遊戯王ARC-Ⅴ 夜天の来訪者   作:ドロイデン

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Episode44 夜天の生まれた日 八幕

リリカル次元 なのは視点

 

「それが、八神はやての過去だ」

 グレアムさんのその言葉に、私は思わず言葉を失った。はやてちゃんが今までどんな生活をしてたか、知っていたはずなのに、これは異常だった。

「…………それで、流さんと茜さんは」

「…………二人は私が手を回して事故扱いで処理をした。そしてはやてときらりは海鳴市の病院に緊急搬送し、はやては数週間後に目を覚ました」

「…………じゃあきらりは?」

「…………これから行けば分かる」

 そう言って車は病院へと到着し、私たちはそれぞれ車から降りた。

 

 

 私たちが連れてこられたのは、精神科の個室で、回りには人気の姿は感じられなかった。

「……ここだ」

 グレアムさんがそう言ってとある扉の前に立つと、それを開けて中へと入る。私たちも続いて入る。そこには

「あ……」

 かなり長くなった茶髪に、私たちの親友と同じ顔だが、痩せこけ、表情が虚ろな少女がベットに座っていた。

「…………久しぶりだな、きらりちゃん」

 グレアムさんが言葉を発しても、少女はピクリとも動かない。

「えっと…………この娘が?」

「そうだ、名前は八神きらり。先程話していた少女だ」

 グレアムさんがそう説明してるにも関わらず、少女は身動き一つしない。まるで意識がないかのような…………。

「もしかして、きらりは精神麻痺か何かを?」

「…………鋭い指摘だフェイト君。彼女はあの事件のあと身体的危険は回避できた。が、彼女の精神は別だった。」

 そう言ってグレアムさんは少女の事を横から指でチョンと触れる。すると彼女の体はまるで糸が切れた人形のように倒れていく。

 それを慣れた手つきでアリアさんが受けとめ、さっきのような体勢へと元に戻す。

「彼女の意識は未だに戻ってきていない。この世界の技術はもちろん、ミッドの魔法技術を以てしても何の効果もなかった」

「そんな…………」

「しかも脳も、心臓も生きてる……いわゆる植物状態でな。何度も脳死判定しようとも正常な反応を示すのに、だ」

 そういうとグレアムさんはチラリと供えてある花瓶を確認し、それをロッテさんへと渡す。

「……頼む」

「…………分かった」

 凄く短い会話だった。返事をしたロッテさんはゆっくりと部屋を出ていく。

「…………私、ロッテさんと一緒に……」

「済まない、今のロッテは一人にしておいてあげてくれ」

 フェイトちゃんがそういうと、グレアムさんは間髪入れずにそう言った。

「でも…………」

「…………ロッテは目の前で流と茜を看取ってる。しかもロッテはそれを自分のせいだって抱え込んでるんだ」

「え?」

 グレアムさんの言った言葉の意味が良く分からず、フェイトちゃんは首を傾げる。

「ロッテは茜と流、二人に仔猫の頃から懐いていてね。それは使い魔になってからも変わらずで、不器用な態度をとりつつも二人の幸せを第一に考えていたんだ。流達の家の手伝いをしたいって言い出したのもロッテだったしな」

「しかもロッテ、自分も結構歳を食ってるっていうのに二人のために動き回ってたしね。まだ幼かったはやてやきらりのために料理の勉強までしてた。任務のときなんか創膏巻きまくった指でやってたから、恋人でもできたのかって一時期言われてたし」

 グレアムさんの話にアリアさんも頷きながらそう言う。

「何よりロッテ、最初の頃は『闇の書』の封印のためにはやてを犠牲にする事を反対してたんだ。その時ロッテはね『流と茜の娘を犠牲にしたら、私は二人の墓前に会わせる顔がない』って言ってたよ。まぁ結局、はやての体が『闇の書』に犯され続けて、余命幾ばくってなってようやく了承したんだ」

「そんな……どうして」

「多分、ロッテは闇の書に大切な人を三度も奪われたく無かったんだ。それではやてが闇の書に取り込まれて死ぬくらいなら…………」

「それ以上話すな!!」

 言葉を遮ったのは、ロッテさんの怒声だった。その顔は酷く歪み、目には涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

意識空間 はやて視点

 

