緋弾のアリア K・O・H リメイク   作:上平 英

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 最後までリメイク前の小説を消すか迷いましたが、残すことにしました。


プロローグ

 

 時刻は午前7時。俺こと『霧島 レオン』が日課である早朝トレーニングでかいた汗を冷たいシャワーで洗い流していると、風呂場の外から慎ましいドアチャイムが聞えてきた。

 

 その慎ましさを感じさせるチャイムの音に、俺の頭のなかでチャイムを鳴らした相手の姿が浮かび上がる。

 

 腰まで伸ばしたつやつやの黒髪に、ぱっつりと切りそろえられた前髪。雪のように白い肌に、優しげな目つきと長いまつげ。まるで絵に描いたような大和撫子。 

 

 俺はため息を吐いてシャワーを止める。風呂場から出て手早く体の水気を拭き取り、トランクスにズボン、グレーのTシャツを着て首にタオルをかけてから脱衣所の扉を開ける。

 

 脱衣所の扉を開けると、一緒に住んでいる同居人(先ほどまで寝ていた)が来訪者――予想していた通りの大和撫子を連れてリビングへと向っているところだった。

 

「おはよう、キンジ」

 

「お、おはよう、レオン」

 

 俺の挨拶に口元をひくつかせながら返したのは、朝っぱらから辛気臭い雰囲気を纏っている同居人で同じ高校2年の遠山(とおやま) 金次(きんじ)

 

 こいつとは現在俺たちが通っている東京武偵高の入学試験で初めて出会い、トータル(・・・・)で半年間ほど同じ寮の同室で生活している、日本で1番仲がいい友人である。

 

「おじゃましてます、霧島くん」

 

「ああ。いらっしゃい、白雪さん」

 

 金次の後ろから来訪者の大和撫子、星伽(ほとぎ) 白雪(しらゆき)が丁寧に挨拶してくる。

 

 俺はそれに大人の対応(微笑み)で応えたあと、金次に視線をやる。

 

「このリア充野郎め」

 

「……そんなんじゃねえよ」

 

 迷惑そうに言葉を返す金次だが、同い年で幼なじみの大和撫子(本物の巫女)が、中身は朝食だと予想される重箱を抱えてわざわざ男子寮まで着てくれただぞ? これをリア充と呼ばずになんと呼ぶんだ。あーあ、羨ましいなぁ。春休みの間は一緒にコンビニ弁当や弁当屋の弁当を買いあさって過ごしてたのに。これから金次は白雪さんの手作り弁当かよ。いいなぁ。白雪さんって料理上手で使ってる食材も高級品だからめちゃくちゃ美味いんだよなぁ。

 

 ――と、これ以上考えるのはよそう。目の前のリア充野郎を殺したくなるから。

 

「じゃ、俺は自分の部屋で着替えてくるから」

 

 2人にそう言い自室へ向う。ハンガーにかけているの武偵高校の制服である防弾仕様のズボンに履き替え、白のワイシャツと学ランをTシャツの上から羽織る。

 

 ひと通りの準備が出来たところで、机のなかにしまっている拳銃を取り出して手に取った。

 

 ――S&W M19。

 

 アメリカの銃器メーカーであるスミス&ウェッソン社が1955年に開発した回転式拳銃で、通称――コンバット・マグナム。アメリカの警察官が携帯する銃としてよく映画などにもよく出ているポピュラーな銃だ。

 

 コンパクトなため携帯しやすく、それでいて拳銃のなかでも高威力を誇るが、装弾数6発という少なさとサプレッサーなどが取り付けられない点から武偵が所持する銃としては相応しくない代物なんだが……俺は気にいっているため、武偵になってからずっと使用している。ちなみに通常のM19がKフレームのところをLフレームに改造しているため、357マグナム弾の強装弾も問題なく撃つことができる。

 

 俺はいつものように安全装置と弾薬の確認を行ってからベルトに取り付けたホルスターに帯銃させ、次に竹刀袋を肩にかける。

 

