緋弾のアリア K・O・H リメイク   作:上平 英

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 とりあえず書いてるところまで連投していきます。


第1話   

 自分の存在をアリアに気づかれることなく、何とか午前の授業を終わらせることができた。

 

 現在はもう昼休みの時間となっており、怒涛の質問責めにあい始めた金次に同情しつつ、俺は素早くロッカーから楽しみにしていた白雪さんの手作り弁当を取り出し、学食へと向う。

 

 学食のおばちゃんにカツ丼を大盛りで頼み、料理を受け取ってから空いているテーブルに座る。弁当を包む和布のなかに入れられた箸箱から箸を取り出して、まずはカツ丼を食べ始める。

 

 うむ……。さすが武偵高が誇る学食だ。量も味も申し分ない。

 

 最後までカツ丼を味わい尽くし、食器を片付ける。もう一度テーブルに戻り、白雪さんの弁当に手を付ける。

 

「さあ、いよいよだな」

 

 本日のメインディッシュ、白雪さん特製弁当!

 

 元々は金次のために作った弁当のついで(・・・)に作られた品であるのだが、それでも美少女の手作り弁当には変わりないっ!

 

 ワクワクしながら蒔絵(まきえ)つきのフタを開けると、キラキラと輝く高級食材たちが……! ああっ、すげー美味そう! 思わず涎が出ちまう。

 

 今朝金次が食べていたものと全く同じメニューの弁当であることに、白雪さんの優しさを感じる。キミはほんといい子だなぁ!

 

 弁当に向って改めて手を合わせ、白雪さんと高級食材とまたまた白雪さんに感謝して「いただきます」と頭を下げる。

 

 ふんわり柔らかそうな玉子焼きを箸で掴んで口へ運ぶ。

 

「ああ……うめえぇぇ……」

 

 塩加減や焼加減が絶妙すぎる。こんな玉子焼き食べたら他の玉子焼きなんて食べれなくなるんじゃないかって心配になるぐらい、美味い。

 

「おお、霧島じゃねえか。ずいぶんとまぁ、美味そうな弁当だな」

 

「む? むほうか」

 

 学食のメニューにある『大盛りカレー』を抱えた武藤が話しかけてきながら、空席だった正面の席に腰掛けてきた。

 

「霧島君。僕もいいかな?」

 

 武藤に続けて眼の覚めるようなイケメン面の男が、話しかけてきた。

 

 ニコッ。

 

 と優男スマイルをしたコイツは、強襲科の不知火(しらぬい) (りょう)

 

 去年の3学期まで強襲科にいた金次とよくパーティを組んでいたクラスメイトだ。

 

 武偵ランクはA。このAにも色々あるのだが、不知火はバランスがいい。格闘・ナイフ・拳銃、どれも信頼がおける。拳銃はL A M(レーザーサイト)つきのSOCOM(ソーコム)とこちらも信頼性抜群だ。

 

 不知火はクラブサンドを乗せたトレイをテーブルに置き、俺の隣の席に腰を下ろす。

 

 ……ちなみにこの不知火だが、かなりモテる。

 

 とんでもないイケメンなことはもちろん、武偵高には珍しい人格者だからな。女子にかなりの人気がある。……一部の女子や後輩の女子にしか人気がない(この場合付きまとわれるという意味で)俺には何とも羨ましいヤツなんだが――

 

 不知火ってカノジョとか、そういうのはいないらしいんだよな。

 

 俺の同居人の金次も、白雪さんや後輩で戦兄妹の風魔っていう美少女たちに好かれてるっぽいのに、無反応どころか異性全般を避けているような素振りを見せるし……。

 

 まさか、ホモじゃねえだろうな?

 

 正直、異性を避け続ける金次に関しては前々から疑っていたが、ここにきて新たに不知火にもホモ疑惑が……。よし、これからこいつにも気をつけよう。どうか杞憂であってくれ。

 

「おまえが弁当だなんて珍しいな。しかも、めちゃくちゃ美味そうじゃねえか」

 

「ん? まあな」

 

 武藤の声に思考を中断された俺は、不知火&金次に浮かび上がっているホモ疑惑を一旦忘れることにして食事を再開することにした。

 

 ピンと立ってる米を箸で掴み、感謝しながら食べる。ああ、美味いぃぃ……。コンビニ弁当の米とはまるでものが違う。

 

「手作りみたいだね。誰かに作ってもらったのかい?」

 

 不知火の言葉に、武藤が弁当を見ながら推理を始める。

 

「見るからに高級そうな食材が使われてるとこを見ると……これ用意したの、去年おまえの戦兄妹だったあのお嬢さまだろ? あいつ、お前にだけは懐いてるっぽかったからなー」

 

「勝手に確信してるところ悪いが、はずれだよ」

 

 そもそもあのお嬢さまは弁当を作って渡すタイプではなく、高級店に連れて行って一緒に食べることを選ぶタイプだ。

 

「じゃあ、火野……はねえな。おまえが面倒見てた後輩の女子ではないとすると、同級生か年上……。かといって年上に親しい女子がいるなんて聞いたことねえし、あの理子がそんな弁当作るわけないからなぁ……」

