運命の夜
「問おう、アナタが私のマスターか?」
土蔵に現れた一人の女性は俺に問いかける、けれど俺は問いに答える前に彼女に見惚れてしまった。
月光によって照らされたその凛とした姿は決意と覚悟という銀色に輝くドレスアーマーを身に纏い、エメラルドグリーンの瞳は綺麗な美しさを持ちながらもどこか寂し気に、月光に照らされた金色の髪は儚げで、彼女はまるで孤高に咲く一本の青いバラの様であった。
バラ、彼女を花に例えていいのかは解らないけれど、力強い気迫が彼女から伝わってくる。
「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した」
セイバーと答えた彼女の事は良く解らない、解る事と言えば俺はこの夜、運命が変わる瞬間である事だけは解った。
俺は心の奥底で願っていたのかもしれない。爺さん、衛宮切嗣の夢を叶える事が出来るかもしれないと『思ってしまった』。
「マスター、指示を」
『正義の味方』になるという夢を。 千冬と会ってから、守ると誓ったのに。
俺はこの時『喜んでしまった』のかもしれない。彼の様に、俺を炎から救い出してくれた爺さんが諦めてしまった夢を代わりに叶える事が出来るかもしれない。
「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」
それは自分自身でも解ったはずだった。教えてもらったはずだった。
『正義の味方』と言うのは歪な存在であるという事を、彼女達から教えてもらった。
「ここに、契約を完了した」
『正義の味方』になるという事は己の心すら殺し、忍ばなければならない。より多くの人々を助けるという事は、『人間』を数字で見なければいけない。
すべてを助けることが出来ないという事は『知っている』、犠牲の上に人々は生きているのだから
自分を犠牲に他の人を助けるという事は崖に堕ちそうになっている人の代わりになるという事だ。だが、それが一人ならば投げる要領で助ける事ができるだろう。それが2人なら? 3人なら? どうやって助ければ良い? 救うことが出来る?
『バカだね。お前、全知全能神様じゃないんだから出来る筈が無いだろ?』
あぁ、そうだ。何でも出来る神様と犠牲しなければ行動できない人間とでは出来る範囲が違う、それでも諦めたら聞こえてくるんだ。
あの時の声が、「助けて」という人の声、「この子だけでも」という子供を助けて欲しいという親の声が、「一緒に連れて行ってくれ」というあの地獄から抜け出したい。生きたいという意思を持った様々な声が俺を攻めてくるんだ.
『愚問ですね。大切なモノですよ。
知っていますか?『大切』っていうのは『大』を『切』るのですよ』
本当に守りたいモノが有るなら、何かを捨てなければいけない、切り捨てなければ守ることが出来ない。
『ならば、私が守ってやろう、衛宮には助けられたからな。衛宮が捨てなければいけないモノを私が守ってやる。 無論、お前もな』
あの時の千冬の言葉が脳裏に走った。
それだけで俺は安心した。 呼吸を落ち着かせることが出来た。
今は目の前にいる彼女の事とか召喚だとか解らない事を埋めていかなければならない。一体俺はどういう状況なのかを、解る事と言えば非日常的であること。それはつまり『魔術』が関連する事だけは解る。
けれど俺はこの土蔵で魔術の訓練には使っていたけれど、物語に出てくるような儀式とか魔術の術式を書き込んだりしたことはない。
一時期中二病を拗らせた友人の一人がここで詠唱をするところを見てしまっただけだ。
「外にサーヴァントの気配、マスターはここにいてください」
セイバーと名乗る彼女はそういうと何かを構えながら土蔵の外へと走り出した。止める暇なく出て行くセイバーを追う様に俺も土蔵の外へ走り出す。
やはり魔術が関係している! 俺より年下だと思われる少女があんな速く、いや圧倒的に速く走れるわけがない。いたらオリンピックを6連勝以上はしている……!