 こちらの竹刀袋だが、中身は竹で出来た竹刀ではなく本物の日本刀が入っている。

 

 通常の日本刀とは違って歯が背の部分に付いている『逆刃刀』と呼ばれる代物で、ある名匠に特別にオーダーして打ってもらった、頑丈さがウリの名刀である。全長は1メートルほどで、一応打撃武器という扱いになっている。

 

 防弾制服に拳銃と日本刀を装備するという、一般人では考えられない登校準備だが、これは校則――『武偵高の生徒は、学内での拳銃と刀剣の携帯を義務づける』で決められていることだ。

 

 もちろん、これも普通の高校ではありえない校則だということは理解してるが、武装探偵――通称『武偵』を育成するための総合教育機関である『東京武偵高校』に通っている俺たちにはこれがいたって普通のことなのだ。

 

 ちなみに『武偵』とは凶悪化する犯罪に対抗して新設された国際資格で、武偵免許を持つ者は武装を許可され逮捕権を有するなど、警察に準ずる活動ができる。

 

 ただし警察と違って武偵は金で動く。金さえもらえば、武偵法の許す範囲内ならどんな荒っぽい仕事でも下らない仕事でもこなす。つまり、『便利屋』のようなものだ。

 

 そんな武偵という職業には常に危険が付きまとうため、制服が防弾仕様になっていたり、帯銃や刀剣を常に所持するように校則で決められている。

 

 そして、さらに言うと武偵高では通常の一般科目に加えた、武偵の活動に必要な専門科目が14科目あり、その専門科目によっては毎日のように銃を発砲したり、刃物で斬りつけあったり、肉弾戦を行なったりといった物騒な勉強が毎日のように学校で行なわれるのだ。

 

「さてと……じゃあ行くか」

 

 部屋を出てリビングへ向う。ドアノブを回して開けると、座卓に座った金次が朝食を食べているところだった。

 

 ちなみにメニューは玉子焼にエビの甘露煮、銀鮭に西条柿などといった豪華食材が惜しみなく使われた、見るからに美味しそうな和風の弁当で、しかも美少女で巫女である幼なじみの手作り&世話付だ。

 

 まったくもって羨ましいヤツめ。……憎しみだけで人が殺せたらいいのに……。

 

 そんなリア充金次の向かい側には白雪さんが座っていて、食後のデザートだろうミカンを金次のために一生懸命にせっせと剥いていた。

 

 ……ああ、ほんとに羨ましい。つーか、殺意が湧く。なんだこのリア充野郎、白雪さんのお手製弁当を当然のごとく食べてやがる。

 

「あっ、霧島くん」

 

 金次の向かい側で丁度ドアのほうを向いている白雪さんと目が合った。白雪さんに次いで金次がこちらを振り返る。

 

 俺は白雪さんのために(決して金次のためではない)、これ以上このリア充空間を壊さないよう出て行こうとするが――

 

「霧島くんはもう朝食済ませた?」

 

 白雪さんが床から和布に包まれたモノを机の上に出して訊ねてきた。それは金次が今使っているヤツと同じ形状をしていて――

 

「喜べ、レオン。白雪はおまえの分の朝食も作ってきてくれたみたいだぞ」

 

「……俺の分? え、あ……いいのか?」

 

「うん、もちろんだよ」

 

 笑顔でうなずく白雪さん。嫌な顔ひとつしないで、金次の隣に重箱を置いてくれる。あー……白雪さんはほんとにいい子だなぁ……。好きな男(金次)以外の分まで作ってきてくれるなんて。うれしい反面、なんだか申し訳なくなってしまう。気を使わせちゃって悪いな。

 

 本当はこのまますぐにでも重箱へと飛びつきたいが、これ以上白雪さんの邪魔をするわけにはいかないだろう。ここは気を使うべきだ。

 

「あー……白雪さんの美味そうな朝食はマジで食べたいんだが、実はこれからすぐにでも登校しなきゃいけないんだ。――だから、学校に持っていって食べてもいいか?」

 