 

 むむむ……と考える武藤。結局この弁当を作成した人間が思い浮かばず、両手を上げて降参してきた。諦めが早いな。それでは立派な探偵にはなれないぞ。まあ、運転が主な仕事の車両科ならあまり関係ないか。「乗り物ならなんでも操縦できるぜ」が売りの車両科のAランク武偵だし。

 

 俺はお茶を一口飲んでから、教えてやった。

 

「白雪さんだよ、これ作ったの」

 

「なんだ、白雪さんが作った弁当だったのか。通りで美味そ……」

 

 ん? どうし――

 

「白雪さんが作った弁当だとぉおおおおお!?」

 

「うおっ!? ど、どうしたんだよ、武藤。いきなり大声なんか出して」

 

「てめえ……!」

 

 怒りの形相を浮べた武藤が、いきなり両手で俺の胸ぐらに掴みかかってきやがった!

 

 胸ぐらへ伸ばされる武藤の手を、俺はほとんど無意識で掴んで捻り上げる。

 

「あだだだだだ……!? い、いてぇ!? い、痛いから早く……離してくれ!」

 

「ああ、すまん。勝手に体が動いちまった」

 

 パッと手を離す。

 

「けど、いきなり襲い掛かってきたおまえが元々悪いんだからな」

 

 腕を折られなかっただけよかったと思え。

 

「ぐっ……それはすまん。――って、それよりなんでおまえが白雪さんの弁当食ってんだよ!?」

 

「説明してやるからこれ以上大声を出すな、武藤。周りに迷惑だ。この弁当は今朝白雪さんから貰ったもので、キンジに渡すついでに渡されたモノなんだよ。――まっ、同居人の特権みたいなものだな」

 

 そう言って煮物を食べる。どれも美味いな、ちくしょー。

 

 俺の説明を訊いて納得したのか武藤は黙り、俺の弁当を見て――がん見してる。

 

「……欲しいのか?」

 

「――っ! いいのか!?」

 

 うわぁ……すげえ食いつきの良さ。ほぼ一瞬で反応しやがったよ、こいつ。

 

「しかし、ただではやれないな。白雪さんお手製の弁当以前に俺の昼飯でもあるから、おかず1品の代わりに……カレーじゃおかず交換もできないか。まあ、今回は諦め――」

 

「ちょっと待て! これをやる! 俺が食後のデザートに用意していた武偵高売店1番人気のデザート、ロイヤルプリン(430円)をやるから! 1品! せめてひと口だけでも食わせてくれ! 頼むッ!」

 

 ビニール袋から取り出してテーブルにドドンと置く武藤。その必死さに少し引く。どんだけ食べたいんだよ? いや、絵に描いたような優等生で大和撫子な星伽白雪さんの手製弁当だからな。欲しがって当然か。学校に存在してる白雪さんのファンならおかず1品に数万円ぐらい出しそうだし。

 

「わかったよ、武藤。どれか1品な」

 

「恩に切るぜ、親友!」

 

 涙でも流さんばかりの勢いで銀鮭を攫っていく武藤。遠慮ねえな、おい。メインじゃねえか。

 

「不知火は? おまえも食うか?」

 

「いいのかい?」

 

「ああ。クラブサンドじゃおかず交換はできねえから、あとで飲み物でも奢ってくれ」

 

「わかったよ。じゃあ、玉子焼きをもらっていいかな?」

 

「おう」

 

「ありがと」

 

 ニコッとイケメンスマイルを浮べる不知火 亮。武藤とは違い、取る前に確認するんどこういったマメなところが女子に人気がある理由なんだろう。

 

「うっんめぇええええ!」

 

「ほんとに美味しいね」

 

 叫ぶ武藤と笑顔を浮べて静かにつぶやく不知火。リアクションも対照的だなぁ。

 

 そういや金次のヤツはどうしてんだろ? まだ質問責めにでもあってんのかな? 昼休みが終わっちまうぞ。

 

「霧島……いや、レオン! もう1品! 今度昼飯奢るからもう1品恵んでくれ、頼む!」

 

 わかったからこれ以上叫ぶな、武藤。

 

 

 

 

 

 

 武偵高は午後からそれぞれが選択した科目に分かれ、訓練や授業、クエストなどを受けたりして進級や卒業のための単位を稼ぐ。

 

 俺は去年の2学期から強襲科から探偵科に転科しているため、本来であれば探偵科用の施設に行かなくてはいけないのだが、

 

「ねえねえ、レオポンレオポン!」

 

「どうした、理子?」

 

「これ! このクエスト受けよーよ!」 

 

 理子がA4サイズのプリントを両手で持って見せてくる。

 

「えーっと、なになに? ……ああ。この前逮捕されてた暴力団の残党狩りか。所属していた組員の洗い出しと強襲逮捕で、募集人数は20名。期限は今月いっぱいまで。……おい理子、おまえなんつークエストを持ってきてんだよ? 推奨武偵ランクこそA~Cって低いけど、かなり面倒臭いクエストじゃねえか」

