「……ねぇ、最近の遊矢少し変じゃない?」
土曜のお昼を少し過ぎた頃、駅前近くのファミレス、その中での素良の言葉に、私と権現坂は微妙な表情を浮かべる。
「う~ん、どうしてそう思うの?」
「だって最近の遊矢、いつものエンタメっぽさが無いような……なんていうか、全力全壊って感じがするから?」
「ふむ。言われてみれば確かにだな。はやてへのお見舞いにいった後からずっとああいう調子だ」
権現坂は思い出すようにそう呟く。
というのも、今まで笑顔のどこかで暗い表情を浮かべていた遊矢が、つい最近になって、笑顔なのは変わらないが、その奥にどこか獰猛な気配を感じていた。
「でもその事を聞こうとしても、表情自体は前と殆ど変わらないからね。多分気のせいだとか言われてお終いなんじゃないかな?」
「でも…………」
「お、遊勝塾のやつじゃん!!」
と、いきなり声を描けてきたのはLDSの刀堂刃だった。その近くには同じくLDSの志島北斗と光津真澄の姿もある。
三人とははやてのお見舞いの時に、赤馬零児が連れてきていたのだ。その際に権現坂は刃と仲良くなり、真澄と私は同じ紅一点同士ともあって互いに愚痴を言う仲になった。
「珍しいな。遊勝塾のメンバーがこんなところにいるなんて」
「俺は違うがな。それよりそちらもどうしてこんなところに?」
「偶々だよ。さっきアイツとデュエルして俺ら三人とも悉く負けてな、ちょっとした反省会みたいなもんだ」
「へぇー、なんかLDSでも上位レベルの三人が揃いも揃って負けるなんてね」
素良の挑発に北斗は頬をピクリと引きつらせてる。
「素良、挑発しない。それで、誰に負けたの?」
「榊遊矢よ」
「「「え!?」」」
真澄のいった言葉に、私たちは思わず席を立って詰め寄る。
「どういうこと!!どうして遊矢がLDSに!?」
「本当なのか!!」
「それ詳しく教えてよ!!」
「わ、分かったから落ち着きなさい!!」
慌てて真澄が私たちを席に座らせ、LDS組が反対側に座る。
「それで、遊矢とデュエルしたってどういうこと?」
「事の次第は数時間前なんだが…………」
数時間前 LDSアクションデュエル練習場(視点:刃)
「あー!!疲れた!!」
俺は勝ち抜きアクションデュエルを終えて、フィールドの外でドリンクを飲んでいた。
「随分と張り切ってるな刃」
「そうね。今日は何時にも増して凄い気迫だったわ」
真澄と北斗が口々にそう言ってくる。
「当たり前だ。舞網チャンピオンシップまであと三週間なんだ、気合い入れて調整しねぇと大会まで時間が足りなくなっちまう」
「そう言いながら今日も『ハンデスループ』使って他の連中を泣かしてたよな。まぁ中々防げないから仕方ないかもしれないが」
「ホント、シンクロ中心のデッキってどうしてループデッキと手札誘発のカード多いのかしら」
「ループデッキはまだ認めるが、俺のは手札誘発とは違うだろうが!!」
半ギレになりながら俺はドリンクを飲みきる。
「……あれ?」
その時、北斗が小さく呟く。
「あそこに居るの、榊遊矢じゃないか?」
「は?何言ってんの……」
真澄の言う通り何言ってんだと思いながら北斗の視線の先を見ると、そこには確かにトマトみたいな髪にゴーグルを頭に着け、オレンジのTシャツを着た榊遊矢がそこにいた。
「マジかよ……てか、なんでアイツがLDSに来てんだ?」
俺がそう呟くと、それが聞こえたのかわからねぇがアイツがこっちに向かって近づいてくる。
「ごめん、ちょっといいかな」
「ん、別に構わねぇけどこんなところになんで居んだ?」
俺がそう聞くと、遊矢は丁寧に話す。
なんでもデッキの調整をしてて試しに誰かとデュエルしたかったんだが、権現坂達が居ないうえ子供たちも土曜授業で居ないから、知り合いでデュエルできそうなのと思ってここに来た、ということらしい。
「珍しいな。お前が権現坂や柚子って子が一緒じゃねぇなんて」
「逆にいつも一緒だったらそれはそれで問題だけどね」
「で、つまり私達とデュエルしたいって事でいいのね?」
真澄がそう聞くと、遊矢はあぁ、と言って頷く。だが、
「残念だけど、私たちにそんな余裕は無いわ。ただでさえチャンピオンシップが近いのに、他の塾の生徒に関わってる暇は無いのよ」
「そこをなんとか!!」
我らが鬼の真澄の拒否に遊矢は頭を下げてまで願いたてる。だが、
「別に俺は構わねぇけどな」
「僕もですね」
俺と北斗はむしろ願ったり叶ったりだった。
「黙りなさい、バカ二人!!」
「でもよ真澄、ある意味チャンスなんだぜ」
「そうですよ。ペンデュラム召喚を使う人間は榊遊矢だけなんです、この機を逃したら次はチャンピオンシップまでありませんよ」
「それは……」
俺たちの口撃に真澄は言寄どる。正論を突いてるために単にダメと言えないんだろう。
「それに榊遊矢の公式デュエルデータはかなり少ないです。ここで戦えば彼だけではなく僕たちにも利がある」