「闇の書が…………お父さんとお母さんを?」

 私はお父さんが話した内容に思わず体を震わせた。

「確かに僕たちの肉体は死に至った。でも、今は後悔なんてそんなにしてないよ」

「…………後悔しとらんの?」

「そうや。確かにうちらは家族として一緒に生活した時間はそんなに長くなかった。けど、こうして一緒に話ができるのも、ある意味では闇の書のおかげやしね」

 そういうとお母さんはにこりと笑い、お父さんの腕に抱きつく。

「どういうこと?」

「僕と茜がここに居られるのはね、それぞれが闇の書とリンクしていたからなんだ。茜は魔力回路で繋がっていて、僕は奴とのデュエルの記録が闇の書に残され、さらには闇の書の触手に貫かれた事によってリンクしたんだ」

「つまり、私らはそれぞれが闇の書に残されたデータの一部としてこの空間に残ることができたんや」

 そういうとお母さんは私と同じ身長になるように体を屈め、私の胸に指を当てる。

「はやて、あなたという大事な娘の心の中にね」

「…………でも、私には今までのお父さんやお母さんとの記憶がないし…………」

「それは違うぞはやて」

 私の言葉を、お父さんは頭を優しく撫でながら否定する。

「記憶なんてものは結局忘れていくものだ、けど思いは、たとえどんなことがあっても、例え死んだとしても」

 そういってお父さんは私の胸を指さす。

「常にここには残ってるんだからな」

「お父さん…………」

 笑みを浮かべながらそう言ったお父さんを、私はカッコいいと思った。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

リリカル次元 なのは視点

 

「それ以上……話さないでくれよ」

「ロッテ…………」

 ロッテさんはか細く、まるで今にも消えてしまいそうなほど小さな声で再びそう言った。

「理由はどうあれ、私ははやてを見捨てようとして、切り捨てようとしたんだ……。昔の記憶がないはやてには、私は悪役で良い……アイツが幸せに暮らせるなら…………それで良いんだ」

「…………違うの」

 私は思わず呟いた。

「そんなの絶対に違うの!!はやてちゃんは自分のために誰かを悪役に思うなんて事、絶対しないの!!」

「…………はやては茜と似て誰かを怨むって事はしない。けど私にとっては、はやては…………いや闇の書はどうしても許すことはできない…………」

「……なら戦おう?」

 私はレイジングハートを握りしめ、バリアジャケットを展開する。

「戦う……か、闇の書の化物を相手に戦ったエース様なんかに、私が敵うわけないだろ?」

「…………違うよ。私がしたいのは魔法戦じゃない」

「……なんだと?」

『マスター、()()を使うのですか?』

 レイジングハートは確認するようにそう言った。

「そうだよレイジングハート」

「おい、いったい何を…………!!」

 私は右手のレイジングハートを左手に持ち換え、()()()()()()()()()()()()()()()

「レイジングハート……モードチェンジ、『()()()()』!!」

 私のその言葉と共に、レイジングハートは姿を変えた。紅い水晶のような円盤に、白を基調にしたフレーム、そして黒いホロディスプレイと、それを縁取る金色の光、まさしくそれは、

「デュエル…………ディスク!?」

「…………ねぇ、ちゃんとおはなし…………しよう?」

 後の『エース・オブ・エース』と呼ばれる彼女のが、今、デュエルで放たれる。

 

 

 

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意識空間 はやて視点

 

「さて…………もう語るべきは終わったかな、ディア」

 お父さんはそういうと、静観していたディアーチェに声をかける。

「そうだな。まぁ我も伝えるべきは伝えた。あとはお前達の好きにすれば良い」

「そうか」

 ディアーチェは簡潔にそういうと、お父さんはやれやれと首を傾げる。

「じゃあはやて、最後に僕の…………いや、お父さんの、最初で最後の我が儘…………聞いてくれるかな?」

「…………うん」

 私が頷くと、お父さんはわしゃわしゃと頭を撫でてから、少し離れる。

「僕の我が儘、それはねはやて、君とデュエルをしたいんだ」

 そういうと、お父さんの左手には蒼を基調にしたデュエルディスクがいつのまにか填められていた。

「僕の全力で、はやて、君と最高のデュエルをしよう」

「…………もちろんや!!」

 私は返事と共にデュエルディスクを展開させ、騎士服へとチェンジする。

 今、親子の最初で最後の戦いが、火蓋を切って下ろされた。

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