 

「でもでも、その代わり報酬はいいでしょ!」

 

「まあ、確かにそうみたいだけどよ……」

 

 このクエストで狩らなきゃいけない残党って、かなりメンバーがいたような気がするんだよなぁ。

 

「理子とレオポンが組めばさいきょーなんだからまったく問題ないしょっ!」

 

「問題ありまくりだ。2人でこなせるわけないだろ、こんなクエスト」

 

「もー、いくら理子りんでも2人だけでやろうなんて考えてないよぉー。他に何名か集めるつもりだし、作戦も考えてるからさ。理子りんと一緒に受けよーよぉー。ね? お願いだよぉ、レオポーン」

 

 駄々っ子のように体を揺すってくる理子。おいコラ、止めろ。胸が……。おまえ、背だけはアリア並みに小さいクセして巨乳なんだから、胸が揺れたり当たったりして困っちまうじゃないか。

 

「ああもう、わかった。わかったから。受けてやるよ、そのクエスト」

 

「ほんとに!? わーい! ありがとーレオポン。愛してるぜ、こんちくしょー!」

 

「はいはい。俺も愛してる愛してる」

 

「ふふっ、そうしそーあいだね、理子りんたち」

 

 ニッコリ笑ってぐっと拳を突き出してくる理子。……おいコラ、人差し指と中指の間に親指挟むな。

 

 呆れる俺を置いて、理子はその場でくるりとターンする。ゴスロリに改造した制服のスカートの裾が捲れてパンツが見えそうになるが、見えない。……こいつ、計算でやってやがる!?

 

「じゃあ理子りんは教務科に提出してくるね! レオポンは前衛、強襲担当だからよっろしくー!」

 

「はいはい、りょーかい」

 

 うなずいた俺に理子はもう一度微笑むと、アラレちゃんのように両手を広げ、「キーン」と言いながら理子は教室から出て行った。

 

 ――さてと、じゃあ俺は自由履修の申請して強襲科の訓練施設に向うかな。

 

 自由履修を行なうための申請書を書いたり、強襲科の訓練で使用する弾薬や武器を用意するのは時間がかかるが、俺は度々自由履修を利用して強襲科で訓練してるので、申請書を書き溜めがある。武器に関しても弾薬以外問題なしだ。

 

 丁度探偵科の授業を受けに行こうとしていた、いつもよりだいぶ疲れ顔の金次に白雪さんの弁当箱を渡し、俺は強襲科の訓練施設にむか……おい、お前も俺に話があるのかよ?

 

「なあ、レオン。強襲科に行くなら神埼についてちょっと調べてきてくれないか?」

 

 女のことを調べてくれという、女嫌いだと自称し、公言している金次には珍しい頼み事だった。

 

「なんだ、キンジ。武藤が言ってたみたいに春でもきたのか?」

 

「んなわけないだろ。俺は、女嫌いなんだから。これは色恋沙汰とは全くの別件だ」

 

「……そうかい」

 

 ほんと消えねえな、こいつのホモ疑惑……。むしろ1年前より益々強くなってんじゃねえか? 夜中俺の尻を襲ってこないか心配だぜまったくよぉ……。

 

「わかった、調べといてやるよ。資料にして今週までにはまとめて渡してやるから」

 

「別に資料にしなくても口答で十分だぞ?」

 

「ま、俺もそれで十分だと思うが、今の俺は探偵科で勉強してるからな。一度パソコンの使って調べて資料作成みたいなことしてみたかったんだよ」

 

「……勉強熱心なヤツだな。素直に感心するよ」

 

「そういうおまえは不真面目だけどな」

 

「…………」

 

 俺に言われ、苦い顔で黙る金次。金次は、去年までは強襲科の生徒として一応真面目に取り組んでいたヤツだったが、去年の3学期に起こった事件がキッカケで武偵を志す気持ちをなくしてしまっている。気持ちは硬いようで、すでに武偵高から普通の学校に転校するための書類を書いて提出を待ってるぐらいだ。

 

 まっ、辞めるのは人の勝手なので俺は引きとめたり何か言ったりしないけど。

 

 金次が武偵を辞めたがる理由も、気持ちも。俺自身、わからなくはないんだから。

 

 

 

 

 

 

 教務科に自由履修の申請書類を提出して、やってきたのは強襲科の訓練施設。

 

 体育館のようなドーム型の屋根が特徴的な施設で、ここでは主に格闘術やナイフ術、模擬戦に加えて筋力トレーニングなどが行なわれている。この建物の近くには同じく強襲科の施設である射撃場や実戦形式の模擬戦ができるトレーニングルームがあり、その他にも様々な訓練施設が隣接している。

 

 俺と同じように強襲科の訓練場に向う人の波に紛れてなかへ入る。

 

「おう、浅井! まだ死んでなかったのか!」

 

「おまえこそよく生きてるな茂山ぁー! てっきりもう死んでることかと思ってたぜ!」

 

「おまえより先に俺が死ぬかよ! 知ってか? ここではマヌケから先に死んでいくんだぜ!」

 

「だったら、俺らより倉持が死ぬな!」

 