 あとで弁当箱を回収しなければいけない手間を承知の上で、白雪さんはうなずいてくれる。そんなやさしい白雪さんに俺は続けて言う。

 

「食べ終わった重箱は洗ってキンジに渡しておくから、今日の帰りにでも家に――」

 

「はい! キンちゃんの家に取りに来ます!」

 

 俺の言葉に手を上げ、元気よく返事を返す白雪さん。金次の家に来れる大義名分をもらってうれしそうだ。

 

 一方の金次は「なんで俺が……」なんて迷惑そうに息を吐いているが、そこは黙らせておく。こいつは色々と俺に貸しがある。金次も貸し1つが弁当箱を返却するだけで消化できるなら願ってもない話だろう。

 

 俺は机の上に置かれた和布に包まれた重箱を手に取り、もう一度白雪さんに感謝の言葉を述べ、

 

「俺は今日も帰りが遅いから――頑張れよ」

 

 と小声で白雪さんにつぶやく。

 

「――っ! ありがとう、霧島くん!」

 

 バッと深く頭を下げてお礼を言った白雪さんと、何のことだかわからないと首を傾げている金次に苦笑し、俺は部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 白雪さんのお手製弁当を手に部屋から出た俺は、寮の近くにあるコンビニへと入った。コンビニでサンドウィッチを3袋とアメリカンドックに鳥のから揚げを1つずつ、肉まんとカレーまんを1つずつに、新発売のスライムまんを1つ、飲み物としてお茶とこれまた新発売のバブルスライム味の缶ジュースを1本ずつ購入した。

 

 大きなビニール袋いっぱいに食料を購入した俺は武偵高行きのバスに乗り込み、朝食を食べ始める。朝食のメニューはコンビニで購入したものだ。白雪さんからもらった弁当は昼飯に回し、午後から始まる専門科目のためのエネルギーに変える予定である。

 

 ケチャップとマスタードをたっぷり付けたアメリカンドックを頬張りながら窓の外を眺める。

 

 レインボーブリッジの南。まるで海の上に浮んでいるような東京のビル群。ここ、東京武偵高校は南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした人工浮島(メガフロート)の上にある。

 

 学園島とあだ名されるだけのことはあり、人工浮島に存在しているビル群のほとんどが武偵に何らかの関わりがあり、武偵の活動や教育に必要な設備が充実している。

 

 景色を眺めながら朝食を食べ続けること十数分。武偵高校の校舎前に到着した。運賃を払い、バスから降りて校舎へと向う。

 

 今日は始業式なので玄関前に設置された掲示板を見て、自分の新しいクラスを確認してから教室へと向った。

 

 自分の教室となる2-Aのドアを開け、「おはよー」と挨拶しながらなかへ入るが、まだ誰も着ていなかったようで、自分の声だけが空しく響いた。

 

「…………」

 

 小さく息を吐いて事前に決められている自分の席に鞄をかける。そしてまだ何も入れられていない自分用のロッカーに白雪さんからもらった弁当を入れて、席につく。コンビニのビニール袋を漁って朝食の続きを始める。

 

 サンドウィッチを食べ、肉まん、カレーまんと食べて、最後に残したスライムまんとバブルスライム味の缶ジュースに手を付ける。

 

 おお、スライムまん、意外といけるな。皮はラムネ味で中身がストロベリーソースと見た目はグロいが味はいい。一方のバブルスライム味の缶ジュースは普通のソーダ味だった。ラムネ味の肉まんとソーダ味の飲み物。味の変化が微妙すぎて合わないな。

 

 …………。

 

 ……それにしても誰か登校して来ねえかなぁ。広い教室にひとりはあまりにも寂しすぎる。

 

 

 

 

 

 

 寂しい朝食が終わり、生徒たちがぞろぞろと登校し始めてきた。無人だった教室ももうすでに半分近くの席が埋まっている。

 

