六年前・夕刻・5月2日・地球・某研究室 視点流
「う~ん、今日はここまでかな」
僕は途中まで書かれた論文のデータをパソコンのファイルに保存し、凝り固まった体を思いきり伸ばす。
「お疲れ様です、教授」
「教授、どうぞコーヒーです」
「あ、ありがとね」
部下から入れてもらったコーヒーを一口含むと、私は携帯を取り出す。そこにはだいぶ成長した娘達と妻、そして僕自身で撮った画像が映っていた。
「あ、娘さん達の画像!!」
「いいな~、私も結婚してこんな娘たち欲しい!!」
「なら研究してないで婚活しろよ、もうすぐに三十路だろ?」
「ナニカイッタカシラ?」
「イエ、ナンデモゴザイマセン!!」
部下達の喧々囂々のコントを聞いて、僕は苦笑を禁じ得なかった。というのも前に1度だけ娘達を仕事場に連れてきて以来、部下やゼミの学生達からかなり好印象を持たれており、中には娘達のファンクラブなるものを組織してる面々も居るらしい。まぁ五、六グループぐらいは
「でもホントに可愛いですよね。えっと奥さんの右側に映ってるのが……」
「姉のはやてだよ。で、隣がきらり。どっちもお転婆でね、全く誰に似たのやら」
というのも、はやては一件おっとりしてるかと思ったら、キッチンの砂糖と塩を入れ換えたり、はたまた個人的に面倒な場面(主に妻とのあれやこれだが……)をいつの間にか目撃してたりと、腹黒いという意味で怖い。
逆にきらりは寧ろ普通の子供のような(というか当たり前の事だが)騒がしいというか、つい数日前には干したばかりのタオルケットを引きずり下ろしてオバケのような格好をしていて、妻にお説教されたりしたばかりだ。
また双子…………正確には二卵性双生児なのだが…………ならではのコンビプレイもあり、きらりが暴れて僕や妻が気を取られてる隙に、かなりビックリなイタズラをはやてがするのだ。お陰で一、二度家で書いていた論文のデータが消されていた時があって数日徹夜になったのは別の話だ。
「あれ?そういえば教授、今日って誰かと食事に行くって話じゃ」
「ん?」
突然部下の一人からそう言われて腕時計を確認すると、針は予定の時間まで15分を切っていた。
「し、しまった!!悪い、誰かカギを閉めていってくれ!!」
「「「お疲れ様で~す!!」」」
部下達からの労いの唱和を背中で受けとめ、僕は自分の車に向かって走るのだった。
同時刻・八神家・リビング 視点茜
「はいはーい!!ちびちゃん達良い子にしてね~!!」
「「や~!!」」
最近になって走るのが上手くなった娘二人を、片手にオムツ、片手にオモチャを持ちながら私は追いかける。幼稚園児にすらなってない二人が良くもまぁ私を撹乱するほど早く走れる事に感心しながらも、表情はかなりひきつっている。と、そんなことを思ってるとはやてが階段に、きらりがリビングへと分散するが、そのパターンはバレバレだ。
「アリア!!ロッテ!!」
「「はいな~!!」」
「きゃ~~!!」
私の指示を待ってたといわんばかりに二人の少女が娘の進路を阻み、そして抱き抱える。
「「捕獲完了」」
「「や~!!」」
じたばたと逃げようとする彼女達だが、何せ相手が悪い。我が家のわんぱく娘といえど、犯罪者を素手で(?)逮捕できる程の警官である彼女達にとっては、まるで赤子の手を捻るくらいなものだ。…………ロッテの場合はホントウに捻ってしまいそうで怖いが。
「さてさて、可愛い可愛いはやてちゃんにきらりちゃん…………、お風呂から出たらちゃんと服は着ましょうね~」
「「う~~!!」」
唸り声をあげる姿さえも可愛いと思いつつ、私は娘達にオムツを履かせるのだった。
「あ~やっぱり子供の相手は大変だね~」
ついさっき寝てしまった娘達の姿を見ながら、長年の親友兼お手伝いのリーゼロッテが右肩を回して尻尾を横に軽く振りながらソファーに座っていた。