「何言ってやがる! おまえらのほうがマヌケなんだから死ぬのはおまえらだろうが!」

 

 ……ふむ。さすがは強襲科の生徒たち。いつもながら挨拶からすでに物騒だ。いたるところで死ね死ね言い合ってる。

 

 まあ、卒業時生存率97、1%の『明日無き学科』とも呼ばれてる強襲科の生徒だからな。死亡フラグに死亡フラグを重ねることで、生存フラグに変えようとしてるんだろう。

 

 俺もソレにあやかろうと見知った顔を見つけ、挨拶をする。

 

「おう不知火ぃー、まだ死んでなかったのか、おまえ」

 

「え? ああ、うん。霧島君も死んでなかったんだね」

 

 一瞬首を傾げたあと、すぐに強襲科特有の挨拶だと理解して笑顔で言い返してくれる不知火君。……なんだろう、いつもは嬉しい気遣いが今は逆に辛い。

 

「霧島君は、今日は強襲科なんだね」

 

「さっき教室で理子からクエストに誘われてな。強襲を担当することになったから訓練しに着たんだよ」

 

 まったく……。アイツのやることはいつも唐突すぎる。

 

「へえ、そうなんだ。そういえば、霧島君はよく峰さんと一緒にクエストを受けているけど、2人は付き合っているのかい?」

 

「いや、別に付き合ってないぞ」

 

「そうなのかい?」

 

 俺が否定すると、意外だと言わんばかりの表情を浮べる不知火。

 

「まっ、前衛と後衛の相性がいいからクエストはよく一緒に受けてるけどな。付き合ったりとかはないから」

 

 そう言って俺はS&W M19、通称――コンバット・マグナムをホルスターから引き抜き、改めて弾薬を確認する。

 

 安全装置は大丈夫。弾薬は……足りなくなったら購買で買えばいいだろう。

 

「ちょっとレオン!」

 

 突然背後から特徴的なアニメ声で名前を呼ばれた。この声は……

 

「神埼か……」

 

 声のほうを振り返ると、新学期始めの自己紹介で発砲するという珍事を起した神埼・H・アリアが立っていた。

 

「あたしのことは『アリア』って呼ぶよう言ったでしょ!」

 

 怒りながら、なぜか偉そうに言ってくるアリア。

 

「じゃあ、アリア。俺に何か用でもあるのか?」

 

「あんた、去年の入学試験でキンジと戦ったんですってね?」

 

「…………。……まあな。戦ったぞ」

 

「そのときのキンジはどんな感じだった? 試験の結果は? 使用してる武器や特異な戦術……ああもうっ、とにかくあんたの知ってること全部教えなさい!」

 

 いきなりなんなんだよ……。突然話しかけてきたかと思えば怒鳴り、怒鳴ったかとおもえばいきなり話を振ってきて、金次のことを訊ねたかと思えば、突然切れて命令してくる。高2で16歳なのに、オツムは見かけ通りのお子様だなぁ。情緒不安定な上に説明不足とか……。相変わらずせっかちを絵に書いたようなキャラだ。

 

「話してやるから少しは落ち着けよ、アリア」

 

 俺はなるべく優しい口調で言う。アリアは見て分かるとおりものすごく怒りっぽいので、逆に怒り返せば面倒になる。アリアと会話がしたい場合は、まずは落ち着かせることから始めなくてはいけないのだ。

 

 ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向くアリア。

 

「早く教えなさいよ」

 

 態度は変わらず偉そうで少々鼻につくが、小さな子供を相手にしていると思えば怒る気も失せる。

 

「じゃあ、まず名前から順に説明するぞ? ――遠山 金次、17歳。入学試験で強襲科のSランクを取得し、1年の3学期に探偵科へと転科。探偵科に転科してからは進級や進学に必要な単位しか取得しないため、探偵科として最低のEランク扱いとなっている。好んで使用している武器はマットシルバーのベレッタ・M92Fとバタフライナイフだ」

 

「……他には?」

 

「他に、か……。そうだな。将来性はともかく、普段はSランクを取得できるような実力者には見えないんだが。たまに……あいつは別人のように強くなることがある」

 

「――っ!」

 

 赤紫色の瞳を大きくするアリア。どうやら強くなった金次を見たらしい。これは……上手くいけば俺からアリアを離せるか? 自由履修でも訓練に付き合ってるのに、強襲科に転科しなおしてまで毎日自分の訓練に付き合えって付きまとわれてて、少し迷惑してたんだよな。

 

 俺は日本刀の確認をするように見せかけながら、平然と話を続ける。

 

「別人になったあいつは強いぞ。なにせ、俺でも倒しきれなかったからな」

 

「――っ! 嘘……。キンジってそんなに強いの?」

 

 赤紫色の瞳を大きくし、とても信じられないと訊いてくるアリア。

 

 クククク……上手くいってるようだな。

 

 思わずニヤけそうになる顔を引き締め、俺はゆっくりとうなずく。

 

 そんな俺を見てアリアは黙り込み、しばらく俯いて考えるような素振りを見せると――

 

