「……る…………わ…あ………じ」
「ん……ん?」
微睡む意識の中、私は誰かに肩を揺すられ、そして響く声はとても懐かしかった。
「リイン……フォース?」
「はい……我が主」
ふと目を開くと、そこにはあの日の夜と同じ、雪降る公園の中に、プラチナに輝く髪と黒い服を纏って私を抱える彼女……祝福の風リインフォースがそこに居た。
「やっぱり……あのときの声は幻聴やなかったんな?」
「はい。私は今、あのとき主が生み出したカード、『ナハトヴァール』の中にいます。言わばカードの精霊のような存在になっているのです」
「そうなんか……あれ?せやったらなんで『リインフォース』って名前や無かったんや?」
私はふと思った疑問をリインフォースに投げ掛ける。するとリインフォースは困った表情を浮かべる。
「えっと……とても言いづらい事なのですが、我が主?」
「ん?どうかしたんか?」
「実は……私が精霊として復活したように、ナハトも主はやての力として復活してしまったんです」
「へ?てことはつまり?」
「あのカードの本体は闇の書の自動防衛プログラム、ナハトヴァールが私の姿をコピーして顕現してるんです」
「えぇぇぇぇぇぇ!!」
私は驚きで声をあげた。ただでさえ私やなのはちゃん、フェイトちゃんの最大級魔法同時三連発をくらって復活してくるような化け物が復活したとなれば、次元戦争依然の問題や。
「といっても、闇の書の封印のお陰でナハトヴァール自体もあの時のような狂暴な闇というわけではなく、彼女自身が明確な意思を持った一つの個体となっていますが」
「へ?そうなん?」
「なんなら今呼びましょうか?」
リインフォースがそういうと、いきなり目の前の空間が歪曲したかと思うと、その場から一人の女性が現れる。
髪はリインフォースと同じプラチナなのだが、長さはロングのリインフォースと違ってセミショートで、目付きはシグナム以上にかなり鋭く、体つきはなんというか桃子さん以上シグナム以下というそれで、服装も黒い半袖の服とショートスカートにブーツという、リインフォースとは真逆のような姿やった。
「…………この姿でははじめましてだな、闇の書の……いや、夜天の主」
「そうやね、ナハト」
「ふん、私も長年、闇の書の自動防衛プログラムをしていたが、まさかこんな年端もいかない少女に終わらせられるとはな……世界は狭いということか」
「(なんや、口が悪いんかと思えばかなり謙虚なことやな……)」
私がそう思ってると、いきなり私の顔の横スレスレを何かが掠めて木に刺さる。よく見るとそれは私もよく使う『ブラッディダガー』の刃がそこにあった。そしてナハトの方をチラリと見ると、左手には映像で見たナハトヴァールのボウガンが着いていた。
「…………」
「次ふざけた事をチラリとでも考えたら、例え当代の夜天の主だろうが撃ち抜く」
「…………はい」
「ナハト!!」
リインフォースは叱責するが、ナハトは素知らぬ顔でボウガンをしまうと、今度は何やら銀色に光る指輪らしきものを取り出す。
「祝福の風、確かに貴様にはこの姿を模倣させてもらった恩がある。ただのプログラムとはいえ、私は義理を作っておくのは嫌いでな」
そう言ってそれをリインフォースに投げつける。それを受け取った彼女は訝しげにそれを眺める。
「これは?」
「過去の持ち主だった魔導士が知識を活用して作った物だ。それを填めておけば、現実世界で肉体を具現化できる代物だ。勿論、存在自体が準ロストロギア級だがな」
「……よくもまぁそんなものを作っていたな」
「なに、ヴォルケンリッターにも肉体の核としてリンカーコアとは別に内蔵しているからな」
「ふむ……なら私の核にも存在してるはずだが?」
「お前は元がユニゾンデバイスだから無いんだよ。それにお前は闇の書の中でも最深部の所にあったから、当時の主じゃ手が出せなかったんだ」
それでリインフォースは納得すると、右手の薬指にそれを嵌める。するとナハトは私の方に向き直る。
「肉体の精製は人目の居ない所でやれよ。いくらなんでも町中とかでやったらかなり目立つし」
「分かっとるよ。せやけどどうやって召喚するんや?」
「お前のデバイス、シュベルトクロイツにそれようの術式コードを埋め込んどいた。元が夜天の書のオリジナルだからすぐに介入できた」
「うん、もう何も突っ込まへんで……」
「そう言うな。私はついさっきみたいに『ナハトヴァール』のカードとしてお前ら二人を見てるからな、あんまりふざけた事をするんじゃねぇぞ」
「分かっとるよ、心配性やな~」
「ふん、そんななりでも当代の夜天の主だからな。貴様が危険となればこちらも危ういと思ってるだけだ」
「それを心配性言うんやで?」
そういうとナハトはただでさえ細い目をこれでもかと細め睨み付けてくる。
「まぁいい、とりあえずそろそろこの空間も消滅する。あとは向こうの世界で喋りな」
「ありがとなナハト……じゃあ最後に……」
「ん?どうした夜天の主よ?どうしてそんな手をわきわきと動かして此方に迫って……ニピャ~!!!!」
ナハトの奇声が響き渡り、降り積もる雪が木の枝から崩れ落ちたのだった。
「……見馴れた天井やな」
意識を取り戻しての開口一番はそれに尽きた。目の前には岩丸宅の私が間借りしている部屋の天井があった。
「……どうやら気がついたようだな」
「隼……」
どうやら部屋に居たらしい隼が声をかける。
「気分はどうだ?」
「う~ん、少し体がダルいな~。あと凄い汗がベトベトでヤな感じや」
「そうか……」
そういうと隼は部屋からさっさと出ていった。
「気使わせてもうたな……さて」
私は体に残る倦怠感を振り払って立ち上がると、買っておいた服に着替え始めた。
そしてデッキを開き彼女のカードを取ってみると、そこには絵が自身と同じ姿へと変わった『ナハトヴァール』の姿があったのだった。