「そうは言うけど、ロッテだって楽しんでたやん、あの娘たちと遊ぶん」
「否定はしないよ。だからってもうだいぶ年寄り猫の私には荷が重たいっていうかね……」
というのも、ロッテとアリアは中学の頃からギルくんが飼っていた猫の使い魔で、私も流も二人が産まれたときから成長を見守ってきた。
猫の寿命は人間よりも短いとよく言うが、二人はギルくんが魔法に出会った高校卒業頃から使い魔として活躍し、使い魔として成り立ての頃には既にかなりの高齢になってるはずだ。使い魔となって凡そ人と同じ成長速度になったとはいえ(正確には使い魔は成長しないのだが)、20年以上も過ぎればロートルも当然の事だ。
「そういえば、確か使い魔にも寿命ってあるんやっけ?」
「そら当然あるさ、といっても使い魔は主の魔力を本に生活してるから寿命はあって無いに等しいものだよ」
「でなきゃ、普通の猫ならとっくに死んでなきゃおかしくない私達が生きてるのに説明が付かないしね。はい、お茶」
アリアが容れてくれたお茶を軽く頂きながら、私は茶菓のクッキーを一口摘まむ。
「そういえば、最近ギルくん急がしそうやって話やけど」
「あ~、急がしいっていうかなんというか…………」
「父様の友人だった人が殉職してしまって……それ以来殆ど寝るまもなく仕事漬けをしてるね」
「そう…………」
二人の言葉に少しだけ気落ちするが、二人にはそれを見せないようにする。
「まぁアレだね!!ギルくんも彼女作れば良いのに」
「まぁ確かに言えるけど……ねぇ?」
「父様、前に士郎さんと桃子さんを奪い合った喧嘩以来全然そういった面を見せなくなったしね」
「あ~、あれね」
正確には、『桃子さんと付き合いたい男子達が桃子さんと付き合った士郎さんに寄って集って喧嘩からの乱闘事件』なのだが、事実を知らないほうが彼女達の主人の為だろう。
「そんな訳だから、父様に対して恋愛ごとはNGだから」
「まぁ頭がお花畑な茜でも分かると思うけどね」
「…………そうだ、今日は二人に私が腕を奮ってあげるわ」
「「勘弁してください私達が悪うございましたまだ死にたくありませんし流に殺されます」」
「なら良し」
毒の多い二人に私が切り札を切ると、二人は仲良くフローリングの床に座り込んで拝むように頭を下げるのだった。
「さて、今日は流は会食があるみたいだし、思いきってピザでも頼んじゃう?」
「「じゃあお言葉に甘えて」」
夜中・居酒屋・個室・視点流
「はぁ……はぁ……なんとか間に合った」
僕は個室に到着するや否や息も絶え絶えにそう言った。
「何が『なんとか間に合った』だい。普通に遅刻だよ」
「デスヨネー」
俺がガックリ項垂れると、向かいの席に座っていた顔馴染み……ギル・グレアムがお猪口で日本酒を飲んでいた。
「それで、今日は何のようなんだギル?態態こんな居酒屋に来て話なんてよ」
「今回のメインは私じゃない。…………入りたまえ」
ギルがそう言うと、彼の後ろの扉から一人の青年が姿を現した。凝った民族衣装にまだ二十歳前後のその姿のなかに、どこか長のような貫禄を感じる。
「初めまして八神流さん、自分はコカ・R・アプラと申します」
「ふーん、もしかして『あっち』関連の人間かな?」
「む、その通りだよ」
僕がそう言うとギルは軽く頷いて肯定する。
「自分は第104管理外世界『エンシェミオン』の次期族長でして、今回は『エンシェミオン』と関わりが深い地球の下調べという事でやって来ました」
「下調べ、ね。…………目的はエジプトか、ナスカか、もしくはインドかな?」
僕がそう言うと彼は目を見開いて驚いている。
「…………驚きました。どうして分かったんです」