「ねえ、レオン。キンジの家がどこにあるか知ってる?」

 

「あ? それなら探偵科の寮にあるぞ」

 

「部屋の場所は?」

 

「そこは尾行でもして自分で調べろよ。武偵なんだからさ」

 

「うっ……。わかったわよ。……あと、教えてくれて、あ、ありがと」

 

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらお礼を言ったアリア。普段からそれが出来ていれば、周りから敬遠されなくて済むんだろうがな。

 

 アリアはさっそく金次の尾行に向うつもりなのか、「じゃあね!」と言い残してアリアは訓練場から風のように走り去っていく。相変わらずの猪娘だ。前しか見えてない。

 

 俺は風に揺れるピンクブロンドのツインテールを見送りながら、

 

「……計画通り!」

 

 デスノートの主人公ばりに片手を顔にあて、悪い笑顔でつぶやく。

 

 俺の情報提供によってアリアの意識は完全に金次へ向いたことだろう! これでもう強襲科に来る度に付きまとわれて模擬戦を申し込まれるなんてこともなくなる、はずだ!

 

「霧島君」

 

「なんだ、不知火」

 

 やっとあのチビから解放されて喜んでるところなんだから邪魔を――

 

「遠山君の部屋って、霧島君の部屋でもあるんじゃなかった?」

 

「……あ」

 

 そ、そうだった。今年の初めからあいつ、強襲科から探偵科に移ってまた俺と同室になったんだった!

 

「忘れてたのかい?」

 

「……忘れてた。け、けどまあ、いくらアリアだからって尾行して部屋知ったその日に突撃なんてことはしないだろ? キンジに追い返されるかもしれないんだしさ」

 

「でも、あのアリアさんだよ?」

 

「そ、それを言われると……」

 

 マジで何を仕出かすか予想がつかない。さすがのアリアでもドアを爆破したり、発砲して乱射して部屋を荒らしたりなんてことはしないよな?

 

 …………。

 

 ……不安だ。かなり不安だ。しかし、だからといってここで俺が出て行って止めるのも無理だ。そんなことをすればせっかく金次に向っていた意識がまたこちらに向けられてしまう可能性だってあるのだから。

 

 どうしよう……。今日はホテルにでも泊まるか?

 

「レオン先輩」

 

「ホテルか……。でもキンジから頼まれた調べ物あるし――」

 

「レオン先輩っ」

 

 声に気づいて振り返る。

 

「……む? あぁ、(うらら)か」

 

 ふんわりカールがかかった長い金髪に、細く整えられた眉。猫みたいなツリ目と長いまつ毛。唇には赤い口紅が塗られており、おまけにスタイルもずば抜けてるという、文句なしの美少女、高千穂(たかちほ) 麗が立っていた。

 

 麗は1年後輩で強襲科を専攻している強襲科のAランク武偵。こいつは去年、戦徒(アミカ)と呼ばれる年上が年下に戦闘技術や武偵としての心得をマンツーマンで教え込むという制度を利用し、俺の戦妹(アミカ)だった後輩だった。

 

 麗はいつも持っている扇子を腹の前でパタパタと開いたり閉じたりしながら、こちらを見上げてくる。……普段のこいつは誰に対しても強気な振る舞いをしているんだが、今は見るからにソワソワとしていて落ち着きの無い。

 

「どうしたんだ?」

 

「れ、レオン先輩。以前、戦徒(アミカ)期間が終わるときに(わたしくし)と結んだ約束は覚えておられますか?」

 

「約束?」

 

 戦友契約が終わるときの約束ねえ……。ああ、思い出した。戦徒契約が終わっても、暇なときは強襲科の訓練に付き合うって約束してたな。

 

「ま、まさか覚えていらっしゃらないんですか?」

 

 扇子をギュッと握りながら不安げに訊いてくる麗。普段は本当に、アリアと同じぐらい偉そうなのだが、なぜか今は弱々しい。

 

 そんな麗の姿に俺は戦徒契約を結んでいた頃、よく手を焼かされたことを思い出し、ちょっとだけ意地悪をしたくなった。顎に手を当てて麗から視線をはず――

 

「なんの約束だったか……ああ、すまん。嘘だ。ちゃんと覚えてるよ。強襲の訓練つけるんだったな」

 

 ――さずにうなずく。

 

「覚えていてくださったんですね!」

 

 パアアっと明るい表情を浮かべる麗。

 

「もちろんだろ。今日は何の訓練がしたいんだ?」

 

「では射撃でお願いします!」

 

「わかった。じゃあ、強襲科の射撃場に向うぞ」

 

「はい!」

 

 いい返事を返して俺のあとに続く麗。

 

 ――ほら、これでいいだろ?

