切なさの距離感 ~ Story of Nozomi   作:Kohya S.

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5. 希のこたえ

「……どうして、うちなん?」

 希は目を伏せた。

「えっ……どうしてっていわれても、その、希ちゃん、すごくきれいだし」

 遠田はすこし慌てているようだった。

 希は上目遣いで遠田を見る。

「……外見だけなん?」

「ち、違います。その……占いが好きってきいて、もっと、不思議な感じの子を想像してたんですけど」

 遠田の顔が赤くなる。

「……」

 希は無言で見つめ続けた。どんな子を想像してたんやろ……。

 

「実際に会ってみたら、ぜんぜん、普通の子で……よく笑って、面白くて……そんな希ちゃんが、その、好きになって……」

 最後のほうは消え入りそうな声だった。

 

「うん、いいよ」

 希は顔を上げて、深刻に聞こえないようわざと軽くこたえた。自分の顔もすこしほてっているのがわかった。

 

「……あー、やっぱりだめですか……って、いいんですか、ほんとに」

 遠田がテーブルの向こうから乗り出してくる。

「いいって、いってるやん……」

 希はあらためて恥ずかしくなる。目をそらして紅茶を飲んだ。希は耳の先まで赤くなっていた。

 

 もう、うち、らしくないなあ。でも、遠田君の申し出、なんか、素直に受けたくなったんよね……。

 

「やったー」

 遠田は胸の前で小さくガッツポーズをとり喜んでいた。

「でーも、うちはまだ遠田君のこと、よく知らないから、まずは……その、高校生らしく、健全なお付き合いから、ね」

 希はお姉さん口調でいった。

「はい、もう、十分です」と遠田は神妙にこたえた。

 

「それで、よかったら……名前で呼んでもらえますかね」

 遠田は身じろぎして緊張したようすでいった。

「……うん、ええよ。……名前、なんだっけ?」

 希はそんな遠田が可愛くなり思わずそういっていた。

「ええー、そんな……」

 悲しそうな顔になる遠田。

「冗談や、冗談。……直樹君、よろしくね」

 にこっと笑いかける。

「は、はい、よろしくお願いします」

「で、直樹君も……」

 希は続けようとするが直樹は「直樹君」と呼ばれたのことによほど感動したのか、目を閉じて余韻に浸っているようだった。

 

「えへん」と希。

「は、すみません」

 我に返る直樹。

「それで、直樹君も……そのですます調、やめてもええよ」

「いや、これ癖になってるんですねよ」

 そういって直樹は頭をかいた。

「努力してみますけど……。希ちゃん、よろしくお願いするぜ」

「……くくく」希は直樹の口調に思わず笑ってしまう。

「……だめですかね」

 直樹は悲しそうだ。

「とりあえず今は、やめておいた方がよさそうやね」

 希は笑いながらこたえた。

「はあ」

 

 いつの間にか希の紅茶も直樹のコーヒーも空になっていた。

「もう一か所、行きたかったんだけど……ちょっと行きにくくなっちゃったな」

 希はそういったが内心の嬉しさが顔に出てしまうのは否めなかった。

「……どういう意味ですか」

 直樹が不思議そうにたずねる。

「行けばわかるよ」

 笑みをたたえて希はこたえた。

 

 ここは払うという直樹に会計を任せてふたりは店を出た。

 

        ・

 

「すこし歩くよ」

 希はそう断ってから直樹を案内する。坂をずっとくだってから大きな通りを渡った。川を橋で超えてからすこし進み細い通りに入る。しばらく歩くと左手に森が見えてきた。

「あそこですか」

「うん」

 通りに面して石造りの柵がありすこし奥まったところに鳥居が立っていた。その先はずっと参道になっていて両側に緑が植えられていた。

「今度は神社ですねー」

「そうやね」

 手水で清めてから広い参道を歩く。左側にはたくさんの絵馬が飾られていた。

 

 参拝客も少なくなかった。そして直樹はあることに気付いたようだった。

「あれ……若い女性が……多いですね」

「そうやね……ここは縁結びで有名なんよ」

 希は小声でこたえた。

「ぴったりじゃないですかー」

 直樹は喜んでいた。

「まあ、そうなんやけどね……。いきなりで心の準備が、って感じかな……」

 希はすこし恥ずかしくなる。

「いやいや、お願いしていきましょうよ」

 直樹はがぜん乗り気だった。

 

 ふたりで並んで参拝する。直樹もずいぶん慣れたようだ。

 希は手をあわせた。良縁に恵まれますように……いや、もう恵まれてるのかもしれへんけど。この先、うちの縁がよい方向に広がっていきますように……。

 

「五百円も奮発しちゃいました」

 直樹は胸を張った。

「まあ、賽銭の金額とご利益は比例しないっていうけどね」

 希は茶化すようにいう。

「ありゃ」

「まあ、気分の問題だからね、効果あるよ」

 

 拝殿からすこし歩くと授与所が見えた。

「せっかくなので、お守りでも買って……じゃなくて、いただいていきます」と直樹。

「そうやね、うちも……」

 

 授与所にはいくつものお守りが並んでいた。

「縁結びのお守りって、恋人がいても、持ってていいんですかね」

 直樹の疑問はもっともだと希は思う。

「うーん、うちは、いいと思うよ。縁を強くする、広げる、って意味でね」

 直樹はごく普通の袋型の縁結びのものを選んだ。希も色違いにする。

 初穂料をお納めしてお守りを受け取った。

 

 参道を戻り鳥居をくぐった。日が傾いてきていた。

 ふたりは通りをもと来た方向に歩き出した。

「いちおう、今日の予定はここまでだけど」

 希はいった。

「どうもありがとうございました」

 直樹は頭を下げた。

「いや、連れまわしちゃって、礼をいうのはうちのほうだよ、直樹君。ありがとう」

 希の素直な気持ちだった。

「とんでもない。楽しかったですよー」

 直樹は笑いながらそういった。希は直樹の言葉が嬉しかった。

「ならよかった……うちも、楽しかったよ」

 そして目をそらして続けた。

「……それに、思わぬお申し出も、あったしね」

 面と向かっていうにはすこし照れくさかった。

「あ、その……すみません」

 直樹はなぜかあやまった。

 希は直樹のほうを向く。

「なんであやまるん……。これからも、よろしくね」

 自然に笑みが浮かんできた。

「はい、よろしくお願いします」

 直樹も笑いながらこたえた。

「じゃ、今日は帰ろっか」

 

 しばらく歩くとJRの駅だった。希と直樹は同じ方向だが先に希が降りることになるらしい。

 ふたりは電車に乗った。秋葉原駅で乗り換える。

 すぐに希が降りる駅だった。

「じゃ、直樹君、またね」

「希ちゃん、お元気で」

「うん、連絡するね」

 希と直樹は笑みを交わした。

 

 扉が開き希はホームに降りた。すぐに扉が閉まる。希は車内の直樹に向けて手を振った。直樹も手を振り返した。

 電車が動き出した。希は電車が見えなくなるまでホームで見送っていた。

 

 希は駅を出て帰路についた。

 

 まさか、お付き合いを申し込まれるなんて……今日、家を出るときには考えてもいなかったのにな……。いや、そうでもないんかも。うち、今日のコースを考えるとき、心の中では予想してたのかも知れへんね。もし、なにもなさそうなら、最後の場所は省略できるって……。

 でも、お付き合いか……。まだなんか、実感がわかへんな……。

 

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