「……さてと」
私は荷物を詰め終えると体をおもいっきり伸びする。ユートとのデュエルから数日が経ち、私はこの家から出ることにした。
「良いのかはやて、ホントにここを出ていくっていうのは」
岩丸さんは寂しそうに言っている。
「私ももう少し居たかったんやけど、部屋が見つかるまでっていう約束やったし」
「そうなんだが……まぁお前が決めたなら構わないが」
そう言って岩丸さんは頭をかきむしる。と、私はよいしょと荷物を手に持つ。
「ほんなら短い間、ホンマにありがとうございました」
「おう、今度また遊びに来いよ、家内が喜ぶからな」
「はい!!」
そう言って私は部屋を後にした。新しい気持ちを胸にしまって…………。
「……そんなわけで、ここが新しい家や~」
私がそういうと、隣にいた男二人…………隼とユートが苦笑いを浮かべた。
「はやて、君の懐はどんな風になっているんだ?」
「ん~?別に至って普通やよ?どうしてや?」
「いや、そりゃこんな庭付きの豪勢な一軒家をポンと手に入れてたらそう言いたくなる!!」
ユートは呆れながらそう突っ込んだ。というのも新たなこの我が家……駅から然程遠くもなくスーパーマーケットやコンビニも近くにあるというかなりの一等地にあり、築六年とかなり新しいうえに二階建ての5LDKなのだ。さらに庭付きなのでかなりの額がするのだ。
それをはやては惜しみも躊躇いもなく借りたうえに、職無し宿無しの根なし草だった隼とユートの二人さえも同居させるというのだ。これにはエクシーズ次元の歴戦の勇士の二人も驚かない訳がない。
「う~ん。いや、私自身もどうかと思ったんやけどね、なにせあの召喚師が毎週のようにアホかという額のお金を送ってくるからな~、正直いって使い道に困っとったんよ」
「……いったいいくらだ?」
「…………なんなら通帳見せたろか?」
そう言って通帳データを展開させると、二人はそれに目を向ける。そこには毎週のように私がいた地球の人間が働いて得られる年間収入の約2倍の額の数字が書かれていた。既に残額は8桁を優に越している。
「これは……確かに凄いな」
「せなわけや。安心して暮らしてや」
「まさかこの俺が、瑠璃よりも幼い女の子おこぼれを預かることになるとは……」
隼はどこか複雑そうに明後日の方向を向いてしまう。
「さ、今日はやることが多いからさっさと済ませよう、な?」
「「お、おう……」」
そうして私達は家に入るのだった。
「疲れた…………」
家に入ってからおよそ四時間、ユートはソファーに座り込んでそう一人ゴチてる。
「そうは言うけど、ユートの荷物が一番少ないんやから、そんな風に言うのはおかしいよ?」
「そうは言ってるがな、ベットやタンスはまだしも、どうやって服まで用意してるんだ?」
事実、通販らしきもので頼んだらしいベットに洋ダンスを始め、机に椅子、布団や枕などの生活用品だけでなく、どういうわけかコートやジーンズなど服装関連のものまであったのだ。しかもユート自身、サイズが丁度いい具合なのが不思議という現象でだ。
「ユート、この世には知っていい事と知らんで良いことがあるんやで……」
「……そうだな。ところで、はやてのベットだが」
「ん?どうかしたんか?」
「どうしてサイズが違うんだ?明らかに大きすぎると思うが?」
そう、はやてのベットはユートや隼と違ってダブルサイズのベットだった。一軒家で部屋がそれなりに大きいとはいえ、まだ子供のはやてには大きすぎるのだ。
「あぁ、それなら問題あらへんよ。私の部屋は二人部屋やし」
「二人?俺たちは合計三人の筈じゃ……」
ユートは分からないように首を傾げる。するとはやては首飾りを手に乗せて目を閉じる。すると足下に大きな三角形に似た陣が光り、浮かび上がる。
「……祝福の風よ、今彼の地に姿を現したまえ……」
その言葉に答えるように光は大きくなり、やがてそこから一人の女性が現れる。長いプラチナの髪に少し垂れたルージュの瞳、そしてすらりとした肉体、間違いなくリインフォースがそこには居た。
「これは……いったい……」
「ユートも知っとるやろ?私が魔法使いやってこと」
「そうか……そういうことか……」
ユートは納得したように目を閉じた。
「主はやて…………」
「うん、色々話したいことはいっぱいあるけど…………おかえり、リインフォース」
「はい、我が主!!」
そこで二人の少女は体を抱き締めあった。ユートはいつの間にか居なくなり、ただただ二人の時間が、少しだけ流れるのだった。
やがて二人の瞳からは滴が落ち、互いの啜り声が部屋の中を木霊する。
「これからは……ずっと一緒や……リインフォースも私が、絶対に幸せにするから…………」
「はい……我が主……」
戦いに明け暮れた破壊の女神は、今、ようやく平和を願う祝福の風として、夜天の主を包み込むのだった。
「…………良いのか隼」
反逆者は隣に居る親友に声をかける。
「何がだ?」
「はやてのこと、少なからず心配してただろ?」
「ふん、馬鹿を言え……だが、あいつが瑠璃のように見えたのも事実だ」
「そうか……」
「だが、今は二人だけの時間を与えるべきなのだろう、でなければ瑠璃が居れば蹴飛ばされるだろうからな……」
「ごもっともだな……」
闇を駆け抜ける隼の顔は、何時になく険しく、だがそれでいて、どこか微かに微笑んでもいるのだった……。