「おお、今年も一緒のクラスだな、霧島」

 

「ああ、そうだな。おはよう、武藤」

 

 俺に挨拶してきたのは、車両科の武藤(むとう) 剛気(ごうき)。身長190近いツンツン頭の大男で、荒っぽい武偵高の生徒らしくノリのいい陽気な男だ。

 

 武藤は席につくと、きょろきょろと周りを見回して、

 

「キンジの野郎も同じクラスだったと思うんだが、まだ着てねえのか?」

 

「ああ、着てないぞ。そろそろHRが始まるから着てもおかしくないんだがなぁ……」

 

 来る気配がない。もしかしたら朝食後のデザートと一緒に白雪さんも……なんてまさかな。金次は女嫌いっていうか、常に女を避けてるし。そもそもあの朴念仁は白雪さんの好意にも気づいてないようすだった。そういう展開にはどう転んでもならないだろう。

 

 ――しかし、なんでもないのなら、なんで金次は遅れてるんだ?

 

 体調不良でもなさそうだったし、何か他に理由でもあるのか?

 

「みんなー、おっはよー!」

 

 教室全体に向けた元気のいい挨拶。む? この声は……。

 

 覚えのある声と挨拶に思考を中断して声のほうに顔を向けてみると、黒板側の入り口で手を振ってる女子生徒を発見した。

 

 ツーサイドアップに結ったゆるい天然パーマの金髪に幼さが残る整った顔立ち。武偵高の制服である純白のブラウスと、臙脂色(えんじいろ)の襟とスカートに、ひらひらとしたフリルをふんだんにあしらってゴスロリっぽく改造した制服を着込んだあいつは――(みね) 理子(りこ)

 

 俺と同じ探偵科に所属している女子生徒で、明るい性格とアホっぽさからクラスのマスコットのような位置にいて、男女共にかなりの人気がある。

 

 その人気は新しいクラスでも変わらないようで、理子の周りには人だかりができていた。

 

 理子はひと通り挨拶を終えると俺の席へ近づいてきて、元気よく片手をあげて挨拶してくる。

 

「おはよー、レオポン!」

 

「おはよ、理子」

 

 理子の手に軽く手を合わせてタッチする。ちなみに『レオポン』とは理子がつけた俺のあだ名である。1年前から呼ばれているあだ名ではあるが、この前ゲーセンで同じ名前のぬいぐるみを見つけたので、急ぎ別のあだ名に改名して欲しいところである。

 

 理子はにんまり笑い、笑顔でつぶやく。

 

「今年も一緒のクラスだね、レオポン」

 

「そうだな。今年もよろしく頼むよ、理子」

 

「うん、よろしくー! 今年こそはレオポンにパソコンの使い方をマスターさせてあげるね!」

 

「……ああ、ありがと」

 

「せめて簡単なHPぐらい作れるようにならなきゃねー、ふふふ」

 

 俺を見上げながら口元に手を当ててニシシと笑う理子。こいつとは去年の入学試験からの付き合いで、同居人の金次を除けば1番行動を共にしていた相手である。

 

 お互い強襲科の入学試験で武偵高を受験し、2学期から探偵科に転科した俺とほぼ同時期に同じ探偵科に転科したという共通点があり、一部の趣味が合うことからよく話したり、クエストを一緒に受けたりする女子では1番仲がいい相手だ。

 

 ちなみに武偵ランク――S~Eまである武偵としての格付けは、理子が探偵科のAランクなのに対し、俺は下から3番目のCランクで、探偵科では理子に教えを請う側だったりする。

 

 現在はさっきの会話であった通り、俺は理子からパソコンの使い方を習っている最中だ。……探偵科に転科する前から俺も自分のパソコンを持ってて、よくネットゲームしたり、ネットサーフィンしてたんだが、HPの作成やプログラムの解析、ハッキング等のやり方はさっぱりで、ネット中毒患者でパソコン機械に強い理子にパソコンの使い方を1から習ってるわけだ。もう半年近くもマンツーマンでレクチャーを受けてるのに未だにHPが作れないんだよなぁ……。