土蔵の扉の前に出て俺はようやくその光景を目の当たりにした。俺をマスターと言ったセイバーと名乗る少女と赤い槍を振り回し、神速の突きを繰り出す青い男の攻防。どちらも引かぬゲームや漫画に出てきそうな風景が今、俺の目の前で起こっていた。
俺には何本にも赤い筋しか見えない青い男の赤い槍を目には見えない何かで防ぎ、反らすセイバーの姿であった。
セイバーの戦っている姿はまるで踊るかのようでドレスアーマーを着ている所も有り『姫騎士』と呼ぶに相応しく、可憐で儚い姿なのに戦乙女(ヴァルキリア)のように勇ましい。
む、慎二の影響が残っているみたいだ。セイバーを見てスグに姫騎士とかヴァルキリアとか思ってしまったのは悪くない。慎二が悪い、と言うことにしよう。そうしよう。
剣と槍の金属同士がぶつかり合う甲高い音、擦れる音が繰り返されながら凄まじい砂煙が舞い振るわれるたびに地に堕ちることなく、どちらかが避ければ庭の地面は走る跡や斬りつけたような跡が付けられる。
俺がその光景に目惚れてしまうところで両者が距離を離し、武器を構え直していた。
「卑怯者めッ! 己の武器を隠すとは何事かッ!!」
「止まっていてはランサーの名が泣くぞ? それに見えぬのなら暴けばよかろう。貴様にできるのであればな。ランサー」
「ハッ、ここで札を切る気はねぇなぁ……!」
激高し吼えるランサーと呼ばれた青い獣の様な男の問いにセイバーはただただ冷静に返す、ランサーはセイバーの表情を見ると激高していたはずが一気に先ほどと同じ様に冷静に槍を構える。
「なら一つ教えろ、テメェの『それ』は剣か?」
ランサーの言う『それ』、セイバーが持つ目には見えない何かの事であろう、やはり武器が見えないというのはそれだけでも『武器』になるのだろう、姿かたちが見えるというのは情報の一つだからな。
……藤田にどれだけ「見えるけど見えないもの」と言う名の『情報戦』で奢らせられたかわからない。お返しに目隠しさせた状態で世界的に有名な某麻婆豆腐を奢ったけどな。
あの時の貸しを一つ消費したけれど藤田の絶望に満ちた顔をしながら食べている姿に満足した。ああ、おそらくアレが愉悦と言うやつなのだろう。
「さてな、剣か、槌か、槍か、いや弓かもしれないぞ?」
「ハッ、ぬかせ『セイバー』」
セイバーとランサーは互いに軽口をしながらじりじりと距離を詰めていた。二人から感じるプレッシャーはまるで大太鼓を鳴らすかのようにジリジリという振動が伝わってくる様であった。
「フッ!!」
「ハッ!!」
再びぶつかり合うランサーの赤い槍とセイバーの目には見えない何かがぶつかり合う。金属同士がぶつかり合うたびに俺の方へ振動と突風が吹き荒れ、バランスを保つのも難しい。
だが、中心で戦闘をしている二人は台風の目にいるかのように何も感じずにいる様にも見える。
セイバーは長い槍を持つランサーを相手に見えない何かで槍を受け流し、弾くがランサーは瞬時に槍が届く距離を取りつつ攻めてくるセイバーが両手持ちで持っている何かを見つめていた。
2人が同時に距離を取ったところで砂煙の嵐が一旦途絶える。
「セイバー、ここは一旦休戦と行こうじゃねぇか。どうやらテメェのマスターはコレ(聖杯戦争)の事知らねぇみてぇだしな」
「断る、ランサー。貴殿はここでリタイアせよ!」
「そうはいかねぇ、なにせウチのマスターはこのオレに諜報まがいな事をさせてやがるからな。テメェとは全力で戦いたいんだよ」
ランサーがそういうと後ろを軽く飛ぶ、いや人間とは思えない長距離飛びを発揮させ、俺の家の屋根の上へ着地する。
学校の時といい、一体あいつは何なんだ。 人間の様な化け物としか思えない。
「待てッ!」
「追いかけるなら追いかけて来い、セイバー。
だが、決死の覚悟を持って来い。今度の俺は手加減する気はねぇ……!」
ランサーが俺達を睨み付ける様に言い放つ、その赤い眼光は嬉しそうにも見えた。けど俺にはもし今ランサーを追いかければその手に持つ赤い槍によって胸を貫かれると思い込んでしまった。