「まずその民族衣装、見た目のわりに薄そうな生地から見て熱帯……もしくは赤道付近等の高温多湿な気候の調査に向いている。そしてギル曰くここは君がいたという世界と同じ『管理外世界』、しかも
「中々の洞察力ですね、その通りです。自分はこの世界で言うナスカの地上絵の封印処理を行いに来たのです」
「封印処理?どういうこった」
僕がそう聞くと、彼は手元からタブレットを取り出してこちらに渡す。
「自分達の一族は昔、エジプトやナスカといった古代遺跡の地にて居住していました。スフィンクスやピラミッド、地上絵の作成にも、自分達の一族の先人達が築きあげたものです」
「そして、それらの遺跡は元々その地域に存在していた精霊を祀り、この世に現介して人々を守るために作り、生み出されたものです。スフィンクスはエジプトの死の精霊アヌビスを祀り生と死の循環を守るため、ピラミッドは死した王の魂を納め、新たな姿として生まれ変わらせる器として、そしてナスカの地上絵は世界その物に宿る精霊を召喚し、人々やこの世界を守る守護者とするための媒介です」
「ですが、媒介は時と共に磨耗し、そうなると精霊は暴走状態になる危険性が高まります。特に今回私が向かうナスカの地上絵の場合、一つでも暴走すれば…………」
そこで彼は口を閉ざした。が、僕には言わずともそれが分かってしまった。
「で、その封印の延長処理の為に、遠路遙々ここまで来たと言うことか……」
「仰る通りです。つきましては流さん、自分は数週間はこちらに滞在したいと考えています。が、グレアム殿の次元航行艦は明日には別の宙域へと行ってしまうということですので…………」
「長期滞在か、別に構わないよ。寧ろ家内が喜ぶね」
とりあえず携帯を取り出してメールで確認を取ってみると、数分で返事が返ってきた。相変わらずの光速タイプだと思いつつ開いてみると、了承の文章が書かれていた。
「まぁ妻からの了解も貰ったし、これから暫くよろしくね」
「はい!!不束者ですがよろしくお願いいたします」
こうして、我が家に新たな居住者ができることになったのだった。
おまけ
僕は携帯を閉じようとしたとき、メールに何故か添付ファイルが付いてるのに気付いた。何の気なしに開いてみると…………。
「…………おいギル」
「?どうかしたのかい?」
「先に謝っとく、済まない」
「へ?どういうこと?」
訳が分からないように頭に?マークを付けているギルに、俺は開いたフォルダを彼に見せる。そこには
「ファ!!アイエエエエ!!コスプレ!?コスプレナンデエエエ!?」
「俺が聞きたいよ!!」
しかもアリアがナース服、ロッテがカーニバル、茜がバニーと、それぞれ女性特有の物が強烈に印象づけられる格好をしており、自然と揃って顔が熱くなっていく。
「ていうか一緒にピザとかビール映ってるし!!どう見ても酔いのテンションだよね!!」
「あぁ!!俺が秘蔵してたワインまで飲んでやがるし!!しかも空になってるよ!!」
僕たちがそう叫び数分が経って漸く落ち着くと、僕らは再び画像を見る、そして
「…………なぁ、二人って酔ったあとの記憶って残るタイプかな?」
「いや、素体ベースが猫だし寧ろ酔ったら覚えてないと思うよ。茜は?」
「茜は強いけど酔ったら絡むし記憶なくなるな」
「「……………………」」
互いにそれを確認すると、いそいそとグレアムの端末にデータを送った。
「「これでよし」」
「………………僕は見てない聞いてない、僕は見てない聞いてない、と」
次の日、二人の予想通り三人は酔ったあとの記憶は残っていなかったが、茜に関しては帰ったあと僕と同じ寝室に入ったのは言うまでもなかった。
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