「……というわけで、彼女がうちの塾に入ることになりました」
若干投げ槍になっているが、遊矢はそう話した。
「そういうわけで、八神はやてといいます。よろしゅうお願いや」
「「「よろしくお願いします」」」
私の挨拶を聞いて小学校低学年くらいの三人が挨拶を返してくる。
「でも凄いわね。エクシーズ召喚ってLDSでもトップクラスの実力者じゃないと使えないって言われるくらいなのに」
「そうなん?うちが昔いた街じゃ融合もエクシーズもシンクロもみんなよく使われとったよ?」
遊矢と同い年らしい少女、柚子の言葉に私は事実に少しだけ嘘をついて誤魔化した。
(ホンマはペンデュラムモンスターもうちの居た世界だとだいぶ出回っとるけど、そんなこと言ったら原作から解離してまうし、まぁ8割ホンマやから大丈夫やろ)
「しかし遊矢よ、いくらなんでもあっさりと敗北するとは、この権現坂、1度戦ってみたいものだ」
「いやぁ……ちょっとごんちゃんとは戦いたくないわ~。ていうか少し暑苦しいで?」
間近でかなり漢らしい巨漢の権現坂に圧倒されながらも、出された緑茶を口に含む。
「そういえば塾長さんは?さっきから顔見とらんけど?」
「お父さんなら昨日の夜にぎっくり腰やって、今頃遊矢のお母さんに看病されて寝てるはずよ」
「あ、そうですか……と、これでええの?」
と、私は柚子から渡された誓約書やらなんやらが書かれた紙に記名してそれを渡す。
「うんうん。別にいい……ってなにこれ!?」
「ん?どないしたんや?」
「保護者の名前よ!!なんで外人なのよ!!」
そこには保護者欄に確かに私の字で『ギル・グレアム』と書かれており、遊矢も権現坂も驚いている。
「あぁその事やな。私、早くに両親を事故で亡くしててな~、そのグレアムさんが私の保護責任者っちゅうことになっとるんよ」
「え?親戚とかは?」
「ううん、両親共に一人っ子だったみたいでな~、私が一人になる頃にはお祖父ちゃん達は全員亡くなってたんや。で、グレアムさんは私のお父さんの昔からの親友やったみたいで、私のことを実の娘みたいに育ててくれたんや」
私は半分事実の嘘を着く。こういうときは事実と嘘を織り混ぜたほうがバレにくいからだ。
「そういうことね……わかったわ。じゃあこれで預かるから」
「おおきにな~。じゃあ私は帰るわ」
私は軽く伸びをして立ち上がる。すると、
「あ、俺送ってくよ」
遊矢が慌てて立ち上がってそう言った。
「別に構わへんけど……どないしたんや?」
「あ、いや……何となく……かな?」
「ふーん。まぁええわ、あの事の罰ゲームもせなあかんし」
「ちょ!!それはもう終わったことじゃ」
「何が終ったことや、乙女にあんな仕打ちして簡単に終ると思っとったか?」
「ちょっと遊矢、どういうことかしら?」
突如として発生した修羅場に雰囲気がかなり重くなり、私は権現坂にアイコンタクトする。それを受けた彼は三人の子供たちを連れてアクションフィールドのある奥の部屋へと行ってしまった。
「柚子!!ちょっと待って、話を聞いてくれても……」
「問答無用!!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
どこから取り出したのか、柚子の手に握られた巨大なハリセンが大きく振りかぶられ、それは瞬く間に遊矢の顔面にダイレクトアタックすることになったのはお約束だった。
「はぁ~おもろかった!!」
私は一人駅の中でそう叫んだ。あのあと遊矢は柚子からのありがたいO☆HA☆NA☆SHIを正座して聞いており、時たまハリセンが火を吹いていた。
「いきなりラノベとかみたいな転移させられて驚いたけど、これはこれで楽しみやな」
「……そいつは良かった」
その時、聞き覚えのある、それでいて憎たらしい声が耳元に囁いた。慌てて振り向くと、そこにはコートの下に特徴的な民族衣装を纏った一人の青年……リフィートがそこに居た。
さらにどういうわけか封時結界が展開されており、周りには私たち以外に人っ子一人として居らんかった。
「まさかこんな早くに再開できるとは思わんかったわ」
「それはこちらも同じだ」
リフィートはそういうとコートの内ポケットから大きなケースを取り出して投げてくる。私はそれを危なげなく受けとると、その中身に驚いた。
「これって……私が持っとったカードかいな?」
「そうだ。あの時は色々と時間が無かったからな、必要最低限のものしか渡せなかった」
彼はそういうと駅のベンチに座って缶の緑茶を口にする。
「う~ん、やっぱり砂糖とミルクが欲しいな」
「アンタはリンディ提督の回し者かいな!?」
私のツッコミに何も返さずに緑茶を飲む。流石にこれには呆れて何も言えなくなった。
「さて、今回俺がお前の前に現れたのには理由がある」
「……私を強制転移させた理由かいな?」
「そうだ」
彼は目の前にいきなり『ミッド式』の魔方陣を展開すると、中から少し大きめの球体が姿を現す。
「アカデミア……君もその存在については知っているだろ?」
「当然や。『融合次元』のデュエリスト育成機関、赤馬零王がトップに君臨していて、次元の平和のためとかいうて戦争を起こしとるんやろ?それで『エクシーズ次元』はぶっ潰されたって事は知っとるけど」
私は今まで見た『アニメでのARC-Ⅴ』の情報を思い出して答える。
「そうだ。だが『アカデミア』の目的は次元の平和のため何てものではない」
「え?」
「アカデミアの……赤馬零王の目的は四人の英雄の力を復活させて手にいれること。そして全てを超越する神にでもなるつもりだ」
「全てを超越する神やと?それになんや、その『四人の英雄』ってのは」
「君も知ってる筈だ、遊戯王という物語において世界そのものの運命を背負った四人の英雄について」
「……まさか、いや、ありえへん」
私は一つの仮説に辿り着いた。だが、それはほぼ不可能な事だと思った。
「……恐らく君の考えている通りだ」
「…………!!」
私は体が震えた。そんなことになれば、本当に。
「……全てを超越する神になる」
私がその言葉を呟いた時にはリフィートは既に消え、結界も消滅していた。だが私の中に生まれた何かに怯え、電車が来たことすら気づかなかった。