 

 意地悪するの止めたんだから、もう物陰から拳銃向けてくるなよ、麗の取り巻き隊筆頭の双子コンビたちよ。

 

 

 

 

 

 

 強襲科Aランク武偵で元戦妹だった高千穂 麗を連れて、強襲科専用の射撃訓練施設へ向った俺だが、実を言うともうこいつに教えることなんてほとんど無かったりする。

 

 不知火と同じく、麗は総合的なバランスの良さで強襲科でAランクを取得しているし、今さら俺がマンツーマンで教える必要はな……、

 

「レオン先輩。今すぐ射撃レーンを開けさせますので、しばしお待ちを」

 

「おい、ちょっと待て麗」

 

「はい? どうかなさいましたか?」

 

「一応聞いておくが、どんな方法で開けさせるつもりだ?」

 

「もちろん、コレを使ってです」

 

 万札の札束を手に微笑む麗。『それがどうかしましたか?』とでも聞きたそうだ。……教えること、まだあったな。

 

 ため息を吐きつつ、麗に言う。

 

「麗。おまえが戦徒(アミカ)だったときにも注意していたが、なるべく金の力には頼るな」

 

「で、ですが先輩。私は今までお金以外の力はあまり……」

 

 不安げな表情で見上げてくる麗。俺は麗の頭に手を置いてポンポンと優しく撫でる。そして、幼い子供に言い聞かせるようにつぶやく。

 

「これまでおまえが金の力を上手く使って自分の生活を築いていたことは知ってる。――けどな。いつまでも金の力ばかり頼っていたらダメだろ? 金の力ばかり頼っていて、いざ金の力で解決できない状況に陥った場合、今みたいに戸惑っていたら何もかも手遅れになるかもしれないし、この国のことわざにもある通り、『金の切れ目は縁の切れ目』なんて状況になった場合、困るのはお前自身なんだから。なるべくでいいから、金の力以外の方法で解決することを覚えよう、な?」

 

「……はい」

 

 俺の話を分かってくれたか、素直にうなずく麗。

 

 自分より格下だと定めた相手には見下した態度を取って偉ぶる麗だが、年上や自分より上と定めた相手には素直で礼儀正しい子だったりする。

 

 麗の頭から手をどけてやると、麗は深呼吸を2回繰り返し、射撃レーンに視線を向ける。端から端まで見て――キラッと目を光らせる。

 

 ハイヒールで床を鳴らしながら、まるでランウェイを歩くファッションモデルのような優雅さと気品を漂わせながら、使用されている射撃レーンのひとつに向かう。丁度弾切れで新しいマガジンを取り出そうとしていた女子生徒に向って――、

 

「そこのあなた。私にその場所をお譲りなさい」

 

 愛銃であるスターム・ルガーのスーパーレッドホークを向けながら麗はそう言い放った。

 

「……え? ええっ!? い、いきなりなんなんですか!?」

 

 案の定、射撃訓練中に後ろから突然銃をつきつけられた女子生徒は麗に困惑している。取り出したマガジンを銃に装填することも忘れ、銃を両手で抱きしめて震えていた。

 

 そんな女子生徒の姿に麗のもうひとつの悪クセが出てしまったようで、

 

「あら? 聞えなかったの? 私は、その場所から『どけ』と命令したのよ」

 

「な、なんで? ここはあたしが使ってる場所で……」

 

「そんなこと知ってるわ」

 

「だったら他の場所でも……。今はあたしが訓練してるんだから」

 

「訓練? 一体なんの訓練をしていると言うのかしら? 少なくとも私には壁に向って撃っているようにしか見えなかったわ。もしかして的に当てない訓練をしていたのかしら?」

 

「う、うううぅ……」

 

 ぎゅっと拳銃を握りしめて俯く女子生徒。麗はそんな女子生徒のようすを上から見下ろし、ニヤニヤと、何ともサディステックな笑みを浮かべている。

 

 はぁ……。

 

「おい、麗」

 

「――はっ! せ、先輩っ! も、もう少しお待ちください! 今すぐこの子をどかして――」

 

 もう一度女子生徒に愛銃のスーパーレッドホークを向けようとしたところで止める。親猫が小猫の首根っこを噛んで持上げるように、首の後ろの襟を掴んで自分の近くに引き寄せる。

 

「なんで金以外の方法が脅迫になるんだ? まぁ、強襲科の生徒らしいけどよ。せめてそれは最後の手段にしとけ」

 

「す、すみません……」

 

 しゅんとして謝る麗。わかったなら、その物騒な拳銃はしまってくれ。

 

「あ! レオン先輩!」

 

 射撃訓練中に突然麗に絡まれたかわいそうな女子生徒が俺の存在に気づいたようだ。顔を上げてこちらを見て――

 

「ああ、間宮だったか」

 

 高1にして低身長(しかもアリアより低い)で幼児体型。茶髪を白いリボンでツインテールに結った、強襲科所属のEランク武偵、間宮あかり。

 

 あー……こいつが麗に絡まれた理由、わかっちまったよ。麗の好みにぴったりだもんな、こいつって。

 

「すまないな、間宮。このおバカが迷惑かけちまって」

 

「おバカ!? 先輩っ、私はおバカなんかじゃ……」

 

「いや、おまえはおバカだ。いきなり銃をつき付けて脅迫するようなヤツをおバカと呼ばないで他になんと呼ぶんだ?」

 

 むしろ『お』を付けてやってるところに感謝して欲しいところだ。

 

