と船体をリンクさせることで、事実上自分が艦長の役割をする。つまり、艦に実際に乗り込んで、CICなりブリッジ(艦橋・船橋)にいる必要があるということです。」

●O・H・ペリー級フリゲート艦娘“スターク”

「そのころには私たちに、3つの驚くべきことが備わっているのがわかりました。第一に、妖精さんと呼称している小人が何人もいるということです。この妖精さんという存在が、CICであれ、艦橋であれ、機関部員であれ、私たちが船として行動するときには船としての機能を制御し、空母であれば航空部隊のパイロットや飛行甲板員、上陸強襲艦や補給艦であればその科員として行動すること。第二に、私たちがフネであった時に所蔵していた資料がそっくりそのまま入ったタブレットを持っていたこと。更にはそれが相互リンクで500名に瞬時に閲覧できたことです。最後は、数名の大型艦娘がおり、建設作業部隊を収容していたことです。無論、妖精さん付でしたが。」

●タイコンデロガ級巡洋艦娘“ヴィンセンス”

「さすがに私たちのレーダーを作動させるわけにはいきませんでした。強力な電磁波の影響が大きいと分かっていたのです。ただ、テストしたいという思いは皆持っていたので、私はホテルに詰めていた吉田大佐に相談するべく、詰め所を尋ねました。詰め所のドアを開くと、その中はまさに戦闘指揮のような有様でした。のちに彼自身から聞いたのですが、実際にそれをしている思いだったそうです。状況を彼から聞き出すと、状況の深刻さに私は身の毛がよだちました。漂着からまだ36時間も経っていないのです。あまりの急展開ぶりに、私はめまいがしました。私がふらついてしまったので、一緒に吉田大佐を訪ねたスプルーアンス級駆逐艦“サミュエル・B・ロバーツ”に支えてもらったのを覚えています。」

●吉田英二海軍大佐

「一瞬脳裏に、彼女たちを海に出すことを考えました。しかし、そうなれば艦娘として認識してしまい、難民として保護するという前提を崩してしまいます。私はその考えを打ち消して、連絡機が早く来るように祈りながら空を見上げるしかありませんでした。」

●西浦篤余市警備府司令官

「結果的には連絡機は間に合い、艦隊には指示は誤報として帰港させることに成功しました。さすがに、陸海軍相撃つという悲劇を回避することには成功しましたが、問題の根本は依然残ったままです。幸い、反乱分子は国防省に護送されますし、艦娘の難民認定作業は事務作業に移行し、厚生省や運輸省の担当者も交えて手続きを済ませておりました。」

●松村彰北海道国立大法学部教授

「このことは、海軍部内に潜在的は反乱分子が存在していることを示していました。これがのちに大きな問題になります。その時に反乱を起こした数名は軍事裁判で有罪になりましたが、それは結局トカゲのしっぽ切りになったのです。」

 

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