2度も胸をあの赤い槍に貫かれたくはない。
屋根の上から飛んでいき、ランサーの姿は消えた。セイバーもしばらくは構えた状態だった。
「大丈夫ですか? マスター」
「あ、あぁ俺は大丈夫だ。だけどお前たちは、一体、何なんだ……? 俺をマスターだっていうなら教えてくれないか? こっちは何が何だかわからないんだ」
「……自ら望んで参加したわけではないということですね、質問に答える前に新たなサーヴァントが着ました。マスターはここでお待ちください」
セイバーはそういうと外壁を飛び越えて言った。俺が止める暇すら与えず。
次に聞こえてくるのは金属同士がぶつかり合う音、ランサーとセイバーが戦っていた時と同じような音だ。
「勝手に戦うのは良い、いや良いってわけじゃなけど、巻き込むなら説明してくれッ!」
取りえず、俺は戦闘を行っているであろう家の外へ行く、門をくぐり、外壁を辿っていくと学校で見た。いや俺がランサーに殺される原因、それは戦いを見てしまったからだ。
そして、ランサーと戦っていた相手、それが今セイバーと対峙する赤い外套に漆黒のボディーアーマーを身に着けた白髪のオールバックヘアーをした褐色系の男であった。
校庭で見たランサーとこの赤い外套の男の戦いは目に焼き付いて離れない。まさに神懸った戦いの様で神話の世界が現実に飛び込んできたと錯覚するほどだ。
ランサーの槍による突きは速度が尋常出会い程に早く遠くで見ていた俺はまるで赤い光の筋が通っているようにしか見えなかった。
逆に赤い外套の男は手に持つ双剣で赤い光の筋をすべて受け流し、回避しきったのだ。
目の前で戦うセイバーと赤い外套の男の剣戟はランサーとは違い剣と双剣だがそれでも目が離せない。
「チッ!」
「フッ!」
今度は赤い外套の男が黒と白の双剣を振るい、セイバーが見えない何かを振るう。赤い外套の男はランサーとは違い目には見えない筈のセイバーが握る何かを受け止めることはせず、反らし、回避していた。
「……」
俺は赤い外套の男の双剣を使う剣技が見惚れてしまうほどに見つめていた。良くは解らないけれど、見れば見るほど俺の中で『できる』と思わせる。
冷静に考えればあんな剣速ほど振るう事は出来ない。
けど、『剣を振る』ことは出来る。
「ハァァァ!!」
セイバーのと赤い外套の男の剣戟はセイバーの一撃で終わりを告げる。
赤い外套の男が持っていた双剣がセイバーの見えない何かによって砕かれ、そのままボディーアーマーを大きく切り裂いた。
「ッ!!」
赤い男は直ぐにセイバーと距離を取るがセイバーは取られることは分かっていた事だったのだろう。そのスピードを持って再び赤い男へ剣を振るう。
すでに赤い男の両手には先ほどの剣を持ってはおらず、無手。このままセイバーによって切り裂かれる。そう考えたとき、ドクンっと心臓が高鳴る。脳裏に思い浮かぶ炎と連鎖される声と焼きただれる人々の姿。
間違っていることは分かる。おそらくはあの赤い男も敵なのだろう。けれど止まられずには居られなかった。
「やめろーーー!! セイバーー!!」
今まで出した事が無いほど声を張り上げる。
考えるのはただ1つ、『セイバーを止める』ことだ。
右手が熱い。 右手と言うより甲が火傷したかのように熱い。そして俺には金属の甲高い音とは違う、不思議な音と共にセイバーは急に動きを止めた。
お久しぶりです。
長らくお待たせしてすみません。
ちょっと書き方を考えながらFateを書いてたり、リリカルの方の設定を考えてたりしたら一ヶ月過ぎていました。
どうですかね? なるべく自然かな?とおもうとは思うのですが……。
書き方が安定しない作者の実力に申し訳なく思います。
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またアドバイス等もお待ちしております。