「うっ……」

 

 言葉につまる麗。まったく、こいつは……。アリアに似てクセのある思考回路と性格を除けば文句なしのAランクなんだけどなぁ。

 

「ほんとにすまなかったな、間宮」

 

「え……あ、はい。あたしもあんまり気にしてないから大丈夫です」

 

「そうか。そう言ってもらえると俺も助かるよ」

 

 麗の襟を掴んでいないほうの手で間宮の頭を撫でる。相変わらず小学生みたいに小さいから頭を撫でやすいな。

 

「うー……子供扱いはやめてくださいよ、先輩」

 

 文句を言いつつも頭を好きに撫でられる間宮。俺は撫でるとき、毎回こいつのアンテナみたいなアホ毛を直そうとするが、間宮のアホ毛は形状記憶合金でも出来ているかのように一瞬で元に戻る。これをむしり取ったら闇落ちでもするんだろうか?

 

 ああ、それと間宮。子供扱いされたくないならもう少し色々発育させような。今のままじゃ小学生にしか見えないから。……コラ、麗。気づかれないと思って拳銃に武偵弾をつめるな。1発百数十万の炸裂弾なんて、撃たれ相手はトマトにみたいになって即死するぞ。

 

「レオン先輩、今日はこっち(強襲科)なんですか?」

 

「ああ。今月いっぱいまでのクエストで強襲を担当することになったからな。クエストが終わるまでは強襲科で訓練を受けるつもりなんだ」

 

「そうなんですか? だったらあの、また訓練に……」

 

 間宮が言おうとしたところで、麗が叫ぶ。

 

「何を言ってるんですか、あなたは! 先輩は私のです! そもそも射撃訓練で碌に当てることもできていないのに何をおっしゃってるんだか」

 

 扇子を開いて口元を覆い隠し、見下した視線で上から見下ろす麗。様になってんな、おい。

 

「つーか、誰がおまえのだよ?」

 

「それは当然霧島レオン先輩がですわ。何せ私の戦兄(おにいさま)なんですから!」

 

 背を後ろに反らし、バン! と言い放つ麗。続けて『おー、ほっほっほっほ』とでも高笑いしそうないきおいだ。

 

「お兄さま!? この人ってレオン先輩の妹なんですか!?」

 

 ビックリしてマガジンを落とす間宮。俺は床に落ちたマガジンを拾って渡してやりながら言う。

 

「落ち着け間宮。こいつが言ってるのはあくまで戦友契約上での話だ。俺に妹は最初から存在してねえよ」

 

「ええっ!? 先輩の戦妹ってこの人だったんですか!?」

 

 ……なんでまた驚いてんだよ、間宮。まぁ、こいつは去年の途中から編入してきた元一般中(ぱんちゅー)出身者だからな。戦妹がいると知ってても誰かは知らなかったんだろうが……

 

 俺と麗に交互に見ながら、顔を引きつらせるな。

 

 言いたいことがあるなら聞いてやるから。

 

 とりあえず、このままでは麗の印象は最悪以外のなにものでもなくなるので、元戦兄としてフォローをしておく。

 

「改めて紹介すると、こいつはお前と同じ高1で強襲科を専攻してる高千穂 麗。見ての通り性格にクセがあるヤツなんだが、根はいいヤツだからできれば仲良くしてやってくれ」

 

「あたしと同じ1年……」

 

 ……間宮の視線が麗の体に向けられてるがそこは気づかないフリをしよう。世界の理不尽に負けるな、間宮。頑張れ、間宮。今は30cm以上の差があるが、いつかは縮まってくれるさ。あ、牛乳飲んでも大きくならないから気をつけろよ? 飲みすぎは腹壊すからな。

 

「麗。こいつは間宮 あかり。元一般中出身で去年編入してきた強襲科を専攻してる武偵だ。見てくれは幼児……いや、小さいがこれでも立派な16歳だ。インターンの生徒じゃないから間違えるなよ」

 

「ええ。わかりましたわ」

 

 わざわざ胸を強調させてうなずくな。谷間を見せ付けてんじゃねえよ。間宮がかわいそうだろがっ。

 

「……先輩? その紹介の仕方は酷いんじゃないですか?」

 

 ゴゴゴゴゴゴ……。

 

 ニコニコ笑顔を浮べたまま、背後から怒気を放つ間宮。……ふむ。豊満なスタイルを見せ付ける麗の態度もあれだが、確かに俺の紹介も悪かったな。

 

「すまん。今度好きなだけ奢ってやるから許してくれ」

 

「えっ! ほんとですか!? なら許しちゃいます!」

 

 わーい、おごりだー! なんて大喜びして間宮は飛び跳ねる。毎回思うが諜報科の風魔並みに安いヤツだよな、お前って。

 

「フフフフ……」

 

 ……おい、麗。そのサディステックな笑顔は止めろ。そのうちR指定されるぞ。

 

 間宮の容姿や子供のような思考回路に高千穂 麗の悪癖、チビ専のサディストが誘発しやがったな。

 

 間宮ぁー、これから麗には気をつけろよ。陰険なイジメこそしないが、正面からなら堂々とイジメてくるからな、こいつは。

 