 

 ――と。

 

 現代機器にいまいち対応できていない自分の残念さに嘆いていると、とうとう予鈴が鳴ってしまった。

 

 予鈴の音色を聞いて理子は自分の席に腰を下ろす。つーか、隣の席だったのかよ。

 

 チャイムの音を聞いて今まで席を立って談笑していた他のクラスメイトたちも次々に自分の席へとつき始めるが、

 

 ――金次の席は未だに空席だった。

 

 窓の外を見てみるも、金次の姿はどこにもない。

 

 ……あいつ、一体どうしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 闇討ちや拳銃の誤射に気をつけ防弾制服を着用しようという注意以外、普通の学校とあまり変わらない始業式を終えて教室に戻ってみると、姿の見えなかった金次が机に顔を埋めて座っていた。

 

 見るからに疲れてるから話しかけるなというオーラを体から放っていて、なにやら焦げ臭い。爆薬や硝煙の臭いもすることから、大方何かの事件にでも巻き込まれたんだろう。

 

 クラスメイトたちも俺と同じく気づいたのだろう、机に突っ伏してる金次を気遣い、最低限の挨拶だけして自分の席につく。そんななかでガサツの定評がある武藤だけはしつこく金次に話しかけていたが結局金次は何も話さず、担任の先生がやってきてしまった。

 

 俺らの新しい担任は、高天原(たかまはがら) ゆとり。武偵高では珍しい、笑顔を絶やさない穏やかな性格した女性教諭で、年も22歳と若く、それでいて美人なので教師の中でかなり人気のある先生だ。

 

 教壇に立ったゆとり先生は、自分の自己紹介と「1年間よろしくお願いします」という普通の挨拶を行なったあと、

 

「うふふ。じゃあまずは去年の3学期に転入してきたカーワイイ子から自己紹介してもらっちゃいますよー」

 

 などと前置きしてクラスの自己紹介へと話を移す。

 

 ゆとり先生の言葉を訊いて自分のことだと気づいたんだろう、後ろ側の席からひとりの生徒が立ち上がり、教壇へ向う。

 

 堂々とした足取りで教壇へ向うのは、長いピンクブロンドの髪をツインテールに結わせた幼児体型の女子生徒――

 

「――神埼・H・アリア。あいつとも同じクラスだったのか」

 

 強襲科のSランク武偵であり、去年の3学期にロンドン武偵局から編入してきた99%という脅威の検挙率を誇る問題児、神埼・H・アリアだった。

 

 あることから俺は彼女に目を付けられていて、自由履修で強襲科の授業に出ると毎回のようにヤツは俺に絡んできては模擬戦しろと命令してくるので、正直言うと同じクラスにはなりたくなかったヤツだ。見つかっては面倒なので、周りの気配と同化させて自分の存在を希薄にする。これで気づかれにくくなるはずだが……もう遅いか?

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

 ――っ! 自己紹介もまだだというのに、そう言ってアリアが指を指した場所は――

 

 青い顔で教壇を、教壇の前に立っているアリアを見ていた遠山金次だった。

 

 アリアの発言にクラスの生徒たちは一瞬絶句して、それから一斉に金次へと視線を向け、わぁーっ! と一斉に歓声を上がった。

 

 教室を震わせるような大歓声を聞いてずりっとイスから転げ落ちる金次。

 

 俺は気配を同化させて自分の存在を隠したまま、内心で安堵する。

 

 よかった、俺じゃなくて。どうやらアリアには同じクラスだってことはまだバレてないようだ。

 

「な、なんでだよ……!」

 

 わけがわからないと金次がつぶやく。アリアに向って警戒するような視線を送るが、

 

「よ……良かったなキンジ! なんか知らんがお前にも春が来たみたいだぞ! 先生! オレ、転入生さんと席代わりますよ!」

 