「……分かったわよ。ただし、やるからには勝つわよ」
「当然!!」
北斗の追撃にポッキリと折れてしまうが、それ以上に真澄の目は燃えていた。負けず嫌いがここで発動したようだ。
「ありがとう刃、北斗」
「気にすんな。俺は元々いつかお前とデュエルしたかったからな、丁度よかったぜ」
そう言って俺はアクションデュエルのフィールドに降り立つ。遊矢もその後を追ってフィールドに入る。
「そんじゃ……」
「「デュエル」」
現在(視点:柚子)
「てなわけでデュエルしたは良かったがあえなく惨敗、そのあと北斗、真澄の順でやったが……」
「なるほど……」
刃の話を聞いて私は納得する。確かに私たちは今日の午前中はそれぞれ別行動してたから知らないのも無理はかった。
が、それ以上に遊矢がLDSの生徒に勝ったという事に驚きだった。確かにペンデュラム召喚を使えるのは遊矢だけだったけど、それ以上に強豪であり、ジュニアユースの部でトップクラスの実力を持った三人に勝つとは思わなかった。
「まぁデュエル事態は結構競ったのが多かったけどな。けど北斗は連勝記録止められたせいで暫く放心してたけど」
「って、思い出しちゃってまた口から出ちゃいけないの出てるけど!!」
実際、北斗の体は真っ白に燃え尽きていて、口からは白いなにかが抜けそうになっている。
「大丈夫よ。むしろ今まで連勝してて正直うざかったからいい薬よ」
「そういう真澄だって負けたときスッゲェ悔しがってただろうが」
「///刃!!」
刃の一言に真澄は顔をかなり紅くして憤慨するが、刃は気にせずにスパゲッティをパクついている。
「んん、ねぇ、遊矢とデュエルしてなんか変だと思わなかった?」
私は咳払いをすると刃にそう聞き出す。
「変か変じゃないかって聞かれたらよくわかんねぇけど……あぁでもモンスターには少し驚いたな」
「モンスター?」
「遊矢のやつ、ペンデュラム召喚と『エクシーズ召喚』を組み合わせてたんだ」
「「「エクシーズ召喚!?」」」
「あと融合召喚も合わせてたわ。ペンデュラム召喚ってああいう応用もできるのね」
「「「融合召喚!?」」」
私達はいっそう驚く。私の記憶が確かなら遊矢はエクシーズモンスターも融合モンスターもデッキに入れてなかった筈だ。
「ねぇ、それってどんなモンスターだったの?」
「ん?ん~どっちもドラゴンだったな。エクシーズの方はなんつうか機械的で禍々しいやつで、融合の方はどっちかというと龍人ってな感じだったぜ」
「器械龍と龍人…………」
私はそう聞くと自分のデッキに目を向ける。
「…………このままじゃ遊矢と一緒に居られなくなる、って考えてるでしょ」
「!!」
真澄の言葉に私はドキッと驚く。
「確かに、はっきり言って今のままじゃ遊矢に追いつくどころか、チャンピオンシップの二、三回戦で負けるわね」
「……だよね」
「だから私が鍛えてあげる」
「え?」
真澄が言ったことに私は呆けてしまう。
「榊遊矢に追い付きたいんでしょ。だったらエクストラデッキを使わないようなデッキじゃまず無理、だから融合使いである私が鍛えてあげる」
「ちょっと!!融合召喚なら僕だって使えるんだけど?」
「子供は黙ってなさい。どうするの柚子?」
素良の憤慨に物ともせずに真澄は聞いてくる。
「私は……強くなりたい!!遊矢の隣に立てるように!!」
「そう……」
「おねがい真澄、私に融合召喚を教えて!!」
「……当然よ。私から言い出したもの、女に二言は無いわ」
すると真澄は私に顔を近づけると、
「それにあなた、遊矢のこと好きなんでしょ」
「///!?」
いきなりの爆弾発言に私はサウナのように熱くなる。
「さて、それじゃあ早速やるわよ」
「う、うん!!権現坂、支払いお願いね」
「お、おい柚子!!」
私は権現坂の制止を振り切ってファミレスから出ていく。チャンピオンシップまでは時間がなかった。
おまけ
権「支払い頼む」
店員「はい……合計4350円です」
権「ちょっと待て!!どうしてそんな額に……」
権現坂は慌てて会計用紙を確認する。
〈用紙〉
・サンドイッチ盛り合わせ\650(柚子)
・ハンバーグセット\800(素良)
・カレーライス\700(自分)
・コーヒー\300(真澄)
・ドリンクバー\300(北斗)
・ボンゴレスパゲッティ\1300(刃)←
俺は後ろを振り向くと、そっと逃げ出そうとしている刃を見つける。
権「刃ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!きぃぃぃさぁぁぁぁまぁぁぁぁ!!」
刃「戦略的撤退!!」
慌てて逃げ出す犯人に、俺はさっさと会計を済ますと勢いよく追いかける。
その後、あえなく捕まった刃はお小言三時間を受け、シンクロ召喚を教える事で手打ちとなった。
北「全く……なにやってるんだ」
素「確かに」