「じゃあ、俺たちはこれで行くな。射撃訓練の邪魔して悪かった。訓練には今度付き合ってやるから」

 

「はい! ありがとうございます」

 

 ニッコリ笑顔で頭を下げてくる、間宮。1回メシを奢るだけで喜びすぎだろ。まあ、常に兵糧が不足してる間宮家なら分からない話でもないけど。

 

「麗。行くぞ」

 

 麗の制服の襟から手を離して振り返る。麗は「はい」とつぶやいてぴったりと後ろについて歩きだす。

 

 歩きながら、後ろを振り返らずに話しかける。

 

「射撃レーンがいっぱいだから、今日のところは諦めろ。射撃の訓練以外の訓練なら何でも付き合ってやるからよ」

 

「何でも!? で、でしたら先輩。ぜひ私の自宅でCVRの実技を……」

 

 恥ずかしそうにつぶやきながら、後ろから制服の袖を掴んでくる麗。そんな麗に対して俺は長いため息を吐く。

 

 こいつが言ったCVRとは、諜報科でも手こずるような相手にハニートラップを仕掛け、潜入調査したりする、一定の基準を超えた美少女だけが専攻できる科目であり、麗は優れた容姿と天性の女王様(この場合、SM嬢のこと)の素質の持ち主であるため、以前スカウトされたことがあった。

 

 その CVR (ハニートラップ)の実技の訓練したいということはつまり……あれだ。思春期真っ盛りの高校生男子が泣いて喜ぶエッチなことを訓練という言い訳で体験することが出来るわけなんだが……

 

「冗談でもそういうことを言うな、麗。いくら戦妹だったからって、しまいにはマジで襲うぞ」

 

「それこそ大歓迎ですわ!」

 

 無言でチョップを落とす。

 

「わったい!?」

 

 チョップされるとは思ってなかったのか、麗の口から鳥取弁が漏れた。確か『わったい』って驚いたりしたときに使う方言だったよな?

 

「う~……何するちゃぁ」

 

 頭をさすりながら抗議してくる麗。語尾に『ちゃ』や『だっちゃ』とか付けるのも鳥取のなまりらしい。個人的にはお嬢さま口調よりも方言使ってるときのほうがかわいらしくて好きだったりする。麗自身は田舎臭くてお嬢さまっぽくないから滅多に使わないけど。

 

「もう俺が決める。……確か、2階の徒手格闘専用の訓練場が空いていたはずだから。今日のところは組み手するぞ」

 

「う……。徒手格闘のみでの組み手ですか……」

 

 嫌そうな顔をする麗。ここまであからさまに嫌な顔されると逆にイジメたくなるよな。 こいつ (サディスト)じゃなくても。

 

「強襲科で1番お前が苦手なことだからな。苦手克服のために訓練つけてやるよ」

 

「うう……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 徒手格闘の訓練を終えたあと。

 

 訓練の疲れから訓練場の隅に座りこんでいる麗に、強襲科の施設内にある休憩所に設置されてる自動販売機で購入したスポーツドリンクを渡す。

 

 大きく呼吸を繰り返しながらも、ちゃんとお礼を言ってからスポーツドリンクを受け取った麗。キャップを開けようとして――

 

「あ……」

 

 どうやら上手く手に力が入らないようだ。

 

「ほら。開けてやるから貸せよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 スポーツドリンクを受け取り、キャップを開けて再び手渡す。ゴクゴクと喉を鳴らしながら喉を潤していく麗の側で、自分用に買ったスポーツドリンクを飲む。……俺のは麗とは違う、新発売のスポーツドリンクだが、酷い味だった。よくよくラベルを見てみると……武偵高の救護科と装備科が一緒に作成したオリジナルドリンクだった。しかも試供品。真っ黒な背景に赤文字という個性的なラベルのスポーツドリンクだったから買ったが、失敗してしまったようだ。

 

 味は酷いものだが、残すのも勿体無いので我慢して一気に飲み干す。……うげぇ。まじぃ。

 

「そういえば、先輩」

 

「……なんだ、麗」

 

「先輩が受けたというクエストとは、いったいどのような内容のものなんですか?」

 

「あー……あまり詳しくは言えないが。ある暴力団の残党狩りだよ。推奨ランクはA~Cの」

 

「A~C……」

 

「ああ、そういや麗は強襲科でAランクの武偵だったよな。おまえも受けてみるか?」

 

「わっ! いいんですか!?」

 

「一度、大規模作戦を経験しておいて損はないからな。おまえのいい勉強になるはずだし。もし受けるなら明日にでも用紙を持ってきてやるぞ」

 

「はい! 受けます!」

 

 深く考えもせずにうなずいた麗。常に警戒心を持たなければいけない武偵としては減点ものの対応の早さだが、まあいいだろう。

 

「じゃあ、今日のところはこれで終わりだな」

 

「はいっ、ありがとうございました! レオン先輩」

 

 ……ほんとに各上だと定めた相手にだけは礼儀正しいんだよな、こいつって。

 

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