 金次の右隣の席に座っていた武藤が、選挙に当選した代議士の秘書のように金次の手を握り、ブンブンと振りながら席から立ち上がった。

 

「あらあら。最近の女子高生は積極的ねぇー。じゃあ武藤くん、席を代わってあげて」

 

 ゆとり先生は何だか嬉しそうにアリアと金次を交互に見てから、武藤の提案に即OKだした。

 

 わーわー。ぱちぱち。

 

 まるで漫画やドラマのような展開にクラスの連中が拍手喝采を送る。おめでとー、金次。おめでとー。アリアはものすごーく面倒くさいぞ。がんばれー。

 

「キンジ、これ。さっきのベルト」

 

 クラスの皆と一緒になって2人を祝福していると、アリアが金次に向ってベルトを放り投げて渡していた。

 

 なぜアリアが金次のベルトなんて持ってるんだ?

 

 そんな疑問を感じていると、

 

「理子分かった! 分かっちゃった! ――これ、フラグばっきばきに立ってるよ!」

 

 俺の右隣で、金次の左隣の席でもある理子が、ガタン! と席を立った。おいバカやめろっ! 俺の存在が気づかれるだろ!

 

「キーくん、ベルトしてない! そしてそのベルトをツインテールさんが持ってた! これ、謎でしょ謎でしょ!? でも理子には推理できた! できちゃった!」

 

 ……理子、たぶんその推理はこいつ(アリア)相手には言わないほうがいいぞー……って、今さら遅いか。

 

 理子は変な踊りを踊りながら推理を披露し始める。

 

「キーくんは彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をした! そして彼女の部屋にベルトを忘れてきた! つまり2人は――熱い熱い、恋愛の真っ最中なんだよ!」

 

 理子が教室中に響く声でぶち上げた能天気な推理を聞いて、今でも大盛り上がりだったクラスが、さらに盛り上がる。

 

「キ、キンジがこんなカワイイ子といつの間に!?」「影の薄いヤツだと思ってたのに!」「女子どころか他人に興味なさそうなくせに、裏でそんなことを!?」「キンジ×レオンはどうするのよ!」「フケツ!」

 

 新学期なのに、息が合いすぎだろお前ら。さすがバカの吹き溜まり、武偵高だな。皆バカばっかだ。

 

 あと、俺と金次をかけた女子生徒! 金次はともかく、俺にはそんな趣味なんてねえよ! ふざけんな!

 

「お、お前らなぁ……」

 

 盛り上がりまくるクラスメイトたちに金次が呆れて机に突っ伏したとき――

 

 ずぎゅぎゅん!

 

 鳴り響いた2連発の銃声が、クラスを一気に凍り付かせた。

 

 ――顔を真っ赤にしたアリアが、2丁拳銃を抜き様に撃ったのである。

 

「れ、恋愛だなんて……くっだらない!」

 

 翼のように広げたその両腕の先には、左右の壁に1発ずつ穴が空いていた。

 

 チンチンチリーン。

 

 拳銃から排出された空薬莢が床に落ちて、静けさをさらに際立たせる。

 

 理子はおかしな踊りを踊っていた途中だったらしく、変なポーズで固まっていた。そのままの体勢で、ず、ずず、と着席する。

 

 ……武偵高では、射撃場以外での発砲は『必要以上しないこと』となっている。つまり、してもいい。銃撃戦が日常茶飯事の武偵を目指す武偵高の生徒だからこそ、発砲に対する感覚を軍人並みに麻痺させておく必要があるからだ。

 

 しかし……。

 

 新学期の自己紹介でいきなり発砲したのは、コイツが初めてだろう。

 

「全員覚えておきなさい! そういうバカなことを言うヤツには……」

 

 それが、神埼・H・アリアが新しいクラス……いや、武偵高のみんなに発した――最初のセリフだった。

 

「――風穴あけるわよ!」

 

 ……理子、無言でこっちを見るな。俺にはどうすることも出来ないぞ。

 




 後々、R-18になるかも……。
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