…………何も聞こえない。何も見えない。回りは闇ばかりで、妙な浮遊感だけが私の体を支配する。
目を開けてみても、耳を澄ましても、何も聞こえず、何も感じず、ただただ浮かんでるだけ。移動してみようにも、それが上なのか下なのか、前なのか後ろなのかも分からない。
けどどうしてか、この無限とも言える闇がどこか懐かしく、どこか感じ覚えがあるように思えた。
「ここは…………どこなんやろ?」
私が呟いた声も一切反響せず、かなり広い空間なのは良く分かった。そしてどこまで移動したのか、突然遠くで何かが小さく、しかし確実に白く光った。
「?」
私は疑問に思ってその方向に体を向け歩き出す。数分、数十分と歩き続けても体は一向に疲れを知らず、そして30分ぐらい歩き続け、漸くそれに辿り着いた。
そこにあったのは何やら白く光る球体に入った一枚のカードだった。カードは中でゆっくりと回転し、どこか暖かな熱を感じた。
「…………それは、記憶のカード」
「!?」
突然後ろから声が聞こえ、私は思わず振り返る。そこには細部は少し違うけど、確かに私に似た少女がそこには居た。
「…………マテリアル」
「そうだ、我こそは紫天の書の管制プログラムが一つ、『王のマテリアル』であり、小鴉、貴様を元に創られた存在、闇統べる王……ロード・ディアーチェである」
少女……ディアーチェはそう言うと、どこから取り出したのか、小さな銀の鍵を取り出した。
「それは?」
「…………小鴉、貴様は両親の姿を見たことはあるか?」
「?いや……」
事実だった。どうしてか私の家には両親の写真はおろか、私の産まれた頃の写真は一枚もなかった。それどころか、私自身、五歳までの記憶が一切無いのだ。
「けど、それとこれがどう関係するんや?」
「…………それは、我の口からは話せん。いや、話すべきではないというのが本音だな」
そう言うとディアーチェは持っていた鍵を私に投げる。慌てて取った鍵を良く見ると、私は驚いた。
「これ…………シュベルトクロイツ」
鍵の持ち手には、私のデバイスであり、リインフォースの贈り物であるシュベルトクロイツに似た飾りが付けられていたのだ。
「そのカードはその鍵を差し込んで漸く小鴉、お前に見せることができる代物だ」
「…………これは、誰の記憶なんや」
「……………………貴様の、両親のだ」
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「いったい何だったの?あれは」
私は意識を失ったはやてをベットに寝かせ、一緒に運んできたレヴィに問いかける。
「あれは多分、はやてに掛けていた魔法のリミッターが外れかけたんだとおもう。今までは王様が遠くで意識を同調させてなんとか守ってきたんだけど……」
「リミッター?」
「うん。そもそも、はやては何も産まれた時から『闇の書』の主だった訳じゃない。偶々はやての所に流れ着いて、幼いはやてを早死しないようにリミッターを掛けたんだ」
「ふーん」
私は微妙に唸りながらも、何とか納得する。
「だがよ。はやてが居た世界には魔法文化が全くねぇ筈だ。いったい誰がそんなことを…………」
「…………君も、一度は見たことのある人物だよ……ね?」
ナハトの言葉に、レヴィが言葉と共に視線で返す。私と彼女はその方向を見ると、そこには。
「な!?」
「うそ!?」
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「両親の記憶?」
ディアーチェの言葉に私は思わず聞き返した。
「そうだ。これは小鴉、貴様が闇の書の主となる前までの、そして主の両親の人生が納められたカードだ」
「記憶のカード化…………お父さんとお母さんの記憶…………」
私は鍵に視線に移すと、未だに浮遊している『記憶のカード』に手を伸ばす。手に取ったそれは、懐かしいような暖かさを持ち、鍵穴にそれを差し込むと光の球体は中心から亀裂が入って砕けちり、手にはカードが握られていた。
「!?」
そして突然回りの闇が消え去り、辺りはどこかのカードショップのような風景へと変わった。目の前には二人の少年少女がデュエルをして遊んでいる。
「あれが…………」
「うむ。小鴉の両親、母親の『八神茜』と父親である『風切流』だ」
『バトル!!『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』で『星輝士 セイクリッド・ダイヤ』に攻撃や!!』
『うわ!!また負けたぁ!!』
どうやら母親……茜の勝ちらしく、父親……流は悔しそうにしている。
『これで私の78戦40勝38敗やね』
『ぐぅ……。せっかく追いついたと思ったんだけどな』
『ふふふ、デュエルで私に勝とうなんて1万年早いで。そういうわけだから、今日のアイスはながちゃんの奢りね』
『だからながちゃん言うな!!小6なって恥ずかしいだろ!!』
『ながちゃんはながちゃんや。昔から言っとったから変える方が面倒やし、それにそういうのは私に勝ち越してからにしやw』
『くっそー、事実だから腹立つ!!』
二人はそう言ってカードショップから出ていく。すると風景も一瞬でコンビニのそれに変わり始める。
「二人は幼馴染みやったんやな……」
「そうだ、そして……」
『今日のアイスは何にしようかな~』
ディアーチェがそう言いかけた時、二人がコンビニの中に入ってきた。ゆっくりと移動する流と違って、茜は一目散にアイスコーナーへと走っている。
『今日のって、お前いっつもアイスモナカじゃん』
『そんなことないよ!!』
『じゃあその手に持ってるモナカはなんなんだよ……』
『う、うるさい!!偶々、今日はモナカの気分なんよ!!』
『それ、昨日も同じこと言ってたぞ……』
『そういうながちゃんだって、いつもガリ○リ君やん、しかも毎回ソーダ味って、よく飽きないよね』
『ながちゃん言うなって、僕はこれが一番好きだからね。下手な限定物よりも美味しいし』
そう言いながら茜は流にアイスを渡すと、流はため息と共にレジで会計を済ます。そして外に出て茜にアイスを渡すとどこかへ向かって歩き出す。
『ウ~ン!!やっぱりモナカ最高!!』
『ホント、よくもまぁ飽きねぇよな』
『う、うるさい!!好きなもんは好きなんよ!!』
『ハイハイ……』
流も自分のアイスを口に含むとゴミを袋に入れる。
『…………ありがとね流』
『ん?いきなりどうした?』
『私、いっつも口下手で、回りと話すの苦手で……そんな私と一緒に遊んでくれて』
『んなもん当然だろ。僕らは幼馴染みなんだからさ』
流はそう言うと食べ終えたアイスの棒を見てみる。だがハズレだった。
『ちぇ……』
『…………』
彼が詰らなそうに呟くと、茜は何を思ったのかモナカを見つめる。そしてまだ三分の一ほども食べてないそれを半分に割った。
『…………ハイ』
『え?……くれるの?』
『うん。奢ってもらったし……それに間接キスみたい……だし…………』
茜の声は最後に行くに連れて小さくなり、また顔がどこか紅くなっていく。
『ん……じゃあありがたく……』
『うん…………』
しかし、流はそれに気づいてないのか、何の躊躇いもなくモナカを口に入れる。
「…………もしかしてお母さん」
「まぁお前の父親もそれなりに顔は良い方だからな。幼馴染み効果もあるのだろうが…………」
私とディアーチェはそう呟きながら、両親の記憶を